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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 香 山 雅 純

学 位 論 文 題 名

トウヒ属樹木の蛇紋岩土壌における 適応機構の解明と環境修復に関する研究

学位論文内容の要旨

  大規模 な攪乱 を受けて植生の回復が困難な地域においては、環境保全面および防災的側面か ら人為 的に森 林を再生していく技術を確立することが急務である。例えぱ山火事は大規模な森 林の損 失を招 く一要因であるが、山火事後の植生回復は土壌条件の影響を受け、特に蛇紋岩土 壌のよ うな特 殊土壌の地域では、植生の回復は極めて遅い。北海道北部にも同様の地域が存在 し、数 度にわ たる山火事の影響を受け、未だに森林植生が回復していない地域が存在する。実 際に森 林修復 に使用される樹種としては、環境保全も考慮すると、土壌条件に対して適応性の 高い郷 土樹種 であることが望まれる。トウヒ属樹木は、本来北海道北部における主要樹種であ り 、 荒 廃 地 を 緑 化 す る 活 物 材 料 と し て は 妥 当 な 種 で あ る と 期 待 さ れ て き た 。   トウヒ 属樹木 は北半球 の森林 に広く分 布し、我が国においては7種が記載されている。その うち日 本北部 においては、アカエゾマツとエゾマツが分布している。両種の分布域は異なり、

エゾマ ツが肥 沃な生育環境に分布するのに対し、アカエゾマツは蛇紋岩土壌をはじめとする貧 栄養環 境に分 布することが多い。しかし、これらの分布域に関連した成長特性には、解明すべ き点が 多い。

  蛇 紋 岩 土壌 は 、 貧栄 養 で ある ことに 加えて、Ni等の重 金属やMgを 多量に 含んでい る。Ni は 根の 成 長 と葉 の 光 合成 能 カ の低下 を招く。 また、Mgは細胞壁 の安定 性と原形 質膜の透 過 性を変 化させ る。これらの要因によって、生育可能な植物種が制限されていると考えられてい る。し かし、 いくっかの種は耐性を獲得し、蛇紋岩土壌にも生育している。トウヒ属樹木は、

過 去の 知 見 から 植 物 体中 のNiとMg濃度が 低いこと から、 有害元素 の植物 体内への 吸収や 移 動を制 限し、 耐性を獲 得する植 物種(excluder)と考えら れる。

  本研究 は、撹 乱を受けて、その後の針葉樹の生育が不良な蛇紋岩土壌地帯において、トウヒ 属樹木 を用い た環境修復技術の基礎資料を得ることを最終的な目的とした。造林樹種として用 いるア カエゾ マツとエゾマツの生態生理的特性に関するデータが乏しいため、トウヒ属樹木全

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体のなかで2樹種の位置づけを行った。次に 、アカエゾマツ、エゾマツおよびヨーロッパトウ ヒ苗3種を蛇紋岩土壌と褐色森林土に植栽し 、成長と生態生理的特性を比較した。そして、蛇 紋岩土壌の無立木地に活物材料として用いる上で高い適 合性を持っ樹種を選出した。さらに、

トウヒ属樹木を導入した蛇紋岩土壌の植林地を対象とし て、環境修復を意図した事例解析を行 い、比較的導入種の生育が比較的悪い地域を選出した。 そして、この地域における生育が悪い 原因を解明し、導入種の生育改善策を検討した。

1.同一 地域 に植 栽さ れた 外来 の樹 種も 含め トウ ヒ属 樹 木5種の生態生理的特性を比較した。

エゾマツは若い針葉におけ る光合成能カが高く、針葉内の窒素濃度も高い濃度を示し、伸長量 は大きい傾向を示した。一 方、アカエゾマツの伸長量はエゾマツより短いものの、針葉の寿命 が長く葉齢の高い針葉にお いても高い光合成能カを維持していた。また、針葉内の窒素濃度は 低いが、高い窒素利用効率 を示した。

2.アカ エゾ マツ 、エ ゾマ ツ 、お よび ヨー ロッ パト ウヒ 苗3種を蛇紋岩 土壌と褐色森林土に植 栽した実験の 結果、アカエゾマツの成長量は両土壌間において有意差 が認められなかった。し かし、エゾマ ツとヨーロッパトウヒは蛇紋岩土壌に植栽した個体の成長量は小さかった。また、

蛇 紋岩 土壌 に植 栽し たア カ エゾ マツ では 外生 菌根 菌の 感染 率が 高く 、NiやMg等の 重金属の 吸収の抑制が 示唆された。さらに、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマ ツでは窒素利用効率が特 に高く、少な い窒素濃度で高い光合成能カを得ていた。以上の結果か ら、アカエゾマツは、ト ウヒ属樹木3樹種の中で蛇紋岩土壌に、最 も高い適合性を持った活物材料であると考えられた。

3,アカエゾマツを森林環境 修復の活物材料として利用するために、既存の蛇紋岩土 壌の植栽 地にて事例研究を行った。また、試験地に優占している ササを生物指標とする調査を行った。

調査地は、南向斜面およぴ北西向斜面に分かれていたが 、特に南向斜面のササの生育が悪く、

南向斜面の積雪深と土壌養分が低い値を示した。この結 果は導入したアカエゾマツに関しても 同様の結果を示し、南向斜面のアカエゾマツは北西向斜 面の個体と比較して生育が悪く、針葉 の寿命は短い傾向を示した。また、南向斜面のアカエゾマツの成長は、気候要因の影響よりは、

