奈良市におけるLD通級指導教室の現状と指導の展開
著者 今西 満子, 玉村 公二彦
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 19
ページ 167‑172
発行年 2010‑03‑31
その他のタイトル Education Program of Resource Room for
Students with Learning Disability in Nara City
URL http://hdl.handle.net/10105/2976
1.問題の所在
2007年度より特別支援教育が本格的に開始された。
通常学校・学級においても「教育上特別の支援を必要 とする幼児、児童及び生徒に対し、…障害による学習 上又は生活上の困難を克服するための教育を行うもの とする」(学校教育法第81条第1項)と規定され、特に 学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高 機能自閉症などの「発達障害」に対して教育的支援を 提供することが求められてきた。学校現場では、特別 支援教育コーディネーターの配置、校内委員会の設置、
個別の指導計画の作成などが実施されつつあるが、し かし、通常学校における特別支援教育のための支援資 源は十分とはいえない。通常学校における特別支援教 育推進にあたって重要な位置を占めるものが、通級指 導教室である。この通級指導教室は、1993年度より制 度化されたものであるが、特別支援教育の本格実施に 先立つ2006年度より、新たに学習障害者、注意欠陥多 動性障害者をも通級指導の対象とすることなった1)。 通級指導教室の対象の拡大に伴って、全国的にはこの 通級指導教室の設置の促進と拡充が大きな課題となっ ているが、全国的に若干の新たな通級指導教室の設置
がみられている。
奈良市における特別支援教育の準備と推進に関して は、2004年度から「特別支援教育コーディネーター」
養成を市独自で行いつつ、特別支援教育の体制整備が 進められてきた。さらに、2004年度に市独自のプラン を検討するために、「奈良市特別支援教育検討委員会」
が設置された。この委員会の活動と関連して、保護者 や教職員向けリーフレットの作成・配布、「特別支援 教育推進モデル校」での研究などがおこなわれた。こ の検討委員会は、2005年度に「奈良市の特別支援教育 の在り方について(最終報告)」をまとめ、奈良市に おける特別支援教育の推進のためのあり方を示した。
さらに、2006年度からは「奈良市特別支援教育推進委 員会」が設置され、検討委員会の最終報告をもとに、
「特別支援教育推進モデル校」においても研究実践が 進められるとともに、具体的な取り組みについて検討 が行われてきた。こうして、2007年度の特別支援教育 の本格実施の準備作業を継続してきた。この過程の中 で、従来の奈良市に設置されていた通級指導教室の役割 の重要性が再度確認され、その拡充が図られていく2)。
奈良市における通級指導教室は、言語障害通級指導 教室である「ことばの教室」が3教室(済美小学校・
今西満子
(奈良市立鳥見小学校)
玉村公二彦
(奈良教育大学)
Education Program of Resource Room for Students with Learning Disability in Nara City
Mitsuko IMANISHI
(Trimi Elementary School)
Kunihiko TAMAMURA
(Nara University of Education)
要旨:通常学校における特別支援教育推進にあたって重要な位置を占めるものが、通級指導教室である。この通級
指導教室は、1993年度より制度化されたものであるが、特別支援教育の本格実施に先立つ2006年度より、新たに学 習障害者、注意欠陥多動性障害者をも通級指導の対象とすることなった。奈良市における学習障害(LD)等の通級 指導の場として新たに設置された通級指導教室の設置経過とそこでの指導の展開について報告するとともに、今後 の学習障害(LD)等の指導体制の充実のための検討課題を提示した。キーワード:学習障害 Learning Disability
