特異連続スペクトルをもつ系における 不安定量子状態の緩和過程
Relaxation Process of an Unstable Quantum State In the System with Singular Continuous Spectrum
2012 年 7 月
早稲田大学大学院 理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 統計物理学研究
藤吉 正人
目次
第1章 序論 5
第2章 特異連続スペクトルをもつFriedrichsモデル 11
2.1 特異連続スペクトルをもつ作用素の構成. . . 11
2.2 Friedrichsモデル. . . 13
2.2.1 生存確率 . . . 13
2.3 スケーリングを用いた議論. . . 14
2.3.1 van Hove極限 . . . 14
2.3.2 H¨older連続性 . . . 16
2.3.3 一般的なスケーリング . . . 16
2.4 数値計算:単純な特異連続スペクトルを仮定した環境系 . . . 21
2.4.1 スケーリングの成立についての議論 . . . 29
2.4.2 スケーリング指数 . . . 33
2.4.3 スケールされた生存確率:Ω/ω∗が二進無理数の場合 . . . 35
2.4.4 スケールされた生存確率:Ω/ω∗が二進有理数の場合 . . . 39
2.5 スペクトルの性質による異常緩和の理解. . . 45
2.6 この章のまとめ. . . 47
第3章 不安定量子状態の異常緩和とFibonacci格子中における波の伝播 55 3.1 Fibonacci格子のスペクトル構造 . . . 55
3.2 二準位系と結合したFibonacci格子 . . . 56
3.2.1 不安定状態の生存確率 . . . 58
3.2.2 Fibonacci格子中での波の伝搬 . . . 62
3.3 考察. . . 80
第4章 まとめと考察 83
付録A 公式・定理の部 85
A.1 デルタ関数と主値 . . . 85
A.2 2進有理数に微分不能点を持つLebesgueの特異関数:¯µα . . . 86
A.2.1 µ¯α(ω)の微分とH¨older指数 . . . 88
A.2.2 µ¯α(ω)をIDOSにもつtight-bindingモデル . . . 90
A.3 Fibonacci格子 . . . 91
A.3.1 Fibonacciのウサギ列 . . . 91
A.3.2 切片と射影法によるFibonacciのウサギ列 . . . 92
A.4 Fibonacci格子のバンド構造 . . . 97
A.4.1 対角型のFibonacci格子に対するKKTメソッド . . . 97
A.4.2 非対角型のFibonacci格子に対するKKTメソッド . . . 99
A.5 Symplectic Integrator . . . 100
付録B 数値計算の部 105 B.1 スケーリング指数の決定について . . . 105
参考文献 109
謝辞 113
研究業績 115
第 1 章
序論
量子力学ではHamiltonianをスペクトル表示で取り扱うことが一般的である。スペクトルは井戸型ポ テンシャルなどの閉じ込められたシステムでは離散スペクトル、自由場などの開いたシステムにおいては 連続スペクトルとなり、一般のシステムはこれらの重ね合わせで表現される。
Hamiltonian の連続スペクトル部については積分を用いて表現されるが、多くの場合 Riemann-
Lebesgue積分の形を取って表記され、Lebesgue測度µ(dω)をdωと表すと H =
∫
ω|ω⟩⟨ω|dω (1.1)
の様に記述される。Lebesgue測度を用いた表記は多くの物理系において有効であるが、数学的な観点か らすると記述できないケースを一つ含んでいる。それはスペクトルが特異連続スペクトルとなる場合であ る。特異連続スペクトルとは、Lebesgue測度が0となる集合上で定義された連続スペクトルのことであ
り、Hofstadterバタフライ[1]に代表されるような細分化されたバンド構造などを持つことが多い。特異
連続スペクトルは、Lebesgue測度が0となってしまうために、Lebesgue積分の表式1.1では取り扱うこ とができないという本質的な問題を持っている。
特異連続スペクトルを持つシステムとしては1次元準周期系が良く知られている[2–4] [5]。準周期的な システムは周期的ではないが決定論的に定まった構造を持っていることを意味しておりThue-Morse格 子[6,7]や準周期Schr¨odinger演算子[8,9]などが知られているが、その中でも特にFibonacci格子[4,10]
はよく知られている例の一つである(この分野における比較的最近の研究については[11]を参照のこと)。 これらの系は周期的なシステムでも乱雑なシステムでもない第3の状態として数学的な観点から研究 がなされてきたが、準結晶 [12]の発見以降は準結晶の性質を表すトイモデルとしても注目を集めてきた。
