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(1)

ASTRO-E

衛星搭載 井戸型フォスイッチカウンタの

地上最終試験による性能評価

東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻

内山 泰伸

(2)
(3)

Contents

1 はじめに 7

2 Hard X-ray Detector (HXD) 11

2.1 HXDの構成 . . . 11

2.2 HXD-S . . . 12

2.3 GSO/BGOフォスイッチカウンタ . . . 14

2.4 GSO/BGO 結晶 . . . 15

2.5 フォスイッチカウンタの分解能 . . . 16

2.6 井戸型検出器の信号処理 . . . 18

2.6.1 HXD-AEの特徴 . . . 18

2.6.2 フォスイッチカウンタの信号処理 . . . 19

2.7 波形弁別回路による事象選別. . . 20

2.8 ヒットパターンによる事象選別 . . . 21

3 Geant4による検出器応答のモデル化 23 3.1 検出器の応答関数 . . . 23

3.2 応答関数の構築 . . . 23

3.3 Geant4 . . . 24

4 GSO結晶の光量のエネルギー依存性 25 4.1 実験の目的 . . . 25

4.2 実験の方法 . . . 25

4.3 データ解析と結果 . . . 26

4.3.1 エネルギースペクトル . . . 26

4.3.2 各々の増幅率でのエネルギー光量関係 . . . 26

4.3.3 増幅率の補正 . . . 28

4.3.4 各測定の比較 . . . 29

4.4 GSO結晶の電子応答と光子応答 . . . 31

4.4.1 光子応答. . . 31

4.4.2 入射光子エネルギーと光量 . . . 33

4.4.3 電子応答. . . 34

4.4.4 241 Am 59.5 keVのラインγ線に対する応答 . . . 35

4.4.5 GSO結晶の光子応答関数 . . . 35

4.5 結晶の分解能 . . . 37

5 GSO結晶シンチレータのγ線応答 41 5.1 5mm厚のGSO結晶の透過率 . . . 41

5.2 シミュレーションの条件 . . . 41

5.3 実験との比較 . . . 42

5.4 エスケープピーク . . . 44

(4)

4 CONTENTS

6 HXD最終全系試験 49

6.1 実験のセットアップ . . . 49

6.2 事象の選別 . . . 49

6.3 GSO結晶の特性 . . . 50

6.3.1 エネルギーと波高値の関係 . . . 50

6.3.2 エネルギー分解能. . . 53

6.4 BGO結晶の特性 . . . 53

6.5 Fast-Slow 2次元ダイアグラムの特性 . . . 55

6.5.1 GSO/BGO直線の拡がり. . . 55

6.5.2 2次元ダイアグラムでの領域選択 . . . 57

6.6 検出器のパラメータ . . . 59

7 井戸型フォスイッチカウンタのγ線応答 61 7.1 Geant4のジオメトリ . . . 61

7.2 検出器特性の組み込み . . . 61

7.2.1 Fast/Slow整形波高値 . . . 62

7.2.2 ヒットパターン信号 . . . 64

7.3 Fast-Slowダイアグラムによる事象選別 . . . 64

7.4 ヒットパターン信号による事象選別 . . . 65

8 まとめ 71 A 最終較正実験の結果 73 B 物理相互作用 83 B.1 光子と物質の相互作用 . . . 83

B.1.1 γ線光子の物質中での減衰 . . . 83

B.2 荷電粒子と物質の相互作用 . . . 84

C Geant4 87 C.1 Range . . . 87

C.2 電磁相互作用の低エネルギー拡張 . . . 88

C.2.1 Geant4標準電磁相互作用モデル . . . 88

C.2.2 Geant4低エネルギー拡張電磁相互作用モデル . . . 88

C.3 シミュレーションに用いたクラス . . . 89

(5)

List of Figures

1.1 ASTRO-E衛星と硬X線検出器HXD. . . 9

2.1 HXDのシステム構成 . . . 11

2.2 連続成分に対するHXDの検出感度 . . . 13

2.3 ライン成分に対するHXDの検出感度 . . . 13

2.4 HXD-Sの概念図. . . 13

2.5 アンチ検出器1面の有効面積とCGRO BATSE1ユニットの比較 . . . 14

2.6 井戸型フォスイッチカウンタ1ユニットの構造. . . 15

2.7 井戸型検出器の信号処理の流れ . . . 19

2.8 GSO信号のFast/Slow整形の波形. . . 20

2.9 BGO信号のFast/Slow整形の波形 . . . 20

2.10 Fast-Slow 2次元ダイアグラム . . . 21

2.11 ユニットIDの定義とヒットパターンに用いるユニットの例 . . . 22

4.1 GSO光量非線形性測定のセットアップ . . . 26

4.2 線源を当てたときのエネルギースペクトル(PMT HV=970V) . . . 27

4.3 線源を当てたときのエネルギースペクトル(PMT HV=850V) . . . 27

4.4 線源を当てたときのエネルギースペクトル(PMT HV=760V) . . . 28

4.5 133 Ba31 keV測定スペクトル(a)とシミュレーションスペクトル(b) . . . 29

4.6 エネルギーと波高値の関係(14-662 keV) . . . 30

4.7 エネルギーと波高値の関係(14-122 keV) . . . 30

4.8 測定毎の光量のエネルギー依存性の比較 . . . 31

4.9 エネルギーと相対光量の関係(1次関数) . . . 32

4.10 GSO結晶の光子応答曲線 . . . 32

4.11 GSO結晶で仮定した電子応答(a)とそこから予想される光子応答(b) . . . 34

4.12 241 Am59.5 keV ピークを2つのガウシアンでフィット . . . 36

4.13 測定3の光子応答とフィットで求めたモデル関数 . . . 36

4.14 光量に対する GSO# 1の分解能. . . 37

5.1 GSOの透過率の比較 . . . 42

5.2 Geant4シミュレーションのジオメトリ . . . 43

5.3 吸収エネルギーの分布(a)と光量の分布(b) . . . 43

5.4 実験データとGEANT4の比較(109 Cd,241 Am,57 Co) . . . 46

5.5 実験データとGEANT4の比較(133 Ba,137 Cs) . . . 47

5.6 GSO Gd-K エスケープ確率 . . . 48

5.7 シミュレーションによる GSO全吸収効率 . . . 48

6.1 実験のセットアップ . . . 50

6.2 エネルギーと波高値の関係 (W00) . . . 51

6.3 Slow整形波高値から求めた全ユニットのGSO結晶光子応答曲線 . . . 52

6.4 GSO Slow波高値とFast波高値の直線関係 . . . 52

(6)

6 LIST OF FIGURES

6.5 GSO Slowエネルギー分解能(W30). . . 53

6.6 GSO Slowエネルギー分解能の分布 . . . 53

6.7 GSO Fastエネルギー分解能(W30) . . . 54

6.8 GSO Fastエネルギー分解能の分布 . . . 54

6.9 BGO エネルギー波高値関係 (W33) . . . 55

6.10 BGOエネルギー分解能(W33) . . . 55

6.11 Fast-Slow 2次元ダイアグラムの摸式図 . . . 56

6.12 GSO直線の拡がり . . . 57

6.13 BGO直線の拡がり . . . 57

6.14 選択する2次元領域(σ = 2) . . . 58

7.1 井戸型検出器(PINとGSO) . . . 66

7.2 井戸型検出器(ファインコリメータ). . . 66

7.3 アンチ検出器(サイド) . . . 66

7.4 アンチ検出器(コーナー) . . . 66

7.5 HXD全ユニット . . . 66

7.6 実測の2次元ダイアグラム . . . 67

7.7 シミュレーションの2次元ダイアグラム . . . 67

7.8 Geant4と実験の比較(GSO)22 Na 線源 . . . 67

7.9 Geant4と実験の比較(BGO)22 Na 線源 . . . 67

7.10 Geant4と実験の比較(GSO-BGO Compton)22 Na 線源 . . . 68

7.11 ヒットパターンによるコンプトン抑制(W3122 Na 線源の照射) . . . 68

7.12 ヒットパターンによる事象除去(シミュレーションと実験) . . . 69

7.13 Geant4と実験の比較(GSO)133 Ba線源の照射 . . . 69

A.1 Slow整形波高値のエネルギー分解能(W00-W13) . . . 74

A.2 Slow整形波高値のエネルギー分解能(W20-W33) . . . 75

A.3 Fast整形波高値のエネルギー分解能(W00-W13). . . 76

A.4 Fast整形波高値のエネルギー分解能(W20-W33). . . 77

A.5 BGO結晶の線形性(W00-W13) . . . 78

A.6 BGO結晶の線形性(W20-W33) . . . 79

A.7 BGO結晶のエネルギー分解能(W00-W13) . . . 80

A.8 BGO結晶のエネルギー分解能(W20-W33) . . . 81

B.1 Photon Cross Section from XCOM[3] . . . 84

(7)

