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博士(農学)森 建太 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)森   建太 学位論文題名

コハク酸モノグリセリドによる食肉の軟化機溝に関する研究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  本論文は総頁数71頁の和文論文で、図31、表1、引用文献44を含み、他に3編の参考論文 が添えられている。

  食肉の品質を決定する要因の中で、軟らかさは人の嗜好性にとって最も重要である。食肉 の軟らかさに直接影響を及ぽすのは、物理的衝撃に対して比較的堅固な高次構造を組んで存 在する筋原線維と筋肉内結合組織であり、両者の性状は食肉の軟らかさに大きく影響する。

一般に、老齢な家畜および家禽から生産される食肉は硬くて品質が劣るが、老廃牛から得ら れる牛肉などの硬い食肉を人為的に軟らかくすることは食肉の有効利用の点から重要な意義 を有する。食肉を軟化するためには、パバインを製剤化したものが最も広く利用されている が、反応の制御が難しいために、過度の軟化や外観の劣化などが起こってしまう欠点がある。

一方、夕ンパク質に結合し、その高次構造を変化させる物質として界面活性剤がある。著者 は、界面活性剤の作用を利用し、食肉の硬さに関与している筋原線維および筋肉内結合組織 を形成するタンバク質の高次構造を変化させることによって食肉を軟らかくできるのではな いかと考えた。本研究では、各種界面活性剤の食肉軟化効果を検討し、その効果の最も大き かった陰イオン性界面活性剤であるコハク酸モノグリセリド(SGMS)を用いて、食肉の軟 化機構を究明することを目的とした。

  (1)各種界面活性剤の食肉軟化効果

  本研究では、食品添加物として認められている界面活性剤の食肉軟化効果について、結合 組織からなる羊腸ケーシングを用いてスクリーニングした。検討した界面活性剤の中で、剪 断力価(硬さ)が最も小さかったのは脂肪酸鎖長C =18のSGMSであった。また、食肉の加 熱収縮の程度は硬さと密接に関係していることから、種々の界面活性剤を添加して羊腸ケー シングの加熱収縮率を測定した結果、加熱収縮を抑制する効果はC =18のSGMSが最も大き いことが分かった。

  羊腸ケーシングに対して軟化効果を示した界面活性剤を選び、口ーストした牛肉に対する 効果を検討した。SGMSはローストした牛肉に対しても最も軟化効果が大きく、剪断力価は 対照区の2分の1以下であった。官能試験においても、評価値が最も高かったのはSGMSで あり、SGMSはローストした牛肉に対しても顕著な軟化効果を有することが認められた。

  (2)コハク酸モノグリセリドによる食肉の軟化機構

  食肉表面に塗布した顆粒状のSGMSが加熱後にどの程度、内部へ浸透しているのかが重要 な問題 となる。 厚さ5 mmの牛 肉にSGMSを塗 布してローストした時、浸透したSGMS全量 の67%が表面から0.5 mm以内に存在し、2%が牛肉の中心部に存在していた。浸透したSGMS が牛肉のどの部位に存在するのかをメチレンブルーを用いて調べたところ、筋肉内結合組織 のーつである筋周膜が特異的に染色され、筋原線維は全く染色されなかった。これらの結果

(2)

から、SGMSを塗布して加熱すると、牛肉表面で加熱溶解したSGMSは筋周膜に沿って内部 へ浸透していくことが明らかになった。

  SGMSは筋肉内結合組織に作用している可能性が考えられたので、牛肉中の筋肉内結合組 織や単離した筋肉内結合組織に対するSGMS処理の影響を検討した。筋肉内結合組織として 筋上膜を用いて、SGMSの影響を調べたところ、SGMS処理によって剪断力価は顕著に低下 し、加熱収縮が抑制された。SGMS処理による加熱収縮に及ぼす影響を調べたところ、50℃ 付近で起こる筋線維に由来する収縮と、60℃付近で起こる筋肉内結合組織に由来する収縮の 二相性を示した。また、60℃以上での加熱収縮率はSGMS処理により有意に抑制された。こ れらの結果は、SGMSが筋肉内結合組織に作用し、その加熱収縮率を抑制するとともに、物 理的強度を低下させることを示している。

    (3)走査電子顕微鏡を用いて形態変化を追究すると、口ーストした牛肉の筋周膜ではコ ラーゲン細線維上に球状構造が観察されたのに対し、SGMSを塗布して口ーストした場合に は球状構造に加えて板状構造が観察された。また、単離した筋周膜でも口ーストした牛肉中 の筋周膜と同様の構造が観察された。これらの結果により、SGMS処理区でみられた板状構 造物はSGMSと筋周膜を形成しているコラーゲンが加熱時に結合して生成したものであるこ とが判明した。

