専門里親の資質向上を目指す支援のための実践モデル : M-D&Dによる開発的研究
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(2) 専門里親の資質向上を目指す支援のための実践モデル. 一M−D&Dによる開発的研究. 要. 旨. 本研究の目的(第1章)は、被虐待児等の養育を担う専門里親の資質向上を目指す 支援のための実践モデルを研究開発することである。この実践モデルは、広範囲かっ. 効率的な普及を考慮し、ICT(Information&Communications Techno1ogy;情報通 信技術)を活用したウェブサイト型とする。. 専門里親制度が創設された背景には、虐待を受ける子どもの増加で施設は定員いっ ぱいの状況となっており、施設に代わる場として里親が注目されたこと、そして、里 親という家庭的養育が被虐待児のケアに関し個別的なかかわりや愛着形成を実現しや すいと考えられたことがある。被虐待児の個別的なケアには、被虐待児の二一ズの特 殊性などから、専門的に訓練を受け資格をもつ里親が必要と考えられた(庄司、2001; 橋本、2002)。しかしながら、わが国の里親制度の変遷を鑑みると、そこには、里親制 度にあるべき理念の脆弱さ、里親支援における実績のとぼしさと、里親支援に関する実証. 的な研究、とくに、養育里親をとらえた研究の不足といった問題が横たわっている(第3 章)。それゆえ、各自治体や里親の関係機関・団体が専門里親としての人材を養成する、. あるいは専門里親となろうとする人びとが自らその資質を高めるために、専門里親支 援における問題点や課題、専門里親の二一ズに関する調査研究を行い、それに適合す ると考えられる理論的根拠をもった効果的、効率的な専門里親支援のための実践モデ. ルを開発する必要がここにある。これに関する本研究の意義については、 the Counci1on S㏄ia1Work Education(CSWE)が示すソーシャルワークの4つの目標 (purposes)にしたがって整理している(第1章第3節)。. 本研究の方法には、芝野(2002a)が提唱した、社会福祉における実践モデルと実. 践マニュアルを開発するための実践モデル「修正D&D」(Mod過ed Design and Deve1opment:以下、M−D&D)を用いた(第2章)。M−D&Dは、4つのフェーズか ら成り立っている。以下、本論文はこの4つのフェーズに沿った形で構成、展開され ている。. フェーズI r問題の把握と分析」では、人びとの二一ズや問題を把握し、その重要 性あるいはそうした二一ズが満たされ問題が解決されることが利用者のウェルビーイ ングに大きく貢献するかどうかを調査する。本研究では、上記にあるように、本研究 の背景をより深く掘り下げ、里親制度にみる問題を分析し、専門里親に対する支援のだ i.
(3) 専門里親の資質向上を目指す支援のための実践モデル. 一M−D&Dによる開発的研究 めの実践モデル(「専門里親支援モデル」)を開発する必要性について説いた(第3章)。. まず、わが国や諸外国の里親制度の動向、日本の里親制度下での運用や里親に対する 支援の取り組み、里親制度にみる問題・課題あるいは提言をなす論文や研究報告書、. 里親委託の実態、里親に対する支援・研修の実態や事例研究等の調査研究の文献研究. を行った。そして、里親制度にみる問題・二一ズや課題を、1.里親制度の変遷から みる理念の脆弱さ、2.社会的養護における専門里親制度に求められる理念、3.里親 支援における実績のとぼしさ、4.里親支援に関する研究の不足の4点に整理している。. フェーズI「叩き台のデザイン」では、開発しようとする実践モデルの叩き台をつ くる。それには、①フェーズIを通じ問題や二一ズを把握し分析する際に行った作業 を、選択された問題や二一ズに焦点を絞ってより丁寧に行い、実践モデルのなかで示 されねばならない要件を明らかにする。そして、②その問題を解決する、あるいはそ の二一ズを満たす援助方法・技術やサービスの有無と、それに関わる実践理論や応用 可能な実践モデル、適用可能な実践マニュアルなどの調査を行うことによって、③新. たな実践モデルやマニュアルの叩き台を創りだす。本研究のフェーズIでは、①2002 年の里親制度改正時にはまだ存在しない専門里親にとっての、里子の養育に関する支 援二一ズを検討することを目的に、里親に対する質問紙調査を実施し、専門里親支援 モデルに必要な要素について分析・考察を行った(第4章)。そして、②わが国あるい. は欧米諸国での里親支援に関する実践理論、実践モデルや援助方法・技術について調 べ、③それらを踏まえ、実践モデルのデザインを考案し、専門里親支援モデルの叩き 台をつくった(第5章)。. フェーズ皿「試行と改良」では、叩き台を実際に試行し、評価する作業をくり返し 行い(イテレーション)、その実践モデルや実践マニュアルを精錬させていく。叩き台. としての実践モデルや実践マニュアルを実際に用い、それが活用されるプロセスをモ ニターしながら活用上の問題点等を明らかにし、クライエントの問題の解決や二一ズ を満たすことができたかどうかについて、結果の評価(アウトカム評価)も行う。本 研究では、叩き台専門里親支援モデルのうち、開発を優先して行った学習ツールに関 する試行とその評価を行った(第6章)。里親、里親支援の専門職者と大学生に対し、. インターネットを通しての個別の試行であった。学習ツールの有効性については、里 親対象者と大学生の事前と事後のアセスメントの変化(同じ質問項目で構成して作成した アセスメント・シートを用いた)を下検定によりみた。また、学習ツールの実用性につい ii.
(4) 専門里親の資質向上を目指す支援のための実践モデル. 一M−D&Dによる開発的研究 で、「実用性アンケート」(学習ツールのサイトやモジュールの実用性に関するユーザーの 主観的評価)の量的評価と質的評価を行った。. 事前事後アセスメントの変化に大きな効果は確認できなかったものの、実用性アンケー トでは、内容の豊富さ・量や、モジュールの構成と、それに準じる【ワーク】・【解説】な. どで、おおむね良い評価が得られた。多くの知識を得ることができ、専門里親について体 系的に構成された学習ツールの重要性を認識する評価、自分の(時間的)都合や目的に合 わせて使うことができるとの評価や、客観的に自己をふり返り、見つめ直しながら、それ に応じて学習ができるという評価は、本学習ツールの意図した目的と学習方法の工夫や効 用に合致する肯定的評価である。学習ツールの改良点については、実用性アンケートにあ る学習ツールの改善点や他に知りたいこと、取り上げてほしいことであげられた内容をも とに検討した。改良点は、(1)物理的・精神的な負担の軽減、(2)【ワーク】→【評価】. →【解説】の動作、(3)理解を助けるための工夫、(4)学習目的・方法の案内、(5)付 加すべきコンテンツとして整理し、考察した。. 最終段階のフェーズlV「普及と銚え」では、開発した実践モデルや実践マニュアル を現場の多くの人びとに知ってもらい、利用可能な新たな資源として採用してもらう. ように宣伝し、普及させていくこととなる。宣伝方法としては、学会発表や専門誌へ の論文掲載、新聞紙などのマスメディアの活用や、ワークショップの開催などを通し て広報することができる。パンフレット等を作成する場合には、対象とする問題、具 体的な援助手続きやサービスの内容、利用できる場所や利用方法といったことを簡潔 にわかりやすく伝える工夫が必要である。また、社会福祉の現場で採用してもらうた めには、それぞれの現場の事情に合わせて実施しやすくなるように現場スタッフと協 力し合って改良を加える、すなわち銚え(tai1ored)を行うのである。. 本研究は、現在フェーズ皿の段階にあるため、本論文では、このフェーズについて. は今後の課題として取りあげている。また、M−D&Dのプロセスに沿って専門里親支 援モデルの開発的研究について全体の考察を行っている(第7章)。. iii.
