博士(工学)山口干春 学位論文題名
炭素繊維用ピッチの評価法ならびに調製法に関する研究 学位論文内容の要旨
炭素繊維用ピッチの性能は構成する分子の化学構造,分子量および分子の運動性,配向性な どの物理構造に大きく支配される。また、分子の凝集状態をあらわす集合構造の重要性が指 摘されている。しかし、これまで溶剤不溶分が多く高軟化点の炭素繊維用ピッチについては、
これらの構造は不明な点が多く、したがって性能発現因子も明確でなかった。汎用炭素繊維 用原料のーつであるェア―ブロンピッチについても、高品質のピヅチを安定して製造,品質 管理することにおいて未だ多くの問題が残されている。
本研究ではピッチの化学構造から集合構造にわたる構造解析手段として、軟化点以上の溶 融状態 あるいは 紛体状態で も測定可 能なNMR,ESR及び超音波分析を評価手法として新 しく導入し、ピッチ分子の構造,分子量,運動性,配向性及び凝集状態と紡糸性,不融化性,
繊維強度との関係を解明することを目的とした。その結果、これらの評価手法により得られ るピッチの分子レペルでの諸々の情報が、炭素繊維の性能を発現させる上での基礎となるこ とを明らかにした。これらを指針として、炭素繊維用ピッチの構造を制御する上での原料の 選択,反応操作条件の設定基準を定めた。これらの知見は高品質の炭素繊維用ピッチの製造 に応用することが出来た。
本論文は9章で構成されており、以下に各章の概要を記す。
第1章では、これまで知られている炭素繊維用ピッチの原料及び製法、並ぴに、炭素繊維 用ピッチの品質評価法と最近のキャラクタリゼ―ション手法を概活し、併せて本研究の目的 を述べた。
第2章で は、磁気 共鳴スペク トル分析 (ESR,NMR)を 応用する ことによ り、ピッチ を構成する成分全体の化学構造を的確に反映するキャラクタリゼーション手法として確立す ることができた。また、エア―ブロウイング反応における酸素,熱及び蒸留の重畳効果をそ れぞれ分離し、エアーブロウイング反応制御の指針を得た。それによると、軟化点上昇,異 方性組織の発達度合いに及ぼす酸素,熱及ぴ蒸留効果には差があり、それらはピッチの化学 構造が相違していることで説明できた。軟化点が高く、且つ異方性組織の存在しない等方性 ピッチを謂製するためには、熱の効果を押さえ、酸素と蒸留効果を組合せることが重要であ ることを明らかにした。
第3章では、液晶高分子のサ―モトロピーや高分子溶液のゲルの生成過程などの研究に利 用されはじめた超音波分析法をピッチの集合構造評価手法として導入した。超音波分析法は、
測定する系の分子凝集状態の変化に対して敏感であり、ピッチのような複雑な系に対するキ ヤラクタリゼ―ション手法としてきわめて有効であることを明らかにした。また、酸素,
熱及ぴ蒸留の効果によるピッチの分子凝集状態の変化を追跡することができ、エアーブロウ イ ン グ 反 応 に お け る 反 応 経 路 を 選 択 す る 上 で 有 用 な 指 針 が 得 ら れ た 。 第4章では、ピッチのエア→ブロウイング反応経路を制御するのに必要な知見をうるため、
モデル物質として構造が明確で単一物質である芳香族化合物を出発原料として用い、酸素と の反応性、特に原料構造の相違による重合挙動に焦点をあてた。原料の化学構造の違いによ る軟化点上昇,異方性組織抑制のメカニズムが明らかになり、エアーブロウイング反応にお ける原料,反応経路の選択上の指針が得られた。
第5章では、エア―ブロンピッチの汎用炭素繊維用原料としての紡糸性,不融化性及び繊 維強度の性能発現因子を原料の化学構造及び集合構造などに関連して分子レベルで明らかに することができた。これらの知見から、エア―ブロンピッチの性能に及ぼす原料・調製条件 の 影響を把 握が可能 であり、ピッチの品質を管理することに応用することができた。
第6章では、エア―ブロンピヅチを溶剤により成分分割し、その化学構造を解析し、これ まで定量化が困難であったェア―ブロンピッチを構成している組成成分とピッチの特性との 関係を明らかにした。組成成分の化学構造とその含有量を定量化することにより、ピッチを 使用目的に合わせてデザインできることを示した。
第7章では、第2章,第3章で得られたェアーブロウイング反応経路選択上の指針を基に、
酸素と蒸留の効果の組合せにより生成ピッチの化学構造,集合構造をコントロールする方法 について詳細に検討した。また、第4章で得られた反応経路選択上の指針を基に、エアーブ ロウイング反応における原料ゼッチの構造と生成ピッチの化学構造,集合構造との関連性に ついて検討した。その結果、原料の選択,反応経路のコントロ―ルにより、目的のピッチを 製造することが可能となった。
第8章では、第5章,第6章において見出されたェアーブロンピッチの炭素繊維用原料と しての性能発現因子と、これまで推測の域をでなかったメソフェーズピッチの性能発現因子 の 相違を、 構成分子 の化学構 造及ぴ集合 構造の面 から明ら かにする ことがで きた。
第9章では、前各章で得られた主な結諭を総括している。本研究では、炭素繊維用ピッチ の品質を決定するピッチの化学構造及び集合構造に関する新しいキャラクタリゼーション手 法を導入することにより、炭素繊維用原料としての性能発現因子を明確化し:併せて品質評 価手法として確立した。また、これらの評価手法にもとずき、炭素繊維用ピッチの品質に及 ぼす原料,製造条件の影響を明らかにし、炭素繊維用ピッチの品質設計法を提案することが 出来た。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
炭 素繊維 用ピッチ の評価法ならびに調製法に関する研究
炭 素繊 維用ピ ッチ の性 能は 構成 する 分子 の化 学構 造、 分子量および分子の運動性、
