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博士(農学)米田明弘 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)米田明弘 学位論文題名

哺乳動物初期胚の体外発生制御に関する研究 学位論文内容の要旨

  家畜の育種改良のために、数多くの技術が日々開発されている。とくに生殖工学技術 を利用した家畜改良が、現在盛んに行なわれている。それらの中でもブタの生殖工学技 術は、医学や畜産の分野で注目されている。しかし、ブタ初期胚の体外発生率はウシな どと比べて低いことから、ブタの体外発生培養技術のいっそうの向上が期待されている。

ブタ初期胚の体外発生培養技術の向上のためには、純系が数多く確立されているマウ ス初期胚の体外発生制御の解明を行い、基礎的知見を得ることが重要と考えられる。

本研究は、第ー章で、ブタ体外受精胚の体外発生に及ぼす細胞質内脂肪滴除去および 酸 素(02)濃 度の 影響 につ いて 調べた。次に、第二章および第三章で、マウス2‑cell

blockの環境要因および遺伝要因の解析を行った。さらに、第四章および第五章では、

マ ウスおよびブタ精子特異的ホスホリパーゼCそ(PLCDの卵子活性化機構について検 討した。

第 ― 章 では 、ブ タ初 期胚 の体 外発 生に 及ぼ す細 胞質 内脂肪 滴除 去と02濃 度の 影響 について検討した。その結果、細胞質内脂肪滴除去は、ブタ体外受精胚の体外発生率 に 影響を与えなかった。また、5%02濃度条件下でブタ体外受精胚および細胞質内脂 肪 滴 除 去胚 を体 外培 養し た時 、20%02濃度 条件 下に 比べて2細 胞期 およ び4細 胞期 へ の発 生率 が有 意に 高か った が、胚盤胞への発生率については有意な差は認められ な かった。ブタ体内受精胚、体外受精胚および細胞質内脂肪滴除去胚を5%02濃度で 体外培養した時の胚内過酸化水素(H2○2)量は、20%02濃度で体外培養した時と比べ て有意に低い値を示した。―方、20%02濃度条件下における細胞質内脂肪滴除去は、

体 外受 精胚 のH202量 を減 少さ せたが 、5%02濃度 条件 下に おける体外培養では、細 胞質内脂肪滴除去による胚内H202量に変化は見られなかった。これらのことから、ブタ 体 外 受 精胚 の細 胞質 内脂 肪滴 除去 およ び低02濃 度条 件での 体外 培養 は、 胚内H202 量 を 減 少 さ せ る が 、 胚 盤 胞 へ の 発 生 率 に は 影 響 を及 ぼ さ な い と 示 唆 さ れ た 。 第二章では、培養環境の改善によるマウス2‑cell blockの解除について検討した。最 初に、リン酸を含む培養液でマウス初期胚を体外培養すると、C57BL/6マウス胚はほと ん どの 胚が 胚盤 胞に 発生 した のに対 して 、AKR/Nマウ ス胚 はほぽ全ての胚が2‑cell blockを起こした。しかし、リン酸無添加培養液でAKR/N胚を体外培養した場合、2‑cell blockは解除され、卵割速度も早くなることが観察された。また、AKR/N胚はBuffalo rat

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liver (BRL)細 胞との共 培養やBRL細胞 の培養よ り調製した培養上清を用いた体外培 養でも、2‑cell blockが解除されることが確認された。BRL細胞の培養より調製した培養 上清を分子量別に分画した結果、10丶一丶30 kDaの因子がAKR/N胚の2‑cell blockを解 除することが明らかとなった。

  第 三章では 、AKR/NとC57BL/6マウス の系統間 交配を利用して2‑cell blockの遺伝 要因の解析を行った。その結果、2‑cell blockは雄系統に関係なく、雌マウス系統の形 質に由来した。このことから、2‑cell blockには母親由来の因子が関与していることが示 唆 された 。AKR/NとC57BU6マウス の交配に より作出 したF1マウ ス由来胚 は、雌雄 ど ちらの系統間交配であっても2‑cell blockを起こさず、胚盤胞まで高い発生率を示した。

