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シュレーディンガーによって提唱された 時計仕掛け仮説の熱力学的検討

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シュレーディンガーによって提唱された 時計仕掛け仮説の熱力学的検討

       

¾¼¼¿

¿

月  

早稲田大学大学院理工学研究科 物理学及応用物理学専攻

理論生物学研究

塩 満  栄 司

(2)

目 次

第 章 序章

本研究の背景

本研究の目的

本論文の構成

章 熱機関の論理

単に二つの物体を接触させるだけでは外部になす仕事が得られない

なぜ作業物体にサイクリックな状態変化を行なわせるか

章 シュレーディンガーの「歯車」の論理

化学物質・エネルギー・エントロピーの一方向性の流れに対する基

本方程式とその必要条件

最大仕事とエクセルギー

章 シュレーディンガーの「歯車」のなす具体的径路

三つの示量変数がそれぞれ二つの値を取りうる 成分開放系 の 循環的状態変化の径路のグラフ理論による整理

(3)

示量・示強両変数の微小変化の間に成り立つ関係式の「理想溶液近

似」に基づく導出

基本的有向閉路 に沿った状態変化を具体的に考えた場合での シュレーディンガー不等式の必要条件の導出

のなす不可逆サイクルが 内に引き起こす一方向性の分子・エ

ネルギー・エントロピーの移動

について得られた結論は総ての について当てはまる

章 概日時計の「時計仕掛け」構造

不可逆サイクルと体内時計

概日時計の分子機構

概日時計の一般的性質・所在

時計遺伝子

と協同する時計遺伝子

転写を活性化する時計遺伝子 及び

光同調のメカニズム

光同調の生理機構

光同調の分子機構

概日時計の光受容分子

光受容サイクルが存在する筈である

連結された二つの不可逆サイクルにおけるエントロピーの流れ

連結された三つの不可逆サイクルの場合

(4)

幾つかの不可逆サイクルが連結されている一般的な場合 章 「時計仕掛け」機構に対する今後の研究課題

「時計仕掛け」機構に対する本研究の物理学的成果

当該機構に対する今後の物理学的研究課題

謝辞

参考文献

研究業績

(5)

第 章 序章

本研究の背景

年,シュレーディンガーは「生命とは何か−物理的に見た生細胞−」とい う著作を出版し,その中で分子生物学の建設について,次のような三つの戦略の 必要性・意義を説いた

遺伝子の実体を究明し,それに基づいて遺伝の仕組みを説明すること;

「生物は負エントロピーを食べて生きている」という観点に立って,生体系 の構成要素である諸不可逆系の秩序性を把握すること;

生体系全体の秩序性は,「時計仕掛け」の機構によって支えられているもの と考えられるので,その是非を検証すること.

言うまでもなく,提言 については,その影響を強く受けたウイルキンズ・ク リック・ワトソン,モノー・ジャコブ・ルウォフ,およびデルブリュック・ルリ ア・ハーシェイたちが,それぞれ 年度, 年度,および 年度のノー ベル生理医学賞を受賞した.また,提言 については,ブリルアンが「負エ ントロピー」と情報量との密接な関係に注目して,「負エントロピー」概念を重視 する彼独自の情報理論を作り上げた.しかし,鈴木らが以前に指摘したように,

(6)

「生物は負エントロピーを食べて生きている」と言ったシュレーディンガーの真意 は,次のことをあくまでも逆説的に強調する所にあったのである: 細胞中の物質・

エネルギーの代謝系は,巧妙なエントロピー伝達機構を備えており,「その外部に 放出されるエントロピー が,その内部に吸収されるエントロピー を上 回る」ように仕組まれているので,その状態はあたかも「負エントロピー状態」で あるかのように見える :

周知のように,熱機関では,このような状態にある作業物体が,不可逆サイクル をなして外部に仕事を行なっている.

さて,本研究で検討される提言 の「時計仕掛け」仮説は,「生体の最も著しい 特徴は,それが秩序から秩序への原理に基づいている所にある」(前記の著書「生 命とは何か」の第七章 節を見よ),という考え方に基づいて立論されたもので ある.いま,その合理性を理解するために,一つの生体系を構成している数多く の不可逆系が,すべて「負エントロピー状態」にある(即ち の条件を満足し ている)ものとすれば,その生体系には「秩序から秩序への機構」が確かに備わっ ていることになる.しかも,これらの不可逆系が,熱機関の場合と同様に,「不可 逆サイクル」をなすものとすれば,それらは「物理的時計仕掛け」の「歯車」に相 当するものであるから,この「秩序から秩序への機構」は,まさに「時計仕掛け」

の体系を成すものと言える.つまり,提言 の「時計仕掛け」仮説は,提言 の「負エントロピー」概念から,自動的に導かれる合理的な結論と考えられるの である.

(7)

本研究の目的

本研究の目的は, の不等式(鈴木らはこれをシュレーディンガー不等式と 呼んで来た )が,生体系での物質・エネルギー・エントロピーの一方向性移動に 対する基本方程式と考えられることや,その必要条件が「不可逆サイクル系」の 存在であることなどを,ある必要最小限のモデルおよび開放系の熱力学に基づい て証明し,上記のようなシュレーディンガーの「時計仕掛け」仮説の妥当性を,理 論的に把握することである.更に,生命の本質とも言える「概日リズム」に注目 して,今後その機構を物理学的に把握するためにはシュレーディンガーの「時計 仕掛け」仮説の伸展が不可欠であることや,この伸展のためには本研究の理論が 今後どのように拡張されねばならぬかということを,明確に説明することである.

