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博 士 ( 医 学 ) 井 戸 坂 弘 之

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 井 戸 坂 弘 之

     学位論文題名

  Fibrin :N/Iatrix ProvidesaSuitable ScaEf 01dforBone MarrOWStromalCe11STranSplantedintOInjuredSpinal   COrd : ANOVelMaterialforCNSTiSSueEnglneerlng      (フィブ,リンは脊髄損傷部位への骨髄問質細胞移植における      適切な足場となる〜中枢神経組織工学の新たな材料として〜)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

[背景と目的]

  脊髄損傷による障害には未だ確立された有効な治療法が無く、多くの患者及びその家族が後遺 症、介護などに苦しんでいる。近年の基礎研究により細胞移植治療が脊髄損傷患者の機能回復に 対し有効に働く事実が示唆されている。しかしながら、移植技術の安全性や有効性に関してはい まだに確立された方法がない。特に脊髄組織は脆弱かつ繊細な構造でありながら、非常に狭い環 境にある為、いかに効率的に移植細胞を生着させ、しかも投与による侵襲を抑えるかという大き な問題がある。今回われわれは、いずれも自己骨髄及び自己血より採取可能な骨髄問質細胞(Bone Marrow Stromal Cells:BMSC)とフィブリンに着目し、これらを用いてフィブリン基質が有効な scaffold(足場)となり得るかどうかにつ いての研究を行った。

[ 材料と方法]

く 移植細胞>

  BMSCはgreen fluorescent protein (GFP)を発現させた生後4ー8週のトランスジェニックマウス よ り採取し、3代継代培養した ものを使用。

く フィブリンの作成>

  市販されているボルヒール@を用い、移植に適したフィブリン作成のためA液(2,.5、10mg/ml フ ィ ブリ ノー ゲン )とB液(20U/mlの トロ ンビ ンと2mMのCaCl2を同体積で混合)を用意した。

重 合に要する時間は濃度に依存する。

く フィブリン基質内でのBMSCの培養冫

  A液( フィ ブリ ノーゲン10mg/ml) 100Hlと、B液にBMSC(lxl04)を 含んだ混合B液100111を重 合 させフィブリンを形成し2週 間培養。フィブリン基質の3次元構造を走査電子顕微鏡、BMSCの 存 在を螢光顕微鏡で確認した。

く ラット脊髄hemisectionモデ ルの作成と移植>

  成体Sprague―Dawleyラット(200ー250g)を用いて1.5%イソフルレンと笑気:酸素(70:30)の吸 入 麻酔を行なった。手術顕微鏡下で第8胸椎椎弓切除し28G針で硬膜切開後、右背側脊髄に小切 開 を加えエチレン・テトラフロロエチレン共重合体(ETFE)製の留置針を使い2.5mmの長さの右半 切 モデルを作成した(Fig.1)。それらを以下の3群を分類。

A群(n=ニ5):リン酸緩衝食塩液(PBS)を摘出腔ヘ注入(対照群)。

B群(n:ニ5):BMSC (3xl05)を含む15 ulの懸濁液を摘出腔ヘ注入。

C群(n:ニ9):2..5mg/mlのフ ィブリノーゲンを含んだ7.5UlのA液と、BMSC (3xl05)を含むB液 7.5ロ1を 混 合 し 柔 ら か な グ ル 状 と た っ た フ ィ ブ リ ン15ハ1を 摘 出 腔 へ 移 植 。

6 ‑

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すべての群で移植後はサイクロスポリンA lOmg/Kgを連日皮下に投与。Basso−BeattieーBresnahan (BBB)ス コ ア を 用 い て 、 移 植 後1,7,14,21,28日 目 に 右 下 肢 の 運 動 機 能 を 評 価 した 。 く組織学的解析>

