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(1)

保健学習 : 生活習慣の乱れと健康問題のつながり をケーススタディで学ぶ(3年)

著者 竹内 雅子

雑誌名 福井大学教育実践研究

巻 32

ページ 87‑96

発行年 2008‑01‑31

URL http://hdl.handle.net/10098/1650

(2)

1,はじめに

今の子どもたちは塾通いや習い事等に追われている。

また,テレビやインターネットやゲームなど運動を伴わ ない遊びの普及,コンビニエンスストアーやファースト フードストアでいつでも好きなものが買える等の環境の 変化から,偏った食生活,運動不足や睡眠不足といった 生活習慣の乱れが蔓延している。この現状を鑑みると,

義務教育最後である中学3年生の時期に生活行動と健康 の関係を理解し,健康的なライフスタイルについて考え ることの意義は大きい。しかし ,個人差はあるが一般 的には「反抗期」である中学生。大人からの押しつけで はなく,仲間との話し合いを通して,自らが学びとって いく探究型の学習スタイルが有効であると思われる。

本単元は,生活習慣病などの病気そのものの理解が中 心ではなく,①適切な食事 ②運動 ③休養や睡眠の調 和のとれた生活が必要であることを理解させる学習であ る。中学生という現在,健康に不安を感じていない子ど もたちに,動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病を身近 なこととして捉えさせるためにも,日頃保健室に来る子 どもたちの実態を取り上げたケーススタディで考えてい くことにする。

そこで中学3年生の保健学習の単元「生活行動・生活 習慣と健康」の授業を次のように構想した。①生活の乱 れたAさん②運動不足のBさん③睡眠や休養の不足して いるCさんの3人の事例を創作し,それぞれの生活習慣 の乱れから今後起こりえる健康問題と改善策を探り,健 康予測マップ(図1)で表現する。さらにその改善策を,

X軸に効果度Y軸に実行難易度の座標軸を使って位置を 考え合いグラフ化(図2)する。この「健康予測マップ」

と「対策グラフ」の学びから「誰が永く生きられるか」

を仲間と考え合うことで,生活習慣の乱れがどのような 健康問題に繋がっていくのかを理解し,健康的なライフ スタイル形成の素地を養うことを目指した。

2,学びの姿

!各事例の生活習慣から健康問題を見つける(第1時)

子ども:あっ,これ俺のことや。

子ども:謙太のこと?

子ども:先生,これ誰のことなんですか?

保健室に来る子ども達の実態を取り入れて創作した,

食生活の乱れたAさん,運動不足のBさん,睡眠不足の Cさんの事例を子ども達に読んで聞かせる。事例を読み 出すと,教室が静かになり皆興味津々の様子である。自 分や仲間に当てはまる所では,上記の様なつぶやきがあ ちらこちらで聞こえた。

「では,Aさん,Bさん,Cさんの中で自分の興味関 心のある人を課題に選び,その人の生活習慣がどんな健 康問題に結びつくのか探っていきましょう。」と伝える と,「自分とよく似た人を選ぶのですか?」という質問 を受けた。自分と似ている方が,より自分のこととして 捉えられるというメリットはある。しかし仲間の目を気 にせず客観的に「生活習慣と健康問題」を学ばせたいと 思い,自分の興味関心のある事例を選べば良いことにし た。希望を採ってみると,Cさんが多く,Bさんを選ん だ者は2人であった。Bさんが2人だが,もう少し何人 かで調べた方が深まることを伝えると,Bさんに移る者

仲間と関わり合いながら自らが気づいていく探究型保健学習

〜生活習慣の乱れと健康問題のつながりをケーススタディで学ぶ(3年)〜

福井大学教育地域科学部附属中学校 竹 内 雅 子

福井大学教育実践研究 2007,第32号,pp.87−96 教育実践報告

中学3年生における「生活行動・習慣と健康」の学習において,次のような探究型保健学習を構想し 実践した。子どもたちに,①適切な食事 ②運動 ③休養や睡眠の調和のとれた生活が必要であること を自分のこととして捉えさせるために,保健室の子どもの実態を取り入れて創作した①食生活が乱れた Aさん②運動不足のBさん③睡眠と休養不足のCさんの事例によるケーススタディである。それぞれの 生活習慣の乱れがどのような健康問題に繋がっていくのかとその改善策を探りマップで表現し合う。そ の後その健康問題への対策の実行難易度を考え合い「対策グラフ」を作成し,「永く生きられるのは誰 だ?」を考え合うことで,健康的なライフスタイルの素地を養うことを目指す。

キーワード:ケーススタディ,対策グラフ,協働,マインドマップ

図1 健康予測マップ 図2 対策グラフ

― 87 ―

(3)