通級指導教室 Resource Room 特別支援教育 Special Support Educationあやめ池小学校・鳥見小学校)、難聴通級指導教室で ある「きこえの教室」が1教室(椿井小学校)、それ ぞれ設置されていた。ことばの教室でも、学習障害
(以下、LD)、注意欠陥多動性障害(以下、ADHD)、
高機能自閉症等の傾向がある子どもの相談が増えてき ていた。通級指導教室がこのような子どもたちの指導 の場として大きな役割を果たしており、文部科学省に おいても通級指導の対象として明確にしたことも動因 となって、LD等のための通級指導教室が新たに設置 された(鳥見小学校)。
本報告では、LD等の通級指導の場として新たに設 置された通級指導教室の設置経過とそこでの指導の展 開について報告するとともに、奈良市における今後の 学習障害等の指導体制の充実のための検討課題を提示 するものである。
2.通級指導教室の設置の経過とその概要
LD通級指導教室の設置された小学校は、奈良市北 西部の丘陵地にあり、全校児童490名の中規模校であ る。奈良市の中では早くから特別支援教育の模索を行 ってきた学校であるが、2003年度、通常学級を中心と して、「教育的ニーズのある児童の実態調査」が行わ れ、結果として22名の児童が何らかの支援を必要とし ていることが明らかになった。そこで、2004年度から 2 年間、奈良市特別支援教育推進モデル事業を受け、
仮称:特別支援教室(以下ステップルーム)が開設さ れ、LD通級指導教室へと発展していくこととなった。
2.1.特別支援学級の弾力的運用としてのステップ ルームの実践
ステップルームは、特別支援学級と特別支援教室の 総称である。特別支援学級の弾力的な運用として、異 年齢集団を基盤に生活単元学習や課題別学習など課題 が重なる児童(特別支援学級在籍19名・通常学級籍抽 出12名、いずれも2004年度)がともに学ぶ教室のこと である。カリキュラムは、特別支援学級と通常学級 別々にあるが、時間割を工夫することで成り立ってい る。
通常学級からの抽出は、本人と保護者の希望により、
前年度の2月に校内委員会で決定するという、独自の 自校通級指導システムをとっていった。
ステップルームは、様々な課題が原因でつまずきを 抱えた児童の居場所となることを目的とした。そして、
学力補充を念頭におきつつも、毎日元気に登校するこ とを優先した。また、教師からの注意を受け入れられ る力量を育てることにした。そのためには、まず社会 性を身につけさせることが、つまずきを抱えた児童の
「生きにくさ」の改善につながるのではないかと考え た。そこで、この取り組みの中心に据えたのが、自立
活動の「ソーシャルスキルトレーニング」3)である。
奈良教育大学特別支援教育研究センターとの連携のも と、その指導方法や評価の研究を重ねてきた。2006年 度には、LD等の通級指導担当として加配がなされ、
特別支援学級の弾力的な運用等様々な研究を行い、
2008年度、奈良市LD等の通級指導教室(以下ステッ プ教室)が設置されるに至った。
2.2.LD等の通級指導教室 (ステップ教室) の概要
前述のステップルームの研究をもとに、奈良県初の LD等の通級指導教室が、奈良市にステップ教室とい う名称で新設され、教員が1名配置された。この教室への通級者は、奈良市の就学指導委員会に おいて決定される。2009年度は、他校の児童12名、自 校の児童15名、計27名が通級している。
通級範囲は奈良市全域の小学校(48校)であり、教 育相談は、小・中学校を対象に行っている。今年度は、
遠方から1時間半かけて相談に訪れるケースや中学生 からの相談も継続的にある。しかしながら、ステップ 教室の担当の教員は一人で、児童・生徒・保護者の課 題を全てステップ教室で担えるはずがない。また、特 別支援教育の根本的な目的は、通常学級で適切な支援 を受けることであると思われる。
