微分幾何学 I
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多様体のトポロジー入門
田崎博之
2007年度
微分幾何学
IDifferential Geometry I
開講授業科目概要
写像度を使って多様体のトポロジーを解き明かす。
目 次
第1章 準備 1
1.1 多様体とC∞級写像 . . . . 1
1.2 正則値の逆像 . . . . 10
1.3 Sardの定理の証明 . . . . 24
第2章 多様体のトポロジー 28 2.1 法2の写像度 . . . . 28
2.2 向きの付いた多様体 . . . . 35
2.3 線形群の連結性 . . . . 41
2.4 ベクトル場とEuler数 . . . . 46
第3章 フレーム付きコボルディズム 65 3.1 フレーム付きコボルディズム . . . . 65
3.2 まつわり数 . . . . 75
3.3 Hopf不変量 . . . . 82
参考文献について 83 参考文献 . . . . 84
第 1 章 準備
1.1
多様体と
C∞級写像
定義 1.1.1 U ⊂RkとV ⊂Rlを開集合とする。UからV への写像f :U →V の すべての偏微分∂nf /∂xi1· · ·∂xinが存在し連続になるとき、f をC∞級写像と呼 ぶ。より一般に任意の部分集合X ⊂ RkとY ⊂ Rl をとり、XからY への写像 f :X →Y について考える。各x∈Xに対してxの開近傍U ⊂RkとC∞級写像 F : U → Rlが存在し、F|U∩X = f|U∩X となるとき、f : X → Y をC∞級写像と 呼ぶ。
C∞級写像の合成がC∞級写像になることと、恒等写像がC∞級写像になること は、開集合上定義されたC∞級写像の場合に成り立つことからわかる。
定義 1.1.2 部分集合X ⊂ RkからY ⊂ Rlへの写像f : X → Y が逆写像f−1 : Y →Xを持ち、fとf−1がともにC∞級写像になるとき、fを微分同型と呼ぶ。
定義 1.1.3 部分集合M ⊂Rkが次の条件を満たすとき、Mをm次元多様体と呼 ぶ。各点x∈M はRk内の開近傍W を持ち、W ∩MはRmの開集合Uと微分同 型になる。微分同型g :U →W ∩Mは、W ∩Mのパラメータ付けと呼ばれ、そ の逆写像W ∩M → U は、W ∩Mの座標系と呼ばれる。各点x ∈M はRk内の 開近傍Wを持ち、W ∩M がx一点になるとき、M を0次元多様体という。
多様体の一点に対してその近傍のパラメータ付けと座標系は一意的定まるわけ ではない。
例 1.1.4 2次元単位球面
S2 ={(x, y, z)∈R3 |x2+y2+z2 = 1} が2次元多様体になることを示す。
U ={(x, y)∈R2 |x2+y2 <1} はR2の開集合になり、
W+ ={(x, y, z)∈R3 |z >0}
はR3の開集合になる。写像
g :U →W+∩S2 ; (x, y)7→³
x, y,p
1−x2−y2
´
は微分同型になることを示す。gは定義よりC∞級写像になる。gの逆写像は g−1 :W+∩S2 →U ; (x, y, z)7→(x, y)
によって定まり、g−1もC∞級写像になる。よって、gは微分同型になる。
W− ={(x, y, z)∈R3 |z <0}
とおくと、W+の場合と同様にUとW−∩S2の間に微分同型を構成することがで きる。さらに、zの役割を他の変数x, yに置き換えても同様の微分同型を構成する ことができる。したがって、S2は2次元多様体になる。
n次元単位球面
Sn ={(x1, . . . , xn+1)∈Rn+1 |x21+· · ·+x2n+1 = 1} についても、同様の議論でn次元多様体になることがわかる。
多様体の接ベクトル空間とその性質を考えるために、Euclid空間の開集合から 開集合へのC∞級写像の微分の基本的性質を復習しておく。
U ⊂ RkとV ⊂ Rlを開集合とする。x ∈ U におけるU の接ベクトル空間を TxU = Rkによって定める。U からV へのC∞級写像f : U → V のxにおける 微分
dfx :Rk →Rl をh∈Rkに対して
dfx(h) = d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x+th) = lim
t→0
1
t(f(x+th)−f(x))
によって定める。t 7→ x+thとf の合成はC∞級写像になり、合成関数の微分の 公式から