(5) 目. 次 ・・・・・・… @. 第1章研究目的・その背景と研究意義 第1節 第2節. 本研究の目的 ・・…. 1. ..・..’’....’’’’’’.’’’...1. 本研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・… 1.児童虐待の増加とその受け皿. ..’’.’’....2. 2.専門里親制度について 3.里親委託の現状 第3節. 本研究の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 5. 注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 7. 第2章研究方法. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. @ 9. 第1節. 本研究の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 9. 第2節. 本研究のプロセス ∼M−D&Dのプロセスに沿って ・・・・・・・・・… 10 1.M−1)&Dプロセスと本研究のプロセス 2.プロセティック・アプローチ. 第3節. D&D(デザイン・アンド・ディベロップメント)の必要性 ・・・・… 14 1.ソーシャルワーク・リサーチの変遷. 2.D&D(デザイン・アンド・ディベロップメント)の出現 第4節. M−D&Dモデルに影響を与えた理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・… 18 1.ソーシャルワーク実践の視座となる理論 (1) ライフ・モデル (2) 岡村理論. 2.オペラント行動理論のパラダイム (1)行動療法の紹介と実践への適用 (2)補綴的環境をつくり出すパラダイム. (3)Go1diamondのダイアグラム. 3.ThomasのDR&UとD&D 4.まとめ. 第3章フェーズI:問題の把握と分析. ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …. 28. 第1節. 里親制度の変遷からみる理念の脆弱さ ・・・・・・・・・・・・・・・… 28. 第2節. 社会的養護における専門里親制度に求められる理念 ・・・・・・・・・… 31 1.日本の社会的養護の動向と方向性 2.家庭的養育への世界的潮流 3.里親制度に求められる理念. 第3節. 里親支援における実績のとぼしさ ・・・・・・・・・・・・・・・・・… 38. 第4節. 里親支援に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 40. 1.わが国における里親支援に関する研究の不足 2.欧米における里親業への動機づけ研究について 注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 43.
(6) 第4章フェーズI:叩き台のデザイン 一調査 ・・・・・・・・・・・・・… 45 第1節. 里親に対する里子の養育支援二一ズに関する調査研究 ・・・・・・・・… 45. 1.調査の目的 2.調査方法 (1)質問紙の作成 (2)調査対象 (3)実施方法 (4)分析方法 第2節. 「専門里親潜在性」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 49 1.回収率と回答者の属性 2.「専門里親潜在性」の分析. 第3節 「専門里親潜在性」にもとづく分析∼クロス集計・π2検定から ・・・… 53 1.養育上困ったこと 2.困ったときに活用した資源 3.里子の養育に必要・役立つ制度・サービス 4.養育の価値観 第4節 「専門里親潜在性」にもとづく分析∼重回帰分析・判別分析から ・・… 57 1.探索的因子分析の結果 2.重回帰分析の結果 3.判別分析の結果 第5節. 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 62 1.「専門里親潜在性」にみる里子の養育上の困難性 2.社会的養育の価値の重要性 3.里子の養育過程で起こりうる困難への対応 4.社会資源の活用 5.本調査に関連する課題. 注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…69. 第5章フェーズI:叩き台のデザイン 一専門里親支援モデルの叩き合デザイン ・70 第1節 第2節. 里親支援における実践理論・実践モデルと研修プログラム ・・・・・・… 70 叩き合モデルのデザイン ・・・・・・・・・・…. ..’’’’’.’.・75. 1.実践の対象 2.実践の意義 3.拠って立つ理論 (1)プロセティック・アプローチ (2)情報行動論 4.援助の手続き (1)学習ツール (2)社会資源ツール (3)ソーシャルサポート・ツール. 5.処遇効果 注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…92.
(7) 第6章フェーズ皿:試行と改良 第1節. 一学習ツールの試行と改良 ・・・・・・・… 94. 試行方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 94 1.対象者. 2.実施方法 3.評価方法 第2節. 試行評価の結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 97 1.評価対象者 2.アセスメントのpre−postの変化 3.「実用性アンケート」量的分析 4.「実用性アンケート」質的分析 (1)ウェブサイト・各モジュールの良い点 (2)ウェブサイト・各モジュールの改善点 (3)他知りたいこと. 第3節. 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 104. 1.学習ツールの有用性 2.学習ツールの改良点 (1)物理的・精神的な負担の軽減 (2)【ワーク】→【評価】→【解説】の動作 (3)理解を助けるための工夫 (4)学習目的・方法の案内 (5)付加すべきコンテンツ. 注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 111. 第7章全体の考察 第1節 第2節. 第3節. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ・ ・ ・ ・ ・ ・ …. 112. フェーズI「問題の把握と分析」を通して ・・・・・・・・・・・・… 112 フェーズI r叩き台のデザイン」を通して ・・・・・・・・・・・・… 113 1.叩き台専門里親支援モデルの創出において 2.実践モデルの評価方法について (1)「環境」をどのようにとらえるか (2)事例研究法の可能性 (3)「子どもの最善の利益」のエビデンスを求めて フェーズ皿「試行と改良」を通して ・・・・・・・・・・・・・・・… 118 1.治療的・教育的プログラムの少なさ. 2.ICTの進展にともなって 第4節. フェーズW「普及と訴え」に向けて ・・・・・・・・・・・・・・・・… 121. 第5節. まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 125. 注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… .・… 126. 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・… ............。...128. 資料.
(8) 第1章 第1章 研究目的・その背景と研究意義. 第1節 本研究の目的 本研究の目的は、被虐待児等の養育を担う専門里親の資質向上を目指す支援のための実 践モデルを研究開発することである。. 専門里親制度は、2002年9月「里親の認定等に関する省令」および「里親が行う養育 に関する最低基準」の公布により、里親制度が大幅に改定された際創設された里親の一種 で、虐待等により心身に有害な影響を受けた子どもを養育する里親である。. わが国では従来要保護児童の保護と養育は児童福祉施設が主に担ってきており、里親制. 度が根づいてこなかった背景がある(第3章第2節で詳説)。また、里親制度が特別養子 縁組注1)を主流として活用されてきた(飯田、1998)ために、親の代替として一時的に子. どもの養育を担う本来の里親(以下、養育里親)とその里子に関する研究がほとんどなさ. れてはこなかった(第3章第3節・第4節で詳説)。こうした経緯からしてみれば、専門 里親制度はとくにその運用面において下地になる実績をほとんど有しておらず、どのよう な研修や支援をどのように提供すべきかが客観的に検討されないままスタートしたことに なる。先の省令と最低基準の公布とともに、「里親制度の運営について」「専門里親研修制. 度の運営について」「里親支援事業の実施について」等の厚生労働省雇用均等・児童家庭局 長通知が出されてはいるものの、これらは運用の枠組みを示したにすぎない。. そこで、各自治体や里親の関係機関・団体が専門里親としての人材を養成する、あるい は専門里親となろうとする人びとが自らその資質を高めるために、専門里親支援における 問題点や課題、専門里親の二一ズに関する調査研究を行い、それに適合すると考えられる 理論的根拠をもった効果的、効率的な専門里親支援のための実践モデルを開発する。これ は、ソーシャルワーク実践の果たすべき役割のうち、専門里親が身につけるべき知識や技 術、情報を教示したり提供したりする教育的役割や、情報の普及の役割、それを通じ専門 里親自らが自身の里子の養育過程で生じる二一ズを明らかにし、その二一ズを満たすべく 学習したり社会資源を得ることによって養育上の困難に対処する能力を高めるイネーブル. の役割(Zastrow,1985;Hepworthら、1997など)を指向するものである。多数の自治 体あるいは里親へ直接広く提供していくために、また、里親となる人が増えるよう社会へ. 認知、啓発していくためにも、ICT(Inbmation&Communications此。hno1ogy;情報 通信技術)を活用したウェブサイト型のソフトウェアでインターネットを通して提供でき るものとし、その有効性を評価しながら普及させていくことを目指す。. 1.
