BOP ビジネス
潜在ニーズ調査報告書
ケニア:農漁業資機材分野
2011 年 3 月
日本貿易振興機構(ジェトロ)
委託先:株式会社クロスインデックス
本書は、日本貿易振興機構(ジェトロ)が株式会社クロスインデックスに委託して実施した BOP ビジネス潜在ニーズ調査「ケニアの農漁業資機材分野」の報告書である。ジェトロは本調 査の実施に当たり、目的、調査項目、調査実施方法などからなる仕様書を作成し、一般競争入 札に付して、その落札者である株式会社クロスインデックスに調査業務を委託した。本報告書 は委託先である株式会社クロスインデックスがジェトロと打合せを重ねつつ、現地調査、国内イ ンタビュー調査、文献調査などを通じて、インドの農業資機材分野における潜在ニーズに関す る分析、ならびに低所得階層をターゲットとする新たなビジネスに関する提案を取りまとめたも のである。 ジェトロは、本書の記載内容に関して生じた直接、間接的若しくは懲罰的損害及び利益の喪 失については、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知ら されている場合であっても同様とします。
は し が き
本書は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)から受託して実施した「BOP ビジネス潜在 ニーズ調査 ケニア:農漁業資機材分野」の報告書である。
本報告書のテーマは BOP ビジネスである。BOP は Base of the Economic Pyramid の略語で、 年間所得が 3,000 ドル以下(購買力平価ベース)の開発途上国の低所得階層を意味し、彼らを消 費者、生産者、あるいは流通関係者として取り込むビジネスが BOP ビジネスである。収益を求め る持続可能な純然たる企業活動であるが、同時に貧困問題などの社会課題の解決に資すること が注目されている。日本においても近年関心が急速に高まってきている。 従来、市場として捉えられていなかった開発途上国の低所得階層を対象としてビジネスを行う ためには、彼らの生活実態を把握し、その中から潜在的なニーズを析出するとともに、そのニーズ に応える製品・サービスを彼らが購入可能な価格帯で提供することが求められる。また、その市 場にアプローチするためには、新たな流通ネットワークの構築が求められ、欧米企業の先行事例 では NGO/NPO などとの連携を通じたビジネス展開などが行われている。BOP ビジネスの実施 を通じて、数多くのステークホルダーと連携し、イノベーションを推進している事例は数多い。 本調査の目的は、開発途上国の低所得階層の生活実態を明らかにするとともに、そこから潜 在ニーズを析出し、それを踏まえて、BOP ビジネスの製品・サービスの仕様などを示し、ビジネス モデルを提案することである。委託元のジェトロは平成 21 年度に引き続き、22 年度においてもア ジア・アフリカを対象として潜在ニーズに関する調査を実施した。本書が取り上げた「ケニア:農漁 業資機材分野」はその 1 つである。 ケニアは過去 17 年プラス成長を続けている。同国政府は Vision 2030 のもと、2030 年まで年 平均 GDP 成長率 10%を目標としており、経済開発へ向けさまざまな取り組みが行われている。 ケニアにおける BOP 層は全人口の 8 割、農漁業における労働人口は全体の 3 分の 2 以上であ る。しかし、BOP 層には未だ技術が行き届いておらず、経済成長の中、新たな資機材へのニーズ は高く、BOP ビジネス市場として魅力的な国である。 本書が、ケニアのみならず開発途上国での BOP ビジネスに関心を持たれている日本企業にと って、ビジネス拡大や BOP ビジネス戦略を検討される上で参考となれば幸甚である。 株式会社 クロスインデックス
目次
第 1 章 ケニア概観 ... 5 1. ケニアの基礎情報 ... 5 2. ケニアの産業 ... 5 3. ビジネス環境 ... 6 4. ケニアの政治 ... 7 5. 地理・気候特性 ... 7 第 2 章 低所得階層の生活実態と社会課題... 9 1. 調査方法概要 ... 9 (1) 訪問インタビュー調査の概要 ... 10 (2) アンケート調査の概要 ... 10 2. ケニアにおける所得分配構造 ... 11 3. ケニアにおける低所得階層の経済におけるウエート ... 12 4. 低所得階層の生活実態と課題 ... 15 5. 低所得階層の消費行動を阻害している問題 ... 18 (1) 財政面の問題 ... 18 (2) 情報アクセスの問題 ... 21 6. 農業資機材分野に関連する課題と政策 ... 22 (1) 農業の実態 ... 22 (2) 農業分野の政策 ... 25 7. 漁業資機材分野に関連する課題と政策 ... 26 (1) 漁業の実態 ... 26 (2) 漁業分野の政策 ... 32 8. 各地域における課題 ... 33 第 3 章 農漁業資機材分野における開発ニーズとBOPビジネスの可能性 ... 37 1. 農漁業資機材分野における開発ニーズ、低所得階層が抱えている社会的課題 ... 37 2. 農漁業資機材分野において低所得階層をターゲットとして成功しているビジネスの特 徴的な事例 ... 37 3. ニーズの大きい農漁業資機材 ... 39 4. BOPビジネスの成長可能性と市場規模の展望 ... 40第 4 章 低所得階層が入手、調達可能な製品・サービスの問題点と潜在ニーズ ... 45 1. 現在市場にある商品、使用されている道具 ... 45 2. 価格に関連する問題点 ... 54 3. 品質に関連する問題点 ... 55 4. 操作性・容易性に関する問題点 ... 57 5. アクセス、製造上、流通上、販売上の問題点 ... 57 6. 運送にかかる実証実験による考察 ... 58 7. 問題点から導かれる潜在ニーズ ... 62 第 5 章 有望視されるBOPビジネスの製品・サービスの仕様とビジネスモデルの提案 ... 64 1. 有望視されるBOPビジネス ... 64 (1) 商品提案(農業) ... 64 (2) 商品提案(漁業) ... 65 2. 潜在ニーズに応じた製品開発要件 ... 67 3. 製品・サービスの具体的な仕様 ... 68 4. ビジネスモデル... 75 付属資料 ... 79 1. ケニアにおけるBOPビジネス先行事例とパートナーとして有望視される NGO ... 81
(1) The Coca-Cola Company ... 81
(2) BrazAfric Enterprises... 82 (3) SC Johnson ... 82 2. 日本企業が対象国においてBOPビジネスを展開する上でパートナーとなり得る民間 組織 ... 83 (1) Juhudi Kilimo ... 84 (2) NAPS Kenya ... 85 (3) INNOVAM ... 85
略語
BOP: Base of Pyramid
BMU: Beach Management Unit
COMESA: Common Market for Eastern and Southern Africa EAC: East African Community
GDP: Gross Domestic Product
JICA: Japan International Cooperation Agency
KACE: Kenya Agricultural Commodity Exchange Limited KSh: Kenya Shilling
MCD&M: Ministry of Cooperative Development & Marketing MDGs: Millennium Development Goals
MFD: Ministry of Fisheries Development MLD: Ministry of Livestock Development MOA: Ministry of Agriculture
MOL: Ministry of Lands
NALEP: National Agriculture and Livestock Extension Programme
NAPS Kenya: The National Association for the Prevention of Starvation Kenya NGO: Non-Governmental Organization
ODA: Official Development Assistance ODM: Orange Democratic Movement
OECD: Organization for Economic Cooperation and Development PNU: Party of National Unity
PPP: purchasing power parity