Chapter 1

はじめに

地上には、非常に高いエネルギーの宇宙線が降り注いでおり、中には1個の粒子あたり1020

eVと

いう想像を絶するエネルギーに達するものも存在する。宇宙にはこうした宇宙線を作り出す「巨 大加速器」が存在し、その中で粒子が非常に高いエネルギーにまで加速されると考えられている。 この宇宙の「巨大加速器」による加速は非熱的な放射をともなうため、その正体を研究するため

にはX線領域ばかりではなく数10 keVから数100 keVという硬X線・γ線の観測が重要である。

宇宙科学研究所第19号科学衛星ASTRO-Eは、「はくちょう(1979年)」「てんま(1983年)」、

「ぎんが(1987年)」、「あすか(1993年)」に続く、我が国5 番目のX線天文衛星として、2000年

2月の打ち上げが予定されている。このASTRO-E衛星には、日本ではじめて宇宙での硬X線・γ

線の観測を行うために硬X線検出器(Hard X-ray Detector, HXD)が搭載される。我々はHXD及

び同時に搭載される軟X線検出器によって0.4−600 keVの広いエネルギー帯で宇宙を観測するこ

とで、宇宙における加速現象がどこで、どのように行われているのかを探査し、その起源と加速 の機構を探ることを主要な目的の一つとしている。

ASTRO-E衛星は宇宙科学研究所のM-V 4号ロケットにより、近地点高度200 km、遠地点高

度500 kmの楕円軌道に投入され、その後直ちに搭載二次推進系により高度約550 kmの略円軌道

へ修正される。ASTRO-E衛星は直径 2.1 m、全長 6.5 m(軌道上での鏡筒伸展後)の大きさと、

1600 kgを超える衛星重量を持つ、宇宙科学研究所としてはこれまでにない大型衛星である。

搭載される検出器は、X線マイクロカロリーメータXRS(X-Ray Spectrometer)・X線CCDカ

メラXIS(X-ray Imaging Spectrometer)・硬X線検出器HXD(Hard X-ray Detector)の3種であり、

XRSと XISはX線反射望遠鏡XRT(X-Ray Telescope)の焦点面に置かれる。XRTは「あすか」

のX線反射望遠鏡よりも高い位置分解能( 2 arcmin)と大きな有効面積(200 cm2

@6.4keV)

を持つ。

XRS(0.4 - 10 keV)は初の衛星搭載X線マイクロカロリーメータであり、X線の吸収による素

子の温度上昇を利用することによりX線のエネルギーを非常に高い分解能で(12 eV FWHM)

測定できる。特に「あすか」による数々の発見をもたらしたFe K-X線付近の分光観測では史上最

高の能力を有する。XRSは極低温で性能を発揮し得るので、液体ヘリウムのデュワーの中に置か

れて断熱消磁冷却器で0.06 K にまで冷やされる。

XIS(0.4 - 10 keV)は4台のX線CCDカメラであり、暗電流を抑えることによりエネルギー

分解能 130 eV(FWHM @5.9keV)を持つ。XRSはピクセル数が36であり十分な撮像能力を持

たないがピクセル数1024×1024のXISはそれを補うことになる。

そしてHard X-ray Detector (HXD)は、徹底的な低バックグラウンド設計により非常に高い感

度で宇宙を観測する硬X線/γ線検出器である。我々は、この検出器によって10 keV以上のエネ

ルギー域でこれまでにない高感度を達成し、硬X線から軟γ線の天体観測をX線に比肩する域に

まで押し上げることで、新しい分野を開拓することを目指す。我々のグループは1994年頃からこ

のHXDの開発に取り組んできた。多くの難問を解決しながら作業が進められ、最終的に衛星搭載

用検出器の完成をみたのが1999年の1月である。その後、約1年間にわたって地上較正実験が行

われ、打ち上げ後、直ちに本格的な観測ができるよう準備がなされている。

本論文は HXD全系での地上最終較正試験や、単体での較正試験に基づくものである。検出器

に使用されるガドリニウムシリケート(GSO:Gd2SiO5:Ce 0.5% mol)シンチレータの評価と応答

(8)

8 CHAPTER 1. はじめに

関数の研究を中心にまとめる。GSO結晶は最近開発された無機シンチレータである。従来用いら

れてきたNaI(Tl)やCsI(Tl)などの無機結晶シンチレータと比較して、エネルギーに対する光量の

線形性が良いこと、γ線阻止能が大きいため検出器を小型化できること、軌道上で放射化しにく

いこと、潮解性がなく安定なこと、などの様々な特長を持つ。一方で歴史の浅い結晶シンチレー

タであるために、GSO結晶は入射γ線に対する光量のエネルギー依存性などの検出器として用い

るために必要な基本的な特性が十分に調べられていない。

GSOシンチレータは、HXDの主たる検出器である井戸型フォスイッチカウンタの検出部に使

用されている。したがってその特性を如何に正確に把握するかが、HXDの性能を発揮するための

鍵を握る。更に、検出器の応答を正確に理解するためには、物理素過程と検出器の形状をできる かぎり正確にとりこんだシミュレーションコードを開発し、較正試験の結果と十分に比較するこ とが重要である。

本論文では、最初にHXDの概要をまとめ(§2)、§4でGSO結晶の特性を調べる実験を行ない、

吸収エネルギーと光量の関係の非線形性を研究する。シミュレーションコード開発の第一段階と

して§5ではGSO結晶単体の応答をシミュレートすることを行なう。そして、§6で地上最終較正

実験の結果をまとめ、最後に§7で衛星搭載の井戸型フォスイッチカウンタの応答を、開発した検

(9)

9

(10)
(11)

Chapter 2

Hard X-ray Detector (HXD)

2.1

HXD

の構成

ASTRO-E衛星に搭載されるHard X-ray Detector (HXD)は、徹底的な低バックグラウンド設計に

より過去最高の感度で宇宙を観測する硬X線/γ線検出器である。HXDは、センサー部(HXD-S)、

アナログ回路部(HXD-AE)、デジタル回路部(HXD-DE)、電源部(HXD-PSU)、およびインター

フェース部(HXD-PIM)の5つの部分から構成される。図 2.1に全体の構成を示す。

HXD-Sは半導体および結晶シンチレータを用いた硬X線検出器部であり、硬X線/γ線を検出

するたびに、電気的なアナログ信号パルスをHXD-AEに向けて送り出す。HXD-AEはHXD-Sから

の信号をハードウェア的に処理する電子回路部分である。個々のアナログパルスに対して、増幅、

整形、A/D変換などを行ない、その波高や到着時間などに対応したデジタルデータを生成する。

またHXD-AEはHXD-Sに電源を供給し、その制御を行なうほか、イベント数、温度、電圧などの

ハウスキーピングデータも生成する。HXD-DEはCPUを用いた信号処理部分であり、HXD-AEか

ら同期または非同期でデジタルデータを受け、データの選別、圧縮、並べ替えなどのソフトウェア

処理を行なう。その結果はパケット形式に編集され、衛星のデータ処理装置(DP)に向けてデー

タパケットとして送出される。さらにHXD-DEは衛星システムからコマンドを受けて解読し、必

要に応じてそれをHXD-AEに転送する役割ももつ。

Differential Single End Power Line 16 20 HV Temp Sensor HXD-S HXD-AE HXD-DE DP PIM PSU ACU TPU WPU Well Counter Anti Counter Signal Signal Control Monitor Command Command Data Data Control Data Data HK Command Command Time Latch