準周期的なシステムは、物理的な性質においても周期系とも乱雑系とも異なる性質を有していることが報 告されている。1次元格子中での電子を例にとると、並進対称性を持つ周期格子ではBlochの理論が適用 でき波動関数は格子全体に広がった状態(extended)を取る。この時のスペクトルは絶対連続スペクトル である。一方乱雑なポテンシャルを持つ場合には、波動関数は局在化(localized)し離散スペクトルとな る事が知られている。準周期構造を持つシステムでは、広がった状態と局在した状態の中間の状態を取る
ことが知られているが [13–15]、この状態はcritical stateと呼ばれている1.1。これらの3状態は、波動 関数の空間積分を取ることで特徴付される [16]。即ち、空間積分の値が積分区間の空間次元乗で増加する ときはextended、一定値に収束する場合はlocalize、積分区間のべきで増加するときcriticalということ
である。 ∫
|n|<N
|ϕω(n)|2dn∼N :Extended (1.2)
∫
|n|<N
|ϕω(n)|2dn∼N0 :Localized (1.3)
∫
|n|<N
|ϕω(n)|2dn∼Nν :Critical (1.4)
ここで、|ϕω(n)|2は原点にピークを持った固有エネルギーωの波動関数の位置nにおける存在確率を、ν は1未満の定数を、N は原点からの距離を表している。
0 0.0002 0.0004 0.0006 0.0008 0.001 0.0012 0.0014
-8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
Amplitude
n
r=1.3
図1.1 Fibonacci格子中のCritical Wave Functionの例
また、1次元準周期における波束の拡散についての研究も多く行われてきた[17–20]。今、1次元格子 系において、t= 0にn= 0に局在していた波束の拡散を、波束の平均2乗変位
σ(t) =∑
n
n2|ψn(t)|2 (1.5)
で特徴付けると、システムが周期系、乱雑系、及び準周期系の場合におけるt→ ∞での漸近的な振舞いは
σ(t)∼
t2 :周期系 t0 :乱雑系
tδ :準周期系, (0< δ <2)
(1.6)
という形で得られる[17–19, 21](ここで、ψn(t)は時刻tにおける、サイトnでの振幅を表した)。即ち、
絶対連続スペクトルをもつ系では波束の拡散は時刻の2乗に比例し、離散スペクトルをもつ系では拡散は 起きない。また、特異連続スペクトルをもつ系では絶対連続スペクトルを持つ系に比較してゆっくりでは あるが、無限遠方へと波束の拡散が起きていることが示されている。なお、拡散速度を表す指数の導出は 通常数値計算を用いて達成されるが、周期系の場合には解析的に導出することが可能であるので、以下に 導出方法を掲示する。
サイト上のポテンシャルを0、サイト間のホッピングの強さを1とした1次元のtight-bindingモ デルのエネルギーE に対しての固有値方程式は
ψn−1−Eψn+ψn+1= 0 (1.7)
で与えられる。この方程式はBlochの形式を満たしており、エネルギーEk = 2 coskに対する波 動関数として
ψk = 1
√N exp(−iEkt)∑
n
exp(ink)|n⟩ (1.8)
となる解を持っている。
|ψ(t)⟩= 1
√N
∑
k
ψk(t) (1.9)
と書くと
ψn(t) = ⟨n|ψ(t)⟩
= 1
N
∑
k
exp(−iEkt) exp(ikn)
−−−−→
N→∞
1 2π
∫ π
−π
exp(−i2tcosk) exp(ink)dk
= exp
(
−inπ 2
)
Jn(2t) (1.10)
と変形でき、第一種Bessel関数Jn(x)を用いて書くことができる。ただしここで公式Jn(−x) =
(−1)nJn(x)を用いた。この形式を用いることで、波束の平均2乗変位は
σ(t) =
N/2∑
n=−N/2
n2|ϕn(t)|2
−−−−→
N→∞
∑∞ n=−∞
n2Jn2(2t)
= 2t2 (1.11)
とt2で拡散していくことが解析的に得られた。
これらの結果によると、特異連続スペクトルを持つシステムにおいては、絶対連続スペクトルを持つシス テムと点スペクトルのみを持つシステムとの中間的な性質が共通して現れている。この結果は特異連続ス ペクトルを持つシステムを理解する上での一つの経験則を与えてくれている。一方で、量子力学において 基本的な性質でありながら、これまで特異連続スペクトルとの関連において研究がされて来なかった分野 も存在しており、その一つが生存確率の緩和現象である。不安定状態にある原子などが弱結合状態にある 外場にエネルギーを放出し基底状態へと遷移する過程では不安定状態の生存確率は、長時間領域において 指数的に減衰することが知られているがその導出過程は以下の通りである。固有エネルギーΩを持つ不 安定量子状態の生存確率ψe(t) =⟨e|e−iHt|e⟩の時間発展はFriedrichsモデル [22, 23]
