戦−35 深礎基礎等の部分係数設計法に関する研究
研究予算: 運営費交付金(道路勘定) 研究期間: 平
20~平 24
担当チーム: CAESAR 橋梁構造研究グループ 研究担当者: 中谷昌一、白戸真大、河野哲也
【要旨】
平成
14
年度版の道路橋示方書1)
は、性能照査型の設計に改められた。次期改定では、より一層の性能規定化を 実現するために信頼性を考慮した部分係数を用いた照査式の導入検討が進められ、20 年度までに土木研究所CAESAR
において直接基礎や杭基礎の照査式が検討されたところである。本研究は、深礎基礎や柱状体基礎について信頼性に基づく部分係数を用いた照査式を開発するものである。
20
年度は、地盤の水平支持に関する弾性 限界点を規定するための工学指標、及び弾性限界点までの基礎の水平挙動をモデル化するための地盤反力係数の 見直しを行い、杭基礎と柱状体基礎の弾性限界点を示す工学指標の統一的な解釈と地盤反力係数のモデル誤差と それに及ぼす地盤調査の質の影響を明らかにした。21
年度は、沈下を制限すること、また岩においては静力学公 式における支持力推定式を適用して支持力に関する安全率を照査する際の不確実性を踏まえ地盤反力度の上限値 を新たに提案した。また、支持層より深い位置に圧密層が存在した場合の圧密沈下の影響の有無を判断するため の新たな指標を設けることについて提案した。キーワード
:
大口径深礎、岩盤、地盤反力度の上限値、ケーソン基礎、圧密1.
はじめにわが国の道路橋の設計基準である道路橋示方書は、平 成
14
年の改訂版(
以下、H14
道示1)
という)
において、構造物に期待されている機能を踏まえ、構造物や部位・
部材等の構造要素について確保されるべき性能など設計 の意図が明示され、それに対して部位・部材の限界状態 を設定し、照査することを求めるという性能照査型への 移行に踏み出した。次期改定では、より一層の性能規定 化を推進するために、照査において、従来経験的に用い られてきた安全率に替わりデータと信頼性に基づく部分 係数を用いた照査を導入するものとしている。既設道路 橋の中でも使用実績の多い直接基礎・杭基礎の照査に関 わる部分係数の検討は別課題にて一昨年度まで概ね完了 し
2)
、研究成果に基づき次期道路橋改訂の素案が作成さ れ日本道路協会下部構造小委員会にて審議されている。本研究は、直接基礎・杭基礎に引続き、近年、道路橋基 礎に用いられる基礎形式として採用割合が増加している 深礎基礎橋台の設計法を整備するとともに、深礎基礎及 び柱状体基礎に対して、信頼性に基づく部分係数型の照 査式を開発するものである。
ケーソン基礎、鋼管矢板基礎、地中連続壁基礎はいず れも深い基礎に分類されるものであるが、施工法が異な るので、基礎形式ごとに個別に設計法が開発されてきた。
それでも、平成 8 年の道路橋示方書
3)
の改訂において、柱状体基礎として、レベル 2 地震時における設計につい ては、ある程度体系化に向けた取り組みがなされてきた。
本研究では、直接基礎や杭基礎との設計法の連続性の確 保、常時・レベル 1 地震時も含めた設計法の体系化を行 っている。本年度は、鉛直支持、沈下の照査について次 の
3
つの課題に取り組んだ。大口径深礎基礎を含む柱状 体基礎と杭基礎の深い基礎を対象とし、岩を支持層とす るときの鉛直支持力の照査法を提案した。また、地中連 続壁基礎の鉛直支持照査に着目し基礎の沈下量の照査法 を提案した。さらに、支持層より深い位置に圧密層が存 在した場合に圧密の影響の有無を判断するための評価手 法について提案した。2.
