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血栓の病理形態学的研究 (殊に心臓血栓に就て)

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381

血栓の病理形態学的研究

(殊に心臓血栓に就て)

金沢大学医学部病理学敏室(宮田 教授指導)

中  島  光  正

 ]fitszema,ga A aknjima   (昭和26年6目εO日受隆 ∫)

緒  .血栓は古くより知られ,病理学的にも,筆陣 的にも興味ある病変の一つとして,多数の研究 が行はれて來たが,その発生に関してさへ諸 家の説は未だ必ずしも一致してみない.既に Virchow 1。9)は凝血との区別を明らかにし得な かったけれども,血栓形成には血流の変化,血 管壁の障碍,血液性歌の変化の三条件が必要で あると言って居る.Malltegazza 65)次V・でZahn ユ20)の実験よ?),前記条件中第一第二が重示見さ れるに到ったが,続いてBizzozero 21)は血液第 三有形成分として血小板を碓旨し,血栓が先ず 此の成分の概1はり初まる事を観,Ebcrth−S c−

hlmmeli川s l轡)亦之を認め,血流の変化を重親 した.Aschoff ti) 7)・9)は血栓の形態も血流に支配

される事を確め,血流変化を張調した.之に対

しRibbert  2)s:s),1)ietrich 2)2阿)等は血栓形成に

は血管壁の変化が重要であると言ふ.手術後屡

々.血栓を経験する事より,外科方面の学者達は 術後の一筆液性歌変化を重覗する傾向あり,更に 近年St h(irn}an−A4ac・Mahon 9{)は1)ysor{eと関 係付けて考へてるる,而して: 古くより問題と

されてみた血液凝団と血小板凝集との関係は Apit1.:;)に拠り同一の過程に因るとされるに到 った.他方血液凝國阻止物質1ヒルヂン,ヘパ リン,ヂキュマ・一ル)ヵ始形形減を予防し得 る事も略it明らかとなった.かくて血栓は嘗っ ての様に輩なる血流の変化,或は輩なる血液性 1伏の変化のみに因って発生するとは考へられ難 くなった.此処に潤て予は先人の諸観察,諸実 験を参考とし,改めて人体血栓を観察し,動物 実寵を加へ血栓の形態,発生並に生体反応と

して重視されてるる有機化に就て再検討を加へ やうと試みた.

検査材料並研究方法  金沢大学医学部病理学教室に於ける大正10年より昭

和17年に至る22年間の1608剖槍平中より見出された心 臓血栓24例,肺臓動管内血栓13例を撰定して用ひた.

材料は:Fermajin或はKeiserling.氏液固定,1 araffin

包埋,II−E染色, Weigert氏線維素染色, T三bor−

1 ap氏鍍銀染色,必要に応じ結核菌,Azan染色,Mas−

ser旦謀色K・s・a長反琉を菟耳ひた.

検査所見並に考案 血栓の癸生頻度に就て

金沢大学医学部病理学教室に於ける22年間の

剖槍記録より不適当と思はれる例を除いた1608 例中並L栓症の診断あるもの113例(7%)である.

[ 147 ]

(2)

ss2

之を年次別に観ると99 1表の如くとなる(昭和 17年分を除き7年毎に区分す).

第  1 表

7・1}講i欄数1百分比

大正10年〜昭和2年l         t

昭和3年〜昭和9年1 囲和10年〜昭和16年

 先人の報告では,Wantoch l lo)は4739剖槍例 中7.9%に血栓,栓塞,梗塞を認めたと言ひ,

Bela ll号)は1913〜1933年の20年間の6581例中 14.07%に血栓を認め,1915〜1919に比し1919〜

1928年間の著明なる増加を指摘した.Geiss en−

d6rfer 37), Singer 97)も前世界大戦後血栓が門前 に比し増加したと言ふ.之に干てStory g・ 9一 〉は血 栓が注意されるやうに:なったからであらうとし てみる.余の場合第:1表より直に或る年次に多 いと言ぴ得るや否か疑問である.次にPayr 77)

は全く随意に槍査した15例中9例に就て足蹄静 脹網に一血栓を観,R6ssle恥は系統的に四丁する 時は成人全剖検例の4分の1に下腿静脹の血栓 を観,而もその牛数近くは股静脹血栓を件ふと 言ふ.余の場合は剖槍時認められたもののみを 集計しプこ爲7.0%となったが,丹念に:検査すれ ばより高率に認明出來るであらう.倫臨写上血 栓或は肺栓塞の診断を与へられるものは略it

O.2〜2%であると言ふ(Bo3hamer騎, S(・hinid92),

L JTLi 379 i

565 588

 131i 8.2 37i 6.6 41i 7.0

Klejn「 6), Storz 99}).

 性別,年齢に襯るど第2表の如くとなり,少し       や

く女性に多いやうであり,年齢別では或る年齢 暦に多いと言ふ事は認められないやうし(ミある.

1・ubart ch a2)は中年以後に多いと言ふが余の場 合では別にそのやうな事は認められなかった.

 疾患別血栓発生頻度に就て, Lubarsch G,)は

種々の結核症に件ふ血栓例は開花性結核症の 33.3p6であり,癌腫,肉腫の場合は夫々該腫瘍 白州例の57.9%,50%であると言ふ.3d13血 栓例中結核症は185例で最:も多く,線維素性肺 炎55例,種々心内膜炎45例,各臓盤の化膿性疾 患22例等の順であると言ふ.Wantoch llo)は367 血栓門中結核症53例,癌腫34例,動脈瘤15例,

梅毒11例の順で血栓は結核症に多いとし,山本 11s)も700⑪剖槍例中202例の血栓症を得,内結核 症48例,悪性腫瘍37例,循環器系疾患35例,化 膿性疾患30例等でやはり結核症に多V・と述べて みる,余の場合は第3表に下る如く大動脹瘤の 8例中7例は当然の事とし,心臓疾患の21%が 最も多く,動脈硬化が之に次ぐ.結核症の場合 では全血栓例数の36%〈113例中42例)に達して は.みるが,実は結核症の剖槍解明が多い爲に,之 に件ふ血栓例も多いのであって,全結核症例に 対する血栓の発生頻度(7.4%)は全剖槍例のそ れ(7.0%)に:比し大差は認めら祖な㌔〜癌腫の 場合も略ぐ同楳の事が言へる.即ち結核症に平

2

年酬1−1・111−2・」 21−3・1 31−4・

性 女

性1

 ユ1 70 1.4

 4]

50 i s.o l

 i

 7i

:gg

si

,?g1 17 203 1 8.4

一一i…

92 ! 7.6 i

一 6i

155 1

一.一3 堰D9 i

,g jii

lo.4 1

4・一5・IS1−6・ir・±71以上1  9

142

6.3

 41

49 i 8.2 ]

 71i

119 l or.9

 91

 56

16.1

  1

ユOE l14 8.8

L5

71 7.1

 8 87 9.2

 7  48

132 ・ 610 5.3 , 7.9 計  65

998

6.5

  

Sl 12

120i 203

4・2 i 5・9

   241

295:

8.エ

  1

13 1

2201

5.9

13 16 15 15

1gl 1 17s i lss 1 ?..lg 1

6.8i 9.1i 8.li 6.8i

113 1608

7.0

但し上段 血栓例数 中段 全剖槍例数 下段  血栓出現率(%)

[ 148 )

(3)

血栓の病理形態学的研究(殊に心臓血栓に就て) 383

3

疾患名倫噸血栓例畷繍併i族患釧霧噸i血栓例螺驕併

結 核 症「5681

     1     i

心臓疾患1 肺臓疾患1 腎臓疾患

癌    腫 肉    腫:

其他腫瘍…

     1

老    衰1

動1娠硬化 大動脈瘤1

脳 出 血1 ヂフテリー

肺   炎旨

チ  フ  ス1

敗 血 症,

肺壊拍=及肺膿瘍:

78 c

22 36

154 i

141

2e 1 144 i

4引 8i 56

3

13 i

25 20

 J

231

42 1 16

1 1 11 1/

0 4 8 7 2 1 1 0 1 1

7.41i其他化膿

   21.01itli液疾患

   4・6iiホヂキソ氏病 2・811パンチ氏病 7・2/気管支肺炎 7・2 胃 潰 瘍

         一:1胃腸炎i

  ト

        

2.8 1先天梅毒[

 ト       

   17・8 鉛]炎及脳膜炎 87.511子

      網

3・61,;其他妊娠中毒!