も現れ,最終的にAさん13人。Bさん11人,Cさん19人 に決まった。

安奈は,特に自分の生活習慣に問題は思いあたらない。

食べ物の好き嫌いはないし運動も好きなので,Aさんや Bさんとは全く似ていない。Cさんにも似ているとは思 わないが,以前から人間の心理に興味があったのでCさ んを選択した。

光子は,家族のコレステロール値が高いのでAさんを,

子どもたちはそれぞれの理由で選択していた。

その後事例を読み,ワークシートに「生活習慣から気 づいた問題点」を列挙し,「どんなことを調べたらよい か」を書く。事例を何回も読み,いくつも問題点を拾い 出している者もいるが,2〜3しか書き出せない者もい る。そこで教科書の基礎知識を得て,生活上の問題点を 考える視点をさらに広げて欲しいと思い,教科書を参考 にするようにアドバイスをする。

安奈は,すぐに事例の中から問題と思われる生活習慣 を6つ書き出し,同じCさんを選択した仲の良い千尋や 元子と見せ合った。同じような項目であったので,分担 して調べることにした。

安奈は,仲の良い友達と「睡眠不足」を調べることに

決まった。だが睡眠不足が体によくないことなど以前か ら聞いていることなので,調べ学習に意欲はわかなかっ た。

!健康問題についての科学的知識の獲得(第2時)

保健室や図書室の本,パソコン室を利用して情報収集 を行う。健康問題についての対策も同時に情報を収集し ていくように伝えた。

子ども:集めた資料はただ持っていれば良いのです か?

子どもたちは,漫然と本やインターネットを検索して

【Cさんの事例】

Cさんは,毎日いらいらしています。だれも自分のことを分かってくれないし,何をしても面白くないのです。

「勉強!勉強!」と親はうるさいし,「やっているのに・・・」と自分でも腹立たしい気持ちでいっぱいです。だ けど勉強は自分でも気になっていて結構夜遅くまでやっています。寝ることよりも勉強の方が大事だと思います。

ストレスは結構他にもあります。

先生方にも印象が悪いのか,自分だけが悪いのではないのに名指しで注意されてムカつくったらありゃしない。

「くそ!殺してやる!」って心の中で叫んだりしています。自分の自由時間なんて全くないのです。塾は,土,日 はもちろん,行きたくないのに毎日どこかに行かされていて,なんのために生きているのかと生きている意味さえ ないと思ってしまいます。

『こんなことなら,死んでやるか。』と考えるのですが,『死ぬのは怖いし・・・死んでも誰も悲しまないのだっ たら死に損かなぁ。』と思ったり・・・しています。このごろ胃が痛くなったり,頭も痛くなったりします。

なんで私だけ,こんなに嫌な思いをしなきゃならないのだろう。

ムシャクシャするので,オンラインゲームやチャットをほぼ毎日しています。しだすと4〜5時間ぐらい続けて しています。そのため寝るのは結構遅くて,大抵毎日午前2時くらいです。眠くてたまらないのですが,朝は親に たたき起こされます。

朝食は,親が食べないとうるさいのできちんと食べます。学校では,努めて明るく振る舞います。だって,ネク ラは嫌がられるし・・・無理しているから結構疲れます。体育だって,見た目は気付かれないように,声出して頑 張っています。ふぅーとため息です。給食はそんなにお腹が空いていないのだけど,残さずきちんと食べます。行 儀悪いのは嫌だし,作ってくれた人にも申し訳ないと思うからです。何しろ,本当にいらいらすることばかりです。

※【Aさんの事例の要約】Aさんは,インスタント食品やスナック菓子・ファーストフードが多く,甘いものや塩 分の高い食事が多い。野菜は食べずない。コレステロール値は235。

※【Bさんの事例の要約】Bさんは,運動嫌いで汗をかくことを嫌い,ほとんど運動しないにもかかわらず疲れや すい状況にある。

図3 安奈は事例から6つの問題点を書きだす

― 88 ―

(4)

いる。マップを書きながら適時必要な情報を集める方が,

ほしい情報が焦点化されるのであろう。前回の実践で使 用した「Aさん,Bさん,Cさんの健康予測マップ」の 個人製作用のB4版用を,急遽印刷配布し,それに記入 しながら必要な情報を集めることにする。

安奈は授業終了後の振り返りに,下のように書いている。

睡眠不足から引き起こされる障害について調べました。

疲労がたまるだけでなく,胃腸障害なども引き起こされ ることをはじめて知りました。

安奈は睡眠不足が健康に良くないことについては知っ ていると思っていた。だが調べていくと,いろいろな病

気につながることなど初めて知ることが多かった。

安奈は「不眠症」によって引き起こされる具体的な症 状をいくつか書き加えた。その中に「金しばり」を加え た。時々「金しばり」が起こり怖かったからである。と ころが前時に「睡眠障害」について調べていた時に,「良 い睡眠時間は,レム睡眠とノンレム睡眠の1セットの90 分。金しばりはレム睡眠中に意識がでてきてしまうこと で,科学的に証明できる」ことを知り,安心した。

