博士(歯学)渡邊幹一 学位論文題名
Porp んyromonas 雪むngiualis 主要外膜蛋白質(75 ―kDa 蛋白質)の 分子遺伝学的および免疫学的解析
学 位 論 文 内 容の 要旨
衛周炎の発症・進行には、グラム陰性嫌気性桿菌が深く関与しているとの報 告が多数あり、中でもPorphyromonas gingivaJ isは罹患率の最も商い成人性 菌周炎や急速進行性歯周炎と関係が深いと報告され、特に注目されてきている。
衛周炎を感染症という側面からとらえ、感染の第一段階である宿主への付着お よびォ欝主ー寄生体問の相互作用のm要性を考慮すると、P. gingivalisの菌体 表眉椛造物の性質を解明することは、きわめて重要と考えられる。著者は、尸,
gingiyaJis 381株の線毛の瀬f製を行っている過程で、時として混入してきた表 厩成分である75 ‑ kD 1i氏白質に注目し、この蛋白質を精製し、この蛋白質の性質 について研究を行ってきた。これまでの研究結果から、75 ‑ kDa蛋白質は、1.P gingi vaffsの主要外膜張白質のーつであり、2.常温において、SDS存在下でも 分子飛約200万の複合体を形成し、3. SDSと還元剤の存在下のもとで80℃以上で 加 熱 処 理 を す る と 、SDS ‑ PAGEに お い て 、 約75 kDaに 観 察 さ れ た 。 そこで、本研究は、P. gingiva′ isの表層成分である75 ‑kDa蛋白質の分子遺 伝学I的および免疫学的な4寺微をよりc9確にする目的で、まず、75 ‑ kDa張白質の 幟造遺伝子のf司定とクローン化を行って形質発現を試み、次に各種細菌に対す る75 ‑ kDa蛋白質椎造遺伝子の遺伝子相同性を分析した。さらに、75 ‑ kDa蛋白質 の 免疫 学的な 種特 異性 を分 析する とと もに 、P gingivalisの抗原性成分の検 索を成人性歯周炎患者と急速進行性歯周炎患者の血清を用いたイムノブロット 法 に よ り 試 み 、75 ‑ kDa蛋 白 質 に 対 す る 体 液 性 免 疫 応 答 を 検 討 し た 。
I. 分 子 遺伝 学的 解析
【材料と方法】
1. 75‑kDa蛋 白 質 の 構 造 遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ : 供 試 菌と し てP・gingiyalis 381株を 用い た。 まず 、(1)本 蛋白 質のN末 端アミ ノ酸 配列 を分析し、その配列よ り2種 類 の20量体 混合 オリ ゴヌ クレ オチド プロ ーブ を合 成し た。(2) 381株 の染 色 1本 ニDNAと 合成 プロー ブを 用い たサザンブロット法により、クローン化に適した制 限 酵 素 を 分 析 し た 。(3) pUC19を べ ク タ ー 、Ecoli JM83株 を 宿 主 菌に 用 い、381 株 の 遺 伝 子 バ ン ク を 作 製 し た 。(4)合 成 プロ ープ を用 いた コロ ニーハ イプ リダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 に よ り 、 作 製 し た 遺 伝 子 バ ン ク を ス ク リ ー ニ ン グ し た 。 2. 形 質 発現 :(1)ク ロー ン化 した 遺伝 子断 片を ファ ージT7 RNAボリ メラ ーゼ / ブ ロ モ ー タ ー シ ス テ ム に 組 換 え 直 し た。(2)得 ら れ た り コ ン ビ ナ ント とpUC19を べ ク タ ー と し た り コ ン ビ ナ ン ト の 両 者に つ い て 、 形 質 発 現 の 有 無 を 検討 した 。 3. 遺 伝 子 相 同 性 の 分 析 :P gingiyaJis 10株 お よ びPgingi vaJ is以 外 の 細 菌14種15株 を 供 試 菌 と し た 。 本 蛋 白 質遺 伝 子 断 片(1.7 kb PsとI断片 ) をDNAプ ロ ー ブ と し て 用 い た サ ザ ン ブ ロ ッ ト 法に より 、供 試菌 より 抽出 した 染色 体DNAに 対して、75 ‑kDa蛋白質遺伝子との相同性を検討した。