33・311外 傷1

7.71アヵチノミコーゼ1

一ト溺死及自殺

5・O,共   

4・3 i/ 計 1

4g 1 2e I

iOI

,1ト

釜1

32 i

2i

}zi

謙:

。]

か ざ 5i il 皇

 1

2.6

lo.e se.0 3.0

3.2

9.7 50.0

14.3

1.7 7.0

第 4

部位年齢堰E一・…一・・1・・一・・1・・一・⑪1・・一・・}・・一6・1・・一7・17画計

左心室1到   6

左心劇

右心室i 1  2 右心房1 41

肺ifV・ IYJE i l・1

大動脈

頸動脈 腎動脈

腸骨動賑i

   1 頸門脈1

旧聞膜翻・

脈  脾静脈…

腎灘脈i 門静脈,

揚骨静黙:

(股i脈)1

胃翻賑 肝静脈1 脳 洞1

 1

51

7 ii

訓一

 ト

sl

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2

1

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1   2

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3   1

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1

1 ・} 2

[ 149 ]

(4)

384

劇毒鶴

5

肺動脈 大 頸!腎1腸

ョ1動 動

ャ岡脈

骨動脈

頭並脾略論隔 @ 離膿潮騒1墜1脈

非訟 胃灘 肝 脳

テ脈1洞

結核症14i 心臓疾患固4

癌   腫 1

肉   睡.・

老   衰1ユ 動版硬化 大動脈瘤

脳出血螺 子 剰

パンチ践病 其 の 他 1

謝11

   313

j1

2 ,8

111 1e5

  7

1

511

2

1 1

1

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2 1

3

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  2

7

4 1

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1 1

1 1

2

栓が高率に來るとは断言出來なかった.むしろ 心臓疾患,動脈硬化等に高率であるが,此の事 は血栓の成因に湿て生る曙示を与へるものと考 へられ興味深V・.

 部位別に観ると,心臓内に最も多く,叉静脹 系には動脹系より屡々血栓が観られる.心臓内 では左心窒,右心房,右心室,左心房の順であ

って,Lubarsc1162)のllLR序(右心房,:右心室,左心 室,左心房)とlik 一一致しなかった.動脹系では 大動脹に,静脈系では腸骨静脈に多い.絢注意 すべき事は第斗表に示す如く動王系血栓が斗0歳 以下に観られない事及びその.血栓が第5表に示 す如く大多数が大動脈瘤並に動脈硬化に件ふ事 である.叉結核症,心臓疾患では心臓に多く,

パンチ氏病では謙脈系に認められた.

 肉眼的形態に就て(心臓血栓に就て)

 血栓の大さは,血管内では血管腔の大さに迄

(長さは二二程でも長くなり得る)達し得る.心 臓に於ても理論王腔全休を占める大さを取り得

るかも知れない.然し心臓内血流では側行枝と 言ふべきものがない故,腔全体を閉鎖する様な 血栓が出來上らぬ中に個体は死に到る筈であ

る.然し乍らR{bbert鋤は心房では殆んど血行 を許さない位に大きな血栓が膣を埋める事があ ると言ひ,左心房で手掌二大の血栓を経験した

と言ふ.他方小なるものは殆んど気附かれぬ位 のものも当然あり得る.余の場合では心臓血栓 で最大なるものは鳩卵大であっπが,多くのも のは指頭大,大豆大盤であった.

 形態に就て.血管内血栓ではその腔の形に応 じて円筒形乃至分枝形を取るであらう.心臓内 では肉柱或は櫛欺筋の間にあるものはその聞隙 に応じて種々の形態を取る.鉤かなりに大きく 中央部に腔を有した袋欺を呈する血栓が屡々認 められた.Recklinghausen Sn、f Arnold g)等に拠 り記載され,その後多くの学者達により注目さ れた心臓腔内に遊離した球欺.血栓に就ては余の 上例には和当するものがなかったので興味ある 事項ではあるが論ずる事は出來ない(Ribl)ertS4)

参照)

 顯微鏡的所見(孟として心臓血栓に干て)

 1. 一般向勺ヲ形態

 血栓の支柱をなすものは血小板集籏である が,その多くは樹枝欺,寸心或は渦雀歌であっ て,時に肉柱聞の狭い聞口内に丁度若芽の断面 を見るやうに重なり合って排列してみる:事があ り叉同心円欺に暦をなして排列するものもあっ た.此の血小板丁丁の周辺に線維素の暦があ り,その相互の問隙にも疎に線維網がある。此 の網目の聞に白血球或は赤.血球を,時には多:量

[ 150 ]

(5)

血栓の病理形態学的研究(殊に心臓血栓に就て) 385

に時には少量に,容れてみる.白.血球は血小板 野冊の近辺に多い傾向が覗はれる.血栓の新旧 は区々であり,その申に含有されてみる血球の 変化を目標に略itその区別をなし得るが,経過 時聞を推定する事は出來なかった.有機化して みるものは15例に於て観られ,内殆んど新生組 織で置換へられてるたもの1例,旧b有機化血 栓の上に再に新たに血栓が附加形成された像を 認めしめるもの3例である.門門歌を呈する血 栓を解すると,血小板集籏は四方へ壁に沿ひ延 び,その末棺部より更に櫛歌に枝を閉すが,そ の一枝が特に長く延び,或は壁の轡曲に從って 二曲し,左右から延び來つたものがその尖端で 再び互に相接近して,内に腔を作る様な歌聖を 呈し,二次的に生じた腔は心臓壁より略it一定 の間隔を保ち,その内には血球,赤血球或は血 小板集合を容れ,時には殆んど液状物に少:量の 線維素,血球を混じたものを容れてみる.更に 之等の軟化したものもある.

 以下各構成々分に就て論じ,更に」丘L解発生野 に有機化に論及する事とする.

 2.血小板集籏

 血栓の基本的構成々分が血.小板壁籏である事 は現今多くの認める所である.Ascho仔が)は血 流が綾徐となった部下は渦巷歌叉は波動歌を呈 する部に於て血小板の粘着が起り,漸次流血中 より比重の関係で壁流を流れる血小板が之に附 加粘着して來て珊瑚樹伏或は網歌を呈し,その 辺縁に白血球を附着し,その闘に赤血球を容れ る,線維素は二次的に血小板集族の辺縁に:析出 されると言ふ.之に対しKlemensiew「,7)は樹 枝厭の根=部に於ては血管壁に先ずGutsc1Ψ3り)の 所謂線維素膜が生じ,之に血小板が附着して肥

ると言ひ,D{etrlch恥亦之を認めてみる,余の 所見に於ては,樹枝歌血小板集籏の根部に於 て,心臓壁の数個所より割合に密な線維素東が 腔内に放出され,之が合じた部より血小板集籏 が起始してみるものが認められ允が,かSる所 見はRibbert 82)も記載してみる.血小板集籏の 樹枝歌或はその乱れた渦雀厭のものを観るに,

その根部に干ては細く末梢部では太い傾向があ る.肉柱間の小隙では若=芽歌のものが観られた が,1)ietri〔 h 2g)も力砥る表現を用ひてみる.洞

門円欺に置歌に排列するものでは各暦は一般に 細くその闇隙は狭い.前述所謂門下血栓の内部 に観られる血小板集合は多くは巾広く,個々の 血小板を識別し得,血小板の結合が輩下でない と思はれるので,之は通常の血小板SC籏と 一一応 区別するのが 安当と思ふ.一一般に血小板集籏は H−E染色では淡く赤罪するが,赤染の程度は 樹枝歌の根部に干ては末嬬に比し彊く,同心円 歌のものでは強く赤染する.

