博士(理学)永井 学位論文題名
晃
The Relationship Between Chemlcal Structure and Properties of Fluorine‑Containing lVIaleimides
(含フッ素マレイミドの化学構造と物性との関係)
学位論文内容の要旨
ピスマレイミド化合物は優れた耐熱性を持ち、その三次元硬化物は電子材料として広 く用いられている。ピスマレイミド化合物は不飽和二重結合によるラジカル重合で架橋 硬化物が得られるため、その反応過程で副成物が生じないという利点を有する。これは 耐熱性高分子として知られている縮合型のポリイミド材料と異なる点である。このよう な 特徴を生か し、実装 材料のプ リント板 や繊維補 強材料(FRP)に広く適 用されて い る。特に含フツ素化合物は電気特性、耐熱性の面から優れた電子材料であることが期待 される。含フツ素マレイミド化合物の化学構造と物性との関係を明らかにすることは高 分子科学の分野において重要な研究課題である。
第二章では、まずマレイミド樹脂の硬化条件と物性(ガラス転移温度)の関係を調ペ、
さらにマレイミド二重結合による硬化反応機構を活性化エネルギーの変化と赤外分光法 により明らかにした。マレイミド基、アミノ基、エポキシ基を有する樹脂組成物では、
硬 化主反応が 硬化温度 によって 異なる。 比較的低 温である180℃以下では マレイミ ド の二重結合は主にマイケル付加とよばれるアミノ基の活性化水素と反応であり、比較的 低 い活性化エ ネルギー を有する 。これに 対して180℃ 以上の反 応温度では マレイミ ド 二重結合のラジカル重合が優先的に超き、硬化反応の活性化エネルギ―が大きくなる。
この高温での反応はガラス転移温度の高い高架橋物のマレイミド樹脂の生成に重要に関 与する。この活性化エネルギーから考察した硬化反応機構は赤外分光法により確認する ことができた。
ユ
マレイミド化合物への含フツ素基の導入は低誘電率特性、高耐熱性、及び優れた難燃 性の付与が同時に期待できる。そこで、次に含フツ素化合物の物性、反応性に着目して、
化学構造との関係について調ぺた。
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第 三 章 で は 、 モ デ ル 構 造 と し て 、 フ ウ ニ ル マ レ イ ミ ド 骨 格 に フ ツ 素 基 を 導 入 し た 化 合 物 を 合 成 . し 、 そ の 熱 的 挙 動 に つ い て 示 差 熱 分 析 (DSC) に よ り 調 ぺ た 。 高 含 フ ツ 素 マ レ イ ミ ド 化 合 物 の 合 成 法 と し て は 一 般 的 な 無 水 酢 酸 を 用 い た 化 学 脱 水 閉 環 反 応 に 比 ぺ て 、 酢 酸 溶 媒 中 で の 還 流 反 応 に よ る 熱 脱 水 閉 環 反 応 が 適 し て い る こ と が 分 か っ た 。 こ の 反 応 は 高 温 及 び 長 い 反 応 時 間 を 要 す る が 、 フ ウ ニ ル 基 の す ぺ て が フ ッ 素 で 置 換 さ れ た 化 合 物 も 比 較 的 高 収 率 で 合 成 可 能 で あ る 。 含 フ ツ 素 マ レ イ ミ ド の 融 点 は フ ツ 素 含 量 の 増 加 に と も な い 高 く な る 傾 向 が あ る 。 こ れ は 分 子 量 の 増 加 に よ り 分 子 間 相 互 作 用 が 大 き く な る た め と 考 え ら れ る 。 し か し 、 融 点 は 分 子 の 構 造 の 対 称 性 に よ り 強 く 依 存 し 、 対 称 性 に 優 れ た 化 合 物 は 非 常 に 高 い 融 点 を 有 す る 。 同 じ フ ツ 素 含 量 で も 分 子 の 対 称 性 に よ り 融 点 が 大 き く 異 な る こ と が 分 か っ た 。 