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博士(農学)李 昇遠 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)李   昇遠 学位論文題名

ウシ後産の細胞外マトリックスに関する研究

―羊膜コラーゲンの細胞生物学的性状―

学位論文内容の要旨

  胎 盤は、 胎子の 発育に 必要不可欠な臓器として妊娠中は機能しているが、出産後には排出され、後 産となる。ウシ後産は、絨毛膜と羊膜によって構成されており、全てが胎子成分からなる特殊な畜産副 生物である。再生医学や組織工学の分野では、免疫寛容の誘導性、成長因子の捕捉陸、未分化ゆえの多 肓旨陛等に加え、細胞外マトリックスに富んだ組織として、特に羊膜組織が多様な利用が可能な生体材料 として期待されている。しかし、特殊であるがゆえに実用化に向けた研究や臨床応用に必要な、羊膜の 組織溝造や構成要素の性状に関する知識がほとんど蓄積されていない。そこで本研究では、羊膜細胞外 マトリックスの主構成要素であるコラーゲンに注目し、細胞培養、形態学、生化学的手法により羊膜、

特 に コ ラー ゲ ン の 細胞 生 物 学 的´lt;l犬 を 明 ら かに す る こ とを 目 的 と し、 以 下の知見 を得た 。   1. ウシ後 産の羊 膜は、 上皮細 胞層、 緻密層、 線維芽細胞層の三層により形成された無血管、無神     経 組織 で あ っ た。 ま た 、 厚さ100〜150 ,umの 半透 明 性 薄 膜で あ る 羊 膜は 、 面 積 が2倍 にな     る 程の伸 縮性を 示した が、限 界を超 えた場 合には破 水時の 破裂方 向である胎子の体軸方向に裂     ける性状を有していた。

  2. 上皮細 胞層は 、発達 した微 絨毛を 有する単 層立方上皮の細胞間連結装置による敷石状の外観を     呈 してお り、免 疫染色 の結果 、スー バーフ んミリー タンパ ク質で あるコラーゲンの大半の型が     存 在して いるこ とが明 らかに なった 。この 上皮細胞 の多様 なコラ ーゲン産生能は培養系におい     て も確認 され、 角質化 細胞の 成長培 地を用 いた培養 時には 発達し た微絨毛を有し敷石状を呈し     た 羊膜上 皮細胞 は、間 葉系細 胞の成 長培地 下では微 絨毛が 退行し 、形状が紡錘形化して線維芽     細胞様のタ懶を呈する一方、線維芽細胞が特異的に発現するとされてし ゝる問質コラーゲンの産     生 量が増 加した 。従っ て、羊膜上皮細胞Ifま、環境の変化に対応して形質が変化する未分化な多     お眺鋒田胞と判断された。

  3. 緻密層|よ、羊水の防波堤的役割を果しており、本研究で検索した全13種のコラーゲンが共存す     る 成体の 組織で は未だ 報告されていない特異な結合組織であるこ.とが免疫染色像により明かと     な っ た 。 走査 電 子 顕 微鏡(SEM)によ る 観 察 にお い てコラー ゲン細 線維は 、緻密 層表面 では屈     曲 してラ ンダム で密な ネット ワーク を形成 しており 、断面 ではほ とんどカ滞子の体軸およぴ羊     膜 腔面に 並走し ていた 。しか し、緊 密に東 ねられた 直線的 な細線 維束は少なく、コラーゲン細

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    線維の多くは緩や かに集合し波打って走行し ており、このことが、羊膜の伸縮性と引裂方向に     反映していると考 えられた。さらに、この緻 密層コラーゲンの特異な立体構造は、胎子が急速     に成長する胎齢5ケ月以降に形成・発達したも ので、その組織化には胎子 の成長に伴って急増     する 羊 水の 圧力 、V型お よびVI型 コラーゲンが密接に関与し ていた。また、量的には少な い     多くの型のマイナ ーコラーゲンの共存は、I、m、V、VI型の問質コラーゲ ンを主体とした羊膜     緻 密 層 の 膜 状 溝 造 の 強 度 増 加 に 構 造 的 に も 生 化 学 的 に も 寄与 して いる と 考え られ た。