 3.血栓中の白血球

 .血栓中の白一血球の分布に:就てAschoff 7)は一血 栓の形成の途中血小板集籏樹枝闇を流オtるtilL液 申に,血球の比重差による分離が起り,比重の 軽い白血球は血柱の周辺部即ち一tht小板野籏の辺 縁部を流れるが,かしる血流が血栓形成の進行 により停止されると,1血柱は分離された歌態の まXその場に閉込められる.かくして血小板集 籏の辺縁部に白血球が多く認められると言ふ.

余も白血球が血小板集籏の辺縁に多い傾向を観 たが,A: ohoffの言ふ如く白血球の血栓への参 加は機械的作用に強く影響されるものと思ふ.

然しBeneke i 〉は之に加ふるに白血球の趨化性 をも考慮:に入れてみる.

 白血球は萩鮮な血栓中では樹原形を保ってる て,血小板凹凹内部に存する僅かのものが胞休 の四壁明らかでなく,核は引延ざされた形態を 呈する.時間の経過と共に多くの白血球は胞体 の境界不明瞭となり,核濃縮或は核破壊を附し 結局は穎粒状或は詞質性に淡赤染する物質とな る,一部門白血球は前述のものに比し少し く引 く迄胞体の境界が認められるが,核融解を來し 漸次胞体も崩壊し,途には淡赤平物質となる.

興味深いのは袋歌となる血栓の内部並に樹枝二 子.小板集籏の聞に白血球が多量に集在する部に 曾て見られる白血球の変化である.前述の如き 変化も認められるが多くの白血球では胞体の境 界不明瞭となり,多少好塩基性となり核も境界

[ ISI )

(6)

386

不明瞭となり,胞体に比し多少好塩基性が強い 程度となる.かエる白血球が相互に粘着し,や がて禅学に淡く青染するやうになるが途には帯 三朔赤螺物質となる.白血球が退行性変化を起 す事は論ずる必要もないが,さて具休的に何時 閻でどの檬に変化するかに就ては明瞭でない.

森71)が血栓の生体染色実験より3〜4日で挙等 等構造硝子様の塊となると述べてみるに過ぎな

い.         ,

 4.赤血球の変化

 赤血球は一血小板集族和互のllEl並に之と心臓壁 との問に存するのであるが,Aschoff 7)は前述せ る如く,有形成分の分離した血流が停止される 結果,その軸流に当る部分に赤血球が多量に見 出される檬になると言ひ,Loeいりは赤血球は白 色血絵中へ並t流により圧し込められて存するも のであらうとしてみる.余は並L栓中に見出され

る赤血球は成長しつLある血小板集籏或は線維 素綱の中に聞ぢ込められたものと考へ労い.若 し急激に高度に血液凝団が起ると,赤血球は急 激に出來上った線維素二二に多量に閉ぢ込めら れて赤色血栓が形成される事は周知である.

 新鮮なる血栓中に認められる赤血球は原形を 保ち良干する.少しく時闇を経た血栓に於ては

白血球が変形した後でも術赤血球はかなりに良 染するのが常である。然し比較的新しい血栓中 で赤血球が相互に癒合し同質性に赤嚇する場合 もあった.血栓が古くなると赤血球は次第に染 色性が悪くなり陰影欺となり,更に進めば全く 個々の性歌を認め難くなる.此の様な変性過程

は:Beneke iS)の記載する所と略it一致するやう である。然し血栓中に於ては赤血球の崩壊が遽 かであり,硝子様血小板集籏の境や自血球集積 の近辺に於ては特に変化が張いと言ふBeneke19)

の設に対しては余の私見を差控えたい,何故な ら鏡槍所見により血栓の経過時間を推定する事 は困難であり,他の場合と比較し鄭いからであ

る.

 5.線維素の形態

 線維素の形態 こ関しては普通顯微鏡(Beneke

Is)t Al)itz 3))ばかりでなく,暗視野装置(StUbeI 1り1).Barratt i!)),レントゲン線(Herzo9−Jancke

−1:3)),偏光(1)iingern :}1))或は電子網野鏡(Wol−

pcrs−Ruska u6))ig Jl」ひて槍索されてるるが,線 維素線維はその長軸に並行して排列する小馬欺

ミセルより成るNViener Mlschk6rperであるや うである.術Wolpers−Rllska 11 )に拠れば,普 通顯微鏡では同質性に見え線維素の存在を疑は

しめる部に於ても電子顯微鏡ではミセル束を証 明出営ると言ひ,Apit砂は線維素(線維素原の 凝固せるもの)には四形態(沈澱Prezipitation,

膠質化Gelatinierun9,滴欺解離Koazervation,

凝集Agglutinut{on)があると言ふ.

 血栓中の線維素に就て考劣{する場合我々は直 接ミセノしを照する事は出斜ないが,一一特牛血中 のそれと同様構造を持つものとして我々の考察 を進め度い.余の所見では血栓中の線維素は凝 血中のそれに比し一・般に細く,より直線状に認 められたが,Wcigert「1)も之を指摘してみる.

立lt栓申と凝血中とで線維素の厭に差違がある事 は線維素形成に要する耳聞の長短による差違

(Sttibel ioi), Btl.i ratt iL ))も関係するであらうが,

両血栓の場合には流血中で線維素析出が行はれ る事をも考慮:しなければならないやうである.

 線維素が血小板集族の辺縁に多量に存する:事 は一般に認められてみるが,余の場合ではそれ が血栓の根部に於ては末棺部に比し稠密であっ た.叉前述せる如く血栓の根部に於ては心臓壁 とのmに根を張った様に線糸1一町東を観る場合が あった.更に血小板集籏そのものにも線維素の 存在が疑はれ,その程度は根部に於ては張度で

あった.As choff t;}?)は線維素のIF,現を二次的の ものと考へ,血栓根部に線維素が多量に認めら れるのは時間的に古い爲であるとしてみるが,

余の観察せる範囲内ではlliL栓末梢部は古㌔・もの に於ても線維素の稠密化を認めしめなかった.

余は以上の如き線維素の分布は二次的変化では なく,血栓の形成時より存在してみたものと考 へ,血小板集籏はむしろA1}itz :})の凝集Ag91u−

til)dtiOl)に相当する:変化であると思ふ.絢Kle一

[ a52 ]

(7)

血栓の病理形態学的研究(殊に心臓lh1栓に就て) 387

inensiewicz n ]), 1)ietrich 27)29)は血栓根部に線維 素性物質を認めると言ふに対し,Asckoff })),

Zurhelle i2i)等;は之を言昌めすとするが, Le:)gge・

nhager謁は血栓の根部に於ては線維素は血小 板の広い表面に薄い暦となって存するので之を 認める事:が出來なV・としてみる.

 血栓が古くなると線維素は染出し難くなる.

Beneke iS)は線維素は長時聞の後には特別の変 化を起さすに再び消失すると言ってみる.

 6.心臓壁と血栓との関係

 後述する如く血栓形成には古くより血管壁の 変化が注意せられてるるが,余の諸例中にも血 栓の根部に相当する心内膜に出血,細胞浸潤等 を認める場合がかなりあった.心筋暦には心内 膜出血の波及,漿液性炎,軽度聞質性炎,心筋 好塩基性変性或は線維症.乃至心筋壌死が場合に より認められたが,下等の変化は血栓二二の一 要因として原発性に存したものか,或は心臓腔 内に血栓が出來た爲に二次的に惹起されたもの か速断し難い.

