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雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要

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障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた就学前 障害児教育の検討 −障害児教育教室「就学前障害 児治療教育教室」の取り組みを通して−

著者 田村 浩子, 田辺 正友

雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要

巻 2

ページ 105‑114

発行年 1993‑03‑31

その他のタイトル A Study of Education for Handicapped Infants with Refernce to Their Disabilities,

Developments and Life‑Conditions.

URL http://hdl.handle.net/10105/4462

(2)

障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた 就学前障害児教育の検討

一障害児教育教室「就学前障害児治療教育教室」の取り組みを通して一 田 村 浩 子*・ 田 辺 正 友

(障害児教育教室)

AStudyofEducationforHandicappedInfantswithReferncetoTheir Disabilities,DevelopmentsandLife−Conditions.

障害やそれをもたらす危険性のある疾病の早期発見と治療・訓練、早期療育などの対 応が、すべての乳幼児のすこやかな発達を保障していく上で重要であることは広く認め

られてきたところである。本研究では、本学障害児教育教室が実施している「就学前障 害児治療教育教室」での実践を教育臨床的観点から分析し、障害・発達・生活的諸傾向 性に視点をあてた療育のあり方、および、教育臨床の系統化について検討を試みた。

Keyword 就学前障害児教育、障害・発達 I はじめに

障害児教育の場において、近年、教育対象となる子どもたちの障害が重度化し、多様化していく 状況にあって、子どもたちの発達を基盤から掘り起こし、高めていくために、ますます、一人ひと りのこどもの障害、発達、さらには生活的諸傾向性などを総合的に把握し、それに基づく教育計画 を確立することが重要な課題となってきている。本研究は、本学障害児教育教室が実施している

「就学前障害児治療教育教室」での実践を教育臨床的観点から分析し、障害・発達・生活的渚傾向 性に視点をあてた療育のあり方、および教育臨床の系統化についての検討を試みるものである。

今年(1992年)は、国際障害者年のテーマである、障害をもっ全ての人々の社会への「完全参加 と平等」を実現させるために国連が設定した「国連・障害者の10年」の最終年にあたる。国連の

「国際障害者年行動計画」でも、障害の発生予防およびリハビリテーション事業は実質的な課題と され、障害やそれをもたらす危険性のある疾病の早期発見と治療・訓練、早期療育などの対応の重 要性が増している。早期対応は、そのこどもが将来にわたってどのように発達していくかという基 本的な問題に関わる重要な意味を持っている。最近の医学、心理学、教育学等の諸科学の発展の中 で、障害を早期に予知・発見し、乳幼児期からの治療、リハビリテーション、保育・教育を適切に 保障すれば二次的障害や障害そのものの軽減・克服さらには、就学後のより豊かな人格形成の基礎

となる諸能力の獲得を可能にすることが明らかにされている。

この10数年あまりの問に、障害の予知、早期発見の技術および健診制度は除々に整備されてきた。

療育・保育の場も増えてきている。しかし、一方で、就学前障害児の療育や保育・教育の保障は、

学齢期のように制度的に保障されていないといった問題がある。障害乳幼児に対する国の制度が貧 弱で、各々の地域・自治体にまかされているため、住んでいる地域によって利用できる施策に大き

* 非常勤講師

(3)

な差が生じている。それだけでなく、障害種別や程度による格差、年齢による格差など、いくつも の格差が重層的に存在している現状にある。

障害乳幼児の就学前療育・保育・教育は、地域の実情に応じて多様な場で進められている(障害 児学校幼稚部、各種通園施設・通園事業、幼稚園・保育園など)。しかし、多様にある就学前障害 児教育の場は、こどもの障害や発達、生活的諸傾向性に応じた教育をすすめていく上では、十分な 財政的裏付けがなく、人的にも物的にもそれぞれ不十分な教育条件におかれている。適切で豊かな 内容を備えた「多様性」ではなく、いってみれば「貧困の中の多様性」といった現状であるといえ る。就学前障害児教育は、教育の新しい分野であり、就学前障害児教育に関わる制度・行政のあり 方や教育の内容・方法など、その基本に関わる事項について、これからつくりあげていかなければ ならない課題や早急に解決すべき多くの問題を抱えている。全ての障害乳幼児のすこやかな発達の 実現をめざして、研究、運動、実践をさらに発展させていかねばならない。

