第 5 章 有望視されるBOPビジネスの製品・サービスの仕様とビジネスモデルの提案
3. 製品・サービスの具体的な仕様
なお、BOP 市場への参入に当たって、その要件の整理を行う場合、マーケティングの 4P
(Price:価格、Product:製品、Place:流通、Promotion:販売促進)の視点を活用するのが一つの 有効な手段である。
価格面ではマイクロファイナンス機関と連携し、BOP 層がローンを組めるモデルを構築したり、
流通の構築では現地の NGO/NPO 等と協業を行うことが有効と考えられる。製品の製造におい ても、現地で調達可能な部材(例えば、配管、ホース)を組み込みながら全体の製品設計を行い、
コストダウンや現地での保守の容易さを追求することも肝要である。また、販売促進や情報提供を 行う機関として、地方政府は現地に根ざした拠点を持っているため、協力を得ていくことが有効で ある。
以下に、具体的な商品の提案例を6つ挙げる。
【農業用ポンプと点滴灌水】
使用目的 水へのアクセスがなく、農作物に充分な水を与えられない現在の課題を解 決するためのものである。農家は、水があれば農作物の種類を増やして販 売網を広げることも可能になる。また、水があっても効率的な水撒きはでき ていないため、この問題に対しても役立つ。
商品説明 商品例:農業用ドリップ製品(点滴灌水チューブなど)
ネタフィムジャパン株式会社(ケニアにも子会社有り)
点滴灌水とは、植物に1滴ずつ水を与える栽培方法である。これにより土壌 へバランスの良い水と空気の供給が可能になり、養分吸収力の高い毛細 根ができる。また、節水、
病害発生の防止等の利点 もある。
この点滴灌水とセットで必 要なものが農業用のポン プであり、どちらもニーズ が高い。これらの商品を 組み合わせ、不足を補い 価値を高める。
(写真出所)http://www.netafim.jp/89/
販売相手 農家、地方政府、NGO/NPO、国際機関等。現地 NGO/NPO を通じて製品 の意義、コスト回収ができることをBOP層に伝え、マイクロファイナンス機関 を通じてローンを組み、購入可能な価格帯にする。補助金が出せるような国 際機関や地方政府の協力があると良い。
価格帯 ポンプと点滴灌水のセットで約1,500 ドル。上記のようにローンや補助金が 必要である。
容易性 使い方はデモンストレーションなどで説明する方が良い。
流通 現地のNGO/NPOや地方政府の協力を得て、普及活動、デモンストレーシ
ョンを行う。
環境 水と肥料を効率良く吸収させることが可能になり、環境に良い。
生活習慣 現地ではバケツに汲んだ水を与えるが一般的だが、この製品により水の節 約や時間の節約も可能になる。
【刈払機】
使用目的 【ビクトリア湖にて】
ケニアの漁獲量の約90%を占めるビクトリア湖ではヒアシンスが増殖し、湖 を埋め尽くし、ケニアの漁に大きな支障をきたしている。この問題を民間レ ベルで取り組むために、ヒアシンスを利用する試みが行われているが、手 作業による伐採にはヘビに噛まれるなど危険が伴う。漁の途中でボートが 進まなくなり、岸に戻れなくなることもある。岸辺やボートでこのヒアシンスを 伐採する機械への需要は高い。
【農業において】
広大な農地で雑草を処理する作業が重労働で、このために人を雇ってい る。モンバサでのヒアリング調査によると、農業省のサービスでドライバー付 きでトラクターを1回700~800KSh、民間企業からの場合は3,000KShで 借りられる。需要が多く、農業省のサービスの利用予約が詰まっている場 合、民間企業に頼んでいる。
商品説明 商品例:刈払機 RK240-S 株式会社やまびこ
(写真出所)http://www.shindaiwa.co.jp/product/mow/index2.html
湖で使用することは可能である が、葉が飛び散る危険性がある ため、刃をバリカンに付け替える
必要がある。バリカン部分のみを購入して付け替えることは可能である。
ただし、刈払機とバリカン装置は、水中での使用を前提に開発されたもので はなく、水中で使用した場合は、錆や潤滑上の不具合が発生する可能性が ある。水中での使用を前提とする場合、使用条件にあった改造を行い、耐 久性、品質面などの検証を行う必要がある。
バリカンの重さは2~3キログラムで先端につけるため、重い。
肩掛け式と背負い式がある。
販売相手 地域のコミュニティ(共同購入)、地方政府、草刈業者、ディーラー(代理 店)。これらを取り扱う販売店は現在、ケニアでは尐ない。
価格帯 代理店や製造会社、機種による(日本では 1 万 5,000~8 万円程度で販 売)。
キスムでのヒアリング調査によると、購入価格は1,000~1,500KShを希望 していたため、個人向け販売は向かないであろう。
強度、品質保持 期間、耐性
品質は良いが、メンテナンス・修理への考慮は必要である。バッテリーが万 一上がっても、手動でエンジンを始動させるリコイルスタータを標準装備して おり、エンジン始動が可能。
容易性 女性や年配の方にも扱いやすいように本体が軽い(1 キログラム)タイプも ある。子供の使用は危険である。
流通 メンテナンスを容易にするため、部品販売や技術指導は必要である。
環境 刈り取ったヒアシンスを利用し肥料や木炭を作ることで資源利用ができる。
生活習慣 手作業によるヒアシンスの伐採や草刈りが行われており、需要は高い。
