早稲田大学大学院 経済学研究科
博 士 論 文 概 要 書
Essays on Non-Market Valuation 非市場財評価に関する研究
Yohei Mitani 三谷 羊平
理論経済学・経済史専攻
2008 年 1 月
早稲田大学 博士(経済学)
博士論文概要書
2008年1月19日
三谷羊平
Essays on Non-Market Valuation
(非市場財評価に関する研究)
Chapter 1 Introduction
(第1章 はじめに)
国内では自然再生事業が実施段階に移行し、自然再生に対する一般市民の評価を推定す ることが重要な政策的課題になりつつある。自然再生に関する合意形成を巡っては価値の 対立が懸念されるため、人々の間に存在しうる選好の多様性を把握することが肝要である。
自然再生など市場が存在しない公共財の経済的評価には、表明選好法が用いられる。表明 選好法は仮想的なアンケート調査で得た表明データを用いることで、非市場財に対する 人々の選好を推定することを可能にする。しかしながら、この仮想性に起因して、仮想支 払と実際支払に乖離が生じるとの指摘がなされてきた。この乖離は、仮想バイアスといわ れ、表明選好法の妥当性を検討する際に最も重大な問題として論争が続いている。
本博士論文は、仮想バイアス、選好の多様性、生態系評価といった環境経済学の分野で 解決が強く望まれている重要な研究課題に貢献する。前半の第2章と第3章では、表明選 好法の一手法である選択型実験を用いて、実在する自然再生プロジェクトの経済的評価を 行う。生態学に基づいた経済的評価の実現と選好の多様性を把握することによる政策的貢 献が課題となる。後半の第4章と第5章では、公共財ゲームの枠組みと実験経済学のアプ ローチを用いることで、仮想バイアスの体系的な説明を試みる。第6章では、明らかにな ったことと主な貢献を簡潔にまとめた上で今後の研究の方向性を示す。
Chapter 2
Discrete Choice Modeling for Valuing Endangered Species
(第2章 離散選択モデルによる絶滅危惧種の経済的評価)
霞ヶ浦に生息する絶滅危惧種アサザの再生対策を経済的に評価した。生態学的な評価を 反映した評価シナリオを選択型実験に統合することで、アサザの絶滅リスクの回避(遺伝
的多様度の回復)と展葉面積の回復に焦点をあてた経済的評価を行った。分析にあたって は、最新の離散選択モデルを用いることで、合意形成に関する含意や選好の多様性の把握 を検討した。論文においては、離散選択モデルの発展をその背景に沿って整理し、アサザ の植生回復のデータに応用することで、モデルのパフォーマンスを比較検討した。分析の 結果は、ランダムパラメータロジットモデルのパフォーマンスの高さを実証するのみなら ず、ネスティッドロジットモデルが合意形成に与える含意なども検討した。回答者サンプ ル内には、有意かつ無視できない選好の多様性が存在した。また、絶滅リスクが下がるに つれて、その相対的な多様度も下がり合意形成が容易になるという傾向が観察された。
参考公刊論文
[2]三谷羊平・栗山浩一・庄子康「離散選択モデルによる推定手法の新たな展開」、栗山浩一・庄子康編著『環
境と観光の経済評価―国立公園の維持と管理―』第4章、勁草書房、pp. 95-134、2005年
[7]三谷羊平・栗山浩一「自然再生と環境評価-霞ヶ浦におけるアサザの植生回復を事例として-」、『環境経
済・政策学会和文年報』、東洋経済新報社、10、pp. 60-72、2005年
[8]三谷羊平「選択型実験を用いた文化遺産の利用・活用対策評価~碓氷峠鉄道施設を事例として」、『早稲
田経済学研究』59、pp. 61-78、2004年
[10]Yohei Mitani and Koichi Kuriyama, “Measuring the Value of the Vegetation Restoration: Capturing Preference Heterogeneity,” European Association of Environmental and Resource Economics 14th Annual Conference, International University Bremen, Bremen, Germany, June, 2005, pp. 1-28.
