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博 士 学 位 論 文

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博 士 学 位 論 文

121

2014

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本号は学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条の規程による公表を目的として、

平成27年3月18日に本学において博士の学位を授与した者の論文内容の要旨および論文審 査の結果の要旨を収録したものである。

学位番号に付した甲は、学位規則第4条1項(いわゆる課程博士)によるものである。

創価大学

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村田 大学

経済学 121

平成 27年 3月 18日

学位規則第4条第1項該当

創価大学大学院学則第場31条第2項該当 創価大学学位規則第3条の3第1項該当

目 欧米のコンプライアンスと企業倫理の企業統治的研究 経済学研究科委員会

主査 佐久間 信夫 経済学研究科教授 委員 平岡 秀福 経済学研究科教授

委員 今西 宏次 同志社大学商学研究科教授

(4)

論文題目

欧米のコンプライアンスと企業倫理の企業統治的研究

【論文内容の要旨】

本論文の目的は、倫理・コンプライアンス・プログラムについて、欧米の最高経営組織 の比較を通して以下の2つの推論の真偽を検証することである。第1の推論は、欧米各国 の倫理・コンプライアンス・プログラムは、倫理ではなくコンプライアンスを強く重視す る形で実践されていることである。第 2 の推論は、倫理・コンプライアンス・プログラム の運営担当責任者は最高経営者からの独立性を維持することが極めて困難であるというこ とである。

本論文は大きく分けて、①先行研究レビューを中心とする第1 章から第4章まで、②各 国の現状分析を行う第5章から第10章まで、③本研究の分析結果を国際比較した第11 と第12章の3つの部分、全12章で構成されている。まず、第1章から第4章までの先行 研究レビューは、本研究の問題意識や推論、課題を形成・設定するまでの過程や背景を説 明し、その妥当性を示すことを主な目的としている。

1 章では、先行研究の倫理・コンプライアンス・プログラムの定義を分析、検討し、

倫理・コンプライアンス・プログラムの研究の潮流を、①実態調査研究、②実践過程研究、

③企業統治的研究の3つのタイプに整理し、検討している。

1 の実態調査研究は、アンケート調査やアニュアル・レポートの分析などを通して、

倫理・コンプライアンス・プログラムの整備状況などを解明する研究スタイルである。本 論文の各国の倫理・コンプライアンス・プログラムの導入状況のデータは、この実態調査 研究の研究成果を主に分析したものとなっている。

2章では、第2の実践過程研究をレビューする。実践過程研究は、1990年代以降展開 されてきた倫理・コンプライアンス・プログラムの実践に伴う価値観の変化や浸透の程度 などの解明を重視する研究の潮流である。まず、倫理・コンプライアンス・プログラムの 実践方法には、従業員の意思や価値観を尊重する方法とこれに関係なく目標の達成を強制 する方法の 2 種類がある。とはいえ、どちらの方法が採られたとしても、倫理・コンプラ イアンス・プログラムが倫理綱領や法規制など所与の目的に向けて従業員の行動を統制し ていく政治的な手段であることに変わりはない。そして、経営者などが巨大な権力を有し ている場合には、倫理・コンプライアンス・プログラムは、その良し悪しに関係なくこの 権力者にとって都合の良いように運営される可能性がある。

次に、第3章では、第3の企業統治的研究をレビューする。企業統治的研究の主要理論 である取締役会の代理人説は、取締役会の独立性が常に高いという暗黙の前提に立脚して いる。本研究は、どの国の取締役会にも独立性に関する何らかの問題が存在していること を示すことで、取締役会の代理人説の前提の誤りを論証することを主な目的の 1 つとして いる。

なお、第 5 章以降で検討するように、近年欧米各国では内部通報制度に関する規制の強

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化が進み、内部通報制度の導入の進展やその是非を問う議論が活発に展開されている。本 研究は、経営者の権力の大きさや通報先の独立性の乏しさが、内部通報者への報復をもた らす大きな要因の1つであるとの前提に立っている。第 4章では、既存理論の検討と近年 の不祥事の事例分析に基づいて、内部通報制度における権力の作用について考察し、この 前提の根拠を示す。たとえば、内部通報先が経営者の部下であったり独立性の乏しい取締 役会であったりした場合には、内部通報者は弱い立場に置かれ、報復を受ける可能性が高 いと考えられる。