  さらに、単離した筋上膜を用いて、SGMS処理がコラーゲン細線維におけるコラーゲン分 子の配列に及ぼす影響を透過電子顕微鏡およびX線小角散乱によって調べた。65℃で加熱し た筋上膜においては、コラーゲン細線維の周期構造を示すバンドのコントラストが低く、不 鮮明であったが、SGMS処理して65℃で加熱した筋上膜のコラーゲン細線維では対照と比べ て鮮明であった。しかし、バンドの周期に対するSGMS処理および加熱の影響はみられなか った。80℃で加熱すると、SGMS処理の有無にかかわらずコラーゲン細線維の周期構造は認 められなくなった。未加熱の筋上膜におしゝては、X線小角散乱のピークからコラーゲン細線 維の周期構造の存在が確認できたが、65℃で加熱した筋上膜ではピークが消失しており、コ ラーゲン細線維の周期構造が存在しなくなってしまうこと、すなわち、コラーゲン分子の配 列が乱れることが示された。一方、SGMSで処理して65℃で加熱した筋上膜のX線小角散乱 では、小さくなったピークが未加熱の筋上膜と同じ位置に認められ、SGMSはコラーゲン分 子の配列の乱れを抑制する作用のあることが明らかになった。

  以上の結果に基づぃて、SGMSによる食肉の軟化機構は以下のように考えることができる。

食肉の筋肉内結合組織を構築するコラーゲン分子は常温では整然と配列しているが、加熱に 伴って変性し、コラーゲン細線維における分子の配列が乱れて、筋肉内結合組織は著しく収 縮する。この収縮は、筋肉内結合組織の物理的強度の増加にっながり、加熱変性した筋原線 維の物性変化と相まって、加熱した食肉は硬くなる。一方、食肉にSGMSを塗布してから加 熱すると、コラーゲン細線維の表面に付着した、あるいは内部に浸透したSGMS分子とコラ ーゲン分子が結合することによって、コラーゲン分子の配列の乱れが抑制される。従って、

SGMSで処理して加熱した食肉においては筋肉内結合組織の収縮の程度が小さく、筋肉内結 合組織の物理的強度が増加し難いために、加熱に伴う食肉の硬さの増加が抑制され、軟らか い加熱調理肉になると結論することができる。夕ンパク質分解酵素による食肉の軟化が酵素 の活性を制御することの困難性からしばしば過度の軟化をもたらすのに対して、SGMS処理 では過度の軟化が起こらないのは、全く異なる機構によって軟化が起こるからである。SGMS による食肉の軟化は、夕ンパク質分解酵素法の欠点である消化時間や温度を制御することの 難しさ、および外観や色、呈味性の劣化などの問題を解決する新しい方法であり、SGMSは 食 肉 の 種 類 を 問 わ ず 有 効 な の で 、 優 れ た 食 肉 軟 化 剤 で あ る こ と を 明 示 し た 。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授   高 教 授   島 助 教 授  服 助 教 授  西

橋 興 威 崎 敬 一 部 昭 仁 邑 隆 徳

学 位 論 文 題 名

コハク酸モノグリセリドによる食肉の軟化機溝に関する研究

  本 論 文 は 総 頁 数71頁 の 和 文 論 文 で 、 図31、 表1、 引 用 文 献44を 含 み 、 他 に3編 の参考 論文が添 えられて いる。

  食肉の 品質を決定する要因の中で、軟らかさは人の嗜好性にとって最も重要であり、

軟らか さに直接 影響を及 ぽすのは 筋原線維 と筋肉内結 合組織で ある。従って、硬い食 肉を人 為的に軟 らかくす ることは 食肉の有 効利用の点 から重要 な意義を有する。食肉 を軟化 するため には、パ パインを 製剤化し たものが最 も広く利 用されているが、反応 の制御 が難しい ために、 過度の軟 化や外観 の劣化など が起こっ てしまう欠点がある。

著者は 、界面活 性剤の作 用を利用 し、筋原 線維および 筋肉内結 合組織を形成するタン バク質 の高次構 造を変化 させるこ とによっ て食肉を軟 らかくで きるのではないかと考 えた。 本論文で は、各種 界面活性 剤の食肉 軟化効果を 検討し、 その効果の最も大きか っ た 陰 イ オ ン 性 界 面活 性 剤で あ る コハ ク 酸モ ノ グ リセ リ ド(SGMS)に つい て 、 食肉 の 軟化 機 構 を究 明 する こ と を目 的 とし て いる。 得られた 結果は以 下の通り である。