本論文の構成

この目的のために,本論文は六つの章から構成されている.第 章では,実際 に生体系の検討に入るに先立って,その基盤となる熱機関の論理を概観する.ま ず,単に二つの物体を接触させるだけでは,外部に対してなす仕事が得られない ことを考察して,なぜ熱機関では高温熱源と低温熱源との間に作業物体が介在し なければならないか,その理由を明らかにする.次に, と全く同一の形式・

内容をもつクラウジウスの不等式が,熱機関におけるエントロピー・エネルギー の一方向性移動に対する基本方程式であること,しかもその必要条件が作業物体 のなす不可逆サイクル(即ちサイクリックな不可逆的状態変化)であることを,簡 潔に説明する.即ち,熱機関中の作業物体 が温度 の高温熱源 からエント

(8)

ロピー (従って熱量 )を吸収して始動し,温度 の低温熱源 に不等式 を満たすエントロピー (従って熱量 ) を放出して,自らが再び始めの状態に戻るならば,残りの熱量 はこの エントロピー移動に便乗して,外部への仕事 に円滑に転化されるのである.

このような,熱機関中の作業物体の役割は,「負エントロピー」を食べて作動す るシュレーディンガーの「歯車」が一種の「不可逆サイクル系」であることを,強 く示唆するものである.そこで第 章では,まず生体系の構成要素である諸「不 可逆系」が次の二つの点において,熱機関中の作業物体と根本的に異なることに 注意する:

これらの「不可逆系」では,エネルギー・エントロピーのやり取りのみなら ず,化学物質の出入りもある;

生体系には,熱機関の高温熱源・低温熱源に相当するものが全く存在せず,

その体系を構成する諸「不可逆系」がほぼ一定の温度や圧力を維持している.

次に,三つの 成分系 からなる孤立系 を想定して,その構成分子 と同一のものが外部から へ準静的に流入するものとし,この流入によって 内に引き起こされる分子・エネルギー・エントロピーの一方向性の流れに注目す る.そして,この流れを開放系の熱力学に基づいて定式化し,その基本方程式が シュレーディンガー不等式 であること,しかもその必要条件が のなす不 可逆サイクルであることを,明らかにする.さらに,不等式 を満足する「不 可逆サイクル系」が,シュレーディンガーの提唱した「負エントロピーを食べて作

(9)

動する歯車」に相当していること,従ってこのような「不可逆サイクル系」から構 成される体系が,「時計仕掛け」の構造をもつと言えること,などに注意して,彼 の「時計仕掛け」仮説の妥当性を確認する.また, が任意の不可逆的状態変化 を行なう場合, のなす最大仕事の大きさがエクセルギーの変化と密接に関連し ており,ギブズ自由エネルギーの変化とは「似而非者」であることを,指摘する.

章の議論では,1 成分開放系 のなす状態変化の具体的な道筋について,

何一つ触れられていない.そこで第 章では,まず が三つの示量変数(モル数

,体積 およびエントロピー)を持つものとし,かつそれらがそれぞれ二つ の値を取ると仮定して, が行なうサイクリックな状態変化の径路を,グラフ理 論に基づいて整理する.そして,その必要最小限の基本的径路が,独立な六つの 状態を巡る,ストロークの有向閉路であることを示す.次に, における微小な エントロピー変化 などを具体的に論ずるために,「理想溶液近似」に従って,

微小な示量・示強両変数変化の間の関係式を導く.そして,微小な示量変数変化 が例えばほぼ の順序で起こるようなストロークの開路・閉路に 注目し,シュレーディンガー不等式の必要条件が のなす不可逆サイクルである こと,またこの不可逆サイクルによって, とその環境体 との間に,一 方向性の分子・エネルギー・エントロピーの移動が引き起こされることを,具体 的かつ一般的に明らかにする.

章では,概日時計の分子機構に対する従来の研究成果を概観して,「光受容 サイクル」の導入が必要であることを,まず考察する.また,概日時計の諸機能が それぞれ特定の不可逆サイクルによって担われている可能性や,それらが適当に

(10)

連携しながら「光受容サイクル」に連結していなければならない状況などを,簡 潔に説明する.そして次に,このような概日時計の「時計仕掛け」構造を定式化 するために,シュレーディンガー不等式を満たす不可逆サイクルが幾つか連結さ れている場合を取り上げ,この連結系全体についてもシュレーディンガー不等式 が確かに成り立つことを,一般的に証明する.

最後に,第章では,まず本研究の成果を要約する.次に,「時計仕掛け」機構 の論理を物理学的に把握するためには,本研究の理論が今後どのように拡張され ねばならぬかを熟慮して,その方針を明確に述べる.

