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DNAの高次構造変化を誘起する[5]ヘリセン-スペルミ ンリガンドの合成とシンクロナイズド不斉誘起及び 遺伝子制御への展開研究
川良, 健祐
http://hdl.handle.net/2324/1806969
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(創薬科学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
DNAの高次構造変化を誘起する[5]ヘリセン-スペルミンリガンドの合成と シンクロナイズド不斉誘起および遺伝子制御への展開研究
2016年度 博士論文
生物有機合成化学分野 川良 健祐 3PS14001T
【背景】
通常右巻きらせんのB型構造をとるDNAは、特定の条件下、左巻きのZ型へと構造遷移(B→Z遷移)する。
当研究室では以前、ビスアリール-スペルミンリガンド1)と、らせん性のキラリティーを持つ[5]ヘリセン-スペ ルミンリガンドが B→Z 遷移を誘起することを見出した(図1)。また、室温でキラル変換しない1,14-ジメチ ル[5]ヘリセンリガンドを用いた検討では、右旋性の(P)体は右巻きの B-DNA に、左旋性の(M)体は左巻きの
Z-DNAにそれぞれ高い親和性を示すこと2)も示された(図2)。これらのことから、キラル変換可能な[5]ヘリ
セン-スペルミンリガンドは、DNAのB→Z遷移に伴い、自らのキラリティーを変化させている可能性が想起 された。そこで、本研究ではこの仮説を実証するための分子設計を行い、詳細に検討することとした。
【本研究の目的】
本研究では次のような仮説を立てた。すなわち、キラル変換可能なラセミ体の[5]ヘリセン-スペルミンリガ ンドは、(i)右巻きB-DNAにより右巻きの(P)-キラリティーを誘起されて結合し、(ii)DNAのB→Z遷移を誘 起する。その後、(iii)左巻きZ-DNAにより左巻きの(M)-キラリティーを誘起される(図3)と考えた。例えば アロステリック効果に代表されるように、他の分子
との結合による構造変換および機能変化は生物に とって重要な現象であり、「標的の構造を変化させ た上で自らも構造変化する系」のモデル構築は、生 体分子の構造遷移メカニズム解明や、それに伴う機 能の制御など様々な発展研究に繋がることが期待 される。そこで、DNA と[5]ヘリセン-スペルミン リガンドというキラル変換可能な2つの分子を利 用し、互いのキラリティーがシンクロナイズして相 互変換する、独創的かつ世界初の不斉誘起系の概念 確立を目指した。
図1. [5]ヘリセンリガンドによるB→Z遷移
Spermine = H2N N H
HN NH2
N O
O Spermine
B→Z遷移
Rac. 1
B-DNA Z-DNA
[5] ヘリセンリガンドのラセミ体はB→Z遷移能を持つ
図2.リガンドとDNAのキラリティー親和性
B-DNA (P)-2 Z-DNA
N O
O Spermine
(M)-2
O N O
Spermine
高親和性 高親和性
同じキラリティーを持つDNAと[5]ヘリセンリガンドは強く結合する
図3.相互にキラル変換するDNAと[5]ヘリセン
B-DNA
P M
(ii) B Z
B-DNA Z-DNA
P
P
M
M
(i) B-DNA (P)-
(iii) Z-DNA (M)- [5]
[5]ヘリセン-スペルミンリガンド
+
【分子設計】
B-DNAとZ-DNAはCDスペクトルにおいて顕著な違いを示し、B→Z遷移はCD測定にて容易に検出可能
である。リガンドのキラリティー変化もまた、CD測定によって追跡可能であるが、既存のリガンドのCDス ペクトルは DNA と重なる領域に観測され、リガンドのキラリティー変化の分析が困難であった。そこで、
①効果的なB→Z遷移能を持ち、②DNAより長波長領域にCDバンドを有するリガンドを検索することを目 的に、図4に示すような新規リガンドを設計した。2,13位(1-4)および3,12位(5, 6)の置換基はヘリセンラセ ミ化の障壁に影響が少なく、ヘリセンのUVスペクトルを長波長にシフトさせる効果を期待した。
【リガンド合成】
合成したリガンドの内、両性質を併せ持つ 2,13-ジメトキシ[5]ヘリセン-スペルミンリガンド 2 の合成を
Scheme 1に示す。鈴木-宮浦クロスカップリング反応による中間体Bis-Arylの合成後、光電子環状反応-酸化
反応により[5]Heliceneへと変換し、最終的にSpermineを導入した2を得た。光電子環状反応の際には、常 法であるトルエン溶媒中での反応では構造異性体 Benzo[a]tetraphene が多量(>70%)に生成することが問題 となったが、メタノールを添加し、分子内疎水性相互作用によって芳香環を近接させるという単純な手法に より、 [5]Helicene が選択的(>99%)かつ高収率(96%)で得られることを見出した。[5]ヘリセン合成における メタノール溶媒を用いた異性体制御は初めての例であり、非常に有意義な発見であると考える。
図4. 新規[5]ヘリセン-スペルミンリガンドの分子設計
O N O
Spermine
R R
2,13- 二置換型
2 13
R=
1: OH 2: OMe 3: NO2 4: NMe2
O N O
Spermine
R R
3 12
R=
5: OH 6: OMe 3,12- 二置換型
O N O
Spermine
N N
7 ヘテロ型
(キノリン)
ヘテロ型
(クマリン)
O N O
O O O O
Spermine
8
O N O
Spermine
9 環拡張型
(ピレン)