  (1)各 種界面活 性剤の食 肉軟化効 果

  食品添 加物とし て認めら れている 界面活性 剤の食肉軟 化効果に ついて、結合組織か らなる 羊腸ケー シングを 用いてス クリーニ ングした。 剪断力価 (硬さ)を最も小さく し た の はSGMSで あ っ た 。ま た 、食 肉 の 加熱 収 縮の 程 度 は硬 さ と密 接 に 関係 し て い る が 、 加 熱 収 縮 を 抑制 す る効 果 もSGMSが最 も 大き か っ た。 次 に、 口 ー スト し た 牛 肉 に対 す る 界面 活 性剤 の 効 果を 検 討し 、SGMSは軟化 効果が最 も大きく 、剪断力 価は 対 照 区 の2分 の1以 下 で あ る こ と が 分 か っ た 。 官 能 試 験 に お い て もSGMSの 評 価 値 が 最 も 高 く 、SGMSは 牛 肉 に 対 し て も 顕 著 な 軟 化 効 果 を 有 す る こ と を 認 め た 。   (2)コ ハク酸モ ノグリセ リドによ る食肉の 軟化機構

  食 肉 表 面 に 塗 布 し た 顆粒 状 のSGMSが加 熱 後に ど の 程度 、 内 部へ 浸 透し て い るの か が 重 要 な 問 題 と な る 。 厚 さ5 mmの 牛 肉 の 両 面 にSGMSを 塗 布 し て 口 ー ス ト し た 時 、 浸 透 し たSGMS全 量 の67%が 表 面 か ら0.5 mm以 内 に 、2% が 中 心 部 に 存 在 し て

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いた 。浸透したSGMSが牛肉のどの部位に存在するのかをメチレンブルーを用いて 調べたところ、筋肉内結合組織のーつである筋周膜が特異的に染色され、筋原線維は 全く 染色されなかった。これらの結果からSGMSを塗布して加熱すると牛肉表面で 加熱 溶解したSGMSは筋周膜に沿って内部へ浸透し、筋原線維には全く影響を及ぽ さないことが明らかになった。牛肉中の筋肉内結合組織や単離した筋肉内結合組織に 対す るSGMS処理の影響を検討したところ、剪断力価は顕著に低下し、60℃以上で の加熱収縮率は有意に抑制された。これらの結果は、SGMSが筋肉内結合組織に作用 し、その加熱収縮率を抑制するとともに、物理的強度を低下させることを示している。

  (3)走査電子顕微鏡を用いて形態変化を追究すると、口ーストした牛肉の筋周膜 ではコラーゲン細線維上に球状構造が観察されたのに対し、SGMSを塗布して□ース トした場合には球状構造に加えて板状構造が観察された。単離した筋周膜でもロース トし た牛肉中の筋周膜と同様の構造が観察され、板状構造物はSGMSと筋周膜を形 成しているコラーゲンが加熱時に結合して生成したものであることが判明した。さら に、筋肉内結合組織を構築しているコラーゲン細線維におけるコラーゲン分子の配列 に 及 ぼすSGMSの 影響 を 透過 電子顕微鏡 およびX線小角散 乱により調 べた。SGMS で処理して65℃で加熱した場合、コラーゲン分子の配列は対照と比べて規則性を保持 していたが、80℃で加熱すると、SGMS処理の有無にかかわらずコラーゲン分子の規 則的配列は認められなくなった。従って、SGMSはコラーゲン分子の配列の乱れを抑 制することが明らかになった。

  以上 の結果に基づいて、食肉にSGMSを塗布してから加熱すると、コラーゲン細 線維 の表面に付着した、あるいは内部に浸透したSGMS分子とコラーゲン分子が結 合するために、コラーゲン分子の配列の乱れが抑制される。このことにより、筋肉内 結合組織の収縮の程度が小さくなり、物理的強度が増加し難いので、加熱に伴う食肉 の硬さの増加が抑制されて、軟らかい加熱調理肉になると結論している。SGMSによ る食肉の軟化は、夕ンパク質分解酵素法の問題点を解決する新しい方法であり、SG MSは食肉の種類を問わず有効なので、優れた食肉軟化剤であることを明示している。

  以上 の研究成果はSGMSによる食肉の軟化機構を多面的かつ詳細に追究して多く の新知見を見出したものであり、学術上応用上貢献するところが大きく、高く評価さ れる。よって審査員一同は、森建太が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を 有するものと認めた。

参照

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