  移植4週後にホルマリンで潅流固定し移植 部を摘出し4mmの連続軸状断切片を作成。GFP、GFAP (Glial Fibrillary Acidic Protein)、MAP2 (Microtubule一Associated Protein2)による免疫組織 染色を行い移植細胞の生着、移動、分化の状態を評価した。

[結果]

くフィブリン基質内で培養されたBMSC>

走査電子顕微鏡で見るとフィブリン基質 は薄い繊維からなり、2〜5umの小孔を持つ均一な網 目構造を形成する(Fig.2)。培養を始めて2週間後に螢光顕微鏡で観察 した結果、多くのGFP陽 性細胞が観察された。これによりBMSCはフ ィブリン内で少なくとも2週間生存可能であると考え られた。

くフアブリンによる足場はBMSC移植後の機能回復を改善させる冫

  Fig.3が 示す よう に、2、3及び4週日 のBBB下 肢運 動機 能 評価(21点満点 )において、C群は A群およぴB群よりも有意な神経症状の改善が見られた(P〈O.05)。

く フ ィ ブ リ ン に よ る 足 場 は 移 植 さ れ たBMSCの 生 着 と 組 織 内 移 動 を 強 化 す る >   移植後4週目 にA群でH―E染色を行い後索 、側索そして背側灰自質が完全に破壊されているこ とが確かめられた。

  B群では少数 のGFP陽性細胞のみが障害部 境界領域の灰白質に分布するに過ぎなかった。そし て、その細胞の大多数が円形または楕円形であった(Fig. 4A,B)。蛍光二重免疫染色法により移植 細胞 の表 現型 を見 ると 、GFP陽性 細胞はastrocyteの特異的マーカーであるGFAP陰性であった (Fig. 4C―E)。しかし、、灰白質に存在するGFP陽性細胞のおよそ30%が成熟したneuronの特異的 マーカーであるMAP2を発現していた。

  C群 ではB群に比 べ、多数のGFP陽性細胞が傷 害された脊髄灰白質内に確認できた。それらは 障害部境界領域から広く分布し、中心管周囲や反対側の灰白質まで及んでいた(Figs. 5&6)。それ らの幾っかは形態的にneuronに類似してい た(Fig.5)。螢光二重免疫染色法を行うとGFP陽性細 胞はGFAPで陰性を示し、約30%がMAP2で陽性となった(Fig. 6C―H)。

  BMSCとフィブリンの複合体は損傷部の大きさを変えず、免疫染色の結果からも重大な反応性変 化は生じていない。

[結論]

  損傷した組織に移植細胞を投与する際、その足場となる材料に求められるものは、毒性が無く、

不活性で、柔軟性に富みしかも吸収性であるなどである。足場により局所に集中的に投与された 移植細胞は組織内に生着し遊走、増殖し、軸索の成長を助長し、さまざまな細胞外基質分子と神 経組織栄養因子の放出を可能とする。その候補としてアルギニン、マトリゲル、コラーゲン、ポ リグリコール酸(PGA)、ゼルフオーム、pHEMAヒドロゲルなどがあり、諸家がその有効性につい て報告している。しかし、異種間の材料であるゼラチンやコラーゲンなどは炎症や免疫反応を惹 起する可能性がある。一方、フィブリンは自家より採取されるフィブリノーゲンとトロンビンよ り作られ安全性が高い。またフィブリノーゲンの濃度を変え重合に要する時間をコントロールす る事により、移植腔の体積や形態、性状に応じてより柔軟に対応することが可能となる。これら の理想的ぬ特徴を利用して、すでに骨、軟骨、心臓、皮膚や腎臓などで、フィブリンは細胞移植 の足場としての有用性が報告されている。

  今 回の 研究では、in vitroでBMSC細胞がフィブリン内で少 なくとも2週間生存できるこ とが 確認された。またラットの脊髄hemisectionモデルにおいて、BMSC移植の足場としてフィブリン を用いることによりBMSC単独移植よりも有意に神経症状の回復が見られた。免疫組織学的にも多 くの移植細胞の生着、移植周囲組織のみならず中心管や反対側の灰白質に及ぶ遊走、一部の細胞 はneuron^の分化を示唆する所見が得られた。