AE,HV-Status Bi-level Status

Astro-E HXD Block Diagram Overall Structure

---Figure 2.1: HXDのシステム構成

(12)

12 CHAPTER 2. HARD X-RAY DETECTOR (HXD)

2.2

HXD-S

図2.4にHXDのセンサー部(HXD-S)の外観を示す。HXD-Sは4×4のマトリックス状に組み合

わせた独立な16ユニットの井戸型検出器から構成されている。井戸型検出器はGSO結晶とBGO

結晶を組み合わせた井戸型フォスイッチカウンタとその井戸の中に埋め込まれたシリコンPIN検

出器とからなる。16本のユニットは、その外側をBGO結晶を用いたアンチ検出器20本によって

囲まれ、HXD-Sは全体で36本のユニットから構成される。1つのユニットは周りを8本の検出器

で囲まれることになる。新しい工夫は、従来のフォスイッチカウンタの遮蔽部を深い井戸型にし た点(井戸型フォスイッチカウンタ)と、大面積をシンチレータの大型化でなく、光電子増倍管に 合わせた小ユニットを複眼状に集めることで達成した点にある(複眼型構成)。この二つの工夫に

より、アクティブなコリメータで視野を狭くしたまま大面積化を果たしている。HXD井戸型検出

器の基本性能を表2.1 に示す。

HXDは BGO結晶の井戸(Well)により視野4◦.6×4.6 のアクティブコリメータを持つが、

低エネルギー領域では宇宙背景X線放射や背景天体からのX線の混入により感度が制限されしま

う。そこで燐青銅でできたパッシブなコリメータ(ファインコリメータ)をBGOの井戸に挿入す

ることにより、その視野をさらに 1/8の0◦.56×0.56 にまで絞る。

井戸型検出器は、多数のユニットを複眼型に並べることで有効面積を拡大している。またコン プトン散乱や放射性同位元素の崩壊によるバックグラウンドを大幅に抑制したユニットを密に集 めることで、互いにアンチカウンタとして働かせることができる。これによっても遮蔽効果をさ らに高めることが可能となる。

従来の衛星搭載用γ線検出器にみられるように、大きな主検出部のまわりをアクティブシール

ドで囲む方式では、検出器の有効面積を拡張しようとした場合に遮蔽部の計数率が増え、システ ム全体の不感時間が大きくなる。これに対して複眼型の検出器は一つ一つのユニットが完全に独 立に処理されるために、不感時間を増やすことなくシールドの効果をあげることが可能である。

Energy Range 10–600 keV

Energy Resolution(GSO) ∼9% (FWHM) @ 662 keV Energy Resolution(PIN) 3.5 keV (FWHM) @ 10–40 keV Effective Area 160cm2

(<30 keV), 330 cm2

(>40 keV)

Field of View 0◦.56×0◦.56 (<100 keV), 4◦.6×4◦.6 (>200 keV) Background Rate (15)×10−5

c sec−1 cm−1

keV−1 Time Resolution normally 61 µsec (30.5µsec on condition)

Table 2.1: HXDの基本性能

外側の井戸型検出器に対しても十分なシールド効果が得られるように、井戸型検出器の周囲は

厚いBGO結晶で作られたアンチ検出器20ユニットによって囲まれている。井戸型フォスイッチ

カウンタのBGO結晶と合わせて、主検出部はその周りを 4π [str] に近い立体角でシールドされ

ることになる。

HXDの3σ 検出感度を、連続成分に対して図2.2に、ライン成分に対して図 2.3に示す。HXD

は上述のような様々な新しい工夫により、185.4 kg(HXD-S)と小型ながら従来のγ線検出器を

凌ぐ高い検出感度を有する。

アンチ検出器は、互いに直交した広い面積をもつ厚いBGO (平均で2.6 cm厚) の壁として、

井戸型検出器に対する放射線アクティブシールドの役割を果たす。図2.5に示すように、アンチ検

出の有効面積は一面あたり(サイドユニット4本を用いるとき)800 cm2にもなり、厚い

BGO

結晶は 1 MeVでも∼400 cm2の面積を有する。従ってアンチ検出器は、非常に優れた

γ線バー

スト検出器となる。特に 300 keV以上ではCGRO衛星 BATSEを凌ぐ有効面積を持つ。また地没

(13)

2.2. HXD-S 13

Figure 2.2: 連続成分に対するHXDの検出感度Figure 2.3: ライン成分に対するHXDの検出感度

8

Well Unit

60 25.525.5 4

320

380mm

Figure 2.4: HXD-Sの概念図

X/γ線のエネルギーを計測するPINダイオードとGSO結晶がBGO結晶の井戸型

シールドの奥に配置されている(井戸型検出器)。1つの井戸型検出器はそれぞれ4つ

の井戸を持つ。井戸の開口部を目標とする天空上の位置へ向けて観測する。井戸の長

手方向がHXD-Sの光軸である。井戸型検出器16ユニットは4×4 に配置され、その

(14)

14 CHAPTER 2. HARD X-RAY DETECTOR (HXD)

Figure 2.5: アンチ検出器1面の有効面積とCGRO BATSE 1ユニッ

トの比較

2.3

GSO/BGO

フォスイッチカウンタ

図2.6に井戸型検出器ユニットの詳細を示す。井戸型検出器の重量の大部分を占めるのは、BGO結

晶による放射線アクティブシールド部であり、これはボトム(Bottom)部と田の字の断面(光軸に垂

直な断面)をもつ細長い井戸(Well)部とから成る。ボトム部は光電子増倍管と接合される。BGO

結晶の作る4本の井戸のそれぞれの底には、2 mm厚のシリコンPIN型フォトダイオードを用いた

半導体検出器(以後PIN検出器と略す)と、5 mm厚のGSO結晶シンチレータ(24mm×24mm)

とが、縦積みで置かれる。低エネルギーのX線は PIN検出器により検出され、高エネルギーの

X線はPIN検出器を通過してGSOシンチレータにより検出される。後述するように、井戸型の

BGO結晶を反同時計数に用いることにより、観測する視野外からX/γ線や宇宙線などのバック

グラウンド事象を効果的に抑制できる(アクティブシールド)。井戸型検出器ユニットの重量は1

本あたり3.78 kg である。

GSO結晶に入射したX線光子は、主にガドリニウム(Gd:Z=64)との光電効果あるいはコンプ

トン散乱によってエネルギーを失う。結晶で吸収されたエネルギーは光量(シンチレーション光子

の数)に変換される。一方でアクティブシールドであるBGO結晶でX/γ線光子が吸収された場合

もシンチレーション光が生成される。GSO/BGO結晶で発生したシンチレーション光はともに1

つの光電子増倍管(PMT:Hamamatsu R6231-07)で電子パルスに変換される。(このように異なる

結晶からのシンチレーション光を共通のPMTで読み出すことをフォスイッチ構成と言う。)PMT

のアノード電流信号は4 mの同軸ケーブルによって直接HXD-AEに送られて高速トリガーに用い

られる。最終ダイノード信号は荷電増幅型プリアンプにより電圧信号に変換された後に HXD-AE

に送られる。パルス波高は吸収エネルギーにほぼ比例しエネルギー計測に用いられる。シンチレー

ション光の減衰時定数は −20℃でおよそGSOが122 nsec、BGOが706 nsecであり[20]、この

違いにより、純粋なGSO事象(GSOのみに入射光子がエネルギーを与えた事象)を光子や荷電

粒子がエネルギーをBGOに与えた事象から弁別する(波形弁別による事象選択§2.7)。この弁別

によって、結晶を荷電粒子がつき抜けた事象や、GSOとBGOの間でコンプトン散乱した事象を

棄却できる。また井戸型検出器それぞれを囲う8ユニットをアクティブシールドとして働かせる

ことによってもバックグラウンド事象の抑制を行なうことができる(ヒットパターンによる事象

選択 §2.8)。このようにHXD の井戸型フォスイッチカウンタは、

(15)

