博 士 ( 生 命 科 学 ) 佐 々 木 章
学位論文題名
Study on cellular incorporation of exogenous DNA and protein express10nby
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(螢光相関分光法を用いた外来DNA の細胞内導入と 遺伝子発現に関する研究)
学位論文内容の要旨
現 在、 外来DNAを 生体 に導入する遺伝子治療はがんやアルツハイマ ーなどの難治 性疾患の治療の1っとして研究が進められて いる。また、遺伝子導入技術は近年注目を 集めているiPS細胞作製の根幹を成す技術で もある。現在考えられている生体(細胞)
内への遺伝子導 入法は、ウイルス、人工ベクターのニっに分類される。ウイルスベクタ ーは遺伝子導入 効率が高いものの、免疫原性や副作用の存在が懸念されている。一方で 人工ベクターは 安全性の面では優れるものの、導入した遺伝子の発現効率が低いという 問題を抱えてい る。したがって、遺伝子の発現効率に優れる人工ベクターの開発が望ま れている。ベク ターによる遺伝子導入において、細胞膜(一般的にはエンドソーム)を 突 破し た外 来DNAは細 胞質 から核に移行する必要がある。効果的な発現 を実現する新 規 ベク ター 創製 のた めに は細胞内、特に細 胞質内でのDNAの動態を解明 する事が必要 であるが、現在 のところ未知な部分が多い。その原因のーっは生きた細胞内に導入され たDNAを 直接 観察 でき る手 法がなかったためであると考えられる。そこ で、本研究で は 、近 年細 胞内 での 分子 間相互作用などへ の利用が進んでいる螢光相関分光法(FCS) お よぴ 螢光 相互 相関 分光 法(FCCS)を 利用 する こと で、 細胞 内に 導入 され た外 来DNA の拡散、あるい は分解を直接観察することを目的として解析を行った。さらに、細胞内 に 導入 され た外 来DNAの量 と、発現するタンパク質の量を単一細胞レベ ルで定量する ことが可能なシ ステムを構築した。
第 二章 にお いて は、 細胞質内での外来DNAの動態に注目した。生細 胞に螢光標識 DNAを直 接導 入し 、細 胞質 内で の外 来DNAの拡 散の 様子を観察すること を試みた。導 入直後に細胞質 内でFCCS測定を行うと高い相互相関の振幅が観察され、 導入直後では 導 入し たDNAがイ ンタ クト であることが示された。しかし、導入45分後 に同一の細胞 をFCCS測定する と、相互相関の振幅はほとんど観察されなかった。それらの結果から、
導 入さ れたDNAは45分 程度 の短い時間で切断を受けていることが明らか になった。ま た 、導 入し たDNAおよ び分 解産物の拡散の遠さを細胞内で検出し、得ら れた拡散時間 ―1346―
の分布を解析することで分 解のメカニズムについて研究した。水溶液中における分解モ デ ルと 細胞 内で 観察 され た分解を併せて 考察した結果、細胞質内での外来DNA分解は 主に5 ・3 エキソヌクレアーゼによるものであると結論付けた。それと同時に、生細胞内 で 外来DNAを直 接観 察す る ことで分解の時空間的な情報を得ることに も成功した。さ ら に、 見出 され た分 解作 用が、導入され た外来DNAによる遺伝子発現 の効率に影響を 及 ぼす かど うか 評価 した 。導入する外来DNAの末端を処理し、エキソ ヌクレアーゼ耐 性 にし た場 合の 発現 効率 を未 処理 の場 合と 比較 する と、試験した4種の細胞(HeLa, COS7,MEFHEK293)の う ち3種 で は 有 意 に 発 現 が 上 昇 し た 。 特 に 、MEFに お い て は顕著な差が 見られた。一方で、HEK293細胞では末端処理の効果が見 られなかった。
これらの結果から、培養細 胞における遺伝子発現の際にエキソヌクレアーゼによる分解 がバリアーになっており、 さらに細胞種によってエキソヌクレアーゼ活性は異なるとい うことが明らかになった。
