• 検索結果がありません。

統合失調症治療における持効性注射剤の役割と今後の課題 藤田保健衛生大学医学部精神神経科学講座 *1) 藤田保健衛生大学医学部臨床薬剤科 *2) *3) 名城大学薬学部病院薬学研究室 波多野正和 *1,2,3) 亀井浩行 *3) *1) 岩田仲生 コントロールドリリースの臨床的価値と新たな方向性 Th

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "統合失調症治療における持効性注射剤の役割と今後の課題 藤田保健衛生大学医学部精神神経科学講座 *1) 藤田保健衛生大学医学部臨床薬剤科 *2) *3) 名城大学薬学部病院薬学研究室 波多野正和 *1,2,3) 亀井浩行 *3) *1) 岩田仲生 コントロールドリリースの臨床的価値と新たな方向性 Th"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

D S D

藤田保健衛生大学 医学部 精神神経科学講座*1)・藤田保健衛生大学 医学部 臨床薬剤科*2)・名城大学 薬学部 病院薬学研究室*3)

波多野正和

*1,2,3)

・亀井浩行

*3)

・岩田仲生

*1)

統合失調症治療における持効性注射剤の 役割と今後の課題

The role of long-acting injection in schizophrenia treatment and future challenges

Long-acting injection is a controlled release agent, which was designed that stable blood concentration is provided by giving it once in two to four weeks. Schizophrenia treatment is essential to long-term medication. So, LAI is one of the useful therapeutic strategies. Although traditional LAI had the strong negative impression to be forcibly used for the patients with the refusing medication and the lack of insight into disease, LAI of second-generation antipsychotics are expected to maintenance therapy for the outpatients with Schizophrenia. While psychiatric medical care is shifting from hospitalization to outpatient department, and a role of LAI is important in social rehabilitation. Here, we outline to the clinical importance, characteristic, and future challenge of LAI in psychiatric treatment.

 持効性注射剤(LAI)は、2~4 週間に1 度投与することで安定した血中濃度が得られるように設計 されたコントロールドリリース製剤である。長期的な服薬継続が不可欠な統合失調症治療において、

LAI は有用な治療戦略の1 つである。これまでの LAI は拒薬や病識がない患者に対して強制的に使用 されるという負の印象が強かったが、第二世代抗精神病薬の LAI が上市されるとともに外来におけ る維持療法としての役割が期待されている。精神科医療が入院から外来へと移行しつつあるなかで、

社会復帰という観点からも服薬の負担から解放される LAI のメリットは大きい。本稿では、精神科 領域における LAI の臨床的意義と各薬剤の特徴、今後の課題について概説する。

MasakazuHatano*1,2,3),HiroyukiKamei*3),NakaoIwata*1)

Keywords: long-acting injection, schizophrenia, antipsychotic agents, adherence

コントロールドリリースの臨床的価値と新たな方向性

*1)DepartmentofPsychiatry,FujitaHealthUniversitySchoolof Medicine,Toyoake,Aichi,Japan

*2)DepartmentofClinicalPharmacy,FujitaHealthUniversitySchoolof Medicine,Toyoake,Aichi,Japan

*3)OfficeofClinicalPharmacyPracticeandHealthCareManagement FacultyofPharmacy,MeijoUniversity,Nagoya,Aichi,Japan

1.はじめに

 統合失調症は10代後半から20代に好発する慢 性的な進行性の精神疾患であり、生涯有病率が 約1%であることから「ありふれた疾患(common disease)」と考えられている。本疾患の主な症状は、

幻覚・妄想・させられ体験などの陽性症状や、自閉・

感情鈍麻・自発性欠如などの陰性症状、注意散漫や 記憶障害などの認知機能障害に特徴づけられる。統

合失調症の治療は抗精神病薬を用いた薬物療法が中 心であり、その長期目標は再発・再燃の防止と社会 復帰にある。しかしながら、実際には急性期治療を 受けた統合失調症患者の50%以上が2年以内に再発 することが報告されており、服薬を中断した場合の 再発率は服薬継続時の約5倍に上ることが明らかに なっている1)。このような背景から、統合失調症治 療においては服薬アドヒアランスの維持・向上が重 要視されているが、実臨床ではさまざまな要因が服 薬アドヒアランスに影響を及ぼすと考えられてい る。服薬忘れや病識の欠如といった患者側の要因を はじめとして、患者-医療者間のコミュニケーショ ン不足、多剤大量処方や薬剤の副作用、服薬方法の 複雑さなどその要因は多岐にわたる(表1)2)

