本研究では、M−D&Dモデルを用い、その手続きにしたがって専門里親支援モデルの開 発を行ってきた。文献研究と探索的調査を通じ、専門里親にあるであろう養育支援二一ズ
を見いだした上で、プロセティック・アプローチや情報行動論の理論を基盤に専門里親支 援モデルの叩き台を創った。現在、フェーズ皿においてこのモデルの3つのツールを順次
プロダクトし、その有効性を検証しながらモデルの完成を目指している。
この最終章では、ここまでの専門里親支援モデルの開発的研究をフェーズごとにふり返 る。M−D&Dによる実証的実践モデル開発研究に関し、その意義とともに、その過程での 研究上の困難や問題点を含め、考察していくこととする。
第1節 フエーズI「問題の把握と分析」を通して
フェーズIは、人びとの二一ズや問題を把握、分析し、そのような二一ズが満たされ問 題解決することが利用者のウェルビーイングに貢献するかどうかについて検討する段階で ある。実践現場から、あるいは学術的な研究活動を通じ疑問に感じていることなどが、研 究が必要とされる問題を見いだすきっかけとなる(芝野、2002a)。本研究においても、被 虐待児の処遇について、児童福祉施設の現況を鑑み、保護されている子どものウェルビー イングのあり方を考えると、そうあるべきなのであろうか、こうあるべきなのではなかろ うかといった疑問がうかんでくる。フェーズIでは、 こうあるべきなのではないだろうか を出発点として、里親制度に関し、里親制度が果たしてきた役割やその運用状況等につい て何が問題となっているのか、を把握する作業を行なった。そこから見えてきたのは、里 親制度における理念の脆弱さとそれが起因となっているであろう運用の弱さ、そして里親 に関する研究の不足であり、新たに制度化された専門里親にとっての支援に関する研究の 必要性が明らかにされた。
またそのような作業は、 こうあるべき の姿を、あらためて認識する機会となる。被虐 待児のウェルビーイングのあり方とそれを支える専門里親制度のあり方にまつわり、子ど も家庭福祉の理念と専門里親制度にあるべき理念を確認した。それは、子どもの成長にと って家庭が大切ということ、そして、被虐待児には愛着形成をつくる特定の大人の存在が 必要であり、終局的には子どもの実親との家族再統合を目指して、里親が実親の代替とな りその子どもの養育を担うということである。芝野(1999)は、人の尊厳を信じ思いやる 態度「コンパッション」というソーシャルワークの原動力(Pump㎞ey,1960)について
述べている注1)。そして、M−D&Dのプロセスに「社会福祉の心を吹き込む」(芝野、2002a:
131)ともいう。渡部(2009)も同様、ソーシャルワークとは何を使命とし何のために存 在するのかという、ソーシャルワーク固有の使命と価値・倫理の上にソーシャルワーク研 究がなければならないことを主張している。社会福祉制度や所属組織の掲げる目的とソー シャルワーカーが果たすべき使命、価値・倫理とがぶつかり合いジレンマを引き起こすこ とを無視してはならない、無視して社会福祉制度や組織が掲げるゴールのもとに研究を行 うことは、真の意味でのソーシャルワーク研究ではない。渡部(2009)の主張は、ソーシ ャルワーク実践の壁とその研究への警鐘なのである。M−D&DのフェーズIには、このソ ーシャルワーク実践と研究の大前提であるソーシャルワークの使命、価値や倫理を確認、
あるいは再認識するという作業があると考える。
第2節 フェーズI r叩き台のデザイン」を通して 1.叩き台専門里親支援モデルの創出において
フェーズIでは、フェーズIを通じ選択された問題や二一ズに焦点を絞ってさらにくわ しく調査を行い、実践モデルのなかで示されねばならない要件を明らかにする。本研究で は、フェーズIの問題の把握と分析の結果から、専門里親がどのように里子を養育してい くかにあたっての支援には、充分な実績がなく、支援の内容や方法等には根拠がないこと が示された。そこで、専門里親の養育支援二一ズを明らかにするためのさらなる調査を実 施した。専門里親制度が新たな制度であり、調査段階では認定登録した専門里親が存在し ていない時期であったため、「専門里親潜在性」を探索した上での調査を行った。調査対象 者においても近畿圏の里親となっているゆえに、その結果の一般化には限界はある。しか
しながら、そこから、「社会的養育者としての貢献に対する二一ズ」にみる社会的養育の価 値を専門里親が身につける重要性、「学童期・思春期の問題に対応する二一ズ」「自身と里 子を含む家族内外のストレスに対応する二一ズ」「里子の実親とのかかわりに対応する二一 ズ」といった里子の養育過程で起こりうる困難に対応する必要性と、「里親制度を通して得 る相談・情報・理解の二一ズ」「関連領域・インフォーマルな社会資源から得る相談・情報・
理解の二一ズ」「児童福祉施設・機関から得る相談・情報・理解の二一ズ」という社会資源 を活用する必要性、が見いだされた。
この結果と里親支援に関する実践モデルや援助方法等の先行研究の分析を手がかりに、
プロセティック・アプローチと情報行動論の理論を基盤として、専門里親支援モデルの叩
き台を創った。既存のモデルとの相違をいえば、叩き台専門里親支援モデルのなかの社会 資源ツールは、British Co1umbia FederationofFosterP趾entAssociationのプロジェク