 Kretz 「cs}, Wearn 111)は冠状血管灌流試験,心

臓壁の連続切片等により,Thebesius氏管が心 臓腔と二七血管とを連絡する事を確めてみる が,余も二二続切片で之を確める事:が出來た.

此のThebeslus氏管と心臓腔内血栓との関係に 就て二二つの事実が注目されねばならない.ee一一一 は心臓腔内に血栓が形成せられると共に此の血 管内にも血栓が形成せられる場合があり得る 事,第二は此の血管は血栓の有機化に際し下る 役割を演ずる事である.後者に就ては後述す る.余は数例に於て心臓腔内血栓に冠二二管内 血栓が伴ふのを観たが,その1例に於Cは二丁 切片により心臓腔内血栓がThebesius氏管を通

じ冠1伏血管に波及してみるのを確める事が出來

た.

 7,.血栓の発生論

 此処で小時血栓の形成に関する先人の報皆を 下輩に紹介し,余の見解を述べる事とする.古

くVlrchow lo9)は血栓と死後凝血との区別を充 分になし得なかったが,th乳栓形域には血流の変

化,血管壁の障碍並に血液性状の変化の三条件 が必要1であると述べ てるた.しかるに:Bizzozero が血小板を確認し,それが融合して血栓となる

事を指摘し,Eberth一.Schimmelbusch 33), Aschoff 7)

等が血流の綾徐なる部或は血流の変形(渦巻,

波動歌)のある部に血小板が比重の関係で他の 有形成分に先行して:析出される事を 確めると,

血流の:変化が重覗されるに至った.静脈合流点 に於ける渦雀発生を襯察した Jager 49)は渦雀の 中心部が圃形となる爲には血液の凝固性が昂進

してみなければならぬと言ひ,血栓形成には血 流の変化と血液凝固性昂進が必要であると言 ふ.Liideke 63)Marcus町)等は赤血球増多症と       ノ

血栓と関係ありとするが,彼等は赤血球増多の 爲血液が粘稠となり他の影響もカ1trx b血流が綾 徐となる事が主な原因であるとしてみる.

 多ζに二Manteg彪za励, Zahn i2。), Hanser 40)等は、

血管壁を障碍し或は表面二二な物質を血管内に 挿入して血栓を得,血管壁の変化を二二した.

Ribbert s2}, Ritter st;)亦血管壁の障碍を主要原 因とし,Klemensiewicz :37)ケよ血管損傷部を膠様 性膜下物が蔽ひ之に血小板が沈着して血栓が出 点ると蓮べてるる.

 第三に八代119)は二二粘着性を有せざる血小 板が或る刺戟に遇ひ粘着性となり之が凝集して 血栓が丁丁されるとし,Geissend6rfer 37)は血栓 二二には血液謡歌が充分に変化してみる二二に 血流綾徐が必要であるとした.Starlinger一一Same−

tnlk鋤は血栓症患者の血液中では,殊に血小板 荷電の減少が,他方血栓形成の見られない肝実 質病変の場合にはその上昇が認められると言

ふ.

 手術後或は外傷患者に屡々血栓症を件ふ事を 重視する二品家には,術後に観られる血液粘稠 度の上昇(Heusser 45),高浦103))或は特に線維素

原の増加(L6hr  ;1), Seemen 9r)〉, Heusser 45))の如

き血液二二の変化と共に並L行緩徐が血栓形成に

好・条件を与へると解する人が多い(S een)en 9r,),

高浦103),1・enggenhager 5 )).術Heusser 4「 }は血

管壁の障碍はiOulll(性状の変化と密接な関係あり

[ 153 ]

(8)

3呂8

と言ひ,叉手術後の血液凝固促進を二丁に帰因 せしめんとする見解( HaTtmanm 4i),愛甲1})も あり,手術時の麻酔を・問題とするN (Mulzer7:s),

志多91),高浦103))もある.

 Jakowski 5嚇1)が大腸菌の血管内注射により

血栓を得て以來Talke lo4}, Undritz i。s), Bardele−

ben n), Heller 4£), Nagoya 77,), Kaneko 「 b, Die−

trich 27)等炎症と血栓との関係を問題としてみ るが,その中炎症の際の血管壁の障碍を重視す

る人あり(Ngaoya 75),1)ietrich 27))叉急性:炎症の

際観られる血液蛋白の変化を重干する人もある

(Trautwein iO7)).

 以上血栓の威因に関する諸業績を通覧する   へに,virchow lo7)の唱へた三条門中何れかの一 下至二を重聴せんとする傾向が覗はれる1諸条 件が重り合ってみるとされる炎症,手術後の如 き場合に於ても).然し一条憎めみでは血栓は 形成されない様であるくLenggenhager r )参JIK)。

例へば血流綾徐に対しては,静止血液は必しも

凝固するとは限らす(:Baumga了ten 14)、 D〔Iri119粉 の血管二重下野実験),Eberth−Schimmelbuschい,

Aschoff ti)7>の実験的血栓は血管壁の障碍され た部に生じてみる.次に血管壁の変化の著しい 大動脹硬化の際必しも血栓が件ふとは限らない

(余の統計に於ては高率ではあったが).第三に 全身血液の凝固促進欺態は血栓形成に準備歌態 を与へるかもしれないが,Aschoff s)の言ふ如

く血栓が下野身の静脈系に多い事も考慮に入れ ねばならない.かくて我々は一応質的に相異な る三条件中何れかの二つが重なりさえずれば,

それで血栓が出門ると言ふ見解(三洋の原因よ り一一つの結果:が生する)には直ちに同じ難いも のがある.

 翻って考へるに,血栓の基本をなすものは血 小板集籏である.故に血栓形祓の条件とは血小 板を凝集せしめる条件であると言ぴ得る.血流 を重親した丁々は,血小板が血液有形成分の比 重的関係で二部に集まる:事を根拠にしてみる が,軍に集合したのみでは血栓を作らない事は 周知である.そとでJager 4g)は同時に血液凝固

性の上昇を要すと言ひ,Salinger−Sametnik 98),

Tannenberg i。5),八代19、等は血小板が粘稠性、と

なる或条件を必要とすると言ふ.しかるに

:Barta一一Jakob i3)は線維素原が,その血小板を凝 集せしめる作用により,血栓形成に大きな意義

を有すると言ひ,1・enggenhager 5Y)は新生線維 素が粘着性を有し血小板を凝集せしめる事より 血液凝固と血栓形成とは同一過程であるとして

みる. , Apitz 3)は線維素或は前線維素(Profibrin)

の存する所では血小板のみならす,吸着性物質 が凝集して來る事を認めた.余の所見で血小板 集門内にも線維素の存在を覗はしめた事及び血 栓根部では壁との間に細い根を張ったやうに線 維素束を認めた事を参考にする時,心臓壁或は 血管壁の三部に先ず線維素或は前線維素が生 じ,此処に血小板が凝集して來て血栓を形成す るものと考へられる.血管壁の変化は障碍され た組織よリト・ムボキナーゼを遊離せしめる点 で大きな役割を演ずる.血流の緩徐があれば,

遊離した酵素が血流により稀薄化される事がな いので,その作用を遽行ずるに好条件を与へ,

他方血小板を壁流へ齎らす.血液性歌の変化は 血管壁に変化を生ぜしめる必要条件となり,或 は線維素又は前線維素形成を蓮進ずる.Schtir−

mann−Mac MahOn 94)は血管に於ける所謂Dy−

sorieの結果として血栓が形成されると言ひ,

余も屡々.血栓の根部に相当する心臓壁に出血,

細胞浸潤,内膜胞厚,線維素様変二等を認め,

叉心筋壊死に続いて血栓形成を観た例もあっ た.Schqmann−Mac Mahon鋤はDysorie(血液:

組織境界Blut−Gewebsschrankの障碍:一種の 血管壁の障碍)には原因的に伝染性,細菌性,

化学性申毒性,抗原抗体及び循環障碍が問題と なると言ふが,余はth> Xる要因に因り惹起され た変化により,血栓形成に於ては障碍された組 織から血液中に遊出される血液凝固酵素の作川 する点を特に重視し度い.以上の如く考へると,

