博 士 ( 理 学 ) 大 平 万 里
学 位 論 文 題 名
Studies on the Protein Molecules of Nuclear Envelopes and Their Physiological Changes in Mung Bean Seedlings
( ヤ エ ナリ 実 生の 核 膜 を構 成す るタンパク 質分子
お よ び それ ら の生 理 学 的変動に 関する研究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年、植 物細胞 におい ても、分 子生物 学の発展とともに、DNAの複製装置、転写装置、発 現調節因子などについて研究が進められている。しかし、核膜を中心とする、核の構造・機能 をっかさどる要素については、研究の蓄積が少ない。本研究では、植物細胞核の核膜に注目し、
そこに含まれるタンパク質分子を同定し、それらの生化学的な性質ならびに細胞生理学的な特 徴を解析することとした。その結果、数種類の特徴的なタンパク質分子を同定することができ、
その中でも量的に多い糖タンパク質分子の生化学的性質と生理学的性質について詳しい解析を 行った。
本研究ではヤエナリ(Vigna radiata L.)黄化実生の胚軸を実験材料とした。はじめに、
胚軸組織から比較的多量の核を単離する方法を検討し、ショ糖およびPercollを用いた遠心分 離法により、粗核画分から高純度の核を調製する方法を確立した。さらに、精製した核から核 膜画分を分離する方法も確立した。こうして得られた核膜画分のタンパク質成分にっいて生化 学 的解析 をおこな い、以 下に述 べる特 徴的な 数種類のタンパク質を同定した。(1)10種類 以 上 の タ ン パ ク 質 はATP存 在 下 で り ン 酸 化 さ れ 、 中 で も 分 子 サ イ ズ28kDaと24kDa のタンパク質はカルシウムイオンに依存したりン酸化を受ける。 (2) Stams‐aH による 染 色 に よ ル カ ル シ ウ ム イ オ ン 結 合 性 タ ン パ ク 質 を 検 索 し 、100kDa,42kDa,40 kDaの3種のタ ンパク 質を同 定した 。そし て、これ らがカ ルシウ ム結合能を持つことを放射 性 標 識 カ ル シ ウ ム45Caを 用 い て 確 認 し た 。 (3) 核 膜 画 分 に は50kDa、49kDa、 47kDa,43kDa、35kDa、32kDaの6種 類 の 糖 タ ン ノ く ク 質 が 含 ま れ る 。 こ れ ら の 糖 タン パ ク 質 は糖 結 合 性 タン パ ク 質ConcanavabAに よっ て 認 識 され 、M結 合型( ア ス パ ラ ギン 残 基 の 窒素 原 子 を 介し た 結 合 )の 糖 タ ン パク 質 で あ った 。 (4)32kDa,19 kDa,18kDaの3種 の タン パ ク 質 は、 〇 − 結 合型 ( セ リ ン、 ス レ オ ニン の 水 酸 基の 酸 素 原子を介した結合)の糖鎖を持つ糖タンパク質であった。
こ れ ら 特 徴 あ る タ ン パ ク 質 の 中 か ら 、 | い 結 合 型 の 糖 鎖 を 持 つ50kDaと49kDa の 糖 タ ンパ ク 質 を とり あ げ 、gp50、gp49と名 付 け る とと も に 、 さら に 詳 し く分 子レベ ル で の 解析 を 行 っ た。 そ こ で まず 、gp50とgp49に 対 する 特 異 抗 体を 調 製 し 、生 化学的 手 法で分 析したと ころ、次の結果が得られた。(1)2つの糖タンパク質は、小胞体膜、細胞 質膜、ミトコンドリア膜、液胞膜などには検出されず、核膜画分でのみ特異的に検出された。
(2)2つ の糖タ ンパク 質は核 膜を0.5M以 上の高 濃度の 塩化カ リウムで処理することによっ て核 膜から 遊離した 。(3)2つの分 子はConcanavalinA以外 のレク チンと は反応し なかっ た。また、〃.結合型糖鎖に作用する糖鎖切断酵素により糖鎖は消失し、分子サイズは各々約1 kDa分 だ け 減 少 し た 。 こ の こ と か ら 、gp50とgp49は マ ン ノ ー ス を 主 と す る6〜7個 のへキソースを糖鎖成分としていると推定される。そして、糖鎖の種類から2つの糖タンパク 質はendoplasmic reticulumで合成され、糖鎖修飾を受けた後、核膜に局在するものと考えら れ る 。 ( 4) ゲ ル ろ 過 法 に よ る 分 析 か ら 、gp50とgp49は140kDaの 複 合 体 の 一 部 として 存在す る事が推定された。(5)これらの2つの糖タンパク質に類似したタンパク質が ダイズ(Glycjne max L.)、アズキ(Phaseolus angu′a広L.)にも存在することも明らかになっ た 。gp50とgp49は 上 記 の 性質 を 共 有 する こ と か ら、2つの ア イ ソ フオ ー ム の 関係 に あ ると 推 定 さ れる 。 さ ら に、gp50は、 細胞分 裂直後 の若い細 胞より も分裂 後2、3日 経過し た成熟細胞の下胚軸に多いことも見いだした。
