• 検索結果がありません。

博士論文 全文要約

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博士論文 全文要約"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

感染細菌に対する宿主防御に果たす8-ニトロcGMPの

役割

著者

伊藤 千秋

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第15932号

URL

http://hdl.handle.net/10097/58733

(2)

博士論文(要約)

感染細菌に対する宿主防御に果たす

8-ニトロ cGMP の役割

平成

25 年度

東北大学大学院生命科学研究科

分子生命科学専攻

伊藤千秋

(3)

はじめに

筆者は、内因性の一酸化窒素シグナルメディエーターである8-ニトロ 3',5'環状グアノシン一リン酸(8-ニ トロcGMP)の生理機能解明を目指してきた。本研究において、8-ニトロ cGMP がタンパク質分解機構の一 つであるオートファジーを誘導することを見出した。さらに、オートファジーを介した細胞内細菌の排除を 促進することが明らかになった。

序論

1.1. 一酸化窒素シグナル伝達経路における新規メディエーター 8-ニトロ cGMP 1.1.1 一酸化窒素伝達経路と 8-ニトロ cGMP 生成

一酸化窒素(nitric oxide: NO)は生体内でシグナル伝達分子として働いており、血管平滑筋弛緩による血 圧降下、血小板凝集抑制1)、白血球接着調節2)など、多様な役割を果たしている。NO 合成酵素(nitric oxide

synthase: NOS)による L-アルギニンの酸化的分解により生成した NO は、可溶性グアニル酸シクラーゼ (soluble guanylate cyclase: sGC ) を 活 性 化 し 、 環 状 グ ア ノ シ ン 一 リ ン 酸 ( cyclic guanosine monophosphate: cGMP)cGMP の産生を促進して、これに依存的な経路でシグナルを伝達する。一方で NO は活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS)と反応して活性酸化窒素種(reactive nitrogen oxide species: RNOS)となり、生体分子を修飾することでシグナルを伝達する。 8-ニトロ 3',5'-環状グアノシン一リン酸(8-ニトロ cGMP)は NO シグナル経路の下流で生成する新規シグ ナル分子として発見された 3)。ほ乳類に限らず植物にも存在することが明らかになり、生理機能解明は重要 であると言える。 1.1.2. 8-ニトロ cGMP によるタンパク質システイン残基の修飾: S-グアニル化反応 タンパク質システインチオール基との求核置換反応によって、8-ニトロ cGMP はタンパク質に結合するこ

とができる3) S-グアニル化反応)。Keap1(Kelch-like ECH-associated protein 1)や H-RAS がS-グアニ

ル化されることによってシグナルが制御され、生理機能が発揮されることが報告されている。 1.1.3. 8-ニトロ cGMP の代謝経路

(4)

に変換されることが明らかになっている4)免疫細胞化学染色によっても、8-ニトロ cGMP が 8-アミノ cGMP に変換されることが確認されている。炎症条件において、8-アミノ cGMP はさらに NO 依存的に cGMP に変 換されることがわかっている。一方で8-ニトロ cGMP は内因性の硫化水素(H2S)と反応し、8-チオ cGMP が生成することが報告されている5)。硫化水素産生酵素であるCBS(cystathionine β-synthase)をノックダ ウンすると8-チオ cGMP の生成が減少することや、8-チオ cGMP を過酸化水素や窒素酸化物で処理すると cGMP に変換されることを示している。8-ニトロ cGMP によるシグナル制御の全容を明らかにするために、 さらなる報告が求められている。 1.1.4. 8-ニトロ cGMP 構造を模した蛍光プローブの合成と生細胞イメージング 6) 8-ニトロ cGMP の新たな生理機能を明らかにするには、この分子の細胞内局在が手がかりとなると考 え、S-グアニル化を検出することのできる蛍光プローブ1を合成した 6)。生細胞イメージングの結果、蛍光 プローブ1 は物質分解の場として知られるリソソームと共局在することがわかった。免疫細胞化学染色によ

