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発達心理学研究 第24巻 第3号

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(1)

青年期における“恋人を欲しいと思わない”理由と自我発達との関連

髙坂 康雅

(和光大学現代人間学部)

本研究の目的は, 恋人を欲しいと思わない 青年(恋愛不要群)がもつ 恋人を欲しいと思わない 理由(恋愛不要理由)を分析し,その理由によって恋愛不要群を分類し,さらに,恋愛不要理由による 分類によって自我発達の違いを検討することであった。大学生1532名を対象に,現在の恋愛状況を尋 ねたところ,307名が恋人を欲しいと思っていなかった。次に,恋愛不要理由項目45項目について因子 分析を行ったところ,「恋愛による負担の回避」,「恋愛に対する自信のなさ」,「充実した現実生活」,「恋 愛の意義のわからなさ」,「過去の恋愛のひきずり」,「楽観的恋愛予期」の6因子が抽出された。さらに,

恋愛不要理由6得点によるクラスター分析を行ったところ,恋愛不要群は恋愛拒否群,理由なし群,ひ きずり群,自信なし群,楽観予期群に分類された。5つの群について自我発達を比較したところ,恋愛拒 否群や自信なし群は自我発達の程度が低く,楽観予期群は自我発達の程度が高いことが明らかとなった。

【キーワード】 恋愛関係,大学生,恋人を欲しいと思わない理由,アイデンティティ,自我発達

問題と目的

青年期に入ると,異性への関心や接近・接触したいと いう欲求が高まり,また,異性と親密になる(恋人同士 になる,恋愛関係になる)ことを青年は求めるようにな るとされている(返田,1986など)。しかし,近年,異 性と親密になろうとしない 恋人を欲しいと思わない 青年の存在が指摘されている。例えば,髙坂(2011)は 北海道・関東・東海・中部・四国の大学生1350名を対 象に調査を実施し,恋人がいる大学生が485名,恋人が いないので欲しいと思っている大学生が616名いる一 方,恋人はいないが欲しいとは思わない大学生が242名 おり,その男女比に有意な差がみられないことを示して いる。また,国立社会保障・人口問題研究所(2010)の 第14回出生動向基本調査では,18〜34歳の独身者のう ち,男性の20.7%,女子の21.3%が,交際している異性 がおらず,「異性との交際を望んでいない」と回答して いる。さらに,オーネット(2010)では,2010年に新 成人になる800名(男女各400名)を対象に調査を実施 し,対象者の20.8%が「交際相手はいないが,交際相手 は欲しくない」と回答していることを明らかにしている。

特に,オーネット(1999)は,オーネット(2010)と同 様の調査を2000年に新成人になる400名(男女各200名)

に実施しており,この際,「交際相手は欲しくない」と 回答した者は5.3%であり,2010年の結果はその4倍と なっている。

これらの調査から, 恋人を欲しいと思わない 青年

は現代急増しており,また少数派とは言えないほど存在 していると言える。また,国立社会保障・人口問題研究 所の出生動向基本調査は,1940年に第1回が行われて 以降,3〜5年ごとに調査が行われているが,交際して いる異性がいない者に対して,異性との交際を望んでい るかいないかを尋ねたのは,第14回調査(2010)がは じめてである。現代では生き方に対する価値観が多様化 しているため,恋愛や結婚についても,それらを望むか 否かは,個人の判断に委ねられているといえる。一方,

恋愛結婚が85%を超える(国立社会保障・人口問題研 究所,2004)現在の日本において,恋愛を求めない青年 の存在やその増加は,婚姻数の減少,ひいては少子化に もつながるものであると考えられ,政策的にも注目され ていることがうかがえる。

恋人を欲しいと思わない 青年が増加し,社会的に も認知されてきている一方,現在, 恋人を欲しいと 思わない 青年に焦点をあてた実証的な研究は,髙坂

(2011)以外には,心理学や,心理学に近接した学問領 域(社会学など)を含めて,行われていない。特に,発 達心理学などでは,異性との親密な関係をつくることが 青年期の発達課題とされている(若尾,2006)ことから,

恋人を欲しいと思わない 青年についても,自我発達・

アイデンティティ形成の観点から,その特徴を明らかに する必要があると考えられる。しかし,国内外のアイデ ンティティ研究のレビューを行っている鑪・岡本・宮下

(2002)などや,国内の恋愛研究のレビューを行ってい る立脇・松井・比嘉(2005)などでも,恋愛関係と自我 2013,第24巻,第3号,284−294

(2)

発達・アイデンティティ形成との関連を検討している研 究は見出されておらず,恋愛関係と自我発達・アイデン ティティ形成との関連を検討した研究は,国内外のいず れにおいてもわずかであると推察される。

このような現状の中,北原・松島・高木(2008)は,

アイデンティティと恋愛との関連はほとんど検討されて いないと指摘した上で,恋人がいる青年と恋人がいない 青年とでアイデンティティの確立の程度を比較し,女性 において,恋人がいる方が恋人がいない方よりもアイデ ンティティ確立の程度が高いことを示している。また,

Dietch(1978)は過去3年間恋愛関係をもったことがな

い者よりも恋愛関係をもった者の方が自己実現の程度が 高いことを示している。これらのように,わずかに存在 する恋愛関係と自我発達・アイデンティティ形成との関 連を検討している研究では,恋人がいる者と恋人がいな い者とを比較する方法がとられている。しかし,これら の研究で扱われている恋人がいない者の中には,恋人を 欲しいと思っているが恋人ができない者と,恋人を欲し いと思っておらず恋人がいない者とが混在していると考 えられる。そのため,これらの研究からでは, 恋人を 欲しいと思わない 青年の自我発達・アイデンティティ 形成の特徴を把握することはできていないと言える。

そこで髙坂(2011)は,恋人がいる青年 を恋愛群,恋 人がいなくて,欲しいと思っている青年 を恋愛希求群,

恋人がいなくて,欲しいと思わない青年 を恋愛不要 群として,精神的健康,自我発達,個人主義という3つ の観点から比較検討を行っている。その結果,恋愛不要 群は,恋愛群や恋愛希求群と比較して,アイデンティティ の感覚が得られておらず,無気力で,独断性が強いこと が示されている。