これらの生化学的性質に加え、ヤエナリ子葉に大量に存在する種子タンパク質とヤエナリ 下胚 軸 に あ るこ のgp50(gp49も 含 む )と が 類 似 して い る こ とを 見 い だ した 。こ の子葉 タ ン パ ク 質 を 便 宜 上csp50と し た 。 (1)gp50に 対 す る 抗 体 はcsp50と 反 応 す る 。
(2) プ ロ テ ア ー ゼ 処 理 に よ っ て 得 ら れ るgp50とcsp50の ペ プチ ド 断 片 は大 部 分 が 一 致 す る 。 (3) 胚 軸 のgp50の ア ミ ノ 末 端 側 の22個 の ア ミ ノ 酸 残 基 の う ち18残基 がcs p50と 一 致 す る 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、gp50は 種 子賭 ワ 或 タ ンパ ク 質csp50と 同 じ ファ ミリーに属する分子種である可能性が示唆された。
これま での研 究で得られた結果のみから、胚軸の核膜画分に見いだされた糖タンパク質 gp50の細 胞内で の機能 を確定 するこ とは困 難である が、そ の役割 として 次の2つ の可能 性 が考え られる 。ひと っは、 成熟細胞 におい てgp50が 核膜の 二重膜構造を内側から支える役 割。もうーっは、発芽後期に子葉から胚軸に供給される余剰分のアミノ酸を貯蔵タンパク質と して 蓄 え る 役割 。 ま た 、呂p50に 含 ま れる 比 較 的 短い糖 鎖の役 割とし ては、gp50の細胞 内輸送 、局在 化のシ グナル 、あるい はgp50を タンパ ク質分 解や化学修飾から保護する機能 などが 考えら れる。 今後こ れらの可 能性を 検討す るため には、gp50の全一次構造の解明、
免 疫 組 織 化 学 的 手 法 を 用 い た 詳 細 な 局 在 部 位 の 解 析 な ど が 必 要 で あ る 。 本 研 究 に よ り 明 ら か に さ れ た 、 カ ル シ ウ ム 結 合 タ ン パ ク 質 (100kDa,42kda、 40kDa) 、 リ ン 酸 化 タ ン パ ク 質 ( 28kDa、24kda) 、 そ し て 糖 タ ン パ ク 質 (50 kDa,49kDa、47kDa、43kDa、35kDa、32kDa、19kDa、18
kDa)は、 細胞周 期、生 長、分 化、老 化および環境に対する生理応答に伴った遺伝情報の発 現調節、細胞内輸送と局在における核膜の機能を分子レベルで研究するための基礎となるもの である。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 吉 田 静 夫 副 査 教 授 落 合 廣
副査 助教授 福永典之
副査 助教授 前島正義(名古屋大学大学院農学研究科)
学 位 論 文 題 名
Studies on the Protein Molecules of Nuclear Envelopes and Their Physiological Changes in Mung Bean Seedlings
(ヤエナリ実生の核膜を構成するタンパク質分子 およびそれらの生理学的変動に関する研究)
近年、植 物細胞 におい ても、 分子生 物学の 発展とともに、DNAの複製装置、転写装置、
発現調節因子などについて研究が進められている。しかし、核膜を中心とする、核の構造・機 能をっかさどる要素については、研究の蓄積が少ない。本論文では、ヤエナリ( Vigna raロぬぬ L.)黄化実生の胚軸から得られた細胞核の核膜に注目し、そこに含まれるタンパク質分子を同定 し 、 そ れ ら の 生 化 学 的 な 性 質 な ら ぴ に 細 胞 生 理 学 的 な 特 徴 を 解 析 し た 。 はじめに 、胚軸 組織か ら比較的多量の核を単離する方法を検討し、ショ糖およびPe恥ou を用いた遠心分離法により、粗核画分から高純度の核を調製する方法を確立した。さらに、精 製した核から核膜画分を分離する方法も確立した。こうして得られた核膜画分のタンパク質成 分について生化学的解析をおこない、以下に述ぺる特徴的な数種類のタンパク質を同定した。