っても、S-グアニル化タンパク質が一部リソソームに局在することが確認できた(data not shown)。これら

の結果から、リソソームによるタンパク質分解機構に8-ニトロ cGMP が関与しているものと推察した。

1.2. オートファジーについて

1.2.1. 細胞内タンパク質分解系 タンパク質分解システムの一つであるオートファジーにはマクロオートファジー、ミクロオートファジー、 シャペロン介在性オートファジーがあるが7)、本論文ではマクロオートファジーをオートファジーと示す。 ユビキチン・プロテアソーム経路が、ユビキチン化されたタンパク質を分解する選択的分解システムである のに対し、オートファジーは比較的大きなタンパク質も取り込み分解するバルクな分解機構であると考えら れてきた8)。近年では、選択的オートファジーの概念が出現し注目を集めている9) 1.2.2. オートファジーの担う生理的役割 オートファジーは、細胞にとって悪影響を及ぼすタンパク質凝集体や細胞内侵入細菌などを排除し、恒常 性維持に重要な役割を果たしている。アルツハイマー病などの神経変性疾患や、細菌感染症の治療への応用

(5)

が期待されている。 1.2.3. オートファジーの分子メカニズム オートファジーは飢餓状態や細菌感染などのストレスによって誘導される。隔離膜が出現し、基質を取り 込みながらオートファゴソームを形成する。そしてリソソームと融合し内容物が分解され、得られたアミノ 酸などは再利用される。オートファジーの過程ではAtg(autophagy-related)タンパク質群がいくつかのグ ループに分かれて機能している10) 1.2.4. オートファジー誘導化合物の誘導形式

mTOR(mammarian target of rapamycin)はオートファジーのネガティブレギュレーターであり、mTOR

の不活性化によるオートファジー誘導(mTOR に依存したオートファジー誘導)は古典的経路とされている。 一方で、mTOR を介さないオートファジー誘導経路も存在する11)。mTOR はオートファジーに限らず多く の機能制御に関与している12)ため、mTOR に依存しないオートファジー誘導化合物が神経変性疾患や細菌感 染症の治療薬候補として求められている13),14)。また、Atg5 ノックアウトマウス(Atg5−⁄−)においてもオー トファジーを誘導する化合物が報告されており15)、これまで必須と考えられてきたAtg タンパク質に依存し ない誘導経路の存在も明らかになってきた。 1.2.5. NO と ROS のオートファジーとの関係 ROS は、多様なメカニズムを介してオートファジーを制御することがわかっている。NO とオートファジ ーの関係については、Sarker らが NO はオートファジーを阻害することを NO ドナー試薬と NOS の過剰発 現系を用いて報告している16)。一方でYuan らの報告では、LPS 処理によって誘導されるオートファジーは ROS と NO の両方によって制御しされることが示されている17) 筆者は、NO と ROS の下流分子である 8-ニトロ cGMP がオートファジーに与える効果を評価した。する と、この分子はオートファジー誘導能を持つこと、感染細菌のオートファジーによる排除を促進することが わかった18)

(6)

第二章 本論

2.1. 8-ニトロ cGMP のオートファジー誘導能発見

2.1.1. 8-ニトロ cGMP がオートファジーに与える影響

オートファジーでは、基質が二重膜構造により取り込まれオートファゴソームが形成される。LC3 (mictrotubule-associated protein light chain 3)は酵母 Atg8 の哺乳類ホモログであり、オートファゴソー

ム上に局在するオートファジーマーカータンパク質である19), 20)。ホスファチジルエタノールアミンと結合し

たII 型(LC3-II)としてオートファゴソーム膜上に局在する。LC3 陽性 puncta 数と LC3-II レベルでオー トファジーを評価した。 RAW 264.7 細胞を、8-ニトロ cGMP (100 µM)で処理したところ、LC3-陽性 puncta の数が増加し、ウ エスタンブロッティングによってもLC3-II レベルの増加が確認できた。また 8-ニトロ cGMP 処理した RAW 264.7 細胞において、オートファゴソームに特徴的な二重膜構造体の形成が透過型電子顕微鏡観察により確認 できた。 2.1.2. 8-ニトロ cGMP が誘導するオートファジーの機構

Atg5−⁄−Atg5+⁄+のマウス胎仔線維芽(MEF)細胞を 8-ニトロ cGMP で処理し、オートファゴソーム数を

比較したところ、Atg5+⁄+MEF では 8-ニトロ cGMP 処理によって有意な増加が見られたのに対し、Atg5−⁄−MEF

では8-ニトロ cGMP 処理はオートファゴソーム数に影響を与えなかった。よって、8-ニトロ cGMP のオート ファジー誘導はAtg5 に依存的な経路でおこることが明らかになった。 ウエスタンブロット解析の結果、8-ニトロ cGMP 処理は mTOR の下流に存在するリボソームタンパク質 S6 のセリン/スレオニンキナーゼ S6K(S6 kinase)のリン酸化レベルや、翻訳抑制タンパク質である 4E-BP1 (4E-binding protein 1)のリン酸化レベルに影響を与えなかったことから、8-ニトロ cGMP のオートファ ジー誘導はmTOR に依存しない経路でおこることが分かった。