H.免疫学的解析
1. 上記 供試 菌と 同様 の菌 株か ら全 菌体 抽出 液を調 製し 、抗75 ‑ kDa蛋白質モノク ロ ーナ ル抗 体を 用いた イム ノブ ロッ ト法 によ り、75 ‑kDa蛋 白.質の免疫学的な種 特異性を検討した。
2. 75 ‑ kDa蛋白質 に対 する 体液性免疫応答の分析:被験者として北大歯学部附 属 病 院 に 来 院 し た 成 人 性 歯 周 炎 患 者 群(AP群 )32名 、 急 速 進 行 性 歯 周 炎 患 者 群 (RPP群 )16名 、 歯 肉 炎 患 者 群 (G群 )14名、 およ ぴ健 常者 群( ‖群)19名 を選 ん だ。抗原には、(ユ)粃製75 ‑ kDa蛋白質抗原(75K),(2)精製線毛抗原(FIM),(3)全 菌 体 抽 出 抗 原 の 可 溶 性 分 画(SUP)と 膜 分 画(ENV)を 用 い た 。 上 記 の 被 験者 血清 と 抗 原 と を 用 い た イ ム ノ ブ ロ ッ ト 法 に より 、 抗 原 性 を 示 す 菌 体 椛 築 成 分と それ に 対する特異抗体の検索を行った。
【 結 果 お よ び 考 察 】
1. 合 成 プ ロ ー ブ を 用 い たP, gingivalis 381株 染 色 体 DNAの 分 析 ベ ク タ ー と し て 用 い たpUC19の マ ル チ ク ロ ー ニ ン グサ イ ト に 対 応 す る 各 制 限 酵 素 で 、P. gingivalis 381株 染色 体DNAを消 化し 、合 成プロ ーブ を用 いた サザ ン プ ロ ッ ト 法 を 行 っ た 結果 、BamHI消 化 物 に 約4.2 kb、PstI消 化 物 に 約1.7 kb の 合 成 ブ ロ ー プ と 反 応 し た バ ン ドが 検 出 さ れ た 。
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2. コ ロ ニ ー ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 に よ る ス ク リ ー ニ ン グ 今 回 作 製 し た 約5,000個 の 遺 伝 子 バ ン ク(BamHI,PsとI) の 中 か ら 、4.2 kb のBa皿11断 片 を 組 換 え た り コ ンビ ナ ン ト を 、1つ得 るこ とに 成功 した 。こ の1Jコ ンピナントをpUC19BG75と名付けた。
3.pUC19BG75の分析
1.7kbのPsH断 片 は 、 ク ロ ー ン 化 で き た こ の4.2kbのBa凪HI断 片 の 中 に 含ま れ る こ と が 判 明 し た 。 ま た 、 ぬ硼I断 片 中 に75.kDa蛋 白 質 構 造 遺 伝 子 の 大部 分 カf含まれることが明らかになった。
4.形質発現
pUC19プ ラ ス ミ ド ベ ク タ ー の り コ ン ビ ナ ン トは、 イン サー トの 方向 、お よび 誘 導 の 有 無 に か か わ ら ず 、 形 質 発 現 を 確 認 す る こ と は で き な か っ た 。 こ れ に 対 し 、 フ ァ ー ジT7の プロ モ ー タ ー に 特 異 的 に 働 い て 、 強 カ に メ ッセ ン ジ ャ ーRN八 合 成 を 行 う こ と の でき る フ ァ ー ジT7RNAポリ メラ ーゼ /プ ロモ ータ ー シ ス テ ム に 組 換え 直し 、形 質発 現を 検討 した ところ 、T7プロ モー ター に対 して 、 両 方 向 にDNA断 片 が 挿 入 さ れ た2種 類 の り コ ン ピ ナ ン ト の う ち 、 片 方 に の み、 約 77kDaの 蛋 白 質 の 発 現 を 確 認 で き た 。 こ の 結 果 か ら 、 発 現 カ叩7プ ロ モ ー ター に 依 存 し て い る こ と と ク ロ ー ン 化し た 構 造 遺 伝 子 の 転 写 方 向 が 明 ら か に な った 。 