博 士 ( 理 学 ) 西 田 純 一
学位論文題名
Hexaarylethane Derivatives and Related Compounds:
Dynamic Redox Behavior and Electrochromism
(ヘキサアリール工夕ン誘導体と関連化合物:
動的 酸化還元挙動とエレクトロクロミズム)
学位論文内容の要旨
光、熱、電場などの外部からの刺激に対して、その物性値を大きく変える分子は、応答性 分子として利用することができる。最近では、キロオプティクス材料のように光による入カ に対し、二つ以上の物性値の変化を出カとする系が注目を集めている。一方、電場の変化で 入カする系は、多くの場合電子移動の過程で構造変化が小さいため、十分な双安定を有した 応答系を構築することは困難である。大きな構造変化が引き起こされるカテナンのような超 分子を用いたアプローチはこの問題を解決しているが、応答の速度という観点では単分子を 用いたほうが優れている。高い電気化学的双安定性を有する単分子応答系は、可逆な結合の 形成と切断を伴うような動的な酸化還元系を用いることで達成され得る。今までに数少ない 例が報告されているが、C‑C結合の可逆な形成や切断を伴い、強カな発色団を発生させてエ レクトロクロミズムを示す系は報告されていない。これらの背景を踏まえ、ヘキサアリール エタン誘 導体1とビス (トリアリールメタン)型ジカチオン
22+
に代表される新しい酸化還 元系をデザインした(スキーム1)。1は嵩高いアリール基のために中心のエタン結合が伸び、電子移動を引き金にして解裂することが期待される。分子はアリール基が正電荷を非局在化 させるように構造変化し、古くから染料として知られているトリアリールメチルカチオンが 分 子内に発現する。本研究は、電位によって入
カされる情報が、分子構造、色、旋光度の変化、
又 は気体分子の捕獲特性などの興味深い機能を 伴 った出カに変換できることを示している。本 論 文 は 以 下 の 四 章 で 構 成 さ れ て い る 。
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第一章で は、ビフェニル骨格を含むエタン1とジカチオン22゛が可逆な
C‑C
結合の解裂と 形成を起 こす酸化還元対となることを示した。これらのX
線構造解析を行い、エタン1
はビ フェニルを含む面がほば平面であるが、ジカチオン22゛では、ビフェニルの軸を中心にして大 きくねじれていることが明らかになった。大きな構造変化は、酸化還元電位の大きなヒステ−201ー
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学位論文審査の要旨
主 査
教 授 辻 孝
副 査教 授
村 井 章 夫 副 査
教 授
宮 下 正 昭 副 査
助 教 授
鈴 木 孝 紀
学位論文題名
Hexaarylethane Derivatives and Related Compounds:
Dynamic Redox Behavior and Electrochromism
( ヘ キ サ ア リ ー ル 工 夕 ン 誘 導 体 と 関 連 化 合 物 : 動 的 酸 化 還 元 挙 動 と エ レ ク ト ロ ク ロ ミ ズ ム )
近年 、可 逆な 酸化還元挙動を示す有機分子は、分子素子や 応答系の構築という観点から興味が 持たれているが、既存の 系では応答機能に不可欠な双安定性に欠けるという難点がある。著者は、
電 子移 動に 際し て共有結合の形成や切断が併発する新規な物 質を開発し、それらが高い双安定性 を 有し 、電 位に よって入カされた情報が分子構造、吸収スペ クトル、旋光度の変化、酸素分子の 捕 獲 と 放 出 な ど の 興 味 深 い 機 能 を 伴 っ た 出 カ に 変 換 で き る こ と を 示 し た 。
本論 文は
4
章 から 構 成さ れて おり 、第1
章 では ジ ヒド ロフ ウナ ント レン骨格を有する新規なへ キ サア リー ル工 夕ン型化合物を合成し、可逆なC−C結合の切 断と形成を伴ってピス(トルアリー ル メチ ル) ジカ チオ ンと 相互 変換 でき るこ とを明らかにした。分子構造の変化をX線結晶構造解 析 によ り、 双安 定性については電気化学的測定により解析し 、さらに電解条件下での紫外可視吸 収 スペ クト ルの 測定からこれらが可逆なクロミズム系となる こと、また、置換基によって様々な 発 色が 可能 であ るこ とを 明ら かに した 。第2
章では、カチオ ンラジカルでの不均化を抑制するた め 非対 称形 の誘 導体 を合 成し 、そ の電 気化 学的挙動の解析から結合解裂は1電子酸化後に、結合 形 成は2
電 子還 元後 に 起こ るこ とを 明ら かに した 。続 く第3
章で は、 軸不斉を有するピナフチル 骨格を導入したジカチオ ンについて検討を行い、ジヒドロ[5]ヘリセン型化合物との電気化学的な 相 互変 換に よっ て紫外可視吸収スベクトルの変化ばかりでな く、円二色性スベクトルに大きな変 化 が誘 起さ れる ことを示し、電位の入カによってキ口オプテ イカルな出カが生じる応答系の構築 に 成功 した 。第4
章 で は、 さら に、 ジフ ェニルエーテル骨格 をもっジカチオンが、その還元に伴 っ て酸 素分 子を 取り 込ん だ9員 環状 過酸 化物を与え、再酸化 すると可逆的に酸素を放出してジカ チ オン を再 生す ることを見い出し、酸素の吸収―放出機能と エレクト口クロミズム機能を合わせ 持つ系の開発に成功した 。以上 のよ うに 、著者は電位によって入カされた情報が分子 構造、吸収スペクトル、旋光度の変 化 、酸 素分 子の 捕獲と放出などの興味深い機能を伴った出カ に変換できる新規化合物の開発に成
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功すると共に、その変換過程の詳細を明らかにしており、広く関連分野の化学に貢献するところ 大なるものがある。
よって著 者は、北 海道大学 博士(理 学)の学 位を授与さ れる資格あるものと認める。
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