SIDA: Swedish International Development Cooperation Agency USAID: United States Agency for International Development
為替レート
第1章
ケニア概観 1. ケニアの基礎情報 ケニア共和国(Republic of Kenya)は 2010 年時点の人口が 4,005 万人、2030 年までに 5,415 万人に増加することが予測されている1。国土の面積は 58 万 3,000 平方キロメートルであり、これ は日本の 1.5 倍に相当する。公用語はスワヒリ語及び英語であり、都市部居住者の多数及び農 村部の若者は両言語を併用している。都市部及び農村部では高年齢層は通常はスワヒリ語によ るコミュニケーションのみである。また、国民の約 43%が 15 歳未満という非常に若年層が多い国 でもある。 グラフ 1-1 2010 年のケニアの人口ピラミッド(推計) (単位)百万人(出所)U.S. Census Bureau, International Data Base
2. ケニアの産業
ケニアにおける 2009 年の名目 GDP は現地通貨で 2 兆 274 億 KSh である。US ドルベースで は 293 億 7,576 万ドル、1 人当たりの名目 GDP は 738 ドルである2。
1
U.S. Census Bureau, International Data Base: http://www.census.gov/ipc/www/idb/country.php
2
ケニアの主要産業は農業であり、その規模は GDP の約 25%を占め、労働人口の 3 分の 2 以 上を雇用、輸出収入の約 70%を生み出している。特に、お茶と切り花は観光に次ぐ外貨獲得産 業であり、お茶産業は 300 万人以上を雇用、切り花産業は 150 万人強を直接及び間接的に雇用 している。切り花では、特にバラが輸出全体の 74%を占める。このような花や茶摘みなど一時的 に発生する農作業に、安く且つ短期的な労働力として、BOP 層が従事している3。 漁業は全 GDP の 0.5%程度で、漁業の労働人口は直接的に関わる人だけで 50 万人4以上で ある。 表 1-2 GDP に占める産業の割合 産業分野 名目GDP(US$) 割合 農業 73億4,394万 25% 観光 35億2,509万 12% 輸送・通信 32億3,134万 11% 卸・小売 32億3,134万 11% 製造業 29億3,758万 10% 建設業 11億7,503万 4% 金融 8億8,127万 3% その他 70億5,019万 24% 合計 293億7,578万 100% (出所)ケニア駐日大使館情(http://www.kenyarep-jp.com/business/key_sectors_j.html)よりクロスインデックス 作成。 3. ビジネス環境 世界銀行と国際金融公社(IFC)が発行している「DOING BUSINESS」の報告書によると、ケニ アで事業を始めるに当たり、登記完了までに掛かる手続きの数は 11 と、サブサハラアフリカの平 均である 8.9 と比較して多いが、全体的なコストや時間は比較的低い。また、同報告では登記、建 設許可、資産登録等の規制環境を基準に、事業の開始やオペレーション上での容易さを比較した ビジネス環境のランキング付けをしており、ケニアにおける地域別総合ランキングでは、上位から リフトバレー州ナロク(Narok)、西部州マラバ(Malaba)、中央州ティーカ(Thika)、ニャンザ州キス ム(Kisumu)、海岸州モンバサ(Mombasa)となっている。 3 ケニア駐日大使館: http://www.kenyarep-jp.com/ 4
Ministry of Fisheries Development: http://www.fisheries.go.ke/
建設業 4% 観光 12% 農業 25% その他 24% 製造業 10% 金融 3% 輸送・ 通信 11% 卸・小売 11%
表 1-3 ビジネスを始める際の手続き ケニア サブサハラアフリカ OECD諸国 登記完了までの手続き(数) 11 8.9 5.6 時間(日数) 33 45.2 13.8 コスト (一人あたり年間所得に対する割合(%)) 38.3 95.4 5.3 払込資本金 (一人あたり年間所得に対する割合(%)) 0.0 145.7 15.3 (出所)世界銀行グループ "DOING BUSINESS" http://www.doingbusiness.org/data/exploreeconomies/kenya/ 4. ケニアの政治 政体は共和制であり、議会は一院制(222 議席、任期 5 年)である。昨今の政治的な大きな動き として、2007 年末の大統領選挙が挙げられる。 当時の現職大統領であるムワイ・キバキ大統領(国家統一党(PNU))と、その反対勢力である オレンジ民主運動(ODM)のオディンガ党首との事実上の一騎打ちとなった選挙は、オディンガ党 首候補が優勢であったが、結局、キバキ大統領の逆転再当選が発表された。 これに対して、ODM が集計時の不正を主張し、ナイロビ市内のスラム、西部のニャンザ州、リフ トバレー州、東部の海岸州などオディンガ党首の支持地盤において同時に暴動が発生し、激化し た。この暴動は死者約 1,200 人、避難民約 50 万人の被害を出す結果となった。 このような動きを受け、大統領就任の叶わなかったオディンガ党首は、2008 年 4 月にアフリカ 著名人パネル代表団の仲介を受けて、首相の座に就任することとなり、大連立政権が発足するこ とになった。しかしながら、2 年間以上経った今でも政治的な溝は未だにケニア国民の記憶に新し いところである。また、これにより ODM 支持者の一部はナイロビを追われ、ナイロビから地方への 幹線道路沿いに集落を形成するに至った5。 5. 地理・気候特性 ケニアには 42 の民族集団からなる 8 つの州がある。これがさらに 46 地区に分けられる。人口 の約 7 割は地方に居住している。 5 日本外務省: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/KENYA/data.html
1.中央州 2.海岸州 3.東部州 4.ナイロビ州 5.北東州 6.ニャンザ州 7.リフトバレー州 8.西部州 ケニアはアフリカ大陸の東部、北緯 5 度~南緯 5 度、東経 24~31 度の間に位置し、赤道でほ ぼ二分されている。北東はソマリア、北にエチオピア、北西にスーダン、西にウガンダ、南にタンザ ニアと国境を接している。 ケニアとウガンダ、タンザニアに囲まれたアフリカ最大の湖であるビクトリア湖や、エチオピアに かかるトゥルカナ湖、インド洋では漁が盛んに行われている。 また、赤道直下に位置しており、インド洋やビクトリア湖沿岸は年間平均気温が 26℃の熱帯性 気候である。一方、国土の大部分は、標高 1,100~1,800 メートルの高原となっているため、年間 平均気温が 19℃の乾燥した高原サバンナ地帯となっている。ケニアの農村部では一家に複数の 鶏を飼っていることが多いが、夜の冷え込みの影響で卵が孵化しないケースもあり、気候が BOP 層のわずかな収入源を左右する現実がある。
第2章
低所得階層の生活実態と社会課題 1. 調査方法概要 ケニアにおける潜在ニーズを把握するため、文献調査、現地訪問調査、アンケート調査を実施 した。本調査報告は、これらの調査で得た情報に基づく。 表 2-1 に各項目の調査手法を示す。 表 2-1 調査項目と調査手法 調査項目 調査手法 農漁業政策 文献調査、公開情報の調査、政府機関等への訪問インタビュー調査 貧困層の生活実態 現地訪問調査、アンケート調査 商品ニーズ把握 現地訪問調査、アンケート調査、政府機関等への訪問インタビュー調査 商品提案 公開情報の調査、現地訪問調査、アンケート調査、専門家及び関連企 業へのインタビュー調査 先行事例と NGO/NPO 現地聞き取り調査、公開情報の調査、政府機関及び関連機関へのイン タビュー調査 図 2-2 訪問インタビュー先 タンザニア ウガンダ エチオピア ソマリア スーダン ●ナイロビ ●キスム ●ロドワル ●モンバサ ●サガナ ●ディアニ ● キリフィ ●ボンド ●ナロモル ナイロビ州 中央州 ニャンザ州 海岸州 トゥルカナ湖 ビクトリア湖 インド洋 リフトバレー州 タンザニア ウガンダ エチオピア ソマリア スーダン タンザニア ウガンダ エチオピア ソマリア スーダン ●ナイロビ ●キスム ●ロドワル ●モンバサ ●サガナ ●ディアニ ● キリフィ ●ボンド ●ナロモル ナイロビ州 中央州 ニャンザ州 海岸州 トゥルカナ湖 ビクトリア湖 インド洋 リフトバレー州(1) 訪問インタビュー調査の概要 訪問インタビューは、国策を把握するために政府機関、また、潜在ニーズを把握するために現 地において農漁業分野に注力している NGO/NPO、並びに都市スラム地区と農村部に居住する BOP 層に実施した。以下が訪問先の一覧である。 表 2-3 訪問インタビュー先一覧 (2) アンケート調査の概要 本調査報告書に使用するアンケートの調査方法概要を以下に示す。 ・回収方法 本調査におけるアンケートは、ケニアの BOP 層 500 人を対象に現地提携企業による対面イン タビュー方式にて 2010 年 12 月上旬に実施した。
