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軽度知的障害児の文章表現指導に関する研究 : コンピュータ利用による自主学習の指導を通して

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Academic year: 2021

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(1)軽度知的障害児の文章表現指導に関する研究 一コンピュータ利用による自主学習の指導を通して一 障害児教育専攻. M99333G 村川 美保 1.問題と目的. て呈示し、語句を正しい順序に並べて、文章. 知的障害児は、自分の意思をうまく相手に伝. を構成する問題。使用する心情語は、「いや. えられないため、他者から誤解されたり、コミ. だった」「うれしかった」「かなしかった」の3. ュニケーションの主体者となることができな. 語であり、出来事文は本児のよく知っている. いというコミュニケーション上の問題点を抱. 内容を中心に設定した。. えている。. 文章構成のパターンを繰り返し学習させ. 本研究では、コンピュータ利用による自習教. ることに加え、出来事と心情を結びつけた文. 材を使用して、出来事:に応じた適切な心情語の. 章が様子や気持ちのよくわかる表現である. 使用や文章構成を自主学習させ、その学習過程. ことに気づかせることを目的としている。. で、対象児の文章表現の中に心情表現がどのよ. 一日に取り組む問題の量や回数は、本児が. うに現れるのかを検討することを目的とする。. 決定し、学習に要した時間・取り組んだ問題. 皿.方法. 数について指導者の用意した記録用紙に記. 1)対象児:障害児学級に通馴している中学3. 録する。. 年生の軽度知的障害児(男児)。. コンピュータ利用による心情選択問. 自分に関する出来事や心情を口頭で説明. 本児の文章表現で使用できる心情語の数. することが苦手であり、文章表現の中にも. や、場面を増やすことを目的とし、心情選択. 心情表現はあまり見られない。家庭におい. 問題を設定した。. ても自らの気持ちを口頭で述べることはほ. 出来事文に応じて、適切な心情語を選択す. とんどない。. る問題であり、出来事は、本児の経験のある. 2)方法:コンピュータ利用による自習教材(構. 内容から経験のない内容へ、また1文から2. 文作成問題・心情選択問題)を作成し、本児. 文へと、本門の取り組みの結果を参考に1頂次. に家庭で自主学習させる。. 変化させる。同様に、呈示する心情語も2選. 本丁が家庭でコンピュータを利用して書. 択肢から3選択肢へと増やしていく。問題の. く日記や手紙の文章の中に、心情表現がど. 正答・誤答の結果、問題ごとの所要時間はコ. のように現れるのかを分析する。また、E. ンピュータに自動記録され、指導者が週に一. メールを、本児が書いた文章を指導者に見. 度確認を行ない、問題のレベルを変更する。. せる場として利用する。コンピュ・一タ利用. Eメールの利用. による自主学習の概要を以下に示す。. コンピュータ利用による構文作成問. 出来事と心情が結びついた文章を4分割し. 本町がコンピュータで書いている手紙文 を、メールとして指導者に送ることにより、. 自分の書く文章がやりとりの機能を持つこ.

(2) とを実感させるという目的で、指導過程の後半. 内容の変化にともない、文字数が200字. より:Eメールの利用を開始した。指導者は、. 程度から1000字以上へと増加した。自己の. 本国の文章のよく書けている部分を評価する. 思いを表現することや、やりとりを楽しむ姿. といった強化の手段として、また文章構成の模. 勢が、字数の増加に結びついている。. 範例を示す目的でメールを利用し、メールによ. 4)本寺の日常場面での変化. る心情表現の誘導は行なわない。. 皿.結果. 1)本刑の文章の変化 心情表現については以下のように段階的. 自分の心情を出来事に結びつけて口頭で 述べる場面が見られるようになった。しかし、. 指導者の質問に答えるという形での心情表 現であり、本児の自発的な心情表現は口頭で. な変化が見られた。. はあまり見られていない。. ①出来事を時間の順序に従って羅列する段. IV.考察. 階. ②出来事を時間の順序に従って記述する中. 本甲が文章で心情を表現できるようにな った理由として指導過程の中の以下の要因. で自分の様子に注目した表現が記述され. が考えられよう。. る段階. 1)コンピュータ利用による自習問題の効果. ③出来事を時間の順序に従って記述する中. コンピュータによる自習問題を通して本. で、一つの場面と一つの心情語が結びつい. 丁は心情表現を疑似体験することができ、出. た段階. 来事の堺町と心情とを結びつけて考えるこ. ④出来:事の記述に関連して、自分の思いを述. べようとする段階 ⑤出来事を記述する中で、うまく場面を切り. とが可能となった。また、心情を中心として. 一連の出来事から一つの場面を切り出すこ とができ、心情と場面を結びつけた表現がで. 出して描写し、場面に応じた心情表現を用. きるようになったと考えられる。. いている段階. 2)心情表現の場の設定. ⑥文章でなら自分の思いを伝達できるとい. 家庭でのコンピュータ利用による文章表. う自信が生まれ、文章表現を通してコミュ. 現の場は、本児に表現への安心と意欲、さ. ニケーション意欲が向上した段階. らには自信を与えることとなり、文章表現、. 2)心情語の使用 阿児の文章中に心情語が現れた回数は少. 特に自由な心情の表現の場として効果的で あった。. なく、主に指導過程の初めの間に限られてい. 3)自主学習の効果. た。指導過程の後半において、本児の心情表. 自分の好きなだけ繰り返し問題練習がで. 現の中心は、「…と思いました」というスタイ. きる、自分のペースで安心して文章が書ける. ルへと移行していった。そこには自分が納得. など、自主学習ならではの効果が現れている。. できることばを探しながら心情を表現しよ うとする姿勢が見うけられた。. 3)文字数の変化. 主任指導教官:山口洋史 指導教官:河相善雄.

(3) 軽度知的障害児の文章表現指導に関する研究 一コンピュータ利用による自主学習の指導を通して一. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 障害児教育専攻. M99333G. 村川 美保.

(4) 目次 序章. 第1節 第2節 第3節. 第1章. コミュニケーション能力の重視 障害児教育とコンピュータ 問題の所在と目的. 第2章. … 5. … 8. 11. コミュニケーションの定義 コミュニケーションの発達 ことばの発達 文章表現指導. … 11. … 12 … 13 … 15. 20. 障害児のコンピュータ利用. 第1節 第2節 第3節. 第3章. 教育におけるコンピュータ利用の動向 コンピュータ利用による障害児教育実践の特徴 障害児のコンピュータ利用. … 20 … 21. … 22. 24. 心情表現を目指した文章表現指導. 第1節 第2節 第3節 第4節. 第4章. 指導の概要 コンピュータ利用による自習教材を使用した指導 日記および手紙文の作成に取り組ませる指導 指導の結果. …. 24. … 28 … 37 … 39. 62. 考察. 第1節 第2節 第3節. コンピュータ利用による自習問題の効果 心情表現の場の重要性 自主学習の有効性. … 62 … 66 … 68. 71. まとめと今後の課題. 第1節 第2節. 研究のまとめ 今後の課題. 参考文献一覧 巻末資料 謝辞. … 1. 知的障害児のコミュニケーション指導. 第1節 第2節 第3節 第4節. 終章. 1. 問題の所在と目的. N児の記述した日記および手紙文(全文). … 71 ・.・. V2 75.