2.4. GSO/BGO 結晶 15 Plastic ring BGO GSO 24x24x5 5 12.85 Groove for cables 3 3

2.5 52 Fine collimater

Reny Skirt PIN diode assembly

Mu-metal with aluminum ring

Reny Cap

Thickness of BGO 3.0

320.0 60.0 BGO well width 25.5 60.0 Reny Hanenite/Rubber 53.5 3 3 15.0 47.5 +/-0.05 60.0 45.0 52.0 +/-0.05 62.0 12.25 Reny Skirt Reny Ring BGO Bottom 5.5 4 4.4 1.5 63 3.0 Reny Cap-2 Reny Cap-1 BGO Well 2.82 CFRP GSO 24.0 25.5 5.0 50 1.7mm 0.2mm 0.5mm 24.0 24.0 A A' A-A' Cr Wire feed-thru GSO

Figure 2.6: 井戸型フォスイッチカウンタ1ユニットの構造

• 各ユニット内での反同時計数

• 隣接ユニット間での反同時計数

により徹底的にバックグラウンド事象を除去し、過去最高の感度を実現する硬X線/γ線検出器で

ある。

2.4

GSO/BGO

結晶

γ線領域での天体観測が進められてこなかった主な理由は、バックグランドが天体からの信号を圧

倒するためである。数100 keVになると、本来信号となるべき観測対象からの硬X線も、全エネ

ルギーを検出器に与える確率は少なく(すなわちコンプトン散乱が多く)、低エネルギー領域にお

けるバックグランドとなってしまう。今まではNaI(T l)/CsI(T lあるいはN a)のフォスイッチ構造

をとることで、コンプトン散乱によるバックグランドをある程度まで抑制してきた。しかしこれ

も不十分な上、NaI(T l)中の沃素が放射化することによる検出器内在のバックグランドが大きな障

害となっていた。

HXDではこれらのバックグラウンドを最大限に抑制し、かつコンパクトな検出器にするために

• エネルギーに対する光量のリニアリティが良い(GSO)

• Z が大きくγ線阻止能に優れる(BGO/GSO)

• 軌道上で放射化しにくい(GSO)

• 潮解性がない(GSO/BGO)

• 低温(−20℃)で波形弁別がしやすい

の観点から最近開発されたGSO結晶を主検出部とし、それと組み合わせる結晶としてBGO結晶

(16)

16 CHAPTER 2. HARD X-RAY DETECTOR (HXD)

GSO(Ce) BGO NaI(Tl) CsI(Tl) Chemical formula Gd2SiO5 Bi4Ge3O12 NaI CsI Effective Atomic Number 59 74 51 54 Density[g/cm3

] 6.71 7.13 3.67 4.51 Radiation length X0[cm]† 1.38 1.12 2.59 1.85 Decay Constant[ns](%)♯ 58(68%) 82(5%) 230 700

745(27%) 744(95%) Effective Decay Constant[ns]♯ 122 706

Peak Emission[nm] 430 480 415 560 Light Yield (relative) 35 18 100 145 Index of Refraction 1.85 2.15 1.85 1.80 Hygroscopic None None Strong Slight Radiation Hardness‡ 109

105−7

103

106−7

†…90% absorption at 511 keV ♯…Around -20℃for GSO,BGO [20]

‡…Against low energyγ-ray

Table 2.2: 結晶シンチレータの特性の比較

2.5

フォスイッチカウンタの分解能

天体から放射される硬X線・γ線のエネルギースペクトルを正確に決定し、ラインγ線を検出する

ためには高いエネルギー分解能を持つことが重要である。ここで結晶シンチレータのエネルギー 分解能がどのように決まるかを考える。結晶に吸収されたエネルギーからパルス波高値への変換 の間にさまざまな確率過程が関与し、一定の吸収エネルギーに対しても波高値は揺らぐことにな る。この波高値の揺らぎによりエネルギー分解能が規定される。ここでは結晶シンチレータを光

電子増倍管で読み出すことを考える。入射γ線がエネルギーEγ を結晶に与えた場合に最終ダイ

ノードパルス中に含まれる電荷 Qは、

Q=MΞL (2.1)

で与えられる。ここで、

• L: 発生するシンチレーション光子数(光量)

• Ξ: シンチレーション光子が光電子となって第1ダイノードに入射する割合(伝達効率)

• M: 第1∼最終ダイノードでの増幅率

とした。それぞれの過程は独立だと考えられるので、Q の相対分散はそれぞれの相対分散の和と

なる。

µQ

Q

¶2

=

µL

L ¶2 + µ∆Ξ Ξ ¶2 +

µM

M

¶2

(2.2)

以下で各項について考える。

シンチレーション光子数 シンチレーション光子数は基本的にはポアソン統計に支配されると考え

られるが、結晶の光量の非線形性(§4)や結晶の光量の位置依存性による揺らぎも存在する。

このような結晶内在の揺らぎを R2

int とすると、

µL

L

¶2

= 1 L+R

2

int (2.3)

(17)

2.5. フォスイッチカウンタの分解能 17

伝達効率 伝達効率は多くの過程が組み合わさったものであり、例えば(1)シンチレーション光子

の結晶の透過率(2)光電面での量子効率(3)第1ダイノードの収集効率などが考えられる。

あるシンチレーション光子の伝達効率を ξi とすると、伝達効率の揺らぎは到達するかしな

いかの2項過程と考えれば、

µξ

i

ξi

¶2

= 1−ξi ξi

(2.4)

となる。Ξは、ξi のシンチレーション光子 L 個に対する平均である。

Ξ = 1 L

L

X

i=1

ξi (2.5)

ξ1, ξ2,…ξL は互いに同等な独立過程とみなせるので、

µ∆Ξ

Ξ

¶2

= 1 L

µξ

ξ

¶2

(2.6)

= 1−ξ

ξL (2.7)

= 1 N −

1

L (2.8)

となる。ただし N =ξL は(ダイノード入射する)光電子の総数である。

ダイノード増幅 ある1個の電子が叩き出す2次電子数δ の相対分散が、

µδ

δ

¶2

= F

δ (2.9)

であるとする[12]。ここでF は定数で、ポアソン統計のときにはF = 1 である。第k段に

入射する電子は N δk−1 個であるからこの段での相対分散は、

F

N δk (2.10)

である。ダイノード増幅 M は各段での独立な増幅の積(n回とする)であるから、

µM

M ¶2 = F N n X k=1 µ1 δ ¶k ∼ F

N(δ1) (2.11)

以上を (2.2)に代入すると、

µQ

Q

¶2

∼ 1

L +R 2 int+ 1 N − 1 L + F

N(δ1) (2.12)

= 1 N +R

2

int+

F

N(δ1) (2.13)

右辺第1項は光電子のポアソン統計を表し、第2項は結晶内在の揺らぎを、第3項はダイノード

増幅における揺らぎを記述している。

理想的な R2

int= 0 の場合は、

µQ

Q

¶2

= 1 +F/(δ−1)

(18)

18 CHAPTER 2. HARD X-RAY DETECTOR (HXD)

パルス波高値 P H がQ に比例し、またP H =GN であるなら、

Energy Resolution ∆EF W HM

E ≡ 2.35 ∆P H

P H (2.15)

= 2.35√G

s

1 +F/(δ1)

P H (2.16)

すなわち、

∆P H

P H ∝P H

−0.5

(2.17)

という関係があることになる。さらにP H が吸収X線エネルギー E に比例するならば

∆E E ∝E

−0.5

(2.18)

となる。HXDのGSO結晶シンチレータについてエネルギー分解能を見積もる。光量を 14000

[photon/MeV]、伝達効率を40%(BGO Bottomでの吸収と BGO Wellへの散逸がある)、光電

面の量子効率を 25% とすると、平均光電子数 N は1400 [photoelectron/MeV] で662 keV での

エネルギー分解能は、

Energy Resolution at 662 keV= 2.35

s

1 + 0.2

1400×0.662 ∼8.5% (2.19)

