3 業務実施結果
3.2 検討文献
3.2.11 TID を受けたフローティングゲートフラッシュメモリでのエラー発生の不安定性 99
出典 IEEE Transaction on Nuclear Science, Vol.56, No. 6, pp. 3267- 3273, Dec. 2009.
著者名 Bagatin, M.; Gerardin, S.; Cellere, G.; Paccagnella, A.; Visconti, A.;
Bonanomi, M.; Beltrami, S.
対象デバイス NAND型SLCフラッシュメモリ および NOR型MLCフラッシュメモリ 実験設備 Laboratori Nazionali di Legnaro (LNL),
Istituto nazionale di fisica nucleare (INFN), Italy 照射線種及び
エネルギーの区分
X線 (エネルギー: 10 keV) 陽子線 (エネルギー: 4.2 MeV) 単発現象又は
積算線量効果の区分
積算線量効果 実験又は理論の区分 実験
(1) 序論
フラッシュメモリは、高信頼性で高い費用対効果があり、不揮発記録デバイスとしてさまざまな用途 に利用されている。宇宙用としては、これまでコードの保存用として小容量の不揮発メモリが使用さ れてきたが、最近では大容量化が進んだことから、従来のDRAMに代わってデータレコーダへの応 用が注目されている。不揮発メモリをデータの記録に使用するためには、宇宙の厳しい環境に対す る評価が必須となる。一方、記録容量の高密度化の背景には、テクノロジースケーリングによる微細 化のみならず、制御系の複雑化が進んだこともあり、信頼性評価を正確に行うには、すべての動作 モードや機能ブロックを考慮した難しい試験が必要となる。
フラッシュメモリに対する放射線耐性に関する研究として、これまでに、フローティングゲート(FG) メモリアレイおよびチャージポンプなどの周辺回路に対する陽子、X 線、線照射によるさまざまな効 果の研究がなされてきたが、その効果はさまざまな因子の関数となっており複雑である。一方、照射 後のFG Cell Error(ビットエラー)の時間変化に関する研究は少なく、TID効果の研究においてア ニーリングについて言及するものはほとんどない。この点について、本論文では、TID 照射後、数秒 から数1000時間にわたって測定したビットエラー数とFG電圧閾値Vthの時間変化について報告し ている。
(2) 実験のセットアップとテストデバイス
本論文で研究対象としているフラッシュメモリは、以下の2種類である。
Numonyx 90-nm 256-Mbit NOR型 Multi Level Cell (MLC): M58PR256J(以下、
「NOR型MLC」と記載する。)
Numonyx 70 nm 4-Gbit NAND Single Level Cell (SLC): NAND04G-B2B(以下、
「NAND型SLC」と記載する。)
NOR型MLCは、FGに保持される電荷量レベルを4つに分け、それぞれの電荷レベルに対し て'11’、'10’、'00’、'01’のビットパターンをアサインすることにより、ひとつの FG に 2ビットデータを記 録できる(図 3.2.11-1)。最も低い電荷レベル'11’では、FG にホールが蓄積されている状態であり、
それ以外は電子が蓄積されている状態である。NOR 型 MLC には、ユーザーモードとテストモード
の 2種類の動作モードがある。ユーザーモードでは、各 FGからビットデータを読み出し出力する。
一方、テストモードでは、各FGのVthを測定し 出力することができ、TIDによるVthの変化につ いて研究することが可能である。
NAND 型 SLC では、各 FG に保持できる データは1ビットであり、動作モードは各FGに 保持されているデータを出力するユーザーモー ドのみである。
本論文の研究では、上記の 2 種類のフラッ シュメモリに対して、X 線ならびに陽子を照射し、
TID 効 果 の 評 価 を 行 っ て い る 。 試 験 実 施 施 設 は イ タ リ ア 、INFN の レ ニ ャ ー ロ 国 立 研 究 所
