博 士 学 位 論 文
内 容 の 要 旨 お よ び 審 査 結 果 の 要 旨
令和
4年
3月
近 畿 大 学 大 学 院
医 学 研 究 科
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
1)論文内容の要旨
【目的】Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は、プラスミノーゲンアクチベーターの活性 を抑制し、線維素溶解を阻害するセリンプロテアーゼ阻害剤である。PAI-1は脂肪組織で産生され るアディポカインとして、心血管疾患、糖尿病、骨粗鬆症などの疾患に関与していることも知られ ている。また、糖尿病は、さまざまな合併症を引き起こし、糖尿病病態はサルコペニアに関わるこ とも知られている。しかし、糖尿病で見られるサルコペニアの詳細なメカニズムは解明されていな い。本研究では、ストレプトゾトシン(STZ)で糖尿病を誘発したPAI-1欠損(KO)雌または雄マウス を使用して、糖尿病病態によって誘発される筋量と握力の減少への内因性PAI-1の役割を検討し た。
【方法】8週齢の雌または雄の野生型およびPAI-1欠損マウスにSTZを腹腔内投与し、血糖が 300mg/dL以上のマウスを糖尿病とした。糖尿病誘発後4週間飼育し、四肢握力と、定量的CTにて下 肢の筋量を測定した。両下肢の前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋の筋組織を採取し、重量と筋線維の断 面積を定量した。リアルタイムPCR解析を用いてmRNA発現量を測定した。
【結果】雌マウスの検討で、STZ投与の有無に関わらず、PAI-1欠損は、下肢筋量、筋重量、筋線維 断面積に影響を及ぼさなかった。PAI-1欠損は、雌マウスでは、糖尿病病態による握力低下を有意 に増強させたが、雄マウスでは、糖尿病病態による下肢筋量や握力の低下には影響を及ぼさなかっ た。さらに、雌マウスの検討で、PAI-1欠損は、糖尿病病態による筋分化マーカーの発現量低下に 影響を及ぼさなかった。マイオカイン発現については、PAI-1欠損は前脛骨筋とヒラメ筋のFNDC5発 現量を有意に低下させ、糖尿病病態の前脛骨筋のみでIGF-1発現量を有意に増加させた。さらに、
PAI-1欠損は、STZ投与の有無に関わらず前脛骨筋でのFGF-2発現量を有意に増加させた。
【考察】PAI-1欠損が、雌マウスでのみSTZによって誘発された握力低下を有意に増強させたことか ら、内因性PAI-1は、雌マウスの糖尿病誘発性筋力低下において保護的役割を果たすが、その作用 には性差が存在すると推測された。一方、PAI-1欠損がSTZによる筋量低下に影響を及ぼさなかった ことから、内因性PAI-1は、筋量の調節には関与しないことが示唆された。
【結論】PAI-1欠損は、糖尿病により減少した筋量には影響を及ぼさなかったものの、雌マウスの 糖尿病状態によって損なわれた握力をさらに悪化させることを初めて明らかにした。
本論文は、糖尿病誘発性サルコペニアの機序の解明を目的とし、糖尿病によって誘発される筋量と 握力の低下への内因性PAI-1の役割について論じており、独創性の高い研究論文である。糖尿病誘 発性サルコペニアに対していくつかのアディポカインの関与が報告されているが、PAI-1の関与に ついては報告がない。我が国における糖尿病患者数は、予備軍も含めて1650万人にもおよぶといわ れており、糖尿病誘発性サルコペニアの発症機序の解明は、これによるADL低下を防ぐことに繋が るため、臨床的重要性は増すことが予測でき、その病態解明は急務である。すなわち、本論文は基 礎的にも臨床的にも意義のある内容であるといえる。
2)審査結果の要旨
本論文に対する最終試験は、令和3年12月27日の17時30分から小講堂で実施された。
申請者は、歯科口腔外科臨床医でもあり、日常臨床において経験する顎骨壊死、歯科インプラント 手術、抜歯手術などに際して、糖尿病患者の合併症誘発メカニズムに興味を抱いたことが研究活動 の動機である。臨床で生じた疑問点を、基礎研究で解明しようとする基本的姿勢は評価に値する。
最終試験では、まず、申請者が、本研究を行うに至った背景、対象と方法、結果と考察を口頭で発 表し、それに対し、主査である芦田、副主査である池上、重吉両教授がいくつかの疑問点を質問し た。重吉教授からは、PAI-1欠損による糖尿病による握力低下の増強が雌でのみ観察された理由と エストロゲンのは関与するのかどうか、マウスの握力そのものに性差は存在するのか、PAI-1への 骨格筋への作用のメカニズムについて、前脛骨筋でマイオカイン発現に差がでたのはなぜか、など の質問があった。池上教授からも、STZ投与でPAI-1の増加は見られるか、糖尿病で 血中PAI-1が増 加するメカニズムについて、PAI-1欠損による糖尿病誘導性握力低下の増強における血中で増加す るPAI-1と内因性PAI-1の寄与のどちらが重要か、さらには、性差がマウスのS T Z感受性に影響し たのかどうか、糖尿病の長期的な影響はどのように考えるか、今回の結果をヒトに当てはめると臨 床的にどのように反映することができるかなどが質問された。
一方、主査の芦田からも筋力低下に性差があるという報告はあるのか、PAI-1を外因性に投与する とどうなるか、について質した。これらの多方面な質問に対し、申請者は過去の報告と自身の研究 結果を照らし合わせ、具体的にかつ極めて的確に応答した。これらの最終試験の内容および論文内 容から、学位論文が筋骨格系、血液の分野で、独創的な有意義な研究であることが確認された。ま た申請者が専門分野に関して申し分ない専門的知識・能力を持っていることが確認された。さら に、申請者が優れた研究の計画、遂行、データ解析、論文執筆能力を有し、今後、研究者として独 立して、自ら研究を遂行し、新たな研究者を指導する能力を有することが確認された。以上の理由 から、主査・副査は合議の上、提出された学位論文が確かに申請者の研究成果であること、学位授 与にふさわしい人格、博識と研究指導能力も合わせて持つものと判断し、最終試験を合格と判断し た。
3)最終試験の結果:
合格
4)学位授与の可否:
可