となる。ただし F = 1, δ= 6 とした。なお F = 0 とすると 7.7%となる。

2.6

井戸型検出器の信号処理

2.6.1

HXD-AE

の特徴

HXDのアナログ処理回路は、HXDの性能を最大限に発揮するために設計されている。アナロク

回路部HXD-AEには機能別にWPU,TPU,ACUの3種類のボードが用意されており(図2.1)、そ

れぞれのボードはバックプレーンを介して相互に情報を交換する。コマンドはHXD-DE経由で各

ボードに送られ、それぞれのボードに用意されたコマンドデコーダによって、受信、解読される。 衛星での実験では、部品の信頼度あるいは電力、重量、サイズなどの条件から選択肢は非常に限

られてしまう。HXD-AEはその限られた環境の中で最大限の性能を発揮するようなアーキテクチャ

となっている。HXD-AEにおける信号処理の特徴として以下が挙げられる[10][14][18]。

36 ユニットの独立かつ並列な信号処理 大きな体積を持つBGO結晶をアクティブシールドとし

ているため、衛星軌道上では1次/2次宇宙線や結晶シンチレータの放射化による高い計数率

のバックグラウンドに曝される。バックグラウンド計数率は1ユニット当たり数千cnts/sec

にも及ぶと予想される。HXD-AEではユニット毎に独立な信号処理を行なうので、あるユ

ニットが信号を取得し終えていなくても、他のユニットは信号を取得可能である。従って高 計数率においても不感時間を抑えることができる。

軌道上でのバックグランド事象の棄却 1ユニット当たり数千 cnts/secのバックグラウンド計数率

に対して、目標天体からの計数率は通常、数cnts/sec 以下である。衛星で取得し地上に送

ることのできる情報量は限られているため、軌道上でバックグランド事象を効率良く判別し

棄却することが求められる。HXD-AEの波形弁別回路は、BGO結晶にエネルギーが吸収さ

れた事象を軌道上で効果的に判定することができる。

隣接ユニットを用いたバックグランド事象の棄却 井戸型フォスイッチカウンタ16 ユニット及び

ANTI検出器20ユニットはそれぞれのシンチレータに信号が発生した場合に「ヒットパター

(19)

2.6. 井戸型検出器の信号処理 19

巨大信号入力に対する安定動作 軌道上の高エネルギー荷電粒子がBGO結晶を通過した場合には

電離損失により典型的に数100 MeVのエネルギーを結晶に与える。こうした事象は1ユニッ

トあたり数 100 cnts/sec にもなる可能性がある。観測エネルギー領域( 10−600 keV)の信

号よりも3桁以上大きな信号が常時存在する場合においても安定した動作を行なうように慎

重に設計がされた[10]。

不感時間の正確な計測 観測天体から受けた放射強度を決定するには、観測の不感時間を正確に求

める必要がある。HXD-AEは不感時間を計測するカウンタ(デッドタイムカウンタ)、及び

一定周期で入力される疑似信号パルスによって不感時間を求めることができる。

2.6.2

フォスイッチカウンタの信号処理

井戸型検出器1ユニットの信号処理の流れを図2.7に示す。フォスイッチカウンタの信号は、光電子

増倍管からのアノード信号とダイノード信号を荷電増幅型プリアンプで増幅した信号がHXD-AEに

入力される。一方、4つのPINダイオードからは荷電増幅型プリアンプで増幅した信号がHXD-AE

に入力される。

Peak Hold Fast amp LD Cp

PMT Preamplifier (CSA) Gain Amp Fast Shaping Gain Amp Shaping (τ =2µs) PIN Preamplifier (CSA) Anode Dy-node PIN x4 Trig An Cp LD Cp Trig PIN0 12 bit ADC 8bit ADC PSD flg (τ =150ns)

(τ =1µs) Slow Shaping

Peak Hold

Peak Hold

Bleeder PMT

Figure 2.7: 井戸型検出器の信号処理の流れ

アノード信号は直接 HXD-AEの高速ディスクリ回路に入力され、トリガー信号(Anode LD)を

生成する。このトリガー信号によりデータ取得のシークエンスが始められる。GSO結晶は従来用

いられている結晶に比べて短い蛍光減衰時定数を持つため、電流信号を直接用いることによる高速

なトリガーの生成が重要である。またAnode LD信号を生成するためには、蛍光減衰時定数の長い

BGO結晶はGSO結晶より多くの光電子数を必要とすることになり、低エネルギーγ 線がBGO

結晶で全吸収された事象のデータ取得を抑制できる利点もある。

エネルギー計測に用いられるダイノード信号は荷電増幅型プリアンプで増幅された後に

(20)

20 CHAPTER 2. HARD X-RAY DETECTOR (HXD)

(−20℃)、従来用いられてきた、NaI(T l) (τ 300 ns)とCsI(T l) (τ 1000 ns)によるフォス

イッチカウンタと比較して信号の時定数が短い。さらにGSOはNaIにくらべて光量が小さい。そ

のため、低いエネルギーの領域まで、GSOシンチレータのみにエネルギーを付与した事象を分離

するためには、雑音特性が優れ、かつ高速な波形弁別回路が要求される。また井戸型フォスイッチ

カウンタでは、非常に大きな体積を持つBGOシンチレータをアクティブシールドに用いるため、

数百倍近いバックグランド事象の中から正規の事象を抽出することが必要である。そのために異 なる時定数を持つ整形アンプのピーク値を比較する方法を用いている。

HXD-AEに入力された後、信号は2系統に分けられ、一方は150 nsec の時定数で整形され

(Fast整形)、もう一方は1000 nsecの時定数で整形される(Slow整形)。Fast/Slow整形2つの整

形パルスの波高のピーク値をホールドし(ピークホールド回路)、12bit ADCによってA/D変換

され、パルス波高が記録される。GSO結晶は蛍光時定数が短いためFast整形とSlow整形のいづ

れも信号はほとんど積分されてパルス波高に差は生じない。一方でBGO結晶はτBGO∼706 nsec

であるため、Fast整形では信号が十分積分しきれない。そのためFast整形とSlow整形で大きな

パルス波高の違いが生ずる。従って、Fast/Slow整形の増幅率を適当に調節することによって、そ

れぞれの整形信号のパルス波高 VF ast, VSlowは、

VF ast > VSlow for GSO signal (2.20)

VF ast < VSlow for BGO signal (2.21)

とすることができる。図2.8,2.9にその様子を示す。ピークホールド信号を適切なタイミングで比

較することにより PSD OUT信号を生成する。PSD OUTが “low level” であるときは BGO 信

号として棄却できる。このように蛍光減衰時定数の違いを利用して、BGO結晶の信号とGSO結

晶の信号を弁別できる(Pulse Shape Discrimination: PSD)。またSlow整形のパルスは、コンパ

レータに入力されヒットパターン信号のためのディスクリ信号(Slow LD)を生成することに用い

られる。

Figure 2.8: GSO信号のFast/Slow整形の

波形 Figure 2.9: BGO波形 信号のFast/Slow整形の

破線は整形パルス信号、実線はピークホールドされた信号。PSD OUTがlow levelで

あるときはBGO信号として棄却できる。

2.7

波形弁別回路による事象選別

波形弁別回路(PSD)によってGSO結晶のみにエネルギーを吸収されたγ線光子の事象を、BGO

結晶にエネルギーが吸収された事象から弁別することができ、バックグランド事象の抑制に非常

に有効である。井戸型フォスイッチカウンタにおいて、横軸をFast整形のパルス波高値、縦軸を

Slow整形のパルス波高値とした2次元ヒストグラム(Fast-Slow 2次元ダイアグラム)を図2.10(a)

(21)

2.8. ヒットパターンによる事象選別 21

(a) 全事象のプロット (b) “PSD OUT== Low” 事象のプロット

Figure 2.10: Fast-Slow 2次元ダイアグラム

HXDに22

Na放射線源を照射したときのFast波高値とSlow波高値の2次元ヒストグ

ラム(等高線)