このような現状から、教室の役割は、個々の児童が、
在籍校において適切な支援が受けられるように、児 童・保護者・担任をサポートすることとしている。ス テップ教室では、次のようなことを「LD等の通級指 導教室の役割」として掲げている。
「児童が元気と自信を取り戻すために、つまずき の原因を克服・改善できるよう児童・保護者・担任 を支援する。また、児童の認知の特性を分析し、具 体的な支援方法を在籍校に提案する」
3.通級指導の内容(自立活動)
4)3.1.ソーシャルスキルトレーニング
① グループ分け
生活年齢を基本に初級・中級・上級の3コースの指 導項目を設定している。2009年度は、このコースをも とに5グループに分けた。各グループは、相乗効果が 得られる混成グループで4〜7名で構成している。し かし、実生活でのエピソードを収集し臨機応変に対応 するために、メンバーは、その日の題材(エピソード)
によって柔軟に編成することもある。
② エピソード情報収集
毎回、担任と保護者に指導内容を報告するとともに、
月1回チャレンジシート(A4版)を配布している
(友だちとのトラブルに関するエピソード、学習面で のエピソード、努力している点などを記入するシー
ト)。このシートで、学習したワザが般化できている か評価してもらうともに生活全般で頑張っているとこ ろや友だち関係や学習面でのエピソードを集約する。
その情報は、フィードバックのバロメーターになるだ けでなく、指導課題の新しい「ネタ」として重要な役 割を果たしている。
③ 指導項目
偏りなく「社会スキル」を身につけさせるというこ とで、指導項目を設定しているが、エピソードカード で収集した事象をもとに、出来る限りタイムリーな指 導を心がけている。指導事例を挙げると次のようにな る。
[初級コース]
表情つくり(目と口)/あいさつの仕方(視線と笑 顔)/誘い方(タイミングと断れた時)/鉛筆を貸し てもらう(表情とお礼の言葉)/給食の時の会話(話 題を合わす) /遊びのルール(集団遊びに入る)/
イヤな気持ちの伝え方(助けを求める)、話に割り込 む(状況判断)
[中級コース]
会話のキャッチボール/教師や大人との会話やトラ ブル/宿題を忘れた時の言動/掃除を怠けてはいけな い理由/トラブル対処法(隣の席の子が牛乳をこぼし た等)/低学年への接し方/給食当番(協力する意 味)/身だしなみ/からかってないのになぜ怒る/登 下校の友だちの輪に入る/怒りのコントロール(自分 のクールダウン法)
[上級コース]
「とりみっこのルール」の定着(本校のルール)/
友だちを励ます/ケンカの仲裁(高学年として)/ダ ブルブッキング/中学に向けての言動(半分大人)/
校外でのトラブル解決/反抗期の心と言葉の使い方/
苦手な大人との対応方法/完璧な怒りのコントロール
④ 般化とフィードバック
通級指導教室は「オアシス」とか「ベースキャンプ」
と言われるように、一時の居場所であり、模擬場面に 過ぎない。通常学級や家庭生活の自然場面で自分の力 を発揮出来なくてはいけないのである。学んだことを 如何に実践できるか、また、失敗したとすれば何がだ めだったのか、模擬場面でもう一度練習しなくてはな らないことは何か、この繰り返しが必要である。
⑤ 評価
5月・2月に担任と保護者にアンケートをとり、指 導の効果と課題点を数値化してきた。同様のアンケー トを児童にも行い、自己の行動に関する評価を行わせ ている。
また、WISC-Ⅲを基本的に1年・4年・6年に実施 している。WISC-Ⅲでは、ADHDタイプは下位項目の
「単語」「理解」に、PDDタイプは「理解」「配列」に 改善がみられることが多い。評価を数値化することで、
周りの大人が児童を多角的にとらえることができ、具 体的な支援の方策が見えてくる。また、支援する者の 励みとなる。同時に、LD等の通級指導の終了を決定 する目安のなると考えている。
3.2.コミュニケーションスキルトレーニング
