3 業務実施結果
3.2 検討文献
3.2.1 半導体中の配線材料での核破砕反応によって発生する 2 次粒子に起因する荷電粒
生
文献名 Charge Generation by Secondary Particle From Nuclear Reaction in BEOL Materials
出典 IEEE Transaction on Nuclear Science, Vol. 56, No. 6, pp. 3172-3179, Dec. 2009.
著者名 N. A. Dodds, R. A. Reed, M. H. Mendenhall, R. A. Weller, M. A. Clemens, R. D.
Schrimpf, and M. P. King with Vanderbilt University, P. E. Dodd, M. R.
Shaneyfelt, G. Vizkelethy, and J. R. Schwank with Sandia National Laboratory, J. H. Adams with NASA Marshall Space Flight Center
対象デバイス Bulk, SOI, ダイオード 実験設備 LBNL, TAMU, NSRL 照射線種及び
エネルギーの区分
重イオン
16~1000MeV/u at constant LET of 1.2 MeV/(mg/cm2) 単発現象又は
積算線量効果の区分
単発現象
実験又は理論の区分 シミュレーション及び実験
(1) 概要
半導体デバイス中のセンシティブ領域近傍に重金属(タングステン等)が存在した場合、入射粒子 により核破砕反応が起き、発生した2 次粒子によってSi 中に過剰な電荷が発生し電荷収集が引き 起こされる、という現象について詳細に解明した論文。
実験結果から、入射粒子のLETが一定でエネルギーが増加するに従い、核破砕反応によって引 き起こされる電荷収集は、あるところでピーク値を持つことが判明した(SEU耐性については、ワース トケースのエネルギー値が存在する、という意味)。
高エネルギー粒子の核破砕反応による発生電荷が何故減少するのか、モンテカルロシミュレー ションで検証した。この結果、本現象で生成される 2 次粒子は、質量が小さくエネルギーが大きいた めに、低エネルギー粒子でのそれに比べて、LETが小さく、電離作用が少ないことが判明した。
重イオンによる核破砕反応を考えたとき、SEUの観点から見ると、最も問題となるのは、入射 粒子よりも、核破砕反応で生成される非常に大きなLETを持つ2次粒子としての重イオンであ る。従って、核破砕反応自体は、非常に低い確率でしか起こらないにも関わらず、生成される 2次粒子が大きなLETを持つことで、実際には耐放射線性デバイスのエラーレートにおいて 支配的な要因となる場合がある。
ICのバックエンドプロセス(Back-end-of-line:配線工程)で使用されている重金属(High-Z, 例えばW(タングステン))材料は、さらに大きなZを持つ(LETもさらに大きな)2次粒子の生成す る原因となり、Si中での生成電荷量を増やす。
従って、IC中のW等の重金属の存在によって、核破砕反応により、SEUに対して敏感にな る。
本現象に関し、P.E.Dodd氏が(Related Previous Paper:[1])の中で以下のような問題提起 をしている。”この2次粒子によるSEU反転断面積は、入射した粒子の持つエネルギーが大き
くなると飽和するのか、しないのか?(Worst case energyとしてピーク値を持つ?持たな い?)”
本論文では、重イオン照射実験及びモンテカルロシミュレーションより、IC中のW等の重金属 がSEU反転断面積へ関与するメカニズ
ムを推測する。
(2) 実験
照射実験は、表 3.2.1-1 に示す条件で行っ た 。 重 イ オ ン 施 設 は 、LBNL, TAMU 及 び NSRLを使用した。入射エネルギーは、16, 40 及び1000MeV/uとし、LETについては入 射粒子による直接電離(direct ionization) の 影 響 を 排 除 し 、 非 直 接 電 離(indirect ionization)による影響をより顕著にさせる ために、1.2MeV・cm2/mgで一定とした(低 いLETとした)。フルエンスは、反転断面積 の小さい核反応によるイベントを観測するた め、高め(109 particles/cm2)に設定した。
図3.2.1-1は、入射イオンに対するLET の関係を表した図である。本実験で使用し たイオンは、前述したようにLET=1.2MeV・
cm2/mgで一定で、図中”○”で記した 3種 類(Nitrogen, Neon, Iron)である。
試験サンプルは、図3.2.1-2に示すように3種類の異なるタングステン(W)/メタル(M)構造のSOI 型ダイオードである。これらのサンプルの違いはW層とSi基板の距離であり、[W1+M1], [W2+M2], [W3+M3]の順にその距離が短い。
[W1+M1] [W2+M2] [W3+M3]
図3.2.1-2. メタル層を含んだSOIテストサンプルの構造、(a)W1, M1 (b) W2, M2 (c)W3, M3。これらのテストサンプル構造は、シリコン活性領域での電荷生成に関する上層構造の寄 与を考慮している。
