はじめに
Charcot-Marie-Tooth病(CMT)は,1886年に Charcot,Marie,Toothの 3 人によって報告され た疾患であり,「遺伝子異常が関与した末梢神経 疾患」の総称といえる1).CMTの有病率は,欧 米ではこれまで2,500人に1人といわれており, 日本でも人口10万人対10.8人との報告がある. 平成 27 年 1 月 1 日より指定難病となったが, Barthel indexによる重症度基準に該当しない症 例が多い.次世代シークエンサーを用いたCMT の遺伝子解析が急速に進歩し,CMT関連の原因 遺伝子は80種類以上が特定されている(http:// www.molgen.ua.ac.be/CMTMutations)(表 1, 2).CMTの治療法の開発は不十分であるが,治 療法に関する新たな試みが始まっている.特に 下肢装着型補助ロボット(HAL-HN01)の医師 主導治験が終了し,医療機器として承認された 点が注目される.1.CMTの分類とその病態
CMTは正中神経の運動神経伝導速度(motor nerve conduction velocity:MCV)を基準に,脱 髄型(CMT1/CMT4),軸索型(CMT2),中間型 (intermediate CMT)に大別される.脱髄型CMT では,一般的に正中神経のMCVは 38 m/s以下, 活動電位はほぼ正常または軽度低下を示し,腓 腹神経所見では節性脱髄,onion bulbの形成を 認める.軸索型CMTでは,MCVは正常または軽 度低下を示すが,活動電位は明らかに低下し, 腓腹神経所見では有髄線維の著明な減少を示 す.しかし,いずれとも分けられないintermedi-ate CMTも存在する(図 1).CMTの臨床的重症 度は,その原因遺伝子の局在にかかわらず,軸 索障害の進行に相関しており,早期診断,早期 治療が予後に大きく影響する. CMTの多くは若年発症(0~20歳)であるが, 50歳前後での発症もあり,二峰性を示す.典型 的には,凹足(時に扁平足),ハンマー趾,足関 京都府立医科大学附属北部医療センター113th Scientific Meeting of the Japanese Society of Internal Medicine:Educational Lecture:16. Genetic diagnosis and therapeutic strategy for Charcot-Marie-Tooth disease.
Masanori Nakagawa:North Medical Center, Kyoto Prefectural University of Medicine, Japan. 本講演は,平成28年4月17日(日)東京都・東京国際フォーラムにて行われた.
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教育講演
シャルコー・マリー・トゥース病の
遺伝子診断の進歩と治療戦略
中川 正法節の変形,歩行困難,鶏歩,下肢優位の筋力萎 縮(いわゆる逆シャンペンボトル型)・感覚障 害,腱反射の消失,手指振戦,筋痙攣,疼痛, 下肢皮膚温低下などを示す.非典型的症状とし て,脳神経障害,声帯麻痺,緑内障,視神経乳 頭萎縮,錐体路障害,近位筋優位障害などを示 す例もある. CMTの診断は,問診,神経学的診察,電気生 理学的検査,神経超音波検査,家系調査,遺伝 子検査で行われる.問診と神経学的診察でCMT が疑われた場合には,神経伝導検査を行い,必 要に応じて針筋電図検査,神経超音波検査,腓 腹神経生検を行う.さらに,遺伝子検査にて確 定診断となる.PMP22のFISH法検査は健康保険 が適用される(図 2). CMTの鑑別診断として,慢性炎症性脱髄性多 発ニューロパチー(chronic inflammatory demy-elinating polyneuropathy:CIDP),薬剤性ニュー ロパチー,虚血性ニューロパチー,代謝性ニュー ロパチー,アミロイドーシス,脊髄小脳変性症に よるニューロパチー,POEMS症候群,傍腫瘍症 候群,異染性白質ジストロフィー,遠位型ミオパ チー,先天性ミオパチー,筋萎縮性側索硬化症, 係留脊髄症候群などを検討する必要がある.
