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アルコールから身を守る細菌たちの戦略

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Academic year: 2021

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生物工学 第99巻 第5号(2021) 〔生物工学会誌 第99巻 第5号 253.2021〕 DOI: 10.34565/seibutsukogaku.99.5_253

アルコールから身を守る細菌たちの戦略

髙橋 正之

皆さんは,お酒を美味しく飲むための熟成期間はどの くらい?と聞かれたら,どのくらいと考えるだろうか. お酒の種類によっても違うし,おそらく答えは人それぞ れだと思う.しかし,生で売られている魚やお肉の食べ 頃はどのくらいかと聞かれたら,多くの人が「新鮮な うちに」と答えるのではないだろうか.この違いに少な からず影響しているものとして,酒類はエタノールを含 有し,細菌による腐敗の心配が少ないことがあるように 思う(もちろん,酒類はpHも低く細菌の生育を抑える さまざまな成分が含まれていることも非常に大きく影響 している).事実多くの細菌は,比較的低濃度のエタノー ルで生育が大きく抑制される. では,お酒の中で微生物がまったく生育しないかとい うとそういうわけではない.エタノール耐性の獲得は競 合する細菌の少ない環境で生育できるなど利点があり, 一部の乳酸菌など,ある種の細菌たちはさまざまなエタ ノール耐性機構を獲得してきた.それらの細菌は,お酒 が含んでいる程度のエタノール濃度の範囲で生育するこ とがある.たとえば,ワインでは酒質向上や品質安定化 のため,アルコール発酵後に乳酸菌を生育させ,リンゴ 酸を乳酸に代謝させるマロラクティック発酵(MLF)を 行うことがある.一方,清酒では火落菌と呼ばれる乳酸 菌の一種が生育し,品質劣化を引き起こすこともある. この火落菌は,主にLactobacillus属の乳酸菌であり,L.

homohiochii(L. acetotolerans),L. fructivoransなど複

数種が知られているが,一般的に14∼15 %程度のエタ ノールを含有している清酒中でも生育することができ, 濁りの発生や香味の変化などを引き起こす.ビールやワ インでも一部の汚染乳酸菌などが生育することで製品の 品質劣化を引き起こし,製品回収にもつながりかねない. よって,清酒に限らず酒類製造においては,彼らが製品 で生育することのないよう注意深く管理されている. すでに触れたように,多くの細菌はお酒の中では生育 できない.では,エタノール中で生育できる乳酸菌など は他の生育できない細菌と何が違うのだろうか.研究が 進んでいるのは,細胞膜や細胞壁に関する部分である. RNA-seqによる遺伝子発現解析の結果,高いエタノー ル耐性を示す乳酸菌種L. acetotoleransはエタノールスト レス環境下に置かれることで,分子シャペロンなどのス トレス応答機構に加え,脂肪酸合成に係る遺伝子群の発 現量が増大し,脂肪酸の総量および不飽和脂肪酸(オレ イン酸)の量が増加することが示された1).おそらくは それに伴って細胞膜の流動性の調節が行われ,エタノール 環境への適応が行われるのだろう.また,L. plantarumで はAcrRと呼ばれる転写調節因子の過剰発現により,エ タノール耐性が向上することが見いだされている. AcrRはエタノールストレス下において脂肪酸合成に関 与する遺伝子群の発現を誘導し,脂肪酸構成比や脂肪酸 量の増加を通じて膜の流動性を調節することでエタノー ル耐性に寄与している2).ただ,細胞膜の流動性などの 調節は脂肪酸のみで行われているわけではない.ワイン におけるMLF乳酸菌Oenococcus oeniは,エタノールス トレス環境下でイソプレノイド経路のゲラニルゲラニル 二リン酸(GGPP)合成酵素の発現量を増大させる3) GGPPはカロテノイド合成の基質となるが,カロテノイ ドは酸化ストレス耐性に重要な役割を果たすほか,細胞 膜に組み込まれ流動性を調節することでエタノールスト レスへの適応に寄与している可能性も示されている. もちろん,顕著なエタノール耐性を示すのは乳酸菌ば かりではない.バイオエタノール生産での利用が検討さ れているエタノール生産菌としてZymomonas mobilisが 知られている.彼らの菌体外多糖の構造が高いエタノー ル耐性に大きく関与していることが示唆されているし4) Z. mobilisはホパノイドを高含有することも明らかとされ ている5).ホパノイドは真核細胞のステロールに類する 機能を担っていると考えられているが,Z. mobilisでは複 数のホパノイド生合成関連遺伝子の変異により,アル コール耐性やpH耐性が低下することから,ホパノイド 総量とともにホパノイドの組成も重要であることが明ら かとなっている5) 実環境では細胞膜などの組成や構造だけでなく,菌体 内のストレス応答による代謝やエネルギー獲得の変化な ども関与するのだろう.今後,より詳細なメカニズムが明 らかとなり,産業面で活用されていくことを期待したい.

1) Yang, X. et al.: Sci. Rep., 7, 2650 (2017).

2) Yang, X. et al.: Appl. Environ. Microbiol., 85, e01690-19

(2019).

3) Cafaro, C. et al.: J. Appl. Microbiol., 116, 71 (2013).

4) Pallach, M. et al.: Carbohydr. Polym., 201, 293 (2018).

5) Brenac, L. et al.: Mol. Microbiol., 112, 1564 (2019).

著者紹介 独立行政法人酒類総合研究所 醸造微生物研究部門(主任研究員) E-mail: [email protected]

参照

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