- 50 -
- 51 - 5.1.2 実験結果
図 5-1 と図 5-2にIV 特性計測結果を示す。2.2.1項に記載した通り作製条件の相対比較のため、
電圧及び電流は基準セル(Ge(100)基板、PH3暴露なし)のVOC及びJSCで規格化した値を示している
(電流値が高めに評価されているため、あくまで参考値であるが、Ge(100)基板、PH3暴露なしの太陽 電池特性は以下の通り:VOC=0.179V、JSC=46.6mA/cm2、F.F.=0.474、Eff.=3.94%)。基板面方位と PH3暴露有無の組み合わせによって、明確に特性が異なる太陽電池が得られ、基板面方位によって、
ヘテロ接合界面への影響が異なることが明らかになった。特に Ge(111)、 PH3暴露なしでは、他の条 件と比較し顕著にJSCは低く、VOCが高い特性を示す太陽電池が得られた。また、Ge(111)、PH3暴露 ありの場合は、VOC、F.F.が高く、最も変換効率の高い太陽電池が得られた。
Ge(100)基板に関して、4.3 項では、PH3暴露を適用すると、VOC及び F.F.が向上し、変換効率が
2.4倍に改善したが、今回作製した太陽電池では、VOC、JSC、F.F.がわずかに改善したのみであり、4.3 項のような劇的な変換効率の改善は見られなかった。これは、4.3項では5nmの薄いa-Si:H(i)層を適
表 5-3 セル作製条件組み合わせ一覧
セル作製条件
基板面方位 界面処理条件
Ge(100) Ge(111) PH3暴露
処理
Ge(100) PH3暴露なし(基準) 〇 - -
Ge(100) PH3暴露あり 〇 - 〇
Ge(111) PH3暴露なし - 〇 -
Ge(111) PH3暴露あり - 〇 〇
〇:適用条件。その他の作製条件は全て共通。
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
Current Density (Normalized)
Voltage (Normalized) Ge(100)
w/o PH3
Ge(111) w/o PH3
Ge(100) with PH3
Ge(111) with PH3
図 5-1 基板面方位とPH3暴露処理有無によるIV特性比較。Ge(100)PH3暴露なしで規格化
- 52 -
用したのに対して、今回はパッシベーション効果の高い 40nm の a-Si:H(i)層を適用したため、PH3 暴 露処理なしでも比較的良好な特性が得られ、差異が小さくなったためと考えている。
Ge(111)基板、PH3暴露処理なしの条件では、他の条件と比較しJSCが約1/2で、VOCの高い太陽
電池が得られている。図 5-3にGe(111)基板、PH3暴露有無での分光感度特性を示す。400nm前後 の短波長領域ではPH3暴露処理なしの方が良好な分光感度を示す一方、約500nm以上の領域では 分光感度が低下し、赤外領域に於いてはPH3暴露処理ありとの比率が約40%一定の感度になってい る。この結果は、4.1項でGe(100)基板を用いて作製したa-Si:H(i)層80nm の太陽電池特性と類似し
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000
E Q E , E Q E R at io
Wavelength(nm) Without PH
3exposure
With PH
3exposure
EQE Ratio
(Without PH3/With PH3)
図 5-3 Ge(111)基板を用いたc-Geヘテロ接合太陽電池の分光感度特性(外部量子効率)
及びPH3暴露有無の分光感度特性の比率
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0 1 2 3 4 5
VOC(Normalized)
Ge(100) w/o PH3
Ge(100) with PH3
Ge(111) w/o PH3
Ge(111) with PH3
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0 1 2 3 4 5
JSC(Normalized)
Ge(100) w/o PH3
Ge(100) with PH3
Ge(111) w/o PH3
Ge(111) with PH3
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0 1 2 3 4 5
F.F. (Normalized)
Ge(100) w/o PH3
Ge(100) with PH3
Ge(111) w/o PH3
Ge(111) with PH3
