博士(医学)坂井恵子 学位論文題名
糖尿病患者における血管合併症と
nick02‑GPIratio との関連性に関する検討 学位論文内容の要旨
糖尿病における血管病変の原因としては,酸化ス卜レスや糖化蛋白による血管内皮細胞 機能障害,血小板機能の亢進,凝固因子の増加,線溶系の低下が報告されており,糖尿病 患者は非糖尿病者と比較し血栓形成傾向にあると考えられている.生体内における血栓形 成傾向,凝固線溶異常を推定する臨床的マ.カーとしては,フィブリノーゲン(Fbg ),
プラスミノーゲンアクチベー夕.インヒビター(PAI ー1 ),プラスミン.az プラスミンイン ヒピター複合体(PIC) ,卜口ンピン・アンチト口ンビンIII 複合体(TAT) , D 一ダイマ一,な どがあり,生体内での凝固反応を促進と抑制の両面より制御している興味深い蛋白として p2 ーGPI が注目されている.
D2 − GPI は,I .V の 5 つのドヌインより構成され,陰性荷電を持っりン脂質に結合し,血 小板凝集抑制,ト口ンビン生成の抑制,Xa 因子の活性化抑制など凝固反応を抑制する一方,
活性化プロテインC によるVa 因子阻害能を抑制する事で凝固を促進する作用も有している.
凝固抑制作用や,凝固亢進作用はりン脂質結合能に由来しており,V ドヌインに存在する Lys317 ―Thr318 の結合が切断されるとりン脂質に対する結合の親和性が減少し,f32 ーGPI の 機能は消失しnick{32 ーGPI に変化することが知られており,更にこの切断はプラスミンや卜 リプシンにより起こる事が明らかとなった.血管内に微小血栓が生成されると,プラスミ ン が産 生 され,p2 − GPI がnickp2 ―GPI に変化する 、と考えら れる.そこ で本研究で は nickp2 ― GPIrat‑io ,すなわちプラスミンによりp2 −GPI からnick[32 ー GPI に変化した割合
〔(血清 中nick[32 − GPI/ 血 清tOtal[32 ― GPI ) xi000 〕と糖尿 病における血管合併症と の 関 連 性 を 検 討 し , 血 管 障 害 を 反 映 す る 新 し い 指 標 とし て の 有用 性 を検 討 した . 対象は北海道大学病院第二内科外来に通院している糖尿病患者のうち,文書にて同意が 得 られ た 204 人( 男 性: 女 性 110 人: 94 人 ) . 年齢 は 24 歳 から 81 歳 ( 60.3 士 12 歳),
更に三井記念病院脳ドック受診者のうち研究に同意した495 人を非糖尿病対照群とした.
外来受診時,身体所見と血液検査を行い,総頚動脈内膜中膜肥厚(IMT )の測定を実施し た.降圧剤内服例または,収縮期血圧,拡張期血圧が各々140mmHg , 90mmHg 以上を高血圧 と 判定 し た.高脂血 症薬内服例 または,血 清総コレス テ口ール, 中性脂肪が それぞれ 220mg/dl ,150mg/dl 以上を高脂血症と判定した.
糖尿病細小血管合併症の有無は下記の方法で検討した.糖尿病神経障害は自覚症状と,
他覚的検査結果にて振動覚の低下,腱反射の消失を確認した場合,更に神経伝達速度の遅
延にて判 定した.糖 尿病網膜症 は専門の眼 科医がDavis 分類(改変)に基づいて診断し
た.糖尿病腎症は血液検査,尿検査により評価した.腎症の病期分類は,腎症なし,II 期,
III期 ,IV期 と 分 類 し た . 虚 血 性 心 疾 患 の 有 無 は 既 往 歴 と 負 荷 心 電 図 な ど に よ り 判 定 し た . 脳 ド ッ ク を 受 診 者 に 対 し て は , 脳MRI検 査 を 施 行 し 画 像 は 脳 外 科 医 が 読 影 を 行 っ た . nickp2−GPIの 測 定 はNGPI―60F(ab)2を 一 次 抗 体 ,NGPI―23 (ab) ―Biotinを 標 識 抗 体 と し て 使 用 し サ ン ド イ ッ チELISA法 に よ っ て 測 定 し た . 同 様 にp2―GPIの 測 定 はNGPI−23 を 一 次 抗 体 ,Anti human p2―GPI rabbit IgG−Biotinを 標 識 抗 体 と し て 使 用 し サ ン ド イ ッ チELISA法によって測定した.