(9) 第1章 第2節 本研究の背景 庄司(2001)と橋本(2002)は、専門里親制度が創設された理由や背景についてふれて いる。一つは、虐待を受ける子どもの増加で、施設は定員いっぱいの状況となっており、. 施設に代わる場として里親が注目されたことである。二つ目に、被虐待児のケアに関し個 別的なかかわりや愛着形成が重要であるとの見識が普遍的になってきているが、里親とい う家庭的養育はそれを実現しやすいと考えられたことがある。その場合、被虐待児の個別 的なケアには、被虐待児の二一ズの特殊性などから、専門的に訓練を受け資格をもつ里親 が必要と考えられた。このほか、専門里親制度の導入によって里親制度全体を見直し、活 性化を図ろうとする政策上のねらいもあった。. 以下、本研究の背景として、次の3点について概説する。. 1.児童虐待の増加とその受け皿 全国の児童相談所における児童虐待相談処理件数(厚生労働省雇用均等・児童家庭局、 2002)をみると、児童虐待防止法(「児童虐待の防止等に関する法律」)が施行される前の. 1999年度では11,631件の相談処理件数が、専門里親制度創設の前年2001年度には23,274. 件と、わずか2年間で倍増している。そのうち、児童養護施設等の児童福祉施設に入所し た被虐待児数は2,857件に対し、里親等への委託は149件であった。. 要保護児童全体の処遇でも、専門里親制度創設年度の2003年2月1日現在、要保護児 童38,318人のうち児童養護施設に措置された子どもは30,416人、乳児院3,023人に対し、. 里親へ委託された子どもは2,454人である(厚生労働省雇用均等・児童家庭局、2004)。. 2001年度新たに入所した児童に占める被虐待児の割合は、乳児院新規入所児童2,897人の うち23.6%、児童養護施設新規入所児童7,424人のうち52.2%という報告もある(社会保. 障審議会児童部会、2003)。さらに、2001年度の施設の定員充足率をみると、乳児院では 全国115ヶ所、定員3,687人のところ、入所数3,152人で定員充足率は85.5%、児童養護. 施設全国550ヶ所、定員33,725人のところ、30,456人の入所数となっており、定員充足 率は実に9α3%である。福岡市99.0%をはじめ、横浜市、仙台市、東京都、大阪府など大 都市ほど定員いっぱいの状態となっている。. これらのデータから、施設へ入所している子どもに占める被虐待児の割合の高さと、満 杯状態となっている施設の入所状況がみてとれる。このように、わが国での要保護児童に 対する社会的養護注2)の受け皿は施設養護が中心であり、数の上だけでも施設では対応し きれない状況になっていることがわかる。児童福祉法において児童福祉施設と併記され(第.
(10) 第1章 27条)、社会的養護の一形態として位置づけられている里親制度を活性化させ、要保護児 童の受け皿を確保していこうとする必要性がここにある。. 2.専門里親制度について 専門里親とは、要保護児童のなかでも、とくに児童虐待等の行為により心身に有害な影 響を受けた子どもを養育する里親である。2002年の里親制度の改正で、「養育里親」(従来 の里親)」「短期里親」に加え、「親族里親」とともに新設された。専門里親となるのは、①. 養育里親名簿に登録されている者であって、養育里親として3年以上の委託児童の養育経 験のある者、②3年以上児童福祉事業に従事した者注3)であって都道府県知事が適当と認 めた者、③都道府県知事が①及び②に該当する者と同等の能力を有すると認定した者であ る。また、認定を受けるためには専門里親の研修を修了しなければならない。その研修注4). は、「養育の本質・目的及び対象の理解に関する科目」(8科目)と「科目の内容及び方法 の理解に関する科目」(4科目)を3か月以上かけて通信教育とスクーリング(面接授業) で学び、「養育実習」(児童福祉施設において7日間)を受けることとなっている。. 「里親が行う養育に関する最低基準」には、次のようなことが定められている。里親が 行う養育の目的は、委託児童の自主性を尊重し、基本的な生活習贋を確立するとともに、. 豊かな人間性及び社会性を養い、委託児童の自立を支援することである。そのために、自 治体が行う研修を受け、里親としての資質向上を図るよう努めなければならない。専門里. 親に同時に委託される児童数は2人までであり、2年以内の養育期間を原則として子ども の委託を受ける。ただし、都道府県知事が委託児童やその親、児童相談所からの意見を勘 案し必要と認める場合は期間を更新できる。再委託には、委託児童を他の者に委託するこ とが適当と認められる場合以外は他の者に委託してはならないという制限がある。児童相 談所が委託児童、その親、里親の意見を聴いて作成する養育計画に従い、里親は委託児童 の養育にあたり、養育状況の記録を整え定期的に報告する。児童相談所や委託児童の通う 学校、その他の関係機関と密に連携をとりながら委託児童の養育を行い、委託児童の家庭 環境の調整にも協力していくこととなる。. このように、専門里親が里親制度の趣旨や専門里親の役割を担うにあたり、関係機関と 連携しながら委託児童の家庭環境の調整に努め養育計画を遂行していくためには、かなり レベルの高い資質が要求されるであろう。逆にいえば、そのような専門里親を育成してい かねばならないということである。また、委託児童の養育過程においてさまざまな支援体 制を整えていくことが不可欠となる。. 3.
(11) 第1章 3.里親委託の現状 里親制度が改正される2002年までの里親委託の状況(表1−1)を概観する。 わが国の里親委託は、1960年代前半をピークに年々減少する傾向にあった(全国里親会、. 2007)。1960(昭和35)年度には、登録里親数19,022人、委託里親数7,751人、委託児 童数8,737人であったが、1975(昭和50)年度にはそれぞれの数も半減した。それ以降 は漸減傾向であったものの、里親制度改正前の2001年度には、登録里親数7,372人、委 託里親数1,729人、委託児童数2,211人で、登録里親における委託里親の割合は、23.5%. となっている。しかしながら、登録里親のなかには、子どもの委託を受けすでに申請目的 を達成していたり、高齢になったり、自分の親の介護等の生活状況の変化などにより、今 後新たに子どもの委託を受ける意思がない里親が約40%あるとの調査結果がある(庄司・ 益田・谷口ほか、1999)。公表されている登録里親数は、実際に受託できる里親の数を反 映しているとはいえず、実際にはより活用されていることになると推察される。 表1・1登録里親、児童委託里親、委託児童の推移 登録里親数(A). 1950(昭和25年) 1955(昭和30年) 1960(昭和35年) 1965(昭和40年) 1970(昭和45年) 1975(昭和50年) 1980(昭和55年) 1985(昭和60年) 1990(平成2年) 1995(平成7年) 2000(平成12年) 2001(平成13年) 2002(平成14年). 7,429 16,200 19,022 18,230 13,621 10,230 8,933 8,659 8,046 8,059 7,403 7,372 7,161. 委託里親数(B). 委託児童数. 4,859 8,283 7,751 6,090 4,075 3,225 2,646 2,627 2,312 1,940 1,699 1,729 1,873. 5,488. 111 8,737 9,. 6,909 4,729 3,851 3,. 188. 3,322 3,006 2,377 2,. 157. 2,211 2,. 517. B/A(%). 65. 51. 40. 33. 29. 31. 29. 30. 28. 24. 23. 23. 26;. 4 1. 8. 4 9 5 6 3 7 1. 0 5 2. 全国里親会(2007)p.3より抜粋. また、わが国では、里親制度のなかに特別養子縁組の手続きが内含されており、里親に は本来の養育里親と、養子縁組を前提とした里親(以下、養子里親)が混在していた注5)。. 里親になるためには居住地の児童相談所に申し込むことになるので、里親数の把握は各児. 童相談所によるが、網野・柏女・宮本ほか(1999)の調査では、養育里親と養子里親を 区別していない自治体が半数近くにのぼっていた。1996年度の登録里親の状況からは、新 規登録里親のうち80%程が養子縁組希望であり、希望する委託児童は引き取りの可能性の ない乳幼児という傾向が浮かびあがった(岩崎・櫻井、1999)。. 4.