2.2. LPS 刺激によるオートファジー

グラム陰性菌が外膜に持つPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)の一つである LPS は、オ

(7)

る3)LPS 誘導オートファジーは NO と ROS の両方に依存するという Yuan らの報告を受け17)NO と ROS

の両方に由来する8-ニトロ cGMP がオートファジー誘導の一因となっているのではないかと考えた。

2.2.1. LPS によるオートファジー誘導と NO および 8-ニトロ cGMP の関係

LPS で処理した RAW 264.7 細胞を免疫細胞化学染色により観察すると、オートファゴソーム数増加が認 められ、NO 産生量の増加も Griess アッセイ21)によって確認された。LPS 処理に加えて NO の阻害剤であ

るL-NMMA(Nω-Monomethyl-L-arginine Acetate)処理を行うとオートファゴソーム数が減少したことか

ら、LPS 誘導オートファジーへの NO の必要性が確認できた。 8-ニトロ cGMP は CBS や CSE(cystathionine γ-lyase)で産生される硫化水素により消去されることが 報告されている 5)LPS 処理に加えて硫化水素ナトリウム(NaHS)処理を行うとオートファジーは抑制さ れた。オートファジーレベルと内因性8-ニトロ cGMP レベルに正の相関があることが免疫細胞化学染色によ って確認できた。 2.2.2. p38 MAPK 阻害がオートファジーと 8-ニトロ cGMP 生成に与える影響

LPS により誘導されるオートファジーが p38 MAPK(p38 mitogen-activated protein kinase)を介したシ グナル伝達経路によって誘導されると提唱されている22)LPS 誘導オートファジーの p38 阻害剤による抑制 が、筆者の行った実験でも確認できた。このとき、免疫細胞化学染色によって細胞内8-ニトロ cGMP レベル の減少が示され、オートファジーレベルと8-ニトロ cGMP レベルに正の相関が認められた。 2.3. 細菌感染系における 8-ニトロ cGMP のオートファジー促進効果 細菌を取り込み分解するオートファジーをゼノファジー(Xenophagy)という。筆者は、細菌感染細胞で の8-ニトロ cGMP 生成とオートファジー誘導に相関があるかどうか検証を行った。細菌にはゼノファジー分 野でよく研究されているA 群連鎖球菌23), 24)を使用した。 2.3.1. A 群連鎖球菌感染細胞における 8-ニトロ cGMP 産生 A 群連鎖球菌を感染させた RAW 264.7 細胞で、8-ニトロ cGMP の生成量が増加することが免疫細胞化学 染色により確認できた。L-NMMA や硫化水素ナトリウムによって、8-ニトロ cGMP 生成量が抑えられるこ

(8)

とが示された。

2.3.2. ゼノファジーによる A 群連鎖球菌の排除

Hela 細胞に感染した A 群連鎖球菌(GAS)が、エンドソームから細胞質に抜け出した後、LC3 が局在す るオートファゴソーム様のvacuole(GAS-containing autophagosome-like vacuole: GcAV)によって捕捉さ れることが報告されている25)RAW 264.7 細胞ににおいても、A 群連鎖球菌の周囲に LC3 が局在する vacuole