4.羊膜の絨毛膜への 結合装置である線維芽細胞層 は、体軸に対してはランダ ムだが羊膜腔面に対     して層板状あるい は扁平な蜂の巣状に緩く束 ねられたコラーゲン細線維のネットワークで形成     されており、羊膜 の高い伸縮性に寄与し、緻 密層の補強装置として、また、緻密層が組織化さ     れて いない胎齢50月では、上皮細 胞層の支持組織として機能 していた。さらに、この線維 芽     細胞 層 のコ ラー ゲン ネッ トワー クは、I型コラーゲンを含ま ずm、V、VI型コラーゲンを主 体     とし て短鎖コラーゲンであるvni、X型コラーゲンを含めて形 成されており、緻密層同様、 成     体の組織では見ら れない特異な結合細織であ った。

5.緻密層と線維芽細 胞層に存在する細胞は、羊膜 上皮細胞から分化した線維 芽細胞であったが、

    初代単層培養下で 老化細胞様のアメーバ状形 態を示し、成熟組織特有の問質コラーゲンの産生     しか確認されなか ったことから、未分化な上 皮細胞とは逆に、線維細胞と呼ぷべき分化段階に     達した細胞と判断 された。

6.羊膜のコラーゲン は、総タンパク質量の70%以上を占めており、タンバク質変´陸剤だけではな     くべプシンあるい はコラゲナーゼによるプロ テアーゼ処理によってもその80%近くが可溶化さ     れない高い不溶性 を有していた。一方、可溶 化したコラーゲンは、加vitroでの生理的条件下     で再線維化するコ ラーゲンの割合tま少ないが 、高い線維形成活性を示し、組成的にはI型コラ     ーゲン含量が最も 高いが、再線維形成能を有 する天然型のrii、V、VI型コラーゲンが各々容易     に単離・精製でき る程多く含まれており、羊 膜が優れた型別コラーゲンの抽出素材であること     が明かとなった。

7. 可溶 化し たコ ラ ーゲ ンか ら調製し た組成の異なる5種類のコラ ーゲン溶液をin viUoでゲル 化     させた場合、形成 された三次元のコラーゲン ネットワークは、コラーゲン細線維の屈曲性、細     線維東化の程度、 網目の形状および密度が各 々のゲルで異なっており、羊膜コラーゲンは、細     胞培 養 基質 とし て有 効に 作用す る多様なゲル形成能を有して いることがSEM像により明か と     なった。さらに、 線維芽細胞をゲル内で培養 した場合、コラーゲンゲルのネットワークは、生     体で 観 察さ れる 動的 な構 造へと 再構築され、特に、V型とVI型コラーゲンを多く含むゲル で     は、緻密層表面、 線維芽細胞層断面および裏 面に類似したネットワーク構造を呈しており、羊     膜コラーゲンは、 様々な応用研究に有用な生 体外でのモデル構築に適していると考えられた。

  本研究でtよ、上述 したように、ウシ後産の細胞外マトリックス、特に羊膜コラーゲンを特徴づけ る細胞生物学的基礎知 見を得ることができ、今後 は、本研究成果に基づく羊膜細胞外マトリックス の実用化に向けた研究 の展開が期待される。

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学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授 助教授

中村 島崎 服部 竹之内 西邑

学 位 論 文 題 名

富美男 敬一 昭仁 一昭 隆徳

ウ シ後産 の細胞外 マトリ ックスに関する研究

― 羊 膜 コ ラ ー ゲ ン の 細 胞 生 物 学 的 性 状 一

本 論 文 は 、6章 か ら な り 、 図34、 表1、 文 献40を 含 む 総 頁 数145の 和 文 論 文 で あ り 、 他に 参考論文1編が付されている 。

  胎盤 は 、胎 子の 発育 に必 要不 可欠 な臓器として妊娠中は機能しているが、出 産後には排 出さ れ、後産となる。ウシ後産は、絨毛膜と羊膜によって構 成されており、全てカ朔台子成 分か らなる特殊な畜産副生物である。再生医学や組織工学の分野では、免疫寛容の誘導I生、

成 長因 子 の捕 捉性 、未 分化 ゆえ の多 能性等に加え、細胞外マトリックスに富ん だ組織とし て 、特 に 羊膜 が多 様な 利用 が可 能な 生体材料として期待されている。しかし、 特殊である がゆ えに実用化に向けた研究や臨床応用に必要な、羊膜の組 織構造や構成要素の´Il犬に関 す る知 識 がほ とん ど蓄 積さ れて いな い。そこで本論文では、羊膜細胞外マトリ ックスの主 構 成要 素 であ るコ ラー ゲン に注 目し 、細胞培養、形態学、生化学的手法により 羊膜、特に コラ ーゲンの細胞生物学的´l生 状を明らかにすることを目的とし、以下の結果を得ている。