深い基礎の鉛直支持に対する照査法の提案2.1 鉛直支持に対する照査の現状と課題
基礎の限界状態は、上部構造をどのような状態・反力 特性で支持するのかという条件の中で、極限に対して大 きな余裕があること、弾性限界に達しないこと、そして 基礎の変位が上部構造に悪影響を与えないことを照査し ている。鉛直支持の照査に着目すると、照査の意図する ところは基礎形式によらず同じであり、支持に対して十 分に安全であること、過大な沈下が生じないことにある。
支持層が岩盤の場合は、岩の地盤定数と支持力推定の不 確実性を踏まえ最大強度点に対し安全性を担保しておけ
ば、一般に沈下に対して問題になることは無い。一方、
砂・砂礫・粘土の場合は、上部構造に影響を与えるよう な過大な沈下および不同沈下を避けた場合には、支持力 に対する安全性が問題になることは無い。表
-1
にH14
道 示における各基礎の鉛直支持の照査項目をまとめた。基 礎形式毎に照査項目が異なっていたり、必ずしも明確に 照査法が規定されていない項目がある。特に、深い基礎 では岩盤を支持層としたときの照査手法が明確でなく、地中連続壁基礎では砂、砂れき、粘土を支持層とした場 合の沈下の照査が明確でない。
岩盤上の基礎については、極限支持力に対して十分安 全である場合には変位については問題にならないと考え る。しかし、極限支持力は、亀裂・割れ目等により左右 され、剛塑性理論を用いて極限支持力を計算するために は、理論式に入力する地盤定数の評価に亀裂や割れ目等 の影響を考慮するための地盤調査法は必ずしも確立され ておらず不確定な要素が多い。すべり面の形状やすべり 面に沿って発揮される平均的な強度の推定の不確実性が 想定しているよりも大きい場合も考えられる。この問題 に対して、例えば
H14
道示における岩盤上に設置される 直接基礎の設計は、計算で得られる極限支持力に対して 必要な安全率を得ることに加えて、最大地盤反力度の上 限値を定め、基礎底面に分布する地盤反力度がこれを超 えないことも確認している。深礎基礎は良質な岩盤に支持させる基礎である。
H14
道示には照査法が示されていないが、今回照査法を示す にあたり、岩盤上に設置される直接基礎と同様に、載荷試験等による経験的な評価も踏まえ、岩盤に支持力推定 式を適用することの不確実性に対して適切な安全余裕を 担保できるように照査法を検討する必要がある。
また、岩盤を支持層とするケーソン基礎、場所打ち杭、
地中連続壁基礎の鉛直支持力の照査は、現行道示におい て明確な規定はない。場所打ち杭やケーソン基礎は、こ れまでの実績のうち約
30%が軟岩や硬岩を支持層とす
るケースである。「設計要領 第二集 橋梁建設偏5)
」 や「鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物・抗土 圧構造物6)
」における場所打ち杭の設計では、支持層が 硬質粘土および軟岩の場合、先端の極限支持力度は上限 値を9,000kN/m2
とし一軸圧縮強度qu
に3 を乗じて算定す ることが規定されており、運用上は、3qu
として計算する 一方で、各種設計要領を参考に上限値を 9,000kN/m2
とし ていることが実情であると考えられる。砂、砂れき、粘土を支持層とする基礎については、支 持力に対する安全性を担保することで、上部構造に影響 を与えるような過大な沈下および不同沈下が問題になる ことは無い。直接基礎やケーソン基礎では、極限支持力 に対して必要な安全率を得ることと沈下を抑制すること の関係付けはないが、最大地盤反力度の上限値を定める ことで、沈下に対し安定性を確保している。また、杭基 礎については、極限支持力の定義を杭頭部の沈下量と関 連づけて定義した上で、それを安全率で除した許容支持 力を上限として杭頭反力が一定の値を下回るように制限 することで長期にも沈下量が過大にならないことを多数 の載荷試験結果をもとに確認している。地中連続壁基礎
