九州大学学術情報リポジトリ

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Kyushu University Institutional Repository

分光実験とMD法による溶液の液体構造とダイナミク ス

藤井, 健太

九州大学高等教育開発推進センター

神埼, 亮

九州大学理学研究院 /eng=Faculty of Science, Kyushu University

梅林, 泰宏

九州大学理学研究院 /eng=Faculty of Science, Kyushu University

石黒, 慎一

九州大学理学研究院

https://doi.org/10.15017/1467684

出版情報:九州大学情報基盤センター広報 : 全国共同利用版. 6 (3), pp.172-173, 2007-03. Computing and Communications Center Kyushu University

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分光実験と MD 法による溶液の液体構造とダイナミクス

藤井 健太1, 神埼 亮2, 梅林 泰宏2, 石黒 慎一2

概要 溶液中の化学反応では、溶質-溶質、溶質-溶媒間の相互作用に加え、反 応場である溶媒自身の溶媒間相互作用(液体構造)が重要な役割を果たす。低

波数Raman分光法とMDシュミレーションにより、実験・理論の両面から溶

媒の液体構造とダイナミクスを明らかにした。

1. 序論

二種類の溶媒を混合した二成分混合溶媒は、単一溶媒とは違った特殊な反応場を提供する。中でも 水−有機溶媒混合系(水−エタノール混合系など)はクロマトグラフィーなどの分離分析や合成化学分野で、

経験的に溶媒の組み合わせや混合比を変えながら用いられており、その特性評価のため混合溶媒の混 合熱や部分モル体積といった熱力学的測定は古くから行われている。最近では、混合溶媒系での溶媒 分子間の構造形成(溶媒クラスター)についてミクロな観点から明らかにする研究が行われ始めている。し かしながら、その混合溶媒中の溶媒クラスター構造が反応場としてどのような役割を果たすのかは全く未 知である。そこで、混合溶媒中の溶媒クラスターについて実験・理論の両手法から構造化学的に研究し、

それが金属イオンの反応性に及ぼす効果を明らかにした。

2. 実験および結果と考察

二成分混合溶媒は、N-methylformamide(NMF)とN,N-dimethylform- amide (DMF)の混合系をモデルとした。これらのアミド溶媒は、いずれも 酸素原子で金属イオンに配位し、その電子対供与性はほぼ等しい。し かし、NMF は水素結合性の一次元クラスター構造を有し*、DMF は双 極子−双極子相互作用による弱い液体構造性しか示さないため、金属

イオンの反応性や溶媒和における溶媒クラスター効果を抽出する良いモデルとなる。これらの混合溶媒 中にて、金属イオンのイオン対生成反応と溶媒クラスターの構造・ダイナミクスを調べ、金属イオン反応と 反応場構造の関係性を明らかにした。

* 溶媒分子は並進の自由度を持つ。その配置は時間と共にたえず変化 しているが、時間的・空間的に平均化すると、それぞれの溶媒に特有の 溶媒クラスター(液体構造)を形成していことが分かる。Fig. 1は、後述する 分子動力学(MD)計算により得られたNMFクラスターの3次元的描像で ある(空間分布関数, SDF)。中心NMF分子周りのは、NMF酸素原子 の存在確率であり、一次元的に配列した鎖状構造をとることが良くわかる。

これに対し、溶媒間相互作用の弱いDMFではランダム配向とる。

1 九州大学高等教育開発推進センター fujikenscc@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp

2 九州大学理学研究院

N

C H3C CH3

O H

DMF

N

C

H CH3

O H

NMF

Fig. 1 NMFの空間分布関数, SDF

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両溶媒中での種々の第一遷移金属イオン(M2+)と Clのイオン対生成反応は、DMF 中に比べ、NMF

中で MCln(2-n)+の生成が顕著に抑制された。これは、イオン対生成に伴う脱溶媒和分子のエントロピー獲

得が反応を駆動すること、NMF中では脱溶媒分子が発達したバルククラスター構造に取り込まれることで 自由度を失う(エントロピー減少)ことによる。また、DMF−NMF 混合溶媒の混合組成を連続的に変化さ せ(液体構造性を変化させ)、金属イオンの反応性を調べると、生成エントロピーは NMF 分率増加ととも に減少し、その減少の程度はNMF分率の低い領域で特に著しかった。これは、溶媒間相互作用の弱い DMFがNMFと水素結合を形成し、バルク圏の液体構造性が急激に高まることを示唆している。このイオ ン対生成反応におけるエントロピー効果を支配するのは、混合組成変化にともなう液体構造・混合状態 の変化であると考えられた。そこで、DMF−NMF混合溶媒の液体構造を低波数Raman測定(LFR)とMD シミュレーションにより研究した。計算にはMaterials Explorer 3.0(Fujitsu)および情報基盤センター設置 MASPHYCを使用した。

Fig. 2 低波数Raman法とMD法により得られたDMF-NMF混合溶媒の振動スペクトル.

(それぞれR(ν)およびS(ν)スペクトル)

LFRでは、溶媒−溶媒間相互作用に関する情報が得られる。全混合組成でのLFRスペクトル, R(ν)

Fig. 2 (左)に示す。純溶媒のR(ν)は、DMFでは60 cm-1付近にピークを示すのに対し、NMFでは60

および110 cm-1付近に2つのピークを示す。ここで、純DMFと純NMFに対するMD計算の結果から得 られた低波数領域での振動スペクトル, S(ν)をFig. 2(右)に示す。計算S(ν)は実測R(ν)をよく再現しており、

60 cm-1のRamanバンドは溶媒分子の並進運動、110 cm-1のバンドは、水素結合により束縛された溶媒分 子の秤動運動と帰属することができた。さらに、混合系での R(ν)および S(ν)スペクトルを詳細に解析した ところ、同種・異種分子間で形成される相互作用(水素結合や双極子間相互作用)を分離することができ、

結果、DMF−NMF間に水素結合が形成されていることが明らかとなった1。このことは、xDMF = 0.5におけ るSDFからも明らかであり(Fig. 3)、中心NMFのプロトンにDMFが

水素結合していることがはっきり分かる。

以上により得られた、混合溶媒の液体構造に関する知見は、

金属イオンの反応性を良く説明した。すなわち、混合溶媒の混 合組成にともない、溶媒クラスター構造が変化し、結果として、

イオン対生成反応がエントロピー的に制御されることが明ら かとなった。

1 K. Fujii et al., J. Phys. Chem. A, 110, 1798 (2005)

Fig. 3 中心NMF分子に対する DMF(酸素原子)の空間分布関 , SDF

0 50 100 150 200 250 300 350 pure NMF

pure DMF

0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 xDMF = 1

R (ν)

Wavenumber / cm-1

0 50 100 150 200 250 300 350 pure NMF

pure DMF

0.75 0.5 0.25 0 xDMF = 1

Stotal(ν)

Wavenumber/ cm-1

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