の形成を確認した。透過型電子顕微鏡観察では、菌周囲にゼノファジーに特徴的な二重または多重の膜構造 を確認することができた。よってRAW 264.7 細胞に A 群連鎖球菌を感染させた場合にも、ゼノファジーに よって菌排除が起こることが示された。 2.3.3. 8-ニトロ cGMP がゼノファジーに与える効果 RAW 264.7 細胞を 8-ニトロ cGMP(100 µM)存在下で A 群連鎖球菌感染させたところ、細胞内に侵入し たA 群連鎖球菌の生存率はコントロールと比べて減少し、その効果はリソソーム酵素阻害剤である E64d と ロイペプチン処理により打ち消された。感染細胞のGcAVs 形成率は、8-ニトロ cGMP 処理により上昇した。 さらに、内因性の8-ニトロ cGMP レベルを抑制できる L-NMMA や硫化水素ナトリウムで処理したところ、 侵入細菌の生存率はコントロールよりも増加し、GcAVs 形成率は減少した。 グラム陰性細菌であるサルモネラを感染させたRAW 264.7 細胞では、硫化水素ナトリウム処理によりオー トファジーが抑制され、侵入細菌の生存率が上昇することがわかった。 野生型マウスとiNOS ノックアウトマウスそれぞれから採取した骨髄マクロファージを使用した実験では、 iNOS ノックアウトでは野生型に比べて侵入 A 群連鎖球菌の細胞内生存率が増加し、GcAVs 形成率は減少し た。iNOS ノックアウトに L-NMMA 処理を加えると侵入細菌生存率はさらに増加し、GcAVs 形成率はさら に減少した。以上の結果から、iNOS に限らず構成型 NOS も含めて、オートファジーによる A 群連鎖球菌 の排除に寄与していることが示された。

2.3.4. 8-ニトロ cGMP がリソソーム・ファゴソーム経路に与える効果

(9)

る26)。この経路(リソソーム・ファゴソーム経路と呼ぶことにする)の寄与を、エンドソームからの抜け出 しに必要なコレステロール依存性細胞溶解毒素ストレプトライシン O(SLO)の変異株を用いて評価した。 8-ニトロ cGMP で処理を行っても、RAW 264.7 細胞に侵入した SLO 変異株の生存率に影響はなく、8-ニト ロcGMP による細菌排除促進はリソソーム・ファゴソーム経路を介したものではないことが示唆された。

2.4. 8-ニトロ cGMP のオートファジー促進メカニズム解明

基質がユビキチン集積を受けて、選択的にオートファジーで分解されるという「選択的オートファジー」 27), 28)が近年発見された。8-ニトロ cGMP によるオートファジー促進メカニズムを探るため、S-グアニル化と ユビキチン化の二つに注目して実験を行った。 2.4.1. 細胞内細菌表面の S-グアニル化修飾 RAW 264.7 細胞内に侵入した A 群連鎖球菌の表面にS-グアニル化が集積することが、免疫細胞化学染色 によって明らかになった。中には、オートファゴソームに捕捉されているS-グアニル化陽性細菌も観察され た。腹腔マクロファージをA 群連鎖球菌に感染させた場合でも、同様の結果が得られた。ファゴソームから 細胞質に抜け出ることのできないA 群連鎖球菌ΔSLO 変異株を感染させた場合には、S-グアニル化集積が見 られなかったことから、S-グアニル化集積は菌がファゴソームから抜け出た後に起きることが示された。 さらに詳しく解析を行うと、オートファゴソームによって捕捉されている菌の方が、そうでない菌よりも S-グアニル化されている確率が高いことがわかった。 2.4.2. S-グアニル化修飾とユビキチン集積の関係 オートファゴソームに捕捉されている細菌で高い確率でS-グアニル化集積が見られたため、S-グアニル化 が細菌をオートファゴソームに捕捉させる直接的な働きをしているのではないかと考えた。そこで筆者は、 S-グアニル化集積と、選択的オートファジーのタグとされているユビキチン集積との関係性を調べた。 ユビキチン抗体で染色を行ったところ、RAW 264.7 細胞中で菌表面にユビキチン化が集積している A 群連 鎖球菌を確認できた。感染後一時間においては約半数の細胞内侵入細菌がS-グアニル化集積を受けていたの に対し、ユビキチン集積率は10%以下であり、二時間以降に増加した。内因性の 8-ニトロ cGMP 生成量を抑

(10)

えた条件では、菌のS-グアニル化集積と共にユビキチン集積も抑制された。iNOS ノックアウトマウスの骨 髄マクロファージとL-NMMA 処理を組み合わせた実験では、細胞内侵入細菌へのユビキチン集積には iNOS に限らずに構成型NOS も含めた NO 産生が寄与していることが示された。 さらに、ユビキチン活性化酵素E1 の阻害剤である PYR-41 を用いると、菌表面へのユビキチン集積は抑 制され、侵入細菌の生存率は上昇した。その際、菌表面へのS-グアニル化集積には影響が出なかった。得ら れた結果から、「菌表面へのS-グアニル化集積がユビキチン集積を促進している」というモデルが推察される。