コミュニケーションスキルトレーニングを、4〜7 名の課題別グループで行っている。毎回テーマを決め て、1人ずつ前に出て、三文にまとめて話したいこと を話す。その後、質問を受ける。構文を意識させなが ら、相手に伝えるためにどうすればよいか工夫させる。声の大きさ・視線・表情・内容などコミュニケーショ ン上の課題は様々である。また、別の1人は、聞く側 の姿勢やうなずき、視線をチェックする。これによっ て他者視点を意識させる経験を積む。
3.3.学習支援(算数・国語)
学習に関しては、必要に応じて、個別指導を行うが、
基本的には2〜4人の課題別グループで行っている。
通常学級で学習できることが目的となるので、授業の 前半は、黒板を使い一斉指導形式で行う。後半は、プ リントを中心に個別学習で学習の定着を図る。前半で は、教科書の内容に沿いながらも教科書は使用せず、
児童の興味・関心を重視し、常にハラハラ・ドキド キ・ワクワクさせる授業を展開させるように心がけて いる。
① 聞く・読む・書く・推論する
聴覚・視覚的短期記憶に課題がある児童には、視聴 写を多く取り入れたり、文章読解・イメージ力に課題 がある児童には、キーワードを図式化させたりしてい る。また、認知特性を考慮し、継次処理・同次処理の 2 パターンの指導法を意識し、理解しやすい方を自己 選択させることを心がけている。
視覚認知でつまずいている児童には、漢字をパーツ に分けて足し算したり、色鉛筆を使用したりして、漢 字を分解・合成する力を身につけさせていく。音韻や 語用に課題を持つ児童には、視聴写させながら、作文 をみんなで書いていく。
② 計算・図形
数の概念が未形成の場合が多いので、「お金」を題 材にすることが多い。興味のあるお金は、実生活に生 かすこともできる。また、両替で位を意識させながら、
具体物を使って繰り上がり・繰り下がりを視覚的に学 習できる。不器用さで左右される図形では、両手を使 い定規を使うことや製図用のコンパスを使用させてい る。
③ 授業のルールの徹底
通級する子どもたちは、授業に集中できなかったり、
セルフエスティームの低下のために失敗した友だちを 嘲笑したりすることが多い。「見る」「聞く」「話す」
「質問する」「悪口は言わない」という授業のルールを 徹底し身につけさせる。
3.4.その他(トレーニング)
視覚トレーニングや感覚統合訓練を目的に、迷路、
工作、カルタ(数字・アルファベット・漢字パーツ等)、 パズル、平均台などを取り入れ、オリエンテーリング 風のゲームにしている。また、ステップルームの体育 に合同し、鉄棒や遊具サーキット等を行っている。
異年齢集団で活動する中で、チームに別れ協力して 課題をクリアしていくこともある。教え合うことで、
コミュニケーション力を伸ばすことができるだけでな く、高学年は自己有能感が高まり、協力することを学 ぶことができる。
4.教育相談とコンサルテーション
通級する児童の支援の範囲は、学習面や行動面も含 めて広域である。児童の課題を改善するには、通級に よる学習支援だけでなく、それに合わせて、保護者と 担任への支援と連携が必要である。
教育相談では、保護者に寄り添いながらも、「自立」
を視野に入れた子どもへの支援をともに考え協力して いく姿勢を心がけている。そんな中で、通級に抵抗感 をもっていた保護者から、「授業時間を抜けて堂々と 通級することで、親子共々障害認識ができて、すっき りした」と聞くこともある。
通常学級での行動観察は、児童の支援を考えるにあ たり、担任や周りの子どもたちとの人間関係を知るこ とができ、知能検査等の心理学的根拠だけでなく、子 どものつまずきを具体的に知ることができる。そして、
周りの環境を整えることで、改善がよりスムーズに行 われる。
現在、火曜日と金曜日の2日間を教育相談と訪問観 察日に充てている。
5.通級指導の成果と抱える問題
ステップ教室は、通級するLD等の子どもたちにと って貴重な場となっているが、ステップルームから発 展してきた自校通級の内容が一層充実するとともに、
他校通級も繰り込んで指導が展開されることにより、
新たな課題も担うことになった。自校通級と他校通級 の場合の違いを捉えながら、現時点での成果と問題を 示してみたい。