二 重 結 合 の 反 応 性 は フ ツ 素 含 量 の 増 加 に よ り 低 下 す る 。 こ れ は フ ツ 素 の 電 子 求 引 性 の 影 響 と 考 え ら れ る が 、 半 経 験 的 量 子 計 算 (MNDO) 法 に よ る 計 算 結 果 で は 二 重 結 合 の 炭 素 の 電 子 密 度 に 及 ば す フ ツ 索 基 の 効 果 は 極 め て 小 さ い 。 こ の 重 合 反 応 性 は 、 ラ ジ カ ル 活 性 種 の 生 成 の 容 易 度 、 即 ち 最 高 占 有 軌 道 (HOMO) と 最 低非 占 有軌 道 (LUMO)と の エネ ル ギ一差と 相関があ ることが 分かった。 またこの 重 合反応性は、分子自身の安定化エネルギ−、即ち化合物の生成エネルギーとも良い相関 を持つ。安定化エネルギーの大きい化合物は、重合反応における活性化が低く、重合開 始温度が高くなる傾向を有する。即ち、含フツ素マレイミドの二重結合の熱重合反応性 の低下は置換基の電子求引性の効果ではなく、ラジカル活性種の生成の容易度あるいは 化 合 物 の 安 定 性 に よ り 解 釈 で き る こ と が 、 モ デ ル 化 合 物 の 結 果 か ら 分 かっ た 。 第三章での分子構造の王ネルギ―計算結果、フウニル基の両方のオルト位がフツ素基 で置換された高含フツ素化合物は他の低含フツ素化合物と大きく異なった値が得られた。
この計算結果の相違は安定な化学構造の違いによると推定される。そこで、第四章では 分子構造の安定性についてさらに詳細に調ぺた。フウニルマレイミド構造は局所的な安 定構造としてニつの環のねじれ角の違いにより二種類の構造が考えられる。これはフェ ニル基と マレイミド 基が同一 平面であ る構造と90°ねじれ た構造である。このニつの 構造を固定条件として、分子の安定化エネルギ―について調ぺた。その結果、含フツ素 フウニルマレイミド化合物はニつのグループに分類できる。フェニル基の両方のオルト
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位 がフ ツ 素 基 で置 換 さ れた 高 含 フツ 素 化 合物 は そ の立 体 障害 のため 、ねじれ た構造 の方 が 平面 構 . 造よ り 安 定で あ る 。こ れ に 対 して、低 含フツ素 化合物 では兀電 子の非 局在化に よ る 共 鳴効 果 の ため 平 面 構造 の 方 がェ ネ ル ギ― 的 に よ り安 定 で ある 。 こ の構 造 の 違い に つ い て 光物 性 測 定に よ り 確認 し た 。紫 外 一 可視 吸 収 ス ペク ト ル と蛍 光 発 光ス ペ ク トル に つ い て 調べ た 。 溶液 中 の 測定 結 果 であ る が 、そ れ ぞ れ のス ペ ク トル は 化 合物 の 違 いに よ り ニ つ のグ ル ― プに 分 類 でき 、 エ ネル ギ ー 計算 に よ る グル ― プ の分 類 結 果と 一 致 する こ と が 分 か っ た 。 紫 外 一 可 視 吸 収 で はn ‑冗* 遷 移 に 起因 す る 吸収 挙 動 がグ ル ー プに よ っ て 異 な る。 ま た 蛍光 測 定 では 最 大 発光 強 度 を示 す 波 長 が異 な る 。高 含 フ ツ素 化 合 物で は モ ノ マ ―に よ る 発光 で あ るの に 対 して 、 低 含フ ツ 素 化 合物 で は 平面 構 造 が安 定 で ある た め ェ キ シマ ー に 代表 さ れ るよ う な 何ら か の 電荷 移 動 が 超き て お り、 そ の 結果 長 波 長側 に 発 光 挙 動が 大 き くシ フ 卜 する 。 蛍 光ス ペ ク トル の 励 起 工ネ ル ギ 一依 存 性 から も こ れら の 結 果を 支 持 して い る 。
