I ビーム支点部疲労き裂に対するコンクリート巻立て工法の効果の検証
(公財)鉄道総合技術研究所 正会員 小林 裕介 西日本旅客鉄道(株) 正会員 福本 守 鹿島建設(株) 正会員 ○玉野 慶吾 正会員 平 陽兵
1.はじめに
鉄道に用いられる鋼橋の中で主桁に I 形鋼を用いた構造形式
(以下,I ビーム)のうち,支間長が数メートルの橋梁支点部に おいて疲労き裂がしばしば発生している(図-1).主な発生原因 は,腐食による端補剛材下端の隙間や沓座モルタルの損傷(以下,
両方を合わせて支点部損傷)により,列車通過時に片側の下フラ ンジが落ち込み,それにより発生する主桁の面外変形であること が分かっている.沓座補修を伴う対策工事では,桁をこう上する 必要があり,夜間間合いの短い線区や橋上にロングレールが敷設 されている場合は,施工が困難となる場合がある.そこで,個別 に沓座等の補修を必要としないIビーム支点部疲労き裂の対策と して「コンクリート巻立て工法」を考案した 1).本稿では,実物 大で模擬したIビーム試験体に対し,工法の適用前後において静 的載荷試験を行い,対策工法の効果を検証した.
2.コンクリート巻立て工法
コンクリート巻立て工法の概要および基本的な構造を図-2,3 に示す.この工法は,鋼桁をコンクリートで巻き立てて,橋台と 一体化させる構造である.これにより,列車荷重は鋼桁からコン クリートを介して広い面積で橋台に伝達されることから,下フラ ンジの落ち込みやき裂の開口変位を抑制することができる.一方 で,鋼桁の構造形式が単純支持桁から門型のラーメン構造になる ため,列車荷重および温度変化の影響により隅角部に断面力が生 じる.そこで,鋼桁と巻立てコンクリートの一体性を確保するた めに,頭付きスタッドを溶接した当板を鋼桁にボルト接合で取り 付けている.さらに,巻立てコンクリートと橋台の打継面は,橋 台に鉛直鉄筋を設置する.なお,巻立てコンクリートの主桁外側 上端は,フックボルトの取り外し等を阻害しないように上フ ランジに対して段差を設けている.
3.実験概要
実物大の2主桁I ビーム橋梁を対象に,載荷試験を実施し た.試験体概要を図-4に,検討ケースを表-1に示す.試験 体は,支間長4,150mmの単純支持桁であり,軌道部材(まく らぎ,50kgN レール)が I ビーム橋梁の変形挙動や応力性状 に寄与することが想定されたため同部材を含めて模擬した.
図-1 Iビーム支点部の疲労き裂
図-2 コンクリート巻立て工法の概要
主桁(I形鋼)
ソールプレート ベッドプレート 下フランジ
疲労き裂 端補剛材
列車荷重
疲労き裂
列車荷重
疲労き裂 巻立て
コンクリート
橋台
列車荷重を巻立てコンクリートでも負担
巻立て コンクリート
橋台 広い面積で 橋台に荷重を伝達 き裂の開口
変位を抑制
下フランジ落ち 込みを抑制
端補剛材下端の隙
沓座損傷
キーワード 鋼桁,疲労き裂,Iビーム,コンクリート巻立て
連絡先 〒182-0036 東京都調布市飛田給2-19-1 鹿島建設(株)技術研究所土木構造グループ TEL042-485-1111 図-3 巻立て構造の概要
鋼桁
橋台 鉛直鉄筋
スタッド 高力ボルト 当板
疲労き裂
主桁内側 主桁外側
沓座損傷 スタッド 沓座損傷
高力ボルト 主桁 疲労き裂 巻立てコンクリート
フックボルト
土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)
‑49‑
CS3‑025
試験は,支点部損傷の有無,および疲労き裂の有無をパラメ ータとした.模擬した支点部損傷の概要を図-5 に示す.疲 労き裂は下フランジ首部を 400mm 程度切断することで模擬 し,その先端にφ10mmのストップホール(以下,SH)を設 けた.支点近傍の状態が及ぼす影響を検証した後,コンクリ ートを巻き立てて再び載荷した.載荷は,EA-17荷重を想定 し,桁端に170kNを載荷した.計測は支点部近傍の状態によ り点数が異なるが,変位約40点,ひずみ約50点とした.
4.実験結果と考察
支点部損傷に加え疲労き裂の発生した状態(③)において 桁端上を70kN で載荷したときの桁内外のSH 前縁応力およ び下フランジ鉛直変位を図-6 に示す.これより,片側の下 フランジが落ち込むことで,桁内側では引張応力,桁外側で は圧縮応力となる高い面外曲げが生じていることが分かる.
桁端上を載荷したときの各状態における主桁外側腹板の 最小主応力を図-7 に示す.疲労き裂を有する③,④は SH 前縁部,①は発生応力の大きかった端補剛材付近の計測値を 示している.工法適用前は70kNの載荷で-182.0N/mm2であっ たが,適用後の発生応力は-1.6N/mm2 まで低下した.また,
適用後において170kN まで載荷しても発生応力は-4.0N/mm2 であり,健全時の発生応力よりも低い値となることが確認で きた.以上より,コンクリート巻立て工法は,高い応力低減 効果を有していることを確認した.
5.まとめ
Iビーム橋梁に発生した疲労き裂の対策として「コンクリート巻立て工法」を適用した実物大試験体により,
静的載荷試験を実施した.その結果,疲労き裂先端におけるSH前縁の発生応力は健全時よりも低い値まで低 減することが可能であり,本工法が疲労き裂の対策工法として有効であることを確認した.
参考文献
1) 小林裕介,福本守,山下健二:既設鋼 I ビーム支点部疲労き裂の原因究明とコンクリート巻き立て工法,
鉄道総研報告,Vol.29,No.10,2015.10
図-7 主桁外側最小主応力 表-1 検討ケース
図-5 模擬した支点部損傷の概要
端補剛材下端の隙
5mm 桁外側 桁内側
10mm 沓座損傷
295mm
疲労き裂導入位置 き裂長:約400mm 先端にφ10mmのSH 沓座
損傷
端補剛 材の隙
① 健全 ― ― ― ―
② 支点部損傷 あり あり ― ―
③ 疲労き裂
発生後 あり あり あり ―
④ 対策後 あり あり あり 実施 支点近傍の
状態
支点部損傷
疲労 き裂 対策
図-6 SH 前縁応力および下フランジ鉛直変位 135MPa ‐182MPa
桁内側 桁外側
0.11mm
1.28mm
‐200
‐180
‐160
‐40
‐20
0
状態[対策]
疲労き裂 支点部損傷
③疲労き 裂発生後(未対策)
(コンクリート巻立て)④対策後 ①健全
あり なし
あり なし
[70kN載荷] [170kN載荷]
主桁外側最小主応力(N/mm2)
低減 図-4 試験体概要
主桁(I形鋼)
600×190×13×25 まくらぎ2,400×200×200
レール(50kgN)
橋台 支間長:4,150mm
unit:mm A’
A
A-A’断面 載荷位置
600
対策実施前 対策実施後
コンクリート 巻き立て
土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)
‑50‑
CS3‑025