5.1.指導の枠組み
日々の生活の中で、つまずきストレスを抱えている 児童にとっては、毎日1時間ずつでも通級することが 望ましい。しかし、他校通級の場合は、従来の「こと
ばの教室」の他校通級が、放課後に行われてきたこと もあり、他校通級=放課後指導という固定概念があっ たが5)、ステップ教室では、児童の特性や通級の目的 が異なるために、放課後指導の意識を克服して、他校 通級の必要な児童については、可能な場合、週1回、
9時から15時まで、通級していることが多い。
自校の児童は、週2時間を適切な時間に設定して指 導している。家庭学習のチェックや行動観察や担任や 保護者への支援を1週間あけなくて済むので、指導内 容の修正ができやすい。
その理由は、小集団グループ学習の効果があること、
休み時間や食事、掃除の時間に課題がある児童が多い ことである。課題を持つ児童の小集団での1日の生活 の中で、お互いの課題を理解し合うだけでなく、メタ 認知を進めることができる。また、競え合えるライバ ルの存在は、学習意欲の高まりを生む。通常学級で、
友だちがいなかったり、コミュニケーションが取れな かったりして孤立しがちな子どもにとっては、自己表 現できる場であり、安心して生活できる場になってい る。
本来は、各学校において通級指導教室が設置され、
自校通級として毎日通級が可能となることが望ましい が、現在は過渡的な状況にある。他校通級の場合、週 1日通級することは、週1日通常学級の授業を受けな いことになる。その日の学習内容を「どこで誰と学習 するか」が、児童や担任の負担感につながる。担任か らは、特に専科授業や作業の遅れ、行事が組めない等 のマイナス面を指摘されることが多い。「遅れている 子が余計に遅れる」と通級することを否定されたこと もある。
しかしながら、週1日通級させることを体験した担 任からは、児童の成長を評価されたこともある。この ようなことから、通級することの目的の再確認や通級 に対する意思改革が必要であると考えられる。
5.2.学習支援とフィードバック
① 学習面
LD児の学習の課題は、知覚統合・聴覚的認知・視 覚的認知・短期記憶が重なり合って起きていると思わ れる。また、その重複状態は、個々に違うので、グル ープ学習を行う際にも配慮が必要であった。
通常学級での一斉指導で、課題を改善するための指 導をいかにおこなうかを担任に具体的に提案している が、担任との日常会話の中に、細切れに入れているの が現状である。この点でも、自校通級の担任とは連携 しやすい。
LD児の家庭学習の内容は、学習の定着だけでなく 親子関係に影響していくので、配慮が必要である。自 校通級では、一律の宿題に家庭生活の多くの時間を費 やすことがどれほどの弊害を生むのかを理解してもら
い、個々の児童に必要な家庭学習を毎日必要な量だけ 与えてもらうようにしている。
しかし、このことは、「学習が遅れる」という考えに よって十分理解されない場合がある。担任にとっての
「学習」は「作業」にすぎない場合もあり、他の児童に 比べて、やらなければならない作業が遅れていること として捉えられる傾向がある。また、宿題の軽減は、
他の児童の理解を得る必要もあり、担任自身の宿題に 関する意識改革を行わなければ理解は広がらない。
現実としては、中学校の内申点の評価が、家庭学習 の提出や板書記録ノートによる場合が多いことも事実 である。そこで、小学校高学年には、高校進学を視野 に入れ、中学での具体的な支援を考えて、支援をする 必要がでてくる。
自校通級では、担任と連携し宿題の現状や課題を把 握できているが、他校通級の児童の家庭学習の量や内 容まで把握できていないのが現状である。
② 社会性・行動面
不注意・多動の傾向がある児童の課題は、言語理解、
聴覚記憶にあることが多い。そして、学習態度を始め 友だち関係でつまずいていることが多い。通常学級の 一斉授業では、聞き逃しや理解できない言語があった り、ロールプレーが徹底できなかったりするので、般 化が難しいと思われる。また、個々の課題に迫る直接 的な内容をみんなの前で指導することも友だち関係や セルフエスティームの低下を招く恐れがあるので、配 慮が必要である。