第 五 章 で は 、第 三 章 のモ デ ル 化合 物 に よる 解 析 結 果を も と に、 含 フ ツ素 ピ ス マレ イ ミ ド 化 合 物の 融 解 挙動 及 び 熱重 合 反 応性 に つ いて 調 ぺ た 。ビ ス マ レイ ミ ド の融 点 は フツ 素 基 の導 入 に より 低 く なる 。 こ れは モ ル 融 解熱及び モルエン トロピ ーの結果 から判 断して、
分 子 間 相互 作 用 の低 下 に よる た め と考 え ら れる 。 重 合 開始 温 度 はフ ツ 素 含量 の 増 加に 伴 い 、高 く な る。 即 ち フツ 素 基 の導 入 に よ り反応性 が低下す る。こ 、れはモ デル化 合物の解 析 結 果 と同 様 に 、ラ ジ カ ル活 性 種 の生 成 容 易度 及 ぴ 分 子自 身 の 安定 性 で 解釈 で き る。 こ れ ら の 相関 関 係 はモ デ ル 化合 物 の 関係 式 と よく 一 致 す る。 ま た この 熱 重 合反 応 は 生成 物 で あ る ラジ カ ル 活性 種 が 生長 反 応 の触 媒 と なる た め 、 自己 触 媒 反応 と し て解 析 す るこ と が で き る。 そ の 結果 、 モ ル重 合 熱 は通 常 の ビニ ル モ ノ マの 値 と ほぼ 同 じ で、 反 応 速度 は 反 応初 期 段 階、 即 ち 反応 度0.3―0.4の 時最 大となる ことが 分かった 。含フ ッ素ピス マレ イ ミ ド 化合 物 か ら得 ら れ る硬 化 物 は、 電 気 特性 及 び 耐 熱性 の 向 上が 図 れ るこ と が 分か っ た 。フ ツ 素 置換 基 の 導入 に よ り、 低 誘 電 率、高熱 分解温度 特性を 示す。以 上の結 果から、
含 フ ツ 素ビ ス マ レイ ミ ド 硬化 物 は 電子 材 料 とし て 優 れ た特 性 が 期待 で き 、今 後 広 く用 途 展 開が 図 ら れて い く と考 え ら れる 。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
The Relationship Between Chemical Structure and Properties of Fluorine―Containing Maleimides (合フッ素マレイミドの化学構造と物性との関係)
ピス マレイミド の三次元 硬化物は 優れた耐 熱性を持ち、反応過程で揮発性化合物や 水な どのいかな る副生成 物も生じ ないので 、空孔が生せずや吸湿の影響がないため、
電子 材料として 広く用い られてい る。しか し、マレイミド三次元硬化物の生成過程、
構造 、物性にっ いての基 礎的研究 はほとん どされていない。含フッ素マレイミドは、
C−F結 合 の結 合 エ ネル ギーが高く 、ボンド 分極率が 小さいの で、耐熱 性、電気 特性 の面 から優れた 電子材料 であるこ とが期待 される。本論文は、その生成過程、構造、
物 性 に っ い て の 基 礎 的 研 究 に 関 す る も の で 、 6章 か ら な っ て い る 。 第 1章 は 本 論 文 の 目 的 と 各 章 の 目 的 に っ い て 要 約 し た も の で あ る 。 第2章 では、マレ イミド樹 脂の硬化 条件と物 性(ガラ ス転移温 度)の関係 にっいて 述べ ている。マ レイミド 二重結合 による硬 化反応機構を反応の活性化エネルギ―と赤 外分 光法による 構造変化 の解析に より明ら かにした 。
ビス マ レイ ミ ド を可 塑 性を 付 加 する た めに 加 え たジァミ ンと反応 させると 、180
℃以 下ではマレ イミドの 二重結合 部分がマ イケル付加機構でアミ丿基の活性化水素と 反 応し 、180℃以 上 で マレ イ ミド 二 重 結合 の ラジ カ ル 重合 反 応が 起 こ り、4員 環 、