・質問項目 生活実態、消費行動、社会的課題、入手可能な製品・サービス、経済・社会・文化事情、対象市 場における問題点や課題、収入と支出実態などを質問項目とした。 ・アンケート調査地点とサンプル数 海岸州、ニャンザ州、リフトバレー州、西部州、中央州の各州にてそれぞれ 100 ずつ、計 500 のアンケートを実施した。回答者の職業の内訳は、農業従事者から 250 サンプル、漁業従事者か ら 250 サンプル回収している。調査は各州において、地域の偏りなく広域的にサンプルの確保を 行ったが、対象者が BOP 層であるため、特に農村部が多くを占める。今回のアンケート調査では、 農業従事者は全員農村部の人である。漁業従事者は、75 人は都市部(海岸州、中央州)で、175 人はそれ以外の人である。 2. ケニアにおける所得分配構造 ケニアでは、所得の大きい順に、上位 20%の家計が国の総所得の 52.9%を占めている。その うち、上位 10%で 37.8%を占める。一方、下位 20%の家計が総所得に占める割合はわずか 4.7%である6。 グラフ 2-4 ケニアの所得分布 Highest 20% 52.9% Fourth 20% 20.3% Third 20% 13.3% Second 20% 8.8% Lowest 20% 4.7% (出所)世界銀行(2005 年): http://data.worldbank.org/indicator ケニアにおける所得格差をジニ係数でみると、2008 年の推計値は 0.425 である。1997 年の 0.449 よりは格差が多尐縮まったことにはなるが、未だ所得格差は大きい。 6 世界銀行(2005 年): http://data.worldbank.org/indicator
表 2-5 ジニ係数 ジニ係数 調査年 0.500 n.a. 0.425 2008年推計値 ウガンダ 0.457 2002 エチオピア 0.300 2005 タンザニア 0.346 2000 国・地域 サブサハラアフリカ ケニア 周辺諸国 (注)ケニア周辺のソマリアとスーダンのデータはない。
(出所)Central Intelligence Agency(CIA) "The World Factbook":
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/fields/2172.html 3. ケニアにおける低所得階層の経済におけるウエート 2010 年のケニアの BOP 層人口は全体の約 84%、所得は約 67%を占めるものと推定され、 他のアフリカ諸国内に比べてやや平均所得水準が高い状況にある。ケニアは今後、年平均約 6.5%の経済成長7が見込まれ、2030 年時点には、現在の BOP 層のほとんどが BOP 基準である 年間所得 3,000 ドルを超えることとなり、極めてダイナミックな構造変化が起こることが見込まれ、 購買力旺盛なビジネスターゲットとなる可能性がある。 グラフ 2-6 2002 年のケニア BOP 層の人口(推計) 総計 割合 (百万人) BOP区分 TOP+MOP 2.9 8.8% BOP3000 2.5 7.6% BOP2500 2.7 8.3% BOP2000 2.7 8.1% BOP1500 14.1 42.9% BOP1000 4.0 12.2% BOP500 4.0 12.2% 総計 32.9 100.0% BOP計 30.0 91.2% 人口 全国に占 める割合 (%) (注)・BOP 層は、年間所得が 3,000 ドル以下(2002 年時点の国際ドル、購買力平価(PPP)で調整)の世帯と定 義。 7 国際通貨基金: http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2010/02/weodata/weorept.aspx?sy=2008&ey=2015&scsm=1&ssd= 1&sort=country&ds=.&br=1&pr1.x=48&pr1.y=8&c=664&s=NGDP_R%2CNGDP_RPCH%2CNGDP%2CNG DPD&grp=0&a=
総計 割合 (百万人) BOP区分 TOP+MOP 23.0 38.3% BOP8000 15.0 25.0% BOP7000 10.0 16.7% BOP6000 5.0 8.3% BOP5000 3.0 5.0% BOP4000 2.0 3.3% BOP3000 2.0 3.3% 総計 60.0 100.0% BOP計 2.0 3.3% 人口 全国に占 める割合 (%) ・TOP 及び MOP は、3,000 ドル超の中高所得層である。
・2002 年のケニア BOP 市場推計は、隣国ウガンダの BOP 階層別人口と支出の構成データ(THE NEXT 4 BILLION)に、両国の GDP 比及び購買力平価比を勘案して作成。
(出所)世界資源研究所、国際金融公社 “THE NEXT 4 BILLION”(2007), p147 を元にクロスインデックス作成。 グラフ 2-7~2-11 も同様。
グラフ 2-7 2010 年のケニア BOP 層の人口(推計)
総計 割合 (百万ド ル) BOP区分 TOP+MOP 29,750 33.3% BOP3000 16,093 18.0% BOP2500 13,720 15.4% BOP2000 21,698 24.3% BOP1500 4,469 5.0% BOP1000 2,357 2.6% BOP500 1,193 1.3% 総計 89,280 100.0% BOP計 59,530 66.7% 年間支出 全国に占 める割合 (%) 総計 割合 (百万ド ル) BOP区分 TOP+MOP 234,700 50.4% BOP8000 112,500 24.1% BOP7000 65,000 13.9% BOP6000 27,500 5.9% BOP5000 13,500 2.9% BOP4000 7,000 1.5% BOP3000 5,800 1.2% 総計 466,000 100.0% BOP計 5,800 1.2% 年間支出 全国に占 める割合 (%) 総計 割合 (百万ド ル) BOP区分 TOP+MOP 14,379 25.5% BOP3000 7,315 13.0% BOP2500 6,518 11.6% BOP2000 4,892 8.7% BOP1500 18,532 32.9% BOP1000 3,142 5.6% BOP500 1,591 2.8% 総計 56,370 100.0% BOP計 41,990 74.5% 年間支出 全国に占 める割合 (%) グラフ 2-9 2002 年のケニア BOP 層の支出(推計) グラフ 2-10 2010 年のケニア BOP 層の支出(推計) グラフ 2-11 2030 年のケニア BOP 層の支出(推計) (注)インフレ及び経済成長により現行の BOP 層は上方の水準域に移行する見込みから、2030 年においては BOP3000~8000 における状況を記載する。
4. 低所得階層の生活実態と課題 インフラへのアクセスに関するアンケート調査によると、水の供給源へのアクセスは、漁業従事 者が 20%に達し、農業従事者を上回っている。農業従事者にとって、水へのアクセスは作物を育 てる上で欠かせないものであるにも関わらず、インフラが整っておらず、作物に充分に水を与えら れない状況がある。そのため、育てられる作物の種類も限られてくる。 通信手段に関しては、99%以上の人が家庭(固定)電話を持っていないものの、携帯電話の利 用率は農業従事者、漁業従事者ともに 60%を上回っている。 グラフ 2-12 インフラへのアクセス状況 98.0% 98.0% 90.8% 98.4% 99.6% 34.0% 9.2% 66.0% 携帯電話 家庭電話 インターネット回線 水供給 電力源 下水道 0.4% 1.6% 2.0% 2.0% 97.2% 85.6% 80.0% 98.4% 99.2% 38.8% 14.4% 20.0% 61.2% 0.8% 1.6% 2.8% 農業従事者 漁業従事者 ある ない ある ない (出所)アンケート調査結果よりクロスインデックス作成。グラフ 2-13、2-14 も同様。 同アンケート調査によると、灌漑システムを 所有している人は全体の 16.8%で、83.2%は 所有していない。 グラフ 2-13 では、農漁業従事者の水へのア クセスの状況を示している。農業従事者の水 源の上位は泉、川、公共の水道である。 湧き水を汲みに来る様子