以上の先行研究レビューを踏まえ、第 5 章以降では、本研究の課題の解明に向けた分析 を本格的に展開する。まず、第5章から第10章にかけては国際比較を行うために、各国の 現状を個別に分析していく。とはいえ、アメリカの現状については前章までの先行研究レ ビューの中で部分的に論じている。そこで、第 5 章では、アメリカの法規制や倫理・コン プライアンス・プログラムの導入状況、取締役会の実態など第 4 章までに検討できなかっ た点について検討する。

2000年代以降の英米を中心とするコンプライアンス違反に対する規制強化への対応は、

ヨーロッパ各国における倫理・コンプライアンス・プログラムの普及の大きな動機ではな いかと考えられる。そこで、第6章では、アメリカの海外腐敗行為防止法、SOX法、イギ リスの贈収賄法について検討する。そして、アメリカとイギリスでは外国企業に対しても 厳しい規制や摘発を行う傾向がみられるほか、倫理・コンプライアンス・プログラムの整 備の有無が違反を犯した企業の量刑の程度に連動する仕組みが採用されていることなどを 明らかにしている。

7 章以降では、国際比較のために、①法規制、②倫理・コンプライアンス・プログラ ムの導入状況、③同プログラムの運営担当者と経営者の権力関係、④同プログラムの監督 機関の現状と課題の解明という可能な限り共通の視点から、ヨーロッパ各国の現状分析を 行う。ヨーロッパの取締役会制度はイギリスとドイツのいずれかないしその両方をモデル としている。そのほかに、フランスはアメリカ型の倫理・コンプライアンス・プログラム の導入に対して否定的な見方が支配的であり、アメリカで開発されたこの取り組みの今後 の更なる国際的な拡大を考える上で大変興味深い国である。このような事情から、第 7 から第9章では、それぞれイギリス、ドイツ、フランスの現状を個別に分析する。

7章のイギリスと第 8章のドイツの分析では、ともに既存研究の定量データと不祥事 の事例分析に基づいて、①倫理・コンプライアンス・プログラムが高まるコンプライアン ス・リスクへの対応を意図したコンプライアンス中心の取り組みとして展開されているこ と、②近年CCO(Chief Compliance Officer)の独立性と権限の乏しさに起因する不祥事 が続発していることなどを明らかにする。第10章では、倫理・コンプライアンス・プログ ラムの監督に重要な役割を果たす監査委員会、倫理委員会、取締役会の独立性を中心にヨ ーロッパの取締役会改革の現状について分析する。

そして、第 11章と第12章では、これまでの分析結果のまとめと国際比較を通して本研 究の2つの課題を解明し、本研究の2つの推論の検証をそれぞれ試みる。

11章では、第1の課題である、欧米各国の倫理・コンプライアンス・プログラムの普

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及の背景や導入状況、および共通点や相違点などを踏まえ、その取り組みがコンプライア ンス中心であることを示す。各国では、コンプライアンス・リスクの高まりを背景に、そ の影響を受けやすい大企業や上場企業を中心に、全社レベルでのグローバルなコンプライ アンス管理体制の構築と高額の量刑回避を動機として、プログラムの導入が進められてい る。このような中で、どの国においても、その運営と監督は、ジェネラル・カウンセルや CCO、監査委員会といったコンプライアンスの専門家・機関を中心に行われている。

次に、第12章では、第2の課題である、欧米各国の運営担当者、取締役会、経営者の権 力関係などを分析し、経営者が運営担当者と取締役会の両方に対して大きな影響力を行使 しうることが少なくない事実を示す。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスのいずれの 国においても、コンプライアンス・企業倫理の取り組みに対する経営者の影響力が極めて 大きい現状にある。倫理・コンプライアンス・プログラムの運営担当者は経営者の部下で あり、運営担当者の選解任、報酬、業績評価に関する権限やプログラムの運営などに割当 てる資源の決定権も経営者によって握られている。このような経営者との上下関係の下で、