しかし,恋愛不要群のいずれもがアイデンティティの 感覚が得られていない,つまり自我発達の程度が低いこ とは想定しにくい。髙坂(2011)は恋愛不要群に対し,「恋 人を欲しいと思わない理由」(以下,恋愛不要理由)に 関する自由記述を行い,記述を分類したところ,得られ た記述は「その他」を除き9つのカテゴリーに分けられ ている。Erikson(1959 / 2011)は「自分のアイデンティ ティに確信が持てない若者は,対人的な親密さを怖がっ て尻込みする」と述べ,恋人を欲しいと思わない青年を アイデンティティの脆弱さによって説明しているが,多 様な恋愛不要理由がみられていることから,恋愛不要群 すべてがアイデンティティの脆弱さのために,恋人を欲 しいと思っているわけではない,つまり,ある理由をも つが故に,アイデンティティが確立できていても恋人を 欲しいと思わない青年もいることが推察される。

そこで,本研究では,大学生を対象に,恋愛不要理 由と自我発達との関連を明らかにすることを目的とす る。そのためにまず,対象者を恋愛群,恋愛希求群,恋

愛不要群に分類し,それらの自我発達の比較を行い,髙 坂(2011)と同様の結果が得られるかを検討する。次に,

恋愛不要理由の分析を行い,恋愛不要理由によって恋愛 不要群の分類を行う。最後に恋愛不要理由による分類に よって自我発達の程度の差がみられるかを検討する。

髙坂(2011)では,谷(2001)の多次元自我同一性尺 度(Multidimensional Ego Identity Scale: 以降MEIS)を 用いて,恋愛群・恋愛希求群・恋愛不要群についてア イデンティティの比較を行っている。しかし,「Erikson によれば, 自我同一性 は,個体発達分化の原理(漸 成発達理論)epigenetic principleのもとに,乳幼児期か らさまざまの体験が再統合されていく過程で形成される ものである。特に,青年期以前の各段階の発達的危機を うまく解決しえたところに結実する発達的な達成物であ るといえる」(鑪・宮下・岡本,1984)と指摘されてい るように,恋人を欲しいと思うか否かや,恋人を欲しい と思わない理由としてどのような理由をもつかは,現在 のアイデンティティだけではなく,基本的信頼感や自律 性のような青年期以前の心理社会的危機や,あるいは青 年期以降に心理社会的危機として現れる親密性,生殖性 などが関わっている可能性が考えられる。そこで,本研 究では,自我発達の指標として,Eriksonの第1段階(乳 児期)から第7段階(成人期)までの心理社会的危機の 達成程度を測定することができるOchse & Plug(1986)

が作成したErikson and Social-Desirability Scaleの日本 語短縮版(S-ESDS;三好・大野・内島・若原・大野,

2003)を使用することとする。S-ESDSは三好ほか(2003)

において,すべての下位尺度が.70程度の

α

係数を示し ており,内的整合性の観点から十分な信頼性を有してい ると考えられる。また,妥当性検討として,Rosenberg の自尊感情尺度(山本・松井・山成,1994),充実感尺 度(大野,1984),Rasmussenの自我同一性尺度日本語 高校生用短縮版(小林・上地,1989)などとの関連が検 討され,予測された関連が得られていることから,十分 な妥当性も有した尺度であると考えられる。

既述のように, 恋人を欲しいと思わない 青年に関 する実証的な研究は髙坂(2011)以外行われていない。

一方で,そのような青年の存在は注目をされており,「い までは 恋愛せざるもの,人にあらず といった,ある 種苛烈な状況を生じさせている」(赤川,2002)と述べ られるほど,現代社会では恋愛における価値づけが高く

(若尾,2006),そのため,恋人がいない者に対してはネ ガティブなステレオタイプが生じていることが指摘され ている(若尾,2003)。 恋人を欲しいと思わない 青年 の自我発達について実証的に検討することは,このよう なステレオタイプの払拭につながるとともに,現代青年 のアイデンティティ形成における恋人・恋愛の意義に関 する新たな知見を提供できると考える。

(3)

なお,本研究における 恋人 は,髙坂(2011)に準 じて,回答者が恋人であると思う実際に存在し,接触・

交流できる異性とし,片想いや,同性の恋人,芸能人・

有名人,アニメやゲームのキャラクターなどは, 恋人 の範囲に含めなかった。

方   法

分析対象者

北海道,関東,中部,関西の4年制で男女共学の大学 に通う大学生1532名(男子592名,女子938名,不明2名;

平均年齢19.5歳,標準偏差1.3歳)を分析対象者とした。

調査時期・実施方法

調査は2011年5月下旬から9月中旬に実施した。調 査実施にあたり,著者または調査協力者が講義時間の一 部に,集団で実施し,その場で回収した。

調査実施の際,無記名であること,調査への協力は任 意であること,調査への協力を拒否しても不利益は生じ ないことなどを口頭で説明し,調査用紙の表紙にも明記 した。

調査内容

( 1 )S-ESDS(三好ほか,2003) S-ESDSの7下位 尺度はそれぞれ8項目から14項目で構成されているが,

回答者の負担軽減のため,本調査では,7下位尺度それ ぞれについて,三好ほか(2003)での主成分分析1)に おいて主成分負荷量が高かった4項目ずつ,合計28項 目を使用した。「普段のあなたの考えや気持ちにどの程 度あてはまりますか」という教示のもと,1「あてはま らない」,2「あまりあてはまらない」,3「ややあてはま る」,4「あてはまる」の4件法で回答を求めた。

( 2 )恋愛状況に関する質問 回答者の現在の恋愛状 況について,1「恋人がいる」,2「恋人がいないので,

欲しいと思う」,3「恋人はいないが,欲しいとは思わな い」の3つのなかから1つを選ぶように求めた。3「恋 人はいないが,欲しいとは思わない」と回答した者にの み,これまでの交際人数を尋ねた上,(3)恋愛不要理由 項目への回答を求めた。

