第 3 章 不安定量子状態の異常緩和と Fibonacci 格子中における波の伝播 55
A.3 Fibonacci 格子
A.3.2 切片と射影法による Fibonacci のウサギ列
ここまで扱ってきたFibonacciのウサギ列は、その構成方法から右側無限の構造であったが、射影の方 法を用いることで、両側無限のFibonacciのウサギ列を構成することが可能である。
xy平面上の直線l : y = τ−1x−1 を、lの上部にlと平行な直線l′ をとる。このとき、lとl′の距 離∆を、xy 平面上の格子点を結んだ単位立方体(正方形)をl と垂直の方向に射影したものと同じ
(∆ = cosα+ sinα)とする(図A.3)。lとl′で切り出されたxy平面上の領域D内の格子点をlに射影 すると、射影されたl上の点同士の間隔はL= cosαとs= sinα(tanα = 1/τ)の二通りとなるが、こ のLとsのなす系列は、Fibonacciのウサギ列と同じ構造を持っている(図A.4)。
α
Δ
図A.3 l:y=σx−1(太線)、l′:y=σx+σ(直線)およびlに直交する直線n(点線)。l, l′間 の距離は単位正方形(塗りつぶし部分)をn方向に射影したものと等しい(∆ = cosα+ sinα)。
L S
S S
S
S
S
S
L L
L L
L L
L L
L L
L
図A.4 切片と射影法によってつくられたL, Sの成すFibonacciのウサギ列。L= cosα, S= sinα
以下に、そのことを示していく。
二つの格子間隔L, sは、それぞれ二点を結ぶベクトルが
1 0
及び
0 1
である格子点を射影し たものである。したがって、L→Ls、s→Lという変換は
( 1 0
)
→ (
1 1
) ,
( 0 1
)
→ (
1 0
)
(A.27) という変換を行うことに対応している。したがって、この変換に対応する行列は
A= [
1 1 1 0
]
(A.28) となる。はじめに、変換Aによって写された、領域D内の格子点は変換後もやはりD内の格子点に移る
(図A.5)。
A
図A.5 領域D内の格子点とAでの変換後の点。
証明. (m, n)がD内の格子点であることから。
σm−1≤n≤σm+σ (A.29)
したがって、変換後の座標(m+n, m)に対して
m− {σ(m+n)−1} ≥m−σm−σ(σm+σ) + 1
= (1−σ−σ2)m+ 1−σ2=σ (>0) (A.30) ここで、最後の変形においてσ2+σ−1 = 0であることを用いた。同様に
σ(m+n) +σ−m≥σm+σ(σm−1) +σ−m
= (σ2+σ−1)m= 0 (A.31)
ベクトル
1 0
をAで射影したベクトルは
1 1
であるが、
1 1
に対応する格子の並びにはLS となるものとSLとなるものが存在する。しかしながら、Aを用いてD内の二点(mj, nj),(mj + 1, nj) を写した場合においては、必ずLSに対応しSLの並びは生じない。
証明. P(mj, nj), Q(mj + 1, nj)をAで写した点をそれぞれP′(mj+nj, mj), Q′(mj+nj + 1, mj+ 1) とすると、R′(mj+nj + 1, mj)もしくはS′(mj +nj, mj + 1)のどちらかがD内に存在するはずであ る。仮にS′がD内に存在した場合、S′をA−1で戻した点Sの座標は(mj+ 1, nj −1)である。ところ で、SがDに存在することより
σ(mj+nj)−1≤mj + 1≤σ(mj+nj) +σ
⇐⇒
σ(mj + 1)≤nj ≤σmj + 2 (A.32)
したがって、Sは
(nj −1)− {σ(mj + 1)−1}=nj−σ(mj + 1)
≥4−σ(>0) (A.33)
同様に
σ(mj + 1) +σ−(nj−1)≥σ(mj+ 1) +σ+ 1−σ(mj+ 1)
= 1(>0) (A.34)
したがって、Sも領域D内の点であることが分かる。一方、P, QがD内の点であることから {