教師が学んでほしい知識を抽出して伝える一斉授業で は,それぞれの子どもたちに今必要な情報を与えること はできない。調べ学習で健康情報を検索するこの時間は,

関連している個々の健康問題の解決の時間にもなってい る。

!健康予測マップ作成 (第3〜4時)

調べ学習をもとにグループで考える

前時に調べたことをもとに,同じ事例を課題に選択し た数人のグループで,「健康予測マップ」を90㎝×55㎝

ホワイトボードに作成する。同時に記録係が,画用紙に 写していく。

まず「健康予測マップ」の書き方を次の様に説明する。

①〜⑤は一般的なマインドマップの書き方であるが

(参考文献参照),この授業では⑥⑦を特に付け加えた。

⑥は,「健康予測マップ」作成では,動脈硬化や糖尿病,

虚血性心疾患,脳溢血などの子どもたちにとって難しく 感じる生活習慣病名がでてくることが予想される。図を 用いることで理解し易くなると思ったのである。⑦の改 善策は,「対策グラフ」作成時に参考になると考えたの である。

最後に「書き方にこだわりすぎて,書きづらくなるよ りは,自由にたくさん枝をのばしてください。」と付け 加える。するとほとんどの子どもたちは,困惑した様子 もなく作成に取り掛かりだす。

しばらくすると光子から次のような質問を受ける。

光子:これは生活習慣病のことを書くのですか?それ ともつながりを書くのですか?

教師:生活習慣の乱れがどのような健康問題につなが 図4 安奈の健康予測マップ下書きワークシート

図5 光子のマップ

図6 怜治のマップ

① 紙は横向きに置き,「中心」から書き始める。

② 中心となる考えは出来る限り「イメージ=(絵)」 で表現する

③ 中心から主となる枝をのばす。(問題となる生活 習慣)

④ 主となる枝は曲線で強調して書く。

⑤ 枝1本に対し,絵/キーワードをその上に書き込 む。

⑥ イラストを入れて病気をわかりやすく説明する

⑦ 改善策を赤で記入する 仲間と関わり合いながら自らが気づいていく探究型保健学習

― 89 ―

(5)

っていくのかを中心にマップを書いて下さい。

ただその中で,動脈硬化などの病気を理解して いないと,つなげられません。簡単に説明出来 るようにはしておいて下さい。

光子の選んだ事例Aさんの食生活からは「糖尿病」や

「高血圧」「動脈硬化」といった生活習慣病の病名がダ イレクトに挙がってくる。病気の症状や治療,対策など のことを深く調べがちである。しかし,医学的知識獲得 が主の学習ではなく,生活習慣と健康とのつながりを主 に学ぶ学習である。

だが出来上がった光子のマップは,同じAさんの事例 を選択した怜治のマップと比べると,枝をのばしたり線 で結んだりといったつながりの書き込みがやや弱い。

安奈たちのグループは,日頃から仲の良い千尋,元子 など7人グループで作成する。安奈はマップの書き方も,

「ドラゴン桜にでてきたメモリーツリー」という説明,

他教科で書いた経験からすぐにイメージできた。早速そ れぞれが調べたことを中心に,枝を伸ばしていく。安奈 たちは分担して記入した後,7人で資料をお互いに出し 合いながら補足するところはないかチェックする。だが,

皆詳しい資料を持っている者がおらず,主となる枝から 2〜3枝をのばしただけで行き詰ってしまう。

それは子どもたちに,なぜ枝をどんどん伸ばしていく のかが伝わっていなかったためと思われる。授業初めに

「どんどん枝をのばしてください。」と話したが,なぜ 必要なのかを伝えていなかった。前述した光子のマップ が,動脈硬化や大腸癌といった病名から枝が伸びていな かったことも,説明不足だったことからであろう。枝を どんどん伸ばしてほしかったのは,生活習慣の乱れと疾 病異常や,疾病異常同士の相互作用のつながりが見えて きやすい。さらに「睡眠不足―集中力がなくなるー授業 中ボーッとするー先生に怒られる」といった,自分の生 活と結びついたデメリットを実感してほしいという思い があったからである。

安奈はこの授業の振り返りに,

今日はメモリーツリーを書きました。すっきりと筋道 たてていくのがすごく好きでやりやすかったです。

と書いている。この感想からも枝をまだまだのばそうと いう思いがないことがわかる。今日作成したマップで満 足しているのだ。

また「すっきり筋道をたてて」と書いているが,生活 習慣の乱れがいろいろな健康問題につながっていく道筋 を体系づけてまとめるには,マインドマップが適した表 現方法であるといえるであろう。