そこで、通級指導教室において、前述したチャレン ジシートで、担任から情報収集して指導しているが、
そのシート内容が、自校通級と他校通級に大きな差が ある。他校の担任から、エピソードが集まらないので ある。
自校通級は、担任からの情報を口頭からも得られる ので、SSTのテーマに取り上げることが多くなる。ま た、校内での指導者の連携でフィードバックを繰り返 して行うことが可能になっている。また、臨機応変に 具体的な指導をタイムリーにできる。また、通級担当 者が自然場面を直接に見て指導できる場面も生まれ る。担任が通級担当者の指導方法を直接見る機会があ り、指導法や保護者対応などの相談も即時できること でる。
発達に課題がある児童の行動修正は、感情が高ぶっ た時は共感的関わりに徹しながら、行動修正をしてい く。そして、少し時間を置いて、直接的に自分の行動 を振り返るのではなく、他者視点に立ち、間接的に自 分自身の行動を評価し、行動修正を再度させていく。
一つの行動を般化するには、何度もフィードバックし ながら、2年以上かかることもある。このようなこと を他校の担任に知ってもらう機会がないのが現状であ る。
5.3.保護者・担任との連携
他校通級は、保護者が送迎する必要があるが、自校 通級は、一部の指導時間を除けば、授業時間中に行う ので保護者の負担がほとんどない。自校の保護者の中 には、指導日すら、子ども任せになっているのが現状 である。
他校の保護者とは、毎回連絡帳や会話を交わすこと になる。また、多くの場合、グループ指導を行ってい るので、迎えに来た保護者同士の会話が生まれる。ま た、保護者会が成立し、その中で、待ち時間を利用し て保護者が自主的にペアレントトレーニング6)を行っ ている。
自校通級の児童・担任とは、毎日が訪問観察状態で あるので、タイムリーな指導や連携や支援ができ、他 校に比べて学校生活における環境改善がしやすい。
他校通級の担任には、指導内容は連絡帳を利用して、
保護者を通じて担任に知らせるようにしているが、返 答のない担任も多く、時には、自立活動の内容や教室 の役割など特別支援教育をどこまで理解しているかも 疑問を感じる担任もいる。その場合、通級に対して何 を期待しているかが見えにくい。
特別支援教育の取り組みの学校間格差も大きいのも 事実である。連携の窓口も、コーディネーターではな く、校長や教頭のことがあったり、担任であったりす る。保護者が、自校で教育相談を受ける相手が担任に 限定されているケースもある。さらには、通級担当者 と児童や保護者の支援について、会話を持つことに積 極的でない場合もある。このようなケースでは、訪問 観察を保護者が願い出ても、市教委に要請するまでに 至らない。
6.通級指導教室の今後の課題−他校通級を中心とし た指導の展開と連携の課題を中心に
ステップルームから発展したステップ教室における LD等の通級指導は、今年度で6年目を迎える。ステ ップルームで試行錯誤を繰り返しながら研究を重ね、
成果を出してきた結果として、自校通級の場合は、教 職員や保護者の理解がさらに深まり、通級システムに ついても協力を得ることができている。しかし、先に 述べたように、他校通級の場合は課題が多いといわざ るを得ない。他校の実情を理解しながらも、他校通級 の困難さを克服するために若干の提案を行い、今後の 実践の課題としたい。
① 通級時間の学習補充
通級を希望する保護者は、早期教育に積極的な方が 多い。大きく二つに分けるとすれば、切実な思いで通 級させている保護者と習い事感覚で通級させてくる保 護者に分かれる。後者の多くは、大きなつまずきに至 っておらず、「学習に遅れる」という理由で、放課後
の通級を希望する。中には「隠れて通級したい」とい う場合もある。
通級指導の目的を担任・保護者が理解しなければ、
「学習が遅れている子が更に遅れる」という評価を受 けたり、新たなつまずきが生まれたりする場合がある。
