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博 士 ( 理 学 ) 大 槻 一 雅

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 理 学 ) 大 槻 一 雅

学 位 論 文 題 名

反 陽 子 p と He 原 子 と の 反 応 過 程 の 理 論 的 研 究

学 位 論 文 内容 の 要 旨

  序)1991年 に液体He原子中 に打ち込まれた反陽子pの一部がただちに対消滅することなく,長い時闇 に渡って(準)安定に存在していることが実験的に初めて発見された(図1),反物質が物質中においそ長 い寿命を持っということは,これまでの常識では考えられないことである.反陽子が物質中に存在する と,近傍の原子をイオン化し,そのクー口ン場に束縛される.その後,短時間の内に速いオージェ遷移 によって原子内に残っている電子を次々に放出しながら脱励起し,最終的に原子核に吸収され対消滅す るもの と考え られてき た.し かし,かってCandoはHe原子に捕獲された反陽子のうち,非常に大きな角 運動量の軌道を占めるものはオージェ遷移が起こり難く,輻射遷移によってのみ脱励起が可能であると の仮説を立てた..この仮説を基にRussellが理論計算を行い,少なくとも古典的円軌道のとき角運動量 が 31以 上 で あ れ ば オ ー ジ ェ 遷 移 は 輻 射 遷 移 よ り も 起 こ り 難 い こ と を 示 し た .

  本研究 の目的 )観測 された陽子・反陽子対消滅の時間スベクトルの長寿命成分が,Condoがいうよう に,反陽子原子pHe゛の準安定状態の存在によるものである可能性が最も高いが,しかし実験的にはそれ を裏付けるような証拠(輻射遷移で放出される光子等)は未だ観測されていない.Russellの計算はたし かに先駆的ではあったが,計算手法は定性的にも不十分なものであり,また計算を行った状態が限られ ているために理論的に時間スペク卜ルが再現できるかどうかを試みることもできない.そこで本研究で は,考えられる反陽子とHe原子との様々な反応過程の中から基本的な素過程t捕獲,輻射遷移,オージェ 遷移)に関してab initio計算によって定性的,定量的な知見を得,それらによって観測された時間スペ ク卜ルが再現で巻るかどうかを検証する,

  捕獲過程)反陽子とHe原子との衝突は電子状態(He,He゛)は原子基底の2準位近似により記述し,反陽 子とHe原子核との相対運動は古典的に記述する半古典近似(衝突径数法)を用いて扱い,He.に束縛され た反陽 子が占める軌道の主量子数と角運動量についてその分布を調べた.反陽子とHe原子との距離があ る程度 近付くと反陽子と電子の反発カのために電子エネルギ―がHe.イオンのそれよりも高くなり,一 方の電 子がただちに放出され反陽子が捕獲される,放出される電子の運動エネルギーは極く小さく,反 陽子が 失うエネルギーの大きさはHe原子自身のイオン化エネルギ―にほぼ等しい.捕獲された反陽子の 主量子 数Nは35あ るいはL+1以上に 分布可能であるが,最も寿命が長くなると思われるN=L+Iの古典的円 軌道に 分布でき るのはL=36N43の場 合であ る.捕 獲され た反陽子の分布の全体像は図Zのようになる.

(2)

  ‐pHe゛ の構造 とエネ ルギ ー準位 )反陽 子の質 量に注目すると−pHe゛には1電子の異核2原子分子(HHe2゛)と し て 考 え る こ と が で きる , こ の 系 のェ ネ ル ギ ー と 波動 関 数 は 断 熱近 似 を 用 い ,電 子 状 態 と 核の 運 動 を 分 離 し て 求め た . 電 子 状 態は 各i( 〓O〜5) に っき10個の スレー ター型 関数 を用い て展開 した. 各粒 子の電 荷 の関 係か ら核問 距離が0と ∞の極 限で電 子エ ネルギ ーはそ れぞれH(ls)とHe゛(ls) のエネルギーに等しい.