!中間発表会で考えを深め合う(第4時)

同じ事例の他の グループとマップ の中間発表会を行 い,意見交換を行 う。各グループで 一人発表者を決め,

他のグループに行 き発表をする。安

奈のグループは,麻衣が発表者になり,安奈はグループ に残ることになった。

発表前に,各自重点的に見てきたり,聞いてきたりす ること」をグループで話し合って決める。

安奈たちのグループには,同じCさんについてのマッ プを作成したグループの発表者として寛之が来る。

寛之:テクノストレスから睡眠不足になり,体力低下 になり疲労する。そしてストレスが増加し,そ のストレス発散のためにまたチャットとかして ネット依存症になるという悪循環になります。

このようにすべて関連しているから,1つを解 消すると,全てを解決できます。

寛之は前時の感想に「画期的な対策発見!!」と書い ている。マップを作成しているうちに,このつながりに 気がついた。一つ生活習慣が乱れると,健康に悪い連鎖 になる。では,どこかで裁ち切れば逆に良い連鎖が始ま るのだ。

安奈は寛之の発見を聞いて,「なるほど。」と思う。安 奈たちのグループは,ネットをよくするからは「視力低 下」しか繋がりを思いつかなかった。寛之たちが調べた

「テクノストレス」についても興味深かった。安奈たち のグループが「テクノストレスってどんな症状?」など いくら質問しても,詳細に調べている寛之は次々に答え ていく。

寛之君たちのグループの情報をたくさんもらいました。

図7 安奈たちのグループが作成した健康予測マップ

図8 中間発表会の様子

― 90 ―

(6)

私たちとはまたちょっと違う視点だったので聞いていて おもしろかったです。特にネットからつなげてておもし ろかったです。

と安奈はこの授業の振り返りで書いている。中間発表 会をすることで,生活習慣の乱れの悪連鎖や更なるつ ながりの視点が加わっている。

残りの時間で,今日の学びを活かして各自のマップを 完成させる。安奈は寛之たちのグループから学んだテク ノ依存症や,「自律神経がにぶると冷え性―免疫低下―

風邪になる」ことを書き加える。

教師:枝の先もどんどん伸ばして下さい。枝の先に 行くほど,科学的知識というよりも自分たち の経験から得たことを書いてください。

元子:「この生活のリズムが崩れる」から「味付け の濃いもの欲しくなる」の次になにが続く?

安奈:ご飯がすすんで肥満になりやすい。

仲間の知識も集積して協力してどんどん枝をのばして いる。

たまたま持ってきていた隣のクラスのマップを見た安 奈は,自分たちのマップよりもたくさん書き込まれてい て,自分たちの学びがまだ浅く感じた。主となる枝も自 分たちには考えつかなかったCさんの生活習慣の問題点

「自由な時間がない」が書いてある。新たな視点を得て,

興味をもちそれがどのような健康問題に繋がるのか調べ てみたくなる。調べてみると「社会恐怖・社会不安障害」

に繋がることが分かった。以前から心理学に関心があっ た安奈は興味がわき,ここからもっと調べてみたいと思 う。

今日は中間発表会のあと,編集みたいなのをしました。

やっていくとどんどん増えて行くので,関連させていく のが楽しかったのですけど,時間が足りなすぎて,やり たいところが多いので物足りなかったです。

と安奈は授業の振り返りに書いている。仲間のマップを 見て刺激を受け,意欲的になってきたのが感じられる。

だが子どもたちが作成したマップを見ると,自分のマ ップに書いてある「脳梗塞」や「DHA」などの語句の 意味や,なぜそこに繋がるのかが理解できていない様子 が見られる。また,改善策の記載が少ないのも気になる。

次の時間もう1時間使って,「語句の意味や繋がりを簡 単でよいので説明できるように」「改善策を充実させる」

ことにする。

千尋:ストレスたまったらどうしている?

安奈:友達に愚痴る。

元子:でもバラされると嫌だからチャイルドラインに 電話したら?