(2)

 したがって、これらの問題点を解決していくこ とが、疾患の再発・再燃の予防につながるものと 考えられる。また、診察時に患者自身から「薬を しっかり飲んでいる」と聴取できていても、詳細な 服薬状況を把握することは困難である場合が多い。

統合失調症患者に対して行った medicationevent monitoringsystem(MEMS;服薬行動追跡システム、

薬剤ボトルの開栓回数や開栓日時を経時的に記録が 可能なシステム)を用いた服薬アドヒアランス調査 では、主治医は自分の患者の95%が服薬を遵守し ていると高く評価したが、一方で主治医からの処方 どおりに服薬していた患者は52%に過ぎず、医療 者が患者の服薬アドヒアランスを過剰評価する傾向 にあることも指摘されている3)

 服薬アドヒアランスを向上させる方策の1つとし て、剤形の活用が注目されている4)。近年、抗精神 病薬においても、錠剤や散剤に加えて口腔内崩壊錠、

内用液剤などさまざまな剤形が上市されており、患 者の趣向に合った剤形を選択することができるよう になっている。筆者らの調査でも、risperidone散 剤から内用液剤への変更を行ったところ、内用液剤 が散剤と比較して「効果の早さを実感できる」という 理由で好意的な評価を得ている5)。また、このよう な飲み心地による剤形選択に加え、持効性注射剤

(long-actinginjection:LAI)や徐放製剤に代表され るコントロールドリリース製剤の特性を生かした選 び方も有用である。コントロールドリリース製剤は 薬剤が溶出する速度を調節することで、服用回数の 減少や血中濃度の安定化による副作用軽減が可能と なっており、統合失調症患者における服薬アドヒア ランスの改善に大きく貢献している。精神保健医療 が入院医療中心から地域生活中心へと移行するなか で、服薬の負担の減少は精神障害者が社会復帰を目 指すという観点からもそのメリットが大きい。本稿 では、精神科領域で用いられるコントロールドリ リース製剤として、LAI の臨床的意義と各薬剤の 特徴、今後の課題について概説する。

2.統合失調症治療における LAI の臨床的意義

 LAI は2~4週間に1度投与することで、安定した 血中濃度が得られるように設計されたコントロール ドリリース製剤である。したがって、外来通院時に 医療者によって投与されることで、抗精神病薬治療 の継続が可能となり、服薬中断による再発・再燃を 回避することができる。スペインで行われた大規模 臨床試験の結果からも、2年間での治療継続率が経 口剤で63%であったのに対し、LAI では82%と高 率であったことが報告されている6)。また、LAI の アドヒアランスの不良が不定期通院や通院の中断と いう明確な指標として現れるため、患者に対するア ドヒアランスの評価が容易となり、再発する前に早 期介入が可能であることも有用な点の1つである。

そのほか薬物動態学的な点においても消化管吸収の 影響を受けないことや、筋肉内注射後に肝臓におけ る初回通過効果を受けないことから、経口剤と比較 して代謝酵素活性の個人差による血中濃度の変動も 生じにくいことが示されている7)

 近年、LAI のドパミン過感受性精神病(Dopamine SupersensitivityPsychosis:DSP)に対する有用性 も検討されている。DSP は1970年代に Chouinard らによって提唱された概念であり、再発の繰り返 しにより抗精神病薬に対する耐性が形成された状 態をいう8)。DSP ではドパミン D2受容体の過剰遮 断による代償性のドパミン D2受容体の増加が関与

表1 統合失調症患者における服薬アドヒアランスを低下させる要因 患者側の要因

・病識の欠如

・服薬忘れ

・薬剤に対する効果実感の不足

・精神症状の重症度

・認知機能障害 薬剤の要因

・多剤大量処方

・複雑な用法

・第一世代抗精神病薬の使用

・重篤な副作用 環境要因

・患者-医療者間のコミュニケーション不足

・不適切な退院後の環境整備

・不安定な生活環境

・家族・地域社会からのサポート不足

(文献1より作成)

(3)