(5) 序章 問題の所在と目的 第1節 コミュニケーション能力の重視 1.情報化時代と「コミュニケーション不全」 IT革命ということばが示すように、現代はまさに情報化時代、高度情報化時代で ある。携帯電話をはじめとする通信機器、家庭へのパソコンの普及など、情報機器 のめざましい進歩が、我々の生活を大きく変えている。当然ながらその影響として. 我々の表現には「高速性」・「双方向性」という二つの特質が付け加わることと なった。有元(2000)1)は、 「高度情報化時代の表現には、陰陽両面がある」と述 べている。 「明るい側面は、便利になったことである。働いている母親がどんなと. ころにいても家にいる子供と交信できる、遠く離れた外国の人とEメールだけで仕事. の打ち合わせができる、家に座っていても大量の情報をインターネットで手に入れ られる」など、我々の表現には手段において便利さがもたらされた。これら陽の部 分の可能性は計り知れないであろう。だが、 「高度情報化時代の表現のもたらす陰 の部分にも目を向ける」必要がある。 「インターネットによる詐欺や、個人の誹言. 中傷、非合法の薬物の販売」などの犯罪の被害の質と量が、今までと比較にならな いほど大きなものとなっている。有元は、表現における陰の部分を「コミュニケーー. ション不全」と「コミュニケーション依存」という「二つの病」として捉え、「こ の二つの病は同根である」と述べている。 「コミュニケーーション不全」とは、普通のコミュニケーーションができない状態を. さしている。一対一の対話ができない子ども、児童を虐待する親、大きな問題を前 にしてざっくばらんに話し合えない大人の会議など、 「コミュニケー・・一ション不全」. は日本中に蔓延していると言える。一方、 「コミュニケー一…‘ション依存」とは、携帯. 電話・ポケットベル・ファックス・Eメールで四六時中交信していないと落ちつかな. い状態をさす。絶えず通信していないと落ちつかないという状態が、健全なコミュ ニケーションであるはずがなく、また散漫で冗長で無目的な通信によって本当の心 の交流は図れないだろう。事実、今の子供たちは交流はあるけれどもつながりがき わめて希薄であり、携帯電話やEメールでなら話せるけれど、面と向かった一対一の. 話し合いができない人が増えている。このような意味で「コミュニケーション依 存」も「コミュニケーション不全」の一種であると言えるかもしれない。. 情報化時代とともに我々の表現に生じた「コミュニケーション不全」という病、. 一1一.

(6) この治療の方法を模索すべく「コミュニケーション能力」というものが重視され、 「コミュニケーション能力の育成」が現在の教育に求められていると考えられる。. 2.心の問題とコミュニケーション 校内暴力、不登校、いじめに加えて、学級崩壊という現象が新たな教育の課題と して浮上している。 「学級崩壊は、一つに、めまぐるしく変転する時代とともに変. 容する子どもたちの内面に起因する。彼らは自分自身の感情を表現することが不得 手である。自己中心的で、他者とのことばによるコミュニケーションの方策を知ら ない。」と町田(2000)2)が述べるように、学校教育の中でコミュニケーション能 力を身につけることは緊急の課題であると言える。この課題に応えるかのように、 学校教育の中で「ソーシャルスキル教育」3)が注目を集め、多くの実践がなされて きている。. 「ソーシャルスキル教育」は次の4つの要素で構成される。 (1)人間関係についての基本的な知識 (2)他者の思考と感情の理解の仕方 (3)自分の思考と感情の伝え方 (4)人間関係の問題を解決する方法. rr社会性』は性格や気質ではなく、後天的なものである。自分と他者との関係 を取り結ぶ行動は、性格や気質のように変化しにくいものではなく、経験の結果で ある。この意味を強調して名づけられたのが『ソーシャルスキル(socia1 skills)』と. いう名称であり、人は経験を通して人づきあいのコツを覚えていく」という考え方 に基づいた教育である。「人づきあいは心でするものである」、 「人づきあいは自. 然に学ぶものだ」という考えはもっともであるが、最近の子どもにはこの「自然に 学ぶ」という環境がなくなってきている。教育力ある大家族の崩壊、自然発生的な 異年齢の遊び集団の消失、プライベートを大切にする文化の浸透にともなう地域の 結びつきの消失など、今までなら「ソーシャルスキル」を自然に学べていたはずの 機会が、今の子どもには減少しているのである。自然に学べないとするならば、学 ぶ機会を学校で保障することが考えられて当然であろう。. 「ソーシャルスキル」が獲得されていない子どもは、他の子どもたちとのコミュ ニケ・・…ションがうまくとれない。 「相手に十分意思を伝えられなかったり、相手の. 一2一.

(7) 働きかけに応えられず心を閉ざしてしまう。その結果、学級の中で孤立し、これが. 級友との協調的な行動や応答的なやりとりの仕方を学ぶ機会をさらに奪ってしま い、学級での不適応感が強まる」といった悪循環を呈する。 「自分の考えや思いを. 相手に伝えるためには、まず自分がどんな欲求を持ち、どう感じているかをつかむ 必要がある。次に、それをその場の状況や雰囲気に合わせて、ことばや表情や身振 りを使って伝えなければならない。伝え方は知っているのに、実際の場面では感情 のコントロールがきかなかったり、臆してしまったりして、うまく伝えられない子 どももいる。そこで、感情のコントロ・一・・一ルの仕方を教え、実際に実行に移せるよう. な練習も行う必要がある」。自分の思考や感情を相手にうまく伝えるスキルを身に つけることは、子どもが精神的・肉体的に傷つけられなくてすむだけではなく、自 分を大切にする気持ちが増し、自尊心の向上にもつながるのである。. 3.知的障害児のコミュニケーション 「コミュニケーション障害児の診断と教育に関する総合的研究」 (昭和63年∼平. 成2年)から明らかになったこととして、鯨潤(1994)4)は、「コミュニケーショ. ンは二者関係であるという観点を強調することによって、従来の治療教育的枠組み における『機能改善、障害低減』という目標に対し、『関係改善』、『関与者の関. 与枠の改変』という新たな視点が導入できた」とし、具体的な項目として、rコ ミュニケーションの発達的基盤が関わり合う二者間における多面的な情動共有躍情 動通底にあることを確認できたこと」・「その情動共有のためには、関与者=指導 者の子どもへの接し方(受容態度、コミュニケーション感度、応答性など)が、指 導場面においてはもとより、生活場面においても重要であること」・「コミュニケ ーションの発達がr他者をイニシアチブによって動かせるという自信』、『他者と. 情緒や意図を共有することができる楽しみ、喜び』など、子どものコミュニケー ション能力を伸ばすこと中心の指導・評価から、情緒面・人格面の育ちを指導・評 価することの必要性が認識され始めたこと」など6点を挙げている。これらのこと より、知的障害児のコミュニケーションを考える際に、個体能力的観点から関係論 的観点へと、指導の観点が移行してきたことがうかがえる。. 関係論的観点もとついた関わり手からのアプローチを重視したコミュニケーショ ン指導は、重度障害児のコミュニケーション指導に非常に有効である。しかしなが 一3一.