( 3 )恋愛不要理由項目 髙坂(2011)の恋愛不要理 由に関する自由記述の分類によって得られた9カテゴ リーについて,それぞれ5項目ずつ,合計45項目を作 成して,使用した。「以下の項目は,あなたが恋人を欲 しいと思わない理由にどの程度あてはまりますか」とい う教示のもと,1「全くあてはまらない」,2「あまりあ てはまらない」,3「どちらともいえない」,4「ややあて はまる」,5「とてもあてはまる」の5件法で回答を求めた。

結   果

恋愛状況別の人数構成

調査内容(2)恋愛状況に関する質問において,1「恋 人がいる」と回答した者を恋愛群,2「恋人がいないの で,欲しいと思う」と回答した者を恋愛希求群,3「恋 人はいないが,欲しいとは思わない」と回答した者を恋 愛不要群として,各群の人数を男女別に集計した(Table 1)。χ2検定の結果,人数の偏りが有意であり(χ(2, 2

N

= 1530)= 6.46,

p

< .05),恋愛群では女子の割合が男子 の割合よりも多く,恋愛希求群では男子の割合が女子の 割合よりも多かったが,恋愛不要群では男女で人数の偏 りはみられなかった。

恋愛群・恋愛希求群・恋愛不要群による自我発達の比較 まず,S-ESDS7下位尺度については,逆転項目の回 答を逆転処理した後,

α

係数を算出したところ,「基本 的信頼感」.68,「自律性」.70,「主体性」.64,「勤勉性」.73,

「アイデンティティ達成」.60,「親密性」.78,「生殖性」.52 であり,「自律性」,「勤勉性」,「親密性」以外の4下位 尺度では十分な内的一貫性は得られなかった。これは,

もともとS-ESDSの下位尺度は8項目から14項目で構

成されているが,本研究では,回答者の負担軽減のため,

各下位尺度とも4項目ずつしか使用しなかったことに起 因していると考えられる。しかし,本研究で使用した項 目は,三好ほか(2003)の主成分分析で負荷量の高かっ た項目であり,本研究で得たデータで下位尺度ごとに主 成分分析を行った際も,いずれの項目も第1主成分に.40 以上の負荷量を示していたことから,

α

係数は低かった ものの,本研究では,下位尺度ごとに4項目の平均を算

出し,S-ESDSの下位尺度得点とした。ただし,「生殖性」

については,極端に

α

係数が低かったため,今後の分 析では使用しないこととした。

髙坂(2011)は,恋愛群,恋愛希求群,恋愛不要群に

ついて,MEIS(谷,2001)を用いて,アイデンティティ

確立の程度の比較を行う際,性も要因に加えた2要因分 散分析を行い,「心理社会的同一性」得点において,恋 愛状況と性の交互作用がみられている。そこで,本研究 でも,S-ESDS6得点について,恋愛状況と性の2要因 分散分析を行った(Table 2)。

Table 1 恋愛状況×性のクロス集計表

恋愛群 恋愛希求群 恋愛不要群 全体 男子 174(29.4) 298(50.3) 120(20.3)  592(100.0)

女子 332(35.4) 419(44.7) 187(19.9)  938(100.0)

全体 506(33.1) 717(46.9) 307(20.1)1530(100.0)

注.各セルは人数(%)である。また,人数の偏りが有意に多 いセルは太線で囲み,有意に少ないセルは破線で囲った。

  性別不明の2名はいずれも恋愛群であった。

1)三好ほか(2003)では,S-ESDSの項目すべてでの因子分析は行っ

ておらず,各下位尺度で主成分分析を行っている。本研究でも,

三好ほか(2003)にあわせて,使用した項目すべてでの因子分析 は行わずに,下位尺度ごとで主成分分析を行った。

(4)

分散分析の結果,「主体性」得点(

F

(2, 1524)= 3.13,

p

< .05)と「親密性」得点(

F

(2, 1524)= 4.92,

p

< .01)

において,恋愛状況と性の交互作用が有意であった。単 純主効果の検定(Bonferroni法)を行ったところ,「主 体性」得点では,恋愛群において男子の方が女子よりも 得点が高く,男子において恋愛群と恋愛希求群が恋愛不 要群よりも得点が高かった。また「親密性」得点では,

恋愛希求群と恋愛不要群において女子の方が男子よりも 得点が高く,男子において恋愛群,恋愛希求群,恋愛不 要群の順で得点が高く,女子において恋愛群が恋愛希求 群や恋愛不要群よりも得点が高かった。

「基本的信頼感」得点(

F

(2, 1524)= 20.01,

p

< .001),「自 律性」得点(

F

(2, 1524)= 8.72,

p

< .001),「勤勉性」得 点(

F

(2, 1524)= 9.18,

p

< .001),「アイデンティティ達 成」得点(

F

(2, 1524)= 3.25,

p

< .05)において,恋愛状

況の主効果が有意であった。Tukey法による多重比較を 行ったところ,「基本的信頼感」得点では,恋愛群,恋 愛希求群,恋愛不要群の順で得点が高かった。「自律性」

得点では,恋愛群が恋愛希求群や恋愛不要群よりも得点 が高かった。「勤勉性」得点では,恋愛群と恋愛希求群 が恋愛不要群よりも得点が高かった。「アイデンティティ 達成」得点では,多重比較の結果,群間の有意な差はみ られなかった。

「自律性」得点(

F

(1, 1524)= 20.31,

p

< .001)と「勤勉性」

得点(

F

(1, 1524)= 11.41,

p

< .01)において,性の主効 果が有意であり,いずれも男子の方が女子よりも得点が 高かった。

恋愛不要理由項目の因子分析と得点化

恋愛不要理由項目45項目について,恋愛不要群の回 答をもとに,重みづけのない最小2乗法による因子分析 Table 2 

S-ESDS6

得点に関する恋愛状況(3)×性(2)の

2

要因分散分析結果

恋愛状況 F値(df)

恋愛群 恋愛希求群 恋愛不要群 性 恋愛状況 交互作用

「基本的信頼感」得点

男子 2.86(0.56) 2.76(0.61) 2.49(0.64) 0.01(1, 1524) 20.01(2, 1524)*** 2.84(2, 1524)