H = Ω|e⟩⟨e|+
∫ Ω∗ 0
ω|ω⟩⟨ω|dω+λ
∫ Ω∗ 0
(f(ω)|ω⟩⟨e|+h.c)dω (1.12) を用いると
∂tψe(t) =−iΩψe(t) +λ2
∫ Ω∗ 0
f(ω)⟨e|e−iHt|ω⟩dω (1.13) と書くことができる。ここで、λ, f(ω)は結合定数及び形状因子を表す。また、Ω∗はエネルギーの上端で 不安定状態であることよりΩ∈[0 : Ω∗]という条件を満たしている。⟨e|e−iHt|ω⟩=φω(t)についての時 間発展が
∂tφω(t) =−iωφω(t)−iλf(ω)∗ψe(t) (1.14) と書けることより、φω(t)の形式解
φω(t) =−iλf(ω)∗
∫ t 0
e−iω(t−s)ψe(s)ds (1.15) を得ることができ、これを用いることで生存確率についての方程式を閉じた形式で得ることができる。相 互作用表示ψ˜e(t) =e−iΩtψe(t)を用いて式を簡単化すると以下の式が得られる:
∂tψ˜e(t) =−λ2
∫ t 0
ds
∫ Ω∗ 0
dω
{|f(ω)|2e−i(ω−Ω)(t−s)
}ψ˜e(s) (1.16)
f(ω)がωについての滑らかな関数でλが弱い時には、
g(t) =
∫ Ω∗ 0
|f(ω)|2e−i(ω−Ω)tdω (1.17)
が生存確率に比べて非常に早く減衰するとするMarkov近似が成立する事が知られている。従って、方程 式は結局
ψ˜e(ω) =−λ2 {∫ Ω
0
dω
∫ ∞
0
ds|f(ω)|2e−i(ω−Ω)s }
ψ˜e(t) (1.18)
と近似することができ、確率振幅の減衰は
ψ˜e=e−λ2ξt ξ =
∫ Ω 0
dω
∫ ∞
0
ds|f(ω)|2e−i(ω−Ω)s (1.19) となることが示される。時間をτ =λ2tと結合定数で時間をスケーリングすると、結合定数に因らないグ ローバルな振舞いを得ることができる。スケールされた時刻を表すτ はλが小さい弱結合領域において は、ある種の長時間描像を与えてくれる。なお、この結論に関しては第2章においてより一般的な枠組み から再度導出する予定である。
いま得られた結果は、形状因子の具体形を特定していない点などにおいて、一般的な議論に基づいたも のであった。しかしながら、積分をRiemann-Lebesgueの方法で表しており、暗黙の前提条件として外 場のスペクトルが絶対連続である事が求められている。この仮定に特異連続スペクトルが加わった場合 に、生存確率の振舞いがどのように変化するかは非常に興味深い問題である。
波束の拡散などの例からは、指数関数に比較し遅い緩和を示すことが期待されるが、本論文では以下 のような流れで特異連続スペクトルにより駆動される不安定量子状態の緩和についての議論を展開して いく。第2章では、特異連続スペクトルの取扱手法を定義し、解析的な手法を用いて特異連続スペクト
ルをもつFriedrichsモデルの一般論を展開する。ここでFriedrichsモデルにおける生存確率が一般的に
Mittag-Leffler関数を用いて表される事が示される。第3章においては、特異連続スペクトルを持つ外
場の具体例としてFibonacciを採り、緩和過程が前の章で展開した解析結果に従うことを確認する。ま た、特異連続スペクトルを持つ系において生存確率の緩和過程がnon-Markov的となる原因について、
Husimi表示を用いて可視化されたFibonacci格子内の波動の振舞いに基づいた考察を展開する。第4章
では本稿のまとめを行う。
第 2 章
特異連続スペクトルをもつ Friedrichs モ
デル
本章では、特異連続スペクトルを含む一般の連続スペクトルを持つHamiltonianを構成し、そのよう なHamiltonianを外場に持つFriedrichsモデルを構築する。次に構築されたFriedrichsモデルをスケー リング則を用いて解析的に解き、生存確率の導出を行う。特異連続スペクトルを持つFriedrichsモデルで は生存確率がMittag-Leffler関数によって記述されるケースを持つことが示されるので、その条件につい ての議論を行う。
2.1 特異連続スペクトルをもつ作用素の構成
本節では、これからの議論の基礎となる特異連続スペクトルをもつ自己共役作用素の定義を行う。スペ クトルの特異性を議論する前に、測度に対して「絶対連続」と「特異的」の定義を改めて導入しよう。な お、これらの定義については参考文献 [24, 25]に詳しく記述されている。
ヒルベルト空間Hにおける自己共役作用素Aに対して
(1) 実数上で定義され、右側連続 (2) EA(λ1)EA(λ2) =EA(min(λ1, λ2)) (3) limλ→−∞EA(λ) = 0,limλ→∞EA(λ) = 1 を満たす射影演算子EA(λ)が存在し、演算子Aを