ユビキチンにはさまざまな連結様式があるが、63 番目のリジンを介して連結したリジン 63 型ポリユビキ チン鎖(K63Ub と表すことにする)はオートファジー分解のタグとして重要であると考えられている29), 30) K63 型ポリユビキチン鎖に特異的に反応する抗体で染色したところ、RAW 264.7 細胞に感染した細菌の周囲 にK63 型ポリユビキチン化の蓄積が確認できた。感染細胞の8-ニトロ cGMP 生成量を抑えると、細菌への K63 型ポリユビキチン集積は抑制されることが免疫細胞化学染色によりわかった。さらに、菌表面S-グアニ ル化陽性細菌とS-グアニル化陰性細菌とでは、前者のほうが K63Ub 陽性である確率が高いことが示された。 2.4.3. LC-MS による標的分子の同定 感染細菌表面へのユビキチン集積はこれまでにさまざまな細菌で報告されており31)、細菌を選択的にオー トファジーで分解するためのタグとして機能することがわかっている。今回、免疫細胞化学染色によって菌 表面にはS-グアニル化修飾も起きることが示された。A 群連鎖球菌感染 RAW 264.7 細胞から作成したライ セートを二次元電気泳動、ウエスタンブロットにより解析した。S-グアニル化陽性スポットを SDS-PAGE ゲルから切り出し、抽出タンパク質を質量分析で解析したところ、細菌由来のタンパク質としてグリセルア ルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)とフルクトースビスフォスフェイトアルドラーゼがヒットし た。これらのタンパク質は菌表面にも存在すると報告されている32) 2.4.4. 導かれるオートファジー誘導モデル 前項までの結果より、筆者が提唱するモデルは次の通りである。RAW 264.7 細胞に A 群連鎖球菌が感染後、 内因性8-ニトロ cGMP 量が増加し、ファゴソーム膜から抜け出した菌表面においてS-グアニル化が蓄積する。

(11)

菌表面S-グアニル化に選択的な K63 型ポリユビキチン鎖の集積がおこり、選択的オートファジーによる A 群連鎖球菌の分解が促進される。

2.5. 非感染系における 8-ニトロ cGMP 誘導オートファジーとユビキチンの関係

2.5.1. オートファジー促進における Lys63 型ポリユビキチン形成の必要性

A549 細胞に RFP をコンジュゲートさせた各種ユビキチン(wild type, K48R, K63R, K48, K63)をトラン スフェクションで発現させ、8-ニトロ cGMP 処理が有りの場合と無しの場合においてオートファゴソーム数 を評価した。結果、K63 型のポリユビキチンを形成できる K48R(48 番目のリジンがアルギニンに置換)お よびK63(63 番目の以外のリジンがアルギニンに置換)をそれぞれ発現させた細胞では、8-ニトロ cGMP 処理によるオートファゴソーム数増加が確認されたが、K63 型のポリユビキチンを形成することができない K63R(63 番目のリジンがアルギニンに置換)および K48(48 番目以外のリジンがアルギニンに置換)を発 現させた細胞では、オートファゴソーム数増加は見られなかった。以上の結果より、8-ニトロ cGMP 処理に よるオートファジー誘導にはK63 型ポリユビキチンが重要であることが示された。 2.5.2. 8-ニトロ cGMP による Lys63Ub 化タンパク質のオートファジー分解促進 RAW 264.7 細胞を 8-ニトロ cGMP で処理し、ウエスタンブロット解析を行ったところ、K63 型ポリユビ キチン鎖修飾タンパク質量の減少が明らかになった。オートファゴソームとリソソームの融合過程を阻害す るバフィロマイシン処理を加えたところ、K63 型ポリユビキチン鎖修飾タンパク質が蓄積したことから、K63 型ポリユビキチン鎖修飾タンパク質のオートファジーによる分解を8-ニトロ cGMP が促進していることが示 唆される。さらにK63 型ポリユビキチンと共局在するオートファゴソーム(LC3 puncta)の数を免疫細胞 化学染色によって調べると、8-ニトロ cGMP 処理によって有意に増加することがわかった。