GSO結晶だけにエネルギーを吸収した事象とBGO結晶だけにエネルギーを吸収した事象と

が明瞭に分離した2直線上に分布する。またその間にはBGOとGSOの間でコンプトン散乱した

事象が分布する。コンプトン散乱事象では、井戸型のBGO結晶の形状から、GSO結晶で前方散

乱されてBGO結晶ボトム部で光電吸収された事象およびGSO結晶で後方散乱されてBGO結晶

Well部で光電吸収された事象が多い。

図2.10(b)は、PSD OUT信号によりハードウェア的にGSO事象を選択した場合の2次元ダイ

アグラムである。GSO事象を効果的に選択できていることがわかる。ただしPSD OUT信号によ

るハードウェア的な選択では、低エネルギー領域でBGO事象の洩れ込みがあり、またBGO Well

と GSOとの間でコンプトン散乱した事象も洩れ込む。従って、地上におけるデータ解析におい

て、2次元ダイアグラム上での精密な領域選択を行ない、これらの洩れ込みを最小限に抑えること

を行なう(§7)。

2.8

ヒットパターンによる事象選別

PSDは1ユニット内のGSO結晶とBGO結晶との間でコンプトン散乱した事象をバックグラウン

ドとして棄却する機能であるが、ヒットパターンによる事象選別では異なるユニット間でコンプ

トン散乱した事象を棄却できる。それぞれのユニットのSlow整形された信号はコンパレータに入

力され、閾値を越えた信号に対してはSlow LD信号を生成する。この信号は、HXD-AEのバック

プレーン上のバスを介して、相互のユニットの間で参照される。こうして例えば、地上でのデー

タ解析において、隣接するユニットにSlow LD信号がある場合は、コンプトン散乱事象だと見倣

して棄却できる。実際には偶発的な同時事象を棄却する確率を増やさないように、注目するユニッ

トの最隣接の4ユニットあるいは隣接する8ユニットを反同時計数に用いる。

図 2.11 に示すように、例えば W02 の井戸型フォスイッチカウンタに信号が発生した場合、

最隣接のW01, W13, W31, W03 のSlow LD信号を参照し、いづれかのユニットのSlow LD信号

がアクティブであればコンプトン散乱事象として棄却する。もしくは、さらにW00, W10, W20,

W30を用いることも考えられる。参照する周りのユニット数は、ヒットパターンによるバックグ

(22)

22 CHAPTER 2. HARD X-RAY DETECTOR (HXD)

Figure 2.11: ユニットIDの定義とヒットパターンに用いるユニットの例

HXD-Sを上から見た図。(図 2.4の右と同じ。)16本の井戸型検出器のユニットID

W00,W01,..W33 の定義および20本のアンチ検出器 T00,T01,..T34 の定義を示す。

(23)

Chapter 3

Geant4

による検出器応答のモデル化

3.1

検出器の応答関数

宇宙γ線検出器の使命は、

• 天体からの光子を検出すること

• 得られた結果を正しく天体のγ線情報に直すこと

にあると言える。前者の能力をあらわすのは検出感度である。HXDは複眼井戸型フォスイッチ構

成により非常な低バックグラウンドを達成し、検出感度は 10-数100 keV において過去最高とな

る。従来このエネルギー領域では、天体からの信号をバックグラウンドの信号が凌駕し、感度の

良い探査は不可能であったので、γ線を検出すること自体に大きな価値がある。

一方で、検出した光子の観測データから、観測対象の性質や物理状態を突き止めるのが最大の 目的であるので、観測結果を天体からの入射光子の情報(通常は光子のエネルギー・到来方向・到 達時間)にできる限り正確に変換しなくてはならない。例えば入射光子のエネルギー分布と方向 分布を求める方法論は、次のような逆問題的アプローチとなる。

まず、一般の入射光子のエネルギー・方向分布に対する検出器の応答(例えばエネルギー計測 用のパルス波高値の分布)をシミュレートする「検出器の応答関数」を用意する。そして観測対 象からの入射光子のエネルギー・方向分布を仮定し、それに対する「応答関数」の出力と、現実

の検出器からの応答とを比較する。この2つが統計の範囲で最もよく一致するような仮定が、現

実に入射した光子の分布だとするのである。従って、観測結果から入射光子の情報をどれだけ正 しく求めることができるかということは、検出器の「応答関数」をいかに正確に構築できるかと いう問題にかかっている。

HXDフォスイッチカウンタの場合、「応答関数」には、ファインコリメータ・シリコンPINダ

イオードなどのGSO結晶の前方に存在する物質によるγ線光子の吸収率、GSO結晶・BGO結

晶・PINダイオードの検出部におけるエネルギー吸収の確率分布、検出部があるエネルギーを吸

収したときにトリガー発生の閾値を越える確率、波形弁別やヒットパターンによってある事象が 棄却される確率、検出部がある単色エネルギーを吸収した場合に得られる波高値の分布など多岐 に渡る項目が含まれる。特に波形弁別およびヒットパターンにより事象を選別することによって バックグラウンド事象を効果的に抑制するため、これらの事象選別は観測データを大きく左右し、 構築する応答関数はこれらの事象選別を正しく取り込んでいることが必要である。

3.2

応答関数の構築

単色のγ線を照射し、そのときのHXDの実際の応答を測定することによって単色γ線に対する

応答関数が求められれば、一般の入射分布に対する検出器の応答は単色γ線に対する応答関数の

重ね合わせである。実際には放射性同位元素の崩壊に伴う核γ線や特性X線を単色γ線源として

用いるが、そのエネルギー値は非常に限られている。またγ 線に対する応答は検出器の幾何学的

(24)

24 CHAPTER 3. GEANT4による検出器応答のモデル化

形状(ジオメトリ)に強く依存し単純に計算することは難しい。従って一般に硬X線/γ線検出器

では、放射線源を用いた較正実験に加えて、モンテカルロシミュレーションを利用して検出器の

γ線に対する応答関数を構築することが行なわれる。モンテカルロシミュレーションでは、検出

器のジオメトリ、光子と物質の相互作用、光子の輸送を基本となる物理素過程から詳細に取り扱 うことが可能である。しかしその場合にもエネルギー分解能やエネルギーとパルス波高の関係と いった検出器の特性は、較正実験で測定して求めなければならない。

こうして構築した応答関数の正しさを確認するには、既知のエネルギー・強度・方向からγ線

を照射する較正実験で得られる検出器の応答を、その応答関数により再現できることを見ればよ

い。本論文はHXD井戸型フォスイッチカウンタに対して、これらの較正実験およびモンテカルロ

シミュレーションを行なう。具体的には、

• 較正実験により検出器の特性を求め(§4、§6)

• 最近開発された大規模測定器シミュレータ Geant4(§3.3)を基にしたモンテカルロコードを

開発し、

• 較正実験を再現することを試みる(§5、§7)

ことを行なう。

3.3

Geant4

我々のグループではHXDの応答関数を構築するときに用いるモンテカルロコードとしてEGS4

(Electron Gamma-ray Shower 4)[5]が用いられてきた。EGS4は高エネルギー実験で広く用いら

れているコードで、電磁カスケードをシミュレートすることができる。すなわち、電子・陽電子、

γ線光子の反応と輸送を取り扱っている。

一方で、HXDは軌道上でこれらの素粒子以外の宇宙線に曝され、それによる検出器の放射化

は軌道上での主要なバックグラウンド源になる[8]。従って宇宙線(特に陽子や重元素イオン)に

対する検出器の反応を理解し、正確にモデル化することが必要となる。それにはEGS4では不十

分であるので、我々は新たに最近開発された測定器シミュレータの汎用ツール群Geant4を導入す

ることにした。

Geant4は高エネルギー実験での測定器シミュレーション構築のためのソフトウェアツール群

である。日本とCERNの研究者が中心となって、世界15ヶ国、約100人の研究者によって開発が

進められている。このような国際的に散在した多数の研究者によるソフトウェア構築の成功の鍵

は、オブジェクト指向プログラミングを全面的に採用したことである。Geant4の中核は、電磁相

互作用やハドロン相互作用をはじめとする種々の粒子と物質の相互作用の記述プログラム、粒子 輸送のプログラム、検出器の幾何学形状の記述、グラフィック表示などのツール群である。これら の基本的なツール群を利用することにより、我々の検出器に即したモンテカルロシミュレータを 構築することができる。