電 子 と 反陽 子 と の 相 関 は核 間 距 離 が 胎O.56ao付 近 で 最 も大 き く な り ,電 子 は 反 陽 子 を避 け よう として そ の 軌 道 は著 し く 歪 む . 反陽 子 とHe原 子 核 と の 間 のポ テ ン シ ャ ルが ク ー口 ン弓 |カで あるた めに, 反陽子 の 振 動 ・ 回 転 励 起 状 態 は無 限 個 存 在 し, そ の エ ネ ル ギー 準 位 の 構 造と 波 動 関 数 は分 子 よ り も 原子 の そ れ に 類似 して いる. また, 振動状 態と 回転状 態とを 分離す ること はで きなぃ ヽ.

  輻 射 遷 移 確 率 ) 反 陽子 と の 相 関 のた め に 電 子 の軌 道 は 歪 み 電 子の 電 荷 分 布 に偏 り が 生 じ るが , こ れ に よ っ て 電 子 に 誘 起 さ れ る電 気 双 極 子 モ ーメ ン ト は 反 陽子 の 双 極 子 モー メ ン ト と は反 対 方 向 を 向 いて い る た め に , −pHe. と し ての 遷 移 モ ー メン ト は 減 少 し, 輻 射遷 移の 確率は 小さく なる. 舶38, い37から 終状 態 肚37,L=36へ の 輻射 遷 移 確 率 は電 子 の 双 極 子 モー メ ン ト を 考慮 し な い と きに 比ぺ ておよ そ30X程度 に抑制 さ れ る . 角 運動 量Eが30以 上 の 各 状 態で は 輻 射 遷 移に つ い て 少 なく と も1usec以 上 の 寿命 を 持 つ . (図3)   オ ー ジ ェ遷 移 確 率 ) 反陽 子 が 励 起 状態 に あ る −pHe゛ のす べての エネル ギ一準 位はpdイオン の状態 に対 し て 自 動 イ オ ン化 状 態 に な って い る . た だ し, 水 素 型 一pdイ オ ン の 主量 子 数 が39以上 ではエ ネルギ ーがHe゛

(ls) よ りも 高 く な り ,オ ー ジ ェ 遷 移の 終 状 態 と は成 り 得 な い . オー ジ ェ 遷 移は束 縛状 態と連 続状態 との 配 置 問 相 互 作用 (CI) とし て 表 さ れ るた め に , 断 熱近 似 に よ っ て 得ら れ た 反 陽子の 振動 ・回転 波動関 数を 基 にCI計 算 を 行 い , 束縛 状 態 と 連 続状 態 と の 結 合の 強 さ を 直 接 評価 し た . オ ージ ェ 遷 移 確 率の 大 き さ は 終 状 態 で の 電子 お よ び 反 陽子 の 角 運 動 量 変化dlの 大き さ に 著 し く 依存 し て い る .甜 =3の 場 合に は オ ージ エ 遷 移 は 輻 射遷 移 に 比 べ て圧 倒 的 に 速 く ,こ の よ う な 状態 は 準 安 定 には 成 り 得 な い. 小 〓4で 輻射 遷 移と 同 程 度 の 確 率 と な り , 甜 ≧5の 場 合 に は オ ― ジ ェ 遷 移 は ほ と ん ど 起 こ ら な い と 考 え て よ い . ( 図4)   時 間 ス ペク ト ル ) 衝 突に よ っ て 生 成さ れ た −pHe゛ で の反 陽子の 状態の 初期分 布, 各準位 の輻射 遷移確 率 と オ ― ジ ェ 遷 移 確 率 と を用 い て 対 消 滅 に対 す る シ ュ ミレ ー シ ョ ン 計算 を 行 っ た .本 研 究 で は 直 接考 慮 は し な か っ た が, 生 成 後 の −pHe゛ とHe原 子 と の 衝突 に よ る効 果を初 期分布 におけ る角 運動量 を制限 するバ ラ メ ー夕工 〜ー として 導入し た.工 〜x=37〜39のときに実験から得られた長寿命蚕He゛の寿命(3〜4usec)と,全 消 滅 数 に お ける 長 寿 命 成 分の 割 合 (3X) と を 再 現 した ( 図5). また, どの様 な実験 条件 におい ても時 間ス ベ ク 卜 ル に 現 れ る 長 寿 命 成 分 の 定 性 的 な 特 徴 , 長 寿 命成 分 は 単 一 の指 数 関 数 的 に 減少 す る の で はな くZ つ の 傾 き を 持っ こ と もLーー に 関 わ ら ず再 現 し て い る .こ れ ら か ら 観測 さ れ た 長 寿命 反 陽 子 は 間違 い なく 反 暢 子 原 子pHe. の 準 安定 状 態 に お いて 何 回 か の 輻射 遷 移 を 起 こし た も の で あ るこ と が 確 認 され た . 本研 究 で は さ ら に レ ー ザ ー によ る 誘 導 遷 移 に対 す る 応 答 も調 べ た . 準 安定 状 態 か ら 速い オ ― ジ ェ 遷 移の 状 態 ヘ 誘 導 遷 移 され る と 時 間 スペ ク ト ル に 鋭 いピ ー ク が 現 れる ( 図6) .こ の ピ ー ク の存 在 そ の も のは 実 験的 に −pHe^ の 準 安 定 状 態の 存 在 を 確 かめ る 格 好 の 分光 方 法で あり ,その 高さと 減衰曲 線を 理論値 と比較 する こ とによ り, 分布数 とオー ジェ遷 移確 率とを 直接確 かめる ことが 可能 である .

