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博士(工学)河野 信 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(工学)河野   信 学位論文題名

酢酸菌セルロース合成関連遺伝子群の解析 学位論文内容の要旨

    セル口ースは自然界で最も豊富に存在する生分解性の高分子材料であり、古くか ら紙や建材、繊維材料、食品添加物など広く我々の生活に利用されている。セルロースは 主に高等植物によって生産されるが、一部の微生物もセルロースを合成することが知られ ており、それはバクテリアセルロース、BCと呼ばれている。特に酢酸菌によって合成さ れたセル口ースの材料としての性質は植物由来のものにはない様々な特性を有している ことから、新規のセルロース材料として注目されている。しかしながら、酢酸菌のセル口 ース生産性は非常に低く、改善が強く望まれている。

    本論文は、酢酸菌のセルロース生産性の向上を目指し、セル口ース合成関連遺伝 子群の解 析と機能解明を詳細に行ったものであり、以下の5章から構成されている。

    第1章 は 序 論 で あ り 、 研 究 の 背 景 お よ び 本 研 究 の 目 的 を 明 ら か に し た。

    第2章 ではセ ルロース 合成関 連遺伝子群の配列解析を行った。2‑1節では、酢酸 菌ATCC23769株およびATCC53582株のセル口ース合成関連遺伝子群のクローニングおよ びシーケンスを行い、DNA塩基配列について明らかにした。配列決定領域は両菌株とも tこ6個のopen reading frameを含んでおり、上流側からCMCax(セルラーゼ)、CcpAx(機能 未知)、AxCeSAB.AxCeSC.AxCeSD(セルロース合成酵素)、BglxA(オリゴ糖加水分解酵 素)夕ンパク質をコードしていた。両菌株の推定アミノ酸配列およびDNA塩基配列には大

´きな違いが見られなかった。しかし、一部の遺伝子の発現調節部位と考えられる領域が異 なっており、実際に酵素の活性量が異なっていることを明らかにした。2‑2節では両菌株 の性質および合成されるセルロースの違いについて明らかにした。培地のpH、グルコー ス消費量、グルコン酸生成・消費量については両者で明確な違いは見られなかった。しか しながら 、ATCC53582株は非常に多量のセルロース合成し、ATCC23769株の約5倍量の セルロー スを合成したのに対して、菌体量はATCC23769株がATCC53582株の約2倍量で あることが明らかとなった。これらのことから、酢酸菌によるセル口ース合成と菌体の増 殖はお互いに相反する性質であると結論した。また、A1℃C53582株の合成したセルロース は重合度が非常に大きく、グルコースがUDPーグルコース(セルロース合成の基質物質)

に直接変換されセルロースに至る直接重合の経路を通る割合が少ないことが明らかとな った。これらのことから、両菌株のセルロース合成量の違いは、セルロース合成酵素が異 なるのではなく、セルロース合成の前駆体であるUDP‑グルコースの生成経路が異なって いるためと結論した。

    第3章 では酢 酸菌セル ラーゼ のセルロ ース合成 時にお ける機能について検討し た。3‑1節では酢酸菌ATCC23769株のセルラーゼ(CMCax)をクローニングし、大腸菌での 発現系を構築した。また、発現させたタンパク質の精製を行い、酢酸菌セルラーゼの生化 学的性質について検討した。その結果、酢酸菌セルラーゼはカルポキシメチルセルロース 分解に対する至適温度が50℃、至適pHが4.5、5糖以上のp‑i,4グルコース鎖を基質とし て認識し、p結合しているセルロースを分解したときに新たに生じる還元末端は伍アノマ ーへと転移することが明らかとなった。また、酢酸菌セルラーゼは他の一般的なセルラ一

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ゼ と は異なルセルロース結合ド メインを持たず、触媒ドメ インのみからなっていること が 明 ら かとなった。3‑2節では酢 酸菌セルラ,ーゼの分布につ いて検討した。抗CMCax抗体 を 作 製 し、免疫電子顕微鏡法にて 酢酸菌培地中でのセルラー ゼの局在を調べた。その結果 、 酢 酸 菌セ ルラ ーゼ は 菌体 の表 面に特異的に分布しているこ とが明らかとなった。3‑3節 で は 酢 酸菌セルラーゼのセルロー ス合成への影響について検 討した。培地中にごく低濃度 の 精 製 セルラーゼを添加して酢酸 菌を培養した場合、セルロ ースの合成量が約1.2倍に増 加 し た。セルラーゼ添加による セルロース合成量増加効果は培養の初期のみに見られたこと、