(8) ら、それがそのまま軽度知的障害児のコミュニケーション指導の方法として適して いるとは言い難いのではないだろうか。なぜなら、コミュニケーションを関わり手 の対応に任せる部分が大きければ大きいほど、障害児本人のコミュニケーションへ の主体性が薄まるからである。また、知的障害児とのコミュニケーションに対応で きる関わり手という点から考えれば、コミュニケーションが充分に行える範囲が限 られてしまうという欠点は避けられないだろう。軽度知的障害児の場合、社会への. 積極的・主体的な関わりの実現が教育を通して目指されるべきである。だとすれ ば、障害児本人のコミュニケーション能力の伸長も重視されて当然ではないだろう. か。「コミュニケーション能力の伸長」とは、子どもの障害をマイナスと見て、子 どもの能力を何が何でも引き上げようとするものではない。従来の個体能力論にも とづいたコミュニケーション指導が批判されるのは、訓練による子どものコミュニ ケ…一一ション能力の促進に傾斜しすぎたためであり、 「子どもを変容させようとする. 動き」そのものが否定されているのではない。子どもの発達の状態を見極め、「発 達の最近接領域」に働きかけることの意義は充分にあるはずである。 「子どものあ. るがままを受容することと、子どもの一歩手前に働きかけて変容を目指すこととの. 微妙な関係」を念頭に置いたコミュニケーション指導がまさに重要となるのであ る。. 「人はなぜコミュニケーションに向かうのか。」根源的な問いであり、さまざま な議論があろう。だが、コミュニケーションが自分にとって快の感情(喜び)をも たらすからこそ、人はコミュニケーションに向かうのではないだろうか。コミュニ ケーションの:喜びとは、他者に気持ちが伝わったことの喜びである。一見道具的に. さえ見える「要求一応答」のコミュニケーションでさえ、その目的は、気持ちの 伝わり合いにあると言ってよい。知的障害児のコミュニケーション指導では、まず このコミュニケーションの喜び、気持ちが伝わることの喜びを味わわせることに主 眼がおかれるべきであろう。知的障害児は、この気持ちを伝えるということに失敗 することが多く、これがコミュニケーション上の大きな問題となっている。自分の 意思がうまく伝わらないもどかしさからパニックに陥ったり、ことばによる表現が 不十分なため相手に誤解されてしまうなど、知的障害児にとって心情表現が適切に できることは、表現活動の中で最も重要な位置を占めることと考えられる。. 一4一.

(9) 第2節 障害児教育とコンピュータ 1.コンピュータの学校教育への導入 情報化社会のという時代の趨勢として、コンピュータが学校教育の中に導入され. てきている。文部省の「平成7年度公立学校における情報教育実態調査報告」 (1996年10月発表)によると、1996年3月末現在で、小学校の84.7%、中学校の 99.7%がパソコンを導入している。高等学校は100%、特殊教育諸学校は98.3%で あり、1校あたりの平均設置台数は、小学校では6.9台だが、中学校では23.9台、高. 等学校は61.9台、特殊教育諸学校では8.9台となっている。少なくとも、授業で2人. に1台以上の割合でパソコンを利用できる教育環境は、ほとんどすべての中・高等 学校ですでに実現しているし、多くの小学校でもほぼこれに近い状況に近づきつつ ある。. インターネットを学校で活用するプロジェクトとして、1994年度に通産省と文部 省は、全国の小・中・高および特殊教育諸学校讐100校に、インターネット接続に必. 要な機材と資金を提供するという「100校プロジェクト」を発足させている。1996 年度には、文部省の協力でNTTがやはり小・中・高等学校、約1,000校を対象にイン ターネット接続の設備、資金、さらに技術支援サービスをするという「こねっと・ プラン」を始めている。. 一方、1995年4月には、21世紀に対応する教育課程の編成を審議するために第15. 期中央教育審議会が発足し、1996年7月に第一次答申(『21世紀を展望した我が 国の教育のあり方について』)を提出した。そのなかで、情報教育に関しては、 「『高度情報通信社会』の到来に対応するため、初等中等教育段階での情報通信 ネットワークの活用を本格的に進めるべき」だとし、情報教育のカリキュラムにつ いては、 「小・中・高等学校の各段階における系統的・体系的な情報教育をいっそ. う充実させていく」ことが必要だとしている。さらに、学校自体が「自らの情報を 積極的に発信していく開かれた学校となっていくことを強く望む」ことを提言して いる。このように、コンピュータを学校に導入するという国の文教政策はどんどん 進められている。. では、なぜコンピュータを学校に導入するのか。この点について佐伯(1997)5). は、①適応教育のため、②対応教育のため、③学校改革のためという3点を主な理 由づけとして検討し、そのいずれの理由をも短絡的に直結させてはならないと述べ 一5一.

(10) ている。むしろ、 「コンピュータやインターネットを教育にどう活用し、どう教え. るか」という観点からコンピュータ教育を考えるのではなく、まず「現代社会にお いて、教育はどうあるべきか」という観点から出発し、そこに「コンピュータがど のような形で貢献できるか」を考えるべきだと述べている。 「コンピュV・一・タが人々. の学習を支援する道具(「学びの道具」)になるべきだ」と主張するのである。. 2.障害児教育とコンピュータ 障害児教育でのコンピュータは、佐伯のいう「学びの道具」として利用されてい ると言ってよいだろう。「障害をもつ能力を補償したり、代行したりする役割を果 たすもの」6)としてのコンピュータ利用が、その代表的な例である。コンピュータ. をさまざまな障害をもった子どもの障害機能に代わる代行装置としてとらえ、テク ニカル・エイドとしての有効性を発揮させる利用方法である。障害に応じたインタ ーフェイスの技術進歩もともない、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由の障害をもつ 子どもたちの感覚障害や運動障害をコンピュータが補償、代行することにより、書. 字や描画が可能になる、あるいはコミュニケーション手段をもつことができると いった実践報告が多くなされている。. また、インターネットの利用により、知的障害児教育の場においても、 「新しい. 社会参加の形としてネットワークを利用した自己表現や文化的活動としてのコン ピュータ利用」7)が実践されつつある。. 熊谷(1987)8)は、知的障害児教育における教材作成の基本的な視点として次の 4点を挙げている。. (1)正誤のフィードバックを即時にわかりやすい形で与えられること (2)次の操作に進みやすいような援助をしてあること (3)教材システムに物的対象性を与えていること (4)必要に応じて与えられるコンパクトなシステムであること. コンピュータを「学びを支援する道具」としてとらえ、知的障害児の教材作成に 利用することを考えた場合、コンピュータはまさにこの基本的な要素を備えている と言えるだろう。. また、熊谷は「自閉症児に対するパソコンを利用した言語指導」9)を行い、自閉 症児に対するパソコン利用教材の有効性を. 一6一.

(11) (1)学習者に反応の選択肢を明瞭な形で提示できる (2)絵や文字などの、音声言語に代わるコミュニケーション手段を呈示刺激や反 応選択肢として利用できる (3)学習者と機械とのあいだのやりとりの分かりやすさ (4)行動コントロールが乏しく、見通しをもった行動のとれない自閉症児に対し て、一連の継続的な学習を引き出し得る可能性をもつ (5)学習者に対して指導者が威圧を与えずにすむ. という5点にまとめている。自閉症児に対するパソコン利用教材の有効1生が、そ のまま知的障害児全般にわたるとは考えられないが、多くの点で共通する部分があ ると考えられる。. さらに、このパソコン利用教材の有効性に注目すれば、パソコン利用による自習 教材の作成へと発展させることが可能であると考えられる。先述の熊谷の研究にお いても、学習者が学習の手順を理解し、正反応が続く限りでは、システムへの適応 が非常によく、指導者の援助を必要とせずに学習が進められていた。しかし、誤反 応が続くと非常に混乱し、時にパニック様の反応や注意散漫な態度が生じている。 熊谷は、 「この落差は健常児や他のタイプの障害児よりもずっと大きいものと思わ. れる。従って、彼らに対する課題の設定にあたっては、数試行中に必ず100%の正答. 率に達せられるようなものを選んでいく必要がある。そのためには、学習者の現在. の能力ともう少しで手が届こうとしている能力を見極めることが非常に大切であ る。」と述べているが、翻って考えれば、適切な課題が与えられれば、指導者の援 助なく学習が進められることを示唆していると言えるだろう。障害の種類や程度に もよるが、自分で自分の学習をコントロールできるという経験は、主体的な学習へ の取り組み、学習への自信、学習意欲の向上といった良い影響をもたらすことと期 待できる。. 一7一.