していると考えられており、抗精神病薬の中断や減 量によって容易に再発するという特徴を有してい る9)。従来までの経口剤では血中濃度のトラフ値と ピーク値の差が大きく、たとえトラフ濃度が至適範 囲に保たれていても、ピーク時にはドパミン D2受 容体が過剰に遮断される可能性がある。しかし、経 口剤に代って LAI を用いることにより、血中濃度 の変動幅が最小限に抑えられることから、DSP の 予防や治療に有効性を示すことが考えられる。実際 に LAI の血中ピーク濃度とトラフ濃度の差は、経 口剤と比較して32~42%程度小さいことが推定さ れている10)。また、Kimura らは DSP患者に対して LAI を上乗せすることで、BPRS(BriefPsychiatric RatingScale:簡易精神症状評価尺度)が有意に改 善することを報告している11)

 一方、LAI特有のデメリットも存在する。注射剤 で起こりうる疼痛、腫脹、搔痒感、硬結といった注 射部位反応は経口剤では見られない副作用である。

また、LAI を投与すると速やかに薬剤を体外へ排 出することができないため、副作用により投与を中 止したとしても長期間薬剤が残存し、症状が悪化・

遷延するリスクがある。LAI を導入するうえでは、

忍容性確認のため同経口剤の服用が必須となるが

(paliperidonepalmitate は risperidone でも可)、経 口剤との力価換算がすべての患者に対してあてはま るわけではないことから、LAI への切り替えによ る過量投与や予期せぬ副作用等に十分留意すべきで ある。加えて LAI の使用は医療経済的な観点から

も薬剤費が非常に高額となるといったデメリットが あげられる。しかしながら、LAI への切り替えによっ て再発・再入院が減少するため、結果として総医療 費が低下することが示されている12)。表2に LAI導 入のメリット・デメリットを一覧としてまとめた。

3.本邦における LAI の歴史的背景と 受け入れに関する調査

 2016年5月時点において、本邦で承認されてい る LAI は、第一世代抗精神病薬(first-generation antipsychotic:FGA)の haloperidoldecanoate

(HP―D: ハ ロ マ ン ス 注/ ネ オ ペ リ ド ー ル 注 )、

fluphenazinedecanoate(FD: フ ル デ カ シ ン 筋 注 )、 第 二 世 代 抗 精 神 病 薬(second-generation antipsychotic:SGA)である risperidonelong-acting injection(RLAI:リスパダールコンスタ筋注用)、

paliperidonepalmitate(PP:ゼプリオン水懸筋注)、

aripiprazoleone-monthly(AOM:エビリファイ持続 性水懸筋注用)の全5種類である。

  本 邦 に お け る LAI の 歴 史 は 古 く、1970年 の fluphenazineenanthate(FE:アナテンゾールデ ポー)までさかのぼる。当時は服薬アドヒアランス の維持・向上を目的とした使用ではなく、病識の欠 如等の理由により拒薬をする患者に対する強制的な 使用が主であった。さらに体内動態が安定しにくく、

投与後に血中濃度が急上昇するため、ジスキネジア やアカシジアなどの強い錐体外路症状が出現しやす かったこともあり、使用しづらい環境にあった。一 方で、欧州では導入早期からより安定性が高く、副 作用の少ない FD などが使用可能であったため、デ ポ剤クリニックの設立とともに外来における維持療 法として普及していった。

 1980年代後半から本邦でも HP―D、FD が使用 可能となり一定の成果があげられたが、当時はまだ 入院中心の医療であったことや、SGA の発売など によって十分な普及にはいたらなかった。

 LAI が本邦で本格的に実臨床へ普及し始めたの は、2009年に上市された RLAI からである。それ までの FGA と比較して、錐体外路症状が軽減され た SGA の LAI化に対して期待されるところも多

表2 LAI 導入のメリットとデメリット

LAI のメリット

・アドヒアランスの維持・改善

・患者への服薬確認に対する心理的な負担軽減

・必要最小有効用量への安全な到達

・消化管吸収時における問題の回避

・肝初回通過効果の回避

・大量内服のリスク軽減 LAI のデメリット

・細かな用量設定が困難

・至適用量が不明瞭であり、用量設定に時間を要する

・投与を中止しても副作用の消失に遅延が生じる

・注射部位反応(疼痛、腫脹、搔痒感、硬結)

(文献13より作成)

(4)