岩盤を支持層とする場合の照査 砂・砂礫・硬質粘土を支持層とする場合 課題
直接基礎
照査①:基礎底面の鉛直反力≦許容鉛直支持力 (静力学公式による理論値)
照査②:基礎底面の地盤反力度≦地盤反力度の上限値 (平板載荷試験より求めた経験値)
照査①:基礎底面の鉛直反力≦許容鉛直支持力 (静力学公式による理論値)
照査②:基礎底面の地盤反力度≦地盤反力度の上限値 (平板載荷試験より求めた経験値)
-
深礎基礎 -
(深礎基礎自体の規定がない) -
・岩における支持力評価の 不確実性を担保した照査 を規定することが必要。
ケーソン基礎 規定なし
(※既往実績のうち約30%が岩盤を支持層としている。)
照査①:基礎底面の鉛直反力≦許容鉛直支持力 (静力学公式による理論値)
照査②:基礎底面の地盤反力度≦地盤反力度の上限値 (平板載荷試験より求めた 経験値に有効根入れを考慮)
・岩における支持力評価の 不確実性を担保した照査 を規定することが必要。
地中連続壁
基礎 規定なし 照査①:杭鉛直反力度≦許容支持力度
(経験値)
・岩における支持力評価の 不確実性を担保した照査 を規定することが必要。
・基礎の沈下を抑制すること が関連づけられた照査と なっているか検証が必要。
場所打ち杭 基礎
規定なし
(※既往実績のうち約30%が岩盤を支持層としている。)
照査①:杭鉛直反力≦許容支持力
(杭の載荷試験結果に基づき、沈下と 関連付けた許容支持力が規定されている)
・岩における支持力評価の 不確実性を担保した照査 を規定することが必要。
岩の地盤定数と支持力推定の不確実性を担保して最大強
度点に対する照査をする。 過大な沈下および不同沈下を避ける
照査の意図 照
査 項 目
表
-1現行設計における各基礎の鉛直支持の照査方法
の鉛直支持の照査は、施工法や支持機構が同じである場 所打ち杭を参考にしてきた経緯がある。しかし、極限に 対して安全率を確保することと基礎の沈下を抑制するこ ととが関連づけられた照査となっていない。
2.2. 岩盤を支持層とする深い基礎の鉛直支持に対する
照査法の提案2.2.1
岩盤の支持力特性に関する既往研究成果の整理岩盤の支持力特性を文献
4 )
をもとに整理する。岩盤の 支持力特性は、多数の地盤調査や平板載荷試験、室内実験 の分析より、各物理定数間および載荷試験より得られる力 学的性質の間に相関関係が認められており、これらの相関 関係を利用して平板載荷試験の降伏支持力P y
および極限 支持力P u
は、q u
(一軸圧縮強度)→ Eb
(孔内水平載荷に よる変形係数)→E d
(平板載荷による変形係数)→P y
(平板載荷による降伏支持力)→
P u
(平板載荷による極 限支持力)という経路により各種試験値の関係から推定す ることができることが明らかとなっている。図-1
は、これ らの相関関係のもと最小二乗法により各相関式を作成し、平板載荷試験より得られる極限支持力
P u
と一軸圧縮強度q u
の関係を示したものである。図中には、信頼区間を正規 分布の片側5
%有意水準より上限値95
%、下限値5
%を定 め最終的に生じる誤差の評価を行ったものを示す。この整 理に用いた岩盤のデータは、亀裂や岩種の違いによる様々 な物性の違いや、試験深度や岩盤の堆積状況の違いによる 影響を含んだものである。また、図-1に「設計要領 第二 集 橋梁建設偏」や「鉄道構造物等設計標準・同解説 基 礎構造物・抗土圧構造物」で示されている場所打ち杭の先 端支持力度の関係を示す。現設計で用いられている値は、一軸圧縮強度が
30MN/m 2
以下の範囲では、岩の地盤定数 の信頼性を考慮するとやや大きすぎる可能性がある。2.2.2
照査値の設定深い基礎の場合、基礎の支持地盤は、比較的大きな土被 り荷重により拘束され、応力開放されない状態にあるため、
潜在的なきれつ、節理の影響を受けにくい状況にある。こ のため、極限支持力度の平均値を用い、一軸圧縮強度を区 分とした極限支持力度を定め、常時は、長期荷重に対して 地盤の弾性範囲内を保障する値として極限支持力度の