Zahn以來行はれた実験的血栓形成は当然であ り,炎症の場合血栓を生じ易い事も読明され,

叉二重結紮のみで血栓形成を見ない事も明らか

[IM]

(9)

血栓め病理形態学的研究(殊に心臓血栓に就て) 389

となる,一言附加するなら,Dtiring 32),1,0eb 60>

は二重結紮した一部血管を讐血液凝固酵素中に 入れ,或は結紮部に組織浸出液を注射し.叉

Derewenko P6)は壁の障碍された:或は腔内に…異 物を挿入された血管を結紮して,夫々血栓が生 ぜすして血液凝固を観るだけであると言ふが,

之は線維素析出と同時に血小板が次々に供給さ れる様な血流がない爲と考へれば当然理解が出 來る.逆に血液が凝固しない条件下では血栓を 形成しないと言ふ報告は我々に一つの支持を与 へて臭れるものと考八る.古くよリヒルヂンの

効果が言々せられ(S traaten ioo), Sah1{99))近時 Best 2 })Sl)等はヘパリンを用ひ, Allen 2)はデキ

ュマロ・・ルで血栓を防止し得ると言ふ.

 剖検材料で血栓の形成過程を追及する事は出 來ないが,余の所見より恐らく次の隊に発生し,

面長するものと推測せられる.先ず前記の様に 線維素或は 前線維素が析出し血小板が凝集す る.一旦根部が出來上ると,依然血流綾南が存 在する場合には,より少量の線維素或は前線維 素の混在の下に血小板集籏は成長する.而して 線維素或は前線維素の濃度が,最:早出t小板を凝 集せしめ得ない程度に迄,充分低くなった時そ の成長は停止される.故に血小板集籏の末棺台 では線維素は少く認められる.白血球はその比

:重の関係により血小板集籏の周辺に集まり,赤 血球は血小板集籏の間に,その成長に從ひ閉込 められる.初めの聞は血小板の凝集が主として 行はれ,かなり大きくなって赤血球の参加が観 られる.それに応じて血栓に白色,赤色並に混 合型の別が出藍る.袋朕血栓の場合では,血小 板集籏が四方に拡がり末面部で再び相合し,中 央部に腔が作られる.此の中宮;部では輩に閉込 められた血液が凝固してみるのみか,:或は血小 板集合の形態を取った物質を容れてみる.袋歌 血栓は血管の如く血流方向が軍純で内腔直径が 充分大きくない所では形成されす,人体心臓の 如く腔がかなりに大きく,肉柱,乳嚇筋或は櫛 歌筋の爲血液が複雑な歌態を取る所に於て初め て形成されるものと思考する.

 8.血栓の転帰

 A.自家融解並に袋歌形成

 血栓の転帰として先ず考へられるのは自家融 解である,之に就ては一部前述したので此処で は簡軍に総括する事とする.血栓内に包含され た白血球,赤血球は漸次変性を起し三二し二二:

欺物質となる.一方線維素網はその染色性を失 ぴ,所謂線維素融解を起すやうになる.之には 白血球より遊離した酵素が関与するものと考へ られる.然し血小板集籏はかなりに抵抗性が強 く元形を比較間永く止めてみるが,周囲の血球,

乱心素が微細顯粒状となると,聞接的にその形 態を支持してみた力がなくなり途には崩壊する

ものと考へられる.

 特殊な形態として袋ナ伏血栓の形成に就て一言 する.所謂球朕血栓はBeneke恥, AschQff G)等;

何れもその申央部より軟化の起るものである事 を認め,掩neke 1ト)は他方その周辺に血栓が新た に附加形成されて大きくなると言ひ,Aschoff a)は血栓性血小板集籏が壊死に陥ると血栓周を 流れる一血漿より線維素が之に沈着して來る.か くして血栓の外周は張化されるが,深部へは血 漿中の線維素原が入るのを阻止され,血栓の申 央部は多少二二団過程が行はれす,その爲辺縁 に比し軟くなると言ふ.袋歌血栓では事情が幾 分異なるかも知れないが,余の所見に於ては將 來袋状血栓となるものは,初より中央部に白血 球を,時には血小板の疎な集合,赤血球を認め,

次いで白血球が独特な変性を起して軟化を促 す如き像を認めた.他方血小板集籏は二二の如 く,四方IC一・一旦延びたものが再び末二部で祁合 し,中央部に腔を作る檬に排列し,次々に周辺 に附加形成された像を認めなかった.更に血小 板闘乱の排列と無関係に血栓中央部が軟化した と思はれる様な所見に接しなかった.以上の点 より余は濡歌血栓は初より,將來袋猷となるべ く運命附けられて形成されるものと考へた.

 B.血栓有機化

 a)細胞成分.血栓有機化に際し血栓内に侵 入する細胞成分に関する先人の報告を見るに,

[ 155 ]

(10)

390

Heukin9−Thoma 44)は血栓と壁との間並に血栓 内部の隙穴及び血栓そのものの表面を血管内皮 細胞より檜尽した細胞が蔽ひ,之に結合織新生

が続くとし,:Baumgarten ir), pfitzer 7S), Beneke 17)19 )は内皮性細胞のみならす,中一外一門結合 織も血栓有機化に参力1すると言ふ.藤本鋤は血 栓内に閉込められた自血球或は淋巴球の一部が 有機化細胞に変態し得ると主張してみるが,森 71)は血栓の生体染色により之を否定してみる.

Aschoff fs)は有機化組織の像は肉芽組織のそれ と同様であると言ふが,Ilueck 40>  )に拠れ1ゴ 増殖性炎の組織増殖は特に血管結合織成分の新 生が本質的のものであって,新生幼若結合織は 網歌排列をとるとし,血栓有機化の際には既存 の血管内皮細胞が合胞性細胞索に参加したと考 へられる像を認める場合があったと述べてみ

る.Siegln 9 ;)は内皮細胞下心内膜層を.疎な粘 液性結合織である点より,闇葉性胚芽暦(Mese−

nchytnales Keimlager)と記載し,心臓血栓の有 機化は此の層より起るものと見倣してみる.

 余の所見に於て,主として有機化組織を構成 してみるのは胞体の細い紡錘形細胞であって,

合胞性の細胞索をなし,多くの場合旧心臓壁に 略e垂直に,有機化の進行方向に一致して排列 し,広狭種々の網目を形成してみる.此の網目 の申に核円形で染色質に富7ト,胞体梢ζ好塩基 性を示す細胞,胞体が大きく類円形で泡沫状を 呈する細胞(屡々赤血球を貧喰:してみる)或は 多核白血球,時には赤血球を種:々の程度に容れ てみる.遊走性細胞が合胞性細胞索に少しく先 行してみる場合もあったが,遊走細胞が多く認 められる野牛にありては心臓壁に於ても此の種 の細胞に似た紐織球が増加してみた.有機化は 血栓が壁に接着してみる部位,特に血栓が初め て形域された所より行はれるが後には心臓壁の 広い範囲から進行した像を呈するやうになる.

一一綠ラ胞索は血栓塊の表面を蔽ふ傾向が強いら しく,表面を蔽つた後内部に侵入する像も観ら

れる.

 以上の余の所見,先述Siegemund 96)の説を

参考とする時,余は血栓の有機化には,未分化 な歌態で保持されてみる間葉性の心内膜内皮下 紐織が先ず参加するものと考へ度い.倫最初に 心臓壁に血栓が析出した:部位に於て有機化が多 く認められるとはRibl)ert qL i)も指摘してみる所 である.

 b)血管新生,炎症竈に於ける血管再生に関 してArnold :)は先ず既右の血管より織細な原 形質突起が延び,次いでその中央部が融解し腔

tL作り血管を形成すると言ひ, Yamaglwa 117),

Clark 2r}), JSenminghoff i9》, Mau ( hand 6S)もかか

る原形質性血管芽を認めてみる.之に対しMi−

nervini 70), Hueck勒佐々木a・o)は術その他tz胎 生期に間葉細織内で出罷ると同様に聞葉性紅織 内ての血管新生をも認めてみる.