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0 1 2 3 4 5
Efficiency (Normalized)
Ge(100) w/o PH3
Ge(100) with PH3
Ge(111) w/o PH3
Ge(111) with PH3
図 5-2 基板面方位とPH3暴露処理有無による太陽電池特性パラメータの比較
- 53 -
ている。a-Si:H(i)層が80nm の太陽電池では、空乏化する領域がa-Si:H(i)層に限定され、c-Ge基板 ヘテロ接合界面の拡散電位が小さくなり、c-Ge基板内で発生した少数キャリア(電子)がヘテロ接合界 面の価電子帯側のバンドオフセットを越えられなくなっていると考えていた。今回の a-Si:H(i)層が 40nmの場合、一定の拡散電位がc-Ge基板側にも残っており、一部(約40%)の少数キャリアはヘテ ロ接合界面の価電子帯バンドオフセットを越えてエミッタに到達可能な状態であると考えられる。PH3
暴露処理を適用した条件では、c-Ge(p)基板側の拡散電位がさらに増加し、少数キャリアが取り出し可 能な状態になっていると考えられる。短波長側の感度の差異については、PH3 暴露処理により a-Si:H(i)層中の拡散電位が減少するため生じていると考えられる。a-Si:H(i)層中の拡散電位が減少する と、a-Si:H(i)層中の電子正孔対の分離能力が低下する。このため、40nmのa-Si:H(i)層が吸収可能な 短波長領域において、PH3暴露処理ありの分光感度が低い結果が得られたと考えられる。
上記の通り、Ge基板の面方位及びPH3暴露処理有無によって得られる太陽電池特性は大きく異な った。太陽電池特性の向上には、ヘテロ接合界面の状態把握が必要であり、次項以降で各太陽電池 の界面を詳細に評価した。
5.2 a-Si:H/c-Ge(p)ヘテロ接合界面の詳細構造評価
ヘテロ接合界面の結晶構造を観察するため、HR-TEM を用いてヘテロ接合界面の構造を観察 (a) Without PH3 exposure
Ge(100) Ge(111)
a-Si:H i layer a-Si:H i layer
Ge(100) Ge(111)
a-Si:H i layer a-Si:H i layer
10nm
(b) With PH3exposure
10nm
図 5-4 a-Si:H(i)/c-Ge(p)ヘテロ接合界面の断面HR-TEM像
- 54 -
した。加速電圧は300kV、観察倍率は2,000,000倍とした。図 5-4に観察結果を示す。Ge(100)
基板及びGe(111)基板に対して、PH3暴露処理適用有無での結果をそれぞれ示している。Ge(100)基
板の場合、PH3暴露処理有無にかかわらず、ヘテロ接合界面から明瞭なヘテロエピタキシャル成長層
(格子状の周期配列)を確認することができる。一方、Ge(111)基板の場合、ヘテロ接合界面近傍に数 原子層のわずかなヘテロエピタキシャル成長層が存在するのみである。c-Siヘテロ接合太陽電池にお いても、Si(100)基板の方が Si(111)基板よりエピタキシャル成長を起こしやすいことが報告されており
[1]–[3], [5]、わずかに格子定数は異なるGe基板においても、同様の傾向であることを確認した。
図 5-4の(a)と(b)でPH3暴露処理有無の比較をすると、(b)のPH3暴露ありの方がヘテロエピタキシ ャル成長層の厚さが抑制されている。特に、Ge(100)基板での差異が明確である。これまで、PH3暴露 処理はヘテロ接合界面にドナーを供給し、VBM 付近に存在する Geの欠陥準位によるフェルミレベル のピニングを打ち消すための処理として適用していたが、副次的な効果としてヘテロエピタキシャル成 長を抑制する効果もあることを確認した。
5.3 a-Si:H/c-Ge(p)ヘテロ接合界面の界面P濃度評価
PH3暴露によるヘテロ接合界面への原子付着状況を確認するため、SIMS を用いて、P 濃度の 分析を行った。c-Ge基板内へのP拡散の有無も確認するため、Back Side SIMSを採用してい る。一次イオンはセシウムイオン(Cs+)、加速電圧は5 keVである。マトリックス効果の影響 を受けないように、同元素のa-Ge:H(i)をヘテロ接合層として用いた。a-Ge:H(i)層の製膜条件を 表 5-4 に示す。ガス流量を除き a-Si:H(i)層と同じ製膜条件とし、a-Ge:H(i)層を用いることによ るヘテロ接合界面の状態変化を抑制した(HR-TEM でのホモエピタキシャル成長層の有無確認 は行っていないが、エピタキシャル成長層有無によるヘテロ接合界面の P 濃度への影響はない と考えている)。c-Ge基板の面方位はGe(111)を用いた。