(3)

    Annlhilallon llme (nsec)

図1液f:4;He中での対消滅の時間スペクトル.

Angular Momentum L

101

103

IOI

100

図4オージェ遷移確率,□:41=3,●:LI=4,△:Al=5

5理論 計 算 によ る 対消 滅 時間 ス ペク トルの遅延 成分

6誘導 遷 移に対す る時間スペ ク卜ルの応 答.

[i

̲o aS ]  J  aJ  J a6 nV r

;o           r r)           v           r )           N                      O o oo oo oo                         o as u  O O Z  ie d  sl un 00

[a as fl ]  a lu

!l  a ! l          J       .

(4)

学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査   教授   佐々木不可止 副 査    教 授    小 中 重 弘 副 査    教 授    川 崎 昌 博 副 査    講 師    野 呂 武 司

学 位 論 文 題 名

反 陽 子 ―pとHe原 子 と の 反 応 過程 の理 論的 研究

  液体He中に打ち込まれた反陽子Fの 一部がただちに対消滅することなく、これまでの常識に反して長い 時間に渡 って準安定に存在(ほぼ3/Lsecの寿命)することが1991年実験的に発見された。かって、負電荷 中間子t ―,K−)が液体He中で当時の理論的予測より2桁も長い0.2〜    0.3n secの寿命を持つことを説明す るため、CondoはHe原子に捕獲された 負電荷中間子のうち、非常に大きな角運動量の軌道を占めるものは オージェ遷移が起こり難く、輻射遷移によって脱励起するとの仮説を立てた。この仮説を基にRussellは理論 計算を行い、角運動畳が31以上であればオージェ遷移は輻射遷移よりも起こり難く、条件によってはp sec オーダーの準安定状態が有り得ることを示した。

  この度 観測された陽子・反陽子対消 滅の長寿命成分が、Condoの仮説、即ち反陽子原子FHe+の準安定状 態の存在 によるものである可能性が高いが、実験的にそれを直接裏付ける証拠は未だ観測されていない。

もしも長 寿命成分の存在がCondoの仮 説に依るものとすれば観測された時間スペクトルがこの仮説に基づ いた理論 計算によって再現できるか否かを検証することが望まれる。更にそのためには反陽子のHe原子に よる減速・捕獲から対消滅に至るまでのすべての素過程について検討する必要がある。Russellの計算はこ の点に於いて先駆的ではあったが定量性に欠け、また計算を行った素過程・状態が限定されているため時間 スペクトルの再現を試みることはできない。