(11)

章 熱機関の論理

単に二つの物体を接触させるだけでは外部になす仕 事が得られない

熱機関では,次の二つの理由によって,不可逆サイクルをなす作業物体(つまり 広義の「歯車」)が,高温熱源と低温熱源との間に必ず介在しなければならない:

単にこれら二つの熱源を直接的に接触させるだけでは,外部に対してなす仕 事が決して得られない;

作業物体のなす不可逆サイクルは,熱機関中でのエントロピー・エネルギー の一方向性移動に対する必要条件である.

本節の目的は,この第一の理由を,定量的に把握することである.なぜならば,熱 力学に関する通常の教科書では,この基本的な問題に対する説明が,ほとんど与え られていないからである.例えば,有名なランダウ・リフシッツの教科書でも,次 のような簡潔な説明文が記載されているに過ぎない(参考文献 を見よ):

!" ##$

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(12)

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そこで本節では,上記の文章の含蓄ある内容を具体的に理解するために,温度 の高温物体 と温度 の低温物体 とを直接的に接触させて, から へ 熱量 を移動させ,この移動の開始直前からその終了直後までの間に起こる,こ の体系のエントロピー変化 を考えてみる.ただし,簡単のために,これら二 つの物体は孤立系を成すものとし,しかもそれらの体積および定積熱容量 は,熱量 の移動に係わりなく一定である,と仮定する.

まず,両物体が熱量 の移動後に温度 の熱平衡に達したとすれば,

3

4

4

3

4

3

&%

4

&%

$

と計算される.次に,この が正であるか否かを確かめるために,

である場合を考えてみると, の第一式は

3

4

4

$

と書き直されるので, $ は近似的に

4

#

(13)

と表わされる.つまり, からなる体系は,仮定どおりの孤立系であり,そ こで起こる熱量の移動は,単にこの孤立系のエントロピーを増大させるに過ぎな いのである.

最後に,この孤立系の内部エネルギー及びエントロピーをそれぞれ 及び と し, の関数として と表わすことにすると,この体系は熱的に絶縁さ れているので,その内部エネルギーが から 4へ変化する過程でな される正または負の仕事 は,

344

を満足しなければならない.ただし,この は,準静的に行なわれるものとす る.従って, が成り立つ場合には,上式が近似的に

$

と書き直される.ここに, は孤立系の体積であり, である.つま り,単に二つの物体を接触させるだけでは,外部になす正の仕事が決して得られ ないのである.

なぜ作業物体にサイクリックな状態変化を行なわせ るか

本節では,熱機関における作業物体の役割(すなわち前節で述べた第二の理由)

を熱力学的に理解するために,次のような場合を想定してみよう.即ち,作業物体 がある状態から他の状態へ不可逆的に変化して,そのエントロピーが だけ増

(14)

5 熱機関中の作業物体におけるエネルギーおよびエントロピーの流入・流出

加する間に,温度 の高温熱源 は に熱量 を与え,温度 の低温熱源

は から熱量 を受け取り,かつ熱的に絶縁されている外部の被作業物体 は から仕事 を受けるものとしよう(図 を見よ).この場合,

からなる全体系を孤立系と見なすならば,そのエントロピーの変化 6 は,エン トロピー増大の法則に従って,

63

4

を満足しなければならない.ここに, は高温熱源 におけるエントロピー 減少 を,また は低温熱源 におけるエントロピー増加 を表 わしている.なお,仕事 を受ける外部の被作業物体が上式の対象から除外さ れているのは,それが から熱的に絶縁されているので,そのエントロ ピー変化を全く考える必要がないからである.

結局,注目している作業物体が任意の不可逆的状態変化を行なう場合には,

3

$

(15)

という不等式が一般的に成り立つ訳である.従って,その最も秩序正しい作動様 式は, 3 の場合に実現されるはずである.そして,この場合には,エントロ ピーが状態量(状態を決めれば決まってしまう熱力学的量)であるので,作業物 体はサイクリックな不可逆的状態変化を行なわなければならず,周知のクラウジ ウスの不等式が成り立つ:

3

言うまでもなく,この不等式は,シュレーディンガー不等式 と全く同じ形を している.

次に,不等式 を満足する作業物体が,外界に対して正の仕事を行なえる ことは,次のようにして確かめられる.即ち,

$

と書き直されるので,二つの条件 および が満たされているなら ば,この作業物体は外界に対して, 3 という正の仕事を,確かに 行なえる訳である.そして,その効率 は,明らかに不等式

#

を満足する.ここに は可逆熱機関の効率を表わす.

要するに,熱機関中の作業物体 が行なうべき最も合理的な状態変化は,それ が高温熱源 からエントロピー を吸収して始動し,この を上回るエン トロピー を低温熱源 へ放出して,自らが再び始めの状態に戻ることであ

(16)

る.そうすると,残りの熱量 すなわち が,このエン トロピー移動に便乗して,外部への仕事 に円滑に転化されるのである.なお,

$と比べてみると,この不可逆サイクルの存在は の十分条件 に相当するものと推察される.