グラフ 2-13 水へのアクセス状況(農業従事者) 22.4% 22.4% 14.4% 12.4% 10.4% 6.4% 6.0% 2.8% 2.4% 0.4% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 泉 川 公 共 の 水 道 ( O p e n ) 公 共 の 井 戸 ( P r o t e c t e d ) 公 共 の 井 戸 ( P r o t e c t e d ) 居 住 地 の 井 戸 居 住 地 の 水 道 ( O p e n ) 居 住 地 の 井 戸 ダ ム 池 ・ 湖 (注)Protected の井戸は、パイプ等により汚染保護がされている井戸。Open の 井戸は Protected タイプとは違い、パイプがなく汚染保護がされていない。 グラフ 2-14 では、漁業従事者の水へのアクセス先を示しており、上位は池・湖、居住地の水道、 居住地の井戸(汚染保護)となる。農業従事者にとって川や泉が上位であるのに対し、漁業従事 者にとってはそれらの水源は稀である。この差異は、それぞれの居住地の立地の違いによるもの である。 グラフ 2-14 水へのアクセス状況(漁業従事者) 39.9% 30.6% 13.7% 4.8% 3.3% 3.2% 2.8% 0.8% 0.4% 0.4% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 池 ・ 湖 居 住 地 の 水 道 ( P r o t e c t e d ) 居 住 地 の 井 戸 ( O p e n ) 居 住 地 の 井 戸 雨 水 ( そ の 他 ) ( P r o t e c t e d ) 公 共 の 井 戸 ( O p e n ) 公 共 の 井 戸 川 泉 ダ ム 以下に、インフラ設備が課題となっている BOP 層の事例を紹介する。
事例 1 地域:中央州ナロモル(Naro Moru) 対象者:30 歳前後女性 家族構成:6 人家族(本人、夫、子供 4 人(うち 3 人が学 校に通い、1 人は幼児)) 家計:世帯年収 15 万 6,000KSh(約 2,080 ドル)。本人は 平 均 月 収 6,000KSh ( 内 訳 : ア イ リ ッ シ ュ ポ テ ト 3,000KSh、ミルク 2,000KSh、オレンジやとうもろこし等 1,000KSh を栽培して販売)。収穫したものはマーケットか ら人が買い取りにくる。自宅で消費する蜂蜜用に蜂の巣 もある。夫は庭師を仕事にしている。ミルク用に牛を 1 頭 飼っており、朝夕に乳搾りをしている。 支出は、月に子供の学校に 3,000KSh、肥料及び穀物の防虫剤に 2,000KSh、 牛の消毒液に 600KSh、牛のための塩が 400KSh 掛かる。衣服や食事は夫が負 担している。その他、自分の土地 0.5 エーカーに加えて、土地を 2 エーカー借りて農 業を行っている。土地のリース料は 1 エーカー当たり年間 3,000KSh。収穫シーズ ン(アイリッシュポテト:年 2 回。とうもろこし:年 1 回)は繁忙期で、月に 10 日ほど 1 人を雇用する。朝 8 時から昼 13 時まで 1 日当たり 120KSh を支払う。 課題:1.雤が降らないこと。水道は通っていない。以前は巨大な貯水タンクを利用し ていて、安定的な確保ができていたが、タンクが腐食して穴が開いたため、現在は 利用していない。1 週間に 3 回のみ近所で給水があるが飲料以外の生活用水は川 へ汲みにいく。 2.アイリッシュポテトに適した土地だが、それほど需要が大きくないのが問題。他 の穀物に変えたいが土が合わないのが問題。 3.殺虫剤を撒いてもまた直ぐに害虫がくるのできりがない。 牛の餌 巨大な貯水槽(錆びて穴がある) キッチン
5. 低所得階層の消費行動を阻害している問題 (1) 財政面の問題 【金融サービスへのアクセス】 低所得者層の消費行動を阻害している要因の一つに、財政面の問題がある。多くの BOP 層が フォーマルな金融機関からの金融サービス(借入、貯蓄、保険等)を受けられない状況にある。 グラフ 2-15 は、ケニアにおける国民全体の 2006 年と 2009 年の金融サービスへのアクセス状 況を示している。金融機関のサービスを受けていない人は、2006 年の 73.6%から 2009 年には 59.5%に減ったが、未だこれらのサービスにアクセスできない人が人口の半分以上を占めてい る。 グラフ 2-16、2-17 は 2006 年と 2009 年の地域別及び性別の金融サービスへのアクセス状況 を示している。金融サービスを受けられる人の割合は、2006 年から 2009 年にかけて農村部と都 市部の双方で増えているが、都市部の方がその比率は高く、また、拡大も大きい。 グラフ 2-15 金融サービスへのアクセス状況 2006 22.6% 18.9% 17.9% 7.5% 26.8% 35.2% 32.7% 38.4%
Formal Formal Other Informal Excluded
2009 (注)・構成比は四捨五入しているため、その合計が 100%にならない場合がある。 ・Formal:銀行や保険会社の商品・サービスを利用している。 ・Formal Other:マイクロファイナンス機関等のノンバンク機関の商品・サービスを利用している。 ・Informal:家族や友人からの借り入れ以外、フォーマルな金融機関からの商品・サービスを利用していない。 ・Excluded:フォーマル・インフォーマル含め、金融サービスを全く利用していない。
グラフ 2-16 金融サービスへのアクセス状況(地域別及び性別、2006 年) 14.9% 32.0% 23.8% 14.3% 8.5% 3.5% 9.2% 5.9% 39.2% 22.8% 29.5% 40.5% 37.2% 41.6% 37.5% 39.3%
Formal Formal Other Informal Excluded
農村部 都市部 男性 女性 グラフ 2-17 金融サービスへのアクセス状況(地域別及び性別、2009 年) 17.6% 41.0% 27.9% 17.8% 17.0% 21.4% 20.2% 15.9% 29.6% 16.5% 19.5% 33.4% 21.1% 35.9% 32.4% 33.0%
Formal Formal Other Informal Excluded
農村部 都市部 男性 女性 起業や事業の拡大において、金融機関からの借り入れを行えることは貧困から抜け出すため の重要な機会となる。グラフ 2-18 は、金融機関からの借り入れを行っている人の割合を示してい る。2006 年から 2009 年にかけて、融資を受けられる人の割合は農村、都市部ともに増えている。 しかし、都市部において融資を「現在受けている人」の割合は、2006 年の 30.2%から 2009 年の 41.0%と 10.8 ポイント増加したのに対し、農村部においては 2006 年の 30.8%から 2009 年に 36.9%と 6.1 ポイントの増加と、都市部のほうがアクセス状況の普及スピードが速い。
グラフ 2-18 借り入れ状況(地域別、年別) 【収入と支出】 アンケート結果によると、農業従事者の平均月収は 2,409KSh で、漁業従事者は 2,725KSh で あった。農業従事者のアンケート回答者 250 人全員が農村部居住者である一方、漁業従事者に は 250 人中 75 人の都市部居住者が含まれている。都市部の漁業従事者の平均月収は 2,916KSh で、それ以外の漁業従事者は 2,644KSh であった。地方部において比較した場合でも、 漁業従事者の方が農業従事者より収入が高い結果となった。 BOP 層の家計に占める支出割合において、家計の出費で一番多くを占めるのは、農業従事者 と漁業従事者の両者に共通して、食費である。基礎的な生活必需品への支出が多く、生活水準を 上げる物品への支出は尐ない。グラフ 2-19、2-20 にある衣服には、子供が学校に通う際の衣服 も含まれる。 それぞれの傾向として、農業従事者は相対的に教育、医療の比率が高く、漁業従事者は調理 熱、家賃の比率が高い。農業従事者の教育費が高い理由の一つとして、今回のアンケート調査で は、漁業従事者 250 人の子供の平均人数が 2.2 人だったのに対し、農業従事者 250 人のそれは 3.1 人と多かったことが考えられる。漁業従事者の家賃の比率が高い要因として、漁港近くに別宅 を借りるケースがみられることが一つの要因と考えられる。また、漁業従事者の方が調理熱に多く の支出をしているのは、自家用の消費に加え、魚をフライにするなど加工して売る場合があること も背景にあると考えられる。