したがって、2‑cell blockを起こす形質が劣性形質であり、2‑cell blockには核の遺伝子 により支配されていることが考えられた。F1マウスのAKR/Nへの戻し交配により作出し たバックク口ス雌マウスの2‑cell blockに関する表現型を調べた結果、2‑cell blockを起 こす形質と起こさない形質が3:1の割合で分離した。このことから、2‑cell blockには2 つの遺伝子座が関与していることが示唆された。そこで、マウス全染色体上に位置して いるマイクロサテライトマ―カーを用いて連鎖解析を行ったところ、2‑cell blockに関与す る 遺 伝 子 座 は 第3染色 体 およ び 第4染 色体 上 に位 置 し てい る こと が 示 唆さ れ た。

  第 四章では 、マウス精 子特異的PLCの卵子活 性化能に関する制御機構について検 討 した。マ ウスPLC! cRNAをマウス未受精卵に注入すると、受精と同様に卵子内カル シウムオシレーションが引き起こされることが観察された。このカルシウムオシレ―ション は5丶一丶6時間継続し、前核が形成される時間帯には終了した。また、PLCの細胞内局 在を調べた結果、カルシウムオシレ―ションが継続している間は細胞質全体に存在して いたが、前核が形成されると前核内に局在が移行することが観察された。さらに、受精 卵およびPLCで活性化した胚の前核を未受精卵に移植したところ、未受精卵は活性化 を弓1き起こした。一方、単為発生を誘起するストロンチウム処理により活性化した胚、不 活 性化型PLCを 注入した胚 、および 核移行を 阻害したPLCで活性化した胚の前核を 未受精卵に移植した場合は、卵子活性化は起こらなかった。これらの結果より、受精時 に引き起こされるカルシウムオシレ―ションの開始と終了は、精子特異的PLCの細胞 内局在により制御されていることが示唆された。

第 五 章 で は 、 ブタ 精 子特 異 的PLC<の卵 子 活性 化 能 につ い て検 討 し た。 ブ タPLC cRNAをブタ体外成熟卵子に注入すると、受精時と同様のカルシウムオシレ―ションが 引き起こされることが確認された。さらに、ブタPLCで活性化したブタ体外成熟卵子を 体外培養すると、体外受精胚と同程度の割合で胚盤胞ヘ発生した。このことから、ブタ 精 子特異的PLC!に関しても 、マウスPLC同様に卵 子活性化能を持つことが明らかと なった。

本 研究より 得られたブ タおよび マウス初 期胚の発 生制御に関する基礎的知見は、今 後ブタ体外受精胚の発生率向上やブタでよく観察される多精子受精の防御に貢献する とともに、その応用が畜産分野のみに限らず不妊治療という医学の分野にも役立つこと が期待される。

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学位論文審査の要旨

主査   教授   渡辺智行 副査   教授   中村富美男 副査   助教授   山田   豊

副査   助教授   鈴木哲太(北方圏フイールド科学      センター)

学 位 論 文 題 名

哺乳動物初期胚の体外発生制御に関する研究

  本 論 文 は5章 か ら な り 、 図14、 表17、 引 用 文 献122を 含 む 、 総 頁 数113の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に3編 の 参 考 論 文 が 添 え ら れ て い る 。

家 畜 の 改 良 技 術 の 中 で も 、 ブ タ の 生 殖 工 学 技 術 は 畜 産 の み な ら ず 医 学 分 野 に お い て も 注 目 さ れ て い る 。 し か し 、 ブ タ 初 期 胚 の 体 外 発 生 率 は ウ シ に 比 べ て 低 い こ と か ら 、 体 外 培 養 技 術 の い っ そ う の 向 上 が 求 め ら れ て い る 。 そ こ で 本 研 究 は 、1) ブ タ 初 期胚 に お い て 他 の 動 物 胚 よ り 多 く 含 ま れ る 細 胞 質 内 脂 肪 滴 を 除 去 し て 体 外 発 生 率 が 向 上 す る か 解 析 し た 。2) 次 に 、 純 系 が 多 く 系 統 化 さ れ て い る マ ウ ス を 用 い て 初 期 胚 発 生停 止 の 原 因 遺 伝 子 の 解 明 を 行 な っ た 。3) さ ら に 、 精 子 に 存 在 す る 卵 子 活 性 化 因 子 と して 有 力 候 補 のphospho lipaseC  (PLCpに つ い て 、 卵 子 に 顕 微 注 入 し て 体 外 発 生 率 を 検 討 し た 。