2.CMTの遺伝子診断
遺伝カウンセリングを踏まえたCMTの遺伝 子診断は,疾患の予後,合併症,治療研究への 展開などを検討するうえで不可欠と考える.内 科領域ではCMTの包括的遺伝子検査が鹿児島 大学神経内科を中心に行われている.FISH法で PMP22遺伝子重複(CMT1A)を認めた例を除 くCMT疑い例が対象となる.2007年,マイクロ アレイ法による 27 遺伝子のスクリーニングを 開 始 し,2013 年 か ら はillumina社 製 の 次 世 代 シークエンサーMiseqⓇを使用し,60遺伝子に拡 大した.さらに,2014年6月からはlife technol-ogies社製IonProtonTMを使用し,72 遺伝子を対 象とした解析が行われている(図 3)2).新規の 遺伝子変異が発見された場合にそれがCMTの 病的変異か否かを確認することが難しい.Seg-regation studyや培養細胞での発現実験などが 必要となる.鹿児島大学神経内科では2014年6 月から 2015 年 7 月まで 244 例の検査依頼があ り,91 例で変異を検出し,43 例で確定診断と なっている.最近,MME(membrane metallo-endopeptidase遺 伝 子 ) 変 異 が 常 染 色 体 劣 性 CMT2 の原因遺伝子であることを報告してい る3).MME はAlzheimer病に関与しているnepri-lysinをコードしており,極めて興味深い発見で ある.一方,dbSNP,1000 genomesデータベー スにも多型登録がなく,Polyphen2 およびSIFT といったin silico解析で変異によるアミノ酸置 換 が 病 的 と 判 断 さ れ な が ら も,segregation studyが施行できずに病的変異を判断できない 症例も多い.対象遺伝子を増やすことで遺伝子 変異検出率は改善しているが,依然60%を超え る患者の原因遺伝子が未解明である.既知の遺 伝子異常がみられないCMT例の場合には,エク ソーム解析や家系内segregation studyなどを行 い,新規原因遺伝子同定の努力が必要である.3.CMTの治療戦略
CMTの治療に関して,現時点で効果が証明さ れた治療薬はない.しかし,①PMP22発現抑制 物質,②神経栄養因子,③クルクミン,④遺伝 子治療などの研究が進められている4).国内で 表1 頻度の高いCMT遺伝子異常(自験例) 病型 原因遺伝子 CMT における割合 CMT1A PMP22 重複 30~40% CMT2A2 MNF2 5~10% CMT1B MPZ ~5% CMTX GJB1 ~5% CMT2F HSPB1 ~1%表2 Charcot-Marie-Tooth病および関連疾患の原因遺伝子(http://www.molgen.ua.ac.be/CMTMutationsより引用改変) CMT 病型 遺伝形式 Locus Gene CMT1A AD 17p11.2 PMP22 重複 CMT1B AD 1q22-q23 MPZ(P0) CMT1C AD 16p13.1-p12.3 LITAF(SIMPLE) CMT1D AD 10q21.1-q22.1 EGR2 CMT1E AD 8p21 NEFL CMT4A AR 8q13-q21 GDAP1 CMT4B2 AR 11p15 SBF2(MTMR13) CMT4B1 AR 11q23 MTMR2 CMT4C AR 5q23-q33 SH3TC2(KIAA1985) CMT4D AR 8q24 NDRG1 CMT4E AR 10q21.1-q22.1 EGR2 CMT4F AR 19q13.1-q13.3 PRX CCFDN AR 18q23-qter CTDP1 CMT4G AR 10q23 unknown CMT4H AR 12p11.1-q13.11 FGD4 CMT4J AR 6q21 FIG4 DI-CMTB AD 19p12-p13.2 DNM2 DI-CMTC AD 1p34-p35 YARS DI-CMT AD 1q22-q23 MPZ CMT2A AD 1p35-p36 MFN2 CMT2A AD 1p35-p36 KIF1B CMT2B AD 3q13-q22 RAB7 CMT2C AD 12q23-q24 TRPV4 CMT2D AD 7p14 GARS CMT2E AD 8p21 NEFL CMT2F AD 7q11-21 HSPB1(HSP27) CMT2 AD 1q22-q23 MPZ CMT2L AD 12q24 HSPB8 AR-CMT2A(CMT4C1) AR 1q21.2-q21.3 LMNA AR-CMT2(CMT4C2) AR 8q21.3 unknown AR-CMT2(CMT4C4) AR 8q21 GDAP1 AR-CMT2 AR 3q25.2 MME CMT1X XR/XD Xq13.1 GJB1(Cx32) CMTX5 XR Xq21.32-q24 PRPS1 HMSN-P AD 3q13.1 TFG distal HMN II AD 12q24 HSPB8(HSP22) distal HMN V AD 7p GARS