Ⅱ 本学「就学前治療教育教室」における療育活動(1989年4月〜現在)

1.治療教育教室の運営

本学治療教育教室は、就学前障害幼児を対象とする。発達診断・療育活動および保護者、教 育関係者への教育相談・助言活動を実施しつつ、障害児の治療教育についての理論的・実践的 研究およびそれを通じての学生指導を行う。

① 療育活動  過1回、1時間半の療育および保護者への各種相談・面談活動。スタッフは、

障害児教育教室教官(非常勤講師を含む)と特別専攻科学生(1992年度以前は臨養課程学 生)。

② 発達診断活動  療育活動とは別に、教官が個別に発達診断活動を実施する。原則として年 間2〜3回実施。

③ 治療教育教室修了児の就学後のフォロー ・年間3〜4回の行事の実施(総会、プール、

ハイキング、クリスマス会等)・定期的な発達診断活動と保護者、教師への相談・助言活 動。

④ その他の活動  遠方のため定期的な療育活動に参加困難な場合には、定期的な発達診断お よび相談・助言活動を実施。

2.教室参加児

教室参加児の内訳はTablelに示した。

3.療育実践内容

年間プログラムおよび一日のプログラムの流れをTable2−1,2−2に示した。

4.療育活動・実践の原則一療育の場においてこども達との関わりでたいせっにしていること。

子どもを「みる目」

「療育・教育において子どもを理解することと、実践を創造的にきりひらくこととは密接不可分

な関係にある」。自分の目の前の子どもを自らの目で見つめ、子どもの現実の姿から学ぶという姿

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障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた就学前障害児教育の検討

Ta bl e l 教室参加児

氏 名   性 別 生 年 月 日 障       害 在教 室 期 間 発   達   段   階 ( 注 1 ) 療 育 ・保 育 機 関

( 注 2 ) 備   考 1989    19 9 0    19 9 1  19 92

M .K .   女 198 3 . 12 . 2 0 D o w n 症 候 群 19 89 .4 〜 19 90 .3 1 可 通 園 事 業 ・幼 稚 園

Y .I . 女 198 4 . 10 . 3 1 W est症 候 群 19 89 .4 〜 19 9 1.3 示 2 可   示 3 形 通 園 事 業 ・保育 所 独 歩 (一 一 一)

K . W .   男 1 98 5.8 . 1 9 精 神 発 達 遅 滞 198 9 . 4 〜 199 0 . 3 1 可 保 育 所 転 居 T ,0 . 男 1 98 5. 11 , 13 精 神 発 達 遅 滞 198 9 . 4 〜 199 2 . 3 1 可   1 可     2 形 通 園 事 業 ・幼 稚 園

K .S . 男 1 98 6 .7 , 2 7 自閉 性 障 害 19 89 , 4 〜 現 在 1 可   l 可     2 形     2 可 通 園 事 業 ・幼 稚 国

T .K . 男 198 7 . 12 . 3 0 R ey e症 候 群 19 89 . 4 〜 現 在 回 3 形   示 1 可   示 3 形 通 園 施 設 定 け い ト一 一 一 ) T .H . 男 1 986 .8 . 2 2 自閉性 障 害 198 9 . 4 〜 現 在 示 1 形   示 1 形   示 1 可 通 園 施 設

M .S . 女 1 98 6. 11.7 精 神 発 達 遅 滞 198 9 . 4 〜 現 在 1 可     2 形     2 形 幼 稚 園 D .K . 男 1 98 4.9 . 1 9 D o W n 症 候 群 199 0 、 4 〜 199 1. 3 2 形 幼 稚 園

R .M . 男 198 8 .6 . 2 1 自閉 性 障 害 19 9 1.4 〜 19 92 .3 示 3 形 通 園事 業 転 居 T .E . 男 1 98 8.7 .1 自閉 性 障 害 19 9 1. 4 〜 現 在 1 形     1 可 通 回 事 業

T .N . 男 1 98 6.8 . 16 自閉 性 障 害 19 92 . 4 〜 現 在 1 可 通 園 事 業 ・保 育 所 Y .N . 女 1 98 9 .9 , 2 6 D o w n 症 候 群 19 92 . 4 〜 現 在 1 形 保 育 所