(12) 第3節 問題の所在と目的 1.問題の所在 コミュニケーションに必要なものは、何よりまずコミュニケーション意欲の喚起 である。軽度知的障害児にとってコミュニケーションの場は、意欲を高めるものと して働いているだろうか。学校教育の中で、コミュニケーション能力の伸長を目指 す場合、その重点にはコミュニケーション方略の獲得が中心に置かれているが、こ の方略とともに重視しなければならないのが、コミュニケーション意欲の喚起であ ろう。この両面における指導が考えられるべきである。鯨岡は、コミュニケーショ. ンの発達が「他者をイニシアチブによって動かせるという自信、他者と情緒や意図 を共有することができる楽しみ、喜びといった、子どもの情緒面、人格面の育ち」. につながるものとして認識することの重要性を述べている。コミュニケーションで きてよかったという喜びこそが、コミュニケーション指導においては何より大切で あり、子どもの自信につながることであろう。. 「自信」という点では、軽度知的障害児が、自らのコミュニケーション能力に自 信がもてないという面がしばしば見受けられる。他者とのやりとりにおけるまずさ を自分自身が感じ、それがコミュニケーションの機会を減少させる結果となってし まう。コミュニケーションには必ず相手がいるものであり、その点では、相手との 関係の中でしかコミュニケーション技術は向上しないと言える。コミュニケーショ. ンの機会が少なければ少ないほど、コミュニケーション能力が向上しなくて当然で. ある。こうしてみると、軽度知的障害者が自らのペースで安心してコミュニケー ションできる場が与えられる必要があると考えられるのではないだろうか。. 日常生活においてコミュニケーションは絶えずなされており、その点では家庭で のコミュニケーションをコミュニケーション指導の場として考えることもできる。. しかしながら、家族との自然なコミュニケーションだけでは、子どもにとって必要 なコミュニケーション能力は身につかないことが多い。なぜなら、家族や親しい人. とのコミュニケーションでは、お互いが理解できる共通の文脈を持っているが故 に、ことばであえて説明する必要がなく、使用されることばが限られたものになっ てしまうからである。ことばの発達について、守屋(1982)10)は、 「ことばを学習. させられるものがことばを学習するのは、ことばを使えば便利だと感じることがで. きるような結果一要求が充たされるという結果一を導くことができるからであ 一一 8一.

(13) る。 (中略)したがって、表現する必要もないほど要求が先廻りして充たされる場. 合、あるいはこれとは逆に要求の表現が抑えられたり無視されたりするような場 合、子どもはことばによる表現を行わなくなる。これでは、ことばの発達は期待で きないであろう。」と述べている。これは要求表現だけにではなく、すべての表現 に当てはまることであろう。家庭でのコミュニケーション場面は、ことばにしなく てもコミュニケーションが成り立つという意味で、ことばによるコミュニケーショ ンを発達させる場にならないと言えるだろう。. 子どもが意欲を持ってコミュニケーションに向かえる場の設定・コミュニケー ションを行う自信のもととなるコミュニケーション方略の獲得、この両面を考慮し た指導方法が、コミュニケーション指導においてとられるべきである。. 軽度知的障害児は、養護学校で教育を受けることよりも、障害児学級に通級する といった形で学校教育を受けている場合が多い。障害のない子どもとの関わりを含. め、子ども同士のコミュニーションは、学校生活の中で重要な位置を占めるだろ う。そこでは、相手が自分の言いたいことを読みとってくれるといったおとなとの コミュニケーションと、全く異なるコミュニケーションが要求される。自分の心情 を適切にことばにしなければならない場面も当然生まれてくるであろう。自分の心 情を適切に表現することは、ソーシャルスキルとして位置づけられ、学校教育の中 で「ソーシャルスキル教育」を行うことの重要性が認識されてきている。このソー シャルスキルとしての心情表現を、軽度知的障害児が行えるようになることは、学 校生活ひいては社会生活を送るうえで重要であると考えられる。. 2.研究目的 本研究では、ことばでの心情表現を苦手とする軽度知的障害児に対して、文章の 中で心情を表現させることを目的とした指導を行う。. 文章で心情を表現するためには、出来事に応じた心情語の使用や適切な文章構成 を学習する必要があり、その学習方法としてコンピュータ利用による自習教材を使 用する。また、コミュニケーション意欲の向上を図り、主体的に自由な文章表現が できる場として、コンピュータ利用により日記および手紙文を作成し、文章を指導 者に送る手段としてEメールを利用する。. コンピュータ利用による自主学習の過程と、本児の文章表現での心情表現の変化 一9一.

(14) との関係を明らかにし、軽度知的障害児の心情表現を目指した文章表現指導のあり 方を考察することを目的とする。. 〈引用文献>. 1)有元秀文「情報化時代に必要なコミュニケーションスキル」月刊国語教育別冊, pp.72−75, 2000. 2)町田守弘「表現指導の戦略一一新しい工夫のために」月刊国語教育別冊,pp.6一一11,. 2000 3)小林正幸・相川充編『ソーシャルスキル教育で子どもが変わる』図書文化社, pp.12−17, 1999. 4)鯨岡峻「特殊教育におけるコミュニケーション重視の意味」 『平成5年度特殊教. 育シンポジウム報告書 テーマ「コミュニケーション障害への援助」』国立特殊 教育総合研究所,pp.1−5,1994. 5)佐伯脾『新・コンピュータと教育』岩波書店,pp.1−28,1997. 6)子安増生「コンピュータ教育」児童心理学の進歩30,pp.207−227,1991. 7)川村泰弘「精神薄弱養護学校におけるインターネットの学習利用に関する研究一 メール交換の実践を中心とした試み一」弘前大学教育学部附属養護学校教育研究年 報酬16集,pp.39−50,1998. 8)熊谷高幸「知能障害児教育における教材構成一パソコン利用教材の導入と関連し て一」福井大学教育学部紀要IV(教育科学)37, pp.143−161,1987. 9)熊谷高幸「自閉症児に対するパソコンを利用した言語指導一y児とT児への構文指 導の試み一」福井大学教育学部紀要W(教育科学)39,pp.155−177,1989 10)守屋慶子『心・からだ・ことば』ミネルヴァ書房,pp.217−256,1982. 一10一.

(15) 第1章 知的障害児のコミュニケー・一・一ション指導. 第1節コミュニケーションの定義 コミュニケーション指導を考える前提として、「コミュニケーションとは何か」 という基本概念を考える必要があろう。. 日本語の辞書の「コミュニケーション」の項目を引いてみると、 「社会生活を営 む人間のあいだに行われる知覚・感情・思考の伝達」とか、 「気持ち・意見などを. 言葉などを通じて相手に伝えること」、あるいは「二者間である観念・思考の伝 達・把握が行われること」などの意味が載っている。これらを見る限り、人が人に 伝えるというく伝達〉の意味が基本であるように見える。しかしながら、一方が観 念や思考を伝えるということだけでコミュニケーションの定義に充分といえるだろ うか。伝達するということは受け手から理解されることを想定ないしは期待してい るわけであり、受け手から理解されて初めてコミュニケーション本来の目的が達成. されたことになる。そうしてみると、この受け手の側の〈理解〉も伝え手の〈伝 達〉に劣らずコミュニケーションの本質的側面だと言えるだろう。この一方の〈伝. 達する〉という側面と、他方の〈理解する〉という側面をあわせて考えれば、コ ミュニケー・・一‘ションとは両者のあいだで、ある観念や思考が「共有されている」状態. をさすと考えられよう。. 鯨岡は、 r原初的コミュニケーションの諸相』 (1997)1)の中で、コミュニケー ションの理念を、 「理性的コミュニケーション(道具的・実用的コ.ミュニケーショ. ン)」と「感性的コミュニケーション(繋合的コミュニケーション)」とに大きく. 二分し、 「現実のコミュニケーション場面では、これらが重なり合って現れてく る」と述べている。 「理性的コミュニケーション」とは、伝え手と受け手のあいだ. の正確な情報の授受が目指されたコミュニケーションである。そこには信号として のことばが必ず介在し、ことばは一一義的・公共的な意味合いを持つ。それに対し て、 「感性的コミュニケーション」では目指されているものは、 「気持ちの共有」. である。ことばが介在する場合もあれば介在しない場合もある。 「私たち人間は本. 源的に特定の他者と繋がれることを希求する」という「繋合希求性」にもとづいた コミュニケーションである。. 子どもの状態により、この2回忌コミュニケーション理念のいずれのコミュニケ ーションを目指そうとするのか、また、それに対応するコミュニケーション指導の 一11一.

