【学位論文審査の要旨】
1 研究の目的
第 4 世代原子炉の一形式として冷却媒体に超臨界圧の水を用いる超臨界圧軽水冷却炉 (SCWR)が検討されている.熱効率の向上と炉の小型化,加えて気水分離器,蒸気乾燥器が 不要となるためシステムが簡素化され経済的競争力を持つと考えられている.これまでに 一次冷却系をポンプで循環する強制循環型の SCWR の設計コンセプトが提案されているが,
商業炉の建設には至っていない.超臨界圧の水であっても二相の自然循環ループと同程度 の密度差が生じるため自然循環で冷却することも可能で,SCWR の熱除去の一つの手段とし て自然循環が考えられる.次世代原子炉の設計では安全が重要な課題で,考えられる限り 事故などの異常事態を未然に防ぐパッシブセーフティ技術が重視される.冷却を強制循環 の代わりに自然循環で行う方がパッシブセーフティと考えられるが,超臨界圧の熱伝達特 性が亜臨界のそれと大きく異なるので,定格状態の自然循環流の定常流動特性の解明と解 析ツールの開発が求められている.また,超臨界圧の流体の密度と粘度は擬臨界温度付近 で大きく変化し,SCWR は密度波振動および負性抵抗による不安定流動を起こす可能性があ る.不安定流動状態での運転は望ましくなく安定領域を特定する必要があるが超臨界圧の 自然循環流についての研究は少なく,わかっていない点が多い.
本研究はこのような背景の下に行われたもので,超臨界圧の自然循環流の一次元安定性 解析コードの開発,超臨界圧の自然循環流の定常流動特性および安定性の解明を目的とし ている.
2 研究の方法と結果
管径が一定の超臨界圧自然循環長方形オープンループの定常一次元流動解析コードおよ び一次元周波数領域線形安定性解析コード(SUCLIN)を開発した.長方形ループの下方水平 部に加熱部が上方水平部に冷却部が(HHHC)配置されたループの定常流動解析を行い,加熱 部出口温度がほぼ擬臨界温度となるとき質量流量が最大となること,加熱部入口温度が擬 臨界温度を超えると質量流量が急激に低下することを見出した.また,周波数領域線形安 定性解析から管径を大きくすると流れが不安定となる加熱量の範囲が拡大すること,加熱 部入口温度がある値以上であれば流れが安定であること,その温度は管径を大きくすると 低下することを見出した.
超臨界圧の自然循環ループの流れは強い非線形性を持つので振動流となっても発散する ことはなくリミットサイクル状態となる.線形安定性解析ではこのようなリミットサイク ル状態をシミュレートできないので,一次元時間領域非線形安定性解析コード(NOLSTA)を 開発し,SUCLINとNOLSTA による安定域を比較し,両者が定性的に一致することを示した.
さらに,SUCLINとNOLSTAの検証を兼ね,国際原子力機関(IAEA)が提唱したSCWR解析コー ドの検証問題である鉛直加熱管の流動解析を行った.結果は他の研究者らの結果と一致し,
出口の絞りを増加させると不安定域が拡大すること,超臨界圧の場合には比較的長い周期
の振動流となることを明らかにした.
Bhabha 原子力研究所の高さ約4 m,水平部長さ約 3 mの超臨界圧自然循環長方形クロー
ズドループ(SPNCL)を用いて超臨界圧の二酸化炭素の自然循環の実験を行った.冷却部の熱 伝達率の算出にBringer-Smithの式を用いればNOLSTAによる安定状態の循環流量は実験値 と± 15%で一致することを示した.一方,NOLSTAによる不安定域は実験のそれよりかなり広 い範囲であった.これは二酸化炭素の熱容量が管壁の熱容量と同程度で管壁の熱容量が二 酸化炭素のエンタルピーの変化を抑止し流動が安定化するのではないかと考え,管壁の熱 容量を考慮するようにNOLSTAを改良したところ不安定域は実験結果とよく一致した.この ような問題に模擬流体を使用する場合には擬臨界温度付近の流体と管壁の熱容量の比につ いても注意する必要があることを見出した.
加熱部を直接通電加熱に変えた SPNCL を用い超臨界圧の水の実験を行った.流れが振動 する不安定域は圧力が22.1から22.9MPaの極めて狭い範囲で,圧力が22.9MPa以上であれ ば流れは安定であることを見出した.圧力が臨界圧とほぼ同程度の場合には擬臨界温度付 近で水の熱容量が大きくなりエンタルピーが変化しても温度は変化しない.このため管壁 への熱の移動がなく密度のみ変化する状態となり流れの振動が起こる.一方,圧力が高く なると擬臨界温度付近での熱容量の変化が小さくなり管壁の熱容量がエンタルピー変化の バッファーとして働き,流れが安定になることを見出した.NOLSTA による不安定域は実験 のそれよりわずかに広いがほぼ一致した.
3 審査の結果
本論文は,超臨界圧の自然循環流の安定性解析コードを開発し,その定常流動特性およ び安定性の解明を行ったものである.オープンループの定常状態の循環流量と加熱部入口 出口温度との関係,および安定域について加熱部入口温度と管径との関係を見出したこと は循環ループの設計に対し示唆を与えるもので評価できる.また,周波数領域線形安定性 解析コード(SUCLIN)は特性方程式の解を求めるだけなので計算量が少なく,安定域の概略 を求めるのには適しており評価できる.
時間領域非線形安定性解析コード(NOLSTA)によるクローズドループの定常状態の循環流 量が熱伝達率の算出に Bringer-Smith の式を用いれば最大循環流量を超えても実験値と一 致することを見出したことは重要な知見である.
IAEA が提唱した SCWR 解析コードの検証問題である鉛直加熱管の流動解析に参加し,
SUCLINおよびNOLSTAによる結果を他の研究者らの結果と比較検証しており,評価できる.
超臨界圧の二酸化炭素を模擬流体とした実験での不安定域に比べ,NOLSTA による不安定 域が広いことから,安定性の解析には管壁の熱容量を考慮する必要があることを明らかに し,このような不安定問題に模擬流体を使用する場合には擬臨界温度付近の流体と管壁の 熱容量比について注意が必要であることを見出したことは工学的な価値があり,高く評価 できる.
水の場合には圧力が 22.9MPa 以上であれば流れが安定であることを見出しており,これ は圧力を臨界圧よりわずかに高くすれば,安定な自然循環流となるように設計できること を示唆するもので,工業的な寄与も大である.また,このことについて物理的説明を加え ており工学的な価値があり高く評価できる.
以上を総合的に判断した結果、本論文で得られた成果は博士(工学)を授与するに十分価 値あるものと結論される.
4 試験及び試問の結果
本学の学位規定に従って,論文審査委員による論文審査会を 4 回開催し,本論文の内容 および関連分野に関して多角的な視点から審査委員による筆答および口頭の試験を実施し た.また,2014年9月19日に公開の論文発表会を開催して,学内外から多くの参加者を得 て多角的な討論を行った.さらに本学の博士後期課程を経たものと同等以上の学力がある ことを確認するため,専攻学術および外国語について学力確認の試問を行った.その結果,
申請者は論文内容および関連科目に関して,博士(工学)としての専門知識を十分有し,
さらに本学の博士後期課程を経たものと同等以上の学力があるものと判断され,試験およ び試問は合格と判定した.