いろいろみんなが現実に実施している対策法を聞けて リアルになりました。今日の時間があったので深いとこ ろまで調べられてよかったです。

と安奈は授業の振り返りに書いている。自分たちの経験 と照らし合わせて対策を考え合っている。

授業時間の終わりに徳子が「いっぱい書き加えたらわ かりにくくなってしまいました。発表会までに書き直し たいので,新しい画用紙下さい。」と言ってきた。

中間発表会で新たな視点をもらうと同時に刺激を受け,

← 図 9 安 奈 の 健 康 予 想 マ ッ プ 仲間と関わり合いながら自らが気づいていく探究型保健学習

― 91 ―

(7)

健康予測マップを発表会用資料としてわかりやすいもの にしたいという意欲につながっていた。

!Aさん,Bさん,Cさんの健康予測マップ発表会

(第6時)

Aさん,Bさん,Cさんの生活習慣の乱れと健康問題と の関連を探る

Aさん,Bさん,Cさん各ケースを選択した者が1〜

2名入った4人グループで,「健康予測マップ」発表会 を行う。安奈のグループは,Aさんを課題にした光子,

Bさんの健司,Cさんの秀樹の4人である。それぞれの マップは工夫が凝らされており,興味深い。(図10)

発表会ではAさん,Bさん,Cさんが行きつく先には,

同じ内容がたくさんあった。色々な病気は関連していく のだ!

これは授業終了後の安奈の感想である。食生活の乱れ たAさん,運動不足のBさん,睡眠・休養不足のCさん,

どの事例でも動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病につ ながっていた。またその病気が関連し合って悪化し合っ ていく連鎖があることを気づく。

"Aさん,Bさん,Cさん永く生きられるのは誰だ?

(第7時)

対策グラフから読みとる

前時の発表会ワークシートに,「動脈硬化と脳卒中や 虚血性心疾患のつながり」や「メタボリックシンドロー ムって?」などの質問が書いてある。そこで授業の初め に,「動脈硬化」や「骨粗しょう症」について映像を中 心に説明する。かなりインパクトがある映像だったので,

子どもたちは見入っている。

そしていよいよ「Aさん,Bさん,Cさん永く生きら れるのは誰?」を考え合う。

その際には2つの視点から考え合うことにする。一つ は,「健康予測マップ」から読み取るAさん,Bさん,

Cさんの将来の健康問題の重篤度。もう一つは「対策グ ラフ」から読み取る,その対策の有効度である。

以下は対策グラフの作成手順である。

教師:(安奈たちのグループに)どうしてここに(カ ードを)置いたの?

安奈:人に話しにくくてストレスをため込んじゃって いるので,話せれば効果は大だと思ったので。

教師:このようにどうしてこの位置にしたのか答えら れるように,皆で話し合ってこだわって置いて 下さい。

安奈と光子が,無言で自分の記入したカードを貼りだ す。自分で考えた自信がある対策なので,友達に相談す る必要がなかったと思われるが,もう少し皆で意見を言 い合って,座標を決めてほしいと思う。どの座標に置く のかを,自分の考えを述べ仲間の意見を聞き合ってこそ,

思考が深まっていくからである。上記の安奈への質問を クラス全体に話すと,ほとんどの班で話し合って位置を 決めていく姿が見られるようになる。

安奈:Aさん,Bさん,Cさん誰からも運動が対策と して出ているよね。運動さえすれば良いのか な?

安奈:糖尿病はどうして運動しなければいけないの?

動脈硬化との繋がりがわからない。

健司:それは,う〜ん?

光子:あっ私の(マップ)に書いてあるよ。運動しな いと体の中の血糖が上がって糖の代謝異常にな るのが糖尿病。エネルギー代謝していないから,

肥満になってますます糖尿病を促進させる。動 脈硬化は,運動しないと血液中の脂肪量(コレ ステロール)が高くなっている。

安奈:Cさんは,気分転換やストレス解消のためだし

・・・。この辺に置く?

安奈たちは同じ「運動」でも,事例の3人にとっての 意味を考えだした。この対策がその人にとってどのよう な意味があるのかを理解しなければ,効果の座標を決め られないからである。今までの学びを振り返りだした。

図10 安奈の発表会ワークシート

各事例の有効だと思われる対策を,カードに5枚ずつ記入し ておく。(Aさん青,Bさん黄色,Cさん桃色)

x軸は「実行の難易度」,y軸は「効果度」にしたホワイト ボードに,その短冊の適した座標を考え合い貼る。

図11 安奈たち10班の対策グラフ

― 92 ―

(8)

寛之たち7班は,寛之や末子を中心に一枚一枚のカード について納得のいくまで話し合い,位置を決めている。

寛之:このDHAってなに?

翔子:ドコサヘキサエン酸。勉強に集中できるの。

寛之:Aさんは魚嫌いだからもっと実行難しいんじゃ ない?

翔子:すしなら好きで食べられるからこの辺かな?

広大:『運動する。一日一万歩』ってできるかな?

翔子: 部活の時調べたことがあるけど,4,000歩でも 大変だった。一万歩って無理。

寛之:でも学校の行き帰りを歩けば,大丈夫じゃな い?