dfx(h) = d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x+th) = Xk
j=1
∂f
∂xj(x)hj =
·∂fi
∂xj(x)
¸
h1
... hk
が成り立つ。したがって、dfxは線形写像になり、RkとRlの標準基底に関するdfx の表現行列は、(∂fi/∂xj(x))になる。
命題 1.1.5 (合成写像の微分) f :U →V とg :V →W をEuclid空間の開集合か ら開集合へのC∞級写像とする。このときx∈Uに対して
d(g◦f)x =dgf(x)◦dfx
が成り立つ。すなわち、二つの写像を合成してから微分したものは、それぞれ微 分してから合成したものに等しい。
U ⊂U0 ⊂Rkを開集合とし、i:U → U0を包含写像とする。このとき、任意の x∈U に対してdixはRkの恒等写像になる。
線形写像L:Rk →Rlと任意のx∈Rkに対して、dLx =Lが成り立つ。
命題 1.1.6 fを開集合U ⊂Rkから開集合V ⊂Rlへの微分同型とすると、k =l となり、任意のx∈Uに対して
dfx :Rk →Rk は線形同型になる。
証明 f :U →V の逆写像をg :V →Uで表すと、g◦fはUの恒等写像になる。
命題1.1.5より、d(g◦f)x =dgf(x)◦dfxはRkの恒等写像になる。同様にdfx◦dgf(x) はRlの恒等写像になる。したがって、dfx:Rk →Rlは線形同型になり、k =lが 成り立つ。
命題1.1.6の逆の主張が局所的には成り立つことを示しているのが、次の逆写像
定理である。
定理 1.1.7 (逆写像定理) 開集合U ⊂Rkから開集合V ⊂RkへのC∞級写像の点 x∈U における微分が線形同型のとき、xの開近傍U0が存在し、fのU0への制限 f|U0はU0からf(U0)への微分同型になる。
定義 1.1.8 M ⊂Rkをm次元多様体とする。x∈Mに対して、xの開近傍のパラ メータ付けg :U → Mでu ∈ U, g(u) = xとなるものをとる。ここで、U はRm の開集合である。gの微分dgu : Rm → Rkの像をTxM と表し、M のxにおける 接ベクトル空間として定める。
上の定義において、多様体の接ベクトル空間の定め方が、パラメータ付けのとり方 に依存しないことを示しておく必要がある。もう一つのパラメータ付けh:V →M でv ∈V, h(v) = xとなるものをとる。h−1◦gはuのある開近傍U1からvのある 開近傍への微分同型になる。
dhv◦d(h−1◦g)u =dgu
になるので、dhv(Rm) =dgu(Rm)が成り立つ。さらにTxMはm次元ベクトル空 間になる。
定義 1.1.9 M ⊂ Rk, N ⊂ Rlを多様体とし、f : M → N をC∞級写像とする。
x∈Mをとる。fはC∞級なので、Rk内のxの開近傍WとC∞級写像F :W →Rl が存在し、f|W∩M =F|W∩M が成り立つ。そこで、
dfx =dFx|TxM :TxM →Tf(x)N によってfのxにおける微分dfxを定義する。
上の定義において、dFx(TxM)⊂Tf(x)N となることと、微分dfxの定め方が、f の拡張F のとり方に依存しないことを示しておく必要がある。パラメータ付け
g :U →M ⊂Rk, h:V →N ⊂Rl
でg(U)がxの開近傍になり、h(V)がf(x)の開近傍になるようにとる。さらに必 要なら、g(U) ⊂ W とf(g(U)) ⊂ h(V)が成り立つようにU を小さくとる。する と、C∞級写像
h−1◦f◦g :U →V
が定まる。これはEuclid空間の開集合から開集合へのC∞級写像である。また、
h◦(h−1◦f◦g) = F ◦g
となるので、u=g−1(x), v =h−1(f(x))とおくと、命題1.1.5より dhv◦d(h−1◦f ◦g)u =dFx◦dgu
が成り立つ。これより、
dFx(TxM) = dFx◦dgu(Rm) =dhv ◦d(h−1◦f◦g)u(Rm)⊂dhv(Rn) =Tf(x)N となり、dFx(TxM)⊂Tf(x)Nが成り立つ。さらに、
dgu :Rm →TxM, dhv :Rn→Tf(x)N はともに線形同型写像だから、逆写像を考えることができ、
dfx =dhv◦d(h−1◦f◦g)u◦(dgu)−1 となるので、dfxはF のとり方に依存しない。
命題 1.1.10 f : M → N とg : N → P を多様体から多様体へのC∞級写像とす る。このときx∈Mに対して
