【学位論文審査の要旨】
ヒートアイランド現象を始めとする都市熱環境の悪化は世界中の都心部で深刻化してい る。土地被覆の改善や人工排熱の低減などによる緩和策に関する研究は古くから行われて おり、そのメカニズムも明らかにされつつある。しかしながら、人間活動の発展に伴い変 化した都市形態へ、それらの緩和策を導入し、効果を得るためには、長期的な視点が必要 となる。一方で、都市熱環境が悪化した結果、熱中症や熱帯夜の増加など、都心部で暮ら す人々の健康被害やライフスタイルにも影響を及ぼしている。このことから近年は、人に 与える影響の低減に主眼を置き、短期的、局所的に効果が期待できる適応策に関する研究 も求められている。
そこで本研究では、水面による都市熱環境の適応策に着目し、水景施設の配置や大きさ などの設計要素と周辺微気候との関係、及び水景施設周辺の歩行者の熱的快適性に与える 影響を明らかにすることを目的とした。具体的には、屋外都市スケールモデル実験サイト において、様々な気象条件下及び水景施設の大きさや配置による温熱環境緩和効果の違い を相対的に比較した。また、数値シミュレーションによるパラメトリックスタディの結果 から、温熱環境に配慮した水景施設のデザインガイドラインの作成を試みた。
本研究において得られた知見は以下の通りである。
1. 実際の都市空間における人工池が、周辺の温熱環境に与える影響を測定した結果 より、日中の気温と放射温度が改善できることを明らかにした。このことは、既往研究の 結果と同様の傾向であるが、PET などの歩行者の熱的快適性を示す指標の低下に直接影響 することを示した。しかしながら、人工湖から得られる効果は、池の大きさや、時間帯、
気象条件、周辺環境によって異なる結果も得られたことから、水景施設の設計要素とそれ に影響する周辺微気候の要素の抽出を行った。
2. 住宅密集地を1/5スケールで再現した屋外都市スケール実験サイトにて、1にて抽 出した要素を元に、池の大きさ、方位、配置が異なる全7ケースを作成し、池周辺の気温、
放射温度、湿度を測定した。その結果、池が大きいほど気温は低下することが示された。
しかしながら、都心部ではスペースが限られる。そこで、配置の影響を比較した結果、卓 越風向に平行に配置した池は、同じサイズでも異なる配置の池に比べ、放射温度を最大2.1 度低く維持でき、日中の最も暑い時間では歩行者の熱的快適性PETは1.6度低下すること が明らかになった。
3. 池への冷却水の導入は、周辺微気候の熱的快適性を高めるには効果的である。そ こで、水温を15度一定にした結果、水温が自然状態の場合に比べ、空気温度は0.3度、放 射温度は0.5度、冷却効果が増加した。しかしながら、水を冷却するためには追加エネルギ ーが必要となるため、地下水の利用などを検討する必要がある。
4. 屋外都市スケール実験サイトで得た結果を元に、既往の数値計算プログラムを用 いて、池の配置と大きさを変えたパラメトリックスタディを行った。その結果、中央に集 中配置をしたケースで最も低い空気温度が得られたが、その空気は池近くのみに蓄積して
いた。一方で、分散配置をしたケースでは、空気温度の低下は中央配置に比べて小さいが、
より広範に冷却した空気が広がることが明らかになった。これらから、池による熱的快適 性の向上が得られる場所と、歩行者の滞在場所の両方を踏まえた水景施設を計画すること の重要性を示した。
以上により本研究では、屋外都市スケールモデル実験サイトにて、水景施設を再現した 測定と、数値解析によるパラメトリックスタディにより、水景施設により形成される微気 候の違いを明らかにした。それらの結果をもとに、温熱環境緩和効果に配慮した水景施設 を設計する際のガイドラインを提案した。本研究で得られた知見は、都市建築空間におけ る水景施設の設計者や管理者が、利用者の温熱快適性に配慮した提案をする際に有益な情 報となると考えられる。
よって、本学位申請論文は建築環境工学の発展に寄与すると判断されるので、博士(工 学)の学位を授与するに十分な価値を有するものと認める。