Scheme 1. 2,13-ジメトキシ[5]ヘリセン-スペルミンリガンド2の合成
BnN
O O
MeO OMe
BnN
O O
O Me
OMe
BnN
O O
O OMe Me
11
12
13
O N O
O OMe Me
Spermine
3 +
I2, THF, Toluene or Benzene
I2, THF, Toluene/MeOH 500W
High-pressure Mercury lamp
96 % (isolated yield)
Major product (> 70 %) (Checked by TLC or NMR)
1) 5 M KOH, 6 M HCl 2) 3Boc Spermine, DMF, toluene 3) TFA, DCM
75 % in 3 steps
Benzo[a]tetraphene
[5]Helicene 2
BnN
O O
MeO OMe
BnN
O O
O Me
OMe
BnN
O O
O O Me Me
11
12
13
O N O
O OMe Me
Spermine
3 +
I2, THF, Toluene or Benzene
I2, THF, Toluene/MeOH 500W
High-pressure Mercury lamp
96 %
(isolated yield)
Major product (> 70 %) (Checked by TLC or NMR)
1) 5 M KOH, 6 M HCl 2) 3Boc Spermine, DMF, toluene 3) TFA, DCM
75 % in 3 steps
Bis-Aryl
Benzo[a]tetraphene
[5]Helicene 2
光電子環状反応
+ 酸化反応
Major product (〜67%) Checked by NMR, HPLC
1) hydrolysis 2) couplimg with spermine I2, THF,
Toluene or Benzene
500 W High-pressure Mercury lamp
I2, THF,
Toluene/MeOH=1/1 96 %
(isolated yield)
【シンクロナイズド不斉誘起の評価】
B-DNAに対してリガンド2のラセミ体を滴定すると、DNAはB→Z遷移特有のスペクトル変化を示した
(240-300 nm)。また、より長波長領域(320-360 nm)にリガンド由来の誘起CDが出現し、B→Z遷移に伴い変化
を示した(図5A)。以下より具体的に説明する。
図5B、図5CはCD変化をリガンド当量数に対してプロットしたものである。図5Bは295 nmの変化追 跡すなわちB→Z遷移の進行を表し、リガンドおよそ4eq.でB→Z遷移は定常状態になった。
一方で図5Cは340 nmの変化、すなわちリガンドキラリティーの変換を表している。この値はリガンド低 濃度条件(2 eq.時)においては正の値をとり、リガンド高濃度条件(4〜5 eq.以降)においては負の値へと転じた。
これは、リガンドのキラリティーが(P)から(M)へと転換したことを示している。図5Bと図5CのCD変化を 合わせた考察を、順を追って以下に示す。
①リガンド低当量数時にB-DNAに結合したリガンドは右巻きの(P)-キラリティーが誘起された。
②さらなるリガンド添加によってB→Z遷移が誘起された。
③Z-DNAの誘起に引き続き、結合リガンドは左巻きの(M)-キラリティーが誘起された。
本実験により、2,13-ジメトキシ[5]ヘリセン-スペルミンリガンド2はDNAのB→Z構造遷移(キラリティー 変化)を誘起するだけでなく、自らの構造(キラリティー)を変化させていることが示された。このように本研 究のコンセプトである「シンクロナイズしたキラリティー変換」の現象観測に成功した3)。さらにITC 測定 やリガンドラセミ化速度の観点から、より詳細なメカニズム解析も行ったので本講演で併せて発表する。
図6. (A)リガンド滴定によるCD変化 (B) DNA B→Z遷移の追跡 (C) リガンドキラリティーの追跡
!1#
!0.8#
!0.6#
!0.4#
!0.2#
0#
0.2#
0.4#
0.6#
0# 1# 2# 3# 4# 5# 6# 7# 8# 9# 10#
CD[mdeg] at 295 nm
Ligand eq. to DNA
!0.25&
!0.2&
!0.15&
!0.1&
!0.05&
0&
0.05&
0.1&
0.15&
0& 1& 2& 3& 4& 5& 6& 7& 8& 9& 10&
CD[mdeg] at 340 nm
Ligand eq. to DNA
CD (295 nm) B→Z
(P)-
(M)-
B-DNA
Z-DNA
O N O
Spermine
O N O
Spermine B-DNA
Z-DNA (P)-
(M)-
KA=2.1×105 M-1 (P)- vs B-DNA
KA=0.28×105M-1
KA=1.1×105 M-1
KA=2.2×105M-1
1,14
B-DNA (P)-
Z-DNA (M)-
(P)- vs Z-DNA
(M)- vs B-DNA (M)- vs Z-DNA
O N O
Spermine
O N O
Spermine B-DNA
Z-DNA (P)-
(M)-
KA=2.1×105 M-1 (P)- vs B-DNA
KA=0.28×105M-1
KA=1.1×105 M-1
KA=2.2×105M-1
1,14
B-DNA (P)-
Z-DNA (M)-
(P)- vs Z-DNA
(M)- vs B-DNA (M)- vs Z-DNA
O N O
OOMe Me
Spermine
O N O
OOMe Me
Spermine
4 eq.