S .M . 男 198 9 . 11 .5 自閉 性 障 害 19 92 . 4 〜 現 在 示 3 形

注1)回転3形:回転軸3形成期、示1形:示性数1形成期、示1可:示性数1可逆操作期、示2形:示性数 2形成期、示2可:示性数2可逆操作期、示3形:示性数3形成期、示3可:示性数3可逆操作期、1 形:1次元形成期、1可:1次元可逆操作期、2形:2次元形成期、2可:2次元可逆操作期 注2)通園事業:心身障害児通園事業、通園施設:心身障害児通園施設

Ta bl e 2−1 年間プログラム

時期 プログラム 場所 行事

前期   4 月 5 月 6 月

先生、友だちを知 ろう/場所に慣れよう

′ ′

からだを思いっきり動かして遊ぼう

療育教室 戸外 ( 学内)

障害児学級体育館

プール遊び

7 月 砂や水で遊ぼう 戸外( 療育教室前)

8 月 ( 夏休み) 小学校プール

9 月 ( 発達診断) 療育教室

後期 10 月 自然のなかで遊ぼう 奈良公園飛火野

クリスマス会

おわかれ会 11月 全身を使った運動遊びを楽 しもう 障害児学級体育館

12月 クリスマスを楽 しもう 療育教室

′ ′

′ ′

〝 1 月

2 月 3 月

描いたり、作ったりして遊ぼう

′ ′

( 発達診断)

(5)

Ta bl e 2−2 1日のプログラムの流れ 子どもの主な活動

:1:15 3:20

3:30 4:30 4:15 4:25

◆来室

・シール貼り、カード入れ、かばんかけ

◆自由遊び

・おもちゃ、トランポリン、すべり台で遊ぶなど

◆かたずけ

◆始まりの集い

・あいさつ「元気ですか」

・手遊び

◆設定保育

◆おやつ

◆お話をきく(絵本)

◆終わりの集い

・カード返し

・あいさつ「さようなら」

勢を持って、子どもたちをとりまく実状をしっかりと押さえ、「この子には今どういう働きかけや 環境設定が必要なのか」といった実践の課題を明らかにしていくことをたいせつにする。特に障害 児教育では、子どもが示す発達的力量やその様相が複雑・多様であるので、しっかりと見つめる目 が必要である。

1.子どもが示している行動をいまもっている力/育ちつつある力として評価する日

子どもたちが示している行動を、いまもっている力、育ちっっある力として評価し、その力を土 台として日々の教育的かかわりの中で、より多様な力へと導いていけないだろうかといった視点に 立って、子どもの見方を変えていくことをたいせつにする。そこから新しい療育・教育の手だてが 作り出されていくことになる。「困った行動」、「問題行動」と否定的にとらえて、「むやみに禁止す る」あるいは「放っておく」といった否定的あるいは無視といった見方・関わり方においては、そ こからはなんら新しいものは生まれてこない。また、子どもの伸びる力を押さえ、発達の幅をせば めてしまうといった結果を招くことになりかねない。

2.もっている力/獲得している力をどういう活動で、どういう対象に向けて発揮しているか、ど

ういう質の弱さがあるのかを日常生活における子どもの行動について細かく検討する目

まず、相手との関係で共感し、活動の結果を共有していく力になっているかの検討。身近な人の

行為や操作しているモノに気持ちを向け、自分もやってみようとする要求が育ってきているか、ま

た、「やりきろう」、「やり直そう」といった目標やイメージをもっ力が育ってきているかを細かく

吟味する。さらには、一つひとつの行動を単発的な結果としてとらえるのではなく、その意図や文

脈を含めた全体の流れでとらえなおしてみることをたいせつにする。そして、子どもの示す行動や

ことばを「特異」とみるのでなく、子どもがそれらを使って何をしようといているのかといったこ

との吟味へとつなげる。

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障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた就学前障害児教育の検討

3.同じようにみえる子どもの姿の中に、ごくわずかな変化をみる目、発達の芽をみる目

障害をもつ子どもの発達はゆっくりしたものである。目にみえてぐんぐん変わっていくというこ とが少ない。そのため、一生懸命とりくんでいるのに変わらないようにみえることがある。同じよ うにみえる子どもの中に、ごくわずかな変化をみる力が必要とされる。