(17)

章 シュレーディンガーの「歯車」

の論理

 前章では,熱機関中で起こっている一方向性のエントロピー・エネルギーの流 れに注目し,それに対する基本方程式がシュレーディンガー不等式 と同一の 形式・内容をもつクラウジウス不等式 であること,またその必要条件が作 業物体のなす不可逆サイクルであること,を明らかにした.いま,「物理的時計仕 掛け」を構成する「歯車」の概念を拡張して,ある物理量や化学物質などをある 特定の方向へ移動させる装置をも,一種の「歯車」と見なすことにすれば,熱機 関中の作業物体は,この広義の「歯車」の典型的な一例と言えるであろう.また,

生体内に一方向性の化学物質・エネルギー・エントロピーの流れを引き起こして いる諸不可逆系も,この広義の「歯車」の一種であり,従ってそれらの集合体であ る生体系も,ある種の「時計仕掛け」構造をもつ,と考えられるであろう.更に,

この一方向性の流れに対する基本方程式についても,それはやはりシュレーディ ンガー不等式 に違いない,という思いを抱くであろう.

しかし,既に第一節で述べたように,この生体系の「歯車」は次の二つの点にお いて,熱機関の「歯車」とはかなり異なっている:

生体系の「歯車」では,エネルギー・エントロピーのやり取りのみならず,

(18)

5 モルの同一分子が外界から準静的に流入することによって引き起こされる 一方向性の分子・エネルギー・エントロピーの流れ.小括弧の中の数字や記号は, 成分 が不可逆サイクルをなす場合のものである.

化学物質の出入りもある;

生体系には,熱機関の高熱源・低熱源に相当するものが全く存在せず,その 体系を構成する諸不可逆性がほぼ一定の温度や圧力を維持している.

そこで本章では,三つの 成分系 からなる一つの孤立系 を想定し て,その構成分子と同一のものが モルだけ外部から へ準静的に流入す るものとし,この流入によって引き起こされる分子・エネルギー・エントロピー の一方向性の流れに注目する.そして,この流れに対する基本方程式及びその必 要条件を,開放系の熱力学に基づいて考えてみる(図 を見よ).言うまでもな く,三つの 成分系 からなる孤立系を想定した理由は,単に二つの 成分系 を直接的に接触させるだけでは,外部になす正の仕事が決して得 られないからである.即ち, が全体として孤立系をなす場合には,その 状態が必ず「エントロピー増大の法則」に従って変化するので,その状態変化が どのようなものであっても,それは の結論によって,外部に正の仕事を行

(19)

なうことが出来ないのである(なお,このことは,後述の結論 からも明ら かである; なぜならば, 3 3 の場合には, から,二つの条件

および が得られるからである).

化学物質・エネルギー・エントロピーの一方向性の 流れに対する基本方程式とその必要条件

さて,同一の分子からなる三つの 成分系 の温度・圧力・化学ポテ ンシャル(即ち示強変数)を,それぞれ および と 表わす.そして, の状態が不可逆的に変化して,そのエントロピー・体積・モル 数(すなわち示量変数)が だけ変化する間に, および にお いてはそれらの示量変数がそれぞれ およびだ け変化するものとする.ただし,前者および後者の変化による示強変数 および のそれぞれの変化については,それらの影響を全く無視する.

なぜならば,これらの示強変数変化がそれぞれ および の内部エネルギー変 化に及ぼす影響は,二次の微小量に過ぎないからである.

さらに, モルの分子が外部から運んでくるエネルギーを とし,か つ が外部の被作業物体(熱的に絶縁されているものとする)になす仕事を と表わす.そうすると,エネルギー保存の法則によって, の内部エネルギー変 化 が次のように求められる:

3

4

4

4

(20)

ここで, との間には各示強変数の値についてわずかな「ずれ」しかない

(これは生体系の一つの特徴である)ものとして,

3

7

4

374

374

3

7

37

37

$

と表わす.ここに,例えば 7 は, の平均値に相当するものである.そし て, などの二次の微小 量をすべて省略する.そうすると, は次のように簡略化される:

4

7

7

6 47

47 *

6 3

44

3

4 4

3

44

#

ところで,エントロピー増大の法則によると,孤立系 の状態が不可逆的に 変化する場合には,次式が成り立たなければならない:

6 すなわち ここに 6 におけるエントロピー変化である.従って,この式を #と 組み合わせることにより,

7

47 7 47

4

7

$

が導かれる.なお,この式の妥当性を確認するために, 3 3 3 の場合を考えてみると,被作業物体に対する の最大仕事が 47 7

(21)

と得られ,ランダウ・リフシッツの結論と一致することが分かる(参考文献

を見よ).

最後に, がサイクリックな不可逆的状態変化を行なう(つまり不可逆サイク ルをなす)場合に注目して, を書き直してみると,

7

47

*

3

4

3

4

が導かれる.なぜならば, の示量変数 および内部エネルギー は状 態量であるので, がサイクルを行なって始めの状態に戻ったときには,これら 状態量の変化も になっているからである.

言うまでもなく, の第一式は のシュレーディンガー不等式そのもの であり,クラウジウスの不等式 を一般的に拡張したものと考えられる.即 ち,この第一式によれば, の不可逆サイクルによって, という一方 向のエントロピー移動が,確かに引き起こされる.また,外部から分子を流入さ せる場合には

7

であることに注意して, の第二式を眺めてみれば, は上記のエントロピー 移動を利用して,外部の被作業物体に正の仕事 を行なえることも分かる.つ まり,一方向性の分子・エネルギーの移動も起こっている訳である.更に,

の第一式を と比べてみれば,このシュレーディンガー不等式の必要条件は のなす不可逆サイクルであることも分かる.なぜならば, が不可逆サイクル

(22)

を行なっている場合には, 3 となるので の第一式が成り立つからで ある.