第三章に描いては、遺伝子導入量と発現量を1細胞レベルで解析する系を開発した。
通常の生化学的手法では、 多数の細胞を破砕することで細胞内のタンパク質などを抽出 し、解析を行うため、個々 の細胞聞の差が平均化されてしまう。そこで、単ー細胞から タンパク質を抽出して定量 することが可能なシステムの構築を試みた。単一細胞のタン パク質を定量するための手法と、して、マイクロ流体デバイス技術に注目した。この技術 を 用 い て 、 113ピ コ リ ッ ト ノ レ 体 積 を も つ マ イ ク ロ ウ ェ ル を PDMS (polydimethylsiloxane)のチップ上に形成するよう設計し、その中に 細胞を生やすこ とで単一細胞の単離を行い 、発現していた螢光タンパク質を溶出することに成功した。
さらに、このシステムの検 出系としてFCSを組み合わせ ることで、マイクロウェル内に ねいて単一細胞由来の螢光 分子を定量することが可能となった。解析の結果、トランス フ ェク ショ ン操 作で 培養 細胞に導入され るDNA分子の数はどの細胞で もほぽ一定であ り、観察される遺伝子発現 の強度分布はそれぞれの細胞における生理的な条件(細胞周 期 や 代 謝 の 活 性 な ど ) に よ っ て も た ら さ れ て い る と い う こ と が 示 唆 さ れ た 。 本 研究 にお いて 、遺 伝子導入の効率 は細胞内に入った外来DNAの 量よりも細胞内 での生理現象によって左右 されることが示された。遺伝子導入に対する細胞内のバリア ーの理解や新規のベクター 開発のために重要な新しい知見をもたらすものであると同時 に、遺伝子デリバリーや1細胞計測の分野における蛍光 相関分光法の有用性を示した点 についても意義あるものであると考えられる。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Study on cellular incorporation of exogenous DNA and protein expression by
●
uslngnuoreSCenCeCOrrelationSpeCtrOSCOpy
(螢光相関分光法を用いた外来DNA の細胞内導入と 遺伝子発現に関する研究)
近年、外来DNAを生体に導入する遺伝子治療は がんやアルツハイマーなどの難治性疾患 の治療の1っとして研究が進められている。また 、遺伝子導入技術は近年注目を集めてい るiPS細胞作製の根幹を成す技術でもある。現在 考えられている生体(細胞)内への遺伝 子導入法は、ウイル ス、人工ベクターのニっに分類される。ウイルスベクターは遺伝子導 入効率が高いものの 、免疫原性や副作用の存在が懸念されている。一方で人工ベクターは 安全性の面では優れるものの、導入した遺伝子の発現効率が低いという問題を抱えている。
したがって、遺伝子 の発現効率に優れる人工ベクターの開発が望まれている。ベクターに よる遺伝子導入にお いて、細胞膜(一般的にはエンドソーム)を突破した外 来DNAは細胞 質から核に移行する 必要がある。効果的な発現を実現する新規ベクター創製のためには細 胞内、特に細胞質内 でのDNAの動態を解明する事 が必要であるが、現在のところ未知な部 分が多い。その原因 のーっは生きた細胞内に導入されたDNAを直接観察できる手法がなか ったためであると考 えられる。そこで、本研究では、近年細胞内での分子間相互作用など 人 の 利 用 が 進 んで いる 螢 光相 関分 光法(FCS)お よび 螢 光相 互相 関分 光法(FCCS)を 利用 することで、細胞内 に導入された外来DNAの拡散 、あるいは分解を直接観察することを目 的として解析を行っ た。さらに、細胞内に導入された外来DNAの量と、発現するタンパク 質 の 量 を 単 一 細 胞 レ ベ ル で 定 量 す る こ と が 可 能 な シ ス テ ム を 構 築 し た 。 第二 章に おい ては 、細 胞質 内で の外 来DNAの動 態に 注目 した 。生 細 胞に螢光標識DNA を直接導入し、細胞 質内での外来DNAの拡散の様 子を観察することを試みた。導入直後に 細 胞質 内でFCCS測定 を行 うと 高い 相互 相 関の 振幅 が観 察さ れ、 導入 直後では導入し た DNAが イ ン タ ク トで ある こと が示 され た。 しか し、 導 入45分後 に同 一の 細胞 をFCCS測