A=
∫ ∞
−∞
λdEA(λ) (2.1)
と表すことができる(ここで1は恒等演算子を表している)。このときH上の任意の元φと実軸上の任 意の区間I ≡(a, b]に対して、実軸上の測度µφ(I) = (φ, E(b)−E(a)φ)が定義できる。
この測度の(Lebesgue測度に対しての)連続性を用いて、Hの絶対連続部分空間Hac (absolutely continuous subspace)、特異連続部分空間Hsc(singular continuous subspace)、点スペクトル部分空間
Hp(pure point subspace)を以下のように定義する。
φ∈Hac ⇔ µφ(I)が絶対連続 φ∈Hsc ⇔ µφ(I)が特異連続 φ∈Hp ⇔ µφ(I)が離散的 また、ヒルベルト空間全体はこれらの部分空間の直和で表される
H=Hac⊕Hsc⊕Hp (2.2)
これらの定義を踏まえた上で、GuarneriやAntoniouらの手法 [26–29] に従い、特異連続スペクトル のみを持つ自己共役演算子の構成を以下に示す。Lebesgue測度に関して特異かつ離散的でない測度の累 積分布関数µ(λ)と、µ(λ)に関して二乗可積分な関数で張られるヒルベルト空間
H=L2(R, µ) ={φ(λ)|
∫ ∞
−∞|φ(λ)|2dµ(λ)<∞}
を考える。このとき、A:φ(λ)→λφ(λ) はこの上の自己共役演算子で、特異連続スペクトルのみを持つ 演算子として定義される。実際
(φ, Aφ) =
∫ ∞
−∞
λ|φ(λ)|2dµ(λ) (2.3)
となる事から、φ∈Hに対しての測度µφが
µφ((a, b])≡(φ,{EA(b)−EA(a)}φ) =
∫ b a
|φ(λ)|2dµ(λ) (2.4) と書けることが判るが、この測度µφはµに関して絶対連続であり、したがって、Lebesgue測度に関し て特異連続であることがわかる。
ところで、この様なµ(λ) に対してν = µ(λ) を定義すると、ν が ωに対して非減少で、一対一対応 をしている事から逆関数を定義することができν ∈ Rν(≡µ(R))に対してω =µ−1(ν) =ωνのように 書くことが可能である。今、Lebesgue 測度µL に関して二乗可積分な関数で張られたヒルベルト空間 H=L2(Rµ, µL)とその上の演算子A :φ(ν) →ωνφ(ν)を考えると、Aは特異連続スペクトルのみを持 つことがわかる。実際
(φ, Aφ) =
∫
Rµ
ων|φ(ν)|2dν=
∫ ∞
−∞ω|φ◦µ(ω)|2dµ(ω) (2.5) となる事から
µφ((a, b])≡(φ,{EA(b)−EA(a)}φ) =
∫ b a
|φ◦µ(ω)|2dµ(ω) (2.6) が得られるが、この測度はLebesgue測度に関して特異連続である。ところで、ここまでの議論において 特異連続性は測度µ(ω)の特異連続性を通じて導入されてきが、µ(ω)が絶対連続的な場合には、Aは絶 対連続スペクトルのみを持つ作用素として定義されることを注意しておく。
以下の議論において記述上の簡単化を図るために、このような演算子をDiracの表記を用いて A=
∫
Rµ
ων|ν⟩dν⟨ν| (2.7)
と表記することにする。
2.2 Friedrichs モデル
いくつかのエネルギー準位をもつ量子系と、準位間のエネルギーと共鳴するエネルギーをもつ環境系が 存在した場合、量子系の高いエネルギー準位に存在する状態は、エネルギーを環境系に放出しよりエネル ギーの低い安定した状態に遷移することが知られている。これらの典型的な例として、α崩壊や自発放出 などが挙げられる。この問題を記述する時に用いられる最も簡単なモデルの一つがFriedrichsモデルで ある。
上記の例では、環境系のもつスペクトルは絶対連続であることが仮定されているが、本研究では、特異連 続スペクトルを考えるので、Friedrichsモデルを以下の形で表記する。FriedrichsモデルのHamiltonian はHs, He, Hintをそれぞれ着目する系、環境系、相互作用のHamiltonianとして
H =Hs+He+Hint (2.8)
の様に記述される。ここで、それぞれの項は前節で導入したDiracの表記を用いて Hs = Ω|Ω⟩⟨Ω|, He=
∫
ων|ν⟩⟨ν|dν (2.9)
Hint=λ
∫
f(ν){|Ω⟩⟨ν|+|ν⟩⟨Ω|}dν (2.10) と表記し、状態|Ω⟩,|ν⟩は正規直交条件
⟨Ω|Ω⟩= 1, ⟨Ω|ν⟩= 0, ⟨ν|ν′⟩=δ(ν−ν′) (2.11) を満たし、それぞれの固有エネルギーはΩ, ωνとする。また実関数f(ν)は形状因子でエネルギーの次元 を持ち、λは結合の強さを表す無次元の実定数とする。我々の扱いたいのは初期状態が不安定な場合であ るので、|Ω⟩の固有エネルギー Ωが環境系のエネルギーの値域[0, ω∗]の中に埋め込まれているとする。