女子 2.80(0.57) 2.71(0.59) 2.61(0.60) 恋愛>希求>不要

全体 2.82(0.56) 2.73(0.60) 2.56(0.62)

「自律性」得点

男子 2.59(0.65) 2.38(0.68) 2.37(0.77) 20.31(1, 1524)*** 8.72(2, 1524)*** 1.52(2, 1524)

女子 2.35(0.66) 2.28(0.65) 2.21(0.60) 男>女 恋愛>希求・不要

全体 2.43(0.67) 2.32(0.67) 2.27(0.67)

「主体性」得点

男子 2.87(0.58) 2.80(0.60) 2.63(0.64) 26.43(1, 1524)*** 5.00(2, 1524)** 3.13(2, 1524)*

女子 2.62(0.59) 2.60(0.55) 2.59(0.56) 恋愛・希求:男>女,男:恋愛・希求>不要

全体 2.71(0.60) 2.68(0.58) 2.60(0.59)

「勤勉性」得点

男子 2.78(0.60) 2.68(0.65) 2.49(0.68) 11.41(1, 1524)** 9.18(2, 1524)*** 1.92(2, 1524)

女子 2.58(0.59) 2.54(0.59) 2.48(0.62) 男>女 恋愛・希求>不要

全体 2.65(0.60) 2.60(0.62) 2.48(0.64)

「アイデンティティ達成」得点

男子 2.63(0.56) 2.53(0.65) 2.46(0.64) 2.45(1, 1524) 3.25(2, 1524)* 0.81(2, 1524)

女子 2.52(0.64) 2.47(0.60) 2.47(0.60)

全体 2.55(0.62) 2.49(0.62) 2.46(0.61)

「親密性」得点

男子 3.22(0.63) 3.00(0.67) 2.70(0.78) 21.24(1, 1524)*** 27.81(2, 1524)*** 4.92(2, 1524)**

女子 3.27(0.62) 3.11(0.67) 3.06(0.69) 希求・不要:女>男,

全体 3.25(0.62) 3.06(0.67) 2.92(0.75) 男:恋愛>希求>不要,女;恋愛>希求・不要

注.各得点横の( )内は標準偏差である。また,多重比較での表記は,恋愛:恋愛群,希求:恋愛希求群,不要:恋愛不要群,をそれぞ れ意味している。

*** p < .001,** p < .01,* p < .05, p < .10

(5)

を行ったところ,固有値1.0以上で,11因子が抽出され た。そこで,因子数を11から減らしながら,重みづけ のない最小2乗法・promax回転による因子分析を行っ た。その結果,因子の解釈可能性から,6因子解が最適 であると判断された(Table 3)。6因子での説明可能な 分散の総和の割合は45.5%であった。

第1因子は,恋人がいることによって生じる心理的・

実生活的な負担を回避したいために,恋人を欲しいと 思っていないことを意味する因子であると考えられるた め,第1因子を「恋愛による負担の回避」(略称;負担 回避)と命名した。負荷量が.40以上であった13項目 での

α

係数は.90であったため,これらの項目の平均を 算出して「負担回避」得点とした。

第2因子は,異性に対する魅力や異性交際の仕方な ど恋愛に対する自信がないために,恋人を欲しいと思っ ていないことを意味する因子であると考えられるため,

第2因子を「恋愛に対する自信のなさ」(自信なし)と 命名した。負荷量が.40以上であった9項目での

α

係数 は.84であったため,これらの項目の平均を算出して,

「自信なし」得点とした。

第3因子は,普段の生活がやりたいことや友だちとの 遊びで充実しているために,恋人を欲しいと思っていな いことを意味する因子であると考えられるため,第3因 子を「充実した現実生活」(充実生活)と命名した。負 荷量が.40以上であった7項目での

α

係数は.82であっ たため,これらの項目の平均を算出して,「充実生活」

得点とした。

第4因子は,恋愛することの意義や価値がわからない ため,恋人を欲しいと思っていないことを意味する因子 であると考えられるため,第4因子を「恋愛の意義のわ からなさ」(意義不明)と命名した。負荷量が.40以上 であった3項目での

α

係数は.71であったため,これら の項目の平均を算出して,「意義不明」得点とした。

第5因子は,過去の恋愛で失恋や嫌な経験をし,そ れらの経験を現在もひきずっているため,恋人を欲しい と思っていないことを意味する因子であると考えられる ため,第5因子を「過去の恋愛のひきずり」(ひきずり)

と命名した。負荷量が.40以上であった4項目の

α

係数 を算出したところ,.59と低い値を示した。そこで,項 目間の相関を考慮し,44H「自分とつきあうと,その人 を傷つけたり悲しませたりしてしまうから」を除いた3 項目で再度

α

係数を算出したところ,.64まで

α

係数が 上昇した。そこで,これら3項目の平均を算出して,「ひ きずり」得点とした。

第6因子は,恋人は欲しいと思ってできるものではな く,そのうち自然にできると考えているために,恋人を 欲しいと思っていないことを意味する因子であると考え られたが,負荷量が.40以上であった4項目の

α

係数を

算出したところ,.53と低い値を示した。そこで,項目 間の相関を考慮し,42F「恋人は自然な流れのなかでで きるものだと思っているから」と15F「恋人はそのうち できると思っているから」の2項目で再度

α

係数を算 出したところ,.56まで上昇した。これら2項目をみると,

積極的な努力などをしなくても,いつかはできるという 楽観的な予期をもっていると推測される。そこで,第6 因子を「楽観的恋愛予期」(楽観予期)と命名し,42F と15Fの2項目の平均を算出して,「楽観予期」得点と した。

恋愛不要理由による恋愛不要群の分類

恋愛不要理由によって恋愛不要群を分類するために,

恋愛不要理由6得点を標準化し,恋愛不要理由6標準得 点を用いて,恋愛不要群についてWard法・平方ユーク リッド距離による階層クラスターを行った。その結果,

クラスターの内容と人数構成から,5クラスターが適当 であると判断した。

次に,クラスターの特徴を明らかにするために,恋愛 不要理由6標準得点について,クラスターを要因とした 1要因分散分析を行った(Table 4,Figure 1)。