土壌中の養分が低いことによって規定されていた。しか し、南向斜面の個体は針葉の寿命を短 くし、養分を古い葉から新しい葉に移動させることで補償して、生き延びていると推察された。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

トウヒ属樹木の蛇紋岩土壌における 適応機構の解明と環境修復に関する研究

  本研 究 は133べー ジ の 和 文論 文 で 引 用文 献118を含 み、6章 から構 成され ている 。他に 参考 論文が5編添えられている。

  大規模な撹乱を受けて植生の回復が困難な地域においては、境保全面および防災的側面から森林 を再生する技術を確立することが急務である。例えば山火事は大規模な森林の損失を招くが、山火 事後の植生回復は土壌条件の影響を受け、特に蛇紋岩土壌のような特殊土壌地域では植生の回復は 極めて遅い。北海道北部には数度にわたる山火事の影響を受け、未だに森林随生が回復していない 地域が存在する。森林修復に使用される樹種としては、土壌条件に対して適性の高い郷土樹種であ ることが望まれる。トウヒ属樹木のアカエゾマツとエゾマツは、北海道の主要樹種であり、荒廃地 を緑化する活物材料としては妥当な樹種であると期待されてきた。

  トウヒ属樹木は北半球の森林に広く分布し、我が国においては7種が記載されている。そのうち日 本北部においては、アカエゾマツとエゾマツが分布している。両種の分布域は異なり、エゾマツが 肥沃な生育環境に分布するのに対し、アカエゾマツは蛇紋岩土壌をはじめとする貧栄養環境に分布 することができる。しかし、これらの分布域に関連した成長特陸には、解明すべき点が多し丶。蛇紋 岩土壌は、貧栄養であることに加えてNi等の重金属やMgを多量に含んでいる。Niは根の成長と葉の 光合成能カの低下を招く。また、Mgは細胞壁の安定陸と原形質膜の透過陸を変化させる。これらの 要因によって、生育可能な植物種が制限されている。しかし、いくっかの種は耐陸を獲得し蛇紋岩 土壌にも生育している。トウヒ属樹木は、有害元素の植物体内ーの吸収や移動を制限することで耐 性を獲得する植物種と考えられる。

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満 郎

   

   

孝  

  賀

崎  

  村

大 笹

授 授

   

   

教 教

査 査

副 副

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  本研究は、撹乱を受け、その後の針葉樹の生育が不良な蛇紋岩土壌地帯において、トウヒ属樹木 を用いた環境修復技術の基礎資料を得ることを最終的な目的とした。造林樹種として用いるアカエ ゾマ ツとエゾマツの生態生理的特陸に関するデータが不足しているため、トウヒ属樹木5樹種のな かで2樹種の位置づけを行った。次に、アカエゾマツ、エゾマツおよびヨーロッパトウヒ苗3種を蛇 紋岩土壌と褐色森林土に植栽し成長と生態生理的特陸を比較した。そして、活物材料として用いる 上で高い適合陸を持つ樹種を選出した。さらに、トウヒ属樹木を導入した蛇紋岩土壌の植林地を対 象として、環境修復を意図した事例解析を行い、導入樹種の生育が悪い原因を解明し、導入種の生 育改善策を検討した。

  本研 究で解明された同一地域に植栽された外来の樹種も含めトウヒ属樹木5種の生態生理的特性 を比較した。エゾマツは若い針葉における光合成能カが高く、針葉内の窒素濃度も高い濃度を示し 伸長量は大きい傾向を示した。一方、アカエゾマツの伸長量はエゾマツより短いものの甜葉の寿命 が長く葉齢の高い針葉においても高い光合成能カを維持していた。また、針葉内の窒素濃度は低い が、高い窒素利用効率を示した。

  次に、上記のトウヒ属3樹種を蛇紋岩土壌と褐色森林土に植栽した結果、アカエゾマツの成長量は 両土壌問において有意差が認められなかった。しかし、エゾマツとヨーロッパトウヒは蛇紋岩土壌 に植栽した個体の成長量は小さかった。また、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツでは外生菌根菌 の感染率が高く、NiやMg等の重金属の吸収抑制が示唆された。さらに、蛇紋岩土壌に植栽したアカ エゾマツでは窒素利用効率が特に高く、少ない窒素濃度で高い光合成能カを得ていた。以上の結果 から、アカエゾマツは、トウヒ属樹木3樹種の中で蛇紋岩土壌に、最も高い適合性を持った活物材料 であると考えられた。

  これらを基礎に、アカエゾマツを森林環境修復の活物材料として利用するために、既存の蛇紋岩 土壌の植栽地にて事例聊ニ究を行った。また、試験地に優占しているササを生物指標とする調査を行 った。調査地は、南向斜面および北西向斜面に大別されたが、特に南向斜面のササの生育が悪く、

南向斜面の積雪深と土壌養分が低い値を示した。この傾向は導入したアカエゾマツに関しても同様 の結果であり、南向斜面のアカエゾマツは北西向斜面の個体と比較して生育が悪く、針葉の寿命は 短い傾向を示した。また、南向斜面のアカエゾマツの成長は、気候要因の影響よりは土壌中の養分 が低いことによって規定されていた。南向斜面の個体は針葉中の養分を古い葉から新しい葉に移動 させることで生き延びていると推察された。

  以上のように本研究では、蛇紋岩のような特殊土壌地帯での緑化技術向上を生態系修復の視点か ら解明しようとした研究であり、得られた成果は学術的にも貴重なものであり、活物材料に関する 生態生理学的な基礎資料として高く評価される。よって審査員一同は香山雅純が博士(農学)の学 位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。

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