IMTと 臨 床 所 見 と の 関 連 を 検 討 す る た め ,IMTを 従 属 因 子 と し て 年 齢 , 罹 病 期 間 ,BMI, nickp2−GPI ratio, 総 コ レ ス テ □ ー ル , 中 性 脂 肪 を 独 立 因 子 と し て 単 回 帰 分 析 を 行 っ た . ま た 高 血 圧 , 高 脂 血 症 , 虚 血 性 心 疾 患 , 糖 尿 病 細 小 血 管 合 併 症 に つ い て はMann−Whi tneyU 検定にて解 析を行った.IMTはni ck{32−GPI ratio(p−ー0.0201,R:0.27),年齢(:―0.0001, R=O. 44) , 高 脂 血 症 (p=0. 032) と の み 有 意 な 相 関 を 認 め , 更 に 多 変 量 口 ジ ス テ ィ ク 解 析 を 行 っ た と こ ろ , 年 齢 が 独 立 し た 危 険 因 子 で あ っ た .nickp2−GPI ratioに つ い て も , 同 様 に 単 回 帰 分 析 とMann一Whi tneyU検 定 , 更 に 糖 尿 病 細 小 血 管 合 併 症 の 病 期 に よ る 比 較 は 、 Kruskal−Walisの 検 定 を 用 い 群 間 の 有 意 差 を 検 定 し た ,nick[32−GPI ratioは 罹病 期間 ,BMI, コ レ ス テ 口 ー ル , 中 性 脂 肪 と 相 関 を 認 め ら れ ず , 年 齢 と の み有 意な 相関 を認 め (pく0. 0001, R=O. 29) , 非 糖 尿 病 群 と 比 較 し 糖 尿 病 群 で 有 意 に 上 昇 し て い た (nickp2―GPI ratio中 央 値 : 非 糖 尿 病 群 ;0. 910, 糖 尿 病群 ;1.55,pく0.0001) .更 にnickf32―GPI ratioは糖 尿病 神 経 障 害 の 合 併 群 に お い て 有 意 に 高 値 を 示 し (nick[32−GPI ratio中 央 値 : 神 経 障 害 な し ; 0. 752, 神 経 障 害 あ り ;1.070,p=0. 0038) , 糖 尿 病 網 膜 症 , 糖 尿 病 腎 症 の 病 期 の 進行 した 群 に お い て 高 値 を 示 し た (nickp2−GPI ratio中 央 値 : 網 膜 症 な し ;0.8!3, 単 純 網 膜 症 ; 0. 980, レー ザー 治療 後;1.485, 増殖 前網 膜症 ;1.650p―−0.0705, 腎症 なし ;0.812,II 期 ;0.803,III期;1.290,IV期;1.720p 0.0057).高血 圧,高脂血症に関してはnickp2−GPI ratioと 有 意 な 関 連 は 認 め ら れ ず , 更 に 薬 物 投 与 の 有 無 に お け るnickp2−GPIratioも 検 討 し た が 差 は 認 め な か っ た . 虚 血 性 心 疾 患 の 有 無 で は 有 意 な 差 は 認 め ら れ ず , 脳 梗 塞 を 認 め る 群 に お い て はnickp2−GPIratioが 有 意 に 高 値 を 示 し た (nickp2―GPIratio中 央 値 : 脳 梗 塞 な し ;0.750, 脳 梗 塞 あ り ;0.940p 0.027) , 更 にIMTの 上 昇 に 伴 い ,nickp2ーGPIratio は 高 値 を 示 し た (nickp2−GPIratio中 央 値 :IMT≦0.51mm;0.656,0.52−0.6mm;0.750, 0.61―0.73mm;1.160,≧0.74mm;1.395p 0.0013),
今 回 の 研 究 結 果 か らnickp2―GPIratioの 上 昇 は 血 管 内 皮 細 胞 の 障 害 が 凝 固 線 溶 系 の 異 常 を 引 き 起 こ し , 組 織 で 産 生 さ れ た プ ラ ス ミ ン に よ っ てB2ーGPIか らnickp2一GPIの 形 成 が 促 進 さ れ た た め と 考 え ら れ る . 糖 尿 病 患 者 に お け るnickB2−GPIratioの 上 昇 は 血 管 合 併 症 と 凝固線溶異 常の関連を示唆する興味深い成績と考えられる.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
糖尿病患者における血管合併症と
nick02‑GPIratio との関連性に関する検討
糖 尿 病 患 者 は , 血 管 内 皮 細 胞 機 能 障 害, 血小 板機 能の 亢進 ,凝 固 因子 の増 加,
線 溶 系 の 低 下 に よ り 血 栓 形 成 傾 向 に あ る と 考 え ら れ て い る . 生 体 内 に お け る 血 栓 形 成 傾 向 , 凝 固 線 溶 異 常 を 推 定 す る 臨床 的マ ―カ ーと して は, プ ラス ミノ ーゲ ン ア ク チ ベ ー夕 ―イ ンヒ ピタ ー(PAI‑1),プ ラス ミン ・晩 プラ スミ ン イン ヒビ ター 複 合 体(PIC), 卜 口 ン ピ ン ・ ア ン チ ト 口 ン ビ ンni複 合 体(TAT),D‑ダ イ マ 一 , な ど が あ る が , 凝 固 線 溶 異 常 の 新 た な 指 標 と し てp2GPIが プ ラ ス ミ ン に よ り 限 定 分 解された,nickp2GPIの上昇 が報告された.