distal HMN / ALS4 AD 9q34 ALS4(SETX)
distal HMN / Silver syndrome(SPG17) AD 11q13 BSCL2
HNPP AD 17p11.2 PMP22 欠失
CMT:Charcot-Marie-Tooth,CTDP1:CTD(carboxy-terminal domain, RNA polymerase II, polypeptide A)phosphatase, subunit 1, DNM2:dynamin 2,EGR2:early growth response gene 2,FGD4:FGD1-related F-actin-binding protein,
FIG4:phosphatidylinositol 3,5-bisphosphate,GARS:glycyl-tRNA synthetase,GDAP1:ganglioside-induced differentiation-asso-ciated protein 1,GJB1:gap junction protein, beta 1,HNPP:hereditary neuropathy with liability to pressure palsies,
HSPB1:heat shock 27-kDa protein 1,KIAA1985(SH3TC2),SH3 domain and tetratricopeptide repeats 2,KIF1B:kinesin family member 1B,LITAF:lipopolysaccharide-induced TNF factor,LMNA:lamin A,MED25:mediator of RNA polymerase II transcription subunit 25,MME:membrane metalloendopeptidase,MPZ:myelin protein zero,MTMR2:myotubularin-related protein 2, MTMR13:myotubularin-related protein 13,NDRG1:N-myc downstream-regulated gene 1,NEFL:neurofilament light polypep-tide,PMP22:peripheral myelin protein 22,PRX:periaxin,RAB7:Ras-related protein Rab-7a,TRPV4:transient receptor potential cation channel subfamily V member 4,YARS:tyrosyl-tRNA synthetase, cytoplasmic
の新たな取り組みとして,下肢装着型補助ロ ボット(HAL-HN01)の医師主導治験が終了し, 医療機器として認可された. 1)CMT1Aの治療研究 (1)アスコルビン酸 アスコルビン酸がCMT1Aモデルマウスに有 図2 Charcot-Marie-Tooth病の診断の流れ 臨床的に遺伝性ニューロパチーが疑われる場合には,図に示す流 れで診断を進める.腓腹神経神経生検も重要な情報を提供する. 遺伝子診断は鹿児島大学医学部神経内科,山形大学医学部小児科 などで可能であるが,事前に問い合わせが必要である.遺伝子診 断にあたっては,遺伝カウンセリングの体制を整える必要がある. 遺伝性ニューロパチー疑い例 臨床症状,家族歴,電気生理学的検査,神経超音波検査など (神経生検も考慮する) 原因遺伝子の探索 CMT2 確実例 CMT1A/HNPP CMT2 以外の場合: PMP22 遺伝子重複の FISH 法 /MLPA 法 図1 Charcot-Marie-Tooth病の病型分類 脱髄型か軸索型かは,正中神経運動神経伝導速度(MCV)38 m/secを境に電気生理学的に決定され るが,家系内でMCVが38 m/secの上下にまたがる症例/家系もあり,中間的なMCVを呈する型はinter-mediate CMT(DI,RI-CMT)と呼ばれ,MCVは図のようにMCVが38 m/secをまたがる形で分布する. AD:常染色体優性遺伝,AR:常染色体劣性遺伝,CMAP:複合筋活動電位 脱髄型 CMT CMT1(AD),CMT4(AR) 正中神経 運動神経伝導速度(MCV) 38 m/sec CMAP:ほぼ正常・軽度低下 節性脱髄 Onion bulb 形成 CMT1 CMT2 軸索型 CMT CMT2(AD,AR) CMAP:明らかに低下 有髄線維の著明な減少 CMT X DI-CMT RI-CMT CMT2 CMT1A 10 MCV m/sec 20 30 40 50 60 中間型 CMT