  申請者 は当論文に於いて対消滅に至るまでの反陽子とHe原子との反応過程を基本的な素過程に分け、各

13 ‑

(5)

素 過 程 に つ い て 非 経 験 的 計 算 を 行っ て 時間 スペ ク トル を生 成 し、 観測 さ れた 時間 ス ペク トル が 再現 でき る か否か を検討した。その 内容は以下のとおり である。

  反 陽 子 とHe原 子 と の 衝 突 に よ る 捕 獲 過 程 に つ い て1ま 電 子 状 態 をHeとHe+に 対 応 す る2準 位 近 似 によ り 記 述 し 、 反 陽 子 とHe原 子 核 と の 相対 運 動は 半古 典 近似 の衝 突 径数 法を 用 いて 扱っ た 。反 陽子 の 捕獲 に伴 っ て 電 子 が 放 出 さ れF He+系 が 生 成 す る 。 捕 獲 さ れ た 反 陽子 の 軌道 の主 量 子数 と角 運 動量 につ い て最 も寿 命 が長く な.ると思われるN=L十1・(L=3643)の軌道を 含め、その分布を得 た。

  F He+系 は 異 核2原 子 分 子 と し て考 え 、こ の系 の エネ ルギ ー と波 動関 数 を断 熱近 似 によ って 電 子状 態と 核 の 運 動 を 分 離 し て 求 め た 。 通 常 の2原 子 分 子 と 異 な り 、反 陽 子とHe原 子 核と の間 に はク ーロ ン 引カ が働 く た め 、 反 陽 子 の 振 動 ・ 回 転 励 起 状態 は 無限 個存 在 し、 その エ ネル ギー 準 位の 構造 と 波動 関数 は 分子 より も 原子の それに類似する。

  こ の 多 様 な 準 位 に 在 るF He+系 に つ い て 輻 射 遷 移 と それ に 競合 する オ ージ ェ遷 移 の各 確率 を 配置 間相 互 作 用(CI)法 に よ っ て 求 め た 。 そ れに よ って 得た デ ータ と捕 獲 反陽 子の 初 期分 布を 用 いて 対消 滅 に至 るま で の シ ュ ミ レ ーシ ョン 計 算を 行っ た 。そ の際 、 生成 後のF He+系 とHe原子 と の衝 突に よ る効 果を 考 慮す るパ ラ メ ー夕Lカ″ を 導入 し、L,nu ‑ 37〜39と 置 けば 実験 か ら得 られ た 長寿 命成 分 の寿 命(3 4p sec)、全消滅数に お ける 長 寿命 成分 . の割 合(3%)、更 に時間スペクトル に現れる長寿命成分 の定性的な特徴を 良く再現する事 を 示し た 。ま た、 申 請者 は当 ・ 論文 にお い てレ ーザ ー によ る誘 導 遷移 に対 す る応 答を 調 べ、 その時間スペク ト ル に 鋭 い ピー クが 出 現す るこ と が実 験的 に ―p He+系 の準 安 定状 態の 存 在を 確認 す る分 光方 法 であ るこ と を提案 した。

  以 上 、 申 請 者 が 国 内 外 の 研 究 者の 注 目を 集め て いる 最近 の 観測 デー タ に対 して 、 原子 ・分 子 につ いて の 非 経 験 的 理 論 を 駆 使 し 、 そ の 機 構を 解 明し たこ と はき わめ て 意義 深い も ので ある と 認め られ る 。ま た、 主 論 文 の 内 容 の 一 部 は 既 に 権 威 の あ る 国 外 の 学 術 雑 誌 に 発 表 さ れ 、 高 い 評 価 を 得 て い る 。   審査 員一同は、主論文 と参考論文(7編)の内容を 検討し、以上の理由により申請者が博士(理学)の学位を得る に充分 の資格があるもの と認めた。

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参照

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