備考 日本においても同様なヒアシンス(ホテイアオイ)の被害はあり、これらを除 去する取り組みの事例はある。日本では、ボートやトラクター、ショベルカー など専用の重機を用い、大掛かりに除去作業が行われている。下の写真は 滋賀県での事例である。この他、淀川ではボタンウキクサの引き上げ作業 や、徳島県吉野川では同様にヒアシンアスとボタンウキクサの回収が行わ れている。
日本でヒアシンスを除去する事例(滋賀県)
(写真出所)安土町商工会:http://www.azuchi.org/town/nisinokoruto.htm
ケニアにおいても過去に除去作業が行われたことはあった。1998年に世界 銀行からの支援で12カ月のプログラムで行われ、その年は改善されたが、
現在は行われておらず、問題が残ったままである。当時使用されたのは、
Aquarius Systems社の「Swamp Devils23」という機械である。
ヒアシンスの除去作業と共に、増殖の原因ともなる農業や工場、生活から の排水を流さないようにすることも必要である。
【簡易土壌診断キット】
使用目的 土壌診断を行い、それに基づき施肥管理、土壌改良や土壌に適した作物の 生産を行い、生産性の向上に繋ぐ。また、植物の栄養診断も可能となる。
23 Aquarius Systems: http://www.water-hyacinth.com/solution.html
商品説明 商品例:みどりくんスターターキット 株式会社藤原製作所(販売代理店)
(写真出所)株式会社藤原製作所
http://www.fujihira.co.jp/seihin/soi/pdfcatalog/midorikun.pdf
本製品の商標は東京農業大学土 壌学研究室が有し、キット化やラベ リングを日産化学工業株式会社が 行って、日本の土に合わせて試色 表(色見本)や試験紙を指定して米 国で製造されている。海外での販
売には、同大学の許可が必要。ケニアの土地に合わせて改良するため、現 地の大学の農学部などのデータを有する関連組織と共同開発することが有 効である。
使用方法は簡単で、尐量の土壌試料に精製水を加え、試験紙を直接浸し た後に色を見て診断する。ただし、ケニアの BOP 層にとって精製水を手に することは難しいため、キットに精製水も含まれていると良い。
販売相手 地域のコミュニティ(共同購入)、地方政府、地元のNGO/NPO、BOP層(バ ラ売り)
価格帯 みどりくんスターターキット:6,000円(日本国内の販売価格)
試験紙は40枚入りであるため、バラ売りにして価格を落とすことも良い。
品質保持期間 使用期限約2年(未開封状態)
容易性 使用方法は容易ではあるが、絵を使った使用方法と分析結果の考察方法 に関する説明書は必要である。言語は、英語が公用語ではあるが、農村地 域では英語が苦手な BOP 層も多いため、英語とスワヒリ語両方あると良 い。その他、地域によってキクユ語、ルヒア語、ルオ語、カレンジン語など多 様な言語が話されているが、現地の製品の多くは英語のものが一般的であ る。
流通 土壌診断の手段を持っている BOP 層は尐なく、一般的には地方政府が保 有しているのみである。高額であるというイメージが強い。
環境 土壌診断をすることで環境の把握ができる。
生活習慣 現在、こうした商品を所持しているBOP層は尐ないため、有効性やコストシ ュミレーションの提示と説明が必要である。
【漁網】
使用目的 現地で利用されている漁網は破れやすいため、より丈夫で破れにくい漁網 が必要とされている。
商品説明 商品例:漁網 日東製網株式会社
目的別に合わせてさまざまな種類の漁網がある。
販売相手 各沿岸部には漁業組合があったり、グループが作られている場合がある。
道具を共同で使用していることが多いため、こういったグループを販売対象 にできる。また、富裕層や比較的資金のある人が漁網やボートなどの資機 材のオーナーとなり、漁は BOP 層が雇われて行うケースもある。漁業組合 やこうしたオーナーも販売相手になり得る。
価格帯 アンケート調査では、漁網の希望購入支払額は平均約 2,800KSh であっ た。キスム県では、300KSh(3ply24)~4,200KSh(15ply)で販売されてい る。他の製品より高い場合でも、耐久性の良さによってコスト回収ができるこ とを理解してもらえれば、購入に結びつけることは可能と思われる。現地の
NGO/NPO を介して説明会を行ったり、マーケットでデモンストレーションを
行うと伝わりやすい。
この価格帯に近づけるためには、長さを調整するなどして単価を落とす。
耐性 強いこと。種類によって異なる。
容易性 使い方に、現地のものと特別な違いはない。
流通 現地の販売店や漁業組合を利用する。
環境 ケニアの漁獲量の約90%を占めるビクトリア湖では、魚の乱獲を防ぐためメ ッシュサイズに規定がある。ナイルパーチとティラピアはケニアの漁業にお いて主要な魚で、これらの魚の場合、メッシュサイズ 5 インチ未満は使用で きないため、近年、当該サイズの漁網の需要は尐ない。
生活習慣 漁網は漁業従事者に最も使用されている道具のうちの一つである。
市場性 刺し網の場合、2000 年にケニアで13万3,365の漁網が使用されており、
毎年その数は伸び、2006年には21万7,358に拡大している25。養殖池の 設置も増加を続ける中、漁網へのニーズは高まっている。
24 繊維を撚り合わせて糸を作っており、3plyは3つ撚りの糸である。
25 MFD, Fisheries Department “Lake Victoria Frame Survey 2006”