第 3 章 不安定量子状態の異常緩和と Fibonacci 格子中における波の伝播 55
A.1 デルタ関数と主値
デルタ関数のFourier変換が1となることから、デルタ関数をその逆変換として δ(x) = 1
2π
∫ ∞
−∞eixkdk と表す。この式を用いてデルタ関数を含む積分を実行すると
∫ ∞
−∞
δ(x)f(x)dx= 1 2π
∫ ∞
−∞
{
f(x) lim
ϵ→0
∫ 1/ϵ
−1/ϵ
eixkdk }
(A.1)
= 1 π lim
ϵ→0
∫ ∞
−∞dxf(x)sin(x/ϵ)
x (A.2)
= 1 π lim
ϵ→0
∫ ∞
−∞dyf(ϵy)siny
y =f(0) (A.3)
と書くことが出来る。この様な理解に基づくと、デルタ関数を δ(x) = 1
2π lim
ϵ→0
∫ 1/ϵ
−1/ϵ
dkeikx = lim
ϵ→0
1 π
sin(x/ϵ)
x (A.4)
と定義できる。これと似た関数
∫ ∞
0
dkeikx = eix/ϵ−1
ix (A.5)
= sin(x/ϵ)
x +i1−cos(x/ϵ)
x (A.6)
−→πδ(x) +i·P1
x (ϵ→0) (A.7)
も重要である。右辺の第二項は「主要部」と言い、x= 0の点以外では1/xとしてふるまい、x= 0では 0であるような関数である。
この関数を以下の様に表記することもある。
∫ ∞
0
eikxdk= lim
ϵ→0
∫ ∞
0
e−ϵk+ixkdk= lim
ϵ→0
−1
ix−ϵ (A.8)
= −1
ix−0 = i
x+i0 =πδ(x) +i·P1
x (A.9)
以上をまとめると
∫ ∞
0
eikxdk= lim
ϵ→0
eix/ϵ−1
ix = i
x+i0 =πδ(x) +i·P1
x (A.10)
という関係が得られた。
A.2 2 進有理数に微分不能点を持つ Lebesgue の特異関数 : µ ¯
αこの節では本文中の数値計算で扱った累積状態密度関数
¯
µα(ω) =
α¯µα(2ω), ω∈[
0,ω2∗ ]
, (1−α)¯µα(2ω−ω∗) +αω∗2 , ω∈[
ω∗ 2 , ω∗
] (A.11)
についての性質を、詳細に解説する。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
IDOS
ω/ω*
α 1‑α
A
B
図A.1 累積状態密度関数µ¯α(ω) (α= 0.7)。グラフの影をつけた部分(A)及び点で覆われた部分 (B)は元の関数をアフィン変換したものと同じ形をしている。
この関数は、ωが0≤ω≤ω∗/2の範囲で動くとき0≤µ¯α(ω)≤αの値域を、ω∗/2≤ω ≤ω∗の範囲 のときにα ≤µ¯α(ω)≤1の値域を取るが。このそれぞれの定義域と値域で区切られた領域をそれぞれA
とBと呼ぶことにする(図A.1)。ここでAの領域をx方向に2倍、y方向にα−1倍したものは、元の
¯
µα(ω)のグラフと完全に一致する。同様にB の領域をx方向に2倍、y方向に(1−α)−1倍したものも、
元のグラフと完全に一致する。この入れ子構造は無限の階層をもっており、したがってこの関数は自己ア フィンなフラクタル構造を持った関数となっている。
この様な性質を持った関数を、以下の様に区分線形な連続関数µ¯(n)α (ω)のn→ ∞での極限で定義しよ う。はじめに
¯
µ(0)α =ω/ω∗, ωα(0)(0) = 0, µ¯(0)α (ω∗) = 1 を定義し、それを用いてµ¯α(1)(ω)を
¯
µ(1)α (0) = 0, µ¯(1)α (ω∗) = 1, µ¯(1)α
(ω∗ 2
)
= (1−α)αµ¯(0)α (0) +αµ¯(0)α (1) 上記で定義された各点を結ぶ区間
[ 0,ω2∗
] と
[ω∗ 2 ,1
]
では線形 と定義する。さらにこれを用いてµ¯(2)α (ω)を
¯
µ(2)α (0) = 0, µ¯(2)α (ω∗) = 1, µ¯(2)α
(ω∗ 2
)
= ¯µ(1)α
(ω∗ 2
)
¯ µ(2)α
(ω∗ 22
)
= (1−α)¯µ(1)α (0) +αµ¯(1)α
(ω∗ 2
)
¯ µ(2)α
(3ω∗ 22
)
= (1−α)¯µ(1)α
(ω∗ 2
)
+αµ¯(1)α (1) 上記で定義された各点を結ぶ区間
[ 0,ω22∗
] ,
[ω∗ 22,ω2∗
] ,