近年、運営担当者が経営者の権力に屈したり、運営のための資源(人的・金銭的な資源な ど)が不足していたりしたことが原因で、不正を未然に防げなかった不祥事も、アメリカ、

イギリス、ドイツなどで続発している。

【論文審査の要旨】

アメリカでは1980年代から、企業不祥事の防止を目的として、倫理・コンプライアンス・

プログラムが導入されるようになった。このプログラムは連邦量刑ガイドラインという社 会的支援のもとで、急速にアメリカ企業に浸透した。その後このプログラムはヨーロッパ 先進国においても導入が進められた。

倫理・コンプライアンス・プログラムの制度とその運用実態についてはアメリカにおい て研究が進められているものの、ヨーロッパ各国においてはこうした研究そのものが少な いだけではなく、日本の研究者が取り上げることはほとんどないといっていい。

本論文は、先行研究そのものがきわめて少ないヨーロッパ企業の倫理・コンプライアン ス・プログラムについて取締役会と執行役会の組織構造や権力構造を踏まえながら、プロ グラムの運用実態について国際比較を行っている。歴史や文化の異なるヨーロッパ各国は 株式会社に関しても各国独自の制度を維持しており、同一の基準を用いて比較するのが困 難であるが、本論文はさまざまな工夫をこらしながら、国際比較を行っている。

本論文の目的は、欧米各国の倫理・コンプライアンス・プログラムが、倫理よりもコン プライアンスを重視したものであるとする第 1 の推論と倫理・コンプライアンス・プログ ラムの運営責任者の独立性が損なわれているとする第 2 の推論を検証することにある。本 論文は欧米各国の倫理・コンプライアンス・プログラムと取締役会の構造に関して、その 制度と実態を検証することによって、これら2つの推論の妥当性を明らかにしている。

しかし、「コンプライアンス」「企業倫理」「企業統治的研究」等、多くのキーワードの概 念およびそれらキーワードの関連性が必ずしも明確に規定されていないなどの問題がある。

また、論理展開における各章の関連性にやや不明瞭な点なども見られるため、これらにつ

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いての改善が求められる。

今日、大企業の不祥事が国家的損失をもたらす事件も出現するようになり、規模の大小 を問わず企業不祥事の防止は、企業経営者はもちろん各国政府や国際機関の大きな関心事 となっている。本論文における第 1 の推論は、倫理プログラムをさらに充実させることに よる企業不祥事防止策の強化が必要であることを示唆している。また、プログラムの運営 責任者の独立性の欠如は、現行の企業統治制度の盲点を指摘したものである。本論文はこ のような観点から、学術的な領域だけでなく、企業実務の領域においても資するところが 大であると考えられる。

【最終試験の結果】

平成 26 年 8 月 21 日、最終試験が行われた。まず著者により論文の概要の説明がなされ た。その後、審査委員から「企業統治的な研究の概念」、「取締役は誰の代理人として想定 されているのか」「取締役の独立性の概念に関する各国の相違は何に起因するものか」、な どの質問がなされた。

以上の質疑の後論文の評価が行われ、3 名の審査員は以下の理由から、村田大学氏が今後 研究者として専門的研究を継続する能力を有していると判断した。

① ヨーロッパの倫理・コンプライアンス・プログラムに関しては、日本ではほとんど 先行研究がなく、独自に資料を収集、分析していること。

② 最高経営責任者と倫理担当責任者の権力関係を分析した先行研究は少なく、特にヨ ーロッパ企業に関してはほとんどないこと。とりわけ最高経営責任者と倫理担当責 任者の関係を企業統治的視点から検討していることは評価に値する。これから明ら かなように、本論文には十分な独創性が認められること。

③ 英語の先行研究を広く渉猟しているだけでなく、ドイツ語、フランス語の資料も分 析しており、本論文作成に多大な努力が注がれていると認められること。また、こ のことから英語のほかドイツ語の十分な能力があることも確認されること。

④ 大学院博士課程在学中の 4 年間で 9 回の学会発表、9 本の論文執筆を行っており、

論文のうち 3 本が査読付論文として学会誌に掲載されるなど、論文の学術的水準が 学会レベルで評価されていること。

以上により、村田大学氏の論文は博士論文として十分な内容と水準を有しているものと 判定する。

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