(Laboratori Nazionali di Legnaro)である。X線照射では、エネルギー10keVのX線をドーズ率 500rad(Si)/sで85krad(Si)まで照射した。陽子照射では、エネルギー4.2MeVの陽子ビームをドー ズ率2.4krad(Si)/sで200krad(Si)まで照射した。また、これらの照射では、デバイス内のFGアレイ の一部のみに照射を行うため、周辺の制御回路は5mm厚のAl板で遮蔽して放射線を照射した。
試験手順は以下のとおりである。
(i) NAND型SLCでは、すべてに'0x00’またはチェッカーボードパターン'0x55’を書き込む。また NOR型MLCでは、'11’、'10’、'00’、'01’のすべてのパターンを書き込む。
(ii) 制御回路を遮蔽して、FGアレイに放射線を照射する。
(iii) 照射直後から5000時間が経過するまで定期的にデータの読み出しを行い、ビットエラー数を
確認する。その際、NAND型SLCではユーザーモードのみで、NOR型MLCではユーザー モードおよびテストモードの両方で読み出しを行う。
照射中および照射後のアニーリング中は、サンプルの温度は室温であり、無バイアス状態とした。
ビットエラーを確認する際、温度依存性を評価するときのみ、サンプルの温度を 5°C~60°C の間の 所定値に設定して、データ読み出しを行った。
データ読み出しの際、放射線起因のビットエラーを可能な限り可視化するため、エラー訂正コード (Error Correction Code; ECC) は使用せずに読み出しを行った。
(3) 結果と考察 (a) ビットエラー数
TID 照射後、数秒~5000 時間にわたり、定期的にユーザーモードでデータ読み出しを行い、
ビットエラー数を測定した(本論文では、このビットエラー数のことを ”Rough Bit Errors” と呼んで いる。)。その結果、NAND型SLC、NOR型MLCとも、TID照射後のデータ確認においてビット エラーが発生した。エラーが発生した FG はチップ上の物理的な位置によらずランダムに発生して いた。ビットエラー発生の原因は、TIDによりVthがシフトしたことによると考えられる。このシフトにつ いて、参考文献[1]~[6]では、FG に蓄積されていた電荷が放電したことによるとしているが、TID 照射後数日間しか経過していない時点でのデータに基づくものであり、アニーリングの効果が考慮 されていない可能性がある。FG の Vth のシフトのメカニズムとして、電荷生成・再結合・ドリフト、電 荷捕獲、光電子放出、などが挙げられる。
図3.2.11-1. NOR型MLCにおけるVth分布と ビットパターンアサインの概略図
NAND 型 SLC では、ビットエラー数は、図 3.2.11-2 に示すとおり、照射後、時間経過とともに 単調に減少した。照射した放射線種によらず、この 傾向が確認された。ビットエラーは、もとのデータ が'0’(電子が蓄積されている)だったFGのみに発 生した。すなわち、0 → 1 のビット反転のみが確 認された。エラー数は、照射後 100 時間まで、対 数的に同じ速度で減少し、その後、減少速度が遅 くなっている。また、エラー数が減少するレートは ビットパターンにはよらないことが判明した。
NOR型MLCでは、ビットエラー数の時間変化 は FG に保持されているビットパターンにより異な る結果となった(図 3.2.11-3、図 3.2.11-4)。ビット パターン”01”および”00”では、ビットエラー数は時 間とともに減少したが、'10’および'11’では増加す る結果であった。最も大きな Vth を持つ'01’では、
エラー数の減少速度はNAND型SLCと同様であ り、100 時間後に減少速度が飽和する傾向となっ た。また、'00’では、エラー数の減少速度が速く、
10 時間程度で飽和傾向となった。一方、エラー数 が増加した”10”および'11’はともに、照射後2時間 まではビットエラー数の変化は確認されなかったが、
その後、増加し始め、100時間後に飽和した。また、