4.日でみてわかりやすい/気付かれやすい変化や顕在化している行動にだけ目を奪われないで、

全体をみる日

子どもの行動の変化をみるとき、どうしても一面的になりがちである。運動性の発達とかことば といったように目でみてわかりやすい、あるいは、気づかれやすい変化や気になる行動にだけ目が いってしまうといったことが多い。子どもの行動の変化を発達的にみていくためには、運動、こと ばといった発達の一つの領域・機能にのみ目をとめるのではなく、全体的にみることがたいせつで ある。

子どもを「育てる目」

昨今の教育が、あまりにも子どもの要求不在のところから出発し、「教える」ことだけが一人歩 きしてはいないだろうか。「発達の坂道は子ども自身がのぼっていく」。発達は、子ども自身がひと・

モノといった外界に働きかけて自ら新しい行動を獲得していく過程である。それ故に、ことば、運 動といったある力を使って、子ども自身の生活世界をどう拡げていくのか、つまり、<生きて働く 力>に高めていくためには、何が必要かといったことまで押さえていくことをたいせつにする。ど

ういう条件や働きかけの中で子ども自身のものになっていくのかといった視点に立っての検討が必 要である。

1.子どもの変わる糸口は子どもの生活の中にある

障害の有無にかかわらず、子どもが発達の質的転換をとげていくすじ通は共通している。しかし、

一人ひとりの子どもは個性的な発達を実現していく。子どもの生活そのものに着目する中で、一人 ひとりのその子なりの自己表現のあり方に共感することがたいせっにされなければならない。共感 関係の中から指導者と子どもの信頼関係、対人的コミュニケーションが育ってくる。そして、コミュ

ニケーションのあるところに療育・教育が始まる。さらには、日常生活の中で子どもの興味・関心 のある活動・遊びを土台として、指導者が、その遊びや活動を目的性をもったものへと高めていく、

あるいは、人との関係で意味性をもったものへと展開させていくといった取り組みが創造されねば ならない。

2.獲得している力を、さまざまな人間関係や条件の中で、その使い方を拡げる/変えてみるといっ た活動を通して、より確かな力にしていく目

教育実践の目標としての教育課題として、発達段階の「次の課題」に働きかけるだけでなく、

「いまの段階の力」、「いま獲得している力」の充実に向けてゆっくりと十分に働きかけることをた いせつにする。つぎつぎと新しい力の獲得をめざして焦るのではなく、いまもっている力を使って、

さまざまな人間関係や条件の中で、その使い方を拡げる、変えてみるなどで、その力をより確かに

自分自身のものにしていくといった取り組みがたいせつにされなければならない。そして、こうし

た量的蓄積、拡大、充実が新しい力の獲得、つまり、質的転換へと向かわせる基盤になっていくの

(7)

である。

3.子どもの外にあらわれている行動の意味・背景を考えてかかわる目

一人ひとりの子どもを理解し、そこから、教育的なかかわり、働きかけの内容と方法を創造して いくためには、子どもの外にあらわれている行動の諸事実を単発的な結果として把握しているだけ では不十分であって、子どものあれこれの行動が「なぜ」、「どのようにして」生じてくるのか、そ の行動が発達に立ち向かいっつある本人にとってどういう意味をもつ行動であるかについての検討 が必要である。つまり、子どもたちが示す貝体的な行動の事実を通して、その行動の意味・背景を 把握するといったことをたいせっにする。

4.障害によるある種の傾向性とその発達変容に視点をあてた取り組みを創造する目

障害がちがっても、ある力の獲得を促す取り組みには共通性がある。と同時に、障害のちがいに よっては取り組みの独自性が創造されなければならない。

Ⅲ 障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた実践研究 事例研究 「低血糖症による精神発達遅滞児の発達過程と療育」

目 的

筆者らは、これまでに療育あるいは教育相談活動でのかかわりをとおして得られた自閉性障害児 の記録を、その間随時実施した種々の発達検査結果や生活実態とも関連づけて分析する作業をとお して、それぞれの子どもたちの質的な発達変容の姿を跡づけ、そこから各々の時期における療育・

2)     3)  4)