効であるとの報告があり,注目された.これま でヨーロッパ,北アメリカ,オーストラリアで, CMT1Aに対するアスコルビン酸投与試験(ran-domized controlled trial)が行われたが,いずれ の試験でもCMT1Aに対するアスコルビン酸の 有用性は認められなかった.アスコルビン酸投 与試験からの教訓の 1 つは,CMT1Aのように ゆっくりと進行する疾患の場合,症状の評価方 法や効果指標に関するより鋭敏なものを開発す る必要があるということである. (2) ニューロトロフィン―3 (neurotrophin 3:NT-3) CMT1A患者末梢神経をヌードマウスに直接 異種移植後,神経栄養因子であるNT-3を皮下注 射することでSchwann細胞増加と軸索再生が観 察されることに基づいて,Sahenkらは 1 型アデ ノ 随 伴 ウ イ ル ス ベ ク タ ー(adeno-associated virus:AAV1)を使用してNT-3 遺伝子をCMT1A マウスの下肢筋肉内で発現させて有効性を検討 する遺伝子治療の研究を進めており,有効性を 示す実験結果が報告されている5). 図3 CMTの包括的遺伝子診断の推移 FISH法でPMP22 重複によるCMT1Aと診断のついた症例を除くCMT疑い例が対象となる.2007年,マイクロ アレイ法による27遺伝子のスクリーニングを開始し,2013年からはillumina社製の次世代シークエンサー MiseqⓇを使用し60遺伝子に拡大した.2014年6月からはlife technologies社製IonProtonTMを使用し,72遺
伝子を対象とした解析が行われている.鹿児島大学神経内科 橋口昭大,吉村明子,樋口雄二郎,岡本裕嗣,髙嶋 博の各 先生方のご厚意による. 2005/4 月~ 57 例 /560 例(10.2%) 対象 27 遺伝子 マイクロアレイ法 2012/4 月~ 114 例 /487 例(23.4%) 対象 61 遺伝子 MiSeq iLLumina 社 2014/7 月~ 2015/7 月 83 例 /244 例(34.0%) 対象 72 遺伝子 Ion Proton Life Tech 社
日本の分子疫学:診断率 1,084 例中 275 例(25.4%) MFN2 GJB1 MPZ HSPB1 NEFL SETX GDAP1 BSCL2 PMP22 FGD4 TFG PRX SH3TC2 TTR AARS EGR2 GAN GARS MME ARHGEF10 PRPS1 TRPV4 SOD1 ATP7A SACS DNM2, FBLN5, GALC, GNB4, KARS, LMNA, LRSAM1, RAB7, YARS, AAAS, FUS, VAPB, MATR3, POMT2, ATL1, c12orf65, 各 1 64 52 42 12 10 8 7 7 7 6 6 5 5 4 3 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 10% 0% 20%30%40%50%60%70%80%90% 100% unknown unknown unknown unknown unknown unknown GJB1 MPZ Boerkoel et al. USA n=74 Choi et al. Korea n=42 Saporta et al. USA n=449 Abe et al. Japan n=301 Murphy et al. UK n=1,192 Braathen et al. Norway n=152 GJB1 HSPB1 Others MFN2 MFN2 MPZ NEFL unknown BSCL2 HSPB1 SH3TC2 LITAF MTMR2 TRPV4 FIG4 GAN unknown GJB1 MPZ PMP22 EGR2 PRX NFFL MFN2 GDAP1 GARS 当科 Japan N=1,084
(3)PXT3003 フランスPharnext社がCMT1A 80 例を対象に PXT3003(バクロフェン,ナルトレキソン,ソ ルビトールの合剤)の臨床試験を行っている. この 3 剤の特徴は,すでに臨床現場で使用され ている薬剤であり,安全性が確立されているこ と,通常用量の1/10~1/100量を使用している ことである.バクロフェンはGABA(B)受容体, ナルトレキソンはオピオイド受容体をそれぞれ 標的とする.ソルビトールはシャペロン様の作 用,またはムスカリン性アセチルコリンG蛋白 結合受容体に結合すると考えられている.プラ セボおよび 3 種類の用量による第II相臨床試験 でも安全性と有効性(用量依存的に上肢機能の 改善)が示された6).PXT3003 の今後の臨床治 験の結果が待たれる. (4)ニューレグリン―1 CMT1Aラ ッ ト で は,Schwann細 胞 に お け る phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate 3-kinase (PI3K)-v-Akt murine thymoma viral oncogene