(12) 第1章 これらのことから、里親の数自体が多くないばかりか、養子里親の方が相当多く、養育 里親の占める割合が小さいことがわかる。櫻井(1997)は、子どもを養子として育てるの か、社会的養育として子育てするのかでは、対象となる子どももその子育でもまったく異 なってくることを指摘している。しかしながら、養育里親と養子里親を区別せず里親制度 を運用している児童相談所も多いなか、個々の委託児童の二一ズ、里親の二一ズに応じた 適切な支援が行われてきたのかについて疑問がうかぶ。数の上からだけではなく、これま での支援の現状等詳細に分析してみる必要があるものの、少なくとも養育里親の支援に豊 富な実績を重ねてきたとは言い難い。親のいる子どもの多い被虐待児等の養育を担う専門 里親となれば、専門里親ならではの二一ズに応じる支援モデルが必要であろう。. 第3節本研究の意義 本研究は、前節の背景にあるような点を踏まえ、各自治体や里親の関係機関・団体が専 門里親としての人材を養成する、あるいは専門里親となろうとする人びとが自らその資質 を高めるための、効果的、効率的な専門里親支援の実践モデルを開発する先駆的な試みで ある。インターネットを通じウェブサイトの形で提供する方法は、多くの里親関係機関・. 団体や里親自身に有効なソフトウェアを提供する効率的な方法として期待される。しかし ながら、このような開発的研究はきわめて少なく、基礎から検証までの系統立った研究が 必要とされている。. Hepworthら(1997)は、the Counci1on S㏄ia1WorkEducation(CSWE)が示すソーシャル ワークの4つの目標(pu叩。ses)をあげている。ここでは、それに従い本研究の総体的な意 義を整理してみたい。. ①個人、家族、集団、組織や地域が資源を活用し、困窮を防ぎ緩和したり、課題を遂行す ることを援助することにより、社会的機能を促進、回復、維持、向上させる. 本研究で開発する専門里親支援のための実践モデルは、まさに専門里親の資質向上を図 るものであり、それは専門里親となる前の事前研修だけではなく、委託児童の養育をする なかで困難に直面した時など養育過程を通じ活用できるものである。冒頭でソーシャルワ ーク実践の果たすべき役割から示したように、専門里親が身につけるべき知識や技術、情 報を教示したり提供したりすることにより、専門里親自らが自身の里子の養育過程で生じ る二一ズを明らかにし、その二一ズを満たすべく学習したり社会資源を得ることによって 養育上の困難に対処する能力を高めることを指向する。. 5.
(13) 第1章 さらに、第2章で詳述するが、本研究の研究手法として用いるM’D&Dモデルにあるプ ロセティック・アプローチは、里親に委託される被虐待児等の子どもを取り巻く重要な環 境の一つ、実親の代替として里子を養育する専門里親に焦点をあて、彼らの専門里親とし ての資質を向上させることにより、里子を支える環境を整える。専門里親という里子の環 境からの働きを通じて、里子のウェルビーイングを実現させようとするのである。専門里 親が里子の成長発達をうながし、里子の実家庭への復帰あるいは家族再統合への支援を行 うことで、ひいては里子の、里子の実家庭の社会的機能をも回復させることにつながるこ とが期待されるのである。. ②人の基本的二一ズを満たし、人の能力の発達を支えるために必要とされる社会政策、サ ービス、資源やプログラムを計画、整備し、実施する 第3章で詳述するように、里親支援に関する研究や実績はわが国ではとぽしく、被虐待 児等特別な配慮を要する子どもを養育する専門里親に何が必要か、その二一ズも明らかに されてはいない。また、彼らに必要とされるサービスや資源も不十分で、研修プログラム も系統立てられてはおらず、彼らに対する支援は体系化されていない’膚況がある。ゆえに、. 本研究がM−D&Dによる開発的研究手法をとり、専門里親支援のための実践モデルを開発 していく意義がここにある。M−D&Dの手続きは、問題の把握からはじまり、実践モデル のデザイン、試行と改良、そして普及というフェーズからなる。開発された専門里親支援 のための実践モデルを里親関係機関・団体が現場で使用する際には、その組織に所属する 専門里親らの二一ズに応じて、あるいは研修等で意図する目的に応じて、実践モデルを活 用することとなる。そのためには、開発された実践モデルのテイラー・メード化(銚え) が必要となるが、普及段階では、このr銚え」の作業も含まれている。. ③リスクのある集団をエンパワーし、社会的経済的公正を促進するために、組織あるいは アドミニストレーションを通じたアドボカシーやソーシャルアクションにより、政策、. サービス、資源やプログラムを追求する 子ども虐待に関するこれまでの研究には、大別すると、虐待対応の初期段階に関するものと、. ケースマネージメントに関するものがある。前者では、虐待の重症度や危険度を判断し、子ど もの保護を決定するための有効なリスクアセスメント指標を導き出す研究(たとえば加藤、 2001)や、市町村における児童虐待防止ネットワークを構築するための研究(たとえば加藤・. 才村・安部ほか、2001)がある。後者では、虐待ケースに対応するためのケースマネージメ ントの手続きを開発する研究(芝野、2001)などがある。その一方で、被虐待児の成長発達に. 6.
(14) 第1章 関する研究や成長発達のために必要な専門的援助に関する研究はまだ少なく、近年になって取 り組まれはじめたところである。とくに、本研究のような開発的研究手法の里親支援への援用. は、わが国ではほとんど見あたらない。実践手続きとその効果が示される開発的研究は、専門 職に課せられたアカウンタビリティに耐えうるものであり、本研究の成果は増加する子ども虐 待の対応施策にも貢献していくことができるであろう。. ④上記これらの目標に関連する専門職の知識や技術をテストし、発展させる M−D&Dは、実践理論から実践モデルを演繹し、その実践から得られた結果を実践理論に 帰納させるサイクルをもつ。上述したように、試行と改良を経て開発された実践モデルは、. 実施する機関等の諸事情に合わせ誹えを加えながら実地で使用される。また、どこでも誰 でもその実践モデルを用いることができるように、実践モデルをより具体的に、段取りや 手続き等を専門的知識や技術を含め示した実践マニュアルを作成する。本研究では、ICTを. 導入することで実践モデルを使用した際のデータが蓄積され、必要な時に評価できる仕組 みをつくる。実践モデル自体の評価に加え、ある実施機関が銚えたモデルをどのように利 用しているか等の利用状況、その実用性における評価を行うなどして、実践モデルの有用 性が確かめられ、実践理論の検証に役立てることができる。このような取り組みを通じ、. 開発された実践モデルは精錬され、専門里親の資質向上に役立つとともに里子の社会的機 能回復に貢献し、専門里親支援の一社会資源として普及させることが期待されるのである。. 注. 1)特別養子縁組とは、民法(第817条の2一策817条の11)において、実親による養育 よりも養親による養育が子どもの福祉にとって有益であると認められる場合に、実親と の関係を断絶し、原則縁組不解消の形態をとるという、もっぱら子どもの利益を図るた. めの養子縁組制度である。1987年に制定され、6歳未満の子どもに適用される。 2)庄司(2003:18−19)は、社会が用意した、生来の家庭に代わる養育として制度化さ れた仕組みを「社会的養護」とし、その体系を家庭的養護(里親、養子縁組)と施設養 護(乳児院、児童養護施設などの養育系の入所施設)に大別している。 3)「児童福祉事業に従事した者」の具体例としては、(ア)福祉関係(児童自立支援専門. 員、児童指導員、保育士、児童福祉司、社会福祉士、精神保健福祉士、心理判定員)、 (イ)保健・医療関係(医師、保健師、助産師、看護師)、(ウ)教育関係(教員)、(工). 司法・矯正関係(家庭裁判所調査官、少年院教官)の資格等をもって児童の福祉に関す. 7.