最大仕事とエクセルギー

まず,本章で得た幾つかの結論を整理してみると,それらの要点は結局次のよ うにまとめられる:

8 シュレーディンガー不等式 は,ある生体系での化学物質・エネルギー・

エントロピーの一方向性移動に対する基本方程式と考えられる;

88 この基本方程式の必要条件は,その生体系を構成する諸不可逆系が,サイク リックな状態変化を行なう(つまりサイクルをなす)ことである.

従って, を満足する数多くの「不可逆サイクル」が有機的に連結して,一つ の体系を作り上げているならば,その体系はまさにシュレーディンガーが予想し た「時計仕掛け」の構造をもつものと言えるであろう.なぜならば,これらの「不 可逆サイクル」は,いわゆる「負エントロピー状態」にあるので,まさに彼が提案 した「負エントロピーを食べて作動する歯車」に相当しているからである.つま り,上記の二つの結論は,第 章の冒頭で述べた彼の二つの提言 および の妥当性のみならず,両者の間の密接な関連性をも,合わせて示すものと言える.

次に,$の右辺第一項の意味を理解するために,ある開いた 成分系及びそ れを取り囲む同一成分の環境体 7 を想定し, の内部エネルギー・体積・エントロ ピー・モル数をと,また 7 の圧力・温度・化学ポテンシャルを777

(23)

としてみよう.ただし,7 の体積は非常に大きいものとして,777 を一定と みなすことにする.そして, 7 から熱的に絶縁されている外部作業体 が に対してなす最小仕事 を考えてみると,それは 47 7 7 で与えられることが分かる(参考文献 を見よ).従って, が に対 してなす最大仕事 は,

3

3 47 7

7

と得られる.そこで,

3

47

7

7

という一種のエネルギーを定義すると,その変化 の大きさを表わ すことになる.ここに は, の圧力・温度・化学ポテンシャルが

7 の 7 77 に等しいときの, の内部エネルギー・体積・エントロピー・モル 数をそれぞれ表わす:

37 7

7

37 7

7

37 7

7

37 7

7

最後に, がラントによってエクセルギーと命名されたものである ことを強調して,本章を終えることにしたい.即ち, の形は,一見したとこ ろ,ギブズの自由エネルギーによく似ているが,両者の間には下記のような根本 的な相違点がある.即ち,熱力学の対象になり得る物質系は,その環境体と釣り 合っていなければならないので,前者の温度や圧力などのそれぞれの値は,後者の ものと同じである.これに対して, のエクセルギーが有限の値を持つのは,

(24)

物質系 が環境体 7 と異なる圧力・温度 ・化学ポテンシャル をもつ場合 である.

(25)

章 シュレーディンガーの「歯車」

のなす具体的径路

 前章では,シュレーディンガー不等式 が生体系での物質・エネルギー・エ ントロピーの一方向性移動に対する基本方程式と考えられること,そしてその必 要条件が「不可逆サイクル系」の存在であることを,熱力学的に考察し,シュレー ディンガーの「時計仕掛け」構造における「歯車」が,ある種の「不可逆サイクル 系」である可能性を,指摘したのであるが,その際, 成分開放系 のなす状態 変化の具体的な道筋については,何一つ触れなかった.そこで本章では,この を「理想溶液系」と見なして,その最も基本的な状態変化の径路を具体的に考察す る.そして,この場合にもやはり,シュレーディンガー不等式 が,分子・エ ネルギー・エントロピーの一方向性移動に対する基本方程式であること,しかもそ の必要条件が「不可逆サイクル系」の存在であることを証明して,シュレーディン ガーの「時計仕掛け」仮説が合理的なものであることを,より具体的に指摘する.

この目的のために,本章は五つの節から構成されている.まず第 節では,1 成分の開放系 が独立な三つの示量変数(モル数 ,体積 ,およびエントロ ピー )を持ち,かつそれらがそれぞれ二つの値を取り得るものとして, が行 なう循環的状態変化の径路をグラフ理論で整理する.そして,その必要最小限の 基本的モデルが,独立な六つの状態を巡る ストロークの有向閉路であることを

(26)

示す.次に第 節では,第章で述べた注目点 に着目し(すなわち, とそ の環境体 との間の微小な示強変数差を重視し),かつ最も簡単である「理 想溶液近似」に基づいて, における微小な示強・示量両変数変化の間の関係式 を導く.その理由は,このような関係式を導くことなしに, に含まれてい るエントロピー変化 や,$に現れた内部エネルギー変化 などを,具 体的に論ずることが出来ないからである.