教育の問題について検討した試みについて報告してきた(岡本ら1988;田村ら1991a,1991b;田辺

ここ

ら1990)。障害の種別はちがっても、ことばや運動といったある力の獲得を促す取り組みには共通 性がある。と同時に、障害のちがいによっては取り組みの独自性が創造されなければならない。障 害によるある種の傾向性の把握と、なぜそのような傾向性が引き起こされ、何がそれを変容させて いく原動力になっていくのかといった発達的理解をすすめる視点に立って、療育・教育の手だてを 創造していくことが必要である。

膵島細胞腫瘍は、臨床的には、腫瘍細胞からインスリン過剰分泌による自発性低血糖症に基づく 多様な症状を示す。臨床症状としては、精神神経症状(意識喪失、動作緩慢・脱力・視力障害・け

いれんなど)、低血糖発作の一過性麻痺、消化器症状(空腹感・嘔吐など)がみられる。低血糖発 作時の症状の大部分は、中枢神経系の障害に基づくものであるとされている。膵島細胞腫瘍は、比 較的稀な疾患とされているが、近年、その特徴ある病態が広く認識され、また各種ホルモンの免疫 学的測定法の進歩にともなって次第にその報告例が増加している。わが国の統計では、発症年齢は 4カ月から85歳までの報告があり、全年齢層にわたって発症が認められたが、10歳以下の症例は数

1)

例に過ぎない。日本消化器外科学会のアンケート調査結果(中村ら1983)でも0〜9歳の症例は6 例であった。

本研究は、筆者らが療育活動でかかわっている、ひとりの膵島細胞腫瘍によって惹起された低血

糖症による精神発達遅滞児の発達年齢1歳半頃から3歳頃の発達における傾向性(特徴・問題)と

その発達変容を明らかにし、そこから本児の疾患に起因すると考えられる行動・活動上の問題の軽

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障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた就学前障害児教育の検討

滅・克服に視点をあてた療育のあり方について考察することを目的としてなされたfollow−up studyである。

方 法

対象児  本児は就学前障害児治療教育教室での過1回、1時間半の療育に1989年4月(CA3:

5)から参加している。本児は、膵島細胞腫瘍によって惹起された低血糖症による精神発達遅滞児 である。1985年11月13日生まれ、6歳4カ月の男児。家族構成は父、母、姉、祖父、祖母。Table

3に本児の生育歴を示した。

分析資料・手続 本研究での分析資料は、主として、次の二つの方法によった。

1.療育場面における参加観察 本児の3歳5カ月から6歳4カ月の3年間の療育活動をとおし て得られた行動観察記録によってその発達過程を分析した。療育場面での行動観察記録は記述法に より、2名の担当者(主任担当者と担当学生)が個別に行った。そして、毎回の療育終了後および 原則として月1回のケース検討会議で討議し、さらに、写真、ビデオ撮影を行った。

2.発達検査結果・実験的観察課題 本児の発達の状況を知るためにTable4に示すとおり適宜 新版K式発達検査を実施した。また、療育場面における参加観察結果から、特に本児において問

Ta bl e 3 T.0児の生育歴

周 産 期 新 生 児 期 乳 ・幼 児 期

・切 迫 流 産 (7 カ月 ) ・生 後 2 週 間 は、 母 乳 を ・定 頸 0 :9              ね が え り 1 :0        坐 位 1 :0

・早 産 (9 カ月 ) 哺 乳 瓶 で 授 乳 、 そ れ はい はい 1 :10          片 手 支 え歩 き 2 :0    始 歩 2 :3

・生 下 時 体 重   3, 4 68 g 以 後 は経 管 摂 取 指 さ し 1 :6 〜 1 :8    ノ ヾイ ノ ヾイ摸 倣 2 :6    初 語 2 :6

・出 生 直 後 ・ 0 : 1 膵 島 細 胞 腫 瘍 ・ 1 歳 頃 ま で 1 日 4 〜 5 回 嘔 吐 、 加 齢 と と もに 減 少

チ ア ノ ーゼ で 膵 亜 全 摘 出 手 術 ・ 1 :9  低 血 糖 検 査 お よ び 治療 入 院   そ れ 以 後 、 同 検 査 ・治 療 入 院 低 血 糖 け いれ ん 頻 発 ・生 後 3 カ月 間 、 点 滴 の 6 回   低 血 糖 に よ る け い れ ん発 作 3 〜 4 回