本論文では、HXDフォスイッチカウンタのγ線応答の研究にGeant4を用いることにより、我々

のグループにおける第2のシミュレーションコードを立ち上げることを目的の1つとする。高エネ

ルギー実験で主に使われているEGS4は、HXDのエネルギー範囲では実績が十分と言えず、Geant4

もまた高エネルギー実験をその第一の対象としているのでその点では同じである。従って我々は

Geant4のプログラムコードを読むことによって、そのアルゴリズムの正しさを確認する作業も行

なっている。また今後、EGS4,Geant4を比較しながら並行して進むことにより正確な応答関数の

(25)

Chapter 4

GSO

結晶の光量のエネルギー依存性

4.1

実験の目的

井戸型フォスイッチカウンタの主検出部であるGSO結晶シンチレータは40-600 keV というエネ

ルギー範囲を観測することを目的としている。このエネルギー範囲でのGSO結晶の応答、特に

光量のエネルギー依存性は、観測の結果から実際の正しく天体のスペクトルを得るときに最も必

要となる情報である。GSO結晶はNaI結晶などの従来用いられてきた無機シンチレータと比較し

て、吸収γ線エネルギー Eγ に対する光量L(Eγ) の線形性に優れていることが報告されている。

ただしこうした特性は数100 keVの領域であり、数10 keVでは必ずしも線形性は成り立たない。

我々のグループはシンチレータからの光量を増加させるための工夫などを通してGSO結晶シ

ンチレータの改良を行なってきたので、搭載される結晶の特性をあらためて正確に測定し定量化

することが必要である。またHXDではGSO結晶を64個用いており、GSO結晶4個からのシン

チレーション光を1つの光電子増倍管で受ける井戸型検出器が16ユニットある8§2.2)。16ユニッ

トは独立に信号処理されるが、最終的に得られた個々のスペクトルを足し合わせて天体のスペク

トル情報に直す。従ってGSO結晶の個体差を把握し定量化することも必要である。

4.2

実験の方法

放射線源からのX/γ線をGSO結晶に照射し、特性X線・核γ線に対する結晶の光量のエネルギー

依存性を測定する。照射した線源は241

Am,133 Ba,137

Cs,109 Cd,57

Co,152 Eu,22

Naである(表4.2)。

本実験では60 keV以下で見られる非線形性を定量化するために測定のエネルギー範囲は14 - 662

keVとした。

実験のセットアップを図 4.1 に示す。測定はHXDに搭載されるものと同じ形状 (24×24 ×5

mm3

)で同等なGSO結晶(ここでは GSO#0,GSO#1と呼ぶ)を2つ用いた。結晶の周りは発生

したシンチレーション光が効率良く光電面に集まるよう白色のゴアテックスシートをかぶせてあ

る。結晶は光電子増倍管(Hamamatsu R6231) に信越化学の接着剤(GSO#0はKE108、GSO#1

はKE103) で光学的に接合した。測定は外部からのγ線を排除するために全体を鉛のブロックで

囲って行なわれた。GSO結晶および光電子増倍管は恒温槽の中で、HXDが軌道上で保たれる温度

である−20℃ に管理した(±1℃)。また温度に対する依存性を調べるために常温(25℃)での測定

も行なった。測定条件は表4.1にまとめる。

広いエネルギー範囲を測定するために、光電子増倍管(PMT)の高圧を変えて増幅率を調節し

てデータを取得した。異なる増幅率の測定でエネルギー範囲がオーバーラップするようにしてあ

る。光電子増倍管からのパルス信号は衛星搭載品と同等なアナログ回路(§2.6)で処理する。§2.6

で述べたように、プリアンプからの出力は150nsec(Fast)/1000nsec(Slow)の整形が行なわれた後

にA/D変換される。デジタル化された信号はVMEバス上のインターフェースボード[17]を経由

してデータ収集用の計算機で取得される。エネルギー計測はSlow整形したパルスの波高値により

行なう。本実験ではエレクトロニクスの線形性は ≤1%で成立しており、エレクトロニクスの非

線形性の補正を行なう必要はない。

(26)

26 CHAPTER 4. GSO結晶の光量のエネルギー依存性

Lead Collimator

Lead Block

PMT Bleeder

GSO

Radioactive Isotope

Thermostatic Chamber ( -20/+25 )

Preamp Anode

Dynode

Post-FM AE

VME

(Analog Electronics)

(Data Acquisition)

Figure 4.1: GSO光量非線形性測定のセットアップ

測定ID 結晶ID 温度 測定エネルギー範囲 PMT高圧

1 GSO#1 −20℃ 14 - 662keV 970/850/760 V 2 GSO#0 25℃ 22 - 356keV 1020/880 V 3 GSO#0 20℃ 14 - 356keV 990/850 V

Table 4.1: 測定条件

4.3

データ解析と結果

4.3.1

エネルギースペクトル

図4.2, 4.3, 4.4に3種類の異なる増幅率で取得されたエネルギースペクトルを示す(測定1)。これ

らは線源を当てないで取得したバックグラウンドスペクトルを差し引いてある。光電ピーク(入 射光子が全エネルギーを結晶で吸収された事象が作るピーク)、エスケープピーク(入射光子が光

電吸収された後に放出される蛍光X線が結晶外に避散した事象)、後方散乱ピーク(放射線源から

の光子が結晶外で後方散乱されて結晶に入射し、吸収された事象)、コンプトンエッジ(結晶で入 射光子が後方散乱されて、結晶外へ避散した事象)などの構造がスペクトル中に現れている。

4.3.2

各々の増幅率でのエネルギー光量関係

第一にエネルギースペクトル中の光電ピークからγ線エネルギーと波高値の関係を求める。波高

値は光量に比例すると考えられるため、それからエネルギーと光量の関係を求めることができる。 結晶シンチレータはエネルギー分解能が限られているため

1. Kα/Kβ 特性X線

2. 核γ線

3. Gd-Kエスケープピーク

による複数のラインが1つの光電ピークに含まれる場合がある。この場合は複数のラインが混ざ

(27)

4.3. データ解析と結果 27

Figure 4.2: 線源を当てたときのエネルギースペクトル(PMT HV=970V)

種々のエネルギーの光電ピークの他にGd-Kのエスケープピークもはっきり

と認められる。低エネルギーほど波高値分布の分散が大きい。

Figure 4.3: 線源を当てたときのエネルギースペクトル(PMT HV=850V)

152 Eu, 133

Baからは高エネルギー核γ線が多く放出されているため、このエ

(28)

28 CHAPTER 4. GSO結晶の光量のエネルギー依存性

Figure 4.4: 線源を当てたときのエネルギースペクトル(PMT HV=760V)

133

Ba303 keVの光電ピークが 356 keVからはっきりと分離できており、良

い分解能を達成していることがわかる。22

Na,137

Csはコンプトン連続部と散

乱成分が非常に高いレベルであり、井戸型フォスイッチ構成をとるHXDの

場合と対照的である。

我々は、放射線源からのそれぞれのラインX/γ線の放出率と検出器の分解能を考慮したモンテカ

ルロシミュレーション(§5)を行ない、そのような混合ラインの中心エネルギーを求めた。

図 4.5に133

Ba31 keVピーク(Cs Kα/Kβ)の測定スペクトルを単独のガウシアンでフィッ

トしたものと、シミュレーションスペクトルを同様にフィットしたものを示す。検出器の分解能を 考慮することによって、シミュレーションで得られるスペクトルは実験データを良く再現する。吸

収γ 線エネルギーと波高値中心を対応づけるために、シミュレーションスペクトルをガウシアン

でフィットしたときの中心のエネルギーを光電ピークの中心エネルギーとする。較正に用いた放射

線源からの各ラインX/γ線に対する光電ピークの中心エネルギーを表4.3にまとめる。

測定スペクトルの光電ピークをガウシアンでフィットすることでピークの波高値を求め、それ ぞれの増幅率でのエネルギーと波高値の関係を求めた。殆んどの単独ラインはシングルガウシア

ンで良いフィット結果が得られたが、241

Am 59.5 keVをシングルガウシアンでフィットした際に

は複合ラインで見られるようなデータとモデルとの残差が見られた。このことは後に考察する。

4.3.3

増幅率の補正

光電子増倍管の増幅率を変えることで測定できるエネルギーの範囲を大きくしたので、異なる増 幅率の測定で得られたエネルギーと波高値の関係から最終的なエネルギーと光量の関係を求める