  1.ウ シ後 産の 羊膜 は、 上皮 細胞 層 、緻 密層 、線 維芽 細胞 層の三層により形 成された無     血 管 、 無 神 経 組 織 で あ っ た 。 ま た 、 厚 さ 約120 pmの 半 透 明 膜 で あ る 羊 膜 は 、 面     積 が2倍 に な る 程 の 伸 縮 陸 を示 し たが 、限 界を 超え た場 合に は胎 子の 体軸 方向 に裂     ける性状を有していた。

  2.上 皮細 胞層 は、 発達 した 微絨 毛 を有 する 単層 立方 上皮 の細胞間連結装置 による敷石     状の 外観 を呈 して おり 、ス ーパ ー フん ミリ ータ ンパ ク質 であ るコ ラー ゲン の大 半の     型が 存在 して いた 。こ の上 皮細 胞 の多 様な コラ ーゲ ン産 生能 は培 養系 にお いて も確     認さ れ、 間葉 系細 胞の 成長 培地 下 では 線維 芽細 胞が 特異 的に 発現 する 問質 コラ ーゲ

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     ンの産生量が増加した。従って、羊膜ヒ皮細胞は、環境の変化に対応して形質が変      化する未分化な多能´性細胞と判断された。

3 .緻密層は、羊水の防波堤的役割を果しており、本研究で検索した全13 種のコラー      ゲンが共存する成体の組織では未だ報告されていない特異な結合組織であった。走      査電子顕微鏡による観察においてコラーゲン細線維は、緻密層表面では屈曲してラ      ンダムで密なネットワークを形成しており、断面ではほとんどカ羽台子の体軸およぴ      羊膜腔面に並走していた。しかし、緊密に束ねられた直線的な細線維束は少なく、

     コラーゲン細線維の多くは緩やかに集合し波打って走行しており、このことが、羊      膜の伸縮陸と引裂方向に反映していると考えられた。

4 .羊膜の絨毛膜への結合装置である線維芽細胞層は、体軸に対してはランダムだが羊      膜腔面に対して層板状あるいは扁平な蜂の巣状に緩く束ねられたコラーゲン細線維      のネットワークで形成されており、羊膜の高い伸縮陸に寄与し、緻密層の補強装置      として機能していた。さらに、この線維芽細胞層のコラーゲンネットワークは、I 型      コ ラーゲンを含まずm 、 V 、 VI 型コラーゲンを主体として形成されており、緻密      層 同 様 、 成 体 の 組 織 で は 見 ら れ な い 特 異 な 結 合 細 織 で あ っ た 。 5 .羊膜のコラーゲンは、総夕ンパク質量の70 %以上を占めており、夕ンパク質変性      剤だけではなくプロテアーゼ処理によってもその80 %近くが可溶化されない高い      不溶性を有していた。一方、可溶化したコラーゲンは、再線維形成能を有する天然      型の I 、III 、V 、VI 型コラーゲンを各々容易に精製できる程多く含んでおり、羊膜      が 優 れ た 型 別 コ ラ ー ゲ ン の 抽 出 素 材 で あ る こ と が 明 か と な っ た 。 6 .可溶化したコラーゲンから調製した組成の異なる5 種類のコラーゲン溶液をゲル化      させた場合、形成された立体的なコラーゲンネットワークは、コラーゲン細線維の      屈曲性、細線維束化の程度、網目の形状および密度が各々のゲルで異なっており、

     羊膜コラーゲンは、多様な三次元ゲルを形成することが明かとなった。さらに、線      維芽細胞をゲ´レ内で培養した場合、コラーゲンゲルのネットワークは、生体で観察      される動的な構造へと再構築され、羊膜コラーゲンは、体外モデルの構築に適した      培養基質と考えられた。

以上のように、本論文は、ウシ後産の細胞外マトリックス、特に羊膜コラーゲンを特 徴づける細胞生物学的基礎知見を得ており、今後は、本研究成果に基づく羊膜細胞外 マトリックスの再生医学や組織工学分野における臨床応用や実用化に向けた研究の展 開が期待される。

   よって審査員一同は、李昇遠が博士(農学)の学位を受けるのに十分を資格を有す

るものと認めた。

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