  これらのことから、外科的に脊髄損傷の移植治療を行うにあたり、移植細胞をより効率的かつ 安全に局所投与する足場としてフィブリンは有効と考えられる。

―・ワ  

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

     学位論文題名

  Fibrin rvIatrix ProvidesaSuitable Sca [ f01dforBone MarrOWStromalCe11STranSplantedintO 工 njuredSpinal   COrd : ANOVelMaterialforCNSTiSSueEnglneerlng      (フィブリンは脊髄損傷部位への骨髄問質細胞移植における      適切な足場となる〜中枢神経組織工学の新たな材料として〜)

  近 年 の 基 礎 研 究 に よ り 細 胞 移 植 治 療 が 脊 髄 損 傷 の 機 能 回 復 に 対 し 有 効 に 働 く 事 実が 示唆 され てい る。 しか し 、移 植技 術の 安全 性や 有効 性に関してはいまだに確立さ れ た 方 法 が な い 。 特 に 脊 髄組 織は 脆弱 かつ 繊細 な構 造 であ りな がら 、非 常に 狭い 環 境に ある 為、 いか に効 率的 に 移植 細胞 を生 着さ せ、 しか も投与による侵襲を抑えるか とい う大 きな 問題 があ る。 本 研究 では 、い ずれ も自 己骨 髄及び自己血より採取可能な 骨髄 問質 細胞(Bone Marrow Stromal Cells: BMSC)とフィ ブリンに着目し、これらを用 いてフィブリンが有効なscaffold(足場)となり得るかどうかについての検討を行った。

  市 販さ れて いる フィ ブリ ン 製剤であるボルヒールoを用 い、移植に適したフィブリン 作 成 の た めA液(2.5、10mg/mlフ ィ ブ リ ノ ー ゲ ン ) とB液(20U/mlの トロ ンビ ンと2mM のCaCI2を同体 積で混合)を用意した。先ずA液(フィブリノーゲン10mg/ml)100パ|と、

B液 にBMSC(1xl04)を 含 ん だ 混 合B液100ロ1を 重 合 さ せ フ ィ ブ リ ン を 形 成 し2週 間 培 養 。 フ ィ ブ リ ン 基 質 の3次 元 構 造 を 走 査 電 子 顕 微 鏡 、BMSCの 存在 を螢 光顕 微鏡 で 確 認 し た 。 次 に 成 体Sprague一Dawleyラ ッ ト を 用 い て 第8胸椎 椎弓 切除 し2.5mmの 長 さの 右半切モデルを作成した。それらを以下の3群を分類した。A群(n=5):リン酸緩 衝食 塩液(PBS)を摘 出腔 へ注 入( 対照 群) 。B群(n:ニ5) :BMSC (3x105)を 含む15ロI の懸 濁液 を摘 出腔 ヘ注 入。C群(n=9): 2.5mg/mlの フィ ブリノーゲンを含んだ7.5〃|

のA液 と、BMSC(3x10s)を含 むB液7.5〃1を 混合 し柔 らか な ゲル 状と なっ ′こ フィ ブリ ン15ロ1を 摘出 腔へ 移植 。Basso−Beattie―Bresnahan(BBB)スコアを用いて、移植後1 7,14,21,28日 目 に 右 下 肢の 運動 機能 を評 価し た。 移植4週後 にホ ルマ リン で潅 流 固 定 し 移 植 部 を 摘 出 し4mmの 連 続 軸 状 断 切 片 を 作 成 。GFP、GFAP、MAP2に よ る 免