かったが、一方で、患者との関係を損なうのではな いかという医師の不安や、患者やその家族が LAI を受け入れにくいであろうといった医師の思い込 みなどの LAI に対するネガティブな評価が懸念さ れた。RLAI発売前の2007年に精神科医に対して 行われたアンケート調査では、約4割の精神科医が LAI を維持療法の選択肢として考えておらず、ま た処方対象については「拒薬傾向にある」患者に処方 すると回答しており、服薬アドヒアランスの不良な 患者に対して用いるとの考えが多くを占めているこ とが示されている14)

 筆者らは経口抗精神病薬で治療中の統合失調症 患者に対し、RLAI の特徴、すなわち、①統合失調 症治療における再発予防と服薬継続の重要性、② 2週間に1回の投与でよい薬剤であること、③経口 剤と比較して治療を継続しやすく再発率が低いこ と、④血中濃度の変動が少ないため経口剤と比較 して効果が高く副作用の頻度が少ないこと、⑤従 来の注射剤と比較して痛みが少ないことを説明し た後に RLAI の受け入れ調査を行ったところ、全 体の34 .4%の患者が「RLAI を試してみたい」と回答 した15)。PP について行った調査においても、受け 入れ率は40 .9%とほぼ同様の結果であった16)。LAI を試してみたいおもな理由はいずれも「2週間(4週 間)に1回投与される方が楽だから」であり、患者は 薬物療法に対して、より簡便さ求めていることが明 らかになった。一方で、LAI を試したくない理由は、

「注射剤に対して抵抗(痛み・不安など)があるから」

であった。患者のなかには、鎮静剤や抗菌剤などの 過去に使用した注射剤の経験が負のイメージとして 残っており、このような誤った認識を払拭していく ことが、LAI の良好な受け入れにつながるものと 考えられる。

 また、家族から服薬確認をされる患者は、服薬確 認をされない患者と比較して、LAI の受け入れ率 が有意に高いことも明らかになっている。このこと から、患者が日々の服薬において負担を感じている ことは、服薬をしなければならないという行為自体 だけでなく、家族などの周囲からの服薬行為に対す る干渉が患者に服薬を強要することと同等な強い心 理的負担となっていることがうかがえる。

 PP を6カ月以上継続した患者に対して行った 満足度調査においても、90 .0%が「満足している」

と回答し、80 .0%が「今後も継続したい」との意 見であった17)。同調査において、客観的な精神症 状評価尺度である PANSS(PositiveandNegative SyndromeScale;陽性・陰性症状評価尺度)は、PP の導入前後で有意な改善は認めなかったが、主観的 なアンケート調査では、経口剤から PP に切り替え た患者の91 .7%が「服薬が確実にできるので症状が より落ち着く」と良好な評価が得られた。また、患 者の治療満足度と、服薬アドヒアランスの指標であ る DAI―10(DrugAttitudeInventoryshortform)

と正の相関が認められた(R=0 .481)。これらの結 果から、LAI は精神症状の改善を期待して使用す る薬剤ではなく、症状が安定している患者の治療満 足度や、服薬アドヒアランスの維持・向上に優れた 製剤であることが示唆された。

4.SGA―LAI の製剤特徴と臨床効果

 SGA―LAI の製剤特徴を表3に示した。

 RLAI は、risperidone を乳酸・グリコール酸共 重合体の生体内分解性ポリマーでマイクロスフェ ア化した製剤である。これを水溶性基剤で懸濁し て筋肉内に投与すると、水酸化によってマイクロ スフェアが徐々に崩壊し、risperidone が遊離、体 内へと拡散していくことになる。マイクロスフェ アからの risperidone の遊離は投与3週間後から開 始されるため、その間は経口剤の併用が必要とな る。血中濃度の定常状態への到達はおよそ6週間 を要し、投与中止後も4週間以上血中濃度が持続 し、消失するまでに約8週間以上要する。RLAI の 50 mg単回投与時における活性成分(risperidone + 9―hydroxyrisperidone)の半減期は、95 .1±75 .7時 間である。経口剤との力価換算は、臨床試験や薬物 動態学的データなどから、経口剤1 mg/日に対し、

RLAI の10 mg/2週間が等価であることが報告され ている22)。国内の第Ⅲ相臨床試験(経口risperidone に対する非盲検非劣性試験)18)では、198例の統合 失調症患者が対象とされ、24週時の PANSS総スコ アと CGI(ClinicalGlobalImpression;臨床全般印