また本論文を通じて自然単位系を取ることとし、~= 1としている。
2.2.1 生存確率
上記の設定で、時刻t= 0に注目する系と環境系が相互作用を始めたとするとP(t, λ) =|⟨Ω|e−iHt|Ω⟩ |2 は、時刻t における不安定状態の生存確率と呼ばれ、不安定状態から環境へのエネルギーの受け渡しがさ れていない確率を表す。また、生存確率振幅をa(t) =eiΩt⟨Ω|e−iHt|Ω⟩ と定義すると、a(t)についての
積分方程式が導出できる:
a(t) = 1−λ2
∫ t 0
ds [∫ t
s
ds1
∫
dνf2(ν)e−i(ων−Ω)(s1−s) ]
a(s)
= 1−λ2
∫ t 0
dsG(t−s)a(s) (2.12)
ただし、積分核G(t)は G(t) =
∫
dνf2(ν)e−i(ων−Ω)t−1
−i(ων−Ω) =
∫ ω∗ 0
dµ(ω)f2(µ(ω))e−i(ω−Ω)t−1
−i(ω−Ω)
=
∫ ω∗ 0
d¯µ(ω)e−i(ω−Ω)t−1
−i(ω−Ω) (2.13)
である。この積分はdµ(ω)についてのStieltjes積分であり、形状因子を取り入れた新しい測度d¯µ(ω)は
¯ µ(ω)≡
∫ ω 0
dµ(ω)f2(µ(ω)) (2.14)
で定義される。前節の議論にしたがって、ω=ωνをνの非減少関数としν =µ(ω)の関係を持つとする。
このとき、µ(ω)を特異測度の累積分布関数にとることで、特異連続スペクトルのみを持ったHeが構成 できる。また、この様なµ(ω)として以下の様に定義されるLebesgueの特異関数を取ることができる:
(1) ωa< ωb ⇔µ(ωa)< µ(ωb) (2) 殆どすべてのωに対して dµ(ω)
dω = 0
µ(ω)をこのように取り、f(µ(ω))をωについての連続な関数と仮定すると、µ(ω)¯ はµ(ω)に関して絶対 連続となり、再びLebesgue測度に関して特異連続な測度を定義する。dµ(ω)は、固有状態の密度を規定 するので、今後µ(ω)を環境系の累積状態密度関数と呼ぶ場合がある。
2.3 スケーリングを用いた議論
この節では、時間と相互作用定数の間にあるスケーリング則を考え、それによってスケールされた時間 によって、生存確率の特徴的な振る舞いが記述できることを学んでいく。最初に、環境系のスペクトルが 絶対連続の場合におけるvan Hove極限を導入し、それを特異連続スペクトルを持つ環境系の場合に拡張 していこう。
2.3.1 van Hove 極限
生存確率についての積分方程式(2.12)において、λ2t=τ(λ2s=σ)と言うように、結合定数の二乗と 時間を掛け合わせたもので新しい時間スケールを取ってみよう。このとき、元の積分方程式は
a(τ /λ2) = ˜a(τ) = 1−
∫ τ 0
G
(τ −σ λ2
)
˜
a(σ)dσ (2.15)
と書き換えられる。いま、絶対連続スペクトルを持つ場合を考えているので、状態密度ρ(ω) = d¯µ(ω) dω が 定義でき、積分核は
G(τ /λ2) =
∫ ω∗ 0
d¯µ(ω)e−i(ω−Ω)τ /λ2−1
−i(ω−Ω) =
∫ ω∗ 0
dωρ(ω)e−i(ω−Ω)τ /λ2−1
−i(ω−Ω) (2.16)
の様に書くことができる。したがってλ→0の極限では
λlim→0G(τ /λ2) =
0 (τ = 0)
πρ(Ω)−i
∫ ω∗ 0
ρ(ω)P 1
ω−Ωdω (τ ̸= 0) (2.17) と書くことができる。したがって、˜a(τ)についての積分方程式(2.15)はτ >0において
˜
a(τ) = 1− (
πρ(Ω)−i
∫ ω∗ 0
ρ(ω)P 1 ω−Ωdω
) ∫ τ 0
˜ a(σ)dσ := 1−(γ1−iγ2)
∫ τ 0
˜
a(σ)dσ (2.18)
の様に書くことが可能で、これの解は
˜
a(τ) =e−(γ1−iγ2)τ (2.19)
と与えられる。この解はτ =λ2tという特徴的な時間領域での振る舞いを記述した解になっており、今の 様なτ を選ぶ操作をvan Hove極限をとる操作と呼ぶ。
この解は、丁度(2.12)もしくは、これと等価な微積分方程式
˙
a(t) =−λ2
∫ t 0
ds
∫ ω∗ 0
dωρ(ω)e−i(ω−Ω)(t−s)a(s) (2.20) において
K(t) =
∫ ω∗ 0
dωρ(ω)e−i(ω−Ω)t
が、a(t)に比べて非常に早く減衰するという近似(Markov近似)を取る事に対応している:
˙
a(t) =−λ2
∫ t 0
K(t−s)a(s)ds=−λ2
∫ t 0
K(s)a(t−s)ds
≃ −λ2a(t)
∫ ∞
0
K(s)ds
=−λ2 (
πρ(Ω)−i
∫ ω∗ 0
ρ(ω)P 1 ω−Ωdω
)
a(t) (2.21)
つまり、環境系での特徴的な緩和時間が生存確率の時間変化に対して短いということである。これは、