翔子のように自分が調べたことを,自信を持って答え ている姿がほかの子どもたちにも見られた。マップ作成 時間を1時間増やした効果を感じた。また何歩なら歩け るかといった会話でも,自分の部活動の経験から考える など,自分たちの生活と対比させながら考える姿がみら れた。

寛之:何かここら辺にあるとよかったね。

教師:どうすれば,効果的だけど難しい対策が易しく なるかな。例えば運動に何か付け加えたら?

寛之:運動30分は大変だけど,僕だったらサイクリン グならできるな。

翔子:でもBさんにとってはどうかな?私たちなら出 来るけど。

どのグループも「効果的だが実行は難しい」に対策が 多く貼られている。子どもたちは,どうすれば解決でき るのか知っているのである。「わかっている」が実行は 難しいと感じている。ではどうしたら実行しやすくなる か考えさせることが必要だと感じた。実行し易くなけれ ば続かない。続かなければ,生活習慣から起こる病気を 防ぐことはできないからである。

どのグループも「対策グラフ」がほぼ出来上がってき た。そこでいよいよこのグラフから読み取ったことも含 めて「誰が長生きするか」を話し合い,ランキングづけ をする。

安奈:このグラフから,ランキングはどのように考え たらよいですか?

教師:習慣化するまで続け易くて効果的な対策がある 人が,改善し易いと読み取るとよいよ。

安奈:じゃあこのへんに(対策がたくさん貼って)あ る人は,長生きするってことじゃない?

健司:Cさんは,運動しないとひきこもりになっちゃ う。

光子:Aさんは間食が多すぎる。

安奈:好き嫌いもだね。食生活はなかなか変えられな いね。

安奈:Aさんはサポートする人が必要だよね。親に協 力してもらうとか・・・。

健司:Cさんも精神面のサポートが必要だよね。

秀樹:Cさんは大人になったら何かが変わって元気に なるかも。

安奈:Aさんは食事と運動の比率がねぇ。少し運動し てれば・・・。

安奈たち10班は,「1位Bさん 2位Cさ ん 3位A さん」という結果になる。安奈たちのグループは,「運 動」「食生活」「精神面」という健康的な生活づくりに重 要な3つの生活習慣を柱にして話し合っている。

長生きランキング発表!

各班の話し合いの結果を,クラス全体に発表する。「発 表してもらえる班ありませんか?」の問いかけに,最初 に手をあげたのは安奈たち10班である。

寛之は10班の発表を聞いて「なるほど。『両親に協力 を頼む』という方法があったか。」とつぶやき,自分の 班のホワイトボードに,書き加える。

次に寛之が手を上げ発表する。

寛之:1位Cさん,2位Aさん,3位Bさんです。(省略)

Bさんが楽しんで出来るいい運動がみつからな いからです。

寛之たちはBさんが習慣化できる運動を考えたが,み つからない。Cさんは悪循環の鎖の一つをきればいいし,

Aさんは両親に協力してもらえば改善しやすくなる。そ れでBさんを3位にしたのである。

次に怜治たち1班が発表する。

怜治:1位C 2位B 3位Aです。Cさんは精神面 だけなので体は死にはしないからです。(省略)

教師:今の発表に何か意見はありませんか?

篤史:精神的なストレスなどから体の病気につながり 1位B 2位C 3位A

B 運動さえしていれば,ほとんどよくなる 食生活◎

(免疫↑。動脈硬化もOk。生活習慣病もよくなる)

C 精神面さえよくなれば 食生活◎ 運動◎

ひきこもり→運動しない(自殺危険!)

A 間食や好き嫌い×

食生活をなおすの大変

変えられない可能性○高→サポートする人が必要(Aと C共通している)

図12 10班の記録用紙 仲間と関わり合いながら自らが気づいていく探究型保健学習

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(9)

ます。むしろ肉体的なものより精神的なものの 方が深刻だと思います。

怜治のこのような発言は,「永く生きる」だけで考え たためである。「健康的で長生きするには」を考えさせ るとよかったと思う。

発表された各班の対策グラフは,効果は大きいが実行 は難しいエリアに短冊を張ってある班が多い。上(実行 し易くて効果が大きい)にちょっとした工夫で上げられ ることを伝え,その工夫は人によって様々であることを 話す。そこで,次の時間は自分の健康予想マップを考え ることにする。

"学びを振り返り,自分の健康に結び付ける(第8時)

自分の健康予測マップを書こう

今までの学びの振り返りを書いた後,自分の健康予測 マップを作成する。

安奈はこの単元の振り返りとして,次のように書いて いる。

今までの学習で生活習慣が悪化すると,いろいろな病 気が関連し合って起きてくることがわかった。例えば夜 なかなか眠れないから朝起きられなかったり,朝食が食 べられなかったりする。それらのことから不眠症,生活 リズムのくずれ,肥満につながり,そしてこのような習 慣同士,病気同士が関連しあい,また習慣化し病気同士 もからみあってくるのだ。だからこそ,この習慣を断ち 切る強い意志さえあればすぐ治る。しかしその強い意志 というのが直すうえで一番大切であり難しいから今も生 活習慣病の人がたくさんいるのだと思う。だからこそ,