 血栓有機化の際には既存固有.血管内皮細胞の

態度カミ更ほ山門題となる. Het;kitig−Thoma引) t

血栓表面並に血栓内部1こ血栓の牧野によって生 じた子等を固有血管の内皮細胞が蔽ひ,之より 更に二丁群塊中へ内皮細胞管腔iが入り,栄養血管

より延びて來た血管芽と結合するに到ると言 ふ.Baumgartenも血管疏通Rekanalisationと 血管新生Vaskularisatlo11の両機転を見てみる.

(Die枕ich 25)に拠る).森71)は心臓血栓の有機化 の際には一血管は心筋暦の毛細管より延び,血管 疏通はないものとしてみる.

 余の所見に於ては,心臓壁の既存の毛細管の 麺長としての血管侵入も認められたが,他方細 胞索の一部が細い,略e・一つの方向を持つた管 膣を作るやうに侵入して行くのが認められた.

之は門門血管となるやうである.(Belleke助も 線維芽細胞が管腔iを作る様に排列するのを認め てみる).叉注目すべき斯見としてThebぞsiuト氏 管より流血が入り込み,心臓壁と血栓塊との 悶,或は血栓塊内部で旧心1藏壁に近き部に赤血 球を容れた洞様構造を造り,その壁は一寸の内 皮細胞で蔽はれてるる像が屡々認められた.而 して之等の血管,血液洞は血栓を貫通し,個有 心臓腔と再び交通する場合もあった.

 余は此処で 1 hebesiug・氏管と連続しての洞

[ 156 ]

(11)

血栓の病理形態学的研究(殊に心臓血1栓に就て) 391

様構造並に之よりの管腔延長を特に注意して置 き凹い 此の様にして職ebes沁s氏管と心臓腔 との聞に血栓塊を通過した交通が行はれる事は 冠状血管の血行にとって,血管血栓の血管疏通 と同様の意義を 有するもので,心臓機能にとっ ても有意義な機転と:、思はれる.樹洞門:購造をと る事は漿膜炎の際にi漿膜面の内皮細胞の一部が 浸出物の小腔或は旧漿膜面と浸出物との闘隙の

表面を蔽ふと言ふ所見(March:tn(1 c ・fi))と相通す

るもののある事を附言する.

 C)嗜銀性線維.此の線維に関する從來の諸

家の見解を述べると,Ferg〔uson:15), Ludwig Gg),

Orsos 7t;)は細胞内でその表面に,:或は外原形質 内に出來ると言ふも,Maximow的tlf}), Doljans−

kl−Roulet物は組織堵養所見より,細胞より周 囲に及ぶ干る影響の下に,細胞を取巻く膠質 に変化が起って線維が発生すると述べ,紺織 培養と有機化血栓の観察とを行った金子一保野

「:})も亦之に同意してみる.:Huze11a勒は緻維は

細胞の独自な分泌物として細胞の移動した跡 に形成されて行くが,伺その他に牽引作用によ り二i次的に細胞聞質,或は細胞の物質代謝産 物等より作られるであらうと言ふ.Studnicka 鋤は結合織並は軟骨に.於て斯謂細胞と言は れるものは内原形質細胞End1}lasmazellenであ って,全細胞Geq, .tmtzellenの他の成分即ち外 原形質Exoplas maは基質としてその聞にイ∫在 し,細線維の形成は此の基質の中で行はれる と言ふ.Ranke 7!りの一葉学説(間葉組織は最 初は無核で,後になって有核の原形質網とな ったもので,形態的分化として細線維形成が その中で行はれ,化学的分化として細線維よ

り膠原性並に弾力性線維が形成される)に続 いた:Hueek 41;)47>の学読では,細線維は一つ には紡錘形細胞の原形質より直接発生し,第二 に・は膜様の境界層Grenzschicht(外原形質:常 に新生し漸訳初めの原形質より離れて独立せる 細胞聞質となる)に生するとされてみるが,第 二のものが重視されてるる.1 aitselP〔1)は細線 維は基質中に生するも,基質の発生を胎生期細

胞の細胞聞分泌物に求めてみる.術線維素より 嗜銀性線維が形成されない事は今厨多くの学者

の認める所であるが(Maximow 69), Doljaiis ki−

Rottlet :io)), Nageotte_Guyon 7A)は或る条件下で

は線維素も嗜銀性を獲得すると言ふ.

 Ebne押)は線維は細胞と無関係に成長すると 言ぴ,We〒depreich i i2、は独自の物質代謝を営む

とし,Hueck  i), Marchand tic,)は独自の生命を

有すると主張してみる.然しHuzella杓は物質 代謝に関係するも生命を有しないと見倣してみ

るやうて( ある.

 MaximOW晦に拠れば嗜銀性線維は時悶の経 過と共に多くなり,太くなり,並行に紐欺に或

は東封ノこに排列するが,やがて嗜控性を失ひ好酸 性となると言ぴ,Ranke 79), Hueck 46) 7、は嗜銀 性線維が二二Iapriigptttionにより膠原性線維と なると言ふ.

 余の場合に於ては嗜銀性線維は最初の合胞性 細胞索が侵入する時より,既存の線維と蓮絡し て延び,大体細胞の侵入:方向に一致した方向を 取るが,之を小部分に就て観ると,凹凹に,束 欺に或は並行に排列してみる.更に鉄ヘマトキ シリンで重湿して槍すると,線維は青染膜様物 中に抱含されて認められる.M allory氏染色並 にMasson氏染色標本では線維を含む膜様物も 淡く青回して認められ,此の膜様物によ1)形成

される網目中に細胞成分は赤味を帯びた四丁を 伸展してみるか,或は円形の胞体を認めしめ る.細胞侵入の最前線に於ては嗜…銀性線維は非 常に繊細に見える.鉄へVトキシリン重染色で は他に共染物質がある爲構造を明瞭に認めしめ ない.MassOn氏染色標本では侵入じた細胞の 周辺に僅かに青染物を認める事あり,認め難き 事あり,又かなり隔った細胞索の間を膜様物が 張り渡された様に見える・場合もあっだ,以上の 所見より,線維は細胞侵入に作って入り込む細 胞聞質に抱含されて成長して行くものと解釈出 來るやうである.

 次に余は,血栓有機化に際し,細胞索の聞に 線維素性物質が比較的永く取残された像を認め

[ 157 ]

(12)

392

る場合があった事,而も細胞侵入なき部の線維 素が線維と無関係に存し,何等その形成に直接 参与し7aと思はれる所見に接しなかつ六事よ

り,線維素よりの嗜銀性線維形成は無いものと 断ぜざるを得ない.但しMarch[md粉は線維素 の存在は結合織並に血管新生を促すと言ひ,

Ribbcrt s4)は心臓血栓有機化の際紡錘形細胞が 線維素の走行に滑って侵入するとし,余も線維 素の走行に沿っての細胞侵入を屡々観たが,之 はかかる固形成分を足場とし細胞が侵入する傾 向を示す結果此の様な像を呈するものと思はれ

る.