2.6. 結論

筆者は、NO のシグナル伝達分子である 8-ニトロ cGMP がオートファジー誘導能を持ち、細胞内に侵入し たA 群連鎖球菌のオートファジーを介した排除を促進することを明らかにした。細胞内に侵入した A 群連鎖 球菌のうち、GcAVs に捕捉された細菌はそうでない細菌と比べて、菌表面にS-グアニル化修飾を高い確率で

(12)

受けていることが分かった。表面上にS-グアニル化修飾を受けた細菌は、K63 型ポリユビキチン集積を高い 確率で受けることが明らかになった。菌表面へのS-グアニル化修飾を阻害するとユビキチン集積も抑えられ たが、ユビキチン集積を阻害してもS-グアニル化集積には影響を与えなかった。これらの結果から、細菌表 面でS-グアニル化修飾が起き、これが目印となってK63 型ポリユビキチン集積が促進されることが示唆され た。 非感染系においてユビキチンコンストラクトを用いた実験では、8-ニトロ cGMP 処理によるオートファジ ーにK63 型ポリユビキチン形成が重要であることが示された。また、K63 型ポリユビキチン修飾されたタン パク質のオートファジーによる分解が8-ニトロ cGMP 処理によって促進されることが示唆された。以上の結 果を受けて、A 群連鎖球菌感染系と同様に非感染系においても基質のS-グアニル化がK63 型ポリユビキチン 集積を促進し、オートファジーを活性化すると筆者は推測している。

第三章 考察

Yuan らは LPS 処理によるオートファジーが、NO 合成酵素阻害剤と抗酸化物 N-アセチルシステインの両 方によって抑制されることから、NO と ROS がオートファジーの制御に関与していることを示している17)

一方でSarker らは、NO ドナー試薬や NOS 過剰発現系を使って、NO によってオートファジーが阻害され

ることを示しており16)NO の果たす役割が両者の報告で反対である。その原因として、ROS の関与の有無 が挙げられる。NO と ROS の下流では、今回オートファジー誘導能を持つことが明らかになった 8-ニトロ cGMP が生成する。8-ニトロ cGMP 以外にもニトロ化脂質など他の内因性分子も生成されるため、そのよう な分子がオートファジーを制御している可能性は否定できないが、少なくとも制御因子の一つとして8-ニト ロcGMP が機能していると考えられる。 A 群連鎖球菌感染系において、細菌表面へのS-グアニル化修飾が K63 型ポリユビキチン集積の目印となっ て、細菌のオートファジーによる分解を促進しているというモデルを立てた。さらに非感染系で8-ニトロ cGMP 処理を行った実験からも、基質のS-グアニル化修飾が K63 型ポリユビキチン結合を促進して、オート ファジーを活性化している可能性が示唆された。一方でユビキチンとの関係以外にも、8-ニトロ cGMP 処理 が別のシグナル伝達経路を活性化することでオートファジーを誘導している可能性もあると考えている。

(13)

本研究では、細胞内に侵入したA 群連鎖球菌表面で見られるS-グアニル化の基質について、細菌由来のタ ンパク質に絞って解析を行ったが、宿主由来のタンパク質が菌表面にS-グアニル化された状態で集積してい る可能性も十分に考えられる。A 群連鎖球菌の周囲でユビキチン化を受けているタンパク質ついてもまだ明 らかになっておらず、S-グアニル化基質同定のためにも解明が急がれている。 A 群連鎖球菌表面上のS-グアニル化修飾がユビキチン集積を促進するメカニズムの仮説として、基質の S-グアニル化をあるユビキチン化酵素が認識するのではないかと考えている。A 群連鎖球菌についてはユビキ チン化に関与する酵素は未だ明らかになっていないが、サルモネラに関してはLRSAM が33)、結核に関して はParkin が34)それぞれユビキチン転移酵素として働くことが近年報告された。A 群連鎖球菌の場合につい ても酵素が明らかになれば、仮説実証実験を行えるであろう。 mTOR はさまざまなシグナル伝達経路と関わりがあることから12)、mTOR に依存しない経路でオートフ ァジーを誘導する化合物が、神経変性疾患や細菌感染症の治療薬候補として期待されている13), 14)。8-ニトロ cGMP は mTOR 非依存的にオートファジーを誘導することが明らかとなった。しかし膜透過性が低いことか ら3)、今後は、より膜透過性が高く活性の高い誘導化合物の創出が期待される。 A 群連鎖球菌以外の細菌の排除に対しても 8-ニトロ cGMP が有効にはたらくかどうか、また細菌感染症だ けでなく神経変性疾患などにも効果があるかどうか、検証を進めたい。