1/3
を地盤反力度の上限値とする。レベル1
地震時は、多数の 平板載荷試験を数学的にモデル化した結果から極限支持 力P u
と降伏支持力Py
の関係がP y =0.6 P u
であることを踏まえ、
P y =0.6 P u
により降伏支持力を推定し、これを弾性限界点の目安とすることとした。
表
-2,3
および図-2
に2.2.2
で示した方法により設定した常時およびレベル
1
地震時における地盤反力度の上限 値と極限支持力度の提案値を示す。参考に、一軸圧縮強度q u
と本研究で想定した岩種の関係も示す。これらの区分 は経験的に定められてきた経緯はあるが、q u
を用いて岩級 区分を行った場合、ある程度相関性があることが確認でき ている4 )
。岩を支持層とする深い基礎について、地質調査や載荷試 験より得られたデータに基づき岩級や岩種によらず一定 の信頼性を考慮し、統一的な照査指標が提案できた。
図
-1
平板載荷試験結果より得られる極限支持力と 一軸圧縮強度の相関表-2地盤反力度の上限値の設定(常時)
表
-3
地盤反力度の上限値の設定(レベル 1 地震時)岩級区分 一軸圧縮強度 qu(MN/m2)
極限支持力度 Pu(kN/m2)
提案値=Pu/3 (kN/m2) 参考
B CH
10~30 CM
5~10 CL
1~5 6,000 2,000 D
軟岩
7,500 2,500
硬岩 30~ 9,000 3,000
岩級区分 一軸圧縮強度 qu(MN/m2)
極限支持力度 Pu(kN/m2)
提案値
=Pu×0.63 (kN/m2)
参考 B CH
10~30 CM
5~10 CL
1~5 6,000 3,600 D
硬岩 30~ 9,000 5,400
軟岩
7,500 4,500
図-2 岩の一軸圧縮強度と極限支持力度の関係
2.3. 地中連続壁基礎の沈下に対する照査法の提案 2.3.1
照査法の提案柱状体基礎は、一本の柱状体として挙動する。一本の 杭と異なり幅広の剛体に近い構造であることから、偏 心・傾斜荷重を受けると基礎底面で回転変位が生じ、基 礎底面に分布する地盤反力度は均等にはならない。回転 変位が大きくなると一部で浮上りが生じ、局部的に地盤 が塑性化することで不同沈下を引起す要因となる。
H14
道示では、ケーソン基礎の鉛直支持力の照査は、最大地 盤反力度の上限値を定め、基礎底面に分布する地盤反力 度の最大値がこれを超えないことを確認している。地中 連壁基礎では、基礎底面における最大地盤反力度が、極 限支持力に対し所定の安全率を確保した許容支持力度以 下となることを照査している。過大な沈下や不同沈下を 抑制するための照査として、地中連続壁基礎においても、ケーソン基礎と同様に基礎底面での地盤反力度の上限値 による規定を設けることを提案する。
本来、橋における基礎の性能は,上部構造からの荷重 を支持し,必要な反力及び剛性を与えるものであり、基 礎頭部の沈下が重要である。杭基礎の場合には,沈下量 は杭体の杭軸方向の変形と底面地盤の変形量の和で表し、
杭頭部の反力が許容支持力を下回ることを照査している。
しかし、地中連続壁基礎を含め、剛体に近い柱状体基礎 は杭基礎に比べ非常に剛性が大きく、基礎本体の軸方向 変形量は小さいと考えられるので、基礎底面での最大地 盤反力度に対し上限値を規定することで沈下の照査とす ることとした。
2.3.2
実大規模の載荷試験より得られる荷重沈下特性過去に行われた実大規模の載荷試験結果に基づき、
Weibull
曲線にて一般化を行い、限界点の定義とその際生じる沈下量について定量的な評価を試みる。これまで、
杭基礎については、多数の載荷試験結果に基づいた検証 が行われ、杭の鉛直載荷試験結果から得られる荷重沈下
関係は
Weibull
曲線で近似することが可能であること、Weibull
曲線の降伏点は、載荷試験の第1限界点を近似する(極限荷重の