配向 性な どの物 理構 造に 大き く支 配さ れる 。ま た、 分子 同志の凝集状態をあらわす集 合構 造の 重要性 が指 摘さ れて いる 。し かし 、こ れま で溶 剤不溶成分が多くかつ高軟化 点の 炭素 繊維用 ピッ チの 構造 は不 明な 点が 多く 、し たが って性能発現因子も明確でな かっ た。 汎用炭 素繊 維用 原料 のー つで ある エア ーブ ロン ビッチについても、高品質の ピッ チを 安定し て製 造、 品質 管理 する こと にお いて 未だ 多くの問題が残されている。
本 論文 ではピ ッチ の化 学構 造か ら集 合構 造に わた る構 造解析手段として、軟化点以 上 の 溶融 状 態 あ る い は 粉 体 状 態 で も測 定可 能な 磁気 共鳴 スベ ク゛ トル 分析 (NMR,E SR) 及び 超 音 波 分 析 を 評 価 手 法 と して 新し く導 入し 、ピ ッチ 分子 の構 造、 分子 量、
運動 性、 配向性 及ぴ 凝集 状態 と紡 糸性 、不 融化 性、 繊維 強度との関係について研究し た結 果を 纏めた もの であ る。 その 結果 、こ れら の評 価手 法により得られるピッチの分 子レ ベル での諸 々の 情報 が、 炭素 繊維 の性 能発 現と 密接 に関連していることを明らか にした。これらを指針として、炭素繊維用ピッチの構造を制御する上での原料の選択、
反応 操作 条件の 設定 基準 を定 めた 。こ れら の知 見は 高品 質の炭素繊維用ピッチの製造 に応 用す ること が出 来た 。
その 主要 な成果 は次 の点 に要 約で きる 。
(1)ESR,NMRを 応 用 し 、 ピ ッ チ を 構 成 す る 成 分 全 体 の 化 学 構 造 を 的 確 に 反 映 す るキ ャラ クタリ ゼ― ショ ン手 法を 確立 した 。ま た、 エア ―ブロウイング反応における 酸素 、熱 及び蒸 留の 重畳 効果 をそ れそ れ分 離し 、こ の反 応を制御するための指針を得 てい る。 それに よる と、 軟化 点上 昇、 異方 性組 織の 発達 度合いに及ばす酸素、熱及び 蒸留効果には差があり、ピッチの化学構造と関連させて説明している。軟化点が高く、
且つ 異方 性組織 の存 在し なぃ 等方 性ピ ッチ を調 製す るた めには、熱の効果を押さえ、
酸 素 と 蒸 留 効 果 を 組 合 せ る こ と が 重 要 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。
(2) 液晶 高分 子の サ― モト 口ピ―や高分子溶液ゲルの生成過程などの研究に利用され はじ めた 超音波 分析 法を ピッ チの 集合 構造 評価 手法 とし て新しく導入した。超音波分
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三
夫
生
宏
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田 垣
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真
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授 授
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査 査
査 査
主 副
副 副
析法は、測定する系の分子凝集状態の変化に対して敏感であり、ピッチのような複雑 な系に対するキャラクタリゼーション手法としてきわめて有効であることを明らかに した。本分析法はピッチの分子凝集状態の変化を追跡できるので、エアーブ口ウイン グ 反応に おけ る反 応経 路の選 択を する 上で 有用な 指針 を与 えるこ とを 示した。
(
3)ピッチのエア―ブロウイング反応経路を制御するのに必要な知見をうるため、モ デル物質として構造が明確で単一物質である芳香族化合物を出発原料として用い、原 料構造の相違による酸素との反応性、重合挙動に焦点をあて検討している。その結果 原料の化学構造の相違による軟化点上昇、異方性組織抑制のメカニズムが明らかとな った。これを応用してエアーブロウイング反応における原料、反応経路の選択上の指 針を示した。
(
4)汎用炭素繊維用原料としてのエア―ブロンピッチの紡糸性、不融化性及ぴ繊維強 度の性能発現因子と原料の化学構造及ぴ集合構造などに関連して分子レベルで考察を している。得られた知見は、エア―ブロンピッチの性能に及ぽす原料・調製条件の影 響 を 把 握 す る の に 有用 で あ り 、 こ れ ら を ピ ッ チの 品 質 管 理 手法に 応用 した 。
(
5)エアーブロウイング反応のさいの酸素と蒸留の効果を組合せ、炭素繊維製造用に 適 し た 化 学 構 造 、 集 合 構 造 を 有 ず る ピ ッ チ の 調 整 法 を 提 案 し て い る 。
(
6)光学的等方性のエア―ブロンビッチの炭素繊維用原料としての性能発現因子と、
これまで推測の域をでなかった光学的異方性のメソフェ―ズピッチの性能発現因子の 相 違 を 、 構 成 分 子 の 化 学 構 造 及 ぴ 集 合 構 造 の 面 か ら 明 ら か に し て い る 。
これを要するに著者は炭素繊維の原料であるピッチの品質評価法に新しい測定手法 を導入するとともに調製法に関して新知見を得ており、機器分析化学、炭素材料工学 の進歩に寄与するところ大なるものがある。
よって、著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認め る。
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