参考文献

1. Radomski, M. W.; Palmer, R. M.; Moncada, S. Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 1990, 87, 5193-5197.

2. Kubes, P.; Suzuki, M.; Granger, D. N. Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 1991, 88, 4651-4655. 3. Sawa, T.; Zaki, M. H.; Okamoto, T.; Akuta, T.; Tokutomi, Y.; Kim-Mitsuyama, S.; Ihara, H.;

Kobayashi, A.; Yamamoto, M.; Fujii, S.; Arimoto, H.; Akaike, T. Nat. Chem. Biol. 2007, 3, 727-735.

4. Saito, Y.; Sawa, T.; Yoshitake, J.; Ito, C.; Fujii, S.; Akaike, T.; Arimoto, H. Mol. BioSyst. 2012, 8, 2909-2915.

(14)

5. Nishida, M.; Sawa, T.; Kitajima, N.; Ono, K.; Inoue, H.; Ihara, H.; Motohashi, H.; Yamamoto, M.; Suematsu, M.; Kurose, H.; van der Vilet, A.; Freeman, B. A.; Shibata, T.; Uchida, K.; Kumagai, Y.; Akaike, T. Nat. Chem. Biol. 2012, 8, 714-724.

6. Saito, Y.; Ito, C.; Fujii, S.; Sawa, T.; Akaike, T.; Arimoto, H. ChemBioChem 2013, 14, 1068-1071.

7. Mizushima, N.; Komatsu, M. Cell 2011, 147, 728-741.

8. Kadowaki, M.; Kanazawa, T. J. Nutr. 2003, 133, 2052S-2056S.

9. Ichimura, Y.; Kominami, E.; Tanaka, K.; Komatsu, M. Autophagy 2008, 4, 1063-1066.

10. Nakatogawa, H.; Suzuki, K.; Kamada, Y.; Ohsumi, Y. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2009, 10, 458-467.

11. Sarker, S.; Ravikumar, B.; Floto R. A.; Rubinsztein, D. C. Cell Death Differ. 2009, 16, 46-56. 12. Sarbassov, D. D.; Ali, S. M.; Sabatini, D. M. Curr. Opin. Cell Biol. 2005, 17, 596-603.

13. Williams, A.; Sarker, S.; Cuddon, P.; Ttofi, E. K.; Saiki, S.; Siddiqi, F. H.; Jahreiss, L.; Fleming, A.; Pask, D.; Goldsmith, P.; O'kane, C. J.; Floto, R. A.; Rubinsztein, D. C. Nat. Chem. Biol. 2008, 4, 295-305.

14. Fleming, A.; Noda, T.; Yoshimori, T.; Rubinsztein, D. C. Nat. Chem. Biol. 2011, 7, 9-17. 15. Nishida, Y.; Arakawa, S.; Fujitani, K.; Yamaguchi, H.; Mizuta, T.; Kanesaki, T.; Komatsu, M.;

Otsu, K.; Tsujimoto, Y.; Shimizu, S. Nature 2009, 461, 654-658.

16. Sarker, S.; Korolchuk, V. I.; Renna, M.; Imarisio, S.; Fleming, A.; Williams, A.; Garcia-Arencibia, M.; Rose, C.; Luo, S.; Underwood, B. R.; Kroemer, G.; O'kane, C. J.; Rubinsztein, D. C. Mol. Cell 2011, 43, 19-32.

17. Yuan, H.; Perry, C. N.; Huang, C.; Iwai-Kanai, E.; Carreira, R. S.; Glembotski, C. C.; Gottlieb, R. A. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 2009, 296, H470-H479.

18. Ito, C.; Saito, Y.; Nozawa, T.; Fujii, S.; Sawa, T.; Inoue, H.; Matsunaga, T.; Khan, S.; Akashi, S.; Hashimoto, R.; Aikawa, C.; Takahashi, E.; Sagara, H.; Komatsu, M.; Tanaka, K.; Akaike, T.; Nakagawa, I.; Arimoto, H. Mol. Cell 2013, 52, 794-804.