0.6
倍程度)こと、杭径の10
%沈下時が 極限荷重であることが明らかとなっている7)
。また、現 行道示で規定している許容支持力に達した時の沈下量は 杭径の0.3%
から1.7
%(仮に杭径1
mでは0.3cm
~1.7cm
, 杭径1.5
mでは0.45cm
~2.5cm
)となり、即時沈下をこの 程度に抑えておけば長期的にも上部構造に影響が出ない ことが担保できることも明らかにされている。表-4
に、分析に用いた壁基礎の載荷試験のデータ数を示す。地中 連続壁基礎の載荷試験は、いずれも壁式基礎を対象に実 施したものである。用いる試験データは、載荷荷重・変 位、基礎寸法および地盤条件等の基本情報が整っており、
載荷荷重不足のために近似精度が不十分であると考えら れるデータを排除するため実測値が
Weibull
曲線で推定 される降伏荷重の1.2
倍程度以上の載荷がなされている ものを前提とした。なお、連壁基礎としての載荷試験事 例が少ないことから、施工法や基礎底面の支持機構が同 じである場所打ち杭も併せて整理する。荷重沈下関係は、載荷試験で得られた基礎底面の地盤反力度と変位の関係 を分析する。連壁の沈下量は壁厚で正規化する。図
-3
に 鉛直載荷試験より得られた基礎底面の荷重沈下関係を示 す。荷重沈下曲線の特徴は、N値が50
以上の場合、30
≦N<50の場合、
30
未満の場合で傾向が異なっていたこ とから、N
値による区分を目安に整理した。また、図-4
に載荷試験より得られた基礎底面の荷重沈下関係の概念 図を示す。H14
道示において支持層と規定されるN
値が30
以上の地盤に支持させた場合、載荷直後から基礎先端 の支持力が発揮され初期勾配が大きくなっている。一方 で、N
値が30未満の緩い層は、基礎底面の支持力が発揮 されず周面摩擦が卓越し、初期勾配が小さく、なだらか に底面の荷重が増加する傾向にある。スライム等による ゆるみが生じた場合においても緩い層に近い荷重沈下関 係となると思われる。ここで検証する基礎は、良質な地 盤に支持させたものを対象としており、施工時はスライ ム処理を確実に行うことが前提である。表
-4
分析に用いた載荷試験一覧(a) N 値 50 以上
(b)30 ≦ N 値 < 50
(c) N 値 30 未満
図-
3
載荷試験における荷重沈下関係図-4 基礎底面の荷重変位関係の概念図
2.3.2
沈下に対する照査方法載荷試験結果を
Weibull
曲線でカーブフィッティング を行い、各試験結果を平均化したものを図-5
に示す。な お、基礎底面における沈下量が壁厚の10%
に達する時の 荷重は、ほぼ横ばいとなり基礎が発揮する最大抵抗力と みなしうることから、10
%での荷重を極限支持力とした。また、図
-6
に各荷重レベルにおける沈下量の頻度分布を 示す。降伏荷重相当(極限荷重の63%程度)での沈下量
をみると砂・砂れき(50
≦N
)で壁厚D
の3.56
%程度、砂・砂れき(
30
≦N
<50
)で2.58
%程度であった。また、極限荷重を安全率
3
で除した荷重での沈下量は、砂・砂 れき(50
≦N
)で1.34
%程度、砂・砂れき(30
≦N
<50
) で0.90
%程度である。仮に壁厚1.5m
の基礎で極限荷重を 安全率3
除した荷重での沈下量を想定すると、砂・砂れ き(50
≦N
)で2.0cm
、砂・砂れき(30
≦N
<50
)で1.5cm
となり、杭基礎が許容支持力に達した時の沈下量と同程 度である。極限支持力に対し安全率3
を確保した値を地 盤反力度の上限値としておけば、温度荷重や土圧などが 生じる場合に対し基礎直下地盤の塑性化に伴う不同沈下 は生じないと考えられる。図-
5
Weibull 曲線により平均化した荷重沈下関係図-6 各荷重レベルにおける沈下量の頻度分布
2.3.3
極限支持力度の設定図-7 に載荷試験より得られた沈下量が基礎幅の
10%
基礎先端の支持層の N値が30 以上の硬質な層