ことが必要である。光量 Lから波高値P H への変換は、

P Hgain=againL+b gain = High/M ed/Low (4.1)

で表すことができる。ただしこの式はエレクトロニクスの非線形性のない範囲で有効である。again

は光電面での量子効率、光電子増倍管の増幅率、エレクトロニクスの増幅率の積である。bはエレ

クトロニクスの非線形性がない理想的な場合のオフセットであり、本論文ではペデスタルと呼ぶ。

あるエネルギーのラインX/γ線を異なる増幅率で測定した場合でも、光量は変わらないので、た

とえば

P HHigh−b=

aHigh

aM ed

(P HM ed−b) (4.2)

(29)

4.3. データ解析と結果 29

(a)測定スペクトル (b)シミュレーションスペクトル

Figure 4.5: 133

Ba31 keV測定スペクトル(a)とシミュレーションスペクトル(b)

それぞれ単一のガウシアンでフィットした様子。実験で得られる中心波高値781 chは

31.15 keVに対応する。

例えば測定1の場合、

P H(High) = 2.733(±0.003)×P H(M ed)74(±2) (4.3) P H(M ed) = 2.421(±0.005)×P H(Low)33(±3) (4.4)

の線形関係が成立している。この関係を用いることによって増幅率 Low/(Med) で取得した波高

値を増幅率High で取得した波高値に翻訳できる。

このような増幅率の補正をして得られた 14662 keVにおけるエネルギーと波高値の関係を

図4.6に示す。122356 keVのデータを用いて直線でフィットした関数と 1440 keVの波高値

の残差からわかるように、1440 keVと60120 keVのエネルギー波高値関係が滑らかにつな

がらない。この特徴は測定13 に共通して見られた。

我々はこのような非線形性がGSO結晶に含まれるガドリニウム(Gd)のK端(50.24 keV)に

よる不連続の効果によるものと考え、Gd K端前後の測定点をそれぞれの別の1次関数でフィット

することを行なった。その結果は、

Below K-Edge: P H(High) = 27.66(±0.04)×E[keV]82.7(±1.2) (4.5) Above K-Edge: P H(High) = 29.39(±0.05)×E[keV]291.1(±1.5) (4.6)

である。図4.7 に示すようにK端の前後で2本の直線でフィットできている。

4.3.4

各測定の比較

測定 1,2,3の結果を比較する。エネルギー・波高値関係EP H(E)の波高値から式(4.1)のペデ

スタルb を差し引き、各々344 keVで規格化する。これによって得られるのはエネルギーと相対

光量の関係EL344(E)であり、光量のエネルギー依存性を表す。ただし344 keVでの相対光量

L344(344[keV]) を344と定義した。このようにして光量のエネルギー依存性を比較した結果を図

(30)

30 CHAPTER 4. GSO結晶の光量のエネルギー依存性

Figure 4.6: エネルギーと波高値の関係(14-662 keV)

(31)

4.4. GSO結晶の電子応答と光子応答 31

Figure 4.8: 測定毎の光量のエネルギー依存性の比較

4.4

GSO

結晶の電子応答と光子応答

4.4.1

光子応答

吸収エネルギーに対する波高値に非線形性があること、すなわちエネルギーと光量の関係に非線

形性があることが測定結果から結論された。そしてこの非線形性は Gd K端での不連続として説

明される。

§4.3で、γ線吸収エネルギーと波高値の関係より得られた吸収エネルギー・相対光量関係E−

L344(E) から、単位吸収エネルギー当たりに発生する光量を計算する。本実験のように、エネル

ギーと相対光量の関係が1次関数で表される場合、

L344(E) =

344 344[keV]Eth

(EEth) (4.7)

と書くことができる(図 4.9)。従って単位エネルギー当たりの相対光量は、

L344(E) E =

344 344[keV]−Eth

µ

1−Eth

E

(4.8)

なる関数となる。図4.10 に測定結果から計算した L344(E)/E を示す。Gd K端50.24 keV前後

で不連続のあることが明確にわかる。この単位エネルギー当たりの相対光量L344(E)/E は、「光

(32)

32 CHAPTER 4. GSO結晶の光量のエネルギー依存性

Figure 4.9: エネルギーと相対光量の関係(1次関数)

(33)

4.4. GSO結晶の電子応答と光子応答 33

4.4.2

入射光子エネルギーと光量

GSO結晶にγ線が入射した場合の吸収エネルギーと光量の関係を基礎過程に基づいて考察する。

• 入射光子によって作り出される電子の分布

γ線光子 Eγ が結晶に入射すると、物質(GSOの場合は殆んど Gd)との次のような相互作

用によってエネルギーが結晶中の電子に渡される。

1. コンプトン散乱せずに光電吸収

2. コンプトン散乱を何回か行なった後に光電吸収

3. 1,2の後に特性X線が結晶外に避散する

4. コンプトン散乱を何回か行なった後にγ線光子が結晶外に避散する

1,2の場合は入射γ線エネルギーはすべて結晶に与えられ(全吸収)、3,4の場合はエネルギー

の一部が与えられる(部分吸収)。

入射光子ごとに、これらの相互作用を通じて様々なエネルギーを持つ多くの電子が生成され

る。生成した電子のエネルギー分布関数をN(Ee) とすると、入射光子(1事象)の吸収エネ

ルギーは、

Edeposit =

Z

EeN(Ee)dEe (4.9)

全吸収のとき、

Edeposit=Eγ (4.10)

となるが、部分吸収では

Edeposit< Eγ (4.11)

である。

• 電子分布から光量への変換

エネルギーEe を得た電子は結晶内で電子正孔対を作りながらそのエネルギーを失って行く。

生成された電子は活性化物質(GSOの場合はCe)の作るエネルギー準位の中心に移動する。

その電子数を

Nimpurity=α(Ee)Ee (4.12)

とする。Nimpurity個の電子の基底準位への遷移に伴ってシンチレーション光子が放出され

る。遷移に伴う光子の発光効率を η とすると、シンチレーション光子の(平均的な)発生

数: 光量(Light Yield)は、

Le(Ee) = ηNimpurity (4.13)

= ηα(Ee)Ee (4.14)

η は、温度に依存し、従って光量も温度に対する依存性を有することとなる。η は結晶の種

類によっても大きく異なり、常温での比は、NaI(Tl) : CsI(Tl) : BGO = 1 : 0.45 : 0.08で

ある[1]。

1事象に対する全光量 Lγ は、Le(Ee) を、発生した全電子について和をとることで次のよう

に計算することができる。

Lγ =

Z

Le(Ee)N(Ee)dEe (4.15)

=

Z

Figure 2.5: アンチ検出器 1 面の有効面積と CGRO BATSE 1 ユニッ
Table 2.2: 結晶シンチレータの特性の比較 2.5 フォスイッチカウンタの分解能 天体から放射される硬 X 線・ γ 線のエネルギースペクトルを正確に決定し、ライン γ 線を検出する ためには高いエネルギー分解能を持つことが重要である。ここで結晶シンチレータのエネルギー 分解能がどのように決まるかを考える。結晶に吸収されたエネルギーからパルス波高値への変換 の間にさまざまな確率過程が関与し、一定の吸収エネルギーに対しても波高値は揺らぐことにな る。この波高値の揺らぎによりエネルギー分解能が規定される
Figure 2.8: GSO 信号の Fast/Slow 整形の
Figure 2.10: Fast-Slow 2 次元ダイアグラム HXD に 22 Na 放射線源を照射したときの Fast 波高値と Slow 波高値の 2 次元ヒストグ ラム(等高線) GSO 結晶だけにエネルギーを吸収した事象と BGO 結晶だけにエネルギーを吸収した事象と が明瞭に分離した 2 直線上に分布する。またその間には BGO と GSO の間でコンプトン散乱した 事象が分布する。コンプトン散乱事象では、井戸型の BGO 結晶の形状から、 GSO 結晶で前方散
+7

参照

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