(15)

19. Kabeya, Y.; Mizushima, N.; Ueno, T.; Yamamoto, A.; Kirisako, T.; Noda, T.; Kominami, E.; Ohsumi, Y.; Yoshimori, T. EMBO J. 2000, 19, 5720-5728.

20. Mizushima, N. Int. J. Biochem. Cell Biol. 2004, 36, 2491-2502. 21. Griess, J. P. Deutsch Chem. Ges. 1879, 12, 426-428.

22. Xu, Y.; Jagannath, C.; Liu, X. D.; Sharafkhaneh, A.; Kolodziejska, K. E.; Eissa, N. T. Immunity 2007, 27, 135-144.

23. O'Seaghdha, M.; Wessels, M. R. PLOS Pathogens 2013, 9, e1003394.

24. Yamaguchi, H.; Nakagawa, I.; Yamamoto, A.; Amano, A.; Noda, T.; Yoshimori, T. PLOS Pathogens 2009, 5, e1000670.

25. Nakagawa, I.; Amano, A.; Mizushima. N.; Yamamoto, A.; Yamaguchi, H.; Kamimoto, T.; Nara, A.; Funao. J.; Nakata, M.; Tsuda, K.; Hamada, S.; Yoshimori, T. Science 2004, 306, 1037-1040. 26. Sanjuan, M. A.; Dillon, C. P.; Tait, S. W. G.; Moshiach, S.; Dorsey, F.; Connell, S.; Komatsu, M.;

Tanaka, K.; Cleveland, J. L.; Withoff, S.; Green, D. R. Nature 2007, 450, 1253-1257. 27. Johansen, T.; Lamark, T. Autophagy 2011, 7, 279-296.

28. Shaid, S.; Brandts, C. H.; Serve, H.; Dikic, I. Cell Death Differ. 2013, 20, 21-30.

29. Tan, J. M. M.; Wong, E. S. P.; Kirkpatrick, D. S.; Pletnikova, O.; Ko, H. S.; Tay, S. P.; Ho, M. W. L.; Troncoso, J.; Gygi, S. P.; Lee, M. K.; Dawson, V. L.; Dawson, T. M.; Lim, K. L. Hum. Mol. Gen. 2008, 17, 431-439.

30. Tan, J. M. M.; Wong, E. S. P.; Dawson, V. L.; Dawson, T. M.; Lim, K. L. Autophagy 2008, 4, 251-253.

31. Perrin, A. J.; Jiang, X.; Birmingham, C. L.; So, N. S. Y.; Brumell, J. H. Curr. Biol. 2004, 14, 806-811.

32. Cole, J. M.; Ramirez, R. D.; Currie, B. J.; Cordwell, S. J.; Djordjevic, S. P.; Walker, M. J. Infect. Immun. 2005, 73, 3137-3146.

33. Huett, A.; Heath, R. J.; Begun, J.; Sassi, S. O.; Baxt, L. A.; Vyas, J. M.; Goldberg, M. B.; Xavier, R. J. Cell Host Microbe 2012, 12, 778-790.

34. Manzanillo, P. S.; Ayres, J. S.; Watson, R. O.; Collins, A. C.; Souza, G.; Rae, C. S.; Schneider, D. S.; Nakamura, K.; Shiloh, M. U.; Cox, J. S. Nature, 2013, 501, 512-516.

参照

関連したドキュメント

[4] Takako Ogawa, Tetsuyuki Harada, Hiroshi Ozaki and Kintake Sonoike (2013) Disruption of the ndhF1 gene affects chlorophyll fluorescence through state transition in the

[r]

Suhara, "Method and device for measuring surface potential distribution, method and device for measuring insulation resistance, electrostatic latent image measurement device,

T.Edura, M.Nakata, H.Takahashi, H.Onozato, J.Mizuno, K.Tsutsui, M.Haemori, K.Itaka, H.Koinuma, Y.Wada, “Single Grain and Single Grain Boundary Resistance of Pentacene Thin

Kobayashi, Different orientation of AgGaTe 2 and AgAlTe 2 layers grown on a-plane sapphire substrates by a closed space sublimation method, 41st Conference on the Physics and

[r]

“In vitro studies on the mechanistic details of adhesion and wound healing of epithelial cell sheet therapy”, JSPS A3 foresight international symposium on nano-biomaterials

Global circadian transcription rhythms without robust kai-gene cycling in the heterocyst-forming multicellular cyanobacterium, Anabaena sp.