基礎先端の支持層の N値が30 未満の緩い層
→ 周面摩擦が卓越する 荷重
沈下量 場所打ち杭 地中連続壁基礎
砂れき層及び砂層(30≦N<50) 9 1
砂れき層及び砂層(50≦N) 9 5
硬質粘土層 3 0
に達した時の基礎底面の極限支持力度を示す。場所打ち 杭基礎と地中連続壁基礎で極限支持力度に大きな差はな く、スライム処理等の影響も踏まえ
N
値50
を境界にそ れぞれ下限値相当を極限支持力度とし、これを3
で除し た値を地盤反力度の上限値として提案する(表-5)。図-8
は、提案した地盤反力度の上限値相当で基礎寸法を決 定したときに想定される沈下量の頻度分布を示す。沈下 量の平均値は基礎幅の0.7%程度となる。
図-7 載荷試験より得られた極限支持力度と
N
値の関係図-
8
最大地盤反力度の上限値での沈下量の頻度分布表
-5 最大地盤反力度の上限値の提案値
2.3.4
硬質粘性土の取扱いについてH14
道示において硬質粘性土が支持層となる場合、基 礎底面の極限支持力度は一軸圧縮強度qu
の3倍として規 定されている。硬質粘性土を支持層とする時の一軸圧縮 強度の目安は400kN/m 2
であり、極限支持力度としては1,200 kN/m 2
以上の粘土層が対象となっている。これを踏まえ、3ケースと限られたデータではあるが、載荷試験
より得られた極限支持力度が
1,200 kN/m 2
以上のものを 対象に( 図-9
)沈下量の評価を行った。表-6
に、降伏 荷重相当(極限荷重の63
%程度)および、極限荷重を安 全率3
で除した荷重での沈下量を示す。極限荷重を安全 率3
で除した荷重での沈下量の平均値は壁厚D
の1.2%
程度(仮に壁厚
1.5m
では2.5cm
)となり、これは杭基礎 で許容しているであろう沈下量に相当している。砂・砂 れき層を支持層とした場合と同様に、極限支持力に対し 安全率3
を確保した値を地盤反力度の上限値としておけ ば、温度荷重や土圧などが生じる場合に対し基礎直下地 盤の塑性化に伴う不同沈下は生じないと考えられる。そ こで、最大地盤反力度の上限値は硬質粘土の一軸圧縮強 度q u
を目安とすることを提案する。図-9 載荷試験より得られた極限支持力度と
N
値の関係 表-6
各荷重レベルでの沈下量表
-7 最大地盤反力度の上限値の提案値
3.
圧密に対する照査について基礎底面から基礎最小幅の3倍の深さの間に粘性土層 が存在し、基礎から分散される荷重の影響で正規圧密領 域に達する場合には、圧密沈下の影響を考慮した橋の設 計が必要である。しかし、供用後も沈下の影響を観測し 続け、適切な対策を採りながら供用を行なうということ は、橋梁の維持管理に対する負担を著しく増大させるこ とから避けるべきである。したがって、基礎底面より下
地盤の種類 最大地盤反力度(kN/m2) 砂れき層及び砂層
(30≦N<50) 1,000
良質な砂れき層及び
砂層(50≦N) 1,600
地盤の種類 最大地盤反力度(kN/m2)
硬質粘土層 qu
case1 case2 case3 平均 壁厚1.5mの場合
2.48 1.37 qd×0.33の沈下量(%)
3.01 5.58 2.60 qd×0.63の沈下量(%)
3.01 1.20
5.5cm 2.5cm
1.20
にある粘性土層の圧密沈下の影響を受けない深度に達す るまで基礎を深く根入れすることが望ましい。そこで、
正規圧密が発生しないことを照査するための手法を検討 した。
3.1.
照査方法の提案当該土層に作用する鉛直応力が、当該土層の圧密降伏 応力より判断する過圧密応力に達しなければよい。そこ で式
(1)
のような照査式が考えられる。図
-10
圧密照査の概要ここで、
q cmax
:基礎設置に伴う粘土層上面での地盤反 力度(kN/m2 )、σ vc
’:粘土層上面での有効土被り圧(kN/m 2 )
、p c
:圧密試験より求める粘土層の圧密降伏応力
(kN/m 2 )
、Φ:抵抗係数である。3.2.