(5)

象度)に減少を認め、その改善率は経口risperidone と同程度であることが示された。有害事象の発現率 も同様に、RLAI群で93 .2%、経口risperidone群 で96 .1%とほぼ同程度であった。

 PP は risperidone の主要な活性代謝物である paliperidone をパルミチン酸でエステル化、さらに ナノクリスタルテクノロジーによって微細粒子化 し水性懸濁液とした製剤である。筋肉内への投与 後、セリンエステラーゼによって paliperidone へ と加水分解され吸収される。RLAI と異なり、初 回150 mg、1週間後に2回目100 mg を投与する導 入レジメンを用いることで、注射直後から速やか に paliperidone の血中濃度が上昇する。したがっ て、投与初期の経口剤の併用は不要となる。また、

投与間隔が4週間に延長されたことで頻繁な通院が 困難な患者に対して導入しやすくなっている。PP の150 mg単回投与時における paliperidone の半

減期は、49 .7±22 .6日である。Paliperidone徐放 製剤から PP への換算は、徐放製剤3 mg、6 mg、

12 mg/日が、それぞれ PP の25~50 mg、75 mg、

150 mg/4週間であることが報告されている23)。 RLAI から PP に直接切り替えることも可能であり、

RLAI の25 mg、50 mg に対して RLAI の最終投与 の2週間後からそれぞれ PP の50 mg、100 mg を投 与することが規定されている。日本人156例を含む アジア人統合失調症患者323例を対象としたアジア 共同臨床第Ⅲ相試験19)(二重盲検、ランダム化、プ ラセボ対照、並行群間比較試験)では、13週の最 終評価時点において PP群の PANSS総スコアの有 意な改善が認められた。副作用の発現率は PP群で 64 .8%、プラセボ群で51 .2%であった。PP につい ては、2013年11月19日に上市されてから2014年 4月16日までに21例の死亡が報告され(推定投与例 数:約10 ,900例)、安全性速報(ブルーレター)が

表3 SGA-LAI の特徴

薬剤名 Risperidone Paliperidone Aripiprazole

商品名 リスパダールコンスタ筋注用

(RLAI) ゼプリオン水懸筋注(PP) エビリファイ持続性水懸筋注用(AOM)

溶 媒 水溶性 水溶性 水溶性

規 格

2 5 mg 3 7 .5 mg 5 0 mg

2 5 mg 5 0 mg 7 5 mg 1 0 0 mg 1 5 0 mg

3 0 0 mg 4 0 0 mg

用 法

・ 用 量

初回投与量 2 5 mg 1 5 0 mg 4 0 0 mg

2 回目投与量 2 5 mg 1 週間後に1 0 0 mg 4 0 0 mg

投与間隔 2 週間 2 回目投与後より4 週間 4 週間

維持量 2 5~5 0 mg 2 5~1 5 0 mg 1 6 0~4 0 0 mg

増減範囲 原則1 2 .5 mg ずつ増量 5 0 mg を超えない

症状・忍容性に応じて3 0 0 mg に減量 CYP2 D6 または CYP3 A4 阻害剤の併用に より3 0 0 mg、2 0 0 mg、1 6 0 mg に減量 増量タイミング 少なくとも同一用量で4 週間投

与した後 規定なし 規定なし

経口剤の併用 初回投与3 週間は経口剤を併用 併用不要 初回投与2 週間を目処に経口剤を併用

腎障害時

初回2 5 mg 投与し2 週間以降は 1 /2 に減量

1 回量は2 5 mg を超えないこと

CCr5 0 mL/min 未満は禁

忌 腎機能正常者と同じ

注射部位 臀部筋肉内

初回・2 回目:三角筋内 3 回目以降:三角筋内ま たは臀部筋内

臀部筋肉内または三角筋内

保 存 遮光冷所保存 室温保存 遮光室温保存

(文献18~21より作成)

(6)

発出されたことは記憶に新しい。PP との因果関係 は不明であるが、このブルーレターによって「症状 が不安定な患者に使用しないこと」、「RLAI からの 切り替え時、過量投与とならないよう用法・用量に 注意すること」、「経口剤を併用せずに投与を開始す ること」の3点について注意喚起されている。