第1クラスターは,「負担回避」標準得点と「意義不 明」標準得点が5クラスター中,最も高く,「自信なし」

標準得点や「充実生活」標準得点も全体平均以上であっ た。恋愛に対する負担を回避したく,恋愛に対する自信 もなく,恋愛の意義もわからないが,充実した生活を送っ ており,多くの理由を挙げることにより,強く恋人を欲 しいと思っていない群であると考えられるため,第1ク ラスターを恋愛拒否群と呼ぶ。

第2クラスターは,「自信なし」標準得点が5クラス ター中,最も高かった。恋愛に対する自信がないことを 特徴とする群であると考えられるため,第2クラスター を自信なし群と呼ぶ。

第3クラスターは,「充実生活」標準得点と「楽観予 期」標準得点が平均を上回っていた。毎日の生活が充実 しており,恋人はいずれできると思っているため,現在 は恋人を欲しいと思っていない群であると考えられるた め,第3クラスターを楽観予期群と呼ぶ。

第4クラスターは,「ひきずり」標準得点が5クラス ター中,最も得点が高かった。過去の恋愛で失恋や嫌な 経験し,それらの経験をひきずっているために,現在,

恋人を欲しいと思っていない群であると考えられるた め,第4クラスターをひきずり群と呼ぶ。

第5クラスターは,「ひきずり」標準得点は平均以上 であるが,それ以外の5標準得点はすべて平均を下回っ ていた。特段明確な理由があるわけではないが,なんと なく恋人を欲しいと思っていない群であると考えられる ため,第5クラスターを理由なし群と呼ぶ。

次に,恋愛不要理由6標準得点によって分類された5

(6)

Table 3 恋愛不要理由項目の因子パターンと平均(標準偏差)

項目内容 F1 F2 F3 F4 F5 F6 平均(標準偏差)

1因子「恋愛による負担の回避」(負担回避:α= .90)

29B異性とつきあうのはわずらわしいから .79 .06 –.02 –.03 –.06 –.10 3.08(1.27)

13D恋人がいると,自分のペースを乱されるから .78 .06 .03 –.20 –.02 .12 3.31(1.31)

31D人に束縛されるのが嫌いだから .74 –.12 .06 –.08 .00 .14 3.59(1.34)

28A恋人といるよりも一人でいる方が楽しいから .71 –.00 .00 .06 –.18 .06 3.52(1.26)

12C恋人がいると,自分のための時間が減るから .71 .01 .27 –.17 –.09 .06 3.43(1.29)

22D自由でいたいから .65 –.14 .24 –.01 .03 .09 3.82(1.22)

11B異性とつきあうのは疲れるから .64 .07 .03 –.03 .07 .01 3.29(1.29)

21Cデートやプレゼントなどの交際費がかかるから .59 –.09 .05 .06 –.11 .04 2.74(1.40)

2B恋人と連絡を取り合うのが面倒だから .57 .00 .28 –.03 –.12 –.16 3.46(1.32)

14E誰かと一緒にいたいと思わないから .51 –.04 –.21 .26 –.24 .07 2.53(1.26)

5E人と一緒にいることが好きではないから .48 .21 –.31 .13 –.17 –.00 2.44(1.34)

20B恋人という存在は邪魔でしかないと思っているから .48 –.10 –.03 .33 –.02 –.12 2.22(1.25)

41E人とは結局理解し合えないと思っているから .45 .10 –.22 .25 .27 –.01 2.57(1.30)

23E人のことを信用していないから .37 .13 –.26 .21 .28 .02 2.55(1.35)

30C異性とつきあう程の精神的な余裕がないから .31 .28 .17 –.02 .28 –.07 3.14(1.34)

2因子「恋愛に対する自信のなさ」(自信なし:α= .84)

34G自分に自信がないから –.02 .90 –.08 –.15 –.06 –.04 3.67(1.19)

25G自分は魅力的な人間ではないから .01 .81 .02 –.08 –.03 –.15 3.58(1.12)

9I異性とつきあうとはどういうことなのかわからないから –.19 .74 .05 .21 –.22 .01 3.19(1.43)

43G異性とのつきあい方がわからないから –.13 .73 .07 .21 –.21 .02 3.12(1.36)

16G自分は異性にもてないから .12 .70 –.00 –.17 –.32 –.02 3.54(1.19)

8H異性とつきあうことで,傷つきたくないから .05 .48 .00 –.09 .31 –.01 2.85(1.37)

7G異性と出会う機会が少ないから .12 .44 –.05 –.07 –.08 .24 2.94(1.31)

32E異性のことが怖いから .21 .43 –.14 .06 .19 –.08 2.48(1.35)

24F恋人は「欲しい」と思ってできるものではないから –.11 .42 .10 –.03 –.09 .32 3.78(1.12)

27I今後の自分がどうなるかわからないから –.05 .30 .15 .04 .16 .27 3.21(1.34)

3因子「充実した現実生活」(充実生活:α= .82)

40D自分のやりたいことで手いっぱいだから .11 .08 .70 .02 .23 .00 3.48(1.34)

39Cいつも忙しいから .03 .02 .67 .10 .29 –.07 2.88(1.29)

19A恋人がいなくても毎日充実しているから –.08 –.17 .67 .16 –.09 .10 3.78(1.17)

3C恋人に割く時間がないから .36 .03 .57 –.07 –.00 –.24 3.38(1.33)

10A同性の友だちと遊んでいるだけで十分楽しいから –.09 .20 .46 .00 –.18 .13 3.90(1.18)

1A現在の生活に恋人が必要だと思わないから .14 –.03 .46 .23 –.29 –.10 3.97(1.08)

4D恋愛よりも自分のやりたいことを優先させたいから .35 –.02 .44 .03 –.14 .08 3.93(1.18)

4因子「恋愛の意義のわからなさ」(意義不明:α= .71)

37A恋愛することに価値を感じないから .04 –.13 .11 .85 –.04 –.00 2.68(1.31)