Chapter 3
Using Choice Experiments to Value a Shallow Lake Ecosystem and Capture the Preference Heterogeneity
(第3章 選択型実験による湖沼生態系の経済的評価と選好の多様性の把握)
選択型実験を用いることで、釧路湿原達古武沼における自然再生の多属性評価を行った。
生態学での議論に基づき、再生対策として、「生物多様性の回復」、「種の絶滅回避」、「水質 の改善」、「レクリエーション利用」の4属性を設定した。ランダムパラメータロジットを 用いた分析から、北海道市民の間には選好の多様性が存在し、その相対的多様度は、「水質 改善」が最も低く、「種の絶滅回避」、「生物多様性の回復」、「レクリエーション利用」の順 に多様度が高まることが明らかになった。潜在セグメントロジットモデルを用いた分析か らは、自然再生対策には全く価値を見出さず、水質改善やレクリエーション利用を評価す るグループ(25%)と種の絶滅回避など自然再生対策を高く評価するグループ(75%)
が存在することが明らかになった。最後に、北海道サンプルを全国サンプルと比較するこ とで、受益者範囲に関して検討した結果、特に「生物多様性の回復」に対する選好体系は、
北海道市民と全国市民とで異なることが示唆された。
参考公刊論文
[2]三谷羊平・栗山浩一・庄子康「離散選択モデルによる推定手法の新たな展開」、栗山浩一・庄子康編著『環
境と観光の経済評価―国立公園の維持と管理―』第4章、勁草書房、pp. 95-134、2005年
[5]三谷羊平「潜在クラスモデルを用いた選好の多様性の把握:文化遺産の利用活用対策評価を事例として」、
『早稲田経済学研究』64、pp. 29-48、2007年
[13]三谷羊平「選択型実験による湖沼生態系の経済的評価と選好の多様性の把握:釧路湿原達古武沼におけ る自然再生を事例として」、『環境省環境技術開発等推進費、平成18年度報告書 健全な湖沼生態系再生の ための新しい湖沼管理評価軸の開発』、5章、pp. 87-121、2007年(改訂版を『環境科学会誌』に投稿中)
[17]Yohei Mitani, "Valuing Environmental Preferences through Hypothetical Choice in Survey," Institute of Behavioral Science News Letter, University of Colorado at Boulder, OCT/NOV 2006, pp. 3-4, 2006.
[18]三谷羊平「自然再生の経済的評価の試み:釧路湿原東部湖沼を事例として」『環境省環境技術開発等推 進費、平成17年度報告書 健全な湖沼生態系再生のための新しい湖沼管理評価軸の開発』、6章、pp. 102-120、
2006年
Chapter 4
Hypothetical and Real Bias in Threshold Public Goods Experiments:
Demand Revelation and Gender Differences
(第4章 閾値付公共財ゲームにおける仮想バイアスと実際バイアス)
アンケートにおける仮想的な支払額と実際の支払額との乖離は仮想バイアスといわれ、
表明選好法の妥当性を検討する際に最も重大な問題として論争が続いている。これまで、
多数の実証研究が仮想バイアスの問題に取り組んできたが、その結論は、仮想支払と実際 支払は乖離するというものであった。しかし、実証研究において、環境財の真の価値を観 測することは不可能なため、本来の意味で妥当性を左右する、表明額と真の価値との関係 は明らかにされてこなかった。そこで、本論文では、価値誘発理論を用いた経済実験によ り、真の価値と仮想支払及び実際支払の関係を分析した。仮想バイアスの検定、需要表明 に関する様々なパフォーマンスの比較、真の価値と支払表明額との関係などを詳しく分析 した結果、経済的誘因がない仮想支払も一定の妥当性を担保していることを示した。
参考公刊論文
[4]Yohei Mitani and Nicholas Flores, "Does Gender Matter for Demand Revelation in Threshold Public Goods Experiments?" Economics Bulletin, Vol. 3, No. 27, pp. 1-7.
[9]Yohei Mitani and Koichi Kuriyama, “What Factors are Responsible for Decision Making in a Threshold
Environmental Goods Experiment: a Consideration of Hypothetical Bias in Stated Preferences,” 3rd World Congress of Environmental and Resource Economists, Kyoto International Conference Hall, Kyoto, Japan, July, 2006, pp.
1-27.
[12]Yohei Mitani and Nicholas Flores, "Hypothetical and Real Bias in Threshold Public Goods Experiments,"
Institute of Behavioral Science, University of Colorado at Boulder, Working Paper, EB2007-0001, 2007, pp. 1-13.
Chapter 5
A New Explanation for Hypothetical Bias: Subjective Beliefs of Hypothetical Aspects in Payment and Provision
(第5章 支払と供給の主観確率を用いた仮想バイアスの説明)
支払と供給に関する2つの主観的確率を閾値付公共財ゲームに導入することで、仮想バ イアスの発生要因の説明に成功した。被験者がアンケートにおいて支払の必要はないがア ンケートの結果が政策に反映されるかもしれない、或いは、実験において支払額は徴収さ れるが、本当に環境政策が実施されるとは限らないと考えている場合、仮想バイアスが発 生することを理論的及び実験にて示した。また、実験研究を通しては、支払表明額が徴収 され財が供給されるという帰結と表明額は徴収されず財も供給されないという帰結の2つ のアウトカムのみが存在するケースでは、理論の予測どおりに被験者は行動するのものの、
表明額は徴収されるが財は供給されない、表明額は徴収されないのに財が供給されるとい う帰結を含む4つのアウトカムが存在するケースでは、被験者はリスクニュートラルには、
行動せず、理論予測よりも仮想バイアスが生じやすくなることが示された。
参考公刊論文
[11]Yohei Mitani and Nicholas Flores, "A New Explanation for Hypothetical Bias: Subjective Probabilities of Hypothetical Natures in Payment and Provision," Institute of Behavioral Science, University of Colorado at Boulder, Working Paper, EB2007-0003, 2007, pp. 1-46.
Chapter 6 Conclusion
(第6章 結論)
本論文の総括として、明らかになったこと及び主な貢献を簡潔に整理し、その上で今後 の研究課題を示す。