(15) 第1章 る事業に従事した者となっている。 4)「養育の本質・目的及び対象の理解に関する科目」は、講義形式であり、社会福祉概論、. 児童福祉論、地域福祉諭、養育家庭論、発達臨床心理学、社会福祉援助技術論、養護原 理、医学(精神医学を含む)の8科目が指定されている。「科目の内容及び方法の理解 に関する科目」は、講義形式と演習形式の併用で、児童虐待論、思春期問題援助論、家 族援助論、専門里親演習の4科目である。「養育実習」は、児童福祉法に規定する児童 相談所、乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設、または児童自立支援施設に おいて、7日間行うこととなっている。. 5)特別養子縁組は、児童相談所がその斡旋と養親としての適合判断を行い、6ヶ月以上 の試験養育期間を経て家庭裁判所の審判により成立する。そこで、児童相談所に里親と して申請し、認定・登録を経て里親として養子候補児童の試験養育期間をもつ仕組みと なっている。. 2008年の児童福祉法の一部改正により、養子縁組によって養子とすることを希望して 認定を受ける里親として「養子縁組を前提とした里親」が設けられ、「養育里親」と区 刑された。. 8.
(16) 第2章 第2章 研究方法 第1節 本研究の方法 専門里親の資質向上を目指す支援のための実践モデルの開発を目的とする本研究では、. 社会福祉における実践モデルと実践マニュアルを開発するための実践モデルである「修正 D&D」(Modj五ed Design and Deve1opment:以下、M−1)&D)を用いる。M・D&Dは、. ミシガン大学のThomas(1978;1984)が提唱したDR&U(Deve1opmenta1Rese趾。hand Ut皿zation)と、のちに発展したD&D(Design and Deve1opment)にもとづき、芝野 (2002a)が自身のそれまでの開発的調査研究における経験を加えて修正した研究開発の モデルである。. 実践モデルとは、「絞り込んだ対象者や対象問題に対する社会福祉実践の理論的背景と意 義を説明し、ある程度具体的な実践方法を解説したもの」(芝野、2002a:41)であり、実 践マニュアルとは、「対象がいっそう限定され、それに対応するための明細な援助手続きが、. ステップ・バイ・ステップの形で示される」ガイドである(芝野、2002a:46)。. このモデルを本研究に適用する理由が3つある。一つは、M−D&Dが社会福祉固有の機 能の一つである開発的機能(岡村、1983)を具現化するモデルであるからである。前章で ふれたように、専門里親制度が新設され、それを担う専門里親に対する支援モデルが必要 である一方で、これまでの里親制度にはその研究や実績がとぼしいという実情がある。こ れは、岡村(1983)のいう「社会制度の欠陥」にあたり、これを社会福祉の「開発的機能」. により、二一ズに応ずる新たな社会資源を開発したり、あるいは既存の社会資源の不具合 を改善したりすることで解決していくのである。M・D&Dはそれを可能にする。二つ目に、. M−1)&Dは、研究者のみならず実践家が、各実践現場で使用可能な、かつ個々の援助に役 立つ実践モデルを現場で開発できることを目的としていることがある(芝野、2005a)。そ. れは、リサーチをもとに実践をおこない、実践においてリサーチを実施してその結果を実. 践に反映する、というサイクルによる。M・D&Dは実践とリサーチをつないだモデルなの である。最後に、M−D&Dのリサーチと実践の循環は、社会福祉領域において社会福祉学 の実践理論から実践モデルを演繹し、その実践から得られた結果を実践理論に帰納させる サイクル(芝野、2002a)を意味する。M−1)&Dが、根拠(エビデンス)にもとづく実践. (E枇enceBasedPractice:EBP)を実現させ、社会福祉専門職としてのアカウンタビリ ティを果たすことに貢献するモデルであることがあげられる(原・芝野、2006)。. 9.
(17) 第2章 第2節 本研究のプロセス ∼M−D&Dのプロセスに沿って 本研究で用いるM−D&Dは、4つのフェーズから成り立っている(図2・1)。以下、芝野. (2002a)をもとに、4つのフェーズの内容と本研究のプロセスを示す。また、M−D&D を社会福祉実践のモデルとして特徴づける「プロセティック・アプローチ」について、概 説する。表2・1は、本研究のプロセスと本論文の構成との対照表である。本研究は、現在 このプロセスのフェーズ皿までが行われている。. 図2・1M・D&Dのプロセス イテレーション. フェーズ皿. フェーズIV’. 言斯了と改良. 普及と訪え. 芝野(2002a)p.132の図をもとに作成. 1.M−D&Dプロセスと本研究のプロセス 表2−1研究のプロセスと論文の構成. 論文の構成. 研究のプロセス. 第1章研究目的・その背景と研究意義. 第2章研究方法 フェーズI:問題の把握と分析. フェーズ1I:叩き台のデザイン. 第3章 文献研究. 第4章調査 第5章 専門里親支援モデルの叩き合デザイン. フェーズ皿:試行と改良. u u (フェーズ】V:普及と誹え). 第6章学習ツールの言斯了と改良. 第7章全体の考察 第1節フェーズI r問題の把握と分析」を通して. 第2節フェーズ■r叩き台のデザイン」を通して 第3節フェーズ㎜「言桁と改良」を通して 第4節フェーズ1V暗及と銚え」に向けて. 1O.