 かなり時聞を経過し7e血栓有機三部では膠原 性線維が認められる.かかる部分では嗜胃性線 維は密となり,或は太くなってみる.時下的に 蓮;続的に観察しない断片的な所見より直ちに両 者の関係を云々する事は困難であるが,相互の 位置的関係より見て嗜野性線維が分化して膠原 性線維となり得ると言ふ論は安当なりと信ぜら

れる.

 d)粘液腫:様像.余は何回も反復して血栓が 形成され,その都度有機化が,時には充分に時 には不充分に進行したと見倣すべき1例に於て

,周辺部は通常結合織の欺を呈するが,内:部に 於ては非常に霧粗な組織を認めた.此処では合 胞性細胞索は広い細目を作り,その網目内には 部位により赤血球,遊走細胞(時には赤血球を 貧回してみる〉を少量に認めるに過ぎないが一 部では団塊歌の二巴硝子様物質並に極少量の線 維素様物質(之は恐ちく初期血栓中の血小板集 籏と関係があるものであらう)を認める.淡赤 門或は淡紫染物質は認められない.嗜銀性線維 は織細なものが基質中に少量認められる.此の 主な所見は心臓の粘液腫の構造の記載(Ribbert Sl))に一致するやうである.

 Bre鋤er幼に拠れば二言胃心臓粘液腫は血栓の 生じ易い所に好発するとし,叉その本体に関し てThoreP鋤は少く共その一部は血栓有機化と

関係ありとし,Kir(h鳥5), Milller・72)(第1例}等

粘液腫を眞の腫瘍と解する人も血栓との関係を

全くは否定してみない.:Beneke 18)は右心室に 於て,細胞成分少き乳川州の甚だ繊細絨毛欣の 形成物を,叉左心室に於て,底広く細胞成分に 富み血管多き形成物を観,之等形成物を芽細胞 腫(Blastom)として解釈するより,血栓疲痕と するを安当と思ふが,決定的な事は言はれない としてみる.野冊は,恐らく数10年聞持続せる 心臓搏動に因る牽引が,以前の疲痕組織を漸次 芽細胞腫に変転し得る可能性は確かにあるとし てみる.之に対しRibbeTt s9)ぱ所謂心臓粘液腫

を眞性の腫瘍であるとし,種々の点より血栓と の関係を否定せんとしてみる.余の前記所見で は眞性の腫瘍とは看倣されないが,粘液腫とし ての所見と一応酷似してみる.

 有機化学栓の一部が呼野にして此の様な像を 呈したかは設明し難いが,上記論宰に寄与する 所見と言へる.

 e)石下化.余の所見に穿ては,心臓血栓に 石工沈着を観たものは2例であったが,何れも 有機化の行はれた領域内の血小板集籏に側てで あった.而して石友化物質の周囲には別段特殊 な細胞を認めす叉線維が特に強く之を取巻くと 言ふ像も認められない.

 病的下汐(沈着に就ては一般に壊死性物質,凝 周産物硝子様物質乃至吸牧困難な病竈に起る

とされてみるが(Gierke rt ), Aschof「f)), X V eHsl t4),

Schinidt igt)),余の所見よりすれば,有機化に際 しその抵抗大なる爲新生組織内に取残されたエ血 小板集籏(thl栓の自家融解に際し血小板集解が 抵抗大なる事は前述したが,有機化の際も之が 新生有機三組織内に取残されてみる像に屡々遭 遇した)と周囲組織との聞に物質交換が行はれ る時,血小板集籏に三友沈着が起るものと考へ られる.但し此の様な関係を静脈石形成過程(余 の経験せる吟声脹石に於ては,此の静脹に出町 た血栓全体が二次的に硝子様となり,之に興野 沈着を招回したと解するを門門と考へられた)

に直ちに適用する事は出罪ないと患ふ.

 尚石二化の機序に関しては局所にイ∫在する脂 肪酸が関係するらしいとされてみるが(Schmidt

[ 15S ]

(13)

血栓の病理形態学的研究(殊に心臓血栓に就て) 393

93},Wells勒115)),余は脂肪染色を行はなかっ たので此の点に関しては言明出來ない.叉Wells 115)に拠れば血栓石二化紅織の化学的構成は

Mg3(PO,)2・・一…1.1/O/o, CaCO3・・・…11.9%, Ca3

(PO4)2……865%であると言ふ.石二化竈の三 友が時には再吸牧され,時には持続され或は更

に進んで骨化の起る事は当然考へられるが,余 の場合には骨化した竈は認められなかった.

 f)特異細胞集合小竈.余は15有機化心臓血 栓例申2例に於て伺心臓壁に近い血栓有機化組 織内部に,細胞の核は円形で濃染し,染色質の 構造を認め難く,胞体は多くは小,一部はかな り大でTfj it好塩基性を帯びて二丁する細胞が集 合してみる竈を認める事が二七た.かかる竈は 三生血管に近接し,一竈を形成する細胞数は一 切片では約20個位であった.再に他の一例に於 ては,かなり広い範囲に亘り細胞集合した竈を 認めた.後者の細胞は前者のものと似てみる が,二丁小なるものが大多数で,胞体の割合斜 なるものは竈の辺縁部に認められたが,かかる 細胞は網状細胞索の間を占め,所々細血管を認 め,此の部の嗜銀性線維はかなり太く.膠原性 線維は殆んど之を認めしめす,全体として淋巴 装置と極めて類似した像を呈してみた.

 前者2例に観られた細胞集合小竈の本体に関 しては明確な事は言へないけれども,一見胎生 期の造血竈のそれに酷似してみる.文献を参照 するにLiideke 6:])は古b頸静脈血栓の幼弱肉芽 組織内で,ROulet 8呂)は有機化心臓血栓:内で,叉 Riopelle 6)は有機化し一部は粘液腫化した血 栓に於て,夫々造赤血球竈を観たと言ひ,LU−

deke G:;), R⑪ulet ss)は間葉性細胞が,かかる部 分に未分化二三で存し,或種条件下に分化し,

此の罪な竈を造るものと考へ,:賦deke働はそ の条件としてヘモジデリンの存在を重視するに 対し,Roulet ss)はその存在は本質的条件に非す

して,必要条件の一をなすものであらうと言ふ.

余の場合得たる所見から之を造赤血球竈と断定 する事は困難であるが,果して造赤血球竈であ るとすれば,聞葉性組織の異所に起つた一分化

形態と言ふべきであらう.後の1例に観られた 淋巴様竈に関しても明実な事は言はれないが,

此の場合では或は心外膜に張く観られた小円形 細胞浸潤と関係あるかも知れない.

 g)疲痕:化.血栓:二二に侵入,形成された肉 芽細忌中にやがて膠原性線維が増加し,新生 並L管は少くなり,細胞は結合織細胞の形を取る 様になり所謂疲痕化するに至る.余の場合に も,小さくなった線維性組織が欄長筋の間に懸 垂してみるのが認められた.

 h)有機化小括.上述せる有機化の所見を小 括すれば次の如くとなる.血栓が心臓壁に接着 する部より,心臓壁から延びて來た合胞性細胞 索が侵入して行く.而して此の細胞索の間には 時には白血球或は組織球性の細胞を認める.

細胞索は血栓塊の表面を蔽ふ傾向が強いらし く,表面を蔽ふて後血栓内部に侵入する像も観 られた.細胞索は一部では略e一つの方向を持 って侵入して行き,之に管腔が生じ將來血管と なる様な像を呈し,他方心臓壁の既存毛細管の 延長としても血管は入り込む.叉血栓表面と 心臓壁との聞隙にThcbesius三管を通じて赤血 球が入り洞様構造をとるのを屡々観アこ.嗜銀性 線維も心内膜内皮三島の既存の線維と連絡して 延び,細胞索の侵入の最前線に近い部では屡々 非常に細く,新生血管の周では多b.かなり有 機化の進んだ例に於ては膠原線維が認められ

る.再にかなり古い血栓例に於て粘液腫檬像を 認め,叉2例の有機化血栓に造赤血球竈と酷似 した竈を,他の1例に点て淋巴組織様像を認め た.余の場合血栓の三友化は有機化の際取残さ れた血小板集籏に於て認められたが,骨化は認 められなかった.