図 5-5にPH3暴露処理有無での分析結果を示す。P濃度のピーク位置をa-Ge:H(i)とc-Ge(p) の界面と仮定している。PH3暴露処理ありの場合、1.0×1020 atoms/cm3を超えるピークが存在 し、PH3暴露処理なしと比較しP濃度が増加している。PH3暴露処理によりヘテロ接合界面に供 給された PH3が吸着、残存していると考えられる。PH3暴露なしの場合も界面にわずかにピー クが確認できるが、Pの検出下限濃度(約6.2×1016 atoms/cm3)程度であり、基板ホルダなど に残存していた P が、酸化膜除去アニール時に離脱しヘテロ接合界面に再付着することなどの
表 5-4 a-Ge:H(i)層製膜条件
製膜条件 ガス流量(sccm) ヒータ 温度(℃)
製膜圧力 (Pa)
励起周波 数(MHz)
電力密度 (mW/cm2) SiH4 GeH4 H2
a-Ge:H(i) - 3 27 200 13.3 60 15
参考:a-Si:H(i) 20 - 60 200 13.3 60 15
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影響と考えられる。ノックオンの影響がないc-Ge(p)基板側のP濃度は比較的急峻に立ち上がっ ており、c-Ge(p)への拡散はほとんどないと考えられる。ホモ接合 c-Ge 太陽電池の作製工程で は、Pを含むスピンオンドーパント(spin-on dopant)を塗布し、580℃以上の高温で焼成すること
でPをc-Ge(p)基板に拡散させpn接合を形成しているが[8]、本研究では、界面処理後は、低温
プロセスのみで太陽電池を作製しているため、P がヘテロ接合界面に局在していると考えられ る。
SIMSプロファイルを積分して界面のP密度を求めると、PH3暴露処理ありの場合は約1.2×
1014 atoms/cm2であり、ヘテロ接合界面のGeの原子密度の約10%に相当する。この値は、他の
文献で報告されている計測結果(200℃に加熱された水素終端していないc-Ge基板表面にPH3
を供給し、P濃度をX線光電子分光法(XPS: X-ray photoelectron spectroscopy)で計測)[9]と同 等の値である。PH3暴露処理なしの場合は、約3.5×1011 atoms/cm2であり、Ge原子密度の約
0.03%である。この結果を、4.4項で行ったPH3暴露処理についてのシミュレーション結果の図
4-13 と比較すると、PH3暴露処理なしの場合は変換効率が相対的に低い界面ドーピング密度の 範囲、PH3暴露処理ありの場合は変換効率が相対的に高い界面ドーピング密度の範囲に相当し、
シミュレーション結果と実測に整合性があることを確認した(但し、シミュレーションではドナ ーとして機能している界面ドーピング密度に対する変換効率を計算しているため、実測値の P についても全数が活性化し、ドナーとして機能していることが前提となる)。
1.0E+16 1.0E+17 1.0E+18 1.0E+19 1.0E+20 1.0E+21
0 50 100
Phosphorous Concentration(atoms/cm3)
Depth(nm) w/o PH3exposure with PH3
exposure
a-Ge:H(i) c-Ge(p)
図 5-5 c-Ge:H(i)/c-Ge(p)のBack Side SIMS分析結果
- 56 -
5.4 a-Si:H/c-Ge(p)ヘテロ接合界面のキャリア濃度評価
c-Ge(p)基板のヘテロ接合界面近傍の伝導型やキャリア濃度分布を確認するため、SCM を用い
て断面の観察を行った。変調電圧は1.0V、バイアス電圧は-0.5Vとした。バイアス電圧はヘテロ 接合界面近傍の信号が非常に弱かったため、n型の領域を広げるために印加している。このため、
観測されるn型の領域は空乏層を示していると考えられる。
図 5-6にSCM計測結果を示す。試料の作製条件は図 5-4と同じ組み合わせであり、Ge(100)
基板及びGe(111)基板に対して、PH3暴露処理有無の結果をそれぞれ示している。破線で示している
a-Si:H(i)/c-Ge(p)界 面 位 置 は 、 同 時 計 測 を 行 っ た 原 子 間 力 顕 微 鏡(Atomic Force
Microscopy :AFM)像を用いて決定している。キャリア濃度を反映する dC/dV信号強度がPH3暴露