d(g◦f)x =dgf(x)◦dfx が成り立つ。
M ⊂Nを多様体とし、i:M →Nを包含写像とする。このとき、任意のx∈U に対してdixは包含写像TxM ⊂TxN になる。
証明 命題1.1.5を適用すればよい。
命題 1.1.11 f : M → N を多様体の間の微分同型とすると、任意のx ∈ Mに対 して
dfx:TxM →Tf(x)N は線形同型になる。特に、dimM = dimN が成り立つ。
証明 Mをm次元多様体とし、N をn次元多様体とする。定義より M ⊂Rk, N ⊂Rl
となっている。xはRk内の開近傍WM を持ち、WM ∩MはRmの開集合UM と 微分同型になる。さらにf(x)はRl内の開近傍WN を持ち、WN ∩N はRnの開 集合UN と微分同型になる。UM からWM ∩M への微分同型をgM とし、UN か らWN ∩N への微分同型をgN とする。接ベクトル空間の定義(定義1.1.8)より、
dgM : Rm → TxM とdgN : Rn → Tf(x)N は線形同型になり、gN−1 ◦f ◦ gM は g−M1(x) ∈ Rmの開近傍からgN−1(f(x)) ∈ Rnの開近傍への微分同型になる。命題 1.1.6より
d(gN−1◦f ◦gM) :Rm →Rn は線形同型になる。命題1.1.5より
d(g−N1◦f ◦gM) = dgN−1◦dfx◦dgM
となり、dgN−1とdgM は線形同型だから、dfも線形同型になる。さらに、次の等式 が成り立つ。
dimM =m =n = dimN
定理 1.1.12 (逆写像定理) 多様体の間のC∞級写像f :M →Nのx∈ Mにおけ る微分dfx :TxM →Tf(x)N が線形同型のとき、xの開近傍Uが存在し、fをUに 制限すると微分同型になる。
証明 命題1.1.11の証明中の設定をそのまま使うことにする。
d(gN−1 ◦f ◦gM) =dg−N1◦dfx◦dgM :Rm →Rn
は線形同型になり、定理1.1.7よりgM−1(x)∈Rmの開近傍U0が存在し、
(gN−1◦f◦gM)|U0 :U0 →gN−1◦f◦gM(U0)
は微分同型になる。したがって、f|gM(U0)はU = gM(U0)からf(U)への微分同型 になる。
定義 1.1.13 f : M → N を等しい次元を持つ多様体の間のC∞級写像とする。
x∈M に対して、dfx :TxM →Tf(x)Nが線形同型になるとき、xをfの正則点と 呼ぶ。M の正則点ではない点を臨界点と呼ぶ。y∈N に対して、f(x) =yとなる fの臨界点xが存在するとき、yをfの臨界値と呼ぶ。Nの臨界値ではない点を正 則値と呼ぶ。
命題 1.1.14 f :M →Nを等しい次元を持つ多様体の間のC∞級写像とし、Mは コンパクトであると仮定する。このとき、f の正則値y ∈N に対して、f−1(y)は 有限集合になる。
証明 f−1(y)はコンパクト多様体M内の閉部分集合になるので、f−1(y)もコン パクトになる。定理1.1.12より、各x ∈f−1(y)の開近傍Uxが存在し、fをUxに 制限すると微分同型になる。特に、Ux∩f−1(y) ={x}となり、f−1(y)は離散位相 を持つ。したがって、f−1(y)は有限集合になる。
命題 1.1.15 f :M →Nを等しい次元を持つ多様体の間のC∞級写像とし、Mは コンパクトであると仮定する。fの正則値y∈Nにf−1(y)の元の個数#f−1(y)を 対応させる関数は、局所定数になる。
証明 命題1.1.14より、fの正則値yの逆像f−1(y)は有限集合になるので、
f−1(y) ={x1, . . . , xk}
とおく。定理1.1.12より、各xi ∈ f−1(y)の開近傍Ui が存在し、f をUi に制限 すると微分同型になる。必要ならUiを小さく取り直すことにより、i 6= jならば Ui∩Uj =∅となるようにできる。Vi =f(Ui)とおくと、各Viはyの開近傍になる。
よって、V1∩· · ·∩Vkもyの開近傍になる。M−U1−· · ·−Ukはコンパクト多様体M 内の閉部分集合になるので、コンパクトになる。これより、f(M−(U1∪ · · · ∪Uk)) もコンパクトになり、Nの閉部分集合になる。
f−1(y)⊂U1∪ · · · ∪Uk だから、
M −f−1(y)⊃M −(U1∪ · · · ∪Uk).
y /∈f(M −f−1(y))だから、
y /∈f(M −(U1∪ · · · ∪Uk)).
