博 士 ( 医 学 ) 大 里 孝 夫
′ 学 位 論 文 題 名
イ ヌ 脳 血 管 に 対 す る バ ル ー ン血 管 形 成 術の 実 験 的 研究 学 位 論文 内 容 の 要旨
【 目 的 】 近 年 脳 血 管 に 対 し て バ ル ― ン によ る 経 皮的 血 管 形成 術 が試 み ら れ る よ う に な っ て き た が , バ ル ‐ ン 血 管 形 成術 の 脳 血管 に 与え る 影 響と 効 果 に つ い て の 基 礎 的 研 究 は 少 な く , 特 に 慢 性期 で の 変化 は ほと ん ど 知ら れ て い な ぃ . そ こ で イ ヌ 脳 底 動 脈 に 対 し て 実 験的 に 血 管形 成 術を 施 行 し, 放 射 線 学的 , 組織 学 的 所見 を 経 時的 に 検討 し た ,
【 対 象 と 方 法 】 雑 種 成 犬20頭 に 対 し , ペ ン ト バ ル ビ タ ー ル 静 注 後 気 管 内 挿 菅 し , 人 工 呼 吸 下 に フ ロ セ ン お よ び 笑 気に よ り 維持 麻 酔を 行 な った . ヘ パ リ ン 投 与 後 , エ ッ ク ス 線 透 視 下 に 大 腿 動脈 か ら 親カ テ ーテ ル を 大動 脈 弓 に ,さ ら に子 カ テ ―テ ル を 頚部 椎 骨動 脈 に 留置 し た. こ の子カテ ‐テルを 介 し て,0. 014イ ン チ ガイ ド ワ イヤ ― に結 紮 結 合し た1.5フレンチ シリコン 製 バ ル‐ ン カテ ‐ テ ルを 椎 骨 動脈 か ら腹 側 脊 髄動 脈 に挿 入 し,更に 脳底動脈 に 進 め て 留 置 し , バル ー ン血 管 形 成術 を 行な っ た .バ ル ー ンの 拡 張条 件 は3 気 圧 1分 間 1回 ( 6頭 ) , 同3回 ( 8頭 ) , 同10回 ( 6頭 ) で あ り , 検 討 時 期 は , 急 性 期 例 と し て 血 管 形 成 術 施 行2時 間 後 (6頭 ) , 慢 性 期 例 と し て2週 間後 (8頭 )お よ び4週 (6頭 ) で ある .
全 例 に お い て 血 管 形 成 術 の 前 , 直 後 ,1時 間 後 に 脳 血 管 造 影 を 施 行 し , 慢 性 期 例 で は2週 間 後 ま た は4週 間 後 に 追 加 撮 影 し , 血 管 径 の 変 化 を 観 察 し た . 血 管 造 影 終 了 後 グ ル タ ル ア ル デ ヒ ド によ り 脳 の潅 流 固定 を 行 なぃ , 脳 底 動 脈 の 血 管 形 成 術 施 行 部 分 , 非 施 行 部 分 の 双 方 か ら2ケ 所 ず つ 標 本 を 採 取 し , 厚 さ4″mの 血 管 横 断 切 片 を 作 成 し た . こ れ ら の 標 本 に っ き , 血 管 形 成 術 施 行 部 分 と 非 施 行 部 分 と の 間 で 以 下 の 比 較 検 討 を 行 な っ た .
(1) 光 学 顕 微鏡 ( ヘ マト キ シリ ン → エオ ジ ン染 色 , エラ ス チカ ー マ ッソ ン 染 色 ) お よ び 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 に よ る 組 織 学 的 観 察 ,
(2) 血 管 の 全 周 に 見 ら れ る 内 皮 細 胞 核 数 , お よ び 中 膜 単 位 面 積 (0.1 mmL) あた り の平 滑 筋 細胞 核 数の 計 測 .
(3) 血 管 形 態 の 定 量 的 解 析 . 組 織 計 測 機TAS PLUSを 用 い て 血 管 横 断 ―74ー
切 片の 中膜 面積 (AM) と血 管内 周(Li)を 測定 し, これら を一 定と する条件下で,内周が正円となった状態の動脈半径(Ri= Li/2汀),
こ の半 径に対する中膜の厚さ(DM)とその相対的厚さ(中膜相対厚:
TM DM/RIx100, % ) , 内 腔 面 積 (AL) を 算 出 し , 中 膜 面 積 , 中膜相対厚,内腔面積にっき検討した.