(16) あり方も自ずと異なってくるものと考えられる。. 第2節コミュニケーションの発達 子どもの発達を目指して指導が行われることはいうまでもない。では、コミュニ ケーション指導において、どのような発達のモデルを考えればよいのだろうか。. 鯨岡(1994)2)によれば、「コミュニケーションの発達」とは、「情動共有を土. 台として、その上に情報の授受が積み重ねられ、しだいに完備してゆく過程」とさ れている。しかもこの過程は、「個体内機能が完備してゆく過程(A)であるととも に、コミュニケーションを交わす他者との関係がしだいに拡がってゆく過程(B)」と. いう2つの過程であり、図1に見られるように、Aの過程に3水準(原初的情動共有 段階:A、、シンボル機能獲得段階:A2、シンボル機能充実段階:A3)、Bの過程に 3水準(特定二者関係の水準:B、、半知り他者や仲間関係の水準:B2、不特定多数 他者関係の水準:B3)を置いて、 Aを縦軸に、 Bを横軸に配置する。その上で、「コ. ミュニケーションの発達」とは、このA軸・B軸それぞれ二方向に展開を見るものと. イメージ」するのである。そして、へ∼へと、B、∼B3を組み合わせれば全部で9. 通りの組み合わせが考えられる。これらの組み合わせば、大きくは(AB)から 1”1 (A3B3)に向かって変容してゆくとさしあたり考えることができる。. A原初的情動共有段階Al. シンボル機能獲得段階ma. 情報授受 機能の 充実化. 情報授受. 情動共有 の深まり. シンボル機能充実段階A3. 情動共有. .. 情報授受. . 情動共有. 情動共有. 共有する他者 の拡がり. 特定二者関係B1. 半知り他者・仲間関係B2. 不特定多数他者関係B3. 図1.コミュニケーション発達の2方向性. この図にしたがえば、例えば、 「最重度の障害児とのコミュニケーションでは (AB)の領域や水準が問題」となる。 「他方、見慣れた写真やシンボルを使って 1−1 関わり手が子どもに問いを出したり、子どもがそれらの媒体を使って表現するのを 一12一.

(17) 聞き手が読みとって言語化しコミュニケーションをはかるなどというのは、おそら く(AB)の領域や水準が問題」であり、 「知的障害がほとんどない肢体不自由の 2’1 生徒のコミュニケーション指導においては(A3B3)の領域や水準が問題になる」。 子どもの個体差(障害の水準)、学校種別、ライフ・ステージを考慮に入れなが ら、この図式をコミュニケーションの発達の一つの枠組みとしてながめれば、「特 定の障害児や障害者と特定の援助者のあいだにおいて、どの領域や水準でコミュニ ケーションが難しくなっているかを見通すことができる」だろう。. 子どもの指導において「発達の最近接領域」を考えることは重要であり、コミュ ニケーション指導においてもこの発達の二方向性を考えた指導がされなければなら ない。. 第3節 ことばの発達 コミュニケーションの発達にともなって、そこで使用されるシンボルとしてのこ. とばそのものも発達するものと考えられる。このことばの発達について、岡本 (1985)3)は「子どもはその発達の途上で二つのことばの獲得を迫られる。」と述 べ、一つを、 「いわゆる『ことばの誕生』とも呼ばれる、乳児期から幼児期にかけ. てのことば」として「一次的ことば」、もう一つを、 「子どもが学校時代を通し て、新たに身につけていくことを求められることば」として「二次的ことば」と呼 んでいる。 「児童期のことばの発達的変化を、乳児期に獲得されたことばの延長線. 上における量的増大・構造分化、機能の精緻化、用法の熟達といったかたちにおい てとらえ」るのではなく、 「新たなことばの獲得という観点に立ってとらえ」よう とするのである。 「私たちおとなのことばは、自分たちが乳幼児期に身につけたこ. とばの延長としての単純な量的増加や複雑化の帰結として生み出されて来ているも のではない。おおざっぱに言うならば、学童期を契機にして、一つの大きな質的転 換を遂げることによって、ことばはことばとしての力を十全に発揮するにいたる」 と考えるのである。. 岡本は「一次的ことば」と「二次的ことば」の特徴を、コミュニケーションを主 眼において比較し以下のような表にまとめている(表1参照)。. 一13一.

(18) 表1.一次的ことばと二次的ことば コミュニケーションの形態. 一次的ことば. 二次的ことば. 状況. 具体的現実場面. 現実を離れた場面. 成立の文脈. ことばプラス状況文脈. ことばの文脈. 対象. 少数の親しい特定者. 不特定の一般者. 展開. 会話形式の相互交渉. 一方向的自己設計. 媒体. 話しことば. 話しことば・書きことば. この表が示すように、 「一次的ことば」とは、特定の親しい人との対面対話場面. で、その場と具体的に関連した事象をテーマに話し合ってゆくことばといえる。こ こでは、相手が状況文脈を理解してくれることを前提にコミュニケ・一…ションが成立. しており、その限りにおいてコミュニケーションが成立する範囲も限られた範囲に とどまることとなる。. 一方「二次的ことば」では、 「状況文脈という援用者」を用いることなしにコ ミュニケーションを展開させなければならない。 「一次的ことば」では、本人のこ. とばによらずとも状況の文脈が語ってくれた部分をすべてことばの文脈に構成して ゆくことが要求される。「比較的単純な文であれ、複雑な節を含む文であれ、具体 的な状況から自立したことばの文脈としての機能が必要となり、当然ながら、文法 規則や助動詞・助詞の機能が重要な役割を果たすこととなる」。. 家庭で使用されることばは「一次的ことば1が中心であり、その点では「二次的 ことば」は、学校での学習活動の中で繰り返し指導されることにより獲得が可能に なると言ってよいだろう。. 「二次的ことば」の媒体として登場するのが書きことばである。書くという行為 は、手紙など特殊な場合を除いて、読者一般を想定しながら、相手のフィードバッ. クを欠くところでことばの展開を進めていかなければならない。その意味で最も 「二次的ことば」らしいことばと言えるだろう。翻って考えれば、子どもの興味・. 関心にあった書きことばの指導が、「二次的ことば」の獲得に有効だと言えるので はないだろうか。. 知的障害児は、日常生活の中で、学校生活の場面を含め「一次的ことば」の使用 一14一.