さて, ある開放系の状態が外部から流入した化学物質によって変化するとき,

その変化を示量変数に着目して眺めるならば,それは一般的に次のような順序で 進行するものと考えられる: まずこの開放系内に微視的な量子化学的反応が起こ り,その結果その体系の体積が変化して,最終的に巨視的なエントロピー変化が 完了する.そこで第 節では, 成分開放系 の具体的状態変化の径路の一例と して,最も基本的な ストロークの開路・閉路に注目し, の微小な示量変数変 化が「ほぼ 」の順序で起こるものと考えて,その閉路(すなわち循 環的状態変化の径路)の存在が,シュレーディンガー不等式 の必要条件であ ることを,具体的に確かめる.また,第 節では, 内における分子・エネル ギー・エントロピーの一方向性移動と, のなす不可逆サイクルとの密接な関連 性が,具体的に説明される.なお, がこの移動を利用して,外部の被作業物体 に対しかなり緩い条件の下で仕事を行なえることも,指摘される.最後に第 節 では,これらの結論が最も基本的な ストロークの有向閉路の総てについて当て はまるものであることを,第 節および第 節の考え方に基づいて説明する.

(27)

5 個の頂点

及びそれらを連結する 本の辺

から成る有向グラフ.そ の結合行列 から総ての可能な閉路が導かれる.

三つの示量変数がそれぞれ二つの値を取りうる 成 分開放系

の循環的状態変化の径路のグラフ理論 による整理

成分の開放系 が三つの示量変数(モル数,体積 およびエントロピー

)を持つものとし,かつそれらがそれぞれ二つの値を取り得るものとして, が 行なう循環的状態変化の径路を,グラフ理論で整理してみよう.

この目的のためには,まず図 のような「有向グラフ」を画いて,その「結 合行列」を求めなければならない.即ち,種類の状態を 個の頂点

で表わ し,かつ状態変化が最近接頂点間でのみ起こるものとして,

を通る 本の 有向辺 $ を考える.そして,行列要素

3

$ を通らないとき)

4 ($ を正の向きに通るとき)

$ を負の向きに通るとき)

(28)

とする,次のような「結合行列」 を作る訳である(参考文献 -および - 節を見よ):

39

:3

次に,図 の中に画ける如何なる「有向閉路」の場合にも,それを表わすベクト ル が方程式 3 を満足する(参考文献 の定理-を見よ)ことに 注目して,この方程式から如何なる「有向閉路」が得られるかを,明らかにしなけ ればならない.ここに, の指数 は, を構成する辺の本数を表わす.第 一に, であることが,容易に確かめられる.なお,この結論の正しさは,グ ラフ理論における次の定理からも,明らかである: 同じ「次数」(頂点を通る辺の 数)をもつ頂点のみから成る「正規グラフ」の場合には,頂点の個数 ,辺の本数

および次数者の間に,関係式 3が成り立つ(参考文献 の定 理 -を見よ).つまり,図 の中に画ける の場合には 及び 3 であるので, の値はたかだか でなければならないのである.第二に,3で あることが確かめられる.この結論の正しさも,上記の定理に基づいて,次のよ うに推論される: 3のときには 3でなければならないが, 3 である ことは, 個の頂点の除去が 本の辺の欠落を意味しているので,3の 解は

(29)

5 本の辺からなる有向閉路の一例. は図 と逆向きの辺を表わす.

存在しないと考えられるのである.こうして,次の結論に到達しうる訳である:

3 3

は, 3 の場合について,その 例を示したものであるが,この有向 閉路では,その 本の辺 $$ $77$ に注目してみれば分かるように,ある一 つの示量変数のみが 往復で変化しており,残りの二つのものは 往復で変化し ている.従って,本章では,この種の有向閉路 を,全く取り扱わないことに する.なぜならば,本章は, 成分の開放系 が行なう循環的状態変化の径路に ついて,その必要最小限のモデルを構築することを,目的としているからである.

また,これと全く同じ理由により, 3 の場合も,本章では全く議論されない.

なぜならば,この場合には,ある一つの示量変数が全く変化しないからである.結 局,本章では,3 の有向閉路 のみに注目する訳である.

さて, 3 の解として, 通りの有向閉路が得られるが,いま以下の

(30)

5 本の辺から成る有向閉路の基本的な つの例.

考察を簡潔に行なうために,三つの示量変数 が例えば という順序で循環的に変化するものだけに注目することにすれば,それらの種類 は 通りであることが分かる.図 はこれら 通りの有向閉路

につ いて,それらの基本的な二つの例を示したものである.例えば,図

の順序で起こる示量変数変化によるものとすれば,図 は示量変数が の順序で変化する有向閉路を表わすことになる.

従って,これらの場合における残りの四つのものは,及びの各 順序をそれぞれサイクリックに変えることによって,直ちに得られる.

かくして,本節における最後の問題は,図 の有向閉路

3 または が図 の有向グラフから如何なる変換によって導かれるかを,定式化すること である.まず,方程式 の解である が,

3

3

(31)

と表わされることに,注意しよう.ここに指数 ; は列ベクトル を行ベクト ルに転置する記号である.次に,この表記法では有向閉路を構成する辺の種類お よび順序が直観的にはっきりしないことに注意して, の代わりに

$

$

$

$

$

$

3$

$

$

$

$

$

$

$

$

$

$

$

3$

$

$

$

$

$ $

というベクトルを定義し,かつ図 を構成する全有向辺を

3$

$

$

$ $

$

$

$

$

$

$

$

#

というベクトルで表わす.そうすると, との間には,次の関係式が成 り立つ:

3

*

3

3

$

言うまでもなく,上式中の行列

3 は,辺集合をその真部分集合

に射影する演算子であるので, 3

 

というような関係式は,決して成り

(32)

立たない.また,このような射影演算子は,残りのすべての 3 のみならず,図 にその 例を示したようなあらゆる についても,直ちに 導かれる.