・奈 良 県 立 N 病院 で 出産、 た め に ベ ッ ドに固 定、 ・4 :0 頃   て ん か ん発 作 ( 大 発 作 )、 覚 醒 直 後 、 こ れ ま で 発 作 5 回 生 後 20 日 目に 大 阪 市 生 後 4 カ月 間 、 新 生 ( 最 近 で は 6 :0 時 ) 、 発作 後 と くに 左側 全 身麻 痺 、現 在 、 ル ミナ ー ル 、 立 0 小児 保健 セ ンター 児 室 ア レ ビ アチ ン、 デ パ ケ ン服 薬

へ 転 院 ・C T スキ ャ ン   けい れ ・療 育 ・保育 歴

ん によ る脳 萎 縮 3 :5 〜   K 市 心 身 障害 児通 園 事業 M 学 園 通 園 3 :5 〜   N 教 育 大 学 治 療 教 育 教 室 参 加 4 :5 〜   K 市 公 立 幼 稚 園 入 園

Ta bl e 4 新版K式発達検査結果

実施日   C A 全 領 域 姿勢・運動 認知・適応 言語・社会 D A

1989.11  4:0    2:3   1:8    2:2    2:8

1990.5   4:6    2:6    2:4    2:3    2:11

1990.10   4:11   2:8    2:4    2:5    3:1

1991.4   5:5    2:10    2:4    2:5    3:4

1991.12   6:1   3:4    2:11   2:11   3:9

(9)

題になると考えられる課題一運動発達課題、身体運動模倣課題、手指の操作性課題、ボディ・イメー ジの形成にかかわる課題一について実験的観察課題を設定した。さらに、本児の日常生活場面の様 子を母親から事情聴取した。

結果と考察

上記分析結果から、本児の3年間の発達過程をその質的な変容に着目して以下の3期に時期区分 した。

1.第I期(1989.4〜1990.2、CA3:5〜4:3)

本児は、膵島細胞腫瘍という疾患のために手術を受け、生後3カ月間ベッドに両上下肢を固定さ れたまま点滴を受け、また、生後2過めより経管からの栄養摂取となり、現在も主たる栄養は経管 摂取にたよっている。この点について現段階では、インスリン過剰による食欲減退か、中枢神経系 障害によるものか明らかではないが、意欲の高まりとともに経口摂食が可能であるとの診断のもと に摂食訓練が実施されている。しかし、この時期、血糖値が定まらず不安定なため、母親によって 血糖値の管理がなされ、生命を守るために本児の意志とは無関係に栄養補給しており、本児が「食 べたい」という要求を生み出していくだけの矛盾を日常生活の中でつくることが困難な状況であっ た。

この時期、認識面での発達的力量としては1歳半の力を獲得しているが、本教室通室当初は、新 しい場所や母子分離に対する不安が強く、入室時に泣く、嘔吐するという状態を示した。これは、

出生後、重篤な疾患をもっということで、常に家族の誰かが一緒で、ひとりで活動することがなかっ たことと関連するものと考えられる。療育においては、母親との関係を軸に指導者とかかわりをも ち、本児が興味、関心を示す遊びをてがかりに本児の「したい」という要求を大切にして遊びを展 開させることを課題とした。そして、本児の興味ある三輪車の遊びでは、母親のことばの支えや母 親の姿がみえている状況では、指導者と活動を共有する力量を発揮した。しかし、本児の疾患その ものおよび疾患から派生してくる生活上の制限の問題との関連が考えられる全身を使った運動、手 指を使った道具的遊びでは受け身的な参加であった。

2.第Ⅱ期(1990.3〜1991.3、CA4:4〜5:3) この時期の4月より幼稚園に母子通園を始める。

低血糖症の問題は少しずっ改善されてきており、療育場面で母親が血糖値の管理をすることはなく なった。しかし、新たに、てんかん発作(大発作)の問題が生じてくる。本教室では、「食べる」

ことの自立にむけて、場の共有を目的としてプログラムにおやつの時間を設定した。家庭でも、食 事の時間は家族と同じように本児の食事を用意し、食卓につくという取り組みが行われた。口の中

で溶けやすい菓子は、口に入れる姿が散見され始めるが、「噛む」、「囁下する」行為を自発的に行 うことはみられなかった。

一方、場の共有により、食事のあいさつをする、スプーンを配るなどの役割を楽しみ、対人的交 流活動において拡がりをみせる。そして、対人的交流活動をとおして、したいという要求を拡げ、

