昨年 2005 年 6 月 8 日に下院議員 Smith 氏による HR2795 が提案され、2006 年 8 月 3 日に上院議員 Hatch 氏と Leahy 氏によって S3818 が議会に提出されました。 今回の法案は S3818 を基礎とし、上院 と下院の両方から提出されたもので、S3818 の多くの部分が維持されております。 今回の法案にお いて新規性の判断基準は全て有効出願日(優先権主張があれば優先日とする)になっており、S3818 では残存していた発明日基準の条文は排除されました。 但し、1 年間のグレースピリオドは維持され ています。 さらに特許付与後の無効手続きの内容が充足しており、損害賠償額の算定手法が追加さ れる点、不正行為に対する規定が削除された点、敗訴側が弁護士費用を負うという規定が削除された 点、さらに、諸外国へ輸出する行為に関する侵害を規定したる 271 条(f)項を削除するという法案が抹 消されている点が S3818 と異なります。
本法案では、純粋な先願主義(新規性の条文) ・ 自明性適用例外規定を新規性の条文に盛り込 む ・ 発明者以外による出願 ・ 先使用による抗弁をビジネスモデル特許以外にも適用拡大 ・ 付 与後の異議申し立て(無効)手続き ・ 第 3 者による情報提供 ・ 損害賠償額の算定方法 ・ 故意侵 害の規定及び制限 ・ 中間判決に対する控訴 ・ 裁判地 ・ 特許庁 Director の権限に対する規定 等が盛り込まれています。
来年には大統領選挙を控えているので、今年度は、両議院から提案された本法案(S1145 & H.R.
1908)に対する実体的な動きが予想されます。
⇒ 2009年米国新政権の誕生後に提出されるであろう改正法案の基礎となる可能性は十分にあると 考えます(2008年10月、筆者注記)
改定案概要:
条文
改訂内容
コメント:
35USC
102
新規性
先発明主義から先願主義へ(但し 1 年間のグレー スピリオド有り)
発明者自身の公開から 1 年間のグレースピリオドを 維持するものの、それ以外 は『有効出願日(*1a)』基準
102 条(a)項
(a)(1) 以下の要件に該当する場合にはクレームされた 発明を特許することはできない(新規性の喪失)
(A) クレームされた発明が、有効出願日(*1a)の 1 年以上前(1 年丁度は含まない)に特許されるか、刊行物 に開示されているか、公知、あるいは、販売された場合;
(⇒ 現行 102 条 b 項と類似: ⇒ HR2795 に準ずる)
(B) クレームされた発明が有効出願日(*1a)前の一 年以内に特許されるか、刊行物に開示されているか、公 知、あるいは、販売された場合で、発明者あるいは共同発 明者の開示あるいは、それらより間接的に、あるいは、直 接的に得たものを除く;
(a)(2) クレームされた発明が、有効出願日(*1a)の前に、
他の発明者を含む出願が実施され、米国特許法 151 条に 基づき発行された特許、あるいは、同法 122 条b項に基づ き公開されたか、同法同項の基に公開されたとみなされ る場合; (⇒ 現行 102 条 e 項に類似: ⇒ 但し、引例が パリ優先権を主張している場合には外国特許の出願日が 引例の日となる。)
102 条(b)項 (現行の自明性拒絶適用例外の規定)
(b)(1) 先の発明者による公開による例外規定
⇒ 上記(B)の先行技術がある場合であっても特許を得 ようとする発明者あるいは共同発明者によって上記 (a)(1)(B)で適応される日にちの前に特許主題が公開され ていた場合は、当該先行技術は引例の地位を喪失する;
(b)(2) 冒認あるいは共通の譲受者による例外規定
⇒ 上記(a)(2)の先行技術がある場合であっても、そ れが(A)冒認である場合、または、(B) 有効出願日の前 に同一人に所有されるか、同一人に譲渡する義務があっ た場合には同先行技術は引例の地位を喪失する;
(b)(3) 共同開発の合意に基づく例外規定
⇒ (A) 以下の場合には上記(2)でいうところの同 一人に所有される、あるいは、同一人に譲渡する義務が あったとみなす:
とする先願主義が提案され ている。
HR2795(Smith 氏)で「先発 明主義」から「先願主義」へ の完全な移行が提案され ていたが、S3818(Hatch 氏 と Leahy 氏)は現行の 102 条 a 項と 102 条 b 項を巧み に書き換えたもので先発明 主義の理念(出願日ではな く、発明日を基準として判 断する手法)は限定的に維 持された。 しかし、今回の S1145 & HR1968 法案では 発明日を起算日とする条文 は廃止された。 従って、自 己の発明の公開から 1 年 間のグレースピリオドを維 持した完全な先願主義とな った。
日本出願から優先権を主 張し、米国出願したる場合 には、同米国出願が公開さ れることによって日本出願 日が引例の地位を得ること になる。 現行では米国出 願日(日本出願より優先権 を主張していても)でしか引 例の地位を得ることはでき ない。
(i) 有効出願日あるいはその前に共同開発の合 意がなされ、該共同開発に基づき発明がなされた場合;