示量・示強両変数の微小変化の間に成り立つ関係式 の「理想溶液近似」に基づく導出

前節では,三つの示量変数をもつ1成分開放系 の循環的状態変化の径路に対 し,その必要最小限な基本的モデルが,図 の有向閉路 であることを説 明した.この に沿った状態変化が具体的にどのようなものであるかを次節 で考察するためには, とその環境体 との間の微小な示強変数差に留意 し,かつ最も簡単である「理想溶液近似」に基づいて,示量変数 の微小 変化 と示強変数 圧力 温度 化学ポテンシャルの微小変化

との間の関係式を導く必要がある.なぜならば,例えば式 に ついては,このような関係を導くことなしに,式 に含まれているエントロ ピー変化 や,式 $ に現れた内部エネルギー変化 などを,具体的に 論ずることが出来ないからである.

さて,いわゆる「理想溶液近似」は,次の三つの仮定に基づいている.

成分開放系 の状態方程式として, 3 を仮定する.ここに は 定数である.

エネルギーの等分配則を仮定する.すなわち,理想溶液分子の運動自由度を

(33)

として, の内部エネルギー を次のように表わす:

3

ここに は定積熱容量である.そうすると,仮定 により,定圧熱容量

との間に,次の関係式が成り立つ:

3

4 3

4

が一定であるという条件のもとで,

7

3

7

&%9

: 7

と近似する.ここに 777 である(参考文献 の式 及び を見よ).

まず, 成分開放系 が圧力 7,温度 7 および化学ポテンシャル 7 の環境体 と平衡に達した場合を想定して,そのときの の体積,エントロピーおよびモル 数の値を,それぞれ . および と表わす:

7 7

7

7 7

7

7 7

7

そして, における示量・示強両変数の微小変化を,

$

7

7

7 #

と定義する.ここに, は第 章で述べた注目点 によって微小であ るので,式 $に基づいて定義された もまた微小である.

(34)

次に,との関係を導くために,仮定 および に基づいて,

それぞれ

7

4

4 7

7

4

7

47 7

4

4

7

7 $

と近似する.ここに,

と定義されている.その上,仮定 に従って 7 と書き直し,

¼

7 7

と定義して, を次のように表わす:

7

4

7

4

¼

7

#

結局,このようにして導かれた との関係は,次のように整理される:

*

3

7

7

7

7

7

7

¼

7

7

7

7

* $

3

7

7

#

(35)

また,上式の逆変換も,次のように整理される:

3  

 

3  

3*

 

3 7

7

4

¼

7

7

7

7

7

4

¼

7

7

7

¼

7

7

7

7

$

ここに 列の単位行列である.

最後に,上記の行列  の妥当性を簡潔に説明しなければならない.そのため に,代表的な三つの例として   を選び,まず    の正しさを 調べてみると,一般に準静的変化に対して

3 4

であるから,冒頭の仮定 に基づいて

4

$

と近似すると,次の関係式が直ちに導かれる:

4

3

3

3

つまり  

¼¼ 3 7

である.また,  の正しさについては,式

から

3

3

(36)

が得られる.つまり, 

¼

¼ 3

7

である.

更に,  については,まず式

34 4

と書き直し,次に冒頭の仮定 に基づいて

7

9 47 7

:

と近似する.そうすると,

9 7

4

7

7

:

が得られる.従って,上記の   を考慮すれば,次式が得られる訳である:

 

¼¼

7

7 9

7

7

:3

基本的有向閉路

Ê

に沿った状態変化を具体的に 考えた場合でのシュレーディンガー不等式の必要条 件の導出

ある開放系の状態が外部から流入した化学物質によって変化するとき,その変 化を示量変数に着目して眺めるならば,それは一般的に次のような順序で進行す るものと考えられる: まずこの開放系内に微視的な量子化学的反応が起こり,そ の結果その体系の体積が変化して,最終的に巨視的なエントロピー変化が完了す る.本節ではこのような考え方に基づき,具体的な状態変化の基本的な一例とし て,図 に示した ストロークの開路・閉路に注目し,その閉路(すなわち循

(37)

5 ストロークの不可逆変化に対する基本的な開路・閉路.この開路の終頂点は

である.

環的状態変化の径路)の存在が,シュレーディンガー不等式 の必要条件であ ることを,具体的に確かめてみる.

ではまず第一に,上記の考え方に基づき, 成分開放系 の示量変数変 化 の方向を三本の軸として,始状態 から終状態 または

に至る不可逆変化の開路または閉路が,概略的に画かれている.第二に,やはり 上記の考え方に基づき から までの径路について,次のように仮定され ている: これらの径路では, が環境体 のみと相互作用して, の示量変数 変化が「ほぼ 」の順序で起こるものとする.第三に から までの径路についても,やはり次のように仮定されている: これらの径路では,

がもう一つの環境体 のみと相互作用して,やはり「ほぼ 」の順

(38)

序で, の示量変数が変化するものとする.