苦手な運動や手指を使った活動にも指導者の支えを必要とするが、他児の行動をみて活動に参加し ていく。しかし、要求を実現させていく中で、運動機能、手指の操作性機能の弱さの問題が明らか になり始めてくる。この時期の発達診断結果とも合わせて検討してみると、ボディ・イメージの不 確かさや空間認知・構成の弱さといった問題、つまり、「知覚一運動障害」といった高次神経活動

のメカニズムにかかわる問題が顕在化してくる。

3.第Ⅲ期(1991.4〜1991.12、CA5:4〜現在)

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障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた就学前障害児教育の検討

療育場面では、他児・者を意識して自分を主張し、自分のつもりを行使する姿が多くみられ、こ うした自分のつもりを行使する中で、徐々に自分と自分を取りまく外界とのかかわりを認識し、外 界にかかわる主体としての自我を充実させていっている時期と推察される。この時期は、自ら他児・

者に要求を表現することによって、ひとつ一つ要求を現実のものにし、達成感、満足感を味あわさ せることを大切に療育を行った。

言語、・認識面での発達では、単発的応答からことばで一定の意味ある世界を相手と共有したり、

視覚的手がかりによる対の関係概念把握が確かになる。一方で、第I・Ⅱ期より指摘している「知 覚一運動障害」にかかわる問題が、この時期に実施した実験的観察課題の結果からも明確化する。

この点に関しては、乳児期のボディ・イメージを育む活動の弱さ、経[]摂食の経験の乏しさとの関 連をも示唆するものであり、今後のさらなる検討が必要である。「知覚一運動障害」といった問題

は、今後、知覚運動がより巧緻性を加え、それを身体の運動として洗練された形態として発現させ ていく発達年齢4歳半頃に、より問題が明確化してくることが予見される。今後、こうした問題と 疾患との関連性で障害機制を明らかにしていくとともに、教育活動、家庭生活をとおして、弱さの 軽減・克服に視点をあてた取り組みの工夫が必要とされる。

IV おわりに

障害児学校幼稚部、保育所・幼稚園、各種専門機関・施設それぞれに実践上の特色をもっている。

それらが連携しあいながら、すべての障害乳幼児の発達をゆたかに保障していけるようにしていか なければならない。各種通園施設・事業での療育活動が、乳幼児健診・相談活動とも連携しながら、

保育所や幼稚園での障害児保育と密接に関連し、就学まで一貫した療育を展開するといった乳幼児 期からの系統的で総合性のある取り組みが追求されなければならない。療育に関わる重要な課題と して、今日、療育の系統性と総合性を志向する療育システム論が展開されている。とくに、就学前 障害児の療育システムにおいては、治療や訓練が保育と結合して実現できるような条件が必要にな

ると考えられる。そうした点においても、本学障害児教育教室でも1973年から概算要求している附 属「障害児治療教育センター」構想の実現に向けて努力を続けていかなければならない。

障害・発達・生活的諸傾向性に視点をあてた科学的な障害児教育を創造する課題は、すべての障 害児教育関係者の負っている課題といえる。障害によるある種の傾向性の把握と、なぜそのような 傾向性が引き起こされ、何がそれを変化させる原動力になっていくのかといった発達的理解をすす める視点にたって、療育・教育の手だてを創造していく必要がある。そして、今日、それぞれの療 育・教育の場で日々展開されている教育実践を個別性の中に解消してしまうのではなく、そこに共 通性、法則性を見つけだし、それを普遍化していくといった作業が強く求められている。

Ⅴ 引用文献

1)中村卓次・笹野伸昭・黒田慧(編) 膵島細胞腫瘍 医学図書出版1983.

2)岡本杜・田村浩子・田辺正友 自閉性障害児の発達 障害者問題研究、54,59−67,1988.

3)田村浩子・田辺正友 自閉症候群児の発達 日本特殊教育学会第29回大会発表論文集、352−

353,1991a.

4)田辺浩子・田辺正友 ひとりの自閉症候群児の描画表現発達 障害者問題研究、67,76−86,

(11)

1991b.

5)田村正友・茶谷和子 ひとりの自閉症候群児の「問題行動の変容」 奈良教育大学紀要、39(1),

143−154,1990.

参照

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