圧密照査に用いる抵抗係数φの設定圧密が問題になるのは、特に海成粘土であることが多 い。そこで、海成粘性土層の圧密降伏応力の分布とばら つきについて調べ文献
8)
を参考に圧密降伏応力のばら つきを推定する。表-8
に文献8)
から同一の正規圧密状態 にある海成粘土層内で深度の等しいデータを選び圧密降 伏応力の深度毎のばらつきを整理した結果を示す。圧密 降伏応力 pc
の変動係数は表層近くで 0.30、それを除くと 0.10-0.15 程度である。道路橋の事例で深い基礎が薄層 支持された 60 基を調べたところ、圧密照査の対象となる 粘土層までの深度は、地表より 10m以深で分布していた。そこで、圧密降伏応力の変動係数は V=0.15 とした。また、
局所的に弱い箇所が圧密沈下を誘発させる恐れがあるた
め、圧密降伏応力 p
c
の特性値は、試験値のばらつきの度 合いを勘案しながら控えめに評価するのがよく、複数の 試験値の安全側の設定とすることを前提としバイアスを 1.0 とする。q cmax
を算出するための荷重条件としては長 期荷重を想定することにする。長期荷重は死荷重に起因 するものであり、基礎底面の地盤反力度を評価する際に 基礎周面地盤の摩擦力によるばらつきの影響が考えられ る。しかし、ケーソン基礎の場合、施工時に周面地盤を 乱す可能性があることから、長期荷重については基礎底 面のみで支持することを前提としており、周面地盤のば らつきによる影響は小さいと考えられる。このため死荷 重に起因する長期荷重については確定値と見なすことと した。限界状態関数 G は式(2)のとおり表される。目標 信頼性指標を常時の極限支持力に関する照査と同程度と なるように、βT
= 3.0 とすると抵抗係数Φは 0.65 とな る。現行の道示における基礎の照査は、複雑な地盤特性や 設計計算で考慮されない想定外の事象などのさまざまな 不確実性の要因が経験的に考慮された安全率 n で抵抗 値を除したものを荷重値と比較( Q ≦ 1/n×R )する ことにより、照査が行われる。抵抗係数Φは信頼性に基 づき決定した値であるということが 1/n とは決定的に異 なるが、仮に現行道示におけるネガティブフリクション の照査において許容支持力を求める際の安全係数 n=1.5 の逆数と本研究で得られた抵抗係数を比較すると 1/n
=1/1.5≒0.66、Φ=0.65 となり同程度であることが分か る。
表
-8
圧密降伏応力Pcの深度毎のばらつき8)
深度(m) 平均N 値 圧密降伏応力pc
(kN/m2) 変動係数V
3.00-3.85 24 18 0.303
7.00-7.85 20 40 0.143
11.00-11.85 21 63 0.134 15.00-15.85 20 86 0.103 19.00-19.70 21 107 0.097
( ) Φ
Φ = − ⋅
⋅ Δ
≤
− ' '
max Vc c Vc
c p p
q σ σ (1)
基礎幅B
影響範囲3 B 地盤反力度:qcmax
有効土被り圧σvc
’
基礎設置による 増分応力 支持層
粘土層
圧密降伏応力:
p
c有効土被り圧:σvc
’
過圧密荷重:⊿p=pc-σ
vc’
粘 土 層 上( )
( − σ − σ ⋅ φ )
= ln ( q c max Vc ' ) / p c min Vc ' G
( ) ( ) ( )
458 . 0
15 . 0 1 ln 0 . 3 15 . 0 1 2 ln 0 1 . 1
ln 2 2
−
=
+
− +
−
= 65 .
= 0 Φ
∴
(2)
( ) ln ( ) 2 1 ln ( 1 cov 2 ) ln ( 1 cov 2 )
ln Φ = λ p − + p − β + p
3.3.