-4 -3 -2 -1 0 1 2
230 250 270 290 310 330 350 370 390
CD[mdeg]
nm 0 eq.
1 eq.
2 eq.
3 eq.
4 eq.
5 eq.
6 eq.
7 eq.
8 eq.
9 eq.
10 eq.
O N O
O OMe Me
Spermine
B B→Z Z
B Z
255 nm
Ligand CD
2 eq.
CD (340 nm) (P)→(M)
O N O
O OMe Me
Spermine
3
CD
B→Z
nm
A B
C
BnN O O
Br Br
O B
O O
N O O
Bn
N O O
Spermine
O O Me Me
O O
Me Me Me
N O
O Bn
O O Me Me
1) 5M KOH, then 6M HCl 2) tri-Boc spermine, DMF 3) TFA, CH2Cl2 hn, I2
toluene/MeOH
[5] Spermine
N O
O
Spermine
O O Me Me
3 4 5
3
Z
B
Z B
B→Z
遷移リガンド 誘起CD
B-DNA
Z-DNA
(P)-リガンド
(M)-リガンド
図5. (A)リガンド2によるCD変化(B) B→Z遷移の追跡(C)リガンドキラリティーの追跡
2
【DNA高次構造変化を利用した遺伝子制御への展開研究】
B→Z遷移誘起リガンドによる遺伝子制御モデル構築を目指 した。一般的な従来の競合阻害モデルでは、DNA に対して大 過剰量の阻害剤が必要となる場合もある一方で、本モデルでは、
DNA の構造変化をトリガーとするため、より少量のリガンド.........
添加で効果的に.......
作用できる可能性がある(図6)。また、化合物 によるB→Z遷移が実際に重要な生物学的イベントに影響する ことや新たな現象を提示できれば、遷移メカニズムの解明や人 類の健康科学の発展に寄与できると考えた。
【方法・結果】
阻害モデルとしてDNA伸長反応阻害を計画したが、リガンド2は設計した評価配列のB→Z遷移を誘起し なかった。また、リガンド2は低濃度では伸長反応は阻害せず、高濃度では酵素阻害が見られた。一方、リ ガンド8では低濃度でも伸長阻害が見られ、高濃度では4,5,7番目で伸長が停止した産物が観測された(図 7)。リガンド8は2と異なりB→A遷移能を有しており、また光反応性を有するため、DNA伸長停止はB→A 遷移能あるいは光反応による可能性がある。本講演では、これらについても考察する。
【謝辞】
本研究に際して多くの御助言、御指導を賜りました方々に心より感謝致します。
九州大学薬学研究院 分子イメージング分野 唐澤 悟 准教授 (X線結晶構造解析) 九州大学先導物質化学研究所 集積分子機能分野 友岡 克彦 教授、井川 和宣 助教
(光学活性カラムを用いた光学分割検討)
【文献】
1. I. Doi, Y. Taniguchi, S. Sasaki, et al., Chem. Eur. J., 2010, 16, 11993-11999.
2. G. Tsuji, K. Kawakami, and S Sasaki, Bioorg. Med Chem., 2013, 21, 6063-6068.
3. K. Kawara, G. Tsuji, Y. Taniguchi, S. Sasaki, Chem. Eur. J., ASAP.
図7. リガンド2およびリガンド8によるDNA伸長反応の阻害実験
(100 eq.) (50 eq.)
(10 eq.) DNA only
Primer DNA
Ligand 8 100µM (100 eq.) 50µM
(50 eq.) 10µM
(10 eq.)
Primer DNA DNA only Ligand 2
O N O
O O Spermine
O O
O N O
O O Spermine
Me Me
構造変化なし B→A遷移
2 8
5’- FAM-CGC ATA ACC CTA ACCATATATATATATAT -3’
3’- GCG TAT TGG GAT TGG GAT TGA CAG C -5’
Primer Template
評価配列
Spermine = H2N N H
H N NH2
N O
O Spermine
B Z
Rac. 1
B-DNA Z-DNA
[5] B Z
Spermine = H2N N H
HN NH2
N O
O Spermine
B Z
Rac. 1
B-DNA Z-DNA
[5] B Z
Spermine = H2N N H
HN NH2
N O
O Spermine
B Z
Rac. 1
B-DNA Z-DNA
[5] B Z
DNA
B→Z
DNA
(DNA/RNA )
DNA
/ +
DNA
(DNA/RNA )
従来の結合分子
B→Z遷移 誘起分子
競合阻害 伸長・転写阻害 DNA結合因子(酵素)
DNA構造変化を伴う阻害 効果的な阻害
+ 全く新しい効果
図6. DNA構造遷移による結合因子の阻害