表3.2.1-1 実験に使用したイオン種
Nitrogen Neon Iron
図3.2.1-1. 原子番号の大きくなることにより入射粒子の エネルギーが増え、LETは一定に保たれる。図中の 丸印は、本論文中で使用した重イオンを示す。本図 は、SRIM-2008を使用して算出。
照射中は 3V の逆バイアスを印加し、重イオン入射による電荷を波高分析装置(PHA : Pulse Height Analysis)を用いて収集した。
(3) 実験結果
図3.2.1-3に Neイオンを用いた実験結果を示す。W 層とSi基板の距離が最も短い[W1+M1]
デバイスが、収集電荷量も最も多いことがわかる(最大で 530fC)。しかし、2 次粒子のエネルギーが 図 3.2.1-1(Energy of Incident Particle vs
LET グラフ)に示されるBragg peakよりも大き い場合、Si中のSensitive領域に到達する間に、
電離能力(LET)がBragg peakに達するケース も考えられる。
収集電荷量<250fC の領域は、ビームに混入 した 20Ne 以外のイオンによる直接電離によって 発生した SEU 反転断面積と考えられる。(20Ne に よ る 直 接 電 離 の SEU 反 転 断 面 積 は 、 1.8×10-3 cm2であるためこれではない。)
収集電荷量>250fCの領域は、明らかに20Ne による直接電離のそれより反転断面積が小さい ため、核破砕反応によるものと考えられる。
(4) 考察
論文[1]において、以下のような疑問が提起されている。
図3.2.1-4に示すようにSRAMのSEU反 転断面積は、入射粒子のLET一定でエ ネルギーが増加するにつれ、増加して いる。(この論文の実験値は、40MeV/u までしかなかった。)
反転断面積は、このまま飽和状態になら ずに増加し続けるのか?
仮に増加し続ける場合、宇宙空間には 地上試験で使用しているエネルギーより もさらに大きなエネルギーの粒子が存在 しているため、今までの試験方法では軌
道上のSEUエラーレートの予測は不十分となる、という結論になる。
この問題提起に対して解析・考察する。
構造[W2+M2]と[W3+M3」に対して、LET=1.2MeV・cm2/mg 一定でエネルギーの異なるイオ ンを照射し、収集電荷量と積分反転断面積を解析した。この結果を図3.2.1-5及び図3.2.1-6に示 す。図3.2.1-5及び図3.2.1-6より、構造[W2+M2]及び構造[W3+M3」共に、入射エネルギー最大 (1000MeV)の結果が、収集電荷量は最も小さくなることがわかり、収集電荷量が最大になるエネル
Direct ionization events
[W1+M1]
[40 MeV/u 20Ne]
図3.2.1-3. 各テストサンプル構造の40 MeV/uの
20Neイオンでの実測反転断面積。シリコン活性
領域に近いポジションにタングステン構造がある ことが、大きな電荷生成イベントを生んでいる。
図3.2.1-4. 入射粒子のLET =5 MeV・cm2/mg 一定で、入射粒子のエネルギーを変化させた時 の、256k SRAMのSEU反転断面積
ギー値が存在することを確認した(40~1000MeVの間)。(核破砕反応によるSEU耐性評価をす る際の、照射イオンLETにおける Worst case energy値)
さ ら に 、 図 3.2.1-7( 論 文[2]よ り ) に 示 す Bulk デ バ イ ス に つ い て 、MRED(Monte Carlo Radiation Energy Deposition)を用いてシミュレーションを行った。図3.2.1-8の結果より、Worst case energyは、Critical chargeにより決まることがわかった。Qcrit=1200fCの場合、Worst case energy 93MeV/u(100MeV/u近辺)となり、Qcrit=200fCの場合、反転断面積はエネルギーに依存 しない。また、図3.2.1-9, 3.2.1-10の結果より、Worst case energyは、デバイスを構成する材質だ けでなく、Critical chargeやSensitive volumeにも影響されて決まることも確認した。
93MeV 1000MeV
40MeV [シミュレーション結果]
(Bulk-Si, Fixed LET used=1.2 MeV/(mg/cm2))
図3.2.1-8. Bulkデバイスにおける、各種重イオン
(ただし固定LET(LET=1.2MeV/(mg/cm2)))の 反転断面積のシミュレーション値
図3.2.1-7. Bulk-Si サンプル構造 [3]
図3.2.1-5. 入射粒子のLET =1.2MeV・
cm2/mg 一定で、入射粒子のエネルギーを 変化させた時の、積分反転断面積を測定
(構造:W2+M2)
図3.2.1-6. 入射粒子のLET =1.2MeV・
cm2/mg 一定で、入射粒子のエネルギーを 変化させた時の、積分反転断面積を測定
(構造:W3+M3)
[W2+M2]
1000MeV 40MeV
[W3+M3]