提案式を適用した場合の試算と傾向分析ここでは、新たに規定する照査手法が現行設計へ与える 影響を確認するため、圧密沈下の影響を受けやすい大型 ケーソン基礎を対象に
5
橋梁(8
基)にて試算した。表-9
に試算橋梁の諸条件と試算結果を示す。それぞれの構 造緒元は、基礎長は25
m~50
m、平面寸法は10
m~40
m、支持層厚さは4m~ 15m、粘土層の過圧密比 OCR
は1.2~ 3.5
である。図-11に基礎底面から粘土層上面までの 層厚と基礎設置に伴う荷重増分比の関係を示す。限られ たデータ数ではあるが、基礎設置に伴う荷重増分比率は、基礎底面から粘土層上面までの厚さが
6
mから8
mある と1.0
に収束する傾向にあることが分かる。図-12
に基礎 底面から粘土層までの厚さを基礎幅で除したものと照査 式による判定結果の関係を示す。試算橋梁5
橋のうち2
橋が圧密沈下の影響があると判定された。基礎底面から 粘土層までの層厚が基礎幅の20-30
%未満のものについ ては、圧密が生じると判定される傾向にある。なお本照 査は、基礎形状を浅く大きくし圧密層から上方に離隔を とることで、圧密の影響がない構造とすることを推奨す るものではなく、これらの基礎については、軟弱層下の 圧密の影響のない層まで支持層を求めることを基本とす るものである。表
-9
試算橋梁条件および試算結果図
-11
基礎底面から粘土層上面までの層厚と 基礎設置に伴う荷重増分比図
-12
圧密照査結果4.
まとめ岩盤中に設置される深い基礎について、岩盤に支持力 推定式を適用することの不確実性に対して適切な安全余 裕を担保できるように地盤反力度の上限値を設けること を検討した。一軸圧縮強度を区分として設定し、岩盤を 支持層とした場合の深い基礎として照査方法の統一化を 図った。また、地中連続壁基礎において載荷試験結果に 基づき、基礎の沈下を抑制することを関連づけた照査指 標および照査手法を提案した。
また、支持層より深い位置に圧密層が存在した場合に 正規圧密沈下が発生しないことを照査するための照査式 を提案した。新たな照査式を適用した試算では、基礎底 面から粘土層までの層厚が基礎幅の
20-30%未満のもの
については、圧密が生じると判定される傾向にあり、こ れらの基礎については、軟弱層下の圧密の影響のない層 までさらに深く根入れし、支持層を求めることになる。参考文献
1)
日本道路協会:
道路橋示方書・同解説IV
下部構造編,2002.
2)
中谷昌一,白戸真大,河野哲也:
性能規定体系における道 路橋基礎の安定照査法に関する研究, 土木研究所資料第4136
号, 2009.3)
日本道路協会:
道路橋示方書・同解説IV
下部構造編,1996.
4) 岡原三知夫,小幡宏,森浩樹,津川優司:
岩盤上の直接基礎の鉛直支持力推定法に関する研究,土木研究所資料第
2512
号,S62.11.
5) 日本高速道路株式会社:設計要領 第二集 橋梁建設偏,
H
18.7
6)
鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物・抗土圧構造 物,H12.6
7)
独立行政法人土木研究所:杭の軸方向の変形特性に関する 研究,土木研究所資料第4139
号,2009.3
8) 奥村,土田 : 港湾技術研究所報告, Vol. 20, No. 3, 1981
C 橋
D 橋
P1 P2 P1 P2 P1 P1 P1 P2 L(m) 34 33 51 51 42 31 33 28 B(m) 40 40 13 13 21 25 33 33 D(m) 40 40 23 23 30 30 35 35
⊿qc
(kN/m2) 124 66 764 681 60 80 0 0 qc/σvc' 1.42 1.22 2.77 2.58 1.16 1.20 1.00 1.00
1.16 0.93 1.81 1.57 - 0.11 0.00 0.00 NG O K NG NG - OK OK OK
試算橋梁名 A
橋
B 橋
E 橋 基礎No.
ケーソンの長さ ケーソンの
平面寸法 粘土層上面の
荷重増分 粘土層上面の
荷重増分比 判定
⊿qc / (Φ⊿p)
⊿qc≦Φ⊿p