(1)10種 類 以 上 の タ ン パ ク 質 がATP存 在 下 で り ン 酸 化 さ れ 、 分 子 サ イ ズ28kDaと 24kDaのタン パク質は カルシ ウムイ オンに 依存し たりン酸化を受けた。(2) Sta血s.aぴ に よ る 染 色 に よ ル カ ル シ ウ ム イ オ ン 結 合 性 タ ン パ ク 質 を 検 索 し 、100kDa,42kDa, 40kDaの3種 の タ ン パ ク 質 を 同 定 し た 。 (3) 核 膜 画 分 に はC0ncanavabAに よ っ て 認 織される50kDa、49kDa、47kDa,43kDa、35kDa、32kDaの6種
類 の 」 い 結 合 型 の 糖 タ ン パ ク 質 が 存 在 す る 。 (4)32kDa,19kDa,18kDaの3 種 の タ ン パ ク 質 は 、 〇 ・ 結 合 型 の 糖 鎖 を 持 つ 糖 タ ン パ ク 質 で あ っ た 。 こ れ ら 特 徴 あ る タ ン パ ク 質 の 中 か ら 、 | い 結 合 型 の 糖 鎖 を 持 つ50kDaと49kDa の 糖 タ ン ノく ク 質 を とり あ げ 、gp50、gp49と名 付ける とともに 、さら に詳し く分子 レベ ル で の 解 析を 行 っ た 。そ こ で 、gp50とgp49に対 す る 特 異抗 体 を 調 製し 、 生 化 学的 手 法 で 分析し たとこ ろ、次 の結果 が得られた。(1)2つの糖タンパク質は、核膜画分でのみ特異 的 に検出 され、 他のオ ルガネ ラ膜では検出されなかった。(2)2つの糖タンパク質は核膜を O.5M以 上 の高 濃 度 の 塩処 理 を す るこ と に よ って 核 膜 か ら遊 離 した。(3)2つ の分子は ConcanavむnA以 外のレ クチン とは反 応しな かった 。(4) ゲルろ 過法に よる分析 から、 こ れ ら ニ っ の糖 タ ン パ ク質 は 約140kDaの 複 合 体 の一 部 と し て存 在 す る 事が 推 定 さ れた 。
(5)これらの2つ の糖タンパク質に類似したタンパク質がダイズ( Glycine max L.)、アズキ
(Phaseo´エzsa丑餌zなrおL.)にも存在す ることも明らかになった。gp50とgp49は上記の 性質 を 共有 する こと か ら、2つの ア イソ フオ ームの関係にあると 推定される。さらにgp50 は、細胞分裂直後 の若い細胞よりも分裂後2、3日経過した成熟細胞に多いことも見いだした。
これらの生化 学的性質に加え、ヤエナリ子葉に大量に存在する種子タンパク質とヤエナリ 胚 軸 に あ る こ のgp50(gp49も 含 む )と が類 似 して いる こと を 見い だし た。 この 子 葉タ ン パ ク 質 を 便 宜 上csp50と し た 。 (1)gp50に 対 す る 抗 体 はcsp50と 反 応 す る 。
(2) プ ロ テ ア ー ゼ 処 理 に よ っ て 得 ら れ るgp50とcsp50の ぺ プ チ ド 断 片 は 大 部 分 が 一 致 す る 。 (3) 胚 軸 のgp50の ア ミ ノ 末 端 側 の22個 の ア ミ ノ 酸 残 基 の う ち18残 基 が csp50と 一 致 す る 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、gp50は 種 子 貯 蔵 タ ン パ ク 質csp50と 同 じ ファミリーに属す る分子種である可能性が示 唆された。
こ れら の糖 タン パク質の役割と して、ひとっは、成熟細胞に おいてgp50が核膜の二重 膜構造を内側から 支える役割、もうーっは、発芽後期に子葉から胚軸に供給される余剰分のア ミノ酸を貯蔵タン パク質として蓄える役割などが考えられる。今後これらの可能性を検討する ため に は、gp50の全 一次構造の解明 、免疫組織化学的手法を用い た詳細な局在部位の解析 などが必要である 。
本論文で明ら かになった、植物の核膜におけるカルシウム結合タンパク質、リン酸化タン パク質そして糖タ ンパク質の存在は、細胞周期、生長、分化、老化および環境に対する生理応 答に伴った遺伝情 報の発現調節、細胞内輸送と局在における核膜の機能を分子レベルで研究す るための基礎とな るものである。本論文の主要な部分は国際的な英文誌に公表され、国内外か ら高い評価を受け ている。去る1月29日に公開 発表と最終試験が行われ、 審査員一同は申請 者が 北 海道 大学 博士 ( 理学 )の 学位 を授 与 され るに 十分 な資 格 を有 するものと認めた。
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