通級することの必要性を保護者と担任とよく話し合 い、マイナス面を誰がどこでカバーするかを明確にす ることを通級の前提にすべきである。また、1日通級 することで、早期に改善し終了させることができる可 能性も出てくる。
② 家庭学習の内容
他校の通常学級の授業改善を通級担当の立場から、
助言するのは難しいが、親子関係を左右し、悪循環を 招くきっかけにもなる「宿題の概念」を変えてもらい、
内容や量を提案することができれば、担任と保護者、
子どもと保護者の関係が改善できると考える。
特に短期記憶に課題のある児童には、常に四則計算 の課題を少量与えると通常学級の学習に参加しやすい のではないかと考える。また、予習・復習を家庭学習 に取り入れるとさらに、意欲的に取り組めると思われ る。習熟度やストレス度を確認し、激励しながら適切 な内容と量を与えてもらえれば、セルフエスティーム は向上するのではないかと考える。低学年からきめ細 かい家庭学習を支援していくことで、学年相応の授業 についていくことができる可能性が開かれる。
③ SSTにおける担任との連携
チャレンジシートのエピソードの記入がほとんどな い原因を考えた時、通級担当者との距離感、信頼関係 の希薄さ、児童に課題がないとも考えられるが、SST に期待が低いとも考えられる。
SSTで取り上げるテーマは、従来、生徒指導の領域 で指導されてきた内容である。生徒指導では、児童の 問題行動が発覚した直後に行うことが多い。「失敗を した時点で、担任が直接指導したが、効果がなかった のに、時間が経ってから、再度、SSTで指導して効果 があるはずがない」という意見を耳にしたことがある。
このようなことから、担任が児童の障害の特性やSST を十分に理解していない可能性がある。
④ 学校コンサルテーション
通常学級での生活や担任・友だちとの関係を観察す る行動観察は、アセスメントには必要である。
特別支援教育は、通級指導教室も担うが、本来通常 学級で行われるようにしていくことが目標であると考 える。通常学級に居場所をしっかり作れるように、通 級指導教室での指導の内容を知らせたり、科学的根拠 に基づいた個々のナビゲーションブックを作成し提案 したりすることが、通級指導担当者の役割であるとい うことを理解してもらうことが必要である。
注
1)文部科学省初等中等教育局「学校教育法施行規則 の一部改正等について(通知)」(2006年3月31日 付)、同「通級による指導の対象とすることが適 当な自閉症者、情緒障害者、学習障害者又は注意 欠陥多動性障害者に該当する児童生徒について
(通知)」(2006年3月31日付)
2)奈良市における特別支援教育の検討及び推進に関 しては、奈良市特別支援教育検討委員会『奈良市 の特別支援教育の在り方について(最終報告)』
(2006年3月)、奈良市特別支援教育推進委員会
『奈良市特別支援教育ハンドブック』(2007年3月)、 奈良市特別支援教育推進委員会『みんなで工夫 笑顔で支援−奈良市特別支援教育ハンドブック実 践事例集』(2008年3月)を参照のこと。
3)ソーシャルスキルトレーニングについては、今西 満子「ソーシャルスキルトレーニングとは」(教 職研修「特別支援教育100問100答」教育開発研究 所、2007年、pp.146-147)参照
4)通級指導教室の指導内容の概要については、今西 満子「LD等の通級指導教室での自立活動の実 際−人間関係の形成とソーシャルスキルトレーニ ング」(中尾繁樹編『「特別」ではない特別支援教 育③ みんなの「自立活動」 特別支援学級・通 級指導教室・通常の学級編』明治図書、2009年、
pp.90-110)参照。
5)奈良市の場合、通級による指導は原則週2時間以 内とされているが、子どもの実態によって通級指 導の時間と内容を柔軟に行う工夫が求められてい る。
6)ペアレントトレーニングについては、岩坂英巳・
井澗知美・中田洋二郎『AD/HD児へのペアレン ト・トレーニングガイドブック−家庭と医療機 関・学校をつなぐ架け橋』(じほう、2004年)参 照。