homolog 1(Akt)(PI3K-Akt)とmitogen-activated protein kinase kinase 1(Mek)-mitogen-activated protein kinase(Erk)(Mek-Erk)の細胞内シグ ナルのバランス障害のため,Schwann細胞分化 が妨げられており,上皮細胞増殖因子である ニューレグリン―1(neuregulin-1)がSchwann細 胞のシグナル伝達を改善し,CMT1Aラットモデ ルの軸索機能を改善させたという報告が注目さ れている7).Schwann細胞内におけるシグナル伝 達障害を改善させる方法は,CMTの新たな治療 法となることが期待される. 2)CMT1A以外のCMT治療研究 (1)クルクミン クルクミンは秋ウコンやカレー粉に多く含ま れる自然の黄色色素である.Khajaviらは,クル クミンが変異PMP22蛋白を小胞体(endoplasmic reticulum:ER) か ら 細 胞 膜 へ 解 放 し, 変 異 PMP22 発現によるアポトーシスを減少させる ことを報告した.同様の病態がMPZ点変異によ るCMT1Bの場合にも指摘されている8).クルク ミンは水に溶けにくい物質であるが,クルクミ ンの体内への吸収を大幅に改善したセラクルミ ンⓇを用いた医師主導治験が計画されている. (2)遺伝子治療など CMTX1A,CMT2F(HSPB1異常),CMT4J(FIG4の 機能喪失)などで細胞レベルや動物レベルでの遺 伝子治療の研究が進んでいる.iPS細胞による研 究も進んでおり,CMT2AやCMT2Eの患者由来iPS 細胞から運動神経に分化誘導させ,その病態解明 と治療法開発を目指す研究が進行している9). 3)注意すべき薬剤 CMT患者が他の疾患に罹患した場合,必要に 応じて使用される薬剤が末梢神経障害を悪化さ せる場合がある.特に抗腫瘍薬であるビンクリ スチンやシスプラチン・タキソール®・サリドマ イド・ベルケイド®などがCMTの症状を悪化さ せる可能性のある薬剤として注目されている (http://www.cmtausa.org/resource-center/treatment- management/neurotoxic-medications/).このサ イトに記載されていない薬剤でもCMTの症状 を悪化させる可能性があり,服用後になんらか の異常を自覚した場合は直ちに主治医に相談す るべきである. 4)“痛み”への対応 CMT患者の多くが手足のしびれ感や痛みを 自覚している.その原因は,CMTという病気自 体による神経障害性疼痛と足趾の変型や胼胝に よる侵害受容性疼痛の2種類がある.“痛み”は 患者の気力・体力を低下させるので少しでも軽 減することが重要である.消炎解熱鎮痛薬, NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatory drugs) で改善がない場合は,三環系抗うつ薬,ガバペ ン チ ン, プ レ ガ バ リ ン,SNRI(serotonin and norepinephrine reuptake inhibitor),局所麻酔薬 などを使用する.十分な鎮痛効果が得られない
場合は,麻薬である弱オピオイド(トラマドー ルなど)の使用も検討する必要がある.また, 鎮痛補助薬として,抗てんかん薬,抗精神病薬, 睡眠薬/睡眠誘導薬,鎮痙薬,消炎酵素薬なども ある.漢方薬では,五苓散,牛車腎気丸,芍薬 甘草湯,葛根加朮附湯などが有効な場合もある. 5) 外科的治療・リハビリテーション・装具療法 関節変形が進行し,装具を用いても足を適切 な位置に保てず歩行に支障が出てきた場合,関 節の安定性を図るために筋延長術や骨切り術な どの整形外科手術が適応となる場合がある.装 具療法においては機能障害にあった装具を使用 目的と使用時間帯を明確にして,装着すること が大切である.短下肢装具の使用(カーボン製 ダイナミック短下肢装具,プラスチック製な ど),足関節の夜間固定などが有効との報告があ る.CMTの関節可動域制限の予防のために,発 症早期から下腿三頭筋の持続伸張訓練を行う必 要がある.日々の生活に運動療法を組み込むこ とで,疾患の自然経過による進行以上の悪化を 抑える効果が期待できる.最近,医療機器とし て 認 可 さ れ た 下 肢 装 着 型 補 助 ロ ボ ッ ト (HAL-HN01)はCMTに対しても保険適用となっ ており,その活用が期待される.