[ω∗ 2 ,3ω22∗
] ,
[3ω∗ 22 , ω∗
]
では線形 という様に、定義する。同様にしてµ¯(n)α (n= 0,1,· · ·n)を定義すると
¯ µ(n+1)α
(kω∗ 2n
)
= ¯µ(n)α
(kω∗ 2n
)
, (k= 0,1,· · ·,2n)
¯ µ(n+1)α
(2k+1
2n+1ω∗)
= (1−α)¯µ(n)α
( k
2nω∗)
+α¯µ(n)α
(k+1
2n ω∗)
(k= 0,1,· · · ,2n−1) 上記で定義された各点を結ぶ区間[ k
2n+1ω∗,2k+1n+1ω∗]
では線形(k= 0,1,· · ·,2n+1−1)
が再帰的に定義できる。定義より当然であるがこの関数列は各nに対して単調増加関数であるまたこの 関数列はα >1/2の時k= 0,1,· · ·,2n−1に対してµ¯(n)α
(2k+1
2n+1ω∗)
<µ¯(n+1)α
(2k+1
2n+1ω∗)
であることが 簡単に示せる。したがって全てのω ∈[0, ω∗]に対してµ¯(n)α (ω)≤µ¯(n+1)α (ω)である。またはじめに述べ たとおり、n → ∞での極限は存在しµ¯α(ω) = limn→∞µ¯(n)α (ω) は本文中の関数方程式(2.53)を満足す る。上記の性質より自明であるがω < 2knω∗< ω′に対して
¯
µα(ω)≤µ¯α
( k 2nω∗
)
= ¯µ(n)α ( k
2nω∗ )
<µ¯(n)α (ω′)≤µ¯α(ω′) という関係式を満たしている。いま、kn∈ {0,1,· · ·,2n−1}に対して
an≤an+1, bn+1≤bn
an= kn
2nω∗, bn=an = kn+ 1
2n ω∗ (A.12)
を満たすような任意の数列のペア(an, bn)∞n=0を考えて議論を進めて行くが、このような数列は常に an+1=an かつ bn+1=bn− ω∗
2n+1 または
an+1=an+ ω∗
2n+1 かつbn+1=bn
のどちらかの関係式で書かれることに注意しよう。今後、n→ n+ 1のステップに於いて(an, bn)から (an+1, bn+1)への写像が一つ目の式で結ばれている場合を「左」に進むと呼び、二つ目の式で結ばれてい る場合を「右」に進むと呼ぶことにする。今、kを固定された正の整数とし、(ak, bk)から(ak+1, bk+1) で右に進むとき
¯
µα(bk+1)−µ¯α(ak+1) = ¯µ(k+1)α (bk+1)−µ¯(k+1)α (ak+1)
= ¯µ(k)α (bk)−{
(1−α)¯µ(k)α (ak) +α¯µ(k)α (bk) }
= (1−α) (¯µα(bk)−µ¯α(ak)) (A.13) となる。また、同様にして(ak, bk)から(ak+1, bk+1)で左に進むときに
¯
µα(bk+1)−µ¯α(ak+1) =α(¯µα(bk)−µ¯α(ak)) (A.14) の関係が得られる。
A.2.1 µ ¯
α(ω) の微分と H¨ older 指数
では、以上の関係を踏まえてµ¯α(ω)の微分を調べていくことにしよう。はじめにω/ω∗が二進有理数 の場合を考える。ωω∗ = 2lp という点に対して(A.12)を満たす数列のペアをap =ap+1=· · ·= 2lpω∗ と おく。このとき自然に
bn+s= ( l
2p + 1 2p+s
)
ω∗, (s= 0,1,2,· · ·) が要求される。このとき、(A.14)より
¯
µα(bp+s)−µ¯α
( l
2p
)
bp+s−2lp = 2p+s(¯µα(bp+s)−µ¯α(ap+s))
= 2p+sαs(¯µα(bp)−µ¯α(ap))
→ ∞ (s→ ∞) (A.15)
と、bn がap= 2lp に近づいて行くときに発散することが分かったが、これは右微分係数が発散すること を表している。したがって、この時のH¨older係数は1未満であることがわかり、2κ+α= 1となればよ いことから
κ+=−lnα ln 2
であることが示された。同様にbp =bp+1 =· · ·= 2lp とおいて左微分係数を計算すると0となる事が分 かり、この時のH¨older指数はκ−=−ln(1ln 2−α) であることが示される。
