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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

窒素固定は、窒素ガスをアンモニアに変換する過程で、地球上の物質循環のなかでも重 要な反応のひとつである。生物的な窒素固定反応は、根粒菌など一部の原核生物に限られ る。窒素固定細菌およびその反応について、これまで、海洋などの水圏や土壌圏において 広く研究され、中高温性の窒素固定細菌は、遺伝子・酵素レベルで詳しく調べられてきた。

一方、70℃を超える超高熱環境における窒素固定については、まだほとんど明らかになっ ていない。本論文では、70℃以上の陸上温泉に分布する超好熱性化学合成微生物群集の窒 素固定について、その活性および遺伝子を特徴づけるとともに、新規窒素固定細菌を分離 しその性質を明らかにすることを目的とした。

生物的な窒素固定は、生命が誕生したころの古地球の高熱環境でも進行していたと予想 される。海底の熱水噴出孔等を対象にした近年の環境遺伝子の解析から、進化的に古い起 源を有する好熱性細菌に窒素固定能があることが示唆されていた。70℃以下の環境では光 合成を主体とした微生物群集が観察され、シアノバクテリアを含む光合成細菌による窒素 固定は知られる。しかし、70℃を超える超高熱環境における窒素固定反応や、超好熱性の 化学合成窒素固定細菌は見つかっていない。陸上温泉流水中には、有機物および窒素化合 物の含有量が低いにもかかわらず、70℃以上で活発に増殖する微生物群集の発達が見られ、

これら化学合成微生物群集には窒素固定細菌が含まれると推測される。超好熱性窒素固定 細菌およびその窒素固定反応の性質の解明は、生物進化、地球環境の形成、の観点からも 意義深い。

本論文では、陸上温泉に分布する超好熱性化学合成微生物群集を対象に、窒素固定酵素 遺伝子の多様性を調査し、70℃以上での窒素固定反応を特徴づけるとともに、新規窒素固 定細菌を取得してその性質を明らかにする、という、これまで未解決の挑戦的な課題に取 り組んだ。

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2 研究の方法と結果

これまで生物学的、地質学的に広く研究されてきた長野県中房温泉から微生物試料を採 取した。中房温泉では、弱アルカリ性で硫化水素を含む 90℃以上の温泉水が、源泉から絶 え間なく流出しており、その泉質も安定している。70~80℃の温泉流水中に、本論文で研 究対象とした化学合成微生物群集が活発に増殖し、微生物集塊を形成している。

(1)超好熱性化学合成微生物群集の窒素固定反応の特徴付け

70~80℃の温泉流水中から微生物集塊を採取し、アセチレン還元法を利用して70℃での 窒素固定活性を評価したところ、嫌気的条件において、その活性を検出することに成功し ている。超高熱条件で微生物集塊の窒素固定活性を検出した初めての報告である。この窒 素固定活性はモリブデン酸によって大きく低下することなどから、超好熱性化学合成微生 物群集の嫌気的窒素固定反応には、水素を利用する独立栄養性の硫酸還元細菌が関与して いることを示した。これまでに超好熱性の窒素固定硫酸還元細菌はみつかっておらず、新 しい発見と言える。またこの微生物集塊の窒素固定活性と集塊内の還元状態との関係を示 し、活性が発揮される条件を特定できた。

(2)超好熱性化学合成微生物群集における窒素固定生物の多様性

微生物群集から全DNAを抽出し、その窒素固定酵素遺伝子を検出してその塩基配列の多 様性を明らかにした。数十万の塩基配列を取得・分類し、系統解析している。その結果、

硫酸還元細菌だけでなく、硫黄/水素酸化細菌、発酵細菌を含む、新規窒素固定細菌の存在 を明らかにし、生物界における窒素固定能の進化に対する重要な知見を提供している。さ らに、エネルギー獲得様式の異なる多様な窒素固定細菌が微生物群集内に共存しているこ とは、生態系の形成・維持様式を知るうえで興味深い発見である。

(3)超好熱性窒素固定細菌の分離とその性質

酸素要求性の超好熱性窒素固定細菌の培養法を確立し、対象とした化学合成微生物群集 から70℃で生育する窒素固定細菌を探索した。その結果、窒素固定条件で生育する細菌2 種の分離に成功し、それらの窒素固定活性を決定している。これも、世界で初めての報告 である。分離した細菌の遺伝子塩基配列の解析から、系統的に古い分類群の細菌であるこ とを明らかにし、さらに、分離株のひとつはこれまでに見つかっていない新規性の高い細 菌であることを示している。本論文では、さらに、分離した細菌のエネルギー代謝能を明 らかにするとともに、その生育や窒素固定活性に与える酸素の影響を明確に示している。

これらの成果は、窒素固定の進化、窒素固定生物の生態、化学合成微生物群集の発達様式 を知るうえでも重要な発見である。

本論文では、これらの成果を三つの章に分けて関連論文を引用しながら明確に記述する とともに、新規性、意義や今後の展望を総合的に論じている。

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3 審査の結果

本論文では、超好熱性化学合成微生物群集の窒素固定活性について、その多様性を明ら かにするとともに、活性発現条件を特定し、さらに窒素固定細菌を分離して、その性質を 初めて明らかにした。超好熱性細菌の窒素固定活性は、これまで知られていなかったが、

次世代シーケンサーおよびバイオ情報技術を活用した分子生態学的解析から丹念な分離培 養実験によって解明した本論文の成果は、特に高く評価できる。窒素固定能の進化を探る うえでも非常に興味深い成果である。古地球において光合成生物が誕生する前から出現し ていたと考えられる超好熱性窒素固定細菌の発見は、生物進化だけでなく、地球生態系の 形成・維持を知るうえでも大きな意義を持つ。本論文の内容の一部は、すでに英文学術雑 誌に審査のうえ受理されており、残りの部分も、今後公表されるに十分値する内容を含ん でいる。よって、本論文は博士(理学)の学位に十分値すると判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規則および生命科学専攻内の申し合わせに従って最終試験を行った。公開の 席上で論文内容を発表し、生命科学専攻教員および当該分野の学外専門家による質疑応答 をもって論文内容および関連分野についての最終試験とし、合格と判定した。

参照

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