そういう人にはサポートしてくれる人の存在が不可欠だ と思う。一緒に運動してくれる人がいれば楽しいし,好 き嫌いをなくせそうな食事をつくってくれたり,バラン スを考えて生活してくれる人がいたりすれば生活習慣は 良い方向に進んでいくだろう。

生活習慣からいろいろな病気につながってくること。

生活習慣を改めればよいことなのだが,それが難しく簡

単にはいかないから今生活習慣病が増えていること。だ が,一人では難しくても誰かに協力を頼み一緒にバラン スのとれた生活づくりをサポートしてもらうなど,改善 方法を工夫することを学んでいる。

次に自分の生活を振り返り,「自分の予想マップ」を 作成する。安奈は,自分は問題のない生活習慣であり,

書くこともないと思う。しいて言えば,主となる枝には

「睡眠不足」と「ストレス」だろう。「ストレス」から 枝を伸ばしてみる。ストレスがたまると,イライラする。

イライラすると同時に不安にもなる。そして寝ていても よく夢をみる。すると不快になって金しばりもよく起こ って眠りが浅くなる。するとまたイライラする。

安奈は上述したような学びは,今の自分とは関係ない と思っていた。しかし「自分の健康予想マップ」を書い てみて,自分も人事ではないことに気がついた。自分も 連鎖している。

3省察

!自ら気づかせる学びが行動化につながる

学習のはじめは「どうせ聞いたことあるようなことば かりの勉強だろう」とあまり意欲的ではなかった安奈で あるが,段々といろいろな気づきにつながっていく学び になっていった。まず「睡眠不足」を調べていた時に,

最近悩まされていた金縛りが科学的に解明できるである ことを知り安心できたことで,少し自分の健康問題に引 き寄せて考え始めるようになった。次に中間発表会で寛 之から,Cさんの「夜遅くまでネットにはまっている」

という生活習慣の乱れからくる悪循環の視点を与えられ る。そして発表会で食生活の乱れや運動不足からも,不 健康な習慣同士,そこから起こる病気同士が関連し合い からみあうことや,だからその悪連鎖を断ち切るために どこかで生活習慣を改善すればよいことに気づいていっ た。今までの実践ならばそこで子どもたちの気づきは終 わっていた。しかし,今回「対策グラフ」で実行難易度 を考え合ったことにより,自分の強い意志で健康に悪い 習慣は止めれば,すぐ治るのだけれど,その人にとって は止めることが難しいので続けてしまうことに気づいて きた。そこで安奈は,健康的な習慣形成をサポートして 図13 寛之たち7班の対策グラフ

図14 安奈の「自分の健康予測マップ」

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(10)

くれる人の存在が必要であるという結論にいたっている。

学習終了後,保健室にけがをして来た安奈の手当をし ながら,その後金縛りがどうなったのかを聞いてみた。

すると「すっかりなくなったのです。」との答え。理由 を尋ねると「いつも同じ夢を見るし,金縛りもストレス と関連しているのじゃないかと思って,夢の話や思い切 って悩んでいたことを友達に相談したんです。友達がい ろいろ相談にのってくれたら金縛りになることがすっか りなくなったし,夢も見ないし,ぐっすり眠れるように なったのです。」と清々しい顔で話してくれた。自分は 全く生活習慣に問題はないと思っていた安奈であったが,

頑張り屋であるために一人で悩みをため込む習慣があっ たのだ。自分の生活習慣マップで悪連鎖に気づき,友達 にサポートを要請することができたのである。

!探究の質の高まりをめざして 望ましい健康観を育成する

前回は「Aさん,Bさん,Cさん 早く死ぬのは誰?」

を主題に,健康予測マップで学びを表現し,全体で発表 会を行い,ディスカッションしていくデザインで行った。

今回は主題を「Aさん,Bさん,Cさん永く生きられる のは誰?」とし,その根拠となる視点として「健康予測 マップ」の他に「対策グラフ」を作成し,その読み取り も含めて考え合うデザインにした。

主題を「早く死ぬのは誰だ」にすると,子どもたちは 大変のってくる。しかし「死」を簡単に扱っているよう で,子どもたちの健康観の育成に良い影響を与えないの ではないかと抵抗を感じていた。そこで,同じ寿命を考 える主題ではあるが「永く生きられるのは誰だ」と視点 を変えた。