ト(Titte㎡皿敏。n,1990)が意図したような、里親にとって最も有効な資源をみつける仕 組みなのであるが、専門里親潜在性による養育支援二一ズの探索的調査研究と情報行動論 の援用により、より根拠のあるものとなった。また、森(2002)の里子の委託前と委託中 というような時間枠をもったモデルに対し、叩き台専門里親支援モデルは、里親(ユーザ ー)それぞれの状況や好みに対応できる、より個別性のあるモデルになったといえる。人 と環境の交互作用の視点に加え情報行動論の視点から、各里親(ユーザー)の知覚してい る状況のなかで、彼らの(情報)二一ズは何かをガイドし、各里親(ユーザー)が必要な 資源を選択して状況に活かすというものとなった。
2.実践モデルの評価方法について
(1)「環境」をどのようにとらえるか
本研究では、処遇効果をどのように測るかについて、独自に作成したアセスメント・シ ートを用いた。モデルの使用前と処遇効果をみる時点との変化により、養育支援二一ズの 生じる状況が解消緩和されているか、内部情報のギャップが解消緩和されているかの検証 を行おうとした。また、実用性アンケートにより、モデル全体あるいはあるモジュールの 構造や内容の適確さを分析することで、専門里親が直面している状況において生じている 内部情報のギャップの「橋渡し」の仕組みを評価しようとした。しかしながら、
芝野(2002a)のいうプロセティック・アプローチはオペラント行動理論をもとにしてお り、処遇効果で重視するのは結果事象である。すなわち、行動と関連して生じる観測可能 な環境の変化なのである。このことからすると、アセスメント・シートは里親(ユーザー)
がどのように自身の状況をとらえているかという主観をとり扱うものであり、行動上の変 化をみるものではない。行動上の変化をみるものとしては、学習ツールのモジュール内に 置かれている家族関係尺度やストレス対処行動尺度を用いる可能性について、示唆してい るところである。
人と環境の一体性の視点のもと、芝野(2002a)も、結果事象である行動上の変化を、
環境の変化の一側面ととらえている。津田(2003)は、行動の変化は援助の一過程と理解 するべきとの見解に立ち、行動が変わることによってクライエントの生活がどのように変 化したかが重要である、と述べている。人と環境の双方に焦点を置くソーシャルワーク実 践において、人が経験する環境的要素を考慮に入れたアセスメント、要するに、クライエ
ソトにとっての環境の意味を明らかにすることが重要なのである(横山、2004)。今日の 根拠(エビデンス)にもとづくソーシャルワーク(E洲enc伴BasedSociaユWork:EBSW)
には、実証的証拠だけでなく、クライエントの社会、家族環境や好み、価値観や期待を根 拠の一つに含める立場も出現しはじめた(秋山、2005;佐藤、2008)。にもかかわらず、
r人」を中心に考えられてきたソーシャルワーク実践と比較して、r環境」を重要視するソ ーシャルワーク実践は、そのアセスメントと介入方法において発展途上の段階にあるとい われている(横山、2004)。とすれば、本研究で作成したアセスメント・シートは、妥当 性や信頼性の検出を行い、精度を高める必要もあるのであるが、このような情報行動論の 見地に立った、人がどのように環境をみているかにおける評価も一つの試みとしてとらえ てもよいのではないだろうか。
(2)事例研究法の可能性
(1)の問題に加え、情報行動論の立場からすると、専門里親潜在性における養育支援 二一ズの調査研究においても、叩き台専門里親支援モデルの評価に用いるアセスメント・
シートについても、専門里親がどのような状況にある時にギャップを感じ、そのギャップ を埋めるためにどのような資源を求め、実際にどのような資源を利用して状況に対応した のか、解決したのかということについては解明できない。昨今、実証的研究において、量 的研究手法と質的研究手法を互いに補うものとして、量的研究手法も質的研究手法も、帰 納的研究、演線的研究にとらわれず、どちらにも活用していくことが奨励されている(渡 部、2009;大瀧、2009;藤井、2004:高橋、2002など)。そうすることにより、帰納的 研究と演線的研究を循環的に行っていくのである。そのなかでも、芝野(2002a)や渡部
(2009)が、実践家のもつ強みを生かした研究法として、単一事例実験デザインとともに 着目している研究法に、事例研究法がある。事例研究法はプロセス評価も可能とする利点 をもつ。事例調査では、④状況が改善されたときの具体的なクライエントの状態や行動、
⑤目標を達成するために遂行されなければならない課題とその遂行状況を記録する方法、
そして◎目標に記載されたクライエントの行動を観察、記録する方法を定める目標設定を 行う。それにしたがって経過観察を行い、記録した内容をレビューしながら、定められた 目標がどの程度満たされたのかを評価する、という手続きを踏む(芝野、2001)。専門里親 支援モデルでも、上述した情報行動論の枠組みをとり入れた記述内容と方法を反映させた 記録システムをつくり、プロセス評価やアウトカム評価双方に用いることも、検討してい くべきである。専門里親支援モデルにおける事例研究法の構築は、将来的には、児童相談