45I恋愛する意味を見出せないから –.05 –.00 .18 .81 –.03 –.13 2.89(1.33)

18I人を好きになるという気持ちがわからないから –.15 .29 .01 .40 –.06 .06 2.85(1.39)

38B異性とつきあっても,長続きしない気がするから .14 .16 .10 .30 .16 .13 3.09(1.28)

5因子「過去の恋愛のひきずり」(ひきずり:α= .64)

35H過去の恋愛で嫌な経験をしたから –.13 –.11 .11 .02 .64 .05 2.16(1.32)

17Hつきあっていた異性と別れたばかりだから –.11 –.24 –.01 –.07 .49 .02 1.54(1.07)

44H自分とつきあうと,その人を傷つけたり悲しませたりしてしまうから –.03 .33 .01 .06 .46 –.02 3.05(1.24)

26H以前つきあっていた異性のことをまだ思っているから –.12 –.15 –.08 –.12 .45 –.05 1.62(1.10)

36I自分の将来がまだ決まっていないから –.08 .20 .21 .18 .32 .29 3.10(1.36)

6因子「楽観的恋愛予期」(楽観予期:α= .56)

42F恋人は自然な流れのなかでできるものだと思っているから –.09 .12 .03 –.18 .08 .60 3.39(1.20)

15F恋人はそのうちできると思っているから .20 –.12 –.05 –.35 .04 .55 2.73(1.34)

33F自分の周りに魅力的な異性がいないから .18 –.18 –.05 .24 .03 .48 2.80(1.24)

6F今,好きな人がいないから .10 .02 –.02 .22 –.13 .45 3.88(1.34)

因子間相関 F1 F2 F3 F4 F5 F6

     第1因子「恋愛による負担の回避」(負担回避) – .35 .26 .48 .15 –.04      第2因子「恋愛に対する自信のなさ」(自信なし) – .11 .48 .24 .13      第3因子「充実した現実生活」(充実生活) – .02 –.18 .20      第4因子「恋愛の意義のわからなさ」(意義不明) – .07 .10      第5因子「過去の恋愛のひきずり」(ひきずり) – –.05

     第6因子「楽観的恋愛予期」(楽観予期) –

注.因子名後の()内は略称及びα係数である。

  負荷量に網かけをした項目は,ある因子に.40以上の負荷量を示したが,α係数の算出及び得点の算出の際に除外した項目である。

(7)

クラスターにおいて,男女比の偏りが異なるかを検討す るため,クロス集計表を作成し,χ2検定を行った(Table 5)。その結果,クラスターによる男女の人数の偏りは有 意ではなかった(χ(4, 2

N

= 294)= 7.51,

n.s.

)。

恋 愛 不 要 理 由 に よ る 恋 愛 不 要 群 の 分 類 に お け る S-ESDS6得点の比較

恋愛不要理由の違いによって,恋愛不要群でも自我 発達が異なるかを検討するため,恋愛不要理由6標準 得点によるクラスター分析によって分類された恋愛不 要群ごとに,「生殖性」を除くS-ESDS6得点を算出し,

Figure 1 恋愛不要理由

5

クラスターの恋愛不要理由

6

標準得点

Table 4 恋愛不要理由

5

クラスターを要因とした恋愛不要理由

6

標準得点の

1

要因分散分析結果

クラスター1 クラスター2 クラスター3 クラスター4 クラスター5

(63名) (81名) (80名) (46名) (24名) F値(df) 多重比較(Tukey法)

負担回避 0.96

(0.78)

0.12

(0.74)

–0.55 

(0.68)

0.04

(0.76)

–1.32 

(0.89) 55.58(4, 289)*** 1>2・4>3>5 自信なし 0.21

(1.05)

0.78

(0.54)

–0.75 

(0.65)

–0.01 

(0.65)

–0.82 

(1.02) 46.14(4, 289)*** 2>1・4>3・5 充実生活 0.45

(0.84)

0.03

(0.77)

0.16

(0.78)

0.05

(0.95)

–1.95 

(0.63) 40.41(4, 289)*** 1・2・3・4>5 1>2 意義不明 0.83

(0.89)

0.41

(0.82)

–0.74 

(0.60)

–0.03 

(0.76)

–1.05 

(0.60) 45.46(4, 289)*** 1>2・4>3・5

ひきずり –0.49 

(0.52)

–0.44 

(0.51)

–0.30 

(0.55)

1.56

(0.79)

0.62

(1.24) 36.58(4, 289)*** 4>5>1・2・3

楽観予期 –1.04 

(0.64)

0.43

(0.80)

0.43

(0.78)

0.18

(0.80)

–0.62 

(1.10) 35.50(4, 289)*** 2・3・4>1・5 恋愛拒否群 自信なし群 楽観予期群 ひきずり群 理由なし群

注.各得点下の()内は標準偏差である。

*** p < .001

(8)

クラスターを要因として,S-ESDS6得点について1要 因分散分析を行った(Table 6)。その結果,6得点すべ てにおいて要因の効果が有意であった(「基本的信頼 感」得点

F

(4, 289)= 16.58,

p

< .001;「自律性」得点

F

(4, 289)= 4.99,

p

< .01;「主体性」得点

F

(4, 289)= 9.46,

p

< .001;「勤勉性」得点

F

(4, 289)= 12.87,

p

< .001;「ア イデンティティ達成」得点

F

(4, 289)= 6.70,

p

< .001;「親 密性」得点

F

(4, 289)= 13.61,

p

< .001)。

そこで,Tukey法による多重比較を行ったところ,「基

本的信頼感」得点と「勤勉性」得点では,楽観予期群と ひきずり群が恋愛拒否群や自信なし群よりも得点が高 く,楽観予期群が理由なし群よりも得点が高かった。「自 律性」得点では,楽観予期群が恋愛拒否群や自信なし群 よりも得点が高かった。「主体性」得点では,楽観予期 群が恋愛拒否群や自信なし群よりも得点が高く,ひきず り群が理由なし群よりも得点が高かった。「アイデンティ