対策グラフで思考を深める

「対策グラフ」を取り入れたのは,Aさん,Bさん,

Cさんの寿命を考える際に思考を深めるためである。前 回実践したときは,子どもたちの長生きランキング1位 は全員Bさんであった。理由は「まだそれほど症状がで ていない」「運動さえすればよいから」「多少は運動して いるだろう」などの理由であった。Bさんは大丈夫とい う結論は,適切な運動の必要性を軽く考えていることに なる。それでは,本単元のねらいである「健康を保持増 進するためには,調和のとれた食事,適切な運動,休養 及び睡眠が必要なこと」の学びには不十分である。そこ で,今回はBさんの健康予測マップが充実するように支 援する」「対策からも考えさせる」ことにした。対策を 考えることで,「少しの工夫で生活習慣を変えることが でき,病気を予防できる」ことを自分の生活と結びつけ て学びとらせたい。

実践の結果,次の点で効果的であったと思われる。

・学びを振り返り再構築できた

安奈は,A・B・Cさんの共通した対策である「運動」

をグラフ化するにあたり,「糖尿病はどうして運動しな け れ ば い け な い の?動 脈 硬 化 と の 繋 が り が わ か ら な い。」とつぶやいている。事例の3人にとっての「運動」

の意義を確認しなければ,効果度がわからない。そこで マップにもう一度戻り,それぞれの「運動」までのつな がりをたどり直し,それぞれにとっての「運動」の意義 を考えて座標を決めていた。

・少しの生活習慣改善で病気を予防でき,永く無理なく 続けられる工夫を考える場となった

寛之は「運動30分は大変だけど,僕だったらサイクリ ングならできるな。」と発言しているように,どうした ら実行し易くなるかを,自分のこととして考えている姿 が見られた。

・健康問題の解決策の視野が広がった

このクラスの長生きランキングの結果は,10班中4 つの班が,Bさんを1位にしなかった。理由は,「Cさ んの悪循環を断ち切るための対策が見つかったので1位 はCさん」や「Aさんは食事面を親にサポートしてもら えばよいので」などであった。

自分の健康問題を解決する際に,サポートする人も必 要だということの気づきにつながっていった。

健康予測マップで学びを見とる

安奈は振り返りの感想に「今日はメモリーツリーを書 きました。すっきりと筋道たてていくのがすごく好きで やりやすかったです。」と書いている。また「対策グラ フ」作成にあたり学びを振り返る時に,マップを見てつ ながりをたどり直していた。 つながり を学ぶこの学 習での表現方法として適していると思われる。しかも教 師にとっては健康予測マップから,「対策についての調 べが不十分」や,光子のように つながり ではなく 病 気 を学ぶことに重きをおいているなど,子どもの学び を見取り次の活動につなげることができた。

"今後の課題

前述した保健室での安奈との会話の後に,安奈が主と なる枝として書いていた「睡眠不足」について尋ねてみ た。安奈は「だってやること多いから仕方ないでしょ う。」との答えだった。この学習を受けて委員会活動で,

自分の生活を時々ふりかえるような「生活自己チェッ ク」などの取り組みをするとよいと思った。

最後に安奈は「昨日もらった血液検査の結果をみて,

私コレステロール値が高いことがわかりました。この結 果をこの勉強の前にもらっていたら私はAさんを選びま した。」と言っていた。確かに血液検査の結果自分のコ レステロールが高いと知っていたら,モチベーションが 高くなっていたであろう。健康診断とリンクするように 工夫していきたい。

またこの学習終了1ケ月後,保健室に来た子どもたち に運動不足はどう健康に悪いのかを聞いてみた。すると,

仲間と関わり合いながら自らが気づいていく探究型保健学習

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(11)

はっきり答えられず「僕Bさんを調べたんじゃないので よくわからないのですよ。」との答えが返ってきた。自 分で調べたことはよく覚えているが,人の学びを発表会 で聞いただけでは,その時は理解できても1ケ月経った だけでも差がでてくる。各自の興味関心からAさんBさ んCさんを選んで学んでいくのもよかったかもしれない が,「食事・運動・睡眠,休養」の生活習慣を考えてい ける事例を創作して,全員が一つの事例で探究してもよ

かったのではないか。来年に向けて探究デザインを改善 していきたい。

参考・引用文献

・木下洋子(2004)「ケーススタディで探究学習」

福井大学教育地域科学部附属中学校研究紀要第32号

・SSIブレインステラテジーセンター「人生に奇跡を 起こすマインドマップ ノート術」きこ書房

The research type health learning that oneself notices while being involved with a friend

~which studies the connection of the disorder of the habit and the healthy problem in a case study (The third school year)

~

Msako TAKEUCHI

Key words: A case study, measures graph, collaboration, mind map

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