最 も 効率 的に グル コ ース がセ ルロ ース に なる 代謝 経路で ある直接重合の経路を通る割 合 が 増 加していたことから考えて 、セルラーゼはセルロース の合成速度を増加させている と 結 論 した。次にセルラーゼ過剰 発現酢酸菌を作製し、これ によるセルロース合成につい て 検 討 した。その結果、セルラー ゼ過剰発現株でのセルロー ス合成量は増加し、このとき 合 成 さ れた セル ロー ス ミク ロフ ィブ ルル が 野生 株と 比べて 菌体から分散して排出される 様 子 が 観察された。セルロースミ クロフィブリルの凝集は酢 酸菌セルロース合成の律速過 程 で あ ると考えられており、セル ラーゼによってセル口一ス 合成の律速が変化したために セ ル ロ ー ス の 合 成 速 度 が 増 加 し 、 セ ル ロ ー ス 合 成 量 の 増 加 に つ な がっ た と結 論し た。

    第4章 で はp‐ グ ル コ シ ダ ー ゼ の セ ル ロ ー ス 生 合 成 に お け る 機能 に つい て検 討し た 。4‑1節ではp‐グルコシダー ゼ添加培地におけるセルロ ース合成量について調べた。 そ の 結果、100 mg/l〜という比 較的高濃度添加した場合にセルロース合成量の増加が見られ、

し かも培養後期に効果がある ことが明らかとなった。この ことから、B‐グルコシダーゼは セ ル ロース合成系に直接作用し て合成量を増加させたセル ラーゼとは異なり、間接的に 作 用 して合成量を増加させたものと考えられた。本研究ではB−グルコシダーゼの糖転移反応´

に よ り生じたオリゴ糖が酢酸菌 セルラーゼの発現を誘導し 、合成量増加にっながったも の と 考 えた 。そ こで 、4‑2節 では 酢酸菌セルラーゼの誘導に ついて検討した。その結果、 ゲ ン チ オピオースを培地中に添加 したときに培地中のセルラ ーゼ活性が増大した。また、 ゲ ン チ オピ オー ス添 加 によ ってmRNAの発 現 量も 増大 したこ とから、酢酸菌セルラーゼの 誘 導 物 質はゲンチオピオースであ ることが明らかとなった。4・3節では酢酸菌の粗精製夕 ン パ ク 質での糖転移反応について 検討した。酢酸菌のタンパ ク質を菌体外・菌体内・菌体 膜 に 分 けて粗精製した。それぞれ の粗精製夕ンパク質とグル コースとを反応させ、その生 成 物 に ついて調べた。その結果、 菌体内・菌体膜のタンパク 質との反応でゲンチオピオー ス の 生 成が確認された。また、菌 体膜夕ンパク質との反応で は、ゲンチオピオース以外に も ラ ミ ナリピオース、セロピオー ス、ソフオロース、イソト レハロースの生成を確認した 。 こ れらの結果から、p‐グルコ シダーゼの機能として、糖 転移反応→オリゴ糖生成→セルラ ー ゼ の 発 現 誘 導 → セ ル ロ ー ス 合 成 量 の 増 加 、 と い う モ デ ル を 示 し た 。     第5章 は 総 括 で あ る 。 本 研 究 で は 、 酢酸 菌セ ルロ ー ス合 成関 連遺 伝 子群 の配 列に つ いて明らかにした。また、 セルラーゼおよびp‐グルコ シダーゼによる酢酸菌セルロース 合 成 量の増加機構を明らかにし た。本研究で得られた成果 は、酢酸菌によるセルロース 合 成 効率化を目指す上で重要で あり、酢酸菌セルロースの工業的生産への応用が期待される。

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授 助教授

高井 木下 棟方 上舘 惠良田

学 位 論 文 題 名

光男 晋一 正信 民夫 知樹

酢 酸菌 セルロース合成関連 遺伝子群の解析

  セ ル ロ ー ス は 自 然 界 で 最 も 豊 富 に 存 在 す る 生 分 解 性 の 高 分 子 材 料 で あ り 、 古 く か ら 紙 や 建 材 、 繊 維 材 料 、 食 品 添 加 物 な ど 広 く 我 々 の 生 活 に 利 用 さ れ て い る 。 セ ル ロ ー ス は 主 に 高 等 植 物 に よ っ て 生 産 さ れ る が 、 一 部 の 微 生 物 も セ ル 口 ー ス を 合 成 す る こ と が 知 ら れ て お り 、 そ れ は パ ク テ リ ア セ ル pー ス と 呼 ば れ て い る 。 特 に 酢 酸 菌 に よ っ て 合 成 さ れ た セ ル ロ ー ス の 、 材 料 と し て の 性 質 は 植 物 由 来 の も の に は な い 様 々 な 特 性 を 有 し て い る こ と か ら 、 新 規 の セ ル ロ ー ス 材 料 と し て 注 目 さ れ て い る 。 し か し な が ら 、 酢 酸 菌

