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学位論文要旨(博士(工学))

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Academic year: 2021

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学位論文要旨(博士(工学))

論文著者名

論文題名:近赤外分光イメージング法による微細流路内水溶液の反応拡散現象 の可視化と分析

本文

近年,化学合成や分析の効率化,高性能なエネルギー機器開発のため,微細 流路を利用した小型熱流体デバイスが注目されており,現象の解明から応用に 至るまで多くの研究が精力的に行われている.微細流路を用いる利点は,試料 の微量化,比表面積の増加による反応効率や熱伝達率の向上に加え,複数の液 体試料を層流状態で流し,液液界面を容易に形成,観察できることである.液 液界面では拡散法則に従う物質輸送と律速された化学反応が進行するため,こ れらの反応拡散現象を計測制御することはデバイスの設計と実用において極め て重要である.反応拡散現象はマクロ的には濃度分布の変化として表れるため,

現象分析のためには濃度イメージング技術が必要であり,特に反応系では多成 分の濃度の同時イメージング技術が必要となる.しかし,屈折率,偏光,蛍光,

ラマン分光などを利用した従来の光学的手法では,原理的に物質種を区別でき ない場合や,空間走査が必要なため過渡的な変化を追従できない場合があり,

目的とする同時測定の実現は困難である.

本研究では,微細流路内の水溶液を対象にした新たな多成分濃度の同時イメ ージング法を提案し,物質拡散や化学反応の可視化実験により測定手法として の確立を目指す.測定原理は近赤外域における溶質分子・イオンが介在したと きの水分子の振動分光特性に基づいており,蛍光物質を必要としない非侵襲測 定手法である.本論文では先ず,各種水溶液の吸収分光データから同時イメー ジングに必要な波長を選定し,吸光度から濃度への変換モデルを構築する.ま た,特定波長における吸光度は温度に依存するため,温度についても濃度との 同時イメージングが可能であることを示す.本手法を用いて,微細流路内の反 応拡散現象を可視化し,提案する測定手法の精度や有効性を議論するとともに 微細流路内の水溶液の輸送現象解析を行う.特に,液液界面における相互拡散 と界面不安定性を調査し,微細流路を利用した化学反応時における輸送特性の 解明を目的とする.

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本論文は以下6章から構成される.

第1章「緒論」では,本研究に関わる背景として微細流路を用いた分析やデ バイスの応用例を取り上げるとともに,マイクロ領域を対象とした測定手法の 現状と近年の研究の展開と問題点を述べた.また,本研究が提案するイメージ ング法の基盤となる近赤外分光法を概論し,これを応用した既存の計測・可視 化技術を紹介するとともに課題を明らかにする.以上を踏まえ,本研究の位置 づけと目的を記した.

第2章「水溶液の近赤外吸収分光測定」では,近赤外分光イメージング法の 基盤となる各種水溶液の吸収分光特性についてまとめた.代表的な電解質およ び非電解質の水溶液の吸収スペクトルをフーリエ変換赤外分光光度計により測 定し,溶質種,濃度,および温度が及ぼす影響を調査した.その結果,HOH をイオンや官能基として有する場合,吸光度が濃度に依存しない等吸収点が現 れることを明らかにした.等吸収点は,酸性とアルカリ性の違いや,糖類やア ルコール類のような化合物の種類,および温度によって変動したことから,等 吸収波長は多成分測定において成分固有の感度波長とともに不可欠であること を示した.また,得られた吸収分光データから測定に必要な波長を選定する手 法を検討した.多成分濃度を測定するため,先に挙げた等吸収点とともに他の 波長を選定し,濃度測定を行うために多変量解析を利用することで濃度測定の 検量モデルを作成した.スペクトルのPLS回帰から回帰係数の大きな波長を選 択し,重回帰分析と併用することで最適な検量モデルを求めた.さらに,濃度 イメージングを実現するためにマルチバンドイメージングシステムの開発を行 った.複数の干渉フィルタとステッピングモーターを利用したバンドスイッチ ングシステムと近赤外カメラにより近赤外域の多波長イメージングシステムを 構築した.

第3章「多成分水溶液の相互拡散と化学反応の分析」では,第2章で構築し たイメージングシステムを用いて濃度測定実験を行い,異なる電解質成分の水 溶液,特に中和反応に関わる水溶液種が拡散するときに生じる溶質間の相互拡 散現象を解析した結果をまとめる.各溶質の拡散による濃度分布の過渡的変化 を測定した結果,初期は各溶質の拡散係数に従って拡散していくが,徐々に拡 散係数が変化し,拡散係数の大きな溶質の拡散係数が減少し,逆に拡散係数の 小さな溶質は増加し,やがて収束した.しかし,各々の拡散係数の収束値は一 致しないことが確認された.さらに,化学反応が生じる場合,生成物と反応物 との相互拡散係数がことなるために生成物の拡散に偏りが生じることを明らか にした.

第4章「溶液間相互作用によって誘起される不安定拡散」では,溶液間の相

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互拡散係数の差異や密度差によって局所的な密度勾配によって生じる不安定な 拡散現象について調査した.密度勾配すなわち発生する浮力の影響は拡散や化 学反応によってポテンシャルが減少し,不安定性を緩和する働きがあることを 実験により明らかにした.また,第3章で明らかとなった溶質間の相互拡散係 数の不一致により実際の拡散速度に差が生まれることで,局所的に密度が不連 続となる部分が生じ不安定化する要因となることがあり,パターン化された対 流拡散を生むことを明らかにした.

第5章「結論」では,本研究で得られた成果を総括し,今後の課題や展望に ついてまとめた.

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