2.04 2.63 2.77 3.12 3.59 4.34 4.44 4.45 7.48 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 家賃 水道 調理熱 交通 光熱 衣服 医療 教育 食料 2.59 2.76 2.82 3.21 3.47 3.92 4.06 4.70 7.76 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 水道 教育 交通 医療 光熱 家賃 調理熱 衣服 食料 グラフ 2-19 主な家計支出項目(農業従事者) (注)10 段階で家計の支出の多くを占めているかどうかを確認した。 1 は全く支出はない。10 は多くの支出がある。 (出所)アンケート調査結果よりクロスインデックス作成。グラフ 2-20 も同様。 グラフ 2-20 主な家計支出項目(漁業従事者) (2) 情報アクセスの問題 低所得者層の消費行動を阻害している要因の一つに、情報へのアクセスが不十分であること が挙げられる。例えば、マイクロファイナンス機関のような金融サービスを受けられる機関が近く にあってもそれを知らない、生産性を上げるような新しい技術に対する情報を得ることが困難な、 あるいは製品自体を知っていてもどこでそれを購入できるか知らないという状況がある。また、収 穫した穀物や魚をより高い値段で買い取ってくれるマーケットの情報サービスにアクセスできてい ない、あるいはそのサービス自体を知らないという人もいる。携帯電話やラジオを持っていない人
もいる。現地の NGO/NPO や政府のエクステンション機関(地方のサービス機関)はこのような問 題に取り組むため、情報発信や技術指導を行っている。マイクロファイナンス機関も同様に、地方 に出向き、マイクロファイナンス・サービスに関する情報提供を行っている。 下記は、情報へアクセスできていない BOP 層の事例である。 事例 2 6. 農業資機材分野に関連する課題と政策 (1) 農業の実態 1)農業の概要 ケニアでは、農村部に居住する人口は 3,100 万人で同国全体の人口の約 78%を占める。他の 多くの開発途上国と同様に、農村部における主要な職業は農業で、多くの世帯が農業を家計の 主軸としている。ケニアの全農業生産物の 75%以上は小規模農家によるものである。 地域:海岸州(キリフィ湾) 対象者:30 歳代男性 家族構成:4 人家族(本人、妻 1 人、子供 2 人(1 才、6 才)) 家計:職業は漁師をしている。1 日当たりの収入は 0~ 1,500KSh(0~20 ドル)。収入は波によって左右される。ヤ マハ発動機のエンジン付き木製ボート(7m)のオーナーに 雇われており、そのボートで漁をする。 ボートのオーナーはブローカーでもあり、釣った魚をオー ナーに買い取ってもらう。売上から燃料代、ケロシン代など のコストを差し引いたものを、一緒に漁をした 4 人(1 人の 船長、3 人のクルー)で分けている。不漁により燃料代をカ バーしきれなかった場合は、通常、その日はオーナーから 200KSh をもらい、後日、その分が差し引かれる。この仕事 は競争率が高く、直ぐに技術を習得しなければ雇ってもら えない。 課題:銀行口座を持っていない。本人は、「近場にはマイク ロファイナンス機関はなく、アクセスできない。」と言うが、実 際にはマイクロファイナンス機関は近くに存在しており、 BOP 層に情報が行き届いていない。 ケ ロ シ ン ラン タ ン をボートの先端に 2 灯付けて夜間に 漁を行う。
灌漑設備や農機の導入が遅れており、2007 年時点で、灌漑農地の割合はわずか 0.1%であり、 農機・トラクターの台数は耕地 100 平方キロメートル当たり 27 台である。 表 2-21 ケニアにおける農業・農村開発指標 農村部の人口 31,085,374 人 (2009) 農村部の人口割合 78.1% (2009) 灌漑農地の割合 0.1% (2006) 農機・トラクター(台/耕地 100 km2) 27 台 (2007) 肥料使用量(耕地 1 ヘクタール当たり) 26.0kg (2007) (出所)世界銀行: http://data.worldbank.org/indicator/all アンケート結果によると、農業従事者のうち 71%は農作物生産を事業としており、畜産のみを行 っているものは全体の 8%である。 グラフ 2-22 農業従事者の対象事業 70.8% 8.4% 20.8% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 農作物 畜産物 両方 (出所)アンケート調査結果よりクロスインデックス作成。グラフ 2-24 も同様。 ケニアの農業における主要な作物はコーヒー、お茶、麦、メイズ(とうもろこし)、除虫菊である。 これらは輸出作物の大半を占め、ケニアの経済に重要な役割を持つ(輸出統計は第 3 章を参 照)。
表 2-23 ケニアの主要な農産品の販売量 単位 2006年 2007年 2008年 コーヒー 1,000トン 50.5 52.3 38.7 お茶 1,000トン 310.6 369.6 345.8 麦 1,000トン 98.6 107.5 82.1 メイズ 1,000トン 470.7 508.8 340.5 サトウキビ 100万トン 4.9 5.2 5.1 除虫菊 トン 10.1 13.4 12.5 ミルク 100万リットル 361.0 423.0 399.0 (出所)ケニア国家統計局 “Kenya Facts and Figures”(2009), p70
収穫後の農作物の損失率に大差はみられず、いずれも 5~8%程度である。個人消費用より販 売用が多いのは、ココナッツ、バナナ、サツマイモなどである。逆に、販売用より個人消費用が多 いのは、落花生やメイズ(とうもろこし)、野菜、豆、キャッサバなどである。 個人消費用が販売用より多い作物については、収穫量の増大を図り、販売に回せるようにする ことが望まれる。土壌改良、作付け技術の向上、収穫後の加工において、日本の技術を活かせる 機会が存在するものと考えられる。 グラフ 2-24 農作物の損失、及び個人消費・販売用比率 メイズ 豆 野菜 キャッサバ 落花生 ポテト サツマイモ ミレット バナナ ソルガム(モロコシ) ココナッツ (%) 4.5 8.6 4.7 7.1 4.5 7.0 8.7 4.2 7.2 5.0 5.9 71.9 59.4 63.2 60.8 64.1 57.2 46.7 44.2 40.1 31.9 27.5 23.6 32.0 32.1 32.2 31.6 35.9 44.7 51.5 52.7 63.1 66.6 損失分 個人消費 販売用 販売<個人消費 販売>個人消費
メイズ(トウモロコシ) ソルガム(モロコシ) 2)農業の課題 ケニアの農業分野における課題を整理すると、以下のようなものが挙げられる。 ・ 水へのアクセスが困難で、灌漑設備が不足している。 ・ 最低賃金の上昇(2009 年に政府は、農業セクターにおける最低賃金を 20%引き上げ8)によ り農作業のための労働者を雇い難い。 ・ 干ばつにより、穀物の収穫量が低くなる。 ・ 販売先へのアクセスが困難、かつマーケットが不足している。 ・ 農業に必要な化学薬品や機械の費用が高い。 ・ 農産品の価格変動が大きい。 ・ 病気に強い種が不足している。 ・ 農道が舗装されていない。雤期は特に問題である。 ・ 輸入品(タンザニアからのタマネギなど)による国内の市場価格への影響がある。 ・ インフラの不備により、収穫物(切り花など)が腐りやすい。 ・ 市場価格は、買い取り手が優位になりがちである。 ・ 技術水準の高い資機材を利用できていない。 (2) 農業分野の政策 農業開発のために、政府は広範囲にわたる政策を展開しており、それには、潜在的な生産力 の引き上げ拡大と収入増のための長期行動計画、及び貧困と食糧危機等の喫緊の課題に対応 する計画と政策が含まれている。具体的政策の例は以下のとおりである。 8
・Kenya Vision 2030 2008 年から 2030 年にかけてケニア政府により実施されている開発計画で、経済、社会、政 治を軸に、ケニア国内の多方面にわたる発展を目指している。特に経済においては、年平均 GDP 成長率 10%を目指し、観光業、農業(漁業、畜産業含む)、卸売・小売業、製造業、ビジ ネスプロセス・アウトソーシング(BPO)、金融サービス業を主なターゲットにしている。農業に おいては、加工を行い付加価値を高めることや、生産性を高めること、未耕作地域の開拓など による収入拡大を狙う。
・ 国 家 農 業 促 進 計 画 (NAAIAP: National Accelerated Agricultural Inputs Access Programme)
ケニア政府によって 2007 年 7 月に開始した。近代的な農業技術が適用されていない小規模 農家(主に 2 エーカー以下の農家)を対象に、技術指導や資機材の提供、相談事業等を行っ ている。現在、対象は 33 地区(District)である。