 AOM は aripiprazole水和物結晶を微粒子化した 水性懸濁製剤である。投与後は筋肉内に貯留し、

aripiprazole水和物粒子が徐々に溶解するのにとも ない、血液中へと放出される。PP と同様に投与間 隔は4週間であるが、血中濃度の上昇が緩徐である ため、初回投与後2週間を目安に経口aripiprazole の併用が必要となる。AOM の400 mg単回投与時 における主代謝物(OPC―14857)の半減期は、605 時間である。AOM は RLAI や PP と異なり、経口 剤との換算比は設定されておらず、切り替え前の 経口aripiprazole の用量にかかわらず原則400 mg の投与が推奨されている(忍容性により300 mg へ の減量可)。この用量設定は、aripiprazole経口剤 に対する非劣性試験において、切り替え前の経口 剤6~24 mg の用量の違いによって、有害事象発現 率、非再発率に差は認められなかったことが根拠と なっている24)。また、血中濃度の観点から、AOM の400 mg の血中濃度推移152~190 ng/mL25)が、

aripiprazole の至適濃度である150~210 ng/mL26)

に 相 当 す る こ と が 報 告 さ れ て い る。 経 口 aripiprazole に対する非劣性試験として、アジア国 際共同第Ⅲ相試験(無作為化、二重盲検、実薬対照、

並行群間比較試験)20)が、国内237例含む455例の 統合失調症患者を対象として行われている。有効性 は26週後における非悪化/非再発率で評価され、そ れぞれ AOM群で95 .0±1 .5%、経口aripiprazole 群で94 .7±1 .6%であり、経口aripiprazole に対す る非劣性が示された。また、安全性についても、副 作用発現率は AOM群で57 .0%、経口aripiprazole 群で49 .3%と同程度であった。

 SGA―LAI における製剤学上の共通したコンセプ トの1つとして、いずれも水溶性基剤を使用して いる点があげられる。従来の FGA の LAI(FGA―

LAI)は、OH基を有する抗精神病薬と長鎖の脂肪酸

(エナント酸、デカン酸)がエステル結合することに

よって作られており、胡麻油などの油性基剤に溶か した製剤であるため、注射時の疼痛や硬結などの注 射部位反応を形成しやすい。SGA―LAI は、基剤を 水溶性とすることでこれらの症状が発現しないよう 改善されている27 ,28)。ただし、注射剤という剤形で あることから、注射部位反応を完全に回避すること は困難であるため、同一部位への反復投与は行わな いなどの対策は必要である。また、FGA―LAI がバ イアルの一部を使用する少量投与や、投与間隔の調 整が可能であったことに対し、SGA―LAI ではキッ ト製剤となっているため微調整はできず、投与間隔 も規定されている。臨床効果については、McEvoy らによって PP と HP―D を比較した無作為化比較 試験が報告されている29)。24カ月後における治療 失敗率を主要評価項目としたところ、PP群で49例

(33 .8%)、HP―D群で47例(32 .4%)と統計学的な 有意差は認められなかった。また、安全性について は PP群でプロラクチン上昇が、HP―D群でアカシ ジアがそれぞれ有意に高いことが認められている。

しかしながら、LAI における FGA と SGA の比較 については直接比較したエビデンスが乏しいため、

今後の検証が必要である。

5.LAI の再発予防に関するエビデンス

 これまでに統合失調症の再発予防効果に対して LAI と経口剤を比較した臨床試験が、数多く報告 されている。Kishimoto らはこれらの試験を試験デ ザインの違いにより2通りのメタ解析を行っている が、興味深いことにそれぞれの解析結果は異なるも のであった。

 まず1つめの試験デザインは、無作為化比較試 験に基づくメタ解析である。計21本の無作為化 比較試験を統合して解析を行った結果、再発率は LAI と経口剤との間に有意な差は認められなかっ たと報告している(n=4 ,950、リスク比=0 .93、

95 %CI:0 .80―1 .08、P=0 .35;τ2=0 .05、I2=

58 %、Q=47 .31、df=20、P=0 .0005)30)。この メタ解析の後に行われた無作為化比較試験でも同様 に LAI と経口剤に有意な差は示されていない31 ,32)。  2つめに行われたメタ解析は、ミラーイメージ試

(7)