第 一 章 で は 、 ブ タ 初 期 胚 の 体 外 発 生 に 及 ぼ す 細 胞 質 内 脂 肪 滴 除 去 と 酸 素 濃 度 の 影 響 に っ い て 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 細 胞 質 内 脂 肪 滴 除 去 は 、 ブ タ 体 外 受 精 胚 の 体 外 発 生 率 に 影 響 を 与 え な か っ た 。 ま た 、5% 酸 素 濃 度 条 件 下 で ブ タ 体 外 受 精 胚 を 体 外 培 養 し た 時 、 通 常 大 気 の20%酸 素 濃 度 条 件 下 に 比 べ て4細 胞 期 ま で の 発 生 率 は 有 意 に 高 か っ た が 、 胚 盤 胞 へ の 発 生 率 に つ い て は 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 こ の こ と か ら 、 ブ タ 体 外 受 精 胚 の 細 胞 質 内 脂 肪 滴 除 去 お よ び 低 酸 素 濃 度 条 件 は 、 特 に 胚 盤 胞 へ の 体 外 発 生 率 に 影 響 を 及 ぼ さ な い こ と が 明 ら か と な っ た 。

  第 二 章 で は 、 培 養 環 境 の 改 善 に よ る マ ウ ス2ーcell blockの 解 除 に つ い て 検 討 した 。 AKRマ ウ ス 胚 は 通 常 の 培 養 液 で 体 外 培 養 す る と 、 ほ ば 全 て の 胚 が2細 胞 で 発 生 停 止 す る2一cell blockを 起 こ す 。 し か し 、AKR胚 を 各 種 サ イ ト カ イ ン や 成 長 因 子 を 分 泌 す る

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ことで知られるBRL細胞と共培養すると2―cell blockは解除された。また、BRL細胞 の培養により調製した上清を用いた体外培養した場合や、さらにその上清を分画した 分 子 量10ー30kDaの 因 子が2−cell blockを解 除す ることが明 らかとなっ た。

第 三章では、AKRマウスと体外培養でも正常発生する他の系統と交配して2―cell blockの遺伝要因の解析を行った。両者間の交配由来のFlマウス胚は、胚盤胞まで高 い発生率を示した。したがって、2―cell blockを起こす因子は、劣性形質であると考 えられた。さらに、FlマウスのAKRへの戻し交配により作出した雌マウス由来胚の表 現型を調べた結果、2ーcell blockを起こすと起こさない形質が3:1の割合で分離し たことから、2っの遺伝子座の関与が示唆された。そこで、全染色体上に位置してい るマーカー遺伝子を用いて連鎖解析を行った結果、2―cell blockを引き起こす原因遺 伝 子 は 、 第3染 色 体 お よ ぴ 第4染 色 体 上 に 位 置 し て い る こ と が 判 明 し た 。 第四章では、精子特異的PLC!の卵子活性化能に関する制御機構にっいて検討した。

マウスPLC cRNAをマウス未受精卵に顕微注入すると、受精と同様に卵子内カルシウ ム上昇が引き起こされた。また、カルシウム上昇が継続している間は、PLCは細胞質 内全体に存在していたが、カルシウム上昇終了時に前核内に移行することが観察され た。さらに、受精およびPLCで活性化した胚の核を未受精卵に移植した時、未受精卵 は活性化を引き起こした。これらの結果より、受精時のカルシウム上昇の開始と終了 は 、 精 子特 異 的PLCの 細胞 内 局 在に よ り制 御 されてい ることが示 唆された。

第五章では、ブタ精子特異的PLC!の卵子活性化能にっいて検討した。ブタPLC cRNA をブタ体外成熟卵子に注入すると、受精時と同様のカルシウム上昇が引き起こされる ことが確認された。さらに、ブタPLC!で活性化したブタ体外成熟卵子を体外培養する と、受精胚と同程度の確率で胚盤胞ヘ発生した。このことから、ブタ精子特異的PLC に関しても、マウスPLC!と同様に卵子活性化能を持っていることが明らかとなった。

以上のように本研究は、1)ブタ初期胚の細胞質内脂肪滴除去およぴ低酸素濃度条件 での体外培養は胚盤胞への発生率を改善しないこと、2)マウス卵子発生停止に関する 原因遺伝子は第3染色体および第4染色体上に位置すること、3)さらに卵子への顕微 注入や核移植実験などにより精子特異的PLCが卵子活性化因子として有カであるこ とを明らかにした。これらの初期胚の発生制御に関する基礎的知見は、今後ブタ体外 受精胚の発生率向上に貢献するとともに、その応用が畜産分野のみに限らず不妊治療 という医学の分野にも役立つことが期待される。

  よって審査委員一同は、米田明弘が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を 有するものと認めた。

参照

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