ティ達成」得点では,楽観予期群が恋愛拒否群や自信な し群よりも得点が高く,理由なし群が自信なし群よりも 得点が高かった。「親密性」得点では,楽観予期群,ひ きずり群,理由なし群の3群が恋愛拒否群よりも得点が 高く,楽観予期群が自信なし群よりも得点が高かった。

考   察

大学生における恋愛群・恋愛希求群・恋愛不要群の割合 と自我発達

本研究ではまず,大学生を恋愛群,恋愛希求群,恋愛 不要群に分類し,男女別に人数を集計したところ,恋愛 群は女子が多く,恋愛希求群は男子が多かったが,恋愛 不要群には男女で人数の偏りはみられなかった。

また,S-ESDS6得点について,恋愛状況と性の2要 因分散分析を行ったところ,「アイデンティティ達成」

得点では恋愛状況の有意な差はみられなかったが,他の

Table 5 恋愛不要理由

5

クラスター×性のクロス集計表

恋愛拒否群 自信なし群 楽観予期群 ひきずり群 理由なし群 全体

男子 28(24.6) 22(19.3) 35(30.7) 21(18.4)  8(7.0) 114(100.0)

女子 35(19.4) 59(32.8) 45(25.0) 25(13.9) 16(8.9) 180(100.0)

全体 63(21.4) 81(27.6) 80(27.2) 46(15.6) 24(8.2) 294(100.0)

注.各セルは人数(%)である。

Table 6 

S-ESDS6

得点に関する恋愛不要理由

5

クラスターを要因とした

1

要因分散分析結果

楽観予期群 ひきずり群 理由なし群 自信なし群 恋愛拒否群

(80名) (46名) (24名) (81名) (63名) F値(df) 多重比較(Tukey法)

基本的信頼感 2.94

(0.47)

2.68

(0.50)

2.54

(0.58)

2.38

(0.57)

2.25

(0.69) 16.58(4, 289)*** 楽・引>自・拒 楽>理

自律性 2.51

(0.57)

2.34

(0.68)

2.30

(0.63)

2.07

(0.57)

2.15

(0.78)  4.99(4, 289)** 楽>拒・自

主体性 2.88

(0.58)

2.70

(0.51)

2.64

(0.51)

2.40

(0.47)

2.41

(0.69)  9.46(4, 289)*** 楽>自・拒 引>自

勤勉性 2.83

(0.56)

2.62

(0.55)

2.40

(0.52)

2.29

(0.56)

2.20

(0.74) 12.87(4, 289)*** 楽・引>拒・自 楽>理 アイデンティティ

達成

2.67

(0.60)

2.53

(0.58)

2.66

(0.53)

2.23

(0.59)

2.37

(0.62)  6.70(4, 289)*** 楽>拒・自 理>自

親密性 3.32

(0.54)

3.04

(0.57)

3.08

(0.78)

2.74

(0.78)

2.53

(0.78) 13.61(4, 289)*** 楽・理・引>拒 楽>自 注.各得点下の( )内は標準偏差である。また,結果にあわせて,クラスターの順を並べ替えた。

  恋愛不要群全体の平均よりは高い値を示したところは太枠で囲った。

  多重比較での表記は,拒:恋愛拒否群,自:自信なし群,楽:楽観予期群,引:ひきずり群,理:理由なし群,をそれぞれ意味している。

*** p < .001,** p < .01

(9)

得点から,恋愛不要群は恋愛群や恋愛希求群よりも自我 発達の程度が低いことが明らかとなった。

これらの結果は,髙坂(2011)と同様の結果であり,

恋愛不要群は男女とも同程度の割合でおり,全般的には 自我発達が低いことが,本研究でも確認されたと言える。

恋愛不要理由による恋愛不要群の分類と自我発達の比較 本研究の目的は,恋愛不要理由を分析し,恋愛不要群 を恋愛不要理由によって分類し,分類による自我発達の 違いを検討することであった。因子分析の結果,恋愛不 要理由は,「負担回避」,「自信なし」,「充実生活」,「意 義不明」,「ひきずり」,「楽観予期」の6因子が抽出され た。また,恋愛不要理由によって恋愛不要群を分類した 結果,恋愛拒否群,自信なし群,楽観予期群,ひきずり 群,理由なし群の5群に分類された。

次 に, 恋 愛 不 要 理 由 に よ っ て 分 類 さ れ た5群 で

S-ESDS6得点の比較を行ったところ,恋愛拒否群や自

信なし群は,全般的に自我発達の程度が低く,理由なし 群が中程度であり,なりゆき群やひきずり群は自我発達 の程度が高く,特に楽観予期群は得点が高かった。

Erikson(1959 / 2011)は「自分のアイデンティティに 確信が持てない若者は,対人的な親密さを怖がって尻込 みする」と述べている。恋愛拒否群や自信なし群は,恋 愛に対する自信がなく,また恋愛する意義もわからない 青年であった。さらに恋愛拒否群は恋愛という親密な関 係をもつことによって生じる心理的・時間的な負担を回 避しようとして,恋人を欲しいと思っていない青年であ る。恋愛拒否群や自信なし群が「アイデンティティ達 成」得点をはじめS-ESDS6得点が概ね低かったことは,

Erikson(1959 / 2011)の指摘を支持する結果であると考 えられる。

一方,楽観予期群はS-ESDS6得点が全般的に高かっ た。浦尾(2004)は,楽観的な時間的展望は乳児期の 基本的信頼感に支えられ,青年期のアイデンティティ確 立と正の関連を示すと述べている。楽観予期群は,基本 的信頼感得点も高かったことから,この基本的信頼感の 高さが,青年期における楽観的な時間的展望やアイデン ティティの確立を促し,そのため「今,恋人ができなく ても,いずれできるだろう」と恋愛についても楽観的な 展望をもっていると考えられる。冨重(2004)は,現代 青年期後期の,特に男子の恋愛に対する態度は淡白であ り,自ら積極的に恋人を求めるのではなく, 自然に違 和感なく入ってきてくれるような淡い関係 を求める受 動性が目立つと述べているが,楽観予期群は,「いずれ 恋人はできる」という楽観的な予期をもっているため,