(19) によってコミュニケーションを成り立たせている場合が多い。限られた人との交流 が中心であり、状況の文脈を理解してくれる人とのコミュニケーションでは「二次 的ことば」は要求されない。知的障害という障害ゆえかもしれないが、学校での書 きことばの指導においても、教師との会話形式の相互交渉により文章が作成される ことが多く見うけられる。これでは、書きことばの指導が、ことばを「自己設計に より展開させる」機会として働いていないと言えるだろう。ことばというものは使 用することによって洗練されていくものである。もちろん障害の程度にもよるが、. 知的障害児においても、書きことばを本来の「二次的ことば」として使用する機会 を増加させることが必要なのではないだろうか。学校という限られた時間の中でそ の機会が確保できないとするなら、子どもの家庭での時間を使った書きことばの指 導が考えられてよいのではないだろうか。. 第4節 文章表現指導 表現には二つの要素があると考えられる。一つは、自己を表現するという要素で あり、あと一つは・他者とのコミュニケーションのための表現という要素である・. 自己を的確に表現することば、さらに他者とのコミュニケーションを開くことばを 身につけさせることが、表現指導の重要な課題であると言えるだろう。表現指導の 意義について、町田(2000)4)は「本来生徒たちは表現することが好きなはずだ。. 彼らの内にある表現意欲を目覚めさせ、適切な課題を手引きとして与え、表現のた めの具体的な場面を設定すれば、必ず生き生きとしたことばで表現する。生徒たち の自己表現の要求を満たすことによる達成感と、他者とのコミュニケーションを開 くことによる充足感が、精神的な安定へとつながる。」と述べている。. 文章表現にはさまざまな目的があろうが、文章表現を自己表現の方法として位置 づけて考えることは重要であり、当然ながら、そこでの文章表現指導は、美しい文 章、詩的な文章を書くことを目指した指導ではなく、コミュニケーションという側 面からの指導が考えられるべきであろう。. 国語科においても表現指導はコミュニケーション重視の方向にある。学習指導要 領において、国語の「言語の教育」としての立場が明らかにされて以降、表現の重 視という方向性は繰り返し強調されているが、今回(平成10年度)の改訂でも、表 現重視の方向が継続されることとなった。例えば、中学校学習指導要領において国 一15一.

(20) 語は、 rA話すこと、聞くこと」rB書くこと」 rC読むこと」および「言語事 項」の三領域一事項から構成されることになったが、目標改善方針にもあるように 「*自分の考えを持ち論理的に意見を述べる能力」 「*目的や場面などに応じて適 切に話したり聞いたりする能力」 「*互いの立場や考えを尊重しつつ、言葉により. 伝え合う力」といった、つまりは「コミュニケーション能力」を重視していこうと いう方向にある。. コミュニケーションを重視した作文指導、いわゆる「コミュニケーション作文」. (大西1998)5)の提唱は、今日に始まったことではない。第2次大戦後国語科の 「綴方」が、 「書くこと」に改められたとき、その中の指導領野「作文」の内容 は、伝達機能を主とするものであった。 西尾実は、『国語教育学の構想』 (1951)6)の中で次のように説く。. 「これまでの作文教育には、「私」の真実を尽すという、個人的・主観的表現主 義の徹底はあったが、 「公」の真実を立てるという、社会的、客観的なコミュニ ケーションの要求は、まだ、はっきりとした形をとっていなかった。生徒でいう ならば、学級日誌をつけるとか、学校行事記録を書くとかいうようなばあいは、 まさに、公的立場に立ち、学級の一人として、または、学校の一員として記録す べきことを選び、記録のしかたをきわめなくてはならぬわけである。各々の家庭 においても、同様の問題があるはずである。それは、 「表現」というよりも、 「コミュニケーション」というに、より近い働きである。このような、書く立場 の確立と発展が、あらためて、とりあげられなくてはならぬとおもう。」. ここには、コミュニケーション作文の基本的なあり方と考え方とが明確に示され ている。 「私」の立場から「公」の立場への進展、転換は、書く目的・意図、内 容、表現形態を相手との関係において大きく変化させる。その言語表現には、客観 性・平明性・正確性とともに、相手に確実に届き、納得されるという伝達性が要求 されるのである。. 倉澤栄吉も、『作文の教師』(1995)7)において、コミュニケーションの原理に 立つ作文指導を主張して、次のように述べている。. 「近代社会に必要な人間は、紙の上にぶつぶつつぶやくように書きつけているこ とで満足する表現型のものではない。つぶやく人間ではなく「相手に語りかける 人間」が必要なのだ。そのような人間は、作文表現だけではできない。相手を考 え、思いやり、笑って話せる人間になるような、広い表現力をつけたものとして 育てなければならないのである。(中略)相手の立場を考えるとは、コミュニケ ーションの出発であり、文表現の基本的態度である。コミュニケーションなどと 一16一.

(21) いうとバタくさいとか、文部省的だなどといやがる人もいようが、決して時流に あう一時の主義主張ではない。. それはことばの原則なのである。相手の立場を考えないことばは相手に通じな い。通じたとしても、それは相手を怒らせたり、だましたりする非言語になって しまう。作文がなによりもまず「よくわかること」を目標にしているのは、コ ミュニケーションの原理であり、実はことばの本質なのである。」. ことばの本質をコミュニケーション機能に認め、それを作文指導の原理とすると いうこの玉澤の主張は、今日においてもその意義を失っていないと言える。. では、コミュニケーション作文の指導において目標とするべきことは何であろう か。町田は、. (1) (2) (3) (4). 表現に対する興味・関心の喚起 表現意欲の喚起 表現のための場の設定 生徒を円滑に表現指導へと導く課題の設定. の4点を挙げ、「表現理論を教え込むよりは、生徒たちが実際に表現する場所を 授業の中に設定する必要」を強調し、さらに表現活動を通して達成されるものと して (5) 表現することの楽しさ・充実感の体得. を表現指導の目標に挙げている。表現指導は活動を伴うことによって成立する。. いかに効果的な表現活動の場を設定するかが、指導者側の工夫にかかっており、無 理なく表現活動へといざなうことができるような、適切な課題の設定も必要不可欠 なことである。. 牧戸(1999)8)は、「学校教育における書くことの指導を、生涯にわたる書くこ. との基礎・基本としての書き手(文章生活者)の育成」と考え、その目標は、 「(1) 「達意」の文章を書こうとすること、 (2)書き慣れること、書くことを厭. わないことの2つに集約される」としている。そしてその達成のためには、 「(1) 自信、 (2)技術 が必要である」と述べている。書くという行為を遂行していると. きには、 「技術」そのものを意識しないようになるまで使い慣れなければならな い。そのためには、日常的な反復が要求される。その獲得のプロセスが「自信」を 生み出すのである。 「『自信』とr技術』が円環的に獲得されていくような指導」. が重要であり、文章表現においては、 「スケッチ(身の廻りのことをスケッチす 一17一.

(22) る)」が重要であるとしている。 蓑手9)は『作文教育第35集』 (1976年6月)において、 「作文指導における伝達. 能力」と題して、 「文章における伝達能力とは、言語記号を媒介として、書き手が 読み手に対して、自分の思想・感情を意識的に伝達する能力である。」と定義し、 「作文指導における伝達能力は、主として伝達機能を明確に発揮:しなければならな. い手紙文・伝達文・報道文・報告文・説明文・意見文・論説文などを書くことに よって育成されるであろう。」と述べている。さらに、その能力を高める方法とし て以下の9項目を示している。. (1)文章を書く経験や活動を重んじる (2)文章を書く必要の場を設定する (3)文章を書く相手をはっきりと意識する (4)文章を書く目的や形態をはっきりと意識する (5)文章の題材や主題をはっきりさせる (6)文章の形態に応じて構成を工夫する (7)文章の要点や要件を落とさずに書く (8)事実と意見とを区別して書く (9)書いた文章を生活や学習に役立てる 中西10)も同誌において、 「伝達力を高める作文指導」と題して、 「読者対象の想. 定と必要性の実感を配慮した学習の場と教材を考え」ること、そのためには、 「日. 記や生活文と異なり、積極的に、必要性に富むものと種類を設定しなくては」なら ないと述べ、 「学習の場の形成要因として相手意識が重要な役割を担っている」こ とを指摘している。. 以上、引用が長くなったが、これらはすべて、文章表現指導においてコミュニケ ーション作文という観点からの指導が、子どものコミュニケーション能力を伸ばす ことに有効であることを示していると言えるだろう。. 〈引用文献>. 1)鯨岡峻『原初的コミュニケーションの諸相』ミネルヴァ書房,pp.129−163,1997. 2)鯨岡峻「特殊教育におけるコミュニケーション重視の意味」 『平成5年度特殊教. 育シンポジウム報告書 テーマ「コミュニケーション障害への援助」g国立特殊 教育総合研究所,pp.1−5,1994. −18一.