(18) 第2章. ■フェーズI「問題の把握と分析」:. フェーズIでは、人びとの二一ズや問題を把握し、その重要性あるいはそうした二一ズ が満たされ問題が解決されることが、利用者のウェルビーイングに大きく貢献するかどう かを調査する。日ごろの実践やアカデミックな領域での研究活動を通じ入手している情報 から抱く素朴な疑問は、二一ズや問題を見いだし、新たな実践モデルを構築するきっかけ となりうる。この「問題の把握と分析」のフェーズでは、そのようにして、ある程度絞り. 込まれた二一ズや問題をより詳しくアセスメントし分析するのである。ここでのポイント は、人と環境との一体性において人の潜在的な適応能力を補綴する仕組み、すなわちプロ セティックな仕組みが環境の中にあるのかどうかをとらえることである。調査の方法とし ては、法則定立型(nomothetic)の調査、個性記述型(idiographic)の調査、あるいは文 献調査が用いられる。. 本研究では、わが国や諸外国の里親制度の動向や、日本の里親制度下での運用、里親に 対する支援の取り組みに関する文献研究から、専門里親に対する支援のための実践モデル (以下、専門里親支援モデル)を開発する必要性について説いた。これまでの里親制度に みる問題・課題や提言をなす論文、報告書などや、里親委託の実態、里親に対する支援・ 研修の実態や事例研究等の調査研究から、その問題と二一ズを整理した。 ■フェーズ■「叩き台のデザイン」:. フェーズ■では、開発しようとする実践モデルの叩き台をつくる。それには、①フェー. ズIを通じ問題や二一ズを把握し分析する際に行った作業を、選択された問題や二一ズに 焦点を絞ってより丁寧に行い、実践モデルのなかで示されねばならない要件を明らかにす る。そして、②その問題を解決する、あるいはその二一ズを満たす援助方法・技術やサー ビスの有無と、それに関わる実践理論や応用可能な実践モデル、適用可能な実践マニュア ルなどの調査を行うことによって、③新たな実践モデルやマニュアルの叩き台を創りだす。. 本研究では、①フェーズIを通じ得た知見と情報の分析から、2002年の里親改正時には まだ存在しない専門里親にとっての、里子の養育に関する支援二一ズを検討することを目 的に、里親に対する質問紙調査を実施した。専門里親になる可能性(「専門里親潜在性」). における分析から、専門里親支援モデルに必要な要素について考察を行った。そして、② わが国あるいは欧米諸国での里親支援に関する実践理論、実践モデルや援助方法・技術に ついて調べ、③それらを踏まえ、実践モデルのデザインを考案し、叩き台をつくった。 11.
(19) 第2章 ■フェーズ皿「試行と改良」. フェーズ皿では、叩き台を実際に試行し、評価する作業をくり返し行い、その実践モデ ルや実践マニュアルを精錬させていく。叩き台としての実践モデルや実践マニュアルを実 際に用い、それが活用されるプロセスをモニターしながら活用上の問題点等を明らかにす る。また、結果(アウトカム)として、クライエントの問題の解決や二一ズを満たすこと. ができたかどうかについても評価する。ここで注意すべきは、プロセス評価(process eVa1uation)やアウトカム評価(outCome eVa1uation)が厳密になりすぎないようにする. ことである。なぜなら厳密、詳細なリサーチ・デザインはタイム・コンシューミンクであ り、これに時間や費用を費やしすぎると叩き台の改良が前に進まなくなる恐れがあるから である(芝野、2004b)。むしろ、プロセス評価とアウトカム評価を通じて叩き台に改良を. 加え、こうして改良したものを再実施、再評価し、改良するという作業をくり返す(これ を「イテレーション」と呼ぶ)。これが創出のプロセスの本質であり、イテレーションを通 じ実践モデルや実践マニュアルを精錬させていくのである。. 本研究では、叩き台専門里親支援モデルのうち、開発を優先して行った学習ツールに関 する試行とその評価を行った。里親関係機関・団体の集会や広報紙等を通じ、試行に協力 してくれる里親、里親支援の専門職者(児童相談所や里親関係機関のケースワーカー、児 童福祉施設職員など)と、一般の人びとを想定した大学生を募り、インターネットを通し て個別に試行した。そして、学習ツールの有効性と実用性について評価を行い、改良点に ついて検討した。. ■フェーズw「普及と誹え」:. 最終段階フェーズ1Vでは、開発した実践モデルや実践マニュアルを現場の多くの人びと に知ってもらい、利用可能な新たな資源として採用してもらうように宣伝し、普及させて いくこととなる。宣伝方法としては、学会発表や専門誌への論文掲載、新聞紙などのマス メディアの活用や、ワークショップの開催などを通して広報することができる。パンフレ ット等を作成する場合には、対象とする問題、具体的な援助手続きやサービスの内容、利 用できる場所や利用方法といったことを簡潔にわかりやすく伝える工夫が必要である。ま た、社会福祉の現場で採用してもらうためには、それぞれの現場の事情に合わせて実施し やすくなるように現場スタッフと協力し合って改良を加える、すなわち銚え(tajユ。red) を行う。. 12.
(20) 第2章 本研究は、現在フェーズ皿の段階にあるため、本論文では、このフェーズについては今 後の課題として取りあげる。. これら4つのフェーズは、図の上ではIからIVまで順をなしているが、それぞれは重な りながら並行してすすめなければならないことも実際には起こってくる。また、図のイテ レーションが示しているように循環してすすむところもある。前のフェーズの後につづく フェーズの間を行きつ戻りつしながら開発はすすめられていく。. なお、この研究にあたっては、平成15(2003)年度から平成17(2005)年度の3年間 にわたり、文部科学研究費(日本学術振興会)萌芽研究『被虐待児のケアと育成を担う専 門里親の二一ズ把握とIT活用支援プログラムの研究開発』(主任研究者:関西学院大学社 会学部・芝野松次郎教授)を受け、主に、フェーズ■①の里親に対する質問紙調査、②③ の専門里親支援モデルの叩き台づくりと、フェーズ皿の叩き台専門里親支援モデルの試行 を実施した。. 2.プロセティック・アプローチ 図2・1にも示されているプロセティック・アプローチとは、芝野(2002a)が自身のオ ペラント行動理論をもとにした開発的研究を通じ、帰納的に見いだした理論である。それ は、M−D&Dを社会福祉実践として特徴づける要となる理論である。「人の成長過程におい. てはぐくまれるべき問題解決(適応)能力すなわち「コンビテンス」を高めるために、オ ペラントのパラダイムに基づくプロセティック関係をプログラムすることによって、プロ セティック環境を創り出すアプローチ」(p.97)と定義されている。. プロセティックとは、「補綴的」という意味で、「損なわれた身体の一部を補うためによ. って失われた機能(あるいは本来あるべき機能)を取り戻すために義足や義手、義歯とい った器具を用いて行う治療法や治療学を示す」(芝野、2002a:材)。芝野(2002a)は、「人. が問題解決行動としてあらわす問題解決の力は、環境によって高められることもあれば、 弱められることもある」(p.v)という視点を、人の生活上の問題を扱う社会福祉の援助対. 象としてとらえる際の基本的枠組みと置き、人を取り巻く環境をオペラント行動理論の行 動原則に反映させた。そして、「人の中に潜在する本来の能力(ポテンシャル)を引き出し、. 人の問題解決能力を高めようとする際に、補綴的(プロセティック)な働きをする要素」 (p.v)として、とらえなおしている。それからすると、人の行動上の問題に対する処遇 においても、「いったん環境の変化により失われた(ように見えるが、潜在化しており実際. には失われていない)人の行動あるいは能力をうまく引き出す環境、すなわち補綴的(プ 13.