 余の所見では内皮細胞が有機化新生組織へ移 行したと思はれる像を確認二二なかった.他方 有機化は血栓の心臓壁に接着せる部位より行は れると解すべき場合が多かった事より,心内膜 内皮細胞よりの移行があるかも知れないが,む しろ二二の有機化には未分化な歌態で保持され てみる間葉性の心内膜内皮下組織が先ず参加す

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(14)

394

るものと考へ度い.但し血栓が古くなれば心臓 壁の広い範囲より有機化が行はれ,他方洞檬構 逡形成には内皮細胞が関与すると考へられる.

前述有機化組織像はAschoff 6), Hueck 47) ¥の言 ふ如く一般の肉芽組織のそれと同様であって,

血栓内に閉込められた白血球の一郡が有機化に 直接関与する様な所見には接しなかった.造赤 血球竈に酷似せる細胞集合小憩は余の場合断言

し難いが,果して造血竈であるとすれば,かか る未分化間葉性組織の異所に起つた一分化形態 と言ふべきであって興味深い.

 9.肺血管内血栓

 以上の所見は心臓内血栓に関するものである が,血管内血栓を観る爲肺血管内のものを検し た.以下簡軍に前者と比較しFfl見を記述する.

 血栓は多くは渦巻歌を呈してみるが,之は検 盗した血管が多くは横断された爲此の様な像を 呈したものと思はれる.縦断像は恐らく幾分之

と異なるであらう.並pJ・板二二は多くの場合細 く,その間隔は広狭種々である.槍二二は古い 血栓が多く,赤血球,白血球の変化は区々であ

るが,赤血球は時には祁癒合した像を呈してみ た.白.血球の変化は心臓に於けると同隊であ る.血栓への赤血球の参加が多い.線維素は多 くはWeigert氏染色性が悪い.壁に出血,細胞 浸潤が稀に認められたが,血栓の発生との関係 はあまり明確ではない.有機化したもの多く,

かなりに太い嗜銀性線維を含んだ細胞索が侵入 してみる.旧血管壁と有機化血栓との聞に腔を 有し,嗜銀性線維を俘つた細胞で蔽はれてるる 像を屡々認めた.

 実 験

 余は前記の如き拍t栓の発生条件に関する見解 に基き,血栓を形威せしむると共に,更にそ の有機化を日を追って観察する目的で,家兎 一血管を用ひて実験を行った.実施条件として

6

建綱経助管狭窄矯蜜耀ン轟遂

    

5左i1 日 L一)

2左12 日 (一)

10左13日 (十)

〃 右1 〃  (+)

1左i1週 (+)

〃右11週 (+)

   i

O.3 0.1 0.3

O.2

     c一)

     (一)

     (一一)

O.5 1 C一一)

L5 1 (一)

   一部有機化せる     赤色血栓 3 左12 週 (+) 0.1 白色血栓

4 左国 週   「

(+) (一)

〃 右1 〃 (+別 0.3 自色血栓

9 左 6 週   ← (+)} 1.5

i 赤色血栓

6右i8週

一    (+) 11・5

但し第1号右は予め縫合針で2ケ所血管壁を貫通した,

は,耳血管に若州を起さしめ,その末梢側に 血液凝固促進作用ある牛肺浸出液(祠玉谷」 S>の方 法に拠る)を注射した.対照実験として血管狭 窄のみ,肺浸出液注射のみ,及び血管狭窄後リ ンゲル氏液注射を行った.血管狭窄は先ず静脹 を露澱せしめ,之を%注射針と共に結紮しプこる

後注射針を抜き取って起さしめた.成績は第6 表の如くである.対1照実験が何れも血栓を認め しめないのに対し,血管狭窄と肺浸出液注射と を併用せる場合には5例中4例に血栓を襯た.

第6号右側の場合は出血甚しく制定困難であっ た.此の実験より,血流緩徐のある部位va tht液

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(15)

ifR栓の病理形態学的研究(殊に心臓血栓に就て) 395

凝固促進性物質が作用する時,血栓が形成され る事が判る.人体の場合には線維素酵素は,障 碍された血管壁より供給される故,血管壁の障 碍も必要と思はれる.然し乍ら線維素析出が血 小板を集籏せしめ血栓が形成されると言ふ余の 見解は一応此の実験により裏附けられるものと

信ずる.

 次に血栓の有機化を追及する爲,相当の間隔 を置いて8週間迄に摘出槍査したのであるが,

1週閉後の血栓が有機化してみるに反し,4,6 週聞のものに有機化が認められなかった.之に は縫合針による血管壁障碍が関係してみるかも 知れないが,明確な事は言はれない.兎に角有機 化に関しては何事も論ずる事は出來なかった.

総括並に結論

 余は金沢大学医学部病理学二二に於ける剖検 例を材料として血栓に関する研究を行ったか,

その成果は次の通りである.

 1>大正10年より昭和17年に至る22年間の心 臓並に大血管に於ける血栓槍法i率は1608例中11 3例,7.0%,性別に観る時は男性6.5%,女性7・9

%.年齢別には別段差異は認められなかった.

疾患別には心臓疾患,動脹硬化に高牽に合併し,

結核症,癌腫では平均率と略ζ同率であり從來 の見解とは一致しなかった.部位別に観る時は  ノ心臓に最も多く,動脈系は静脈系に比し少なか った.部位別を更に年齢別,疾患別に観る時は,

動脈系血栓が40歳以下に見られなV・事,動脈系 の大多数が動脈瘤並に動脈硬化に件ふ事,並に 結核症,心臓疾患では心臓に多く,パンチ二二 では静脈系に認められる二等が知られる.

 2)心臓内血栓の顯微二二所見の大要は次の 如くである.血栓の支柱をなすものは血小板集 籏であるが,之は樹枝歌,渦1巻1伏:或は同心円状 を呈し,樹枝欺のものは根部に於て紬く,末梢 部は太く,渦雀状同心円欺のものでは一般に細 い.白血球は核濃縮,核破壊,核融解,或は胞 話好塩基性心乱の変性過程を経て,赤血球の変 性産物と共に淡赤絹穎粒歌物質となる.血栓中 の線維素は一般に細く直線歌であって血小板集 籏の周辺に多いが,血栓の根部に於ては末柵部 に比し濃密である,叉血小板集籏中にも,特に 根部に於て多量に,線維素の存在が覗はれる.

心臓壁には内膜出血,細胞浸潤等の:変化が観ら れた.二二血管内に血栓が及ぶものもあった.

 有機化は血栓の心臓壁に接着する部,屡々根 部,より初まり,血管,遊走細胞を二つた結合 織が入る.嗜銀性線維は心臓壁の既存のものと 蓮議して延びて行く.有機化された部の血小板 集籏に石友化するものがあり,又:有機化組織中 には粘液腫様組織,淋巴様組織,特異細胞集合 小二等が認められた.

 3)血栓根部に於て線維素が濃密に観られ,

血小板二二中にも線維素の存在が覗けれる余の 所見,Ap{tz等の血小板凝集が線維素或は前線 維素の存在の下に起ると言ふ実験及び見解,並 に:Best, Allen等の凝固阻止物質による血栓の 防止等を参考とする時,血栓は從來より言はれ た三原因的要約に伴ひ線維素の析出が起り,そ の爲流血申より血小板が集信せしめられて形成 されるものと考へられる.

 4)袋欺血栓は初より忌月犬になるべく蓮命づ けられて形成されるもので,心臓の如くかなり 腔が大きく,血流の複雑な部に於て初めて形成 されるものである.

 5)心臓血栓がThebesius氏管を通じ冠歌血 管内に波及するものがあり,叉Thebesius氏管 は血栓の有機化に際し血管新生に一役を演ずる 事を認めた.

 6) 血栓有機イヒレよ 心内膜内及こ一ド糸紬織より起る

聞葉性組織反応であって,その像は一般の肉芽 組織のそれと同様である.

 7)血栓有機化に際し,新生組織内に取残さ れた血小板集籏と,周囲組織との間に物質交換 が行はれるやうになった時,其処に三友沈着が

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