(23) 3)岡本夏木『ことばと発達』岩波新書,pp.1−69,1985 4)町田守弘「表現指導の戦略一一新しい工夫のために」月刊国語教育別冊,pp.6−11,. 2000 5)大西道雄編『コミュニケーション作文の技術と指導;』明治図書,1998. 6)西尾実『国語教育学の構想』筑摩書房,1951 7)倉澤栄吉『作文の教師』牧書店, 1955. 8)牧戸章「『実用的表現力』の育成一『他者』と出会うために一」月刊国語教育 19(7), pp.20−21, 1999. 9)蓑手重則「作文指導における伝達能力」日本国語教育学会作文部会機関誌 作文. 教育第35集,1976 10)中西一弘「伝達力を高める作文指導」日本国語教育学会作文部会機関誌作文. 教育第35集,1976. 一19一.

(24) 第2章 障害児のコンビュー・…タ利用 今日、学校へのコンピュータの導入がめざましい勢いで進んでいる。それは、障 害児教育の場においても同様である。文部省が策定している教育用コンピュータの 整備計画によれば、 「平成6年度からおおむね6年間で小学校に22台(児童2人に1. 台)、中学校に42台(生徒1回忌1台)、普通科高等学校に42台(生徒1人に1 台)、特殊教育諸学校に8台(児童・生徒1人に1台)」 (文部省1996)となってお. り、まさに1人に1台の時代へと進みつつある。このような状況の中で、障害児に とってコンピュータの活用がどのような意味を持つかといった子どもの視点に立っ. た検討、コンピュータの利用が障害児にとってどのような影響を及ぼすのかといっ た発達的な観点からの検討がなされなければならない。. 第1節 教育におけるコンピュータ利用の動向 コンピュータが本格的に学校に導入され始めた1980年越後半のコンピュータ利用 は、ドリル・アンド・プラクティス型といわれるものが主流であった。コンピュー タが提示する問題に、学習者が反応し、それに対して適切な報酬が与えられるとい うものである。学習は個別学習を基本とし、個人の進度にあわせながら、易しい問 題から難しい問題へとスモールステップで進んでいく。だが、一定のプログラムに したがって学習を進めるために・学習者の要求によってプログラムの流れを変えた り、予定外の質:問に答えたりすることはできないという欠点を持ち合わせていた。. 「コンピュータ主導による教材の提示一学習型のコンピュータ利用」であり、 rCAI型のコンピュ・・・…タ利用」 (寺川1997)1)と呼ばれるものである。. それに対して、1990年代半ばになると、コンピュータが文字、音声、フルカラー 映像などを統合して提示できるようになった。このようなコンピュータを道具とし て利用し、文章や、絵や音楽などを使って自己表現させ、創造性を発揮させようと いう試みが行われている。またインタラクティブ(相互作用性あるいは双方向性). ということが唱われ、コンピュータと子どものやりとりが注目されるとともに、コ ンピュータネットワークを利用した他者とのやりとりも試みられている。 「子ども. の主体性を重視した思考一表現型のコンピュータ利用」が目指されており、「マ ルチメディア型のコンピュータ利用」と呼ばれている。. 一20一.

(25) 第2節 コンピュータ利用による障害児教育実践の特徴 現在コンピュータ利用による障害児教育の実践において、もっとも多く取り組ま れているのが、特に知的障害児に対する文字や数の学習において見られる、弁別能 力や分解・合成能力の形成を促すような学習である。例えば「パソコンを使ったひ らがなの学習」 (平光1994)2)では、「ことばの読み」としてことばと絵のマッチ. ングを行う課題と、「ことばづくり」として単語の音節分解・合成を行う課題がそ れぞれ提示されている。このほかにも、コンピュータ画面上の選択肢として、写真 やビデオ映像などを取り込んだり、画面に可愛いキャラクターが登場する遊び的要 素を取り入れたもの、また正答あるいは誤答であった場合にゲーム感覚の画像や音 楽により即座にフィードバックがなされるものなどが見られる。これらは、バリエ ーションはあるものの、子どもに形成される能力といった観点からは、いずれも弁. 別能力や分解・合成能力の形成を促している点で基本的に同じ構造の教材といえ る。この場合、コンピュータを用いることの効果は、情報の提示の仕方が工夫され ることの効果と、それによって子どもの興味・関心が強く引き出されることの効果 があげられよう。. 次に、コンピュータ利用による学習において取り組まれているものとして、疑似 体験学習があげられる。買い物の疑似体験・自動販売機を使う場合・乗り物に乗る 場合・現金自動払い機を使う場合など、どういう手順を踏めばよいかについて、絵 やビデオによる映像・音声などによって、現実場面がシミュレートされたコンピュ ータと対話しながら学習が進められる。これらのコンピュータで疑似体験型学習を 行うことの意義としては、直接体験による学習に先行して予備知識を獲得すること により、直接体験の学習をより効果的にすることがあげられよう。. 以上の実践は、子どもの認知的側面の発達が目指されている点に特徴があると言 える。. 一方、コンピュータとの対話的な取り組みが、コミュニケーション能力を向上さ せるといった情意面への効果も言われ始めている。しかしながら、そこで提示され. ているソフトウェア自体は認知的側面の発達に照準を合わせたものとなっており (「らくらく絵日記」富士通株式会社第二文教システム部19983)など)、子どもの. 惰二面の発達を目指しているとは言い難い。なぜならここでいうコンピュータと子 どもとの「対話」とは、コンピュータが提示した対話の型の中から、子どもが状況 一21一.

(26) にふさわしいと思うものを選択するといった日常のスクリプトに依拠した対話であ り、両者の思考をかいくぐったうえで行われるやりとりといった、本来の意味での 「対話」と捉えられないからである。ここでのコンピュータは、映像、音声といっ. たマルチメディアによって、より効果的な教材を提示する役割を担っているにすぎ ず、その意味では「マルチメディア型のコンピューータ利用」に至っていないと言え るだろう。. コンピュータを利用したことにより、障害児が学習に対して強い興味・関心をも つことができ、集中力を持って取り組めたとする実践報告は多い。このようなコン ピュータ利用の効果はどのように説明できるのであろうか。. 一つにはコンピュータ利用による「新奇性効果」である。学習におけるコンピュ ータ利用のねらいをこの点におく場合も多い。学習ソフトウェアを作成する場合に も、映像や音声を駆使してゲーム的環境をつくるなど、子どもの好奇心を刺激する ことに主眼がおかれている。しかしながら、学習の道具としてのコンピュ・一・…タに興. 味を抱かせることは入り口であって、本来の教育内容への知的好奇心を喚起するこ とがなければ、コンピュータに対して新奇性がなくなった途端に学習をやめてしま うことになりかねないことも事実であろう。. また、コンピュータ独自の環境が「自己効力感」のようなものを障害児に与え、. それが学習への積極的な取り組みにつながるといった情意的側面への効果が指摘さ れた実践報告も見うけられる。. 第3節 障害児のコンピュータ利用 障害児の発達においてコンピュータを利用することの意義について、寺川は4つ の異なる考え方を示している。この考え方の違いは、障害児の発達にとってコン ピュータがどのように位置づけられるかといった観点の違いによるものである。第 1は、 「障害をもつ能力を補償し代行する道具としてのコンピュータの位置づけ」. である。コンピュータは「学習への興味・関心を引き出すといった情意的側面」へ の効果があるとする。第2は、「障害児に目標とする教育内容を効果的に提示する ような、障害児と教育内容の直接的な橋渡し的役割をする効果的な道具としての位 置づけ」である。コンピュータは「子どもを学習へ強く動機づける」点において効. 果がある。第3は、教師が用いる教材・教具の選択肢の一つと捉える位置づけであ 一22一.