(21) 第2革 ロセティック)環境を用意することによって取り戻すことができる」「さらに、失われた能. 力や行動だけではなくまだ十分に発揮されていない能力や行動を、それを補綴する環境を 整えることによって取り戻したり発揮させたりできる」(p.vi)と考えられるのである。. 定義にあるオペラントのパラダイムにもとづく「プロセティック関係」とは、行動が生. 起する前にある先行事象(弁別刺激)、行動、行動を起こした後の結果事象の3要素間の 関係(三項随伴性)をさす。そこで、人の成長過程においてはぐくまれるべき問題解決(適. 応)能力すなわち「コンビテンス」を高めるために、その結果事象を意図的に操作し、行 動と弁別刺激・結果事象との間にある随伴の仕組みを変える。こうすることにより、失わ れていたと思われている、あるいは十分に学習する機会のなかった好ましい行動を出現さ せるような環境を創りだすのである。そのような環境がプロセティック環境であり、その アプローチがプロセティック・アプローチなのである。「割る」との表現には、想像力と創 造性、さらに芸術性(artiStiC SenSe)の必要性と、「専門職の感性と裁量を重視し、創造 性と想像力に富む比較的自由な援助活動を尊ぶ」(p.104)意味が含まれている。. 第3節 D&D(デザイン・アンド・ディベロップメント)の必要性 本研究にM−D&Dを適用する理由でもふれたように、M−D&Dはリサーチと実践をむす びつけ、実践家にとっても現場で活用できる実証的研究の手法、実践モデル開発のための モデルである。実践理論や実践モデルと実践を演繹的に、そして帰納的にと循環させるこ とにより、実践理論や実践モデルを発展させ、また実践を効果あるものへと発展させる。 このことについて、ソーシャルワーク・リサーチの変遷からその意味を深めてみたい。. 1.ソーシャルワーク・リサーチの変遷 ソーシャルワーク領域で科学性を明確に打ち出したのは、ソーシャルワークの先駆者で. ある1920年代のM.リッチモンドである(芝野、2004a)。M.リッチモンドがいうソーシ ャルワークの科学性とは、徹底した情報の収集と分析をさし、「人」と「環境」の結ひっき (交互作用:tranSaCtiOn)を理解することであった。この時代にも、ソーシャルワーカー. の働きかけの影響や効果に関する評価も意図されていたのではあるが、それは処遇と結果 の因果律を体系的に立証しうるような「科学的」なものとはいえなかった(岡本、1982)。. ソーシャルワーク実践において評価や効果測定に力が入れはじめられたのは、1940年代 からである。ダラーズらによるr困窮・救済尺度」(Distress肋1iefQuotient:DRQ)、 それをもとに最終的にはケースワークの処遇測定方法として発展したハントとコーガンの. 14.
(22) 第2章 r移動尺度方式」(Movement Scaユe)や、コーガンのr追随研究」(b■ow up study)な どの手法があみ出された(岡本、1982)。さらに、1950年代には、「実験計画法」(c1assica1. exper㎞enta1design)が出現した。武田(1965)は、DRQや移動尺度方式の妥当性の危 うさ、処遇プロセスはみることができない点、家族ケースワークには適用できない点を指 摘し、実験計画法については対象者や治療のコントロールの難しさを指摘している。そし て、ソーシャルワーク・リサーチは「未だ探索的な段階exp1oratorystageにあり、仮説を 生み出すための調査を行う段階にある」(武田、1965:74)と述べている。ソーシャルワ ーク・リサーチに対し研究者と実践家の位置づけに感じる差異から、調査研究において何 が効果測定の基準になりうるのか、誰の価値観に従って考えるのかという疑問を呈した。 純科学的調査も実践面に役立ち、応用実践的調査も理論に貢献しうる両輪のものであり、. リサーチの過程はいずれの場合も同じでなくてはならないこと、そして、計画、実施、分 析、意味づけの過程を通して、たえず現場の実践家の参加を求めながら行われる必要があ ることを主張した。また、中本(1959)も、効果測定の価値と意義について、単なる現状 分析にとどまらず、現状の欠陥、不十分さなど効果の上がらない理由を追究し、有効な対 策や現状の改善にポジティブに活用する方向性を模索することを提案している。. 1960年代の後半からは、アイゼンクによる心理療法の効果に対する批判がその後の心理 療法に大きな影響を与えたのと同様に、あるいはその反響を受けて、ソーシャルワーク実 践においても効果への疑問が投げかけられ、より効果的なソーシャルワーク実践を目指す 動きが起こる(武田、1965;芝野、1984a)。Per1man(1967)は‘‘Caseworkisdea吐’’ と警告を発し、‘‘CanCaseworkWork?’’とその問題点を明らかにしようとした(PerIman, 1968)。これに応ずる形でFischer(1973)は‘‘Iscaseworke脆。tive?’’と問いただして いる。. このころ処遇の有効性や効果的処遇方法あるいは介入プロセスの評価と発見のために、 「メタ・アナリシス」(Meta・Ana1ysis)や集団比較実験計画法、「グリッド・モデル」(Grid. Mode1)などが考案された。しかし、それらは課題解決的な実践知識や技術を生成すると いうよりは、問題を理解する知識をうみだすにとどまっていた(芝野、1986)。このよう に、厳密な調査手法による効果測定が重視されるのであるが、多くの批判を受け、調査と. 実践の乖離が顕現しはじめた(小松、1983;芝野、1986;2004a)。それは、調査方法が 現場で活用するには不適当である、調査の専門家によりなされる調査結果は実践家がふれ る機会も少なく実践改善に十分に役立てられない、実践家にとっては日常なされている個 15.
(23) 第2章 別的な援助活動とは必ずしも結びつかず、意味がないとみなされ、そのために調査に反発 するきらいがあった、というようなことである。 その一方で、専門職としてのソーシャルワークを確立するための試みもなされた(平山、 1976;北島、1985;芝野、2004a)。一方では、ソーシャルワーク実践の方法論を統合し、. その共通基盤を明らかにしようとする試みが起こった。他方では、伝統的なアフローチヘ の批判(芝野、1984a)を受けて訴えられた短期処遇の必要性から、行動療法や危機介入、. 課題中心アプローチなど、さまざまな理論的基盤をもった新たな実践理論や介入方法が創 出された。平山(1976)は、方法論の統合に長い年月を費やすこととなっている要因とし て、精神分析学を一例に、ソーシャルワークが他の学問領域から理論をみさかいなく借り てきたこと、調査への反発から理論と実践の吟味と確認に調査研究を活用しなかったこと、 理論よりは経験を重んじたことをあげている。. こうした背景から、ソーシャルワーク実践における知識と方法・技術を導く理論の必要 性が唱えられた。そして、実践に有効な技術及び知識をうみだしうる調査を実践にとり入 れる、あるいは、調査研究によって確認された知識を実践に応用するという、リサーチと 実践の統合が求められるようになった(Fischer,1978;Austin,1978;平山、1976)。. 2.D&D(デザイン・アンド・ディベロップメント)の出現 前項でみてきたように、ソーシャルワークの歴史においても早期からソーシャルワーク 実践の効果に対する関心は高く、それを実証しようとする努力はなされてきた。そのなか で、効果測定や評価を実践に活かす視点や、実践とリサーチの連携あるいは統合の重要性 が指摘されてきた。しかしながら、それを実現させる手立てという点ではさまざまな不備 や不便があり苦しんできた背景があったわけである。. このような求めを受け、1970年代末になって、Fischer(1978)は、クライエントの社. 会的な機能に適切な変化を起こしうるような手続きを開発する必要性を、同様にM㎜en (1978)は実践に役立つ有効な援助技術の開発と蓄積の必要性を説いた。さらに、Thomas (1978)は、工学分野では人びとの二一ズを満たすための新たな技術を研究開発すること. があたりまえとなっていることを取りあげ、ソーシャルワークにも新しい有効なテクノロ. ジーの創造、イノベーションの過程が必要であることを訴えた。そして、開発的研究 (Deve1opmentaユResearch)の概念とそのモデル「開発的研究とその活用(Deve1opmenta1. Research and Its U舳zation:DR&U)」を提唱したのである。このような開発的研究の. 試みが他の研究者によってもなされている。Thomas(1978)のDR&Uは、「問題の選択・ 16.