処理有無で明らかに異なり、PH3暴露処理ありの場合、基板内に n 型を示す領域(バイアス印加して いるため、空乏層を示している領域)が広がっていることが分かる。これより、PH3暴露処理によってヘ テロ接合界面に付着、残存した P はドナーとして機能し、ヘテロ接合界面近傍の c-Ge(p)基板を空乏 化させていることが確認された。Ge(100)とGe(111)を比較すると、PH3暴露処理ありの場合の空乏層 の広がりがGe(111)の方がわずかに深い。界面に残存してドナーとして機能する Pの割合や、アクセ プタとして機能するc-Geのダングリングボンド数の影響が考えられる。
前項と同様に、4.4 項で行った PH3暴露処理についてのシミュレーション結果と比較すると、
図4-14のバンドダイヤグラムは、PH3暴露処理なしに相当する界面ドーピング密度が低い領域 では、c-Ge 基板内はほとんど空乏化していないが、PH3暴露処理ありに相当する界面ドーピン
with PH3exposure without PH3exposure
a-Si:H
Ge(111)
+dC/dV (p-type) -dC/dV
(n-type) 0
100nm (b) Ge(111) substrate
(a) Ge(100) substrate
with PH3exposure without PH3exposure
a-Si:H
Ge(100)
図 5-6 a-Si:H(i)/c-Ge(p)ヘテロ接合界面近傍のSCM像
- 57 -
グ密度であれば、100nm程度の空乏層が存在する。シミュレーションとSCM監察結果で空乏層 の深さに若干の違いはあるものの、シミュレーションで予測した通り、PH3暴露処理によって c-Ge基板のヘテロ接合界面近傍が空乏化していることが確認できた。
5.5 評価結果に関する考察
上記の評価によって、a-Si:H(i)/c-Ge(p)のヘテロ接合界面にヘテロエピタキシャル成長層が存在す ること、特に Ge(100)ではその厚さが非常に厚いこと、PH3暴露処理によってヘテロ接合界面に P が 供給されバンドダイヤグラムに影響を与えていることが明らかになった。
Ge(100)とGe(111)を比較すると、PH3暴露処理なしの場合、JSCはGe(111)よりGe(100)の方が高 い値を示した。これは、Ge(100)の方がc-Ge基板内で生成された電子が、伝導帯のバンドオフセットを 通過しやすいことを示している。SCM の観察結果より、c-Ge 基板内の空乏化の状態には明瞭な差異 が認められず、Ge(100)と Ge(111)で厚さが異なるヘテロ接合界面のヘテロエピタキシャル成長層が 影響していると考えられる。3.3 項のシミュレーションで用いた物性値では、a-Si:H/c-Ge と c-Si/c-Ge の伝導帯のバンドオフセットは、c-Ge基準で0.10eVと-0.05eVであり、c-Si/c-Ge界面には障壁がな
く a-Si:H/c-Ge 界面より電子は通過しやすい。a-Si:H/c-Ge ヘテロ接合界面の伝導帯バンドオフセット
は紫外線電子分光法(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy: UPS)を用いて、0.33eVと推定され ているが[10]、c-Siヘテロエピタキシャル成長層とc-Geの伝導帯バンドオフセットに関する報告はない。
c-Siヘテロ接合太陽電池に関しては、バンドオフセット計測にUPSを含む様々な手法が適用されてお り[11]–[14]、同現象の理解のため、c-Geに対しても同様の手法の適用が必要であると考える。
一方、VOCは PH3暴露処理有無にかかわらず、Ge(111)を用いた場合の方が高い値を示した。c-Si ヘテロ接合太陽電池と同様に、パッシベーション効果が低いとされる c-Si エピタキシャル成長層が存 在すると、界面再結合が増加しVOCを低下させていることが懸念される。Ge(100)基板を用いた場合よ
り VOCが高い Ge(111)基板でも、わずかにヘテロエピタキシャル成長層が存在しており、ヘテロエピタ
キシャル成長層のc-Geヘテロ接合太陽電池の特性に与える影響を明らかにする必要がある。
5.6 評価結果を反映して作製したa-Si:H/c-Ge(p)ヘテロ接合太陽電池の特性
Ge(111)基板を用いた場合、c-Siヘテロ接合太陽電池では太陽電池特性を低下させると報告されて
いる c-Si エピタキシャル成長層が減少し、実際に Ge(111)基板を用いたヘテロ接合太陽電池が良好 な特性を示した。また、PH3暴露処理によるPがc-Ge(p)基板のヘテロ接合界面近傍を空乏化させ太 陽電池特性を改善していることを明らかにした。これらの結果より、Ge(111)基板を用いたヘテロ接合 太陽電池に対して、4.3項でも使用したSiO2の反射防止膜を適用して変換効率の向上を試みた。また、
c-Ge 基板のメーカによって同等仕様の基板を用いても、得られる太陽電池特性が異なることを確認し