【結果】
(1)放射 綜学 的検 討: 脳血管 造影 上, バル― ンによる血管拡張率(バル ー ン 拡 張率 )は 最大107%, 最小8.3%, 平均32.4% であ った, 血管 形成 術 施行 部位 の狭窄が高頻度に認められ,血管形成術前血管径に対する血管 形 成 術 後 血 管 径 の 割 合 は ,直 後 は −8.6土18.2% ,1時間 後 は ー11.4士 15.9% ,2週 間 後 は ー18.5土13.0% ,4週 間 後 は ―8.0土13 .0% と , す べ ての 時期 で滅少 して いた .血 管形成 術直 後から1時闇後にかけての変化 は ,狭 窄進 行,狭窄改善,ほぼ不変とまちまちであり,一定の傾向は認め ら れな かっ た.急性期の狭窄度と慢性期の狭窄度,拡張回数と血管径,ま た バル ‐ン 拡張率 と血 管径 との 間には 明ら かな関連は認めなかった.1時 闇後に10%以上の拡大を示したのはバル―ン拡張率66%(拡張回数1回),
同107%(同10回)の2例だけであった,
(2)組織学的検討
1) 急 性 期 : 血 管 形 成 術施 行 部 で は , 中膜の 亀裂 ,血 管壁の 部分 的菲 薄 化, 血管 内腔の狭小化,内弾性板の波状化,内皮細胞の脱落,中膜平滑 筋細胞核のスクリュ‐型コーク状の変形,軽度の血小板凝集などが認められ た . 一 方 , 内 膜 の 剥 離 , 断 裂 な ど の 所 見 は 少 な か っ た ・ 2)2週 間 後 : 血 管 形 成 術 施 行 部 で は8例 全 例 で 中 膜平 滑 筋 細 胞 の 減 少 ,中 膜線 維化が 認め られ ,1例に 著明 な壁在 血栓を認めた,また,急性 期 と同 様に 血管狭窄と内弾性板波状化を認めた,一方,内皮細胞は非施行 部とほば同様に見られた.
3)4週 間 後 : 2週 間 後と 同 様 に 平 滑 筋細胞 減少 と線 維化が 認め られ た が, その 頻度, 程度 はと もに 軽減し てい た.1例において,上記平滑筋 所 見の 血管 形成術 非施 行部 への 進展が 認め られた.著明な壁在血栓は6例 中1例に認 めら れたが,狭窄や内弾性板収縮は2週間目より軽度であった,
内皮細胞はほば正常に認められた.
全時 期を 通じて内膜の増殖性変化はほとんど認められなかった.また,
以 上の 組織 所見と拡張回数との間には明らかな関連は認められなかった.
― 75ー
(3)組織計瀦学的検討
1)内 皮細 臨核数 :急 性期 では, 血管形成術非施行部115 .0土41.8個 に 対 し , 血 管 形 成 術施 行 部 で は21.8土32.2個 と有 意に減 少し てい た(p く0.01) . し か し ,2週 間 後 に は 非 施 行 部105.8土18.0個 に 対 し施行 部 103.5土19.6個 ,4週 間 後 は 施 行 部118.2土28.1個 に 対 し , 非 施 行 部 113.2土24.9個 と ,い ず れ も 有意 差は 認め られな かっ た. 拡張 回数10回 群 では内 皮細 胞は ほと んど完 全に 消失し,他の2群より強い脱落の傾向が 認められた.
2)中 農 平 滑 筋 核 数 : 急 性 期 で は 血 管 形 成 術 非 施 行 部218.8土113.5 個 に 対 し , 施 行 部193.1土15.4個 と 有 意 差 を 認 めな か っ た . しか し,2 週 間 後 に は 非 施 行 部218.0土26.5個 に 対 し 施 行 部127.9土56.6個と有 意 に 少 な く (pく0.03) ,4週 間 後 に も 非 施 行部206.4土13.8個 に 対 し 施 行 部 15 4.0土 12.7個 と 有 意 に 減 少 し て い た ( pく0.002) . 3)血 管 形 態 の 定 量的 解 析 : 急 性 期 に は 中 膜 相対 厚 , 中 膜 面 積,内 腔 面 積で丙 群間 に有 意差 を認め なか った,2週間後では血管形成術施行部に お いて内 腔面 積が 有意 に小で あり (pく0.01),また中膜相対厚が有意に 大 であっ た(pく0.01).4週 間後 では ,中 膜相対 厚は 施行 部で有 意に大 で あった (pく0.03) が, 内腔 面積に は有意差が認められなかった,中膜 面 積 に は す べ て の 時 期 を 通 じ て 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た . 【考察 】急 性期 に内 皮細胞 は高 度に 脱落 し,中 膜の 損傷 も生じ るが,
2週間目には内皮細胞はほぼ再生し,中膜も修復されたものと考えられた.
血 管狭窄が高頻度に見られたが,急性期ではバル‐ンの血管壁伸展に対す る中膜、平滑筋の反応性収縮が,また慢性期では平滑筋の線維化による瘢痕 性 の収縮 が, その 機序 と考え られ た.血管形態の解析からは,2週間後に は 線維化 によ る内 腔狭 窄のた め相 対的な中膜肥厚がもたらされるが,4週 間 後には血行力学的圧カにより狭窄自体は改善したものと考えられた.ま た 血管形成術の効果の点では,低いバル_ン拡張率では何度行なっても有 効ではなく,かえって血管攣縮を誘発する可能性があることが推測された.
【 結諭】 バル ‐ン 血管 形成術 によ り, イヌ 脳底動 脈に 種々 の損傷 や病的 変 化が発生した.急性期における反応性血管攣縮,慢性期における中膜の 壊 死と線維化,そして血小板付着や著明な壁在血栓形成は,血管形成術後 の 急性または慢性血管閉塞,あるいは超慢性期における平滑筋増殖による 再 狭 窄 に っ な が る 可 能 性 が あ り , 留 意 す べ き 所 見 と 考 え ら れ た .
ー 76―