´ の セ ル ロ ー ス 生 産 性 は 非 常 に 低 く 、 改 善 が 強 く 望 ま れ て い る 。   本 論 文 は 、 酢 酸 菌 の セ ル ロ ー ス 生 産 性 の 向 上 を 目 指 し 、 . セ ル ロ ース の合 成 量 を 左 右 す る 遺 伝 子 群 を 解 析 し 、 そ の 機 能 解 明 を 詳 細 に 行 っ た も の で あ り 、 以 下 の5章 か ら 構 成 さ れ て い る 。

  第1章 は 序 論 で あ り 、 研 究 の 背 景 お よ び 本 研 究 の 目 的 を 明 ら か に し て い る 。

  第2章 で は セ ル ロ ー ス 合 成 関 連 遺 伝 子 群 の 配 列 解 析 を 行 っ て い る 。 セ ル ロ ー ス 生 産 能 の 異 な る 2種 の 酢 酸 菌 、ATCC23769株 お よ びATCC53582株 の セ ル ロ ー ス 合 成 関 連 遺 伝 子 群 の ク ロ ー ニ ン グ お よ び シ ー ケ ン ス を 行 い 、 そ のDNA塩 基 配 列 を 決 定 し 、 両 者 のDNA塩 基 配 列 間 に は 大 き な 違 い が な い と の 結 論 を 得 て い る 。 ま た 、 両 菌 株 の 性 質 お よ び 合 成 さ れ る セ ル 口 ー ス の 違 い に つ い て 明 ら か に し 、 酢 酸 菌 に よ る セ ル 口 ー ス 合 成 と 菌 体 の 増 殖 は お 互 い に 相 反 す る 性 質 で あ り 、 生 産 量 の 違 い は セ ル 口 ー ス 合 成 の 前 駆 体 で あ るUDP‑グ ル コ ー ス の 生 成 経 路 が 異 な っ て い る た め で あ る と 結 論 し て い る 。

  第3章 で は 酢 酸 菌 セ ル ラ ー ゼ の セ ル 口 ー ス 合 成 時 に お け る 機 能 に つ い て

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検討している。はじめに、酢酸菌エンドグルカナーゼの性質について明ら かにし、in vivo での分布について明らかにしている。さらに、酢酸菌エン ドグルカナーゼのセルロース合成への影響について検討し、同酵素はセル ロースの合成速度を増加させていることを明らかにした。合成速度の増加 は、酢酸菌セルロース生合成の律速段階であるりポン化の過程を阻害し、

菌 体 か ら の セ ル 口 ー ス の 排 出 を 促 進 した た めだ と 結諭 し てい る 。    第4 章ではp ‐グルコシダーゼ添加によるセルロース生合成への影響につ いて検討している。はじめに、D ‐グルコシダーゼ添加培地におけるセルロ ース合成量増加効果について明らかにし、同酵素が間接的にセル口ース生 合成系に作用して合成量を増加させたと結論している。また、p ‐グルコシ ダーゼは糖転移反応により数種のオリゴ糖を生じ、その1 種であるゲンチ オピオースが酢酸菌エンドグルカナーゼの発現を誘導していることを明ら かにしている。さらに、酢酸菌もp ‐グルコシダーゼを発現することから、

酢酸菌の粗精製夕ンパク質での糖転移反応についても検討を行い、菌体内 および菌体膜に位置するタンパク質がゲンチオピオースを合成することを 明らかにした。これらのことから、外部から添加したp ‐グルコシダーゼの 機能として、糖転移反応→オリゴ糖生成→セルラーゼの発現誘導→セル口´

ース合成量の増加、というモデルを提案した。

   第 5 章は総括である。本研究では、酢酸菌セル口ース合成関連遺伝子群 の配列について明らかにした。また、セルラーゼおよびD −グルコシダーゼ による酢酸菌セル口ース合成量の増加機構を明らかにした。本研究で得ら れた成果は、酢酸菌によるセル口ース合成効率化を目指す上で重要であり、

酢 酸 菌 セ ル 口 ー ス の 工 業 的 生 産 へ の 応 用 が 期 待 さ れ る 。

   これを要するに、著者は、酢酸菌セルロース生合成の効率的な合成方法

およびその機構について解明したものであり、高分子化学と材料工学の発

展に貢献すること大なるものがある。また、持続可能なセル口ース資源の

保全の観点からも重要である。よって著者は、北海道大学博士(工学)の

学位を授与される資格があるものと認める。

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