ビットパターンにより、飽和エラー数は異なる結果 となった。
(b) 電圧閾値の分布
ビットエラーが発生したFGでは、捕獲電荷の放 出 (Charge Detrapping ) が発生していると考え られる(参考文献[5]~[8])。一方で、FGに蓄積さ れていた電荷が放電(Discharge)した可能性もあ り(参考文献[2]~[4])、これらのメカニズムをどの ように比較するか、どのように関連付けるかは不明
であった。本研究では、テストモードという特別なセットアップにより、照射前後におけるVth分布の 変化と、照射後の時間経過に伴う変化を追っている。以下、NOR型MLCによる測定結果を示す。
NOR型MLCに陽子照射を行った前後でのVth分布を図3.2.11-5に示す。この図に示されるよう
に、FGに電子が蓄積されている状態('10’, '00’, '01’)では照射後のVth分布は照射前に比べ小さい 方(左側)へシフトし、FGにホールが蓄積されている状態('11’)では、逆に大きい方(右側)へシフト 図3.2.11-2. NAND型SLCにおける照射後のビッ トエラー数の時間変化
図3.2.11-3. NOR型MLCにおいて、ビットパター ン'01’および'00’のFGでの照射後のビットエラー数 の時間変化
図3.2.11-4. NOR型MLCにおいて、ビットパターン '10’および'11’のFGでの照射後のビットエラー数の 時間変化
した。また、電子が蓄積されているFGを比べ ると、Vthが大きいほど照射後のシフト量も大 きくなる傾向が観測された。このシフトのことを
“Post-rad shift” と呼び、Vth,post-radと表す ことにする。
TID照射直後から長時間(~5000時間)に
わたり、Vth分布の時間変化を測定したところ、
図3.2.11-6に示されるような、照射直後とは異 なる振る舞いのシフトが観測された。電子が蓄 積されているFG('10’, '00’、 '01’)では、時間 経過とともに照射前のVthに戻る方向(右方 向)へのシフトが確認された。一方、ホールが 蓄積されているFG('11’)では、さらにシフト量 が大きくなる(右方向)傾向が見られた。各プロ グラムレベルについてVth分布の平均値を取り、
その時間変化を示したものが図3.2.11-7であ る。プログラムレベルの小さい'11’が最も大きな シフト量を示し、プログラムレベルが大きくなる につれ、シフト量が小さくなっていく傾向が確 認された。Al板により遮蔽されていたFGにつ いては、このような変化はなく、したがって、こ のVthのシフトは間違いなく放射線照射による 効果である。このシフトのことを “Annealing shift” と呼び、Vth,annealing と表すことにす る。
(c) ユーザーモードとテストモードの結果の比較 著者らは、ユーザーモードによる測定で確 認されたビットエラー数とテストモードで観測さ れたVth分布のシフトを以下のように関連付け、
説明している。
図3.2.11-8は、TID照射およびアニーリン グによるVth分布のシフトとビットエラー数の増
減との関係を付ける説明する模式図である。プログラムレベルの大きいセル(Programmed Cells、
電子が蓄積されているFG)では、TID照射によりVth分布が左側へシフトする。この際、Vth分布の テール部がプログラムレベルの小さいセルとの境界となる電圧 Vrefを越えてしまい、それがビットエ ラーとして観測される。その後、アニーリングによりVth分布が元の位置に戻るに従い、Vrefを越えて いた部分も減少しビットエラー数が減少する。一方、プログラムレベルの小さいセル(Erased Cells、
ホールが蓄積されているFG)では、TID照射によってVth分布が右側へシフトしたものの、境界で 図3.2.11-7. 各プログラムレベルのVth 分布 の平均値の時間変化
図3.2.11-6. 照射直後、1時間後、10 時間後、
80時間後、1600時間後および5500時間後の Vth分布の変化
図3.2.11-5. NOR型MLCに陽子を照射した前 後でのVth分布の比較