(27) り、コンピュータの利用を効果的な指導方法の一つとして捉えている。第4は、コ ンピュータが他の子どもや教師との相互作用を媒介し、その結果、障害児のコミュ ニケーションが拡がるとする考え方である。ただし、この場合は、子ども側の取り 組みへの主体性が前提となるため、知的障害児の場合、位置づけが困難であること が指摘されている。. これら4つの考え方を排他的な関係としてみるのではなく、障害児の発達段階や 障害の特性に応じたコンピュータの位置づけ、コンピュータ利用の方法として考え る必要があろう。. 塚本ら(1998)4)は、知的障害者向けの教育用ソフトウェアのあるべきユーザイ. ンターフェイスを明らかにすることを目的とし、健常者向けに制作されたソフトウ ェアを知的障害児に適用し、学習者の反応について調査した。その結果、障害児教 育用ソフトウェアのあるべき形態として次の6項目を挙げている。 1)キャラクターを登場させる。特に動画。 2)問題設定に幅を持たせる。 3)ゲーム形式を取り入れる. 4)絵を多く使う 5)データの入力方法としてはマウスを用い、クリック回数は1回とする 6)音声は生徒の興味を引くものを使う 知的障害児にコンピュータ利用の教材を使用する場合、健常者向けの低年齢層を 対象としたソフトウェアの中から児童生徒に適合したものを教師が選んで使用した り、教師がソフトウェアを自作することが多い。ソフトウェアのあるべき形態とし て、塚本らの指摘は多いに参考になるであろう。. 〈引用文献>. 1)寺川志奈子「障害児の発達におけるコンピュータ利用の課題」鳥取大学教育学部 教育実践研究指導センター研究年報第6号,pp.29−36,1997 2)平光紀彦「パソコンを使ったひらがなの学習一もじの習得からパソコン通信の利 用へ一」教育と情報441,pp.42−45,1994 3)富士通株式会社第二文教システム部 障害児向けコミュニケーション支援ソフト 「らくらく絵日記」,1998 4)塚本光夫・松本康裕・中山龍也・鶴田雄二「障害児教育におけるソフトウェアの ユー・・一一ザインターフェイスの調査」熊本大学教育学部紀要(自然科学)第47号, pp.95−102, 1998. 一23一.

(28) 第3章 心情表現を目指した文章表現指導 第1節 指導の概要 1.対象児 障害児学級に通心している中学3年生の男児1名。療育手帳では、軽度知的障害 児と判定されており、左足、左手に麻痺があるため、身体障害者手ee 3級(体幹機 能障害により歩行困難)である。. 生後すぐに水頭症によるシャント手術、生後6ヶ月に前頭骨早期癒合症の手術を 受けた。首座り、お座りともに遅く歩行も困難であったため、小学校2年生まで、. ボイタ法による訓練に通っていた。3歳の時にけいれん発作をおこし、中学2年生 の夏まで抗てんかん剤を服用する。. 小学校に入学後(障害児学級に通級)、2年生になっても平仮名の読み書きがで. きないという母親の主訴により、H大学での月1回の個別指導を開始した。1年ぐ らいで平仮名の読み書きはほぼできるようになったが、H大学での月1回の個別指 導を、現在も継続してうけている。. 本妻は、自分に関する出来事や心情を口頭で説明することが苦手であり、文章で 心情表現を行うこともほとんど見られなかった。家庭においても、口頭で心情を自 ら表現することはほとんどなく、 「いやだ」という表現がたまに聞かれる程度で あった。 (本誌は、発声や発音上の障害はなく、表情は=豊かである。). 中学2年忌の初めより、ワープロ専用機で文章を打つことを家庭での余暇活動と して楽しみに行っていた。ワープロで打つ文章は、小学校の国語の教科書の視写が 中心であったが、中学2年生の3学期より、日記の作成に利用している。. 2.方法 文章の中に自己の心情を表現できることを目指した指導を行う。出来事と心情を. 結びつけた構文の理解、自由に心情表現ができる場の設定という2つの側面から指 導を展開することとし、家庭での自主学習を学習場面として考える。 以下の2つの指導方法を用いる。. 1) 出来事と心情を結びつけた構文の理解を進めるために、コンピュータ利用 による自習教材を使用した指導. 一一. @24 一.

(29) 2) 自由に心情表現ができる場の設定として、コンピュータのワープロソフト を使用した日記および手紙文の作成に取り組ませる指導. 指導者は、週に1回程度本児の家庭を訪問し、課題の進み具合を確認したり、コ ンピュータの操作上の問題点の改善を図る。また、この訪問を利用して、指導者が 本曲に、日常の出来事についてロ頭で質問し、本児の会話表現の変化についても記 録する。. 3. 自習問題作成のための予備調査 1)予備テストとその結果 コンピュ・…Lタのマウスを利用して、コンピュータの画面上で心情語が適切に選べ. るのかどうか、寵児にコンピュータを操作させる上での留意点を調べるために、心 情選択問題の一部を利用した予備テストを7月初めに実施した。. 問題数は10問であり、出来事文にふさわ. しい心情語を2つの選択肢から選ぶ問題で ある(図1参照)。正答・誤答の結果は知ら. ドラえもんは、大好きなどらやきを もらいました。. せず、回答やページの移動がマウスを使用 して可能かどうかという本児のコンピュー. タ操作能力をテストした。また、本児が心 情語をどの程度選択できるのかについても 観察・記録した。. うれしかった. かなしかった. 答えを選んでクリックしてね! 図1。予備テスト問題画面. 第1問にのみ、 「大好きなどらやきをも. らったんだね。大好きなものをもらったらどんな気持ちがするかな?画面のどちら の気持ちがするのか選べたら、答えをマウスでクリックして下さい。」と問題の考 え方や答え方及びコンピュータの操作について説明を行った。 全問題を以下に示す。. 一25一.

(30) 心情語. 出来事文. 番号 1. ドラえもんは、大好きなどらやきをもらいました。. 2. のび太くんは、ママにしかられました。. 3. ドラえもんは、サイフを落としてしまいました。. 4. のび太くんは、新しいくつを買ってもらいました。. 5. ドラえもんは、大きらいなネズミに追いかけられました。. 6. のび太くんは、ほしかったプラモデルをもらいました。. 7. のび太くんは、大切なプラモデルをこわしてしまいました。. 8. のび太くんは、大きなこわい犬にほえられました。. 9. ドラえもんは、大好きなどらやきを食べました。. 10. ドラえもんは、ママのお手伝いをしてほめられました。. うれしかった. ゥなしかった うれしかった. ゥなしかった うれしかった. ゥなしかった うれしかった. 「やだった うれしかった. 「やだった うれしかった. 「やだった うれしかった. ゥなしかった うれしかった. 「やだった うれしかった. ゥなしかった うれしかった. 「やだった. 予備テストについて次のような結果が得られた。. 本児が正答した問題番号は、1,4,8,9,10の5問であった。特に、第8問 については、心情語の選択が非常に速く、答えを選んだあとも身震いしながら「き. らいやから絶対にいや。jと指導者に話していた。2,3,5,6,7の各問題に ついては、正答・誤答のどちらをも選択することができず、 「どうやったかな. あ… 」と考え込んでしまった。本児が悩みやすい性格であることも考慮し、1 分程度で回答できない場合は、指導者が次の問題に移るよう指示した。. 全体を通じて、コンピュータの操作についての戸惑いや、トラブルは特に見られ なかった。. 心情語の選択に関して、本児は自分の体験に基づいて考えており、自分の体験し 一26一.

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