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定すると、相互相関の 振幅はほとんど観察されなかった。それらの結果から、導入された DNAは45分 程度 の 短い 時間 で切 断を 受けていることが明らかになった 。また、導入した DNAおよぴ分解産物の拡散の遠さを細胞内で検出し 、得られた拡散時間の分布を解析する ことで分解のメカニズ ムにっいて研究した。水溶液中に韜ける分解モデルと細胞内で観察 された分解を併せて考 察した結果、細胞質内での外来DNA分解は主に5 ‐3 エキソヌク レアーゼによるもので あると結論付けた。それと同時に、生細胞内で外来DNA.を直接観察 することで分解の時空 間的な情報を得ることにも成功した。さらに、見出された分解作用 が、導入された外来DNAによる遺伝子発現の効率に 影響を及ばすかどうか評価した。導入 する外来DNAの末端を処理し、エキソヌクレアーゼ 耐性にした場合の発現効率を未処理の 場 合 と 比 較 す る と 、 試 験 し た4種 の 細 胞(HeLa,COS7,MEFHEK293)の う ち3種 で は 有 意に 発現 が上 昇し た。 特に 、MEFにおいては顕著な差が見られた。 一方で、HEK293細 胞では末端処理の効果 が見られなかった。これらの結果から、培養細胞における遺伝子発 現の際にエキソヌクレ アーゼによる分解がバリアーになっており、さらに細胞種によって エ キ ソ ヌ ク レ ア ー ゼ 活 性 は 異 な る と い う こ と が 明 ら か に な っ た 。 第三章においては、 遺伝子導入量と発現量を1細 胞レベルで解析する系を開発した。通 常の生化学的手法では 、多数の細胞を破砕することで細胞内のタンパク質などを抽出し、
解析を行うため、個々 の細胞間の差が平均化されてしまう。そこで、単一細胞からタンパ ク質を抽出して定量す ることが可能なシステムの構築を試みた。単一細胞のタンパク質を 定量するための手法と して、マイクロ流体デバイス技術に注目した。この技術を用いて、
113ピ コリ ット ル体 積 をも つマ イク ロウ ェル をPDMS(polydimethylsiloxane)の チッ プ 上に形成するよう設計 し、その中に細胞を生やすことで単一細胞の単離を行い、発現して いた螢光タンパク質を 溶出することに成功した。さらに、このシステムの検出系としてFCS を組み合わせることで 、マイクロウェル内において単一細胞由来の蛍光分子を定量するこ とが可能となった。解 析の結果、トランスフェクション操作で培養細胞に導入されるDNA 分子の数はどの細胞で もほぼ一定であり、観察される遺伝子発現の強度分布はそれぞれの 細胞における生理的な 条件(細胞周期や代謝の活性など)によってもたらされているとい うことが示唆された。
本研 究に おい て、 遺伝 子導 入の 効率は 細胞内に入った外来DNAの量 よりも細胞内での 生理現象によって左右 されることが示された。遺伝子導入に対する細胞内のバリアーの理 解や新規のベクター開 発のために重要た新しい知見をもたらすものであると同時に、遺伝 子デリバリーや1細胞計測の分野における螢光相関 分光法の有用性を示した点についても 意義あるものであると 考えられる。
よって著者は,北海道 大学博士(生命科学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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