・国家農業畜産拡大計画Ⅱ(NALEPⅡ: National Agriculture and Livestock Extension Programme Ⅱ) スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)の支援で 2000 年 7 月に始まった NALEPⅠ(同計画の フェーズ 1)の対象地区(43 地区)を 62 地区に拡大。農村の効率的かつ効果的な開発と貧困 削減を目指し、農民にさまざまな技術提供や調査等を行っている。 この他にも農業省は灌漑設備の設置や、地方 の農家に対し、防虫剤、種(メイズ・豆)、肥料の配 布、アドバイス等を行っている。配布される種や肥 料の量は土地の広さによる。農家は収穫後、配布 された種の量に応じて農業省に農作物を納める。 この農作物は学校の給食となる(School Feeding Programme)。 なお、国際協力機構(JICA)を始めとする国際 機関は、干ばつのひどい地域に対して、風力揚力 システムの導入などの援助を行っている。 7. 漁業資機材分野に関連する課題と政策 (1) 漁業の実態 農業省のトレーニングセンター(サガ ナ地区)
伝統的な引き網漁法 1)漁業の概要 ケニアにおける主な漁業地帯は、ケニア北部にあるトゥルカナ湖、西部のビクトリア湖、東海岸 のインド洋であるが、開発の度合いは異なる。トゥルカナ湖周辺では、道路が未整備かつ市場ま での距離が長く、漁業に関しては未だ開発途中の段階である。一方、アフリカ最大の湖であるビク トリア湖周辺では開発が進み、ケニア全体の漁獲量の 90%以上をこの湖が占めている。しかし、 過剰な漁獲と湖の汚染により、ビクトリア湖や他の湖でも、野生の魚類が減尐傾向にある。また、 魚類の需要が供給を上回り、価格の上昇を招き、多くの世帯にとって魚類の不足が深刻な問題と なっている。 これを受けて、ケニア政府は、主にティラピア9を中心とした人工の養殖池の設置や稚魚の提供 などを積極的に推進している。 【漁法】 ケニアでは動力船は高価であるため、多く の漁師は木製の船を使用している。その動力 は帄や櫂(かい)小舟と流し網、引き網、及び 前夜の内に仕掛けられる延縄(はえなわ)によ って行われる人手による漁が大半である。 【市場】 一般的には、加工されたチルド冷蔵や冷凍のナイル パーチの切り身が輸出され、生のティラピア、伝統的製 法の加工魚(ナイルパーチ、ティラピア、オメナ、イワ シ)及び餌用オメナが国内に流通している。これらの淡 水魚はケニアの年間の魚販売量の 96%を占める。 レストランで冷凍庫に入れたティラピアを揚げて出す様子 9 スズキ目シクリッド科の魚。鯛に味や食感が似ている。 オメナの干物
【流通】 獲れた魚は浜辺でさまざまな業者に直接販売される。漁師がうろこ取り、フライ、日干しなどの 加工を行うことは稀で、アンケート調査によると、95.6%の漁師は加工をせず、生のままで販売す る。現地で行った漁師へのインタビューでは、加工をしない理由として、漁と加工の両方を 1 人で 行うことは時間が掛かり、魚を腐らせてしまうため、加工せずにその場で売りたいという声を聞い た。 魚加工業者は加工業者の基準(大きさ、鮮度等)に達しているナイルパーチを購入し、氷を積ん だトラックで浜から加工工場へ運ぶ。サイズの合わない、また、質の低いナイルパーチやティラピ ア、オメナはその他の仲介者(回収業者、地方業者、卸売業者、小売業者)に販売される。 事例 3 トゥルカナ湖西岸カラコル(Kalokol)での魚加工現場 ココナッツの種を スモークの燃料に。 バケツ一杯50ksh スモーク フライ 日干し フライ用鍋800ksh フライ用スプーン200ksh トゥルカナ湖周辺での物流: 漁師はマーケットへの直接のアクセスがないため、一般的に価格決定においては 買い取り側が優位で、漁師の収入が低くなりやすい。加工は、漁師、ビーチトレー ダー(中間業者)、運送者が行うケースもある。 漁師 ビーチトレーダー 運送者 タウントレーダー 商人 加工業者 消費者 仕入れ値の 1.5 倍で売る。 200KSh で魚を仕入れ 300KSh で売る 場合、20KSh は加工費(うろこ取り、 フライ、日干し等)。20KSh は運送者 への手数料。利益は 60KSh となる。
1 匹 5KSh で購入した小さめのティラピアが、スモークとフライはそれぞれ 30KSh、日干しは 20KSh で販売されていた。 小売のほとんどは都市部の屋外市場または路面店で行われる。スーパーマーケット等の近代 的店舗における国内産魚製品の販売は稀である。このような国内の販売現場での氷の使用は最 小限であるため、商品の損傷率は高い。 事例 4 ビクトリア湖での流通(朝 8 時頃の買い付けと買い付け後の様子): 1. 陸揚げ 2.たらいの大きさで価格を決定 バケツ一杯のイワ シは 100KSh。ナ イルパーチは一匹 200KSh。 50cm 以 上 の魚は魚加 工 工 場 へ 。 それ以下は 地 元 で 売 ら れる。 インタビューした女性によると、200KSh で買った魚 の内臓を取り出す処理を施して 300KSh で売る。使 用しているナイフは 20KSh で買ったもので、2、3 年 はもつとのこと。 3.魚を洗う。ビニールやたらいを掛けて動物をよけている。 4.内臓の取り出しと開き加工
下記は、現地のある魚加工業者の加工工程の例である。 事例 5 2)漁業の課題 表 2-25 は、ケニアにおける漁獲量の推移を示している。ケニアの総漁獲量の約 90%を占める ビクトリア湖やトゥルカナ湖では漁が盛んに行われており、毎年漁獲量が増えている。しかしなが ら、近年、湖の魚の数が減ってきていることが問題視されている。 【ビクトリア湖の魚の数が減尐している原因】 ・ 乱獲 稚魚や幼魚を守るため、漁網の網目のサイズに規制があるにも関わらず、規定値より小さい 網を使用し、魚の大きさを問わずに乱獲が行われている。そのため、魚が大きく育たずビクトリ ア湖での魚の数が減るという結果を招いている。特に、ナイルパーチとティラピアの乱獲が多 い。この問題に対し、規定通りの漁が行われているか監視するため、パトロールが行われてい る。 ・ 浮き草 元々、外国から人の手によって導入されたヒアシンス10が増殖し、湖内の酸素の循環を妨げ、 10 当該植物は“ホテイアオイ”であるが、現地で一般的な呼称の“ヒアシンス”という呼称を本報告書では用いる。 大手魚加工工場:J-Fish Kenya Ltd. ナイロビに本社があるケニア資本 100%の会社。2 年前に別の魚加工会社を買い取 った。JICA から技術指導を受けた経験がある。ビクトリア湖で獲れたナイルパーチを、 政府認定の中間業者が売りに来る。通常、1 キログラム当たり 200KSh で買い取り、そ れを加工して冷凍フィレを作る。加工工程は下図のとおりである。基本的には輸出用 (欧州が中心)だが、頭は地元に卸してスープなどに利用されている。以前、魚をさばく 機械を導入したことがあったが、取れる身が尐ないため現在は人が行っている。 なお、成長過程の小さい魚や繁殖に有益な大きい魚を守り、乱獲を防ぐため、50 セ ンチメートル以上 85 センチメートル以下の魚しか買い取ってはならないことが法律で定 められている。 鮮度 チェック 鮮度 チェック 下ろし三枚 三枚 下ろし 皮取り鱗、 鱗、 皮取り 冷凍、チルト 冷凍、 チルト 梱包梱包 脂肪、 ヒレ取り 脂肪、 ヒレ取り ラベリングラベリング 鮮度 チェック 鮮度 チェック 下ろし三枚 三枚 下ろし 皮取り鱗、 鱗、 皮取り 冷凍、チルト 冷凍、 チルト 梱包梱包 脂肪、 ヒレ取り 脂肪、 ヒレ取り ラベリングラベリング
魚の住みにくい環境を作っている。そればかりか、船の移動や漁に支障を与えたり、飲料水や 水力発電の利用を妨げたり、また、マラリアを媒介する蚊やその他の虫の繁殖を促すなど、多 くの問題を生じさせている。 ・ 外来魚 ビクトリア湖は、元々は草食性の魚がほとんどであったが、漁獲量の増大を図る目的で、肉食 性のナイルパーチが移入された。これにより、湖での生態系が崩れ、旧来の数百種類の魚が 絶滅したり絶滅の危機にある。 ・ 水質汚染 工場や家庭、及び農業で使用された化学肥料からの排水により、湖の水が汚染されている。 これらの汚水は窒素を含むため、それを栄養としてヒアシンスが増殖する要因ともなっている。 汚水、ヒアシンス共に魚の繁殖を妨げている。 【トゥルカナ湖の魚の数が減尐している原因】 ・ 農業や鉱業からの廃棄物の流入 ・ 建設のためのヤシの木の伐採やダムの建設による環境の変化 ・ 水力発電や灌漑による水量の変化 表 2-25 ケニアにおける漁獲量の推移 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 漁獲量(トン) 淡水魚 112,687 127,696 139,026 151,711 160,110 ビクトリア湖 105,866 115,747 133,526 143,908 151,934 トゥルカナ湖 4,047 9,067 2,493 3,097 4,660 ナイバシャ湖 n.a. 63 43 39 72 バリング湖 39 62 108 120 190 ジペ湖 73 40 74 75 112 タナリバーダム 474 839 950 984 1,118 養殖 1,012 1,035 1,047 1,099 1,120 その他 1,176 843 785 861 904 海水魚 5,819 6,192 6,027 5,966 6,123 甲殻類 756 1,206 1,192 675 476 その他海産物 393 407 397 442 512 合計 119,655 135,501 146,642 158,470 167,221 価格(1,000KSh) 淡水魚 6,468,682 7,539,525 7,386,451 8,070,557 8,197,334 海水魚 286,120 327,563 329,786 312,398 345,768 甲殻類 176,347 221,106 228,425 150,865 135,106 その他海産物 24,963 29,895 28,997 33,452 40,957 合計 6,956,112 8,118,089 7,973,659 8,095,851 8,719,165 (出所)ケニア国家統計局: http://www.knbs.or.ke/