まず,径路 における示量変数変化を とすれば,状態

から状態 までの不可逆変化は,図 に示されているように,主としてモ ル数 の変化 によるものである.然るに,第三節で述べた仮定 によ れば,体積 77 程度の変化を示すはずであり,またエン トロピー も前節の式 #に基づいて, だけ変化するに違いない.そこ で図 では, から への径路が角柱 によって,概略的に示されている 訳である.つまり,この角柱は,上記の「ほぼ の順序で」という言 葉の意味を,視覚的に示すものである.

さて,との関係を導くには,式# に含まれている三つの 示強変数変化を,第三節の仮定 および仮定 に基づいて,それぞれ

7

7

7

と近似すればよい.そうすると,

4

4

¼

3

¼

9&%:

¼ 4

¼

9&%:

¼

¼

4

と,また 自身は

3

¼

&% 4

¼

&% 4# $

(39)

と得られる訳である.繰り返えすまでもなく,この結果は,第 章で述べた二つ の注目点 と,および本章第節で説明した「理想溶液近似」に基づいて導 かれた訳であるが,その妥当性は今後統計力学的に証明されるべきものであろう.

結局, 開放系 の状態が から まで変化して,その示量変数が

だけ変化する間に, の示量変数が だけ変化 したとすれば,次の諸式が成り立つ:

3

3

*

3

¼

4

¼

$

言うまでもなく, における第二式の中の は, モルの分子が外部 から へ準静的に流入したことによる当初の体積増加であるが, と は共に 近似的に一定な示強変数値77 7 を持っているので, と から成る体系の 全体積は,「理想溶液近似」に基づいて,近似的に一定とみなされるのである.ま た, $ 中の第一式は,「エントロピー増大の法則」によるものである.

更に, の状態が図 中の開路に沿って,その終頂点 まで変化した場合 には,式 の場合と全く同じ考え方により, 及び における示量変数変 化をそれぞれ 及び と表わして,次 の諸式を得ることが出来る:

3

3

*

3

¼

4

¼

$

ここに, の第一及び第二式は,それぞれ # の第四及び第三式に相当す

(40)

るものである.最後に, の状態変化が図 中の閉路に沿って行なわれた場合 には,上式中の記号 に置き換えることによって,上式と全く同じ形のもの がそれぞれ得られる.

これらの式によれば,図 の状態変化に対するシュレーディンガー不等式の 必要条件は,明らかに閉路(すなわち循環的状態変化の径路)が存在することで ある.なぜならば,

と表わすことにすれば,この閉路の場合には

3

3

$

3

3

#

であるから, $ 中の第二式と全く同形の式によって

3となり,シュ レーディンガー不等式 が成り立つからである(これは必要条件の 証明である).逆に,この不等式が成り立つためには,

3でなければなら ないが,そのためにはやはり

3

3 が成立(すなわち閉路が存在)

しなければならない(これは十分条件の証明に相当するものと考えられる).

のなす不可逆サイクルが

6

内に引き起こす 一方向性の分子・エネルギー・エントロピーの移動

まず,三つの1成分開放系 から成る孤立系 へ,その構成分子と 同一のものが モルだけ外部から準静的に流入した場合を想定し,その結果

(41)

の状態が図 の中の開路に沿ってその終頂点まで変化したと仮定して, の 内部エネルギー変化を と,また が の外部の被作業物体 (熱的に 絶縁されているものとする)に対してなした仕事を と,表わすことにしよ う.そうすると,エネルギー保存の法則によって,次の式が成立しなければなら ない:

39

7

7

47

:4

49 7

7

47

:4

ここに,左辺は の外部から へ流入したエネルギーを表わしており,また 右辺の第一項および第三項は,それぞれ 及び の内部エネルギー変化を示し ている.なお, 及び における示強変数変化は,全く無視されている.なぜ ならば,それらが 及び の内部エネルギー変化に及ぼす影響は,二次の微小 量に過ぎないからである.

次に,上式中の を式 $ に基づいて

4

7

と近似し,かつその右辺第一項を式 に従って

3 79 4

¼

:

4 7

4

7

9

¼

:

(42)

と表わすことにすると,次式が得られる:

7

7

4

47

4 $

ここに, は第節の仮定の所で導入された定数であり,理想溶液分子の運動自 由度を表わす.また,定数は式#の所で定義されたものである(77).

さて,上記の を式 に代入し,それを式 の定義に従って書 き直し,その後「エントロピー増大の法則」

4

4

に注意すると, に対する不等式が次のように得られる:

7

47

497

7

:* $

3

4

3

4

#

言うまでもなく,式 の内容は,式 のものと全く同じである.また,式

$ の右辺第三項は,式 $ の右辺第一項に相当するエネルギー

4

7

7

47

を,「理想溶液近似」で具体的に示したものである.ここに, は, の内 部で起こったエクセルギー変化を表わす.

なお, の状態が図の中の閉路に沿って変化する場合には,式 と全く 同じものが,式 から,式 で導入された諸定義に従って,次のように

参照

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