験に基づくものである。ミラーイメージ試験とは何 らかの治療が導入された際、その治療の導入前と導 入後の同じ長さの期間におけるアウトカムを比較す る試験であり、本試験では経口剤治療期間と LAI 使用期間における入院リスクが比較されている。計 25本のミラーイメージ試験をメタ解析した結果、

LAI は経口剤と比較して入院の予防に関して非常に 強い有意性が示された(n=4066、リスク比=0 .43、

95 %、CI:0 .35―0 .53、P<0 .001)33)

 この2つの解析結果が相違となった原因の1つと して、各試験における種々のバイアスが関与してい ると考えられている。すなわち、無作為化比較試験 においては、試験に協力的である患者群(≒従来か ら服薬アドヒアランスが比較的良好)が対象となっ ている選択バイアスが、ミラーイメージ試験では経 口剤から LAI への切り替えに対する期待がバイア スとなって現れた可能性が示唆される。筆者らはそ れぞれの解析結果について、データの特徴を理解し 注意深く解釈する必要があり、より実臨床に近づけ た無作為化比較試験など新たな方法論を提唱してい る34)

 この2つのメタ解析の結果のもと、2015年に日 本神経精神薬理学会で公開された統合失調症薬物治 療ガイドラインでは、アドヒアランス低下により再 発が問題となるケースにおいて、LAI の使用が望 ましく、服薬からの解放などを理由に患者が LAI を希望する場合は特に推奨されている35)

6.今後の展望~治療継続に向けて~

 エビデンスからも示されるように、LAI は統合 失調症の再発を予防するという観点から有用な選択 肢の1つとなりうることは明らかであろう。LAI は 2週間もしくは4週間薬効が持続するため、投与に 合わせて通院することで抗精神病薬治療の継続は 可能となる。しかしながら、より根本的な問題と して、通院そのものを自己中断してしまえば当然 のことながら再発・再燃のリスクは増大する。例 えば、患者の同意が得られない状況で非自発的に LAI を導入した場合、病識・薬識が欠如するだけ でなく、医療者に対する負の感情が生まれ、通院の

自己中断へとつながるおそれがある。特に LAI は 患者に対して侵襲をともなう剤形であるため、導 入前の十分な説明と患者自身からの適正な意思確 認がより高いレベルで要求される。従来の医療者 が選択した治療法を患者が受け入れる“paternalistic model”や、すべての治療法から患者自身が選択す る“informedchoice”ではなく、医療者と患者の双 方向から治療を決定する、すなわち“SDM(Shared DecisionMaking)”による治療選択が必要となって くる。LAI のメリット・デメリットに関する情報 提供はもちろんのこと、患者の生活スタイルや価 値観などを取り入れていくことが重要である。急 性期においては患者の判断能力が保たれておらず、

paternalisticmodel に基づいた治療が行われるケー スも存在するが、LAI に関しては、ある程度の症 状改善を待って十分に信頼関係を構築してから導入 することが望ましく、結果として治療継続率も良好 となる可能性が示唆されている。

 また、竹内らは LAI導入においてクリニカルパ スの運用を提案している36)。医師による SDM か ら始まり、薬剤師(LAI の製剤的特徴の説明、導入 レジメンの確認、DIEPSS;DrugInducedExtra- PyramidalSymptomScale;薬原性錐体外路症状評 価尺度を用いた副作用の確認)、看護師(経過中の 状態確認)、臨床心理士(PANSS を用いた症状変化 の追跡)、精神保健福祉士(金銭面の確認)による多 職種での取り組みは、より安全な導入に加え、長期 的な治療継続を視野に入れた方策であると考えられ る。2014年の診療報酬改定では統合失調症急性期 におけるクリニカルパスの導入が「院内標準診療計 画加算」として認められており、このような取り組 みの今後の普及・構築が期待される。

7.おわりに

 医療者にとっての LAI最大のメリットは、確実 な治療継続による再発の予防であるが、服薬アドヒ アランス不良によって再発を繰り返す患者だけが LAI の適応となるわけではない。たとえ服薬アド ヒアランスが良好であったとしても、毎日の服薬に 負担を感じていたり、服薬確認されることを煩わし

(8)

いと感じていたり、なかには服薬時の人目を気にし てしまい社会復帰に踏み出すことができない患者も いるだろう。LAI の導入のあり方については、社 会参加を切望している多くの患者にとって、個々の 導入へのタイミングや中・長期的な治療目標の達成