G(t)でいうと、G(t)が速やかに一定値に緩和することを意味しているが、後述される特異連続スペクト ルを持つ環境系に於いては、この仮定が成立していないことが示される。
2.3.2 H¨ older 連続性
環境系が絶対連続スペクトルを持つ場合には、環境系の状態密度関数が定義することが出来たお陰で 議論が簡単化されたが、特異連続スペクトルに対応するµ(ω)¯ に対しては密度関数は殆どいたるところで
d¯µ(ω)/dω= 0となり、それ以外の点では密度関数を定義することが不可能である。したがってここでは
¯
µ(ω)の共鳴エネルギー近傍での振る舞いを以下に示す方法で近似する。
今µ(ω)¯ は、累積状態密度関数であるので一様連続であるが、その各点での連続性は正の定数κ±, C(±)
が存在して
ωlim↘Ω
¯
µ(ω)−µ(Ω)¯
(ω−Ω)κ+ =C(+) , lim
ω↗Ω
¯
µ(Ω)−µ(ω)¯
(Ω−ω)κ− =C(−)
(2.22)
の様に評価できる(H¨older連続性)。本論文ではLuck [30]の行った近似に基づき、µ(ω)¯ のある点近傍で の振る舞いをH¨older連続性を用いて
¯
µ(Ω + ∆)−µ(Ω)¯ ≃C(+)∆κ+
¯
µ(Ω)−µ(Ω¯ −∆)≃C(−)∆κ−
(2.23)
の様に近似することにする。以下、κ+(κ−)、C(+)(C(−))をそれぞれ、右(左)H¨older指数と、右 (左)
H¨older係数と呼ぶ。
前項で扱った絶対連続スペクトルは、特にκ+ =κ− = 1かつC(+) =C(−) = 12ρ(Ω)の場合であるこ とに注意しよう。
一般に1よりも小さいH¨older指数を持つ点においては微分を定義することが不可能である。したがっ て、ω= ΩでのH¨older指数の大きさによって、いくつかの場合分けが存在する。以下κ+≤κ−として:
(a)1≤κ+ ≤κ−、(b)κ+ =κ− =κ <1、(c)κ+ < κ−<1、(d)κ+ <1< κ−の四つの場合分けを考え、
スケーリングの議論を適用していこう。
2.3.3 一般的なスケーリング
では、環境系が特異連続スペクトルを持つ場合にスケーリングの議論を拡張するために、τ =ληtと置 いた上でηの値をどのように取るべきかを考えよう。この変数変換の下で、方程式(2.12)を(2.15)のよ うに書き換えると
˜
aλ(τ) = 1−λ2−η
∫ τ 0
G
(τ −σ λη
)
˜
aλ(σ)dσ (2.24)
の様になる。今、特異連続スペクトルを規定するStieltjes積分はGの中に含まれているので積分核の評 価をすればよいことが判る。絶対連続スペクトルを持つ環境系に対して行った議論と同様に特異連続スペ クトルを持つ系に於いても、知りたいのは生存確率の特徴的な長時間領域での振る舞いである。したがっ
て、積分核の長時間での漸近的挙動を上手く近似することが重要になってくる。ここで、少々天下り的で あるが(2.24)の積分部分を
λlim→0δλ→0, lim
λ→0δλ/λη→ ∞
を満たすようなδλ ∼λη−ε (ε >0)を考え、δλを挟んだ二つの領域に分けることを考える。この様なδλ
を用いて(2.24)を変形すると
˜
aλ(τ) = 1−λ2−η
∫ δλ
0
G ( σ
λη )
˜
aλ(τ −σ)dσ−λ2−η
∫ τ δλ
G ( σ
λη )
˜
aλ(τ−σ)dσ
≃1−a˜λ(τ)λ2−η
∫ δλ
0
G (σ
λη )
dσ−λ2−η
∫ τ δλ
G (σ
λη )
˜
aλ(τ−σ)dσ
となる。ここで、1行目から2行目への変換では、t∼0近傍における、Gの振舞いに比べてa˜の振舞い が緩やかであることを仮定している。右辺第二項を左辺に移行し
¯ cλ=
{
1 +λ2−η
∫ δλ
0
G (σ
λη )
dσ }−1
(2.25)
と書くと、˜a(τ)についての方程式は
˜
aλ(τ) = ¯cλ−λ2−ηc¯λ
∫ τ δλ
G ( σ
λη )
˜
aλ(τ −σ)dσ (2.26)
の様に書き下せる。以下の議論に於いて
¯ c= lim
λ→0cλ
の存在を仮定すると、方程式(2.26)は、積分核の漸近的な振る舞いのみで記述された方程式となって いる。
それでは、方程式(2.26)を出発点として方程式を調べていくことにしよう。積分核をStieltjes積分に ついての部分積分公式 ∫ b
a
f(ω)dµ(ω) = [f(ω)µ(ω)]ba−
∫ b a
df(ω)
dω µ(ω)dω (2.27)
を用いて変形すると
G ( τ
λη )
=
∫ ω∗ 0
d¯µ(ω)e−i(ω−Ω)τ /λη −1
−i(ω−Ω)
=G1
( τ λη
) +G2
( τ λη
) +G3
( τ λη
)
(2.28)
の様に書き換えられる。ここでG1, G2, G3は G1
( σ λη
)≡ {µ(ω¯ ∗)−µ(Ω)¯ }e−i(ω∗−Ω)λησ −1
−i(ω∗−Ω) + ¯µ(Ω)eiΩλησ −1
iΩ (2.29)
G2
( σ λη
)≡
∫ ω∗−Ω 0