(ii) クレームされた発明が共同開発の合意の範 疇で実施された行為から派生したる場合;
(iii) クレームされた発明を含む特許出願が共同 開発の合意を示す場合あるいは、同出願が補正され共同 開発の合意を示す場合
⇒(B) 共同開発の合意の意味:
(b)(4) 上記(a)(2)で規定する先行技術としての特許あ るいは特許出願は以下の場合に、有効に出願され たと出願日とする――
⇒ (A) 特許あるいは特許出願が出願された日
⇒ (B) 特許あるいは特許出願が 119 条、365 条
(a),365 条(b)の基に優先権を主張する場合、あるいは、
120 条、121 条、さらには 365(c)の基に優先権を主張する 場合には、発明主題を開示したる最先の出願の出願日。
注意:
(*1a): 『有効出願日』とは米国出願日或いは優先権主張 日(日 ⇒ 米出願の場合)のどちらか早い方; ⇒ 現行 米国特許法 102 条b項では米国出願日を基準(優先権を 主張する日ではない)。 という意味ではパリ条約に敬意 を表す。(⇒ HR2795 に準ずる)
⇒ 自分の発明に関しては公開後、1 年のグレースピリオ ドは保証される。 言い換えると、自己の発明を公開した 後であっても公開後 1 年以内に米国出願をすれば良い。
⇒ インターフェランスの条文は削除(「Derivation:冒認」
と言う条文に変更)
現行米国特許法のインターフェランス手続きのような当事 者間での発明日の遡及勝負はなくなる。
35USC
103(b)
自明性(バ イオ 関連
103 条の(b)バイオ関係の項を廃止する;
⇒ HR2795 & S3818 に準 ずる
規定)
35USC1 03(c)
自明性拒
絶の 適用 例外 規定
(c)自明性適用の例外規定に関する条項を 103 条から削 除し、102 条(b)項として新規性の条文に盛り込む。
35UCS1 04
外国でな
され た発 明
本条文廃止
35USC 112
明細 書・ク レー ムの 記載 要件
変更なし
⇒ HR2795 ではベストモー
ド開示要求削除を提案;
S3818 で同提案を削除;
⇒ 今回の法案でも S3818 の趣旨を維持(即ち、ベスト モード開示要件は残る)。
35USC1 15
発明者の
宣誓 書
(a) 発明者の名前と発明者の署名
(b) 発明者は以下の内容に対して宣誓しなければならな い:
(1) 特許出願は宣誓人によって、あるいは、宣誓人の
許可の下に作成された;
(2) 宣誓する者は特許出願でクレームされた発明の真
の発明者あるいは真の共同発明者であると信じる;
(c)
(d) 但し、以下の場合には発明者による宣誓書の代わり に代替文書を提出することはできる:
(A)発明者が死亡、法的能力を欠く場合、或は、誠実な努 力をするも発明者にアクセスできない場合;
(B) 発明者は発明を譲渡する義務を負っていながら宣 誓書に署名することを拒んでいる場合
⇒ HR2795 & S3818 に準 ずる
35USC 118
発明者以
外に よる 出願
発明者以外(譲受人)による特許出願許容
⇒ HR2795 & S3818 に準 ずる
35USC 271(f)
271条(f)
項削 除
271 条(f)項 概要
特許発明の構成要素の全てまたは一部を非結合の状態 で米国へ輸出、又は、米国から輸出する行為であって、そ れら構成要素が米国内で結合された場合には侵害を構 成するという場合には、同行為を誘引する者は侵害の責 任を負う。
(S3818 で 271(f)の削除が 提案されたが、今回の法案 では維持)
35USC
273
先使用
「先使用: prior use 」を根拠に非侵害の抗弁
先使用の抗弁をビジネスモデル特許だけではなく、他の 特許に対しても可能とする。
⇒ HR2795 & S3818 に準 ずる
■ 立案趣旨: 現行法の 基では先使用の抗弁は方 法クレームにのみ有効であ る。 然しながら、特許発行 まで知る由もなく自分で発 明したるものを使用する行 為が侵害と判断されるとい うことは衡平法に反するこ とは自明である。
35USC2 84(a)
損害 賠償
■ 先行技術を超越する貢献度と損害賠償との関係
裁判所は妥当なロイヤルティを算出するときには、問題と なる特許が先行技術を超えて貢献する経済価値のみを 考慮する。
妥当なロイヤルティを算出する場合に裁判所は全ての要 因を特定しなければならない。
裁判所は先行技術に基づく経済的価値を排除しなければ ならない。 さらに、裁判所は侵害製品に貢献する他の特 徴あるいはその改良に基づく経済的価値を排除しなけれ ばならない。
■マーケット全体での価値:
市場が侵害品(或はプロセス)を要求する主たる理由が、
特許の先行技術を超えて貢献する特別の部分でない限り は、損害賠償の算出において侵害品(あるいはプロセス) の市場全体の価値を基礎として判断してはならない。
35USC 284 (b)
侵害 に対 する 救済
故意侵害の定義
侵害者の行為が以下の何れかに該当することを特 許権者が明白、且つ、説得性のある証拠で示したる 場合にのみ裁判所は故意侵害と判断することがで
⇒ HR2795 & S3818 に準 ずる