明 雅

浪 辺

授 授

教 教

査 査

主 副

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疫 組 織 染 色 を 行 い 移 植 細 胞 の 生 着 、 移 動 、 分 化 の 状 態 を 評 価 し た 。   BMSCとフィブリンを2週間培養した結果、走査電子顕微鏡で見るとフィブリン基質 は薄い繊維からなり、2〜5ロmの小孔を持つ均一な網目構造を形成していた。螢光 顕微鏡で観察した結果、多くのGFP陽性細胞が観察された。これによりBMSCはフイ ブリン内で少なくとも2週間生存可能であると考えられた。またBMSCをラットに移植 し たモ デル では、2、3及び4週目のBBB下肢運動機能評価(21点満点)において、C 群はA群およびB群よりも有意な神経症状の改善が見られた(P〈0,05)。B群では少 数 のGFP陽性 細胞 のみ が障 害部 境界 領域 の灰白質に分布するに過ぎなかった。そ して、その細胞の大多数が円形または楕円形であった。螢光二重免疫染色法により 移 植細 胞の 表現 型を 見ると 、GFP陽 性細 胞はastrocyteの特 異的 マ― カーである GFAP陰 性で あっ た。 しかし 、灰 白質 に存 在するGFP陽性細胞のおよそ30%が成熟 し たneuronの特 異的 マーカ ―で あるMAP2を発 現し てい た。C群で はB群に比べ、

多 数のGFP陽 性細 胞が 傷害 され た脊 髄灰 白質内に確認できた。それらは障害部境 界領域から広く分布し、中心管周囲や反対側の灰白質まで及んでいた。それらの幾 っ かは 形態 的にneuronに類 似し てい た。 螢光二重免疫染色法を行うとGFP陽性細 胞はGFAPで陰性を示し、約30%がMAP2で陽性となった。

  損傷した組織に移植細胞を投与する際、その足場となる材料に求められるものは、

毒性が無く、不活性で、柔軟性に富みしかも吸収性であるなどである。足場により局 所に集中的に投与された移植細胞は組織内に生着し遊走、増殖し、軸索の成長を助 長し、さまざまな神経組織栄養因子などの放出を可能とすると考えられる。今回の研 究では、in vitroでBMSC細胞がフアブリン内で少なくとも2週間生存できることが確認 された。またラットの脊髄hemisectionモデルにおいて、BMSC移植の足場としてフィブ リンを用いることによりBMSC単独移植よりも有意に神経症状の回復が見られた。免 疫 組織 学的 にも多くの移植細胞の生着、移植周囲組織のみならず中心管や反対側 の 灰白 質に 及ぶ遊走、―部の細胞はneuronへの分化を示唆する所見が得られた。

これらのことから、外科的に脊髄損傷の移植治療を行うにあたり、移植細胞をより効 率 的 か つ 安 全 に 局 所 投 与 す る 足 場 と し て フ ィ ブ リ ン は 有 効 と 考 えら れ る 。

公 開発 表に おい て、 主査の 三浪 教授 からBMSCのneuron分化 への 特異 性、フィブ リンの具体的な作用、臨床応用する場合の時間的な問題点の質問があった。続いて 副査の渡辺教授から、フアブリンの品質的安定性、BMSCのフィブリン内での増殖能、

iPS細胞に対する意見の質問があった。最後に副査の岩崎教授から共著者としての 意 見、 臨床 応用する場合の問題点や改善点などが提示された。約30分にわたり非 常に活発な質疑応答が行われ、何れの質問に対しても申請者は自らの研究に基づく 経験や過去の論文の内容を引用し適切な回答をした。

この論文は脊髄損傷に対する骨髄問質細胞移植治療を有効に行う際の足場として、

フィブリンの有効性と安全性を初めて証明した点で優れており、臨床応用の際に重要 な 実 験 的 根 拠 と な り 得 る も の で 、 大 変 意 義 の あ る 研 究 で あ る 。

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審査員一同はこれらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるの に十分な資格を有するものと判断した。

参照

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