dx{µ(Ω +¯ x)−µ(Ω)¯ }e−ixσλη −1 +ixσλ−ηe−ixσλη
−ix2 (2.30)
G3
( σ λη
)≡
∫ Ω 0
dx{µ(Ω)¯ −µ(Ω¯ −x)}eixσλη −1−ixσλ−ηeixσλη
ix2 (2.31)
で定義されている。弱相互作用の元で、G1, G2, G3がどのように積分方程式に影響を及ぼすかを調べる ためにこれらのλ→0での漸近形を評価しよう。
今、0<Ω< ω∗の範囲にあるのでλ→0でのG1の(2.26)への寄与はηの値に関係なく定まる:
λlim→0
∫ τ δλ
dσG1
( σ λη
)
˜
aλ(τ −σ) =
(µ(ω¯ ∗)−µ(Ω)¯
i(ω∗−Ω) − µ(Ω)¯ iΩ
) ∫ τ 0
˜
a(σ)dσ, (2.32) ただしlimλ→0˜aλ(τ) = ˜a(τ)が存在することは仮定した上で議論を進めよう。次にG2, G3についての評 価であるが、始めにκ+≥1 の場合のG2の評価を考える。左右のH¨older指数が共に1よりも大きい場 合にはlimx↘0µ(Ω+x)¯ −µ(x)¯
x の値は常に有限値であることに注意して
∫ τ δλ
dσG2
( σ λη
)
˜
aλ(τ−σ) =
∫ τ δλ
dσ˜aλ(τ−σ)
∫ ω∗−Ω 0
dxµ(Ω +¯ x)−µ(Ω)¯ x
e−ixσλη −1
−ix
−
∫ ω∗−Ω 0
dxµ(Ω +¯ x)−µ(Ω)¯ x
∫ τ δλ
dσ˜aλ(τ −σ) σ ληe−ixσλη のλ→0での振る舞いを調べる。先に、右辺第二項がλ→0で消えることを示そう:
∫ τ δλ
dσ˜aλ(τ −σ) σ
ληe−iληxσ =
∫ τ δλ
dσσ˜aλ(τ−σ)i x
d
dσ(e−ixσλη −e−ixτλη)
=δλa˜λ(τ −δλ)e−ixδλλη −e−iληxτ
ix +
∫ τ δλ
dσ ( d
dσσ˜aλ(τ −σ)
)e−ixσλη −e−ixτλη ix
→ i0טa(τ)
x−i0 −i0טa(τ) x−i0 +
∫ τ 0
dσ ( d
dσσ˜a(τ−σ)
) { i
x−i0 − i x−i0
}
= 0 . したがってκ+≥1の時はG2の寄与は第一項からのみ来ることが示せたので、G2の評価は
λlim→0
e−ixσλη −1
ix = i
x−i0 (2.33)
より
λlim→0
∫ τ δλ
dσG2
(σ λη
)
˜
aλ(τ −σ)
=
∫ ω∗−Ω 0
dxµ(Ω +¯ x)−µ(Ω)¯ x
−i x−i0
∫ τ 0
dσ˜a(τ −σ)
= [
−i
∫ ω∗ Ω
dωµ(ω)¯ −µ(Ω)¯ ω−Ω P 1
ω−Ω+ π 2µ¯′R(Ω)
] ∫ τ 0
dσ˜a(τ −σ) , (2.34)
となる事がわかる。ここでµ¯′R(Ω) (
= lim
x↘0
¯
µ(Ω +x)−µ(Ω)¯ x
)
はω = Ωでの右側微分である。
一方κ+<1のときは
λlim→0λη(1−κ+)G2
(σ λη
)
= lim
λ→0
σ ληκ+
∫ (ω∗−Ω)σλη
0
dy {
¯ µ
(
Ω + ληy σ
)
−µ(Ω)¯
}e−iy−1 +iye−iy
−iy2
=σ1−κ+C(+)
∫ +∞ 0
dye−iy−1 +iye−iy
−iy2−κ+ =σ1−κ+Γ(κ++ 1) 1−κ+
C(+)e−i
πκ+
2 (2.35)
である。これよりλ→0の極限に於いて、G2はλη(κ+−1) の強さで発散していることがわかる。この変 形の二行目から三行目への書き換えに於いて
λlim→0
[
¯ µ
(
Ω + ληy σ
)
−µ(Ω)¯ ]
=C(+) (ληy
σ )κ+
(2.36) と、H¨older連続性を用いた近似を行っていることを注意しておく。また、最終行の書き換えで0< κ <1 の時に適用できる以下の式を使っている。
∫ +∞ 0
dye−iy−1 +iye−iy
−iy2−κ = 1 1−κ
∫ ∞
0
dyyκ−1e−iy+
∫ ∞
0
dyyκ−1e−iy
= κ
1−κ
∫ ∞
0
dyyκ−1e−iy = Γ(κ+ 1)
1−κ e−iπκ2 (2.37) G3に対しても同様の議論が適用でき、κ−≥1の時にはµ¯′L(Ω)
(
= lim
x↗0
¯
µ(Ω)−µ(Ω¯ −x) x
)
を用いて
λlim→0
∫ τ δλ
dσG3
( σ λη
)
˜
aλ(τ−σ)
= [
−i
∫ Ω 0
dωµ(ω)¯ −µ(Ω)¯ ω−Ω P 1
ω−Ω +π 2µ¯′L(Ω)
] ∫ τ 0
dσ˜a(τ−σ) (2.38)
と評価でき、κ− ≤1の時は
λlim→0λη(1−κ−)G3
(σ λη
)
=σ1−κ−Γ(κ−+ 1) 1−κ− C(−)ei
πκ−
2 (2.39)
とλη(κ−−1)の強さで発散する漸近形が得られる。
これらの結果をまとめると、κ+, κ− が共に1以上の時には、G1, G2, G3の全ての項からλについて 等しい大きさの寄与があるのに対し、κ+, κ− の少なくともひとつが1未満の場合にはもっとも小さい