ま た 、pUC系 ブ ラ ス ミ ド で は 形 質 発 現 せ ず 、 フ ア ー ジT7RNAポ リ メ ラ ー ゼ /ブ ロ モ ー タ ー シ ス テ ム に お い て 蛋 白 質 の 産 生 が 確 認さ れ た こ と に よ り 、E.c〇H内 で はP.gj孵jya´ |sの ブ ロ モ ー タ ー を 宿 主 のRNAポ リ メ ラ ー ゼ が 認 識 で きず 、 そ の 結 果 、 イ ン サ ー トDNA断 片 を 効 果 的 に 転 写 で き な い こ と が 示 唆 さ れ た 。 5.75.kDa蛋白質の遺伝子相同性と免疫学的な種特異性
ツ.り ンブロット法を用し、て、」卩IgfngfyaJjs10株およびP.gfngfya´fs以外 の 細 菌14種15株のDNAに つい て、75.kDa蛋白 質遺伝 子と の相 同性 を検 討し た。 そ の 結 果 、 全 て のP.gjngjya´js菌 株 に ポ ジ テ イブ なバ ンド が検 出さ れた が、P・ gfng´yaJjs以 外 の 細 菌 に は 、DNAプ ロ ー ブ に ハ イ ブ リ ダ イ ズ し た バ ン ド が認 め ら れ る も の は 存 在 し な か っ た 。同 様 の 菌 株 の 全菌 体抽 出液 に対 する 、抗75.kDa 蛋白質モノクローナル抗体を用いたイムノブロット分析の結果、P,g´口g´ゐ´´s の5株 に 、75kDaに 位 置 す る 明 瞭な バ ン ド を 検 出 で き た が 、P・g´ngjyaJjs以 外 の 菌 株 で は 反 応が 認め られ なか った 。こ れら のこと から 、75.kDa蛋 白質 は、381 株 の み な ら ず 、Pg´ngfレaJfsと ぃ う 菌 種 に 広 く 存 在 す る と と も に 、 分 子 遺伝 学的および免疫学的に種特異的であることが確認された。
6.75 ‑ kDa蛋白質に対する体液性免疫応答の分析
SUP、ENVを用いたイムノブロット法の結果、歯周炎患者血清によって30〜100 kDaに かけて種々のバンドが検出できた。これら反応した様々な分子量の成分の うち、75 kDaに最も頻繁に、かつ強い反応が観察された。75Kを抗原とした結果 でも、同様に反応が認められることから、上記の反応バンドは75 ‑ kDa蛋白質に 対する 特異抗体に よるもので あることが判明した。これは、宿主がP gingiv゜ alisの菌体表層構造物である75 ‑ kDa蛋白質を強く認識し、体液性免疫応答を行 った結果であり、75 ‑ kDa蛋白質がきわめて抗原性の強いinuuunodominanLな蛋白 質であることが明らかとなった。
75 ‑ kDa蛋白質に対する血清IgG抗体を調べた結果、特異抗体が検出された被験 者は、AP群32名中21名で65.6%、RPP群16名中16名で100%であった。これに対 して、G群とH群からは、75 ‑ kDa蛋白質に対する特異抗体は検出されなかった。
既に述 べたように、75 ‑ kDa蛋白質がP.gingivalisに特異的な主要外膜蛋白質 であることを考慮すると、これらの結果は、P, gingjyal isが高度な辺縁性歯 周炎、特に急速進行性歯周炎に強く関与していることを示すものと考えられる。
【結論】
以 上の結果よ り、P. gingivalis 75‑kDa蛋 白質遺伝子断片は特異性の高い DNAプローブとして、また、75 ‑ kDa蛋白質は種特異的でimmunodominantな菌体表 層抗原として有用であることが示唆された。
今後、さらに研究を進め、遺伝子の塩基配列を決定し、75 ‑ kDa蛋自質の構造 と機能 を解明して いきたいと思う。また、今回クローン化した遺伝子断片を種 特 異性の高 いDNAプロ ーブとして 用い、歯周 ボケット内 のP.gingivalisを 検 出・定量するとともに、75 ‑ kDa蛋白質に対する全身系および歯周組織局所の体 液性免疫応答を分析し、歯周炎におけるP. gingi va´ isの役割をより明確にし ていきたいと考えている。