その他、ケニアの漁業分野における課題には、以下のようなものが挙げられる。 ・ 養殖池ではエアレータがないため、4 カ月に一回程度、水を入れ替える必要が生じている。 ・ 手漕ぎ、木製ボートが主流で生産性が悪く、遠方へ行けない。また、転覆や浸水による事故 が多発している。 ・ 漁網の引揚げは手作業で行われており、効率が悪い。 ・ 建設コストが高いため魚の加工場があまり存在しない。 ・ 冷蔵庫、冷凍庫が不足している。 ・ ライフジャケットが買えない。トゥルカナ湖では年間 100 人以上が船の事故で亡くなっている。 市場では 1,000~4,000KSh で売られているが、高額のため購入できない。 ・ 魚を加工する設備やノウハウが不足している。 (2) 漁業分野の政策 10 年前は 120 万トンだったビクトリア湖に生息するナイルパーチの量は、2010 年には 33 万 1,000 トンに減尐した。これを受けて、ケニア政府は年間 45 億 KSh、3 年間で計 135 億 KSh の 予算を充て、ビクトリア湖のナイルパーチの供給安定化や、ティラピアの養殖池の設置を始め、雇 用創出や情報提供、技術指導などに取り組んでいる11。 【政策の具体的事例】 ・養殖池の設置 養殖池の設置を支援し、湖における乱獲を防ぐと同時に、雇用創出や所得向上を狙い、ケニア の漁業開発省は魚の養殖プログラムを開始した。このプログラムは、貧困層に養殖池を提供す るもので、次の 3 つの補助金を出している。 ① 養殖池の建設費用・・・2 万 5,000KSh12 ② 1,000 匹の稚魚(国内の日常消費用のティラピア)・・・単価 5KSh ③ 半年分の飼料 この養殖池で育てられた魚は 4~5 カ月毎に捕獲できる。このプログラムは、貧困層の所得向 上に効果的であり、2009 年度、漁業省は 140 の選挙区13毎に、300 平方メートルの養殖池を 各 200 建設した。さらに、2012 年までに当該選挙区で新たに各 100 の養殖池と、別の 20 の選 11 スタンダード紙 2011 年 1 月 10 日 12 NAPS Kenya: http://www.napskenya.org/index.php?option=com_content&view=article&id=61&Itemid=78 13 ケニアでは、英国からの独立直後を除き、中央集権が政治・行政の基本であった。“1995 年に世界銀行が進 めたプログラムで財政的地方分権化の原案が策定され、地方交付金導入、地方政府の歳入改革が着手された。 これより所得税などの一部が地方開発資金として割り当てられている。しかし、地方行政は「地方政府」、「州行 政」、「セクター官庁の地方組織」、「国会議員の選挙区」と4つのシステムが並列・分裂したもの”である。 (出所)http://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/archives/jica/field/pdf/200803_aid02_05.pdf, p150
挙区で各 300 の養殖池を建設予定である。
・ケニア沿岸開発プロジェクト(Kenya Coastal Development Project)14
世界銀行からの 3,500 万ドルの融資を受け、2010 年 7 月~2016 年 10 月にかけてケニア沿 岸開発プロジェクトが実施されている。同プロジェクトは、漁業に関する規制の見直しやモニタリ ングの強化、調査など、ケニア沿岸部における海洋資源の持続可能な開発を図るものである。 沿岸部における漁業と観光業を促進し、雇用創出や貧困削減に繋げる。 また、湖の稚魚や小さな魚を保護するため、漁網の網目のサイズに規制が掛けられているが、 湖岸管理組合(BMU)は規定された内容(正しい時間・場所・方法で漁が行われているか、誰がど こで魚を買っているかなど)に沿って漁が行われているかコントロール、モニタリング等を行うとと もに、値段に対するアドバイスも行っている。 8. 各地域における課題 地域に特有の課題も見受けられる。以下は、その事例である。 【ビクトリア湖周辺での課題】 ヒアシンスがケニア側のビクトリア湖全体を草原のように覆いつくし、漁に出られないこともある。 これらのヒアシンスは、風によって水面を移動するため、風向きによっては湖が姿を現し漁ができ るが、収入源となる漁ができるか否かは風向きに左右されてしまう。湖内の酸素不足や他の植物 の光合成の妨げにもなっている。 地元では最近、この問題に取り組むためさまざまな工夫がされている。ヒアシンスを乾かし、農 業用の肥料にしたり、木炭や包装紙を作ったり、あるいは牛の餌にする試みもなされている。干し たヒアシンスを利用して、家具やバッグを作り、販売する者もいる。しかし、これらの家具やバッグ は高価であるため、需要が小さく、ビジネスとしてうまく回らない現状もある。 人の手作業によるヒアシンスの回収も行われているが、これは危険を伴う。ビクトリア湖周辺で インタビューしたある男性は、過去にヒアシンスの回収時に湖にいるヘビに腕を噛まれ大怪我を 負ったという。彼の場合は勤めていた会社が費用を負担し、幸いにも治療を受けることができたが、 十分な治療を受けられない者もいる。他にも、湖の寄生虫から毒が体内に入り、潜伏期間 2 年後 に、突然死に至るケースもある。 しかし、この問題に対する効果的な対策は未だとられていない。その一因に、漁業に関する政 14 世界銀行: http://web.worldbank.org/external/projects/main?pagePK=64283627&piPK=73230&theSitePK=40941&me nuPK=228424&Projectid=P094692
カットして牛の餌に 策決定がビクトリア湖から遠く離れたナイロビで行われていることが挙げられる。 【トゥルカナ湖周辺での課題】 課題1:干ばつ トゥルカナ湖周辺では干ばつの被害 が多く、一部では畜産も行われているが、 基本的には漁業により生計を立ててい る。一部、国際機関等により農業支援が 実施されているが、問題の解消に繋が るような成果を得ることは、なかなか難し い。 湖一面に広がるヒアシンス 天日干しにした後、木炭や肥料に 身動きの取れない漁船 リフトバレー州トゥルカナ湖周辺での畜産
課題 2:根付きにくいプロジェクト トゥルカナ湖西岸のカラコル(Kalokol)地域では地方政府、国際・外国政府機関、NGO/NPO (CDF、IOM、Oxfarm、World Vision 等)の支援が多くみられる。プロジェクトを通じて、漁網やボ ート等が提供されることがあるが、それらの資機材が地元で調達できない部品で作られていたり、 操作に高度な技術を要すると、いずれ使われなくなるケースもあり、プロジェクトが根付かないこと がある。 また、プロジェクトが根付きにくい別の理由として、地元の主体性の欠如も挙げられる。以前、 魚の加工場が NGO によって作られたが、NGO が手を引いた後は組合が崩壊し、結局、機能しな くなってしまったケースもある。後任となるリーダーの選任や、指導・管理体制を整備する必要が ある。生産性を上げるような農漁業の資機材を地域で共同購入することによる効率性や利益を説 明するとともに、マネージメントを行う人材の強化も重要と考えられる。 国際機関等から提供されたボート NGO から提供された風力揚水システム 【海岸州での課題】 キリフィ地区の漁獲量のポテンシャルは、年間 50 万トンと見積もられているが、2010 年の漁獲 量は 7,000 トンと低迷している。この原因の一つに、政府・民間からの投資が十分にないことや、 技術水準の低さが挙げられる。通常、漁師は小さなカヌーや木製ボートを使用しており、遠海での 漁業が難しい状況である。