1000MeV 40MeV 16MeV
(a) Worst case energy以降について核破砕反応によるSEU反転断面積が減少する要因について 考察する。
図 3.2.1-11 に、異なる入射エネルギー(20Ne[40MeV/u], 56Fe[10000MeV/u])による核破砕反 応についてシミュレーションした結果を示す。このシミュレーション結果より、高エネルギー入射イオ ン(56Fe)の方が、多くの 2 次粒子を生成することがわかる。しかし、低エネルギー入射イオン(20Ne) で発生した、最も質量の多い2次粒子(168Lu)は、56FeでのそれよりLETが大きい。従って、Worst case energy以降(高エネルギー)ではLETは小さく電離作用が少ないためSEU反転断面積は 減少すると考えられる。
(b) 上記の傾向は、全般的に言えるかどうかについて、考察する。
シミュレーション結果より、エネルギーの高い入射イオンは、多くの低質量 2 次粒子を生成する
(図3.2.1-12)が、入射イオンのエネルギーがある値以上になると、高いLETの2次粒子は生成さ [Bulk-Si]
(LET used=1.2MeV/(mg/cm2))
図3.2.1-11. 核破砕反応のシミュレーション結果、(a)40MeV/uのネオンを使用した場合、
(b)10,000MeV/uの鉄を使用した場合。これらの結果は、大きなエネルギーの核反応は、低 質量の高エネルギー2次粒子を生成し、従ってこれらの粒子はLETが低いことを示す。
Worst case energy (1200 fC Qcrit) ≈ 100 MeV/u
[Bulk-Si]
(LET used=1.2 MeV/(mg/cm2))
図3.2.1-9. Bulkデバイスにおける、入射 粒子のエネルギーとSEU反転断面積のシ ミュレーション値の関係。SEU反転断面積 が最大にとなるエネルギー値は、QCRITに よる。
図3.2.1-10. SOIデバイスにおける、入射粒子 のエネルギーとSEU反転断面積のシミュレー ション値の関係。SEU反転断面積が最大にと なるエネルギー値は、QCRITによる。
Worst case energy (200 fC Qcrit) ≈ 500 MeV/u [SOI-Si*1]
(LET used=1.2 MeV/(mg/cm2))
*1サンプル構造は、Bulk-SiとSensitive Volumeのみ異なる。
2.00 × 2.00 × 0.13 mm3
れない(図 3.2.1-13)ことを確認した。また、これらのシミュレーション結果は、図 3.2.1-9, 3.2.1-10 のQcritが大きい場合の結果とも合致する。
以上の照射実験及びシミュレーションの結から、SEU評価手法を以下に提案する。
デバイス中のQcritが、直接電離で生成される電荷量よりも小さい場合、低エネルギーでの 照射試験はまず必要ない。
しかし、Qcritが、直接電離で生成される電荷量よりもはるかに大きい場合(HBDメモリ等使 用の場合)、入射エネルギーのSEU反転断面積への影響は、本論文の結果のような傾向 を取る。
Worst case energyが存在するため、広範囲のエネルギー条件での照射試験が採用され
るべきである。
または、シミュレーションにより、Worst case energyをあらかじめ算出するのも手であるが、
シミュレーター自体も、核破砕のモデル等さらに評価/改良していく必要がある。(Now on-going)
(5) 結論
バックエンド配線工程(BEOL)に存在するタングステン等のHigh-Zの材料は、核破砕反応による 過剰な電荷収集を引き起こす原因となる。Si 中のセンシティブ領域とタングステンとの距離も、過剰 電荷収集に寄与するが、必ずしもこの距離が近いから収集電荷量が多くなるわけではない。それは、
入射粒子によって生成された2次粒子のLET最大値(Bragg peak)が、デバイス中どこで現れるか によるからである。入射粒子のLETが一定の場合、核破砕反応による収集電荷量は、ある入射粒子 のエネルギー値でピーク値を持つ(Worst case energy)ことがわかった。このWorst case energyは、
テクノロジー、デバイスレイアウト、クリティカルチャージ、入射粒子の LET によって、異なる。Worst
case energy 以上のエネルギーでは、収集電荷量が減る傾向にある。これは、非常に高いエネル
図3.2.1-12. ターゲット184Wに対し様々な エネルギーを持つLET = 1.2MeV / (mg /cm2 ) のイオンを入射した場合の、発生す る2次粒子のisobaric(同重核)反転断面積 のシミュレーション結果。これらの結果は、
高エネルギーの入射粒子は、多くのター ゲット粒子の核分解を促し、中間及び低質 量の2次粒子を生成することを示す。
図3.2.1-13. ターゲット184Wに対し様々なエネル ギーを持つLET=1.2MeV/(mg/cm2)のイオンを 入射した場合の、発生する2次粒子の反転断面 積と2次粒子の初期LET値とのシミュレーション 結果。これらの結果は、入射粒子のエネルギー が任意の値より大きくなったときに、少数の高 LET2次粒子が生成されることを示す。