p2‑GPIは ,I〜Vの5つ の ド メ イ ン よ り 構 成 さ れ , 陰 性 荷 電 を 持 っ り ン 脂 質 に 結 合 し , 凝 固 反 応 を 抑 制 す る 一 方 , 凝 固を 促進 する 作用 も有 して い る. しか し,
Vド ヌ イ ン に 存 在 す るLys317‑Thr318の 結 合 が , プ ラ ス ミ ン に よ り 切 断 さ れ る とnick[32‑GPIに 変 化 し ,p2−GPIが も つ 凝 固 制 御 機 能 は 失 わ れ る . 血 管 内 に 微 小 血 栓 が 生 成 さ れ る と , プ ラ ス ミ ン が 産 生 さ れ ,[32‑GPIがnickp2‑GPIに変 化す る と 考 え ら れ る . そ こ で 本 研 究 で はnickp2‑GPI ratio, すな わち プ ラス ミン によ り32‑GPIからnickp2‑GPIに変化した 割合〔(血清中nick{3 2‑GPI/血清total[32‑GPI) x1000)と 糖 尿 病 に お け る 血 管 合 併 症 と の 関 連 性 を 検 討 し , 血 管 障 害 を 反 映 す る 新 しい指標としての有用性を検討した.
対 象 は , 糖 尿 病 群 と し て 北 海 道 大 学 病 院 第 二 内 科 外 来 に 通 院 し て い る 糖 尿 病 患 者 の う ち 、 , 文 書 に て 同 意 が 得 ら れ た204人 , 平 均 年 齢 は60.1歳 .更 に三 井記 念 病 院 脳 ド ッ ク 受 診 者 の う ち 研 究 に 同 意 し た495人 を 非 糖 尿 病 対 照 群 と し た . 検 討 項 目 と し て 高 血 圧 , 高 脂 血 症 の 有 無 や , 糖 尿 病 細 小 血 管 合 併 症 で あ る 糖 尿 病 神 経 障 害 , 糖 尿 病 網 膜 症 , 糖 尿 病 腎 症 の 有 無 と 病 期 分 類 , ま た 大 血 管 障 害 と し て 虚 血 性 心 疾 患 , 脳 硬 塞 , 総 頚 動 脈 内 膜 中 膜 肥 厚(IMT)に っ き 行 っ た ・ nick[3 2‑GPIの測定はNGPI‑60F (ab,)2を一次抗体,NGPI‑23 (ab') Biotinを標識 抗 体 と し て 使 用 し サ ン ド イ ッ チELISA法 に よ っ て 測 定 し た . 同 様 にl32‑GPIの 測 定 はNGPI‑23を一 次抗 体,Anti human [32‑GPI rabbit IgG‑Biotinを 標識 抗体 とし て 使用しサンドイッチELISA法 によって測定した.
nickl32‑GPI ratioと 年 齢 , 罹 病 期 間 ,BMIとの 関連 につ いて は単 回 帰分 析を 行っ
夫 博
雄
隆 正
輝
池 香
橋
小 浅
石
授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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た. また 高血 圧,高脂血症,虚血性心疾患,糖尿病細小血管合併症については Mann‑WhitneyU検定 を行 い, 更に 糖尿 病網 膜症,糖尿病腎症の病期分類といっ た2群以上の比較は,Kruskal‑Wallisの検定を行った,nickp2‑GPI ratioは罹病期 間,BMIと相 関を認 めら れず ,年 齢と のみ 有意な相関を認め,非糖尿病群と比 較し糖尿病群で有意に上昇していた.更にnickl32‑GPI ratioは糖尿病神経障害の 合併 群に おい て有意に高値を示し,糖尿病網膜症,糖尿病腎症の病期の進行し た群において高値を示した.高血圧,高脂血症に関してはnickl32‑GPI ratioと有意 な関連は認められず,更に薬物投与の有無におけるnickp2‑GPI ratioも検討した が差 は認 めな かった.虚血性心疾患の有無では有意な差は認められず,脳梗塞 を認める群においてはnick[32‑GPI ratioが有意に高値を示した.更にIMTの上昇 に伴い,nickl32‑GPI ratioは高値を示した.
質疑応答においては石橋教授から,nickp2GPI ratioの血管に対する作用と危 険予 測因 子と しての作用について,測定時のプラスミン活性について,測定の 結果 を平 均値 で比較検討することについての解釈方法について質問があった.
ついで浅香教授から,nickp2GPI ratioとnickp2GPIの測定の違いについて,糖尿 病患者以外の疾患でのnickp2GPI ratioの測定結果について,細小血管障害,大 血管障害におけるnickp2GPI ratioの上昇の機序の違いについて,小池教授から,
nickp2GPI ratioと他の凝固マーカーの測定との違いについて,nickp2GPI ratioが 今後 血管 障害 の危険予測因子としての可能性についての質問があった.いずれ の質問に対しても,申請者は概ね適切に回答した.
本 論文 にお ける検討から,今後は凝固線溶を介した血管障害の指標として,
ま た 血 管 合 併 症 の 危 険 予 測 因 子 と し て 有 用 で あ る と 考 え ら れ た . 審 査委 員一 同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取 得単 位な ども 併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有す るものと判定した.