漁網 釣糸 地域:海岸州(キリフィ湾) 対象者:30 歳代男性 家族構成:10 人家族(本人、妻 1 人、子供 8 人(3~17 歳)) 家計:1 日の平均収入は 100KSh。キリフィ湾で漁をするため、家族とは別居して いる。月曜~金曜に漁を行い、土曜に家族に会いに行く。支出は、土曜日の移動 に往復運賃 300KSh。湾近くの家の家賃が月 500KSh。その他は食費と子供の 学校関連費用が主な支出。1年に 1 度、漁業のライセンスに 100KSh、ボートの登 録料に 100KSh を支払っている。 (右写真)プラスチックパッ クを切り取った手作りのバ ケツで船に入ってきた水を 汲み取る。 課題:網が小さく弱いため、30 センチメートル以下の小さい魚しか獲れておらず、 魚 1 匹当たり 5~10KSh 程度の収入しか得られない。もし大きく強い漁網があれ ば、大きな魚も獲ることができるので、1 日当たりの収入は平均 2,000KSh 以上に なるであろう。しかし、現在のマーケットでは、例えば、30 インチの漁網 1 帖の価格 は 2 万 KSh もするので買うことができない。これがもし、5~10 帖で 2 万 KSh 程 度なら、大きな網を作り、大きな魚も獲ることができ、収入も増えるだろう(もっと も、2 万 KSh を貯蓄するにも、現在の収入では購入に時間が掛かるが)。 事例 6
第3章
農漁業資機材分野における開発ニーズとBOPビジネスの可能性 1. 農漁業資機材分野における開発ニーズ、低所得階層が抱えている社会的課題 サブサハラアフリカ、南アジア、その他の後発開発途上国では、約 60~70%の人々は農村部 に居住し、そのほとんどは農業に従事している15。資機材を導入し、農業における生産性、効率性、 あるいは技術を向上させることは、これらの国々における開発に重要な役割を担う。 例えば、アフリカの貧困層の 80%を占める小規模農民が抱えている最大の問題は水不足であ る。通常であれば、年に 1~2 回の雤が降る時期にしか作物を作ることができないが、そこに灌漑 さえあれば、1 年中作物を育てることができ、市場で作物を売って現金収入を得ることが可能とな る。 生産性を上げるため、農業機械の導入や肥料、除虫剤も必要とされている。ケニアにおける肥 料使用量は 2007 年時点で耕地 1 ヘクタール当たり年間 26.0 キログラム(日本は 344.6 キログラ ム16)である。資機材の供給には、地方政府や NGO/NPO を介したり、また、安価な製品を開発す る工夫が求められる。 漁業に関しても、漁師のほとんどが技術水準の高い製品を使えず効率の悪い漁を行っている。 そのため、収入が低くなり、貧困から抜け出しにくい環境となっている。ボートは木製で手漕ぎ、漁 獲は手作業で生産性が低く、その他、養殖池にエアレータがない、冷蔵設備がないなど、メンテナ ンスや漁獲後の損失の問題もある。漁業の資機材への需要とその市場は大きい。 2. 農漁業資機材分野において低所得階層をターゲットとして成功しているビジネスの特徴 的な事例 現地の低所得階層をターゲットとして成功しているビジネスの特徴は、①手頃な価格、②アクセ スのしやすさ、③メンテナンスフリー、あるいは現地にてメンテナンスが低価格で可能、⑤使い勝 手が良く、操作が簡単、④BOP 層にも届く情報提供、⑤国際機関、現地の NGO/NPO、地方政府、 企業・団体との連携等が挙げられる。 以下に、その事例を挙げる。 【事例】 現地調査では、キリフィ湾で見かけるボートのエンジンはほとんどがヤマハ発動機のものであっ 15 世界銀行: http://data.worldbank.org/topic/agriculture-and-rural-development 16 世界銀行: http://data.worldbank.org/indicator/AG.CON.FERT.ZSた。人気の理由の一つとして、同社のエンジンが市場に出回っているためスペアパーツも手に入 り、メンテナンスがしやすいという声があった。市場参
入に当たっては、ODA 無償資金協力を一つの契機と した。
右中の写真は、NPO の CORDIO East Africa が漁 師に提供している GIS(地理情報システム)端末であ る。同時に、漁師にボートの提供も行っている。漁師 は、提供されたボートによって漁ができるようになる代 わりに、GIS 端末を使って CORDIO に漁業状況の報 告をする。CORDIO は、インド洋における環境保全や 持続可能な開発を目的にレポートの発行や教育を行 っており、回収したデータはレポート、研究等に利用さ れている。このプログラムは、USAID によってサポー トされている。NPO はデータの回収ができ、漁師は漁 獲や漁場に関する情報に加えて、端末による現在の 位置情報なども得られるため、うまく機能している。 どこでいくらで農作物が売買できるかという情報を 得ることは、農業関連者にとって重要である。Kenya Agricultural Commodity Exchange (KACE)社は、 このような需要に沿った、農業関連のマーケット情報 を提供するサービスを行っている。ラジオ、携帯電話 (SMS メッセージやインターネットアクセス、英語とス ワヒリ語による音声サービス)、インターネット等から 農業関連者は多様な情報を得ることができる。買い手 側も売り手側も、また、貿易関係者もこの情報を利用 できる環境にある。
同社は、電話会社の The Adtel Phone Company 社やラジオ放送を行う West Media 社と提携し、これら のサービスを可能にしている。また、携帯電話による 送金サービスを行う M-Pesa を利用して KACE への支 払いができるようにしており、銀行口座を持たない農 家にとって便利な支払い形態となっている。 YAMAHA エンジン(15PS) KACE の携帯情報サービス: 携帯で地域別に農作物の買い取り価 格が検索できる。 GIS 端末
3. ニーズの大きい農漁業資機材 どのような商品のニーズが高いかを調べるため、農漁業従事者に対し、将来購入したい資機材 とそれらの希望購入価格についてのアンケートを行った。表 3-1 はその結果である。これによると、 農業従事者が今後購入したい資機材の上位は、次のものである。 ・希望支払額の大きい順:トラクター、手押し車、家畜舎、灌漑用具、耕作機 ・希望人数の多い順:耕作機、手押し車、鍬、噴霧器、ポンプ なお、月額返済余力は、トラクターについては約 2,500KSh で、その他は 30~500KSh 程度で あることが分かる。 表 3-1 農業従事者が将来購入したい資機材 希望支払額の多い順 希望人数の多い順 人数 希望支払額 (KSh) 平均返済月額 (KSh) 人数 希望支払額 (KSh) 平均返済月額 (KSh) トラクター 20 122,251 2,494 雄牛耕作機 107 2,925 385 手押し車 63 25,358 238 手押し車 63 25,358 238 家畜舎 15 9,633 453 鍬 29 277 65 灌漑用具 9 3,000 217 噴霧器 28 2,029 212 雄牛耕作機 107 2,925 385 ウォーターポンプ 28 1,438 204 耕作機 11 2,200 210 大ナタ 21 983 51 牛・ロバの荷車 13 2,108 289 トラクター 20 122,251 2,494 噴霧器 28 2,029 212 刈払機 19 1,587 101 マネーメイカーポンプ 13 1,919 515 じょうろ 17 315 63 自転車 14 1,779 209 家畜舎 15 9,633 453 刈払機 19 1,587 101 鋤 15 30 69 ウォーターポンプ 28 1,438 204 自転車 14 1,779 209 孵卵器 6 1,333 375 牛・ロバの荷車 13 2,108 289 吹き付け機 11 1,295 328 マネーメイカーポンプ 13 1,919 515 肥料 8 1,238 119 耕作機 11 2,200 210 貯水タンク 7 1,129 150 吹き付け機 11 1,295 328 スプリンクラー 8 1,000 96 灌漑用具 9 3,000 217 餌入れ 9 989 276 餌入れ 9 989 276 大ナタ 21 983 51 肥料 8 1,238 119 じょうろ 17 315 63 スプリンクラー 8 1,000 96 鍬 29 277 65 熊手 8 94 38 熊手 8 94 38 貯水タンク 7 1,129 150 鋤 15 30 69 孵卵器 6 1,333 375 (注)・複数回答可(その他を除く)。回答者 250 人。 ・雄牛耕作機は動力が牛であるのに対し、耕作機はエンジンで動く農機具である。 ・マネーメイカーポンプとは、NPO である KickStart の商品で、農業用の灌漑器具である。 (出所)アンケート調査結果よりクロスインデックス作成。表 3-2 も同様。 また、漁業従事者が今後購入したい資機材は、次のものである。 ・希望支払額の大きい順:エンジン付ボート、貯蔵機械、冷蔵庫、餌、ダイビングキット