σmj−1≤nj ≤σmj +σ
σ(mj + 1)−1≤nj ≤σ(mj+ 1) +σ ⇔ σmj −1≤nj ≤σmj +σ (A.35) したがって、点(mj+ 1, nj−1)は
(nj−1)− {σ(mj + 1)−1}=nj−σ(mj + 1)
≤σmj +σ−σ(mj+ 1) = 0 (A.36) となり、SがDに含まれるのは(mj, nj) = (−1,0)すなわちS(0,−1)の特別な場合を除いては上記の結 論と矛盾する。したがって、S′はDに含まれるという仮定が間違っていることが示された。
以上の議論より、切片と射影の方法で作られた格子は、一点を除いてFibonacciテストを満たすことが 示された。実際問題上は、この特異な点が無限遠方になるように原点を取れば良いため、本論文では両側 に無限に長いFibonacci格子を、射影と切片の方法により定義することにする。
特異な点を無限遠方にとるための作業は、lとl′をy方向に平行移動させることで実現される。つまり 新しい二直線l:y =σx+θ−1, l′:y =σx+θ+σで作られた領域内の格子点を新しいl上に射影する ことで得られることが、以下の議論より示される。
1. 直線l:y= p
qx は、x, y方向にそれぞれm, nの平行移動を行うことでlをy方向にθだけ移動さ せた直線l′からy方向にd(0 ≤d < 1/q)だけずれた位置に移すことができる。ただしここで 0≤p < qは互いに素な整数で、m, nは整数であるとする。
証明. lをx方向にm、y方向にnだけ移動させた直線の式は y= p
q(x−m) +n= p
qx−mp
q +n (A.37)
とかける。nが任意の整数を取りうるので、
[
−mp q ]
+n = [θ] とすることが可能である。した
がって、あとは{θ} − {
mp q
}
を評価すればよいことがわかる。ところで、m= 0,1,· · · ,(q−1) に対して、
{ mp
q }
は0,1
q,· · · ,q−1
q の値を1対1の対応関係でとる。以上より、{θ}と {
mp q
} の差はmを調整することで 1
q 以下に抑えることができることが示された。ただし、ここで[·]は ガウス記号で、[x]はxを超えない最大の整数を表し、x= [x] +{x}を満たすように{·}を導入し た。
2. 今、黄金比τ = lim
n→∞
Fn+1
Fn
は、無理数なので{mσ}={m/τ}は[0,1]で稠密である(Kronecker の定理)。
以上より、任意のθに対して、L:y=σx+θ−1, L′:y=σx+θ+σは直線l, lをx, y方向にm, nだ け平行移動させたものであることが示された。ただし、m, nは一般には無限を含んでいる。ここでm, n が整数であったことから、平行移動後の2直線で囲まれた領域中の格子点をLに射影して作られた格子 間隔の成す系列は、もとの射影と切片の方法によって作られた格子間隔の系列の部分列であることがわ かる。
では、次にこれらのFibonacci格子を別の形で定義することを考えよう。今考えているFibonacci格 子はLの現れる比率のほうが多い系列となっているのでFibonacci格子中に現れる系列としてLS と 右側にS を持たないLの系列の2種類が存在することがわかる。ところで、Sが現れるための条件は、
0 1
が存在することなので、これはすぐにσm−1 +θ < nかつn+ 1< σm+σ+θを満たすような mが存在するという条件に読み替えられる。さらに無限に長いFibonacci格子がLS→Sと右にSを持 たないLをSに置き換える変換に対してFibonacci格子であることを踏まえるとLとS を以下のよう
に定めるFibonacci格子の定義が得られる。
Wm= {
L (N−σ < mσ+θ≤N)
S (N < mσ+θ≤N+ 1−σ) (A.38)
ただしここでN は任意の整数である。