(24) 第2章 分析」、「援助手続きの開発」、「援助手続きの試行・評価」、「援助手続きの宣伝・普及」と、. r採用・実施」という5つの段階のプロセスを提案した。B1oom(1975)は、知識にあた る「情報」、具体的援助活動を示す「専門的行為」と「評価」の3つの構成要素間の関係 を形成した「科学的実践」を提示している。Duehn(1981)は、「問題の確認、明確化と 特定化」、「問題解決の方法の選択」、「実行」と「評価と普及」のサイクルからなる問題解. 決のプロセスを考案している。なかでもThomasのモデルは、「全体としてやや曖昧なと ころもあるが、テクノロジーの開発とその普及の全過程に均等に注意が払われ、今日で最 も優れたモデルである」と、芝野(1984a:70)が評価しているものである。そして、「こ. のようなモデルの出現は、プラクティショナーが調査の単なるコンシューマーでなく自ら 調査を実践で行うことの重要性を訴えるばかりでなく、それが実際可能であることを示唆 している」(芝野、1983:41)と、その有用性を強調している。. 佐藤(2008)は、1970年代を『実証性の価値発見時代』と呼んでいるが、1980年代に 入り、その水脈は「より確かな」「根拠にもとづく」実践の試行へとむすびついたとされる。. そのような流れのなかで、Thomas(1984)は、新たな援助技術を「デザイン」するとい. う新しい概念を考案する。DR&Uのプロセスと各フェーズの手順をより詳細に示し、 「D&D」(Design&Deve1opment:「デザイン・アンド・ディベロップメント」)として. 体系化した。1990年代には、Rothmanとともに、北6θ㎜肋。”肋θθ〃〃刀θ虹騨刎ゴ. 刀θ㎎伽㎜θ皿C危”肋㎜伽86m㎞θを刊行している(Rothman&Thomas,1994)。 Rothman(1997)のいう「介入研究」(IntemntionResearch)とは、ヒューマンサービ スにおける専門職の介入行動に関する実証的研究をともない、介入のプロセスや文脈に関 する知識の獲得を含んだ、介入の基本的な方法やツールの創造と開発に焦点をあてるもの. である。そして、介入研究の3つの側面として、①知識の開発、②知識の活用と、③D&D. をあげているが、そのなかでもD&Dを最も重要視している。なぜなら、D&Dのために は知識の開発も知識の活用も必要なのであり、その意味で「介入研究イコールD&D」と とらえられるからである(佐藤、2010)。. もう一方で、介入研究には、社会問題改善のための援助サービス・プログラムの開発と. その評価研究も含まれるとのとらえ方もある(Sh皿ng,1997)。佐藤(2010)は、後者 についても、サービス・プログラムの実施の際には実践方法の開発が含まれてくることか. ら、これもD&Dとして広く解釈している。近年、根拠にもとづく実践(EBP)の全盛期. ともいわれているが、介入研究およびD&Dの発展とともに、D&Dは「まさに実践のだ 17.
(25) 第2章 めのエビデンス創出方法」(佐藤、2010:135)として期待されている。. 第4節 M・D&Dに影響を与えた理論 ここでは、芝野のこれまでの研究経緯を踏まえ、M−D&Dモデルの礎となった理論や概 念について一つひとつ整理していくことにより、M−1)&Dモデルの理論的根拠について理. 解を図りたい。そこで、芝野および芝野グループの文献とそれに関する主要な文献のレビ ューを行った。M−D&Dは、芝野自身の開発的研究における経験とその成果から帰納的に. 開発した実践モデルである。よって、彼らの研究経緯を詳細にたどっていくことは、 M−D&Dの基盤となっている理論の背景とM・D&Dモデノ哨咄の生成過程を知る機会とな り、それら理論を用いる根拠を把握することにつながる。また、彼らの手がけた開発的研 究の報告は、本研究をすすめていくにあたって大いに参考となるものであり、有益な模範 となる。. 1.ソーシャルワーク実践の視座となる理論 (1)ライフ・モデソレ. 芝野がソーシャルワーク実践の視座として据える理論に、GemajmとGitterman(1996) のライフ・モデルがある(芝野、2000;2001;2002aなど)。Germ虹nとGitterman(1996). は、人と環境とその交互作用という3つの概念からソーシャルワーク実践をとらえる基本 的枠組みを示し、人の環境への適応力とストレスヘの対処能力(コーピング:coping)と、. その力をはぐくむこともあれば損なうこともある環境との交互作用において、人の成長と 発達を説明している。個人の適応能力とその人と環境の交互作用を把握し、人の適応能力 と環境のはぐくむ力を高めるよう働きかけることがソーシャルワーク実践であると示した。. ライフ・モデルでは、人が成長と発達の過程において生じる課題を遂行しようとする能 力(コンビテンス)を高めるために、環境のなかに存在するさまざまな資源を包括的に活 用する。その関係は、生態学のキーワードである「ニッチ」(niche:「適所」)の概念でと. らえることができる(芝野、1998;2002a)。人は、環境にある資源を活用しながら自分 を環境に合わせたり、環境に働きかけ自分に合うように環境を変化させたり、自分に合う 環境を求めて移動したりすることによって環境にうまく適応して生きていく力をもってい る。環境、とくに人との関係を中心とした社会的環境は、資源の提供と引きかえに人に対 していろいろな役割遂行を求めてくる。その人の適応能力と環境からの役割期待が一致す る状況が「ニッチ」であり、「ニッチ」を得ることにより人はいきいきと生活することがで. 18.
(26) 第2章 きるのである。GemainとGittemanのいうソーシャルワーク実践の、個人の適応能力 と環境のはぐくむ力を高める働きかけというのは、いいかえればニッチの育成を援助する ことなのである。. このソーシャルワーク実践の視点から、芝野は自身の子ども家庭福祉における研究の焦 点を、子どもの環境にある親、家族あるいは子どもを支援する専門職に置き、それぞれの 子どもにとってのはぐくむ環境を整える研究を行っている。子ども家庭福祉において①エ コロジーの視点、②コンビテンスの視点、③成長・発達の視点、④パーマネンシーの視点 を柱とするPecoraら(1994)の「ファミリー中心児童福祉」(血mi1y−centeredchi1awe血are). の理論と実践を拠り所に、親を対象とした研究では、グループ・ペアレント・トレーニン. グを(神戸市総合児童センター、1990;1992;1994;1996;2000など)、専門職者を対 象としたものとしては子ども虐待対応のためのケース・マネジメント・マニュアルや(芝 野、2001;2002a)、児童養護施設の早期家庭復帰援助プログラム(遠藤・芝野、1998) などの開発的研究を展開している。. (2)岡村理論. ライフ・モデルと同様、人と環境の視点をもつわが国で「唯一独自性のある社会福祉実 践理論」(芝野、2002a:血)であると芝野が評価している理論に、岡村理論(岡村、1957;. 1963;1983)がある。岡村は、人の社会生活における基本的要求とそれを充たす社会制度 との関係(社会関係)の上から、そこに生じる問題の解決を援助することに、ソーシャル ワーク実践の固有の働きがあるととらえ、社会福祉固有の機能を明らかにしている。岡村 (1984)がさす「機能」とは、「一定の目的を実現するための活動」である。「社会福祉の 機能」という場合、それは、「「社会関係の主体的側面」の実現」という目的に導かれて「社. 会関係の困難という社会福祉の対象に働きかける」こと、具体的には「社会関係の障害を もつ個人、家族、集団、地域社会、生活関連施策の機関、専門家に向かって働きかける」 (p.11小115)ことを意味している。人の生活を、個人と、その環境としての制度とのダイ. ナミックな関係による営みととらえる岡村の理論は、まさに「人と環境の交互作用」とい うエコロジカルな視点と合致するのである。. 芝野(2005b)は、岡村のいう社会福祉固有の機能のなかでも、ソーシャルワークの役 割を演緯する上で重要な機能として「評価的機能」「調整的機能」「送致的機能」と「開発. 的機能」をあげている。前者3つを合わせて人と環境の接点(person’en吐。nment inte雌aCe)で生じる問題の解決をマネージする「人と環境のインターフェイス・マネジメ 19.
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