積極的に恋人をつくるための行動をとらないという点で は,冨重(2004)が指摘するような受動性が目立つ青年 とも一致すると考えられる。

ひきずり群もS-ESDSの各得点が恋愛不要群全体平均

よりも高く,恋愛不要群のなかでは,自我発達がある程 度進んでいる方であると考えられる。大野(1995)は「親 密性が成熟していない状態で,かつ,アイデンティティ の統合の過程で,自己のアイデンティティを他者からの 評価によって定義づけようとする,または,補強しよう とする恋愛的行動」を アイデンティティのための恋愛 として概念化している。ひきずり群は,過去の恋愛をひ きずっている者であるため,恋愛関係をもっていた経験 がある者であると考えられる。恋人がいる青年(恋愛群)

は総じてアイデンティティの感覚を強くもてていること が示されており(髙坂,2011),ひきずり群も恋人がい たときには,より自我発達が進んでいたと推察されるが,

恋愛関係を失ったため,自我発達が後退したと考えられ る。

本研究の問題点と今後の展望

本研究では,恋愛不要群がもつ恋愛不要理由を6つに 分け,恋愛不要理由によって恋愛不要群を5群に分類し た。さらに,恋愛不要理由によって分類された5群によっ て,自我発達の程度が高い群(楽観予期群やひきずり群)

や低い群(恋愛拒否群や自信なし群)がいることを明ら かにした。これまで, 恋人を欲しいと思わない 青年 は,その心理的特徴の多様性を考慮されず,一括りにさ れて扱われ(髙坂,2011など),全般的にネガティブな 評価を受けてきた(冨重,2004など)。しかし,本研究 では,恋愛不要群を恋愛不要理由によって分類すること により,自我発達の程度が高い一群が存在することを明 らかにした点で, 恋人を欲しいと思わない 青年の理 解に示唆を提供したと考えられる。

しかし,本研究には,いくつかの問題点が残されてお り,また今後取り組むべき課題もある。1つ目に,使用 した項目群の内的一貫性に関わる問題である。恋愛不要 群を分類するために使用した恋愛不要理由6下位尺度の うち,「ひきずり」と「楽観予期」の

α

係数は,項目選 択をした後でも,.64と.56であり,十分な値であると は言えない。今後,恋愛不要理由については項目内容の 修正を行う必要があると考えられる。

2つ目に,なぜ自我発達の程度が高かった楽観予期群 が 恋人を欲しいと思わない のかが,不明確である点 である。Erikson(1959 / 2011)は,アイデンティティが 確立できた者は,親密な関係を求めるようになると指摘 しているが,楽観予期群は,アイデンティティ確立の程 度が高いにもかかわらず,異性との親密な関係を求めて はいない。今後は面接調査などによって,楽観予期群の 心理的特徴をより詳細に検討する必要がある一方,恋愛 のみならず様々な事象に対する価値観が多様化している 現代において,アイデンティティが確立すれば,親密 な関係を求めるようになるというErikson(1959 / 2011)

の理論自体も,再度検討する必要があると考えられる。

(10)

3つ目に,恋愛不要群の時間的変化についてである。

例えば,ひきずり群は,過去の経験を現在もひきずって いるために恋愛に向かわない群であると考えられる。し かし,このような過去の経験はいずれ薄れていくもので あり,時間の経過によってひきずり群は恋愛希求群に変 化する可能性が想定できる。また,恋愛拒否群や自信な し群も,主体的な選択を行い,アイデンティティが確立 できた時には,恋愛に向かうことも考えられる。このよ うに現時点において「恋人を欲しいと思わない」と考え ている青年がいる一方で,「このままずっと欲しいと思 わない」と考えている青年も存在すると推察される。こ のように恋愛不要群の中でも,恋愛希求群などに変化し ていく群とそうではない群が想定される。今後は,この ような恋愛不要群の時間的な変化を,縦断調査などに よって検討する必要があろう。

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付記

1.本研究は日本青年心理学会第19回大会(2011年)

で発表したものを再分析し,論文化したものである。

2.本研究の実施にあたり,以下の方々に調査実施の ご協力をいただきました。ここにご芳名を記し,心より 感謝の意を表します(ご芳名はアルファベット順)。

(11)

天谷祐子先生(名古屋市立大学),葉山大地先生(茨 城大学大学院),本多潤子先生(田園調布学園大学),宮 沢秀次先生(名古屋経済大学),茂垣まどか先生(立教 大学非常勤),中間玲子先生(兵庫教育大学),則定百合 子先生(和歌山大学),齊藤誠一先生(神戸大学),佐藤

有耕先生(筑波大学),太幡直也先生(常磐大学),高木 秀明先生(横浜国立大学),田中洋子先生(横浜国立大 学非常勤),山本由美先生(和光大学),渡邉照美先生(く らしき作陽大学),渡邊芳之先生(帯広畜産大学)

Kosaka, Yasumasa (Faculty of Human Studies, Wako University). Reasons to Not Desire a Steady Romantic Relationship, in Relation to Adolescent Ego Development. The Japanese Journalof Developmental Psychology 2013, Vol.24, No.3, 284−294.

This study investigated the relationship between reasons for not desire steady romantic relationship and ego development among adolescents. Participants were 307 university students who did not desire a steady romantic relationship (Love- Unnecessary group). Factor analysis of items consisting of reasons to not want a steady romantic relationship revealed 6 factors: avoiding the burdens of a steady romantic relationship; self-mistrust; desire for a full life; not knowing the meaning of romantic relationships; the influence of past romantic relationships; and optimistic expectations for a romantic relationship.

Next, cluster analysis revealed 5 clusters: adolescents declining to have a steady romantic relationship; adolescents having no reason not to desire a steady romantic relationship; adolescents’ self-mistrust; adolescents being influenced of past romantic relationships; and adolescents having optimistic expectations for romantic relationships. Finally, Analysis of Variance indicated that adolescents who declined to have a steady romantic relationship and reported self-mistrust were low in ego development, while adolescents with optimistic expectations for a romantic relationship were high in ego development.

【Keywords】 Romantic relationship, University students, Identity, Ego development, Adolescents

2012. 9. 20 受稿,2012. 12. 3 受理

参照

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