手段として十分考慮される必要がある。統合失調症 治療において、このような患者背景や患者の意思を しっかりと汲み取り、個々の患者にあった治療法を 選択していくことが重要であり、LAI はその一助 になることを期待している。

文献

1)RobinsonD.etal.,Arch.Gen.Psychiatry ,56,241-247

(1999)

2)LacroJ.P.etal.,J.Clin.Psychiatry,63,892-909(2002)

3)ByerlyJ.etal.,PsychiatryRes.,133,129-133(2005)

4)OsterbergL.etal.,N.E n gl.J.Med .,353,487- 497

(2005)

5)岩田仲生ほか ,臨床精神薬理 ,9,1647-1652(2006)

6)OlivaresJ.M.etal.,E u r.Psyc hiatr y ,24,287- 296

(2009)

7)CastbergI.etal.,Ther.Dr ugMonit .,27,103- 106

(2005)

8)ChouinardG.etal.,Am.J.Psychiatry ,135,1409-1410

(1978)

9)伊豫雅臣ほか,Prog.Med.,33,2335-2340(2013)

10)EerdekensM.etal.,Schizophr.Res.,70,91-100(2004)

11)KimuraH.etal.,Schizophr.Res.,155,52-58(2014)

12)稲垣中 ,臨床精神薬理,12,1103-1114(2009)

13)HasanA.etal.,WorldJ.Biol.Psychiatry ,14,2- 44

(2013)

14)金沢徹文ほか ,臨床精神薬理 ,12,1125-1134(2009)

15)波多野正和ほか ,臨床精神薬理 ,17,869-880(2014)

16)榊原崇ほか ,臨床精神薬理,inpress

17)竹内一平ほか ,臨床精神薬理 ,18,1455-1467(2015)

18)ヤンセンファーマ ,リスパダールコンスタ筋注用 ,医薬品イ ンタビューフォーム ,(2016 年4 月改訂)

19)ヤンセンファーマ , ゼプリオン水懸筋注 , 医薬品インタ ビューフォーム ,(2016 年4 月改訂)

20)大塚製薬 , エビリファイ持続性水懸筋注用 , 医薬品インタ ビューフォーム ,(2016 年3 月改訂)

21)日本腎臓病薬物療法学会誌 ,SI,1-370(2016)

22)稲垣中ほか ,臨床精神薬理 ,13,1349-1353(2010)

23)GopalS.etal.,Curr.Med.Res .Opin .,26,377- 387

(2010)

24)IshigookaJ.etal..,Schizophr.Res.,161,421-428(2015)

25)MallikaarjunS.etal.,Schizophr.Res .,150,281- 288

(2013)

26)SparshattA.etal.,J.Clin.Psychiatry ,71,1447-1456

(2010)

27)KaneJ.M.etal.,Am.J.Psychiatry ,160,1125- 1132

(2003)

28)BlochY.,etal.,J.Clin.Psychiatry,62,855-859(2001)

29)McEvoyJ.P.etal.,JAMA,311,1978-1987(2014)

30)KishimotoT.etal.,Schizophr.Bull.,40,192-213(2014)

31)RosenheckR.A.etal.,N.Engl.J.Med .,364,842- 851

(2011)

32)BuckleyP.F.etal.,Schizophr.Bull.,41,449-459(2015)

33)KishimotoT.,J.Clin.Psychiatry,74,957-965(2013)

34)岸本泰士郎 ,精神科治療学 ,30,931-937(2015)

35)日本神経精神薬理学会 , 統合失調症薬物治療ガイドライン , 2015 年9 月24 日 Ver7.1,http://www.asas.or.jp/jsnp/img/

csrinfo/togoshiccho_all.pdf(最終閲覧日:2016 年5 月10 日)

36)竹内一平ほか ,精神科治療学 ,30,939-945(2015)

参照

関連したドキュメント

医薬保健学域 College of Medical,Pharmaceutical and Health Sciences 医学類

金沢大学学際科学実験センター アイソトープ総合研究施設 千葉大学大学院医学研究院

工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科

Current Status of Unapproved Drug Transactions via Internet Auction in Japan.. Hisakazu Ohtani * , Honomi Fujii, Ayuko Imaoka and Takeshi Akiyoshi Division of

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

向井 康夫 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 牧野 渡 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 占部 城太郎 :