次にω/ω∗が二進無理数の場合を考えよう。このとき、任意のnに対して 2lnω∗< ω < l+12n ω∗ を満た すようなlがただ一つ存在するので、an = 2lnω∗, bn = l+12n ω∗とおくことにしよう。an, bnを二進展開し た形で書き下すと
an= l 2n =
(x1
2 +· · ·+xn
2n )
ω∗< ω <
(x1
2 +· · ·+xn
2n + 1 2n
)
ω∗= l+ 1
2n ω∗=bn (A.16) と書けることに注意しよう。ただし、{xk}∞n=1は0または1を取る数字の列である。今、xn = 0の場合 とxn = 1の場合に分けて
¯
µα(bn)−µ¯α(an)
1 2n
を値を求めることを考える。xn= 0のとき、an =an−1となる事から bn=an−1+ ω∗
2n = 1 2
(
an+ (an+ ω∗ 2n−1)
)
= an−1+bn−1
2 また、xn= 1のとき、同様にbn=bn−1となる事から
an=an−1+ ω∗ 2n = 1
2 (
an+ (an+ ω∗ 2n−1)
)
= an−1+bn−1
2 という関係式が成立する。したがってxn= 0の時
¯
µα(bn)−µ¯α(an) = {
(1−α)¯µ(nα−1)(an−1) +α¯µ(nα−1)(bn−1)−µ¯(nα−1)(an−1) }
=α (
¯
µ(nα−1)(bn−1)−µ¯(nα−1)(an−1) )
(A.17) 一方xn= 1のとき
¯
µα(bn)−µ¯α(an) = {
¯
µ(nα−1)(bn−1)−(
(1−α)¯µ(nα−1)(an−1)−α¯µ(nα−1)(bn−1) )}
= (1−α) (
¯
µ(nα−1)(bn−1)−µ¯(nα−1)(an−1) )
(A.18)
となるが、これらをまとめて書くと
¯
µα(bn)−µ¯α(an) =αn
(
¯
µ(nα−1)(bn−1)−µ¯(nα−1)(an−1) )
=· · ·=
∏n k=1
αk
= exp ( n
∑
k=1
lnαk
)
(A.19)
ただし、αkは
αk=
α (xk = 0) 1−α (xk = 1)
(A.20)
と定義した。ここでステップ関数
g(y) =
lnα (0≤y≤1/2)
ln(1−α) (1/2≤y≤1) (A.21)
エルゴード性を持つ写像
φ(y) =
2y (0≤y≤1/2) 2y−1 (1/2≤y≤1)
(A.22)
を導入すると
¯
µα(bn)−µ¯α(an) = exp ( n
∑
k=1
lnαk
)
= exp [ n
∑
k=1
g (
φj( ω ω∗)
)]
と書くことが可能である。写像φ(y)のエルゴード性を用いると [
¯
µα(bn)−µ¯α(an) (ω∗
2n
)κ
]1n
=ω∗−nκexp [
1 n
∑n k=1
g (
φk( ω ω∗)
)
+κln 2 ]
−−−−→
n→∞ exp [∫ 1
0
g(y)dy+κln 2 ]
= exp [1
2(lnα+ ln(1−α)) +κln 2 ]
(A.23)
と変形できるので、この極限が有限値に収束するための条件からH¨older指数は κ=−lnα(1−α)
2 ln 2
となることが示された。これは0< α <1においてκ≥1 (等号成立はα= 12の時のみ)なので殆ど全 てのωにおいて dωd µ¯α(ω) = 0となることは確かに満たしていることが分かる。参考のためにωが二進無 理数のときのH¨older指数のグラフを図A.2に掲載しておく。
A.2.2 µ ¯
α(ω) を IDOS にもつ tight-binding モデル
この小節ではManticaの方法に従って、µ¯α(ω)によってIDOSが表されるような1次元格子の構成法 を紹介する。
1 1.5 2 2.5 3 3.5
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
κ
α Hölder Index
図A.2 ωが二進無理数のときのH¨older指数κ=−lnα(12 ln 2−α)
¯
µα(ω)に関しての直交多項式
n次の多項式Pn(x)がµ(x)¯ に関しての直交多項式{Pn(x)}∞n=0を為すとする。即ち
∫ 1 0
Pn(x)Pm(x)d¯µα(x) =δn,m (A.24) という性質を満たすとき、Pn(x)についての漸化式
xPn(x) =tn+1Pn+1(x) +εnPn(x) +tnPn−1(x) εn=∫1
0
(A.25)