4. CMT患者レジストリーと
CMT診療マニュアル改訂
1)CMT患者レジストリー AMEDのCMT研究班(研究代表者中川正法)で CMT患者レジストリー(CMT Patient Registry: CMTPR)システムを構築した(図4).最終的に 患者自身によるWEB登録と研究班事務局から のメール調査および郵送による手書き記入式を 併用することとした.2016 年 3 月末の時点で, 281 名が利用登録し,188 件のアンケート記入 があった.利用登録者数とアンケート記入者数 の差が大きい理由として,アンケート項目が多 く入力に時間がかかること,インターネットの 使い方がわからないことなどが推測された.登 録件数 0 件が 7 県あり,地域による偏りをなく すためにも関連する大学や基幹病院の神経内科 医への働きかけを強化する必要がある.今後, 英国,米国のCMT患者会とインターネットを通 じて国際的な共同研究体制を構築し,将来的な 臨床治験の体制を整えることが重要と考える. 2) CMT診療マニュアル改訂と学校向け パンフレットの作成 2010 年の初版以来,5 年ぶりにCMT診療マ ニュアルが改訂された(2015年12月1日発刊) (図 5)10).改訂版では,遺伝情報,外科療法, 装具療法,外来診療のポイントなどがより充実 した内容となっている.また,学校関係者向け にCMTについて解説したパンフレット(http:// www.cmt-japan.com/news/pdf/2016_pamphlet. pdf)が作成され,都道府県の教育委員会などに 送付された.このようなパンフレットが活用さ れ,CMTに対する社会の理解が広がることが望 まれる.おわりに
CMTは基本的に生命予後に影響を与える疾 患ではないが,一部の例では生下時より重度の 障害を示す例もある.難治性疾患克服研究事業 CMT研 究 班 の 調 査 で は, 短 下 肢 装 具 使 用 31.4%, 長 下 肢 装 具 使 用 1.3%, 車 椅 子 使 用 12.6%,気管切開 1.0%,補助呼吸 1.1%であっ た.医療機関への定期的な受診(3~6カ月ごと) を促し,CMT患者への適切なフットケアや正し い装具療法・リハビリテーションの指導を行う ことは重要である.CMTの診療においては,他 の希少性神経難病と同様に医療者側が患者の訴 えに真摯に耳を傾けることが強く求められてい ることを強調したい.図5 CMT診療マニュアルの改訂・学校関係者向けのパンフレット作成 2010年の初版以来,5年ぶりにCMT診療マニュアルが改訂された(2015年12月1日発刊).改訂版では,遺伝 情報,外科療法,装具療法,外来診療のポイントなどがより充実した内容となっている.また,学校関係者向 けにCMTについて解説したパンフレット(http://www.cmt-japan.com/news/pdf/2016_pamphlet.pdf)が作 成され,都道府県の教育委員会などに送付された.このようなパンフレットが活用され,CMTに対する社会の 理解が広がることが望まれる. 図4 CMTPRの登録の手順 1)インターネットで「CMT 京都」または「cmt-japan」と入力し,検索 2)「京都府立医科大学大学院神経内科学教室 シャルコー・マリー・トゥース病…」 を選択してクリック 3)「CMTPR」をクリックすると登録画面が開く. 2016年3月末の時点で281名が利用登録し,188件のアンケート記入がある.
謝辞 本研究は,日本医療研究開発機構疾病対策課関 連事業(難治性疾患実用化研究)「シャルコー・マリー・ トゥース病の診療向上に関するエビデンスを構築する 研究」の補助を受けて行った.ご協力いただいた班員お よび研究協力者の皆様に深謝いたします. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献
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