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男 一
彦
邦 清
晧
地 倉
岸
引 戸
山
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
6員環を含む剛直なネットワーク構造をっくることがわかった。ビスマレイミドは低 温域と高温域で2っの異なる反応過程を示し、ガラス転移温度の高いマレイミド3次 元硬化物を生成するためには180℃以上の高温で硬化反応を行う必要があることを 見いだした。
第3章では、フッ素含量を種々変えられるモデル化合物として、フェニルマレイミ ドのフ、エニル基にフッ素を導入した1フッ素置換体から5フッ素置換体までの種々の 含フッ素フェニルマレイミド化合物を合成し、熱重合反応を行った結果にっいて述べ ている。これら合フッ素マレイミドの重合開始温度|まフッ素含量の増加と共に高くな った。この理由はフッ素の電子求引性のため二重結合部分の電子密度が低下するため と考えら れたが、半 経験的分子軌道計算(MNDO)の結果、電子密度はフッ素含量 に よ っ て ほ と ん ど 変 ら ず 、 最 高 占 有 軌 道(HOMO) と 最 低 非 占 有 軌 道(LUMO) のエネルギ一差が大きいほど重合開始温度が高いことがわかった。また、分子力学計 算(MM2)か らもとめた モノマーの 安定化エネ ルギ―が重合開始温度と直線関係に あることを見いだした。
第4章では分子構造の安定性にっいてさらに詳細に述べている。フェニルマレイミ ドは安定構造として、フェニル基とマレイミド基が同一平面である構造と900ねじ れた構造が考えられる。このニっの構造を固定条件として、分子の安定構造を調べた。
その結果、フェニル基の両方のオルト位がフッ素で置換された高含フッ素化合物はそ 、
の立体障害のため、ねじれた構造の方が平面構造より安定であることがわかった。こ れに対して、低含フッ素化合物ではだ電子の非局在化による共鳴効果のため平面構造 の方がエネルギ一的により安定である。この構造の違,いを、紫外―可視吸収スペクト ルと蛍光発光スペクトルにより確認した。
第5章では、工業的に得られる種々の3フッ化メチルマレイミドにっいて、モデル 化合物と同様な計算を行った結果にっいてのべている。重合開始温度がモデル化合物 のデ ー タと と も に、HOMO、LUMOの エ ネル ギ 一差 と 同じ 直 線で 表 さ れ、熱重 合 の反応性がラジカル活性種の生成の容易さによって決まることが明らかになった。こ の熱重合反応は生成物であるラジカル活性種が生長反応の触媒となるため、自己触媒 反応として解析することができ、モル重合熱は通常のピニルモノマーの値とほば同じ であることがわかった。得られた含フッ素マレイミド熱硬化物は、比誘電率2.8の低
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誘 電 率 、577℃ の高 い熱 分解 温度 を示 した 。比 誘電率 は構 成成 分の モル 分極 率、 モ ル 体 積 か ら ク ラ ウ ジ ウ ス ― モ ソ ッ テ ィ の 式 で 求 め た 値 と 一 致 し た 。 第6章は各章で得られた結諭をまとめたものである。
本論 文は 、優 れた 電子 材料 を設 計する 際に 、で きる だけ 小さ な誘 電率を示し、HO MO、LUMOの エ ネ ル ギ 一 差 の 大 き な 、 か っ 安 定 な 配 座 を も っ マ レ イ ミ ド を 検 索す る 指針 を与 えた点で高く評価される。参考論文はいずれも本論文に関係したものであ る。審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を得る充分な資格をもっものと認めた。
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