H¨older指数に対応する項のみが支配的であることが示せた。したがって、前に挙げた(a)〜(d)の場合分
けに対して以下の様な結果が得られる。
(a) 1≤κ+ ≤κ−の場合
この時、G1, G2, G3の全ての項からの寄与は定数で与えられるので、積分方程式(2.26)は
˜
a(τ) = ¯c+ lim
λ→0λ2−η¯c{i∆Ω−γ}
∫ τ 0
dσ˜a(τ−σ) (2.40)
∆Ω = µ(ω¯ ∗)−µ(Ω)¯
ω∗−Ω −µ(Ω)¯
Ω +
∫ ω∗ 0
dωµ(ω)¯ −µ(Ω)¯ ω−Ω P 1
ω−Ω , (2.41)
γ = π
2{µ¯′L(Ω) + ¯µ′R(Ω)} (2.42)
と書き下せる。したがって、積分方程式が自明で無い解を持つためにはη = 2と選ぶ必要があり、方程 式は
˜
a(τ) = ¯c+ ¯c{i∆Ω−γ}
∫ τ 0
dσ˜a(τ −σ) (2.43)
の形を取る。この方程式の解は標準的な指数減衰解である:
˜
a(τ) = ¯cei∆Ωτ−γτ (2.44)
(b) κ+=κ− ≡κ <1, (c) κ+< κ−<1, (d) κ+<1≤κ− の場合
これらの場合は1よりも小さいH¨older指数が存在するので、最も小さいH¨older指数(今の場合κ+) の関係する項のみを取り出して積分方程式の極限形を議論すればよい。
(b)の場合に対して
κ≡κ+=κ−
K¯ ≡ −Γ(κ+ 1)(C(+)e−iπκ2 +C(−)eiπκ2 )/(1−κ) (2.45) (c)と(d)の場合に対して
κ≡κ+
K¯ ≡ −Γ(κ+ 1)C(+)e−iπκ2 /(1−κ)
(2.46)
とκ,K¯ を定義すると、方程式は
˜
a(τ) = ¯c+ lim
λ→0λ2−η(2−κ)c¯K¯
∫ τ 0
dσσ1−κ˜a(τ−σ) (2.47) となり、自明で無い解を持つためにはη = 2−2κ と選ばなくてはならない。このようにηを選んだとき、
生存確率振幅に対しての方程式
˜
a(τ) = ¯c+ ¯cK¯
∫ τ 0
dσσ1−κ˜a(τ −σ) (2.48)
この方程式を解くために、˜a(τ)を
˜
a(τ) = ¯c∑
n=0
αnτβn (2.49)
の形に冪展開し(2.48)に代入すると、αn, βn に対して以下の漸化式が得られる:
αn= ¯cK¯Γ(βn−1)Γ(2−κ) Γ(βn−1+ 2−κ)αn−1, βn=βn−1+ 2−κ
(2.50)
初期条件α0= 1とβ0= 1を考慮して漸化式を解くと方程式の解
˜
a(τ) = ¯c
∑∞ n=0
(¯cKΓ(2¯ −κ)τ2−κ)n
Γ ((2−κ)n+ 1) = ¯cE2−κ
(¯cKΓ(2¯ −κ)τ2−κ)
(2.51) が得られる。ただし
Eρ(z) =
∑∞ n=0
zn Γ(nρ+ 1) はMittag-Leffler関数 [31, 32]である。
ここで得られた積分方程式(2.48)は、微積分方程式 d
dτ˜a(τ) = ¯cK(1¯ −κ)
∫ τ 0
dσσ−κ˜a(τ −σ) (2.52)
と等価であるが、積分核の形から生存確率振幅は過去の履歴からの影響を強く受け続ける事が読み取れ る。すなわち、絶対連続スペクトルを持つ環境系に於いては、Markov近似が適当であったが、特異連続 スペクトルを持つ環境系に於いてはこの様な近似は適用できないということが示されたわけである。この 様な履歴の影響が、生存確率の復活現象や有限値への収束を引き起こすのだがそれらについては節を改め て見ていくことにする。
2.4 数値計算:単純な特異連続スペクトルを仮定した環境系
この節では、前節で予測を立てた生存確率の時間発展を、具体的にµ(ω)¯ を与えた上で、数値的に調べ て行くことにする。ここでは、環境系の累積状態密度関数を以下の関数方程式のユニークな解として与え ることにする:
¯
µα(ω) =
α¯µα(2ω), ω∈[
0,ω2∗ ]
, (1−α)¯µα(2ω−ω∗) +αω∗2 , ω∈[
ω∗ 2 , ω∗
] (2.53)
¯
µα(ω)はα(0< α <1)をパラメータに持つ関数で、αの値によって関数の特異性をコントロールするこ とが可能である。この様なµ¯α(ω)はManticaの構成法を用いて、片側無限の1次元tight-Bindingモデ ルの累積状態密度として、実際に構成できることが知られている[27, 33]。またこの時、Friedrichsモデ ルにおける離散状態は、構成された半無限格子の終点と相互作用する状態と対応する。
以下の数値計算においては、1/2≤α <1の場合のみを取り扱うが、µ(ω) =¯ ω∗2−µ¯1−α(ω∗−ω) と いう対象性があるので、議論の一般性は損なわれないことを注意しておく。
この関数は、α= 1/2の時にはµ¯1/2(ω) =ω∗ωとなり、Heが絶対連続スペクトルのみで構成されてい