以上より、f(M −(U1∪ · · · ∪Uk))はyを含まない閉部分集合だから、
V =V1∩ · · · ∩Vk−f(M −(U1∪ · · · ∪Uk))
はyの開近傍になる。y0 ∈V に対して、V の定め方より、f−1(y0)⊂U1∪ · · · ∪Uk が成り立つ。よって、#f−1(y0) =k = #f−1(y)となり、y 7→#f−1(y)は局所定数 関数である。
上の命題の応用を一つ示す。
定理 1.1.16 (代数学の基本定理) 定数でない複素多項式は、零点を持つ。
証明 定数でない複素多項式P(z)をとる。複素数全体Cを平面R2と同一視す ると、P はR2からR2へのC∞級写像とみなせる。これが2次元球面S2からS2 へのC∞級写像を誘導することを以下で示す。
S2の北極(0,0,1)に関する立体射影をh+ :S2− {(0,0,1)} → R2で表す。すな わち、(x1, x2, x3)∈S2− {(0,0,1)}に対して
(0,0,1) +t(x1, x2, x3−1) = (tx1, tx2,1 +t(x3−1)) の第三成分が0になる点を対応させることになるので、
1 +t(x3−1) = 0 t = 1
1−x3. よって、
h+(x1, x2, x3) =
µ x1
1−x3, x2 1−x3
¶
((x1, x2, x3)∈S2− {(0,0,1)}).
これによって、写像f :S2 →S2を f(x) =
( h−+1◦P ◦h+(x) (x∈S2 − {(0,0,1)}) (0,0,1) (x= (0,0,1))
で定める。fがS2− {(0,0,1)}でC∞級写像になることは、fの定め方からわかる。
(0,0,1)の近傍でもfがC∞級写像になることを示すために、S2の南極(0,0,−1)に 関する立体射影h− :S2− {(0,0,−1)} →R2を導入する。すなわち、(x1, x2, x3)∈ S2− {(0,0,−1)}に対して
(0,0,−1) +t(x1, x2, x3+ 1) = (tx1, tx2,−1 +t(x3+ 1)) の第三成分が0になる点を対応させることになるので、
−1 +t(x3+ 1) = 0 t= 1
1 +x3.
よって、
h−(x1, x2, x3) =
µ x1
1 +x3, x2
1 +x3
¶
((x1, x2, x3)∈S2− {(0,0,−1)}).
z ∈C=R2に対して
h−◦f◦h−−1(z) = h−◦h−+1◦P ◦h+◦h−−1(z)
となるので、まず、h+◦h−−1(z)を計算しておく。h−−1(z)を求めるためには、直線 (0,0,−1) +t(z1, z2,1) = (tz1, tz2,−1 +t)
とS2との交点を求めればよい。
t2z12+t2z22+ 1t2−2t = 1 t2(z21 +z22+ 1)−2t= 0
t = 2
1 +z21+z22. よって
h−−1(z1, z2)
= (0,0,−1) + 2
1 +z21+z22(z1, z2,1)
= 1
1 +z12+z22(2z1,2z2,−1−z12−z22+ 2)
= 1
1 +z12+z22(2z1,2z2,1−z12−z22).
これより、z =z1+√
−1z2 = (z1, z2)∈C=R2 に対して、
1− 1−z21+z22
1 +z12+z22 = 2(z12+z22) 1 +z12+z22 となり、
h+◦h−−1(z) = 1 +z12+z22 2(z21+z22)
µ 2z1
1 +z12+z22, 2z2 1 +z12+z22
¶
= 1
z12+z22(z1, z2)
= z
|z|2
= 1/¯z.
これより、h−◦h−+1(